1:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:28:15.52 ID:xY1P+zp5i
モブ准尉「え? 減棒でありますか?」
メタボ大尉「当然だろう。完成直後の我が軍の新型【主人公機】奪取のために急襲してきた敵に、君はまるで対応できていなかったではないか。
量産機Aに搭乗して迎撃にでて2分で撃墜とは士官の恥だ。本来ならもっと思い罰則を与えられるところだぞ」
准尉「…はぁ…」
メタボ「なんだその気の抜けた返事は!」
准尉「失礼いたしました!」
准尉は若干の不満をもちつつも
軍人らしく上官の叱責に耐え、退室した。
これが大人、ひいては社会人というものである。
宿舎の食堂に移動し、遅い夕食とる。
准尉(…ってかよ。あの状況キツすぎだろ。エース級のパイロットがのった高性能新型機
だぜ。ビーム連射、マイクロミサイルぶっ放しまくり。そもそも相手は異星人のテクノロジー使ってて
そこですら溝がある。
一方こっちは二世代は前の旧型量産機。武装はガンポットだけ。ミサイル無し。。勝てるかっての…いやなんとかしなきゃいけなかったのは
わかってるけどさ)
2:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:30:01.78 ID:xY1P+zp5i
相棒A「よ。モブ! こってり叱られたかんか?」
准尉「ああ。もうクソミソ。まずあの状況で迎撃に出れて、しかも生き残れたことを評価してほしいぜ
俺一人しか出てないんだぜ。それに俺が出てなかったら、もっと民間人に被害でてる」
相棒「でもお前、機体壊したやん。しかも結果、起動した新型の主人公機が敵を撃退したやん。それに民間人の被害も0ってわけじゃないやろ」
准尉「…まあ。たしかに。うん。そこは反省してる」
相棒「おう。まあ生きててよかったわな それに俺はその場にいなかったから文句いえへんし、よくやったよお前は。
そういえば例の新型、主人公機。結局誰が動かしたか知っとる?」
思い返してみる。あのとき准尉はすでに半壊して動けなくなった量産機Aのなかからみていた。
急に起動した主人公機、最初は挙動が安定していなかったけど、急に動きがよくなって、新型の超起動と
武装で敵を撃退。機体性能はもとより、パイロットもなかなかの腕だったように思える。
4:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:39:37.32 ID:xY1P+zp5i
ただ、解せないのは、無線ではいってきたパイロットの声。(うわああああ!!)だの(動け! 動けよ!!)だの聞こえてきた。
なんか少年の声にも聞こえた。多分無線の故障だろう。なにせ機体が壊れてたし
准尉「知らん。秘密裏に基地入りしてたエース級とか、テストパイロットとかなんじゃねぇの?」
相棒「違うんだよこれが。なんでも偶然居合わせた民間人らしいで。しかも学生だって話や」
准尉「マジで?」
相棒「マジで」
准尉「でも普通に機体を動かしてたぜ? あきらかに強かったぜ? なんだそりゃ」
相棒「さーて。天才ってやつなんやろ」
准尉「すげぇな」
相棒「すげぇわ」
5:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:45:16.06 ID:xY1P+zp5i
後日、准尉は新型機の輸送任務のため、コロニーの基地をあとにすることになった。
なんでも、例の民間人の少年は最初に主人公機を起動したときにパイロットデータの個人登録をしてしまい。その解除のためには本部がある地球までいかないといけないらしい。
虎の子の新型機は個人登録の解除まで、この民間人の少年しか動かせないそうだ。
また、先の異星人軍襲撃のため、難民となってしまった民間人を地球の施設に送る任務も兼ねている。
難民の方にとっては危険もあるが、家もなくなってしまったコロニーにいるよりはしばらく我慢してでも
地球の難民施設に入ったほうがマシ、と判断したわけだ。
准尉「ってわけで、俺ちょっと出張になるわ」
恋人「…うん。体に気をつけてね? あんまり危ないことしちゃ嫌だよ…」
准尉「いやーどうかな。軍人だし、パイロットだからねぇ」
恋人「ねぇ、いっそパイロットなんてやめられないのかな…」
この話はもう3回目だ。だが准尉は優しく答える
准尉「いやいや。士官学校も軍の奨学金で出てるしさ、待機任務だけで3年も給料もらってるしさ」
7:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:49:09.72 ID:xY1P+zp5i
恋人「でも辞めちゃダメ!って決まりがあるわけじゃないでしょ? 奨学金なら私と一緒にパン屋さんやって返せばいいよ。ね?モブ君」
恋人の父親は町のパン屋さんで、恋人はその看板娘である。…が。
准尉「いや。決まりとかそういう問題じゃないんだよ」
恋人の言っていることもわかる。が、それはなにか嫌だった。
これまで自分が死ななかったのは、自分のコロニーを守っている兵士がいたからで
これまで自分が生きてこれたのは、いずれ戦うという意志に対して、国がお金をくれたからだ。
だから、なんか嫌だった。古い地球の言葉でいうところの、義理、というやつなのかもしれない。
また、それとは別に、自分は機体を操り、飛ぶのが好きだった。
士官学校のパイロット養成コースでも常に五指にはいる成績、入隊後の訓練成績も良好。
哨戒任務でも評価は高かった。繊細で丁寧な機体コントロールが持ち味である。
8:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:50:03.09 ID:xY1P+zp5i
…最近の実戦では数秒で撃墜されて、しかも自分を撃墜した相手は素人の少年に撃墜されたが。
あと、准尉は准尉なりに、軍にいて、戦っている理由というものがある。
戦争は好きじゃないけど、それでも。禄を食んでいる以上、守ることへの責任感ってやつだ。
結局、恋人とは折り合いがつかず、別れることとなった。
准尉も恋人も世間的には若いといわれても、そこそこ大人だ。
戻ってくるかわからない男を待ち続けるのは無理というものだろう。
准尉もそれはわかっている。だから納得した。
10:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:54:39.94 ID:xY1P+zp5i
基地を離れて2日。宇宙にでるのは久しぶりの准尉。
准尉「おー。やっぱ暗いなぁ」
後輩「暗いっすねー。案外星も見えないし。偵察任務ってのも暇っすねー」
ヒゲ中尉「後輩。いつもの哨戒任務じゃねぇんだぞ! 新型機の輸送艦の護衛中なんだからな!!
