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小さなドロップの不思議なふるまい…MIT、パイロット理論の実証に初めて成功 - Technity

小さなドロップの不思議なふるまい…MIT、パイロット理論の実証に初めて成功

2013年10月2日 19:31 │Comments(12)

Written by くまむん

固体表面や液体表面における微小液滴の挙動は、数十年も以前から表面科学の世界における一大テーマとして研究者たちの興味を引きつけてきました。

1978年、Walkerらは微小な液滴が液体の表面をバウンドするような挙動を見せることを発見(※1)し、そのおよそ30年後の2005年にはフランス・パリ第七大学のYves Couder氏らのグループが、これらのバウンシング・ドロップは一定の条件下において液面を “歩きまわる” ことを見出して(※2)います。 
(※1) J. Walker et al, Sci. Am. 238, 123 (1978) 
(※2) Y Couder et al, Phys. Rev. Lett. 94, 177801 (2005)

そしてこのたび、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のJohn Bush氏を中心とした研究グループは、こうした液滴の “バウンド” や “ウォーキング” といった振る舞いを包括的に解析した論文を専門誌「Physics of Fluids」に発表しました。この成果は、量子効果のひとつである「パイロット波」の振る舞いを可視化した初めての例であるとのことです。

なぜ液滴は浮遊するのか

前述のBouder氏やBush氏らが行った実験は非常に単純なもので、容器に入ったシリコンオイルの液面を50Hzから80Hzほどで共振させると、ある一定の大きさまでの液滴が表面で跳ね返ってバウンドするような振る舞いを見せます。

これは、液滴が高速振動をしている液面に落下すると、液滴と高速振動する液面の間で局所的に発生した圧縮空気の層がクッションとなって、液滴を上向きに跳ね返す仕組みとなっています。説明が冗長的になるため詳細については割愛しますが、直観的にはエアホッケーが浮いているようなイメージに近いかもしれません。

droplet-boucing-mechanism

量子力学へのアナロジー

さて、このように興味深い振る舞いを見せるシリコンオイルの液滴ですが、研究者らは様々な実験を進めてゆくうちに、このドロップがそれまで知られていた光子や電子といった “量子” に似た振る舞いをしていることに気づき始めます。

量子力学の世界においては、量子は「パイロット波」という空間を伝搬する波(実験的にその存在は確認されていない)に乗って、サーフィンをするように移動しているとする説があります。研究者らは、微小な液滴に量子の振る舞いを、液面の振動にこのパイロット波を重ねて見たというわけです。

そこで、試しにこの液滴を利用して二重スリット実験を行ってみたところ、なんと電子や光子を使用した二重スリット実験の場合と同様、”干渉縞” と呼ばれる特有のパターンが出現したのです。微細とはいえ、目に見えるほどの大きさのものが、光子や電子といった “量子力学の世界の住人” と同じような挙動を示したということは、全世界の研究者に大きな衝撃を与えました。

・二重スリット実験およびその土台となる不確定性原理については、以下の過去記事が参考になるかと思います。
「不確定性原理とは? ―その概要と紹介」http://ggsoku.com/tech/summary-about-uncertain-principle/

bouncing-silicon-double-slit

Youtubeより引用(二重スリットの実験は02:43〜から)。
二重スリット実験に関しては、こちらの過去記事が参考になります。

droplet-slit-experiment

液滴を用いたスリット実験の結果が以下。グラフの横軸は粒子の進行角度で、
タテ軸はその角度で進んだ粒子の個数。干渉縞パターンが出現している。(画像元

今回MITの研究チームがPhysics of Fluidsに発表した論文は、液滴の振る舞いと量子力学的な法則とを理論的に紐付けしたもので、Phys.orgによると、1925年にフランスの物理学者ルイ・ド・ブロイによってパイロット波の存在が提唱されて以来、これを体系的に説明した初めてのケースになるとのことです。

