1:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:44:02 ID:4WJuo1Zg

俺は生まれながらに心臓に大きな持病を持っていた。
ガキの頃にでかい手術をして、なんとか持ちこたえたらしいが
当時の記憶はほとんど無い。

だが、大学受験を控え、毎日深夜まで受験勉強をしていたストレスからか
急に持病が再発した。

床に倒れ、動けなくなってしまった俺は床を力いっぱい殴りつけ、
両親に助けを求めた。

すぐ、地元の大学病院へ救急車で運ばれ、緊急手術をされた。


長時間の手術の結果、一命は取り留めたが入院することになった。






 
2:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:44:24 ID:4WJuo1Zg

8月3日
田舎の病院だからだろうか、6人部屋には俺を含め3人しかいなかった

コーヒーを奢ってくれたちょっとエロいおじいさん
いつもおしゃべりで、楽しい話をしてくれるお姉さん

初日の感想としては、入院生活は楽しいものかもしれない、とそう感じた。





3:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:44:38 ID:4WJuo1Zg

9月10日
その日は突然やってきた。
昨日まで談笑していたはずのおじいさんの容態が急変した。
元々癌で入院しており、体は既に癌に侵されていた。
冷静だが、とても焦っているように看護婦さん達がおじいさんを担架に乗せ
手術室へ連れて行ってしまった。

お姉さんは、とても悲しそうな横顔で、俯いて黙り込んでしまった。
この日、おじいさんは戻ってこなかった。





4:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:44:57 ID:4WJuo1Zg

9月20日
何やら指に違和感を感じた。
手がとても冷たい。
足の指先もとても冷たい。
元々冷え性ではないのに、こんな暑い日にどうしてだろう。

あまり気にしないことにして、お姉さんと談笑を楽しむ。
たまにおじいさんのスケベな話を思い出して、そんなこともあったねと
笑いながらも、少し悲しい表情をするお姉さん。
それを観ていると俺も少し悲しくなる。
恐らく俺もお姉さんと同じ、悲しい顔をしていたのだろう。





5:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:46:21 ID:4WJuo1Zg

10月20日
「この部屋に新しい患者が入院してくる」と、いつも診てくれている看護婦さんが言った。
俺とお姉さんは、どんな子がくるのかなと話をし、明るく迎えてあげようと活きこんでいた。

10日後に別の病院から移ってくるらしい。
こんな田舎の病院に来るなんて、どうしてだろう。


10月30日
新しい患者さんが来る日だ。
その娘は、看護婦さんに押してもらいながら車椅子でゆっくりと、無表情な顔をして入ってきた。
綺麗な栗色の長い髪が揺れる。まるでお人形さんのようだ。
ちょうど俺の右隣、窓側が彼女のベッドとして使われることになった。

俺とお姉さんは色々話しかけた。名前、年齢、出身地・・・・思いつくだけ色々聞いてみた。
しかし、彼女は応えるどころか、窓の外を無表情で観ていた。





7:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:47:15 ID:4WJuo1Zg

11月1日
彼女の両親と思われる人が来た。しかし、何も話さない。淡々と、作業的に彼女の周りを整頓していく。
カーテン越しでよく分からないが、会話はまったくしていないようだ。

ある程度時間がたち、両親と思われる2人は帰っていった。
カーテンが同時に開けられたので、お姉さんには止めたが、
俺は彼女に話しかけた。

今の人たちは誰?その花きれいだね・・・・・・

だが彼女はずっと窓の外を観て、こちらを振り向いてはくれない。





8:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:47:35 ID:4WJuo1Zg

11月10日
俺は懲りずに毎日話しかけた。もう何日経つのだろう。
お姉さんは完全に、彼女にも俺にも諦めてしまったようだ。
そんなことをまったく気にもせず、俺は自分でも不思議だと思う程、
彼女に話続けた。

自分のこと、自分の親のこと、病気のこと・・・・





9:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:47:51 ID:4WJuo1Zg

11月13日
やっと彼女がこちらを向いてくれた。とても嬉しかった。
不思議と興奮している自分がいた。

だが、そんな俺を見透かしたように彼女はまた外を眺めてしまった。
お姉さんは携帯ゲームに夢中だ。

深夜、変な音が彼女のベッドから聞こえた・・・・・車椅子の音だ。
病室を抜け出して、どこかへ行ってしまった。
2時間後、彼女は戻ってきた。
一体どこへ行っていたんだろう。今度聞いてみよう。





10:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:48:13 ID:4WJuo1Zg

11月14日
昨日のことを話し、どこへ行っていたのか聞いてみた。
すると彼女はこちらを向いてから、ごそごそと自分のカバンを漁り、
ペンと小さなメモ帳を取り出した。
何か書いているようだ。書き終わったメモを見せられた。

「外に行っていたの」

初めて彼女と意思疎通ができたことで俺は興奮した。
なんとなく彼女の無表情な、全てを諦めた表情が緩んだような気がした。

その後は、彼女と筆談をした。

彼女は声が出なかった。





11:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:48:30 ID:4WJuo1Zg

11月20日
彼女は色々話してくれた、交通事故で両足が動かなくなったこと。
そのショックで声が出なくなったこと。
たまに外に出るのは、このあたりの空気がおいしいからだと言った。

書いては振り向き、書いては振り向く彼女のキレイな長い髪が、
太陽の陽射しで、天使のようにとても綺麗に見えた。





12:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:48:42 ID:4WJuo1Zg

12月1日
彼女は、夜一緒に外にでないかと尋ねてきた。
もちろん承諾し、どこか行きたいところはあるか、と尋ねた。
彼女はどこでもいい。ゆっくり歩けるところなら。と応えたので
深夜ならすいている、大通りを歩くことにした。

看護婦さんの目を盗みながら、なんとか病室から逃げ出した。
いつも抜け出している彼女のおかげだ。

外に出ると星がとても綺麗だった。彼女は言った。
星にも色があるなんて知らなかった。とても綺麗、と。

その日は1時間ほどで病院へ戻った。体が冷えてしまった彼女の体を
そっと抱きしめてあげた。





13:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:49:17 ID:4WJuo1Zg

12月10日
朝から体が重い。倦怠感。体の調子が悪いと心まで蝕まれていく。
目が少し虚ろになって、上下の視界が少し狭いのが分かる。
先生からは風邪と診断され、風邪薬を処方された。
処方された薬を飲み横になる。
彼女はそんな俺を見て、とても心配そうに語りかけてくる。
俺が見やすいように、と気を使ってくれたのだろう。
彼女も横になって、紙を横に向けて読みやすくしてくれた。

そしていつの間にか寝てしまっていた・・・。
夜に目を覚ます。風邪はほとんど治ったようだが、まだ体に違和感が残る。
横になって回復を待つことにする。





14:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:50:07 ID:4WJuo1Zg

12月16日
俺の容態が急変する。呼吸ができない。胸が痛い・・・。

俺はナースコールを押すことさえできないほどベッドの上でのた打ち回った。
お姉さんが急いでナースコールを押してくれたおかげですぐに看護婦さんが駆けつけてきた。
彼女は俺の方を心配そうに見つめている。
担架で運ばれていく俺はそんな彼女に親指を立てて、強がって見せた。
彼女の顔をドアの閉まる瞬間まで見続けた・・・・・。

行われたのは緊急手術だった。

手術後、医者から説明を受ける。

次の発作が来てしまったら、手術をすることは難しい。
やってはみるが望みは薄い、と言われる。





15:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:50:27 ID:4WJuo1Zg

12月12日
元の病室のベッドに戻ることができた。
お姉さんが声を上げて笑顔で迎えてくれる。彼女も笑顔で俺を迎えてくれた。
次の発作の件については話さないことにした。
心配をかけさせるだけだ・・・。
彼女は俺のことを気遣ってくれる。
何度も「大丈夫?」という文字を書いてくれた。

俺の表情から、何か察しているのだろうか・・・・・・。
俺は、そんなに生きることを諦めた顔をしていただろうか・・・・・・。





16:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:50:52 ID:4WJuo1Zg

12月25日
遂にきた。発作だ。俺の心臓が悲鳴を上げる・・・。
恐らく最後の緊急手術。麻酔が効き始める。

もう楽にさせてくれ、体を引き裂かれるのは御免だ・・・。

俺の最後はこんな真っ白な天井を見上げながら終わっていくのだ。
そう思うと彼女の顔が思い浮かぶ・・・・俺は意識を失った・・・・・・。


手術は失敗した。
緊急処置がとられたおかげで、数時間は存命できるらしい。
そして苦しみながら死ぬのだ・・・・・。





18:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:51:20 ID:4WJuo1Zg

俺は病室に戻してくれと医者に頼んだ。
医者は快く、そして急いで運んでくれた。ありがたい。医者にお礼を言った。
看護婦さんは俺の左横にずっと居てくれる。なんのためにいるんだろう。

俺の死んだ時間を確認するためか?
俺を助けてくれるのか?

白いナース服に紺色のカーディガン。
天使とはよく言ったものだ。

右の方からなにやら音がする・・・・俺は彼女の方をみてみる・・・・すぐ隣に居た。
車椅子に乗って、俺の隣で必死に何か書いている。
「大丈夫?」

大丈夫じゃないんだな、それが・・・。
鼻にチューブを入れられて喋りにくい。

俺はもう強がる気力も無い。
「もう、ダメっぽい」
俺はまるで他人事のように、笑い飛ばすように言った。





19:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:52:06 ID:4WJuo1Zg

彼女が俺の右腕を握ってくる。暖かい・・・・・。俺がまるで死人のようだ。

看護婦さんが何かに気付き、出て行ってしまった。
さっきから機械がピーピーうるさい。

彼女の握る手が強くなる・・・・。

医者が飛んできた。俺の胸に聴診器を当て、機械のディスプレイを睨み付けている。
そして、最後の時が来る。また胸が痛い。体は動きたくても動けない。衰弱しきっている。
俺は、今の苦痛の度合いを医者に表情でなんとか伝える。

医者は目を瞑る。
「筋弛緩剤と麻酔を投与・・・」





21:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:53:52 ID:4WJuo1Zg

きんしかんざい・・・・・?
あぁ、あれか・・・・・心臓とめる奴だ。

彼女に目をやる。泣いている。そんな顔するなよ。綺麗な顔が台無しだ。
俺は頬を手の裏で撫でて、涙をぬぐってやる。俺の手は自分でもわかるほど震えている。

すぐに薬の投与が始まった・・・・なんだか眠い・・・・・・目が開けられなくなる・・・・・・。
暗闇に吸い込まれて行く、何も考えられない・・・・・・。

彼女の顔が目の前にある。
俺を覗き込んで・・・・・口が動いている・・・・・・

「・・・・・から!」

何か喋っている・・・・?


「私、あなたのこと絶対忘れないから!」


あぁ、ありがとう・・・・・。
なんだ喋れるようになったん・・・じゃん・・・・・よかった・・・・・・・・・。


おわり





22:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 00:59:38 ID:QgQTBJBQ

oh……乙
少しでも救われたんだろうか





24:以下、名無しが深夜にお送りします:2012/01/12(木) 01:03:03 ID:ENuu7/Jk

乙乙
なんか…切ないな…
でもこんな感じの切なくて現実味のあるSS好き
形式も面白かったし、まるで自分がそこにいるような感じがして読みやすかった





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