スポーツは見ているだけでも(一応)運動になる ―豪大学が実証
豪ウエスタンシドニー大学のVaughan Macefield氏らはこのたび、他人がスポーツをしている様子を見ているだけでも心拍数や呼吸数などといった生理的反応が上昇し、実際に体を動かした時と似たような反応が見られた、とする研究結果を発表しました。この成果は、専門誌「Frontiers in Autonomic Neuroscience」に掲載されています。
今回Macefield氏らは、9人(女性6人・男性3人)の被験者を対象に、他人が走っている映像を見ている時に彼らの身体に起こっている生理学的変化をモニタリングしました。このとき、心拍数や血流、呼吸数、発汗量などといった体外から計測可能なパラメーターのほか、被験者の足に非常に細い針状の電極を挿しこむことで、血管につながる神経線維の電気信号の直接計測も行われています。
テストでは、被験者はまず最初に静止画像を一定時間ながめ、その後にアクションカメラを用いてランナーの一人称視点から撮影されたビデオを見ています。ビデオの内容は、冒頭にビーチを散歩する映像が3分間流れた後、丘を駆け上がる・階段を上るなどの激しい動作が16分間続き、最後にクールダウンで終了する、計22分間に渡るもの。
測定の結果、静止画像を見ている時には生理学的な変化が見られなかったものの、ビデオの中のランナーが走りだすと被験者の心拍数や呼吸数、皮膚血流、発汗量などといったパラメーターが上昇し、神経活動も活性化。 ただ歩いているだけの映像を見ている最中にも、1分間あたりの呼吸数が2回増加するなど、明らかな生理学的変化が観察されたとしています。
論文によると、測定は被験者がベッドに横になった状態で行われたため、筋活動に伴う神経信号は発生しておらず、こうした身体的な反応は全て心因的な作用が原因となっているものであるとのことです。
測定の様子。被験者の足に針状の電極を挿入し、神経信号を直接モニタリングしている。
共同研究者であるRachael Brown氏は、この結果について「性的、もしくは感情を刺激するような映像を見ると交感神経が活性化されて発汗量が増大するという、我々の先行研究にも一致するものだ」と語っており、心因的な要素は、従来考えられていた以上に身体的変化として現れてくることが示されたとしています。
今回の研究結果は、アスリートが行うイメージトレーニングの実効性を裏付けることにもなるとのことですが、このような映像鑑賞によって得られる運動効果は、実際に体を動かした場合に遠く及ばないとのことで、残念ながら「ソファーに座って野球中継を見ていれば知らぬ間に痩せてゆく」といったうまい話には繋がらないようです。
Macefield氏は今後、「Empire State Building Run-Up(エンパイア・ステートビルの階段を走って駆け上がる大会)」のような激烈な運動の映像を見た場合ではどうなるか、またプロの陸上選手のパフォーマンスなどによって変化は現れてくるのかなど、研究をさらに発展させてゆくとしています。
[Medicalpress] [the Telegraph]
[Frontiers in Autonomic Neuroscience]