名古屋大学が”液体に溶ける”炭素材料を開発 ―分子に歪みを持たせることで実現
名古屋大学・伊丹教授らの研究グループは、これまでの炭素材料とは一風変わった “うねった” 炭素材料を開発しました。伊丹教授らは、これをカーボンナノチューブやフラーレン、グラフェンに次ぐ「第四の炭素材料」と位置づけています。
炭素材料は、軽くて硬いという優れた特長から、金属部品の代替剤として期待されています。例えば、大手メーカー・東レの炭素繊維はボーイング 787 の機体に採用されており、燃費の向上に寄与しています。
化学業界では比較的新しい炭素材料として、カーボンナノチューブ(1991年発見)、フラーレン(1996年ノーベル賞)、グラフェン(2010年ノーベル賞)が知られていますが、この内、グラフェンを幾つも層状に並べたもの(グラファイト)が炭素繊維の原料です。
炭素材料の製品開発において、避けて通れない課題がその「溶解性」です。
例えばグラフェンは、二次元方向にベンゼン環が連なったシート構造をとっています。このシート同士は、ベンゼン環(六角形)の電子的な相互作用により引きあっており、容易に層を作ります。そのため、溶剤が入り込む隙間が無く、ほとんどの有機溶媒に溶けません。溶解性が低いために加工し難く、現在は多大なエネルギーを消費する蒸着法に頼っています。
今回、伊丹教授らは、グラフェンのシートに五角形と七角形を散りばめた “うねる” グラフェン(ワープド・グラフェン)を科学誌「Nature chemistry」に発表しました。この分子において、五角形はお椀型を、七角形は鞍のような反りを実現しています。
ワープド・グラフェンの分子モデル。(図はNature Chemistryより引用)
この分子の最大の特徴は、その高い溶解性にあります。
すなわち、上のCGのような「歪んだ分子」が連結してゆくことでシート全体に「うねり」が生じ、層状になりにくいために溶媒分子をシート間に収めることができるようになるという訳です。これによってグラフェンを液体中に溶解させることが可能となり、これまでに観測できなかった炭素材料の蛍光特性を見出すことといった事も可能になっているとのことです。
さらに、このうねったグラフェンシートは、溶液中で立体を反転することが可能とのこと。溶液中でペコペコと動くことで、溶媒分子を掴んだり離したりすることも出来ているのだろうと予想されます。
このワープド・グラフェンは、伊丹教授らが開発した化学反応を利用するとたったの二段階で合成することができます。現状では、収率は10~35%ほどと決して高い値ではありませんが、狙った構造を選択的に作ることが出来るのは非常に魅力的です。
溶解するグラフェンは、炭素材料の加工において非常に重要な役割を期待できます。製品化までは時間を要すると想いますが、今後の開発動向が気になるところです。
ナノテクすごいな。
専門外なので、よく分からないけど、これは最終的にどういう製品に使われる可能性があるんですか?
コメントありがとうございます。
例えば、有機薄膜太陽電池です。グラフェンのような構造は、電気伝導性に富んでいます。しかし、一般的なグラフェン類(ペンタセン等)は溶解性が低いため、コストのかかる蒸着法が薄膜化の手法でした。今回の「うねる」グラフェンは溶剤に溶けますので、塗布型の製法が可能になると思います。塗布可能ということは、これまでに適応できなかった製品への応用が期待されます。
このタイプの炭素材料は電気伝導性が高くて
あと、薄膜化すれば光を透過するようになるから、透明な導電性材料
つまりはディスプレイ材料なんかに使えるんじゃないかな?
まあ、実際のところまだ基礎研究段階で、用途はこれから先いろいろ出てくるものと思われる。
最近、ハードな記事が多いね。面白いけど、
サイエンス速報って感じ、
お世話になっております。
実は週末から月曜にかけては、海外のニュースサイトからスマホ・ガジェット関係の目新しい情報がでてこないため、比較的に時事性の薄いサイエンスよりの話題が中心になっております。この記事に関しては、本来ならば内容的にHomeに流すネタではないのですが、新しいライターさんのご紹介という意味も兼ねて、表示させていただいた次第です。
今後とも、何とぞよろしくお願い致します。
個人的にはむしろ良いと思いますよ
ハードな記事はコメントがしづらいので人気がないかのように見えてしまうのが心配なくらいです。今後もこういった記事期待しています
Homeに流すのとか流さないのとか分けてるんですか
ガジェットのみのページを追加してHomeには全部の記事、ガジェットとTechnityにはそれぞれの記事を流せば良いのでは?