いつ敵が攻めてくるかわからねぇぞ。気を引き締めろや」
後輩「は、はい! サーセン!!」
ヒゲ「よしそれでいい!…安全な空域まで行って任務終わったら酒でも奢ってやるよ」
後輩「! マジっすか!!」
ヒゲ「ああ。ま、艦の中のバーなんてしけたとこだけどな」
後輩「あざーっす!」
艦にはバーなどのレジャースポットもあるが、なにせ備蓄が少ないので、大変高価だ。
ヒゲ中尉はベテランだが、エリートというわけではない。対して給料ももらってないはずだ。
ヒゲ中尉はぶっきらぼうだが、なんだかんだと慕われている。
12:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:59:18.07 ID:xY1P+zp5i
後輩は後輩で、新兵のわりには物怖じしないタイプで、多少生意気なところはあるが、
一緒に飛んでいて楽しいタイプだ。今は艦で待機中の相棒もいるし、今回の任務は人選としては悪くないように思えた。三機は飛行形態に変形して艦の進路の先を飛んでいた。
ヒゲ「そういえばモブ。お前、女と別れたんだって?」
准尉「ええ、まぁ」
ヒゲ「あんまり気を落とすなよ。俺たちみたいな、飛行機乗りは港港に女がいるくらいがちょうどいいんだよ」
ヒゲ中尉はパイロットのことを「戦闘機乗り」とか「飛行機乗り」と呼ぶ。まだ兵器の主流が人型ではなく、
航空機だった時代から軍属の人にはたまにある名残だ。まあ、最近の量産期は航空機形態への変形もデフォルトであるから、あながち間違いではない。個人的には飛行機乗り、という呼称は結構好きだ。
骨っぽさがありながら、なんとなく殺伐とはしていない気がした。
14:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:00:49.60 ID:xY1P+zp5i
でも、准尉は職業を聞かれたら公務員と答えることにしている。それが事実に近いからだ。
そう、俺はサボりがちなお役所さんとは違う。
責任感を持って、公のために出来るかぎり働く、
公務員だ。
准尉「港港に女ですか。まあ、隊長にはそういうの、似合いますよね」
ヒゲ「ははは!!バーロー、女くらいつくらないで戦争が…! 避けろ!」
ヒゲ中尉の口調が一変する!
准尉「!」
後輩「え?…うわあああ!」
ヒゲ「世話が焼けるぜ!」
遠方から味方三機に向け、敵機のライフルが撃たれていた。
准尉はなんとか間一髪で回避、後輩はまるで対応できていなかったが、人型形態に変更したヒゲ機が後輩機を突き飛ばし
弾は当たらなかったようだ。送れて、被ロックオンのアラームがなり始める。
15:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:07:39.25 ID:xY1P+zp5i
准尉「思ったより速くみつかりましたね。コロニーを出てから二日か…」
ヒゲ「例の新型主人公機がそれだけ重要ってこったな」
後輩「ど、ど、どうするんすか!? げ、げ、げい」
准尉「当然、迎撃する」
ヒゲ「そういうこった! いくぞひよっこども! フォーメーションCだ!!」
准尉「了解!」
後輩「りょーかいっす!」
なにせ自分たちは任務をおびた軍人で、今の任務は主人公機をのせた艦を本部まで護衛することだ。
准尉は操縦桿を握る手に力をこめ、高速で接近する敵機に目を向けた
今回とるフォーメーションは、やや距離をおいたところから援護射撃をする後輩。敵の中心に飛び込み攻撃するヒゲ、敵付近を飛びつつ、かく乱と攻撃をする准尉というものだ。
経験の少ない後輩を前衛に出すとすぐに撃墜されてしまう可能性がある
17:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:19:08.70 ID:xY1P+zp5i
准尉「相手は5機… それにアイツは…」
敵機のなかでひときわ目立つ赤のカラーリング、新型機奪取の攻撃のときに、准尉を数秒で撃墜したヤツだ。量産機ではない。多分特注のワンオフ機だ。
准尉「…これはあれだ。ヤバイ」
宙域に飛び交うミサイルやビーム、冷や汗をかきつつ、それを避けていく准尉。
チャフを放ち、機体を回転させ、ブーストを吹かし、ミサイルを振り切る!
准尉(あたるといいな)
ときおり、隙を見つけては人型形態に変形し、バルカン掃射を行うも軽く回避される。
19:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:26:41.72 ID:xY1P+zp5i
准尉「くそ…! 避けるだけで手一杯だ…!!」
機体性能もさることながら、技術でも相当厳しい相手だ。
ヒゲ「オラオラオラ!!落ちやがれ!!!」
ベテランのヒゲはやや荒っぽいながらも、被弾は最小におさめ、敵に着弾させていく。
すごい腕だ。俺たちが同じレベルなら、もっといい勝負が出来たかもしれない。
後輩「この…! この…!!」
後輩の援護射撃は一応けん制の効果はあるものの、それ以上は期待できない。
5対3という戦力差を考えると、やや、いやかなり危険な状況だった。
22:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:43:10.25 ID:xY1P+zp5i
赤い機体のパイロット「フン、地球連邦のパイロットはこの程度か」
敵機からオープンチャンネルで通信が入ってくる。若く、自信満々な声だ。あの赤いのに乗ってるやつだと思われる。
戦闘中に相手に声をかけてくるとはずいぶん余裕があるようだ。異星人のエース様はすごい。
准尉「…」
赤パイロット「所詮は大義なきやつらだ。正当性のない連邦軍にはこの程度の兵士しかいないというわけだ!
