本当に飛べる! ナウシカのメーヴェを実際に作った八谷和彦さんにお会いしてきたよ!(動画あり)
メーヴェだ…。
以前ギズモードでも紹介させていただいた、このメーヴェの飛行動画。現在、アーツ千代田 3331で開催されている「OpenSky 3.0展」では実際にこの機体を見ることができます。こちら機体を作られたメディアアーティストの八谷和彦さんは、PostPetを生み出した方。ギズで紹介したのはごく最近ですが、「個人的に飛行装置を作ってみるプロジェクト」である「OpenSky」は2003年から始まったもので、今年は10年の節目となります。10年に及ぶプロジェクトの中で八谷さんは、ラジコン飛行ができる2分の1サイズのメーヴェ1/2、グライダー飛行ができるM-02、ジェットエンジン搭載したM-02Jなど多くの飛行装置を生み出されていきました。
「こんなのあったら乗ってみたいな」と誰もが夢に抱く「モノ」をテクノロジーで具現化されている八谷さんにお話を伺ってきました!
OpenSky 3.0って?
ギズ:早速ですが「OpenSky」ってどういう意味なのでしょうか?
八谷さん:2003年ごろに締結された「オープンスカイ協定」と「パーソナル・フライト・システムを作ろう」という2つの意味があります。オープンスカイ協定というものは空に関る世界的な規制緩和、自由化のことです。コードシェア便が増えたり、日本の空にもLCCなど海外の航空会社の飛行機が飛んでいるのはこのため。もともとこの条約はアメリカの航空産業の激しい競争を世界に広げるためだったとも言われていて、そう考えると少し押しつけっぽいですよね。そこで「空を自由化しろと言われている日本の国内の状態」と、「個人用のパーソナル・フライト・システムを作ろう」という2つの意味を込めました。
2003年にはイラク戦争もありましたよね。「イラクが核兵器をもっている」という真偽が定かじゃない情報に米国が乗ってしまって開戦してしまったわけですが、そんなあやふやな情報を元に自衛隊が現地に派遣される状況を見て、「こんなに簡単に戦争に参加しちゃう日本政府って…」と思っていて、「日本の首相がナウシカだったらそんなことはしないのに!」というような気持ちになりました。そこで「僕はナウシカにはなれないけど、戦争を止めようとするナウシカが乗るメーヴェを今のうちに作ろう」と思ったのです。たぶんこういうことはまた起こるから。
ギズ:ちなみに、今回は「OpenSky 3.0」ということですが、八谷さんは何度かM-02とM-02Jで飛行されていますよね。
八谷さん:今回の展覧会タイトルは「OpenSky 3.0」という名前ですが、実は2007年に当時作っていたもの(グライダー機M-02など)を展示していて、その時の展覧会の名前が「OpenSky 2.0」というものでした。今回はM-02の次のバージョンであるM-02Jも展示しているので、メジャーアップデートということで「OpenSky 3.0」というタイトルにしました。M-02はエンジンが載っていないので、法律上は「初級滑空機」となるので飛行に許可はいりません。でも、M-02Jはエンジン搭載型なので、空を飛ぶには航空局からの許可が必要なんです。ちょうど無事許可がおりたので、公開することなりました。
ギズ:こ、航空局から許可が必要なんですか…。
八谷さん:そうなんです。許可がおりている期間は1ヶ月と決まっていて、1ヶ月ごとに書類を提出して更新する必要がありますね。
ギズ:航空局の方は実際に八谷さんの飛行をご覧になってたりするのでしょうか?
八谷さん:いえ、実際にいらしてチェックということはまだないですね。ただ、テストフライトをやったあとはレポートみたいな形で飛行記録と修理報告書を作って提出しています。テストフライトは当日になって風の具合で急遽中止ということもあるので、外部の方を呼ぶのは厳しいんです。
ギズ:今は結構低く飛んでいますよね。
八谷さん:3m以下の高さで飛んでいます。航空局の許可は2段階あって、第1段階はジャンプ飛行、第2段階は場周飛行というものになっています。M-02Jは第1段階まで許可がおりていて、ジャンプ飛行として3m以下の高さを飛行することができます。この第1段階で一定回数成功して、次の第2段階の許可がおりると飛行場の周りの半径3km、高さは150m~200mを試験飛行で飛ぶことができるようになります。飛行機の能力的にはM-02Jはもっと高くまで飛べるのですが、法律上の制限があるので、この範囲内でテストします。
ギズ:第1段階はどれくらいの飛行実績の報告が必要なんですか?
八谷さん:最低20本が必要になりますね。この数は法律上の決まりですが、現実的には20本よりもう少し多く飛ばしてから第2段階の申請を出そうかなと思っています。基本的にはずっと自分がこの機体に楽しみのために乗ろうとは考えていなくて…「貴重な機体だから壊れるのが嫌だ!」という気持ちが強いです(笑)。
飛行機の安全性って、気象条件とパイロットと機体という3つの要素があるんです。どれか1つでも欠けるととても厳しい。なので、試験飛行はかなり条件のいい日の早朝か夕方を狙って行っています。
ギズ:気象条件っていうのは具体的に決まっているのでしょうか?