ミクロとマクロの架け橋になるか

ここで注意すべきは、これらの液滴の動きは電子や原子における量子力学的な効果を直接反映したものではないということです。

すなわち、このシリコンオイルの液滴が電子や光子などといった量子と「高度に類似した動き」をしてはいるものの、ミクロの世界とマクロの世界の物理法則を “直接的に” 結びつけたわけではないのです。

ただ、これまでの量子力学の常識では、量子が住むミクロの世界と我々が日常的に目にしているマクロな世界では物質の挙動が根本的に異なるというのが一般的でしたが、今回の発見はそういった流れに一石を投じることになるかもしれません。

[Phys.org]
[Exotic states of bouncing and walking droplets(Physics of Fuids)]

くまむん

著者 : くまむん

企業の研究所で家電関連技術の研究開発に携わっておりましたが、2013年4月をもって退職し、当サイトの専属となりました。今後ともよろしくお願いいたします。

12 件のコメント

  1. No Name 2013年10月2日 20:13 No.463788 返信

    シュレディンガーの猫解決か?

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    • No Name 2013年10月2日 22:24 No.463952 返信

      猫は死んでるかもしれないし、死んでいないかもしれない。
      これが答えで解決してる事を理解出来なければ、量子物理学は一生理解出来ない。

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  2. No Name 2013年10月2日 20:16 No.463797 返信

    水たまりに落ちる雨を見てるとたくさん見えるよね。子供の頃から不思議だったけど、まさか水滴との間に圧縮空気が起きていたとは

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    • No Name 2013年10月2日 21:06 No.463870 返信

      俺は見たことないけどこれって水でも起こりえるの?

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      • No Name 2013年10月2日 21:20 No.463887 返信

        台所に水を張った桶でも置いて蛇口から水をポタポタ垂らしたら観測できると思う

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        • No Name 2013年10月2日 21:41 No.463912 返信

          桶は共振してないだろうから、それは違うんじゃない?

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      • No Name 2013年10月2日 22:08 No.463941 返信

        画像元のPDFすこし見た感じだと、液の粘度が結構効いてくるみたいだから水だとキツイと思う。実際、先行研究もシリコンオイルのものばっかりだし(細かく読んでないんで見落としているだけかもしれんけど)。

        というか、かなり面白い研究だと思うんだけどなんでNatureとかじゃないんだろ。業界内だと割と経験的に有名だったことに裏付け与えただけだから比較的低い評価になってたりするのか?

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    • No Name 2013年10月2日 22:18 No.463947 返信

      実際なんで水面をころがる水滴はどういう条件でできてるんだろうね
      今回のとは関係なさそうだけど気になる

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  3. No Name 2013年10月2日 20:25 No.463807 返信

    うーん。これはやはり何か観測できていない物理量が裏に存在する可能性が高いということで、
    量子力学を大きく書き換えるきっかけになりそうですね。

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  4. No Name 2013年10月2日 20:34 No.463825 返信

    Walkerはboundする事を発見したのであって、walkする事を発見したんじゃないんだね。
    WalkerがWalkする事を発見してたら面白かったのに(^^)

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    • No Name 2013年10月2日 21:52 No.463923 返信

      なんかスヌーピーの秋の落ち葉の話みたいだな

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  5. No Name 2013年10月2日 23:58 No.464018 返信

    二重スリット問題がとても気になる、この場合は液滴がどちらのスリットを通ったかはっきり分かるので、当たり前の事だけど、不確定性原理(観測するとなんとやらのこと)は働かない
    なのに液滴の干渉パターンは同じ、問題は何がこの干渉パターンを作っているかという事になるけど、
    それはやっぱり液滴を導いてる波自身なわけで、そうなると量子自体も「パイロット波」に乗って移動するのかなと思ったけど、光のエーテル説とか考えると、あれ?一緒じゃね?とか思ってしまう

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この記事にコメント
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