お世話になっております。
Homeと共有する記事については、”およそ” 以下のような思想で選んでおります。
・新しく入ったライターさんの最初の記事(ジャンルを問わず)
・自転車、時計など「モノ≒広義でのガジェット」に関連する記事
・スマホ、ガジェットに結びつく要素技術(exa. 本記事一つ前の金属ガラスの記事)
・汎用性があり、イメージしやすいもの(exa. 天体イベントやリニア新幹線など)
・国内の災害情報など、緊急性のあるもの(exa. 先日の桜島の噴火)
・個人的に「コメント欄で盛り上がって頂けるかな」と感じたもの
・初めて扱うジャンルなど、試験的なエントリー
・週末など、Homeのネタが枯渇している場合(・∀・;)
Homeとの記事共有については管理人とも日頃から話しておりまして、あまり人気のなかったジャンルのネタは次からTech限定にしてみる/もしくは扱わないなど、色々と手探りを続けている状態です。
とはいえ、ご不満を感じられている方も少なからずいらっしゃることは承知しておりますので、少し選定基準を見なおすとともに、管理人と改めて話し合って適宜対応させて頂きたいと思います。
今後とも、何卒よろしくお願いいたします。
Technity期待してるけどカテゴリ分けしてる意味がなくなってると思う
最近無秩序にガジェットに関係ない記事がHOMEに掲載されてるから厳選してほしい
低頻度ならフィボナッチのような面白い話題もあっていいけど
Chromeのタブだと、ページタイトルの「”」が「”」のまま表示されますよ
(コメント欄だとエンコードされるので全角にしてます)
おおお〜こりゃ凄い。カーボンナノチューブの分野って合成がほかと比べて面倒な上にあまり旨味がなかったような記憶が。
加工がしやすくなれば市場は一気に拡大する。楽しみ〜だけど発ガン性の疑いが、、、
こういうのが日本から出てくるのがすごいな
カーボン素材って身近に使われてるのってなんかないかな。これがカーボンかーって思いながら触ったことない。VAIO Proがカーボンらしいけど。
コメントありがとうございます。
炭素材料が使用されている身近なモノとしては、ゴルフクラブのシャフトや自転車のフレームが挙げられます。スポーツ用品に多いように思います。金属よりも軽く、そこそこに丈夫という点でこれらの製品に使われています。最近は車体への応用が進んでいるようです(例えばBMWのi3)。
炭素繊維は金属以上に丈夫に作れますよ。
ただ記事にあるように加工性が悪いのと、価格の問題があります。
おっしゃるように今後は高級車市場への進出が鍵になるでしょうね。
金属と違って骨格自体に振動吸収性があるのもメリットですね。
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、金属以上の強度を持たせることが可能です。実際に使用する場合は、炭素繊維の間にエポキシ樹脂を塗りこんでプリプレグという強化型にする必要があります。炭素繊維だけでは、繊維方向の強度は高いものの、横からの力に弱い(雲母、シャープペンシルの芯のように剥離してしまう)からです。
仰る通り、振動吸収性にも期待されています。併せて靭性(しなやかさ)を持たせることが出来るのも魅力の一つだと感じています。
矢とか竹刀でもカーボンの物があるな。後はカメラの三脚とかで、中国のカーボンメーカーが強かった気がする。
コランニュレンのオバケみたいな分子か?
環状炭化水素は分子量が増えるほど溶媒に溶けなくなるけど、こうすれば溶けるよって話なのね。
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、原料はコランニュレンです。既に原料がお椀型をしており、これに化学修飾(カップリング反応)を施すことで、波打つグラフェンができます。
本職だけあって丁寧なコメントでの解答に好感もった。無理しない程度にこれからも期待してます。