八谷さん:テストフライトの場合は風が弱い方がいいですね。滑走路に正対する向かい風はそこまで問題にはならないのですが、横風は影響を受けやすいんです。風はの温度差によって生まれます。太陽が出てくると温度差が生まれてしまうので、陽が高く昇っていない早朝や夕方が好条件ということになりますね。
ギズ:風速のボーダーラインってあるんでしょうか?
八谷さん:それは決めてます。正対風は5m/s、横風は2m/s以上になったら中止するようにしています。数値がギリギリだったら待機もしますが、30分待って風がおさまらないようだったら、機体を組み立てもせずに(M-02、M-02J共に組み立て式)撤退します。
グライダー飛行ができる飛行装置 M-02
八谷さん:こちらがジェットエンジンがないタイプのM-02です。この機体で70回程度飛んでいるのですが、その実績があったからこそジェットエンジン搭載のM-02Jの許可が航空局からおりたのだと思います。いきなりエンジン付き機のM-02Jを作って見せても「これ、本当に飛ぶの?」って誰だって思ってしまいますからね。
ギズ:M-02Jと比べて高いところを飛んでいますね。
八谷さん:そうですね。これは最高で20mくらいの高さを飛んでいます。僕たちも「飛べる」と思ってこの機体を作っているのですが、実際に「乗って飛ぶ」となると訓練が大きな問題なわけです。もともとジェットエンジン搭載型の機体に対しての試作としてグライダー機のM-02を作りました。なので、M-02Jとの違いは胴体の部分だけで、ここにエンジンや燃料タンクや計器が入っているか、いないかという点ぐらいで、翼のつくりなどはほとんど同じに作っています。M-02はゴムの力で飛ぶ仕組みなので、ゴムを引っ張る力によって低く飛ぶ、高く飛ぶということが調整できます。
ジェットエンジン搭載型の飛行装置 M-02J
八谷さん:M-02Jはジェットエンジンが付いている民間の飛行機ということになるんですが、よく考えたらそれって日本では1978年代に初飛行した、三菱重工のMU-300という機体以来の民間のジェット機(機体から新設計されたものとして)ってことになるんです。
ギズ:35年来の!?
八谷さん:まあ、こちらは完全に試作機だし、一般販売はしない機体だから型式とった機体と比べるのも無理はありますが、よく考えるとそうなんです。それくらい日本で飛行機って作られていないんですよ。今、ホンダがアメリカでHondaJetを作っていますが、それは製造も試験もアメリカで行なっているんですね。前身の試作機「MH02」もアメリカで試作、実験された機体で、いわば帰国子女のような存在なんです。「DNAは日本かもしれないけれど生まれも育ちもアメリカ」というように。ビジネスとしてはすごく合理的なのですが、アメリカで試験中なので実機は当分日本では見れないんですよね。
それと今はMRJ、三菱リージョナルジェットという旅客機を三菱航空機が製造しているのですが、海外での重要部品の調達の関係で初飛行が2年ほど伸びてしまったみたいですね。やっぱり日本はずっと飛行機を作ってなかったので、飛行機を作って認証する体制そのものをイチからつくらなきゃならないから大変で、MRJにはすごく同情するのですが、1番作るのが大変な旅客機の手前で、例えば「小さい飛行機を作るプレーヤーが増えるといいのにな」とは思うんですよね。1人の大リーグ選手養成しようとする前に、少年野球レベルから楽しく始めようよ、的な。まあそんな感じで、M-02Jは絶対に壊したくない機体なので、今年か来年くらいには初飛行をきれいに終えて、いい撮影ができたら、このプロジェクトは終えようと思っています。
飛行機で飛ぶということ
ギズ:M-02もM-02Jも、なんだか身体の拡張みたいですよね。
八谷さん:そうですね。100年前にライト兄弟はじめ色んな人が飛行機を作っていたのですが、「鳥のように飛びたい」という欲求によって作られていたんだと思うんですよね。M-02は実はライトフライヤーと同じような操縦方法だったりもします。その後、2つの世界大戦があって、不幸なことに飛行機は戦争の道具として発達するんですけど、もともとは人間の身体の拡張欲求から飛行機は生まれたんだと思います。
ギズ:飛びたい場所ってありますか?
八谷さん:自分の家の上を飛んでみたいと思っています。現実的には東京の上を飛ぶのは難しいので、フライトシュミレーターを作ったりもしました。でも、田舎の方に住んでいたら、この夢は実現できていたかもしれませんね。普段歩いているところの上を飛ぶというのは、やっぱり面白いんです。見えない範囲が見えるというか。
ギズ:鳥瞰ってやつでしょうか。
八谷さん:そうですね、鳥瞰。神の視点ですね。すごく景色のいいところを飛んでみたいというのもありますが、自分になじみがあるところの上を飛んでみたいというのはあります。でも現実的には無理かな…(笑)。
ギズ:神の視点ってどういう感じなんでしょう?
八谷さん:神の視点というと「見ろ!人がゴミのようだ!」というムスカのセリフのような印象もありますけれど、そうではないんです(笑)。訓練で超軽量動力機に乗っていたので、田んぼの上を飛ぶことが多いのですが、空から地上を眺めると人の生活の跡を感じることができるんです。普段田んぼの横を歩いているときって「あ、田んぼだ」くらいにしか感じないんですよね。でも、空から見るとすごくきっちりと区分けされていることがわかります。田んぼや水路など、景色の全部に人の手が入っていて、人の営みの愛おしさをすごく感じるんです。
「星の王子さま」の作者であるサン=テグジュペリはパイロットでもあって、「人間の土地」というエッセイを書いています。当時はまだGPSもレーダーもなかったので、暗くなった中で飛ぶ際は山にぶつかることが最も危険だったそうです。そういう時に家の灯りなど、「人の営みの跡を見るとホッとしたんだろうな」ということをリアルに感じるんです。
視点そのものは高いので「神」みたいなんですけれど、同時に「ここ(上空)は人間がいてはいけない場所なんだ」というのをすごく強く感じます。ダイビングに似ていて、すごく綺麗で楽しいけれど、水中ではボンベを背負っていたりして長くはいることはできない。そんな感覚に似ていると思います。一時的には全能感のようなものも感じますが、同時に人間の身体的に限界のようなものを感じます。
ギズ:むき出しですしね。
八谷さん:そうですね。オープンコックピットなので、守られていない感覚はありますね。人間は平面の世界で生きているので、高さを移動する感覚がないんです。なので、飛ぶとその処理で脳がすごく疲れます。15分飛んでいるだけですごく疲れてしまって「地上に降りて歩きたい!」というような気持になります(笑)。
ギズ:そう考えると鳥ってすごいですね。
八谷さん:そうですね、やっぱり鳥ってすごいなって思います。僕らは風が強いと安全性を重視して飛ぶのを諦めることもありますが、鳥先輩方は強風や雨の中でも飛んでしまう。さらにすごいのが、ピンポイントで着地できてしまうんですよね。
飛行具の次はロボット
ギズ:「次はこういうのが欲しいな」っていうのはありますか?
八谷さん:次回作はロボットにしようと思っていて。大人を「高い高い」してくれるロボットです。
ギズ:大人を!?
八谷さん:身長が4mくらいで、大人をこう…高い高いしてくれるんです。顔はかなり抽象的なものにしようと思っていて、大人が「高い高い」されたらどんな気持ちになるのか? ということにすごく興味があるんです。
たぶん泣くと思うんです。もう…世界が(笑)。実際自分に子供が生まれて「高い高い」をすると「あっ、これ子供の時やってもらった!」という感じで記憶の深い深いところから、急に思い出すことがあるんです。「それをやられたい…」と思っていて、今考え中です。
ギズ:素敵ですね! 「高い高い」されたいです。
八谷さん:ロボットというと歩行するイメージが強いと思うのですが、このロボットは歩かない予定です。「歩行は他の人に任せた! 俺は、俺を高い高いしてくれるロボットを作る!」みたいな感じですね(笑)。でも「高い高い」も高度な技術が必要なんです。たとえば絶対に抱えている人を落とさないような制御技術だとか。たぶんその制御こそ、人は「優しさ」と知覚する気がします。
今までの作品もそうですが、技術的にもチャレンジングで、かつみんなが「これ欲しい!」「これ体験したい!」と思ってもらえるような作品を作っていきたいと思っています。OpenSkyは法律面と倫理面から僕しか乗れないことが大きな課題だと思っていたので、次は色んな人が体験できるものにしたいなと思っています。それもあって今は倉田光吾郎さんやクラタスの制御をやってる吉崎航さんの活動に興味があって。
ちょうど、9月15日にクロージングイベントをやる予定なんですよ。このメンバーで巨大ロボット…というか「パシフィック・リム」について語ります(笑)。
ギズ:このメンバーは…胸熱ですね!
八谷さん:胸熱なものを作るっていうのが、大人の義務だと思っているんです。日本発の胸熱的なものは昔はもっといっぱいあったと思うんですよね。最近は「もうすぐ新型のiPhoneでるで!」みたいなものしかなくて、それって海外製じゃないですか。正直悔しい(笑)。だからそういうものを自分たちが出来る範囲で、アートで生み出していきたいと思っています。
Special thanks:3331のみなさま
[八谷和彦 個展/OpenSky 3.0-欲しかった飛行機、作ってみた-]
(嘉島唯)
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