ナノ・イメージングの世界にまたも革命!水素結合の直接観察についに成功
今年5月、米ローレンス・バークレー国立研究所のFelix Fischer博士らの研究グループが世界で初めて化学反応前後の構造変化を直接観察したことで大きな話題となりましたが、今度は中国の研究グループが分子の間にはたらく水素結合の可視化に世界で初めて成功し、国内外の科学界へ大きな驚きを与えています。
二つの磁石を手に持って互いに近づけてゆくと、くっついたり離れたりしようとする力が働いているのを感じることが出来ます。これは磁石の間に「磁力」が発生しているためなのですが、原子や分子といった極めて小さなスケールの世界でも、これと似たような力が働きます。
「原子間力」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?これは、原子同士を接近させてゆくと互いの間で発生してくる力で、一定の距離ではファンデルワールス力やクーロン力(引力)によって互いに引き合うものの、距離が一定以上に縮まると今度はクーロン力(斥力)が大きくなり、互いに反発しあうようになります。
この力を利用することで、原子や分子など極微の世界を観察する装置が「原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope, AFM)」です。この顕微鏡では、非常に細い針の先端の原子とサンプル表面の原子の間にはたらく原子間力の変化を検出して、映像化する仕組みとなっています。
AFMの基本構成。針を高速で振動させながら表面に接近させてゆくと
原子間力の影響で振動モードが変化するため、これを検出して映像化する。
このAFM、針の先端の鋭さ(曲率)が解像度に大きな影響を与えることなどから、数年前までは解像度の点でライバルの “STM” という顕微鏡に差を開けられていました。しかし、2009年にIBM研究所のLeo Gross氏が針の先端に単一の一酸化炭素分子を吸着させて「分子針」として使用する技術を開発したことで、従来よりもはるかに高解像な観察が可能となっています。
中国科学院・国家ナノ科学センターのXiaohui Quiらは今回、この方式を用いて銅の基板上に固定された “8-ヒドロキシキノリノール(8-hydroxyquinoline, 以後8hq)” という平面状分子を観察しました。その結果、分子の詳細な構造に加えて、個々の分子間をつなぐ水素結合を高解像度でとらえることに成功しています。
Cu(111)基板上に固定された4つの8hq分子。左図矢印部分と右図点線が水素結合。
この水素結合、個々の水分子を互いに繋ぎ止めていたり、DNAの二重らせん構造の形成に寄与していたりと、自然界において非常に重要な役割を果たしているのですが、その実態については未だに議論が続いています。
今回、可視化が成功したことによって、これまでに知られていなかった水素結合の新たな特性発見へとつながることが期待されるほか、このような非常に「か細い」構造を観察する上で、大きな知見が得られたことになります。
学生時代、私も同じ分野の研究をしていたことがありましたが、近年のナノテクの世界はまさしく日進月歩。かつては夢物語のように思えたことが、続々と成功していることに驚きを隠せません。
電子顕微鏡って条件が高真空でないと使えないっていうのがなぁ
最近やっと水溶液中でAFMを使おうとして研究してるみたいだけどまだまだ結果出てない
表面科学に対してはある程度有効だけど,反応は凝集系で起きてるんだから高真空で見れてもあんまり意味ない
大気中でもAFMならある程度までは行けるんだろうけど、さすがにここまでの解像度出すにはかなりのレベルでコンタミ排除しなけりゃならんだろうし、そうなると結局は真空中なんだろうな。残念。
液中観察はドリフト激しいし、かなり根っこレベルでのブレイクスルーがないと、少なくとも解像度面では現状以上に進まない気がする。ものすっごく成分最適化した溶液とかならあるいは…って感じだけど、それでうまくいってもなあ…。
最近、大気圧SEMとか出てきてますけど
分解能がネックですよね
イオン液体に試料入れてTEMとかも
なかなか扱いづらい・・・
キーエンス(たしか)の大気圧SEMをデモで見せてもらったことがありますが、光学顕微鏡なんかの延長として使う分には便利そうでしたね。ただ、大学レベルの基礎研究するとなると色々と限界がありそうな印象…。
分子構造図や分子模型まんまの像が得られることにいまだに驚くわ・・
自分が学生の時は図や模型はあくまで理解のためのものみたいな話だったのに。
あまりにそのままのカタチ過ぎて捏造じゃないかと疑ってしまう
本物だと思うんだけど、中国というだけで条件反射的に…
素人な意見かもですが、
これって針を近づけることで観察対象がズレちゃったりしないんでしょうか?
お世話になっております。
オリジナルの論文を読めていないので細かい観察条件はわからないのですが、恐らく基板になっている銅の表面構造と8hqの分子構造の相性や、サンプルの温度を非常に低い温度にまで下げて分子の熱運動をおさえるなどして、うまいこと固定できているんだと思います。
Supplementary Materialsには
「5Kの低温」
「銅の表面に飛び出た銅原子との配位結合」で針で動かすことすら難しい
的なこと書かれてますね
Cu(111)はたしかヘリングボーン構造をとったと思うので、飛び出した銅原子というのはそれでしょうか。…となると、分子の配置制御もかなりシビアになりそうなオカンが…。
正確には吸着原子って書いてますね
( coordination complexes with copper adatoms on Cu(111) )
ヘリンボーン構造というよりは、吸着Cu原子が点在してて
蒸着された8hqがそこへ優先的にくっついてくれる
って感じでしょうかね
「原子間力」顕微鏡って名前からも分かる通り,実際に針の先端が感じてるのは原子間力
針の先端は,測定対象から数nm離れた位置で一定の周期で振動していて,その振動が原子間力を受けて変化するのを検出している
原子間力は,測定対象から数nmはなれていても働く力なので,「非接触で」物体がそこにあることを検出できる
接触測定モードってのもあるけど,針先端の劣化が早かったり物体が動いたりするので,良く話を聞くのは非接触モードが多い
今回のはガッチリ固定されてるみたいですが
むしろ「積極的に観察対象をズレさせる」使い方も有るようです
大阪大学・森田先生グループの研究例↓
単原子ペンによるナノパターンニング
http://www.microscopy.or.jp/magazine/45_1/pdf/45-1-51.pdf