「水滴を吸着する」特殊フィルムの開発に成功 ―豪大学、バラの花びらヒントに
オーストラリア・シドニー大学の研究グループはこのたび、バラの花びらの表面構造を模した特殊なフィルムを開発することに成功しました。このフィルムには、表面に特殊な微粒子を散りばめられており、フィルムの撥水性を維持しながら水滴を表面に「縫いつける」という、何とも不思議な機能を持っています。
ハスの葉についた水が、球状の水滴となり、葉の表面をコロコロと転がるように移動する。そんな風景を、一度はご覧になったことがあるのではないでしょうか。
「ロータス効果(Rotus effect)」と呼ばれる、一部の植物の葉に特徴的なこの性質は、表面の微細構造と化学的な性質が合わさってこのような機能を実現しています。この機能により、ハスやサトイモなどの植物は、葉の表面についた汚れを落とす自浄機能を備えています。
ハスの葉の表面についた水滴と、それに吸着した塵の拡大写真。
このようにして、葉の表面の清浄性が保たれる。(画像引用元)
一方、バラの花びらに水を垂らした場合では、少々異なる現象が現れます。ハスの葉同様、球状の水滴は形成されるものの、この水滴はハスの葉のように表面を転がることはなく、あたかも花びらの表面に吸い付いたかのような挙動を見せるのです。
これは「花弁効果(Petal effect)」と呼ばれる現象で、撥水性と表面吸着性を同時に実現している珍しい現象です。花びら表面においては、化学的性質と表面の微細構造とが絶妙なバランスをとっていることでこのような現象が起こるのですが、今回、シドニー大学のグループは人工的にバラの花びらと同様の表面を作り出すことに成功したという訳です。
バラの花びらの表面を撮影した電子顕微鏡写真。細かい突起が無数に存在している。(画像元)
下段左側がバラの花、右側がハスの葉。バラでは、親水部と疎水部が交互に現れる
表面構造をとっていることなどが、前述のような物性に寄与している(画像元)
Petal effect表面の一例。逆さまにしても、水滴は表面に吸着したまま。(画像引用元)
同グループでは、直径およそ850nmのポリスチレン微粒子の表面に、化学修飾によってポリマーのナノ粒子を吸着させ、バラの花びら表面に似た構造を作り出すことに成功。実験では、水を乗せたフィルムを逆さまにした状態でも、水滴が落下しないほどの吸着力を発揮したとのことです。
実はこのようなバラの花びらを模した表面を作り出す研究自体は、東北大学の研究グループなどの先行事例があるのですが、Telford氏によると、今回開発された手法は工業スケールでの大量処理にも耐えるものであり、従来のプロセスと比べて実用性が飛躍的に向上しているとのこと。
その形状から、同研究グループではこの粒子を「ラズベリー粒子」と呼称しているようですが、この材料でフィルムやシートの表面を修飾することで、砂漠や乾燥地域などにおいて空気中のわずかな水分から飲料水を生成する集水シートなどへの応用が期待されます。
今回開発された粒子。中央のコア(ピンク)がポリスチレン、周囲の赤粒がポリマーナノ粒子。
スピード社の「レーザーレーサー」が、表面構造を工夫して撥水性を向上、水中推進性を増してていることは比較的有名ですが、この技術を応用した水着で泳ぐとどういったことになるのか?…ちょっと面白いことになりそうですね。
[Sciencedaily] [The University of Sydney]
[Mimicking the Wettability of the Rose Petal using Self-assembly of Waterborne Polymer Particles (ACS)]
ラズベリー粒子がおいしそう
冬の結露対策には使えないのか…
自然が美しく、そして、機能的だという
自然科学のお手本のような話しですね