これならこの俺一人で!」
准尉「…」
うるさいなぁ。こっちは操縦で忙しいんだよ。相手してられないの。
赤パイ「どうした! お前に意志はないのか! 貴様ら連邦政府の腐敗が招いたこの戦いの結果が!」
准尉「…」
赤パイ「それでも貴様は武人か!」
24:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:55:21.11 ID:xY1P+zp5i
うるさいな。そういう主張したいならパイロットじゃなくて政治家、外交官とかになればいいだろ。
つか、お前らのほうこそ、最初地球圏に来たとき、ちょっと地球連邦政府が強気な態度に出たら
いきなり宣戦布告、統合政府中枢部の地球連邦への反乱とかどういう神経してんだよ。
それはあれだろ? お前らのところで兵器開発がすげー進んだからなんだろ?それで偉いやつが、もっと利権取れると思ったんだろ?
…中央集権への疑問とか、銀河連邦のなかでの地球の特権がどうだこうだっていう不満とか問題があるのは…
…まあ、わかるけどよ。。
25:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:57:15.96 ID:xY1P+zp5i
俺はコロニーに住んでたし、特権なんて感じたことねぇよ。大体戦争に大義もクソもあるか。
お前こそ、偉いやつが掲げてる大義とかいうやつに疑問はねぇのかよ。
俺はあるよ。でもごちゃごちゃいわねぇよ。なんでか教えてやりたいきもするけど、今は
ミサイル避けるのに忙しいから無理だよ。あと俺は 武人じゃないよ。公務員だよ。
つか、しゃべりながら戦うとかバカじゃねぇのかよ。真剣10代しゃべり場かよ。
あと語尾とか述語とかかちゃんとしゃべれよ。言葉切るなよ。ちゃんと聞いてるだけありがたいと思えよ。
赤パイ「貴様らの招いた戦いが!!」
ああもう
26:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 18:05:02.44 ID:xY1P+zp5i
准尉「だまらっしゃい!!! 人に話すときはミサイルとかビーム撃っちゃダメだってかーちゃんに習ってないのかお前は!!」
赤パイ「なっ…!?あwせdfrtghじゅl」
なおもなにか言ってくるけど、もうフル無視することに決めた。
??
交戦状態がある程度続いた。客観的にいうと、5対3という数的不利や、敵によくしゃべるエース級がいることを踏まえると、准尉たちはなかなかに善戦したといえるだろう。
が、やはり状況はきびしく、敵を落とせはしなかった。むしろ少しずつ被弾し、准尉の機体はダメージを
負っていく
赤パイ「ちょろちょろ逃げ回りやがって…! ん、そうか。艦の位置が特定できたか。
おいお前!! 次にあったときは必ず落としてやるからな!!」
27:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 18:15:36.64 ID:xY1P+zp5i
赤い機体は部下を率いて戦域を離脱していく。
ヒゲ「くそ!艦に直接攻撃する気だ! 追うぞお前ら!!」
准尉「了解!」
後輩「りょうかい!」
飛行形態に変形、すぐにあとを追う。しかし機体性能の差か、どんどん引き離されていく
例の赤い機体は大型のビーム砲を搭載していた。
あのビーム砲は対艦装備だろう。下手したら母艦が落とされるかもしれない。
ヒゲ「戦闘機リーダーより母艦へ! 敵がそちらに向かっている。迎撃体制をとってくれ!」
オペレーター子「了解しました!…。すぐに迎撃部隊を展開します!」
数分後
オペ子「すでに1/3の機体が被撃墜!状況は非常に危険です!
ヒゲ「くそっ!これじゃ俺たちが索敵、足止めした意味がねぇ!…俺が戻るまで、持ちそうか!?」
オペ子「現状では、とても…ですが、あの…主人公機が出撃準備に入っています」
31:ありがとう続ける!:2013/11/24(日) 18:26:33.24 ID:xY1P+zp5i
ヒゲ「なにぃ!? あれはパイロットがいないんじゃないのか?」
オペ子「いえ、例の民間人の少年主人公が艦に乗っているので…」
ヒゲ「それは地球の基地でパイロット登録を解除するためだろう?」
オペ「そうなんですが…。艦長の判断で、主人公くんに出撃を要請しています」
准尉「…」
完全に巻き込まれた形になってしまったわけだ。
たまたま居合わせただけだが、初戦で戦績を残してしまったがゆえにこうした事態になったわけだ。
主人公の戦闘は間近でみたことがある。
もしかしたら、彼が出撃すれば戦況は立て直せるかもしれない。
後輩「主人公、巻き込まれて可哀想っすよね。民間人なのに」
そうだろうか。
准尉の意見は少し違う。
33:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 18:31:00.46 ID:xY1P+zp5i
たしかに民間人が出撃せざる得ない状況になったのは同情する。
が、そもそも主人公機強襲事件のとき、彼はそのままなら確実に死んでいたはずだ。あのとき他に出ていた犠牲者のように。
が、主人公はたまたま近くにあった主人公機に乗り込み、生きながらえた。
これはラッキーといえるだろう。しかも軍用機を勝手に動かしたというのは本来なら犯罪だが、
これも不問にされた。それもラッキーだ。
まあそもそも襲撃に出くわした時点で不運で不幸だけど。
民間人を守るのが軍人の仕事なのだから、もちろん守りきれずにそういう状況を作ってしまった
准尉たち軍人にも責任はある。しかし軍人とて神ではない。能力には限界がある。
当たり前だけど、守りきれなかった人は、死ぬ。
犠牲を最小にするのは軍人の務めだけど、こぼれてしまうものは、ある。
そんななかで自分で力を行使し、生き残った主人公は恵まれている。
もちろん同情もする、謝意もある。
でも、それだけじゃない。
34:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 18:40:26.83 ID:xY1P+zp5i
准尉「…」
准尉はオープンチャンネル回線に接続し、主人公機と戦艦ブリッジの通信を聞いてみることにした
主人公「嫌ですよ! どうして僕が戦わなきゃいけないんだ!」
艦長「主人公くん、この艦には多くの人間が多くの民間人が乗っている。。それを今守れるのは
君だけなんだ!」
主人公「そんなの勝手だ…! 僕は、人殺しなんて、、」
艦長「主人公くん!」
主人公「あなたたちは卑怯だ!」
なにやら揉めているようだ。
准尉(…)
胸が痛かった。今俺は、間接的に、卑怯者の人殺しと呼ばれた。
色々な思いをもって飛んでいるけど、人殺しであることには変わらないし、
民間人の少年に戦いを望む卑怯者でもある。
36:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 18:51:20.40 ID:xY1P+zp5i
主人公「どうして僕がそんなことしないといけないんですか!?」
主人公はコックピットには入ったものの、出撃するつもりはないようだ。
准尉は主人公機との回線を切断した。
准尉(…速く! 俺が速く戻れば…!)
機体を加速させる准尉。殺人的なGがかかり、コックピット内にはアラートがやかましくなる。
制御を誤れば、機体がバラバラになりかねない。デブリにでも衝突すれば即死。
安全域ギリギリで機体を保ち、飛ぶ
ヒゲ「おいモブ准尉! 俺の後ろを飛べ! 二人でかっ飛ばすぜ!」
ヒゲもまた准尉と同じく加速する。准尉の前を高速で飛ぶ。
准尉にはありがたい。ヒゲは進路上の障害物を破壊してくれるし、また、ヒゲの通ったコースを
追うのが今の准尉には最速で飛行できる。後輩には悪いが、ここにおいて行く。
むしろ残ったほうが生存可能性が高いかもしれない。
37:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 18:56:38.02 ID:xY1P+zp5i
准尉「ヒゲさん! あれ!」
視界に母艦が入る。すでに味方部隊は過半数が撃墜されており、おそらくパイロットは戦死しているだろう。迎撃部隊にいたはずの相棒のことを考えずにはいられなかった。
ヒゲ「くそ! かなりやられてやがる! 行くぞ准尉!」
准尉の視界には今まさに敵機に捕捉されている味方機が映っている。
一緒に訓練した人かもしれない。毎日食堂でみかけるアイツかもしれない。
士官学校から一緒に頑張ってきた相棒かもしれない。
兵士A[う、うわあああああ!!助けてくれ!!」
准尉「間に合えーーー!!」
准尉は敵機に向けて一斉にガンポットを…
兵士「おかあさーーーん!!!!」
わずか一瞬、わずか一瞬だけ、准尉の放った弾が敵機に着弾するよりも速く、味方機はライフルの一撃で貫かれ、宇宙のゴミとなっていた。あれではパイロットも即死だろう。
38:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 19:00:26.93 ID:xY1P+zp5i
准尉「!…くそっ…!」
戦域はもはや壊滅的だった。
ヒゲ「しっかりしろ准尉!」
准尉「ですが…!このままでは…」
絶望感に准尉が諦めてしまいそうになったその瞬間
主人公「主人公、主人公機。行きます!!」
突如、母艦から白く輝く最新鋭機、主人公機が出撃した!
准尉「なっ…なんて速さだ…!」
ヒゲ「こりゃ地獄に仏だ! モブ!主人公機を援護するぞ!」
准尉「…なんで…」
ヒゲ「モブ! どうした!?」
准尉「…了解…!」
40:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 19:11:01.61 ID:xY1P+zp5i
主人公と主人公機は、圧倒的だった。つぎつぎに敵機を撃墜していった。
主人公機がビームガンを撃てば、宇宙に花火が次々と上がる。そんな印象だった。
美しかった。
圧倒的だった。
悩める青い少年の駆る兵器は、何よりも強く
敵のエースパイロットを渡り合った。
准尉「…すげぇ…」
憧れた。その力に。
素人の少年のその強さに。
通信を切ったあと、何かのやり取りがあったんだろう
そして、不本意ながら出撃したのだろう
何年も訓練して、勤めとして、全力を尽くす自分と
なんて違うのか、なんて華麗なのか。どうして自分は
ああじゃないのか
義務と責任感で戦う、「立派な青年将校」は
憧憬と、あともうひとつの感情を抱かずにはいられなかった
ヒゲ「こりゃ、すげぇ。さすが虎の子の主人公機だぜ」
准尉「…」
准尉があれだけ苦戦した敵の赤い機体にのったエースをも撃退した。
その際赤パイロットは「連邦にも骨のあるヤツがいるようだな…」とか言って撤退していった。
結果、戦闘は終了。母艦はなんとか戦域を離脱。多くの民間人が救われ、准尉もまた
命拾いした。相棒もまた、なんとか生き残ったようだった。死んでしまったのは
母艦を守るために出撃した、多くの同僚だけだった。
母艦にもどった准尉とヒゲ、後輩は戦死した同僚に黙祷し、しずかに床についた。
准尉はベッドに入ってもなかなか眠ることが出来なかった。
准尉「…なんで…だよ…」
そう呟くしか、なかった。
前編 「モブの苦悩」 完
49:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 19:49:26.76 ID:xY1P+zp5i
〜後日、地球の田舎町のバー〜
主人公機を輸送する戦艦はなんとか地球にたどり着きはしたものの、大気圏突破のさいの
敵からの攻撃を受け、突入ルートが大きく変わった影響で、本部までの長距離を地上移動することとなった。
母艦が補給のために停泊し、モブ准尉、ヒゲ、相棒は短い休暇を利用して近隣の町のバーに飲みに着ていた。
相棒「しかし、よくここまで無事でこれたもんやな! 主人公様様やで」
准尉「…そうだな」
ヒゲ「たしかにあの坊主はたいしたもんだな。でもな」
准尉「?」
ヒゲ「お前らも良くやった! ほめてやるぞ」
相棒「お、ありがとうございますわ。ってことは?」
ヒゲ「わははは。調子のいいやつだな。よし、今日は俺のおごりだ! いくらでも飲め」
相棒「よっしゃー!! お? 隊長! あそこにうら若き女性がいるであります!」
ヒゲ「ほーお。お前も飛行機乗りらしくなってきたな。よし行ってこい!」
相棒は久しぶりのオフでテンションが高い。ヒゲもまた部下をねぎらってくれている。
50:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 19:56:26.06 ID:xY1P+zp5i
准尉「…」
ヒゲ「おうどうしたモブ。無理につき合わせちまったか?」
准尉「いえ、そういうわけじゃ」
モブはヒゲのことが好きだし、一緒に飲むのも楽しい
しかも奢りだ。
…だけど、あまりはしゃぐ気持ちにはなれなかった。ここまでなんとか戦ってきた。
でも結果だけみれば主人公におんぶにだっこだ。役にたってないつもりはないけど、
それでいいのか。俺は、戦う責任があるんじゃないのか。
なのに、こんなんでいいのか。
激化する戦況、流されるだけの自分
頼りになる主人公
そういう思いが頭を離れなかった。
何人もの味方が死んだ。それは
ヒゲ「…お前はマジメだな」
52:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:17:05.33 ID:xY1P+zp5i
准尉「? 真面目、ですか?」
ヒゲ「ああ」
ヒゲはウイスキーグラスを傾け、氷の音を鳴らし、続けた
ヒゲ「お前は、ホントにイイヤツだよ。今どき、いない。
腕もいい、気合も入ってる。それに、俺と違ってキチンとしてるしな」
准尉「…」
ヒゲ「なあ、お前は何のために飛んでるんだ?」
准尉「俺は、軍人だから。公務員だから。誰かを守れれば、と思って」
ヒゲ「…そうか。お前が今、モヤモヤしてるのは、多分、だからだな」
准尉にはヒゲが何を言いたいのかわからなかった。
もちろん准尉にだってプライベートはある。でも、仕事として戦ってる今がある。
軍人である自分は、守るために飛ぶべきなのではないのか?誰かのために
それは間違ってるのか?
ヒゲ「お前が思ってることもわかるぜ。いや。むしろお前は偉いよ。
今どきお前みたいなヤツはいねぇ。俺の先輩世代には結構いたけどな
間違ってねぇよ。お前は。でも。それじゃ苦しいぜ」
いつも豪放磊落なヒゲにしては、今日はシックに飲んでいる。
あるいはそれは、モブ准尉のためだったのだろうか。
53:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:24:41.18 ID:xY1P+zp5i
准尉「…ヒゲさんは、なんのために戦ってるんですか?」
ヒゲはグラスに残っていたバーボンを一息に飲み干し、ニカッと笑って見せた
ヒゲ「俺か? 飛んだあとの酒と女が、格別だからだよ!」
准尉「…ははっ」
准尉はくったくのないヒゲの笑顔におもわず笑ってしまった。
みると相棒は、さっき口説きにいった女の子と楽しそうに飲んでいる
ヒゲ「ってなわけで、俺は今日も女のところにいくぜ。ここには馴染みがいてな
モブ、お前は今日は辛気くせーから出てけ」
准尉「えっ」
ヒゲ「ほれ。軍資金だ。好きにやれよ」
准尉「…ヒゲさん」
ヒゲ「なんだー!? 絡み酒につきあいてーのか?」
准尉「いえ! ありがたく。他で飲ませていただきます!」
准尉はぶっきらぼうなヒゲの優しさに甘えることにした。
55:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:29:09.51 ID:8NvU/02Ii
ヒゲいい人や
57:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:46:46.20 ID:xY1P+zp5i
店を出たモブ准尉はぶらぶらと町を歩いた。
ヒゲのいうように、すこし飲みたかった。パイロットでない自分として。
准尉「…あれ?」
すこし離れたところに、オペレーション担当の女性士官の姿が見えた。
なにやら男に絡まれているようだった。
チンピラ「いいじゃねぇか! ねーちゃん! ちょっと付き合えよ!!」
オペ子「こ、困ります! もう艦に戻らないと…」
チンピラ「モウ、カンニモドライナイト…かー! 可愛いねー!軍人さんにしておくには惜しいや!!」
オペ子は年齢より幼く見えるし、まあ、容姿もいい。それにしても
ああいうチンピラはどこにでもいるんだな。なんて思う。オペ子は本気で困っているようだった。何人かすれ違う男たちは、かかわりたくないのか、みんな無視している。
そりゃそうだ。ここは補給の街、工業従事者やらなんやら、あらくれ男は沢山いる。
准尉「…」
チンピラは結構体格がいい。いやかなりいい。過酷な肉体労働で鍛えられた体。
不満な境遇に飢えた精神。
うん。危ないな。そう判断した。
58:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:49:27.92 ID:xY1P+zp5i
見なかったことにして立ち去ろうとした。
が、やっぱりやめた。それは、カッコつけたいという気持ち、軍人の意地、ほんの少しの騎士道精神、オペ子に好かれたいという邪心、いい人でいたいという誇り。いろんな感情によるものだった。
准尉「おい。やめろよ」
オペ子「!? モブさん!」
チンピラ「なんだてめぇ!? かっこつけてんじゃねぇぞ!」
准尉「お前こそ、みっともない真似はやめろ!」
チンピラ「はぁ!? …あっ! おまえ! 軍人か!?」
准尉の制服に今更気づいたようだ!
准尉「だったらなんだ」
チンピラ「…ちっ…。こりゃ相手がわる…、お!? なんだお前、パイロットかよ?」
さらに階級章にも気づいたようだった。
准尉「…そうだ」
チンピラ「なんだ。驚かせやがるぜ。パイロットなんざ。イスに座ってボタンおすだけだろうがよ。軍人とかいうから、強いのかと思っちまったぜ! ヒャハハ!!」
准尉「なに…!?」
59:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:54:52.98 ID:xY1P+zp5i
准尉「なに…!?」
チンピラ「ほーれ!!(ブンッ!!)
准尉「!!??」
准尉はチンピラの一撃をなんとかかわした!
准尉「パイロットをなめんなよ。お前のパンチなんざミサイルに比べりゃ蚊みてぇなもんだ」
准尉とて数多くの空戦をこなしてきている。反射神経では一般人など問題ではない。
チンピラ「へーえ?(ニヤニヤ)おい! お前ら、エリートパイロットさんが相手してほしいってさ!」
准尉「?」
准尉を取り囲む複数のチンピラの仲間たち、さすがに、これは、どうしようもなかった。
バキッ!ゴカッ!
殴り飛ばされる准尉。これはやばい、とおもった矢先
オペ子「だーれーかー!!! たーすけてー!!!」
大声だった。
チンピラ「お、おい!」
オペ子「だーれーかー!! たーすけてー!!!」
なおも大声だった
あたりがざわつきだす
チンピラ「ちっ! もういい! 今日は帰るぞ! なんでいこのブス!!」
チンピラがさり、オペ子とモブだけが残された
オペ子「だ、大丈夫ですか…。すいません。わたしのせいで…」
61:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:56:30.59 ID:xY1P+zp5i
准尉「…いや。結局、なにも、出来なかったし」
本心だった。情けなかった。なにも出来なかった。
オペ子「そ、そんなことないですよ! 助けに入ってくれて、すごく、嬉しかったです!」
准尉「…」
出来なかった。たった一人の、同僚の女の子を守ることも。
出撃した数多くの、仲間の命を救うことも。
何度も攻めてくる敵を1人で撃退することも
オペ子「モブさんだけは、無視しないでくれて…。わたし、ホントにホッとしたんです。だから…」
准尉「…」
相棒と一緒に英雄になることも
ヒゲに認められるエースになることも。
恋人と添い遂げることも
主人公みたいに、強く華麗に飛ぶことも
なにも、出来なかった。
准尉「…うっ…あっ…ああっ…!」
涙が、止まらなかった。良く知らない女の子の前で泣くことが恥かしいことはわかっていても、とまらなかった。
65:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 21:33:46.44 ID:xY1P+zp5i
オペ子「…モブ…さん?」
准尉「…ごめん」
オペ子はすこし考えたそぶりをみせて、准尉の頭に手をあて、撫でた
准尉「?」
オペ子「いいんです。なにがあったのかは、知りませんけど。
准尉さんは、頑張ってますよ。わたし、知ってますから…いい子、です」
准尉「…ごめん」
オペ子「ん! それよりですね! さっきの人、わたしのこと、ブスって言ってましたよね!? ひどいです!」
准尉は涙をぬぐって、力なく笑った
准尉「負け惜しみだよ。だって君はどうみても可愛い」
オペ子「え?」
准尉「ごめん。口が滑った。ヒゲ中尉の影響で」
オペ子「あはは」
二人ですこし笑って、そして何事もなく、別れ、帰った。
たったそれだけ、でもモブには大事な、夜だった。
66:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 21:35:15.45 ID:xY1P+zp5i
〜数日後、沙漠地帯〜
准尉たちの艦は地球連邦本部に向かうべく、沙漠地帯を横断する途中だった。
相棒「ふぃー あちぃなぁ。モブ」
准尉「沙漠だから当然だろ」
相棒「に、してもこのコックピット、暑すぎやろ」
准尉たちの量産機には旧式のエアコンしか配備されていない。
そんな予算はないからだ。
相棒「主人公機がうらやましいわー。エアコンギンギンやで」
准尉「…仕方ねぇだろ。お前主人公ほど、役にたつのかよ」
相棒「あちゃー、それ言ったら仕舞いやないか。ま、せやな。我慢するわ」
准尉と相棒は危険地帯の横断に備え、コックピットないで待機していた。
もう3時間になる。そうするとムダ話くらいしか、やることがない
相棒「なあモブ。昨日のテレビみたか? 木星圏のコロニーにあたらしいアイドルグループできたんやって」
准尉「へえ。あれか? MAR48だか、ART48だか、MOO48だかその仲間か?」
相棒「せやせや。JUP48言うんやって。めっちゃ可愛かったわーディスク買ってもうたわ」
准尉「へー。面白そうだな。今度かしてくれよ」
相棒「ええで!」
准尉「お前は楽しそうだな。…な、お前、ってさ、なんで軍にいるんだ?」
相棒「なんやいきなり」
准尉「興味本位だよ」
67:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 21:36:20.78 ID:xY1P+zp5i
相棒「せやなー。ま、俺はなんだかんだ地球統合政府の文化が好きやからなぁ、銀河連邦のなかでも。無うなったら、嫌やん?」
准尉「…へぇ。言い切るなんて意外だな。守るため、みんなのために。ってことか?」
相棒「そらちょっとちゃうなー。俺はな…」
相棒の言葉の続きを聞くことはできなかった
ビー! ビー!! 敵襲のアラートが鳴り響く
相棒「おっと、敵さんや! 話はあとやな!」
准尉「ああ。死ぬなよな」
相棒「アホいえ。お前こそ死ぬんやないで!」
准尉と相棒は熱砂の沙漠に出撃した!
69:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 21:38:52.50 ID:xY1P+zp5i
准尉「敵機は10! 沙漠走行カスタムの陸戦機6! 空戦機3!隊長機らしき
カスタム機1!」
相棒「こら、景気いいなー。敵さん!」
オペ子からの指示が飛ぶ
オペ子「敵機はこちらの兵力を圧倒しています! なるべく時間を稼いで、主人公機の沙漠対応換装が終わるまで、持ちこたえてください!」
相棒「レイブン2!了解や!」
准尉「レイブン1了解。」
主人公機は砂漠に対応できる準備が整っていない。最新鋭機だけに
準備にも時間がかかるのだ。
その間は、准尉たちが敵を抑えるしかない。
准尉「…強そうだな…」
ふと、オペ子の通信がレイブン1、モブの機体にだけ入ってくる
オペ子「あ、あの! 頑張って、ください! でも、あんまり無茶はしないで…」
必死な口調にすこしだけ、ココロが落ちつく
准尉「了解! レイブン1、これより敵機のけん制に…なにっ!?」
准尉が言葉を遮ったのは、モニターに信じがたい情報が入ったからだ
准尉「主人公機、出撃…だと!?」
通信を開いて声を拾う。
主人公「僕が行けばいいんでしょ! この機体を扱えるのは僕だけだし、
けん制部隊もどうせもたない。だったら!」
モブは艦のカタパルトデッキに目をやる。たしかにあの純白の機体が出撃してくる
72:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 22:16:22.86 ID:xY1P+zp5i
館長「やめたまえ! 主人公機はまだ、砂漠仕様への換装が…」
主人公「そんなの待ってたら落とされますよ! これまでだって、僕がいなければ…!
それに、あの隊長機に乗っている人は…!」
なんでこいつらは述語を言わないんだろう。
と冷静に突っ込むかたわら、准尉は混乱していた。
宇宙戦仕様の機体が換装なしで、砂漠での戦いができるものなのか?
また、敵の隊長機に乗っている指揮官は主人公の知り合いなのか。何故?
命がけで戦う准尉や、懸命に作戦を検討した艦の士官をすべて無視していいのか?
それもこれも、主人公だから、天才だから、それでいいのか。
相棒「モブ! どないする!?」
准尉「…」
考える。もういい。出撃してしまったものは仕方ない。
だが、砂漠対応モデルに変更していない主人公機では、戦闘は不可能だ。
下手をしたら、砂に脚をとられて身動きとれないところを滅多打ちだ。
そんなことは許されない。
73:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 22:17:53.17 ID:xY1P+zp5i
あの機体を作るのに心血を注いだエンジニア
機体をここまで運ぶのに命を散らした兵士たち
その決定をするのに心を砕いた政治家や軍幹部
それらの給金を税として納めていた民間人。
みんなみんな、この戦いから自分や大事な人を守るために、と
この戦いに活路が見えると、そう信じて、たくしてきた思い
彼らの思いが壊されることがあってはならない
すくなくとも、一人の天才主人公の暴走で、それが壊されることなんて
あっていいはずが、ない!!!
75:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 22:20:47.63 ID:xY1P+zp5i
准尉「主人公機を守るぞ! あれが落とされたら、俺たちにはなんの意味もない!
レイブン1より本艦へ! イレギュラー発生。レイブンリーダー、およびレイブン3の出撃を
要請します!」
ヒゲ、そして後輩の出撃を要請した。
艦長「了解した。出撃を許可する。主人公機をここで失うわけにはいかない…
頼むぞ!」
後輩「りょーかいっす!!」
ヒゲ「A-OK ボス! イヤッホーゥ!!」
実直に、豪快に出撃する両名。一方、主人公は砂に足をとられ、身動きが取れなくなっていた
主人公「な、なんで!?」
准尉「…」
なんでじゃねーよそういう話だっただろうよお前何聞いてたんだよこの不利な状況でさらにお前守るのかよこれで誰かが敵に落とされて死んだらお前どうするつもりだよ。
そう、思わずにはいられない、が。
准尉「レイブン1!これよりスペシャル1を援護する!」
敵機が迫りくる主人公機に機首を返し、ブーストを限界ギリギリまで加速させる
准尉(あたるといいな)
ミサイルを連射、ガンポットも連射、それなりに敵機にも被弾する、が
落ちない。
それはそうだ。こっちの武装は所詮旧世代の量産型。
76:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 22:22:08.91 ID:xY1P+zp5i
相棒「だったら…。落ちるまで、ぶち込むだけやああああああっ!!!」
准尉「相棒! 突出しすぎだ!」
相棒「アホォ! 無理せんで、あれが守れるわけないやろ!」
准尉「…ちっ」
相棒ははブーストをさらに吹かす!
そこに敵機のライフル弾が迫る!
相棒「なめたらあかんぞコラァ!!」
相棒は機体をスパイラル回転させ、これをかわす
みればわかる。あれには殺人的なGがかかっているはずだ。
そしてもちろん、機体の限界を超えている。
准尉「やめろ相棒! おまえ、死ぬぞ!!」
相棒「…ちぃっ!」
相棒は減速しつつ、放熱で銃身が壊れるほどの銃弾を放った!
敵機を2機撃墜。すこしは主人公機の助けになったはずだ。
准尉もまた、敵機の弾幕を加減速や旋廻を駆使してかわし、接近する
准尉「…!!」
それでも迫ってくるミサイルには、飛行形態から人型形態に変形し、手にしたマシンガンで打ち落とす!
こういうとき、よく主人公は喋れるよな。俺は戦うだけで精一杯だ。なんて思いながら。
81:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 22:56:21.08 ID:xY1P+zp5i
准尉「…」
さらにミサイルを発射、敵機を足止めする。
ピコーン!
不意に敵機の隊長機らしき機体から全方面通信が入る。
隊長「やはり君が主人公機のパイロットだったのか!」
渋いオトナの声だ。動きをみても、超凄腕の歴戦の兵であることがわかる
主人公「アナタは…! 何故、こんなことを…!」
隊長「それが私の義であり、志だからだ!!」
主人公「アナタが戦うことを、隊長の女さんは望んでいないのに!!」
隊長「彼女はわかってくれるさ! 私の生き様を!」
主人公「そんなことは!」
隊長「君こそなんだ? 大志もなく、流されるままに!!」
主人公「!!」
隊長「投降したまえ、彼女も君のことを!
それともあくまで決着を望むかね?」
主人公「僕は、戦いたくなんか…!」
なんとか砂漠の足場に慣れてきた主人公、機体の調整なしで戦えるのはやはりすごい。
そんな主人公と敵の隊長機はハイレベルの攻防を繰り広げている。
准尉「…」
それにしても、どうして、言葉を切る。
82:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 22:57:37.65 ID:xY1P+zp5i
相棒「なんや知らんが、食らえや!」
そんな激戦に、相棒が急降下爆撃を仕掛ける!
隊長「このような人が死ぬ戦でも!」
隊長機がビームを放つ、空中に。決闘を妨害する無粋な虫を追い払うように。
無慈悲に。こともなげに、
主人公「それなのにアナタは!」
隊長の放ったビームが相棒を貫く。爆散する相棒機
准尉「あ…」
隊長「これが戦いというものの本質だというのだ!」
主人公「…うわああああああっ!」
主人公機が突進し、隊長機に近接戦闘用のビームサーベルを突き刺す!
隊長「…くっ…。私は、ここまでか。。だが、主人公くん、君は、これから、
どうする、つもりかね。その力を、思いなき、その力を、君は…」
火花が散る隊長機。もう爆発するだろう。それを受け、敵部隊は撤退
主人公「僕は、殺したくなんか…戦いたくなんか…うわああああっ!!」
戦場には主人公の叫びが響きわたった。
でも、
モブの耳には、何も、聞こえなかった。
84:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 23:01:40.43 ID:xY1P+zp5i
主人公のまわりで、なにかドラマが展開されているらしいのはわかったが、それを
理解する気もしなかった
信じられなかった。
アイドルと串カツが好きで、いつも一緒で。乱暴ながら腕前は確かな。
いつも隣で飛んでいた相棒が、死んだことが。
何のドラマもなく、最期の言葉もなく、
託した思いもなく、ただ、死んだことが。
86:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 23:36:19.72 ID:xY1P+zp5i
〜後日〜艦内、機体ドッグ〜
後輩「あ、モブさん! こんなところにいたんすか?」
准尉「ああ、後輩か。どうかしたか?」
後輩「いえ、なにか、ってんじゃないんですけど…」
後輩はこうみえて結構気を使うほうだ。なんとなく、いいたいことはわかる。
准尉「後輩、俺は大丈夫だよ。相棒も、俺が沈んでても、嬉しくないだろうしな」
後輩「あ、い、いや。そう…っすか…。あ、いや!俺、バカですけど、話くらいなら聞けますし
飲みにも付き合いますから」
准尉「ああ、ありがとう。でも本当に大丈夫だ。やっと本部に着いたし、しばらくオフだしな。
普通に今度のみにでも行くか?」
後輩「はい…。とことん行きましょう」
相棒が死んだ。そのことはショックだった。とてもとても、悲しかった。しばらくはメシも
食えなかった。ヒゲさんに無理やり食わされたが。
でもいつまでも沈んではいられない、アイツだって辛気くさい俺は嫌だろう。
墓も建てられなかったけど、アイツの機体の操縦桿の破片を回収して、眺めがいいところに埋めてやった。
アイドルのディスクを傍らに、好きだったスコッチもそえて。奮発してジョニーウォーカーの青にしてやった
准尉「あーあ。なんか…わけわからなくなっちまったな」
後輩が去ったあと、おもわず口にする。
87:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 23:37:20.23 ID:xY1P+zp5i
と、いうのも、理由がある。相棒が死んだことも一つ。もう一つは、主人公が艦から脱走してしまったことだ。
先の戦いで、どうやら主人公も精神的なダメージを受けてしまったらしい。
戦うのが嫌になったのか、脱走してしまった。
まあ、それ自体はいい。無責任だ、とかこれまでの仲間の死をなんだと思っているのか、地球の最近の被害を見ろ。こんなにも被害が出ているではないか
と言う人もいる。でも彼はもともと民間人だし、戦う義務はない。
これまで助かったけど、それはあくまでラッキーなだけで、機体さえあれば、それを本部に届けるだけだ。
だから、彼を怨む気持ちはそれほどない。
でも、わからなくなってしまった。
いや、動機は変らないはずだ。自分は軍人で、公務員で、誰かのために戦う。これは状況によってはかわらないはずだ。輸送任務が終わって、オフになって、すこし気が緩んでいるだけなのだろうか。
なら。この胸にある空虚な気持ちはなんだろう。やらなくちゃいけないのはわかってる。
やる義務がある。でも、強い気持ちが、わいてこない。
准尉「ま、せっかくのオフだしな。二週間か…何すっかな」
88:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 23:39:26.45 ID:xY1P+zp5i
准尉はこれまでの激闘のこともあり、本部近くの町のホテルを貸し出され、しばらくは自由の身になれる。
最期に機体に感謝の挨拶をしに、ドッグに立ち寄ったが、このあとはフリーだ。
准尉「とりあえず、艦から出るか」
准尉は艦から出て、ホテルに向かうことにした。途中、ヒゲに出会う
ヒゲ「よう! しばらく街にいるんだろ?」
准尉「はい」
ヒゲ「なら今度俺んちでメシでもどうだ。カミさんのメシはなかなか旨いぞ」
准尉「そっか。ヒゲさんはこっちに家があるんでしたね」
力なく、笑うモブ
ヒゲ「おう。…お前、そうか。きつくなったか。公務員生活が、よ」
准尉「…かもしれませんね」
ヒゲ「いいんじゃねぇか。やめちまっても、よ」
准尉「え? で、でも」
ヒゲ「奨学金だの、これまでの義理だの、民間人のためだの、いいじゃねぇか別に。しんどいよな飛ぶのは。辞めちまえよ」
准尉「…」
意外だった。この飛行機乗りであることに誇りをもつ男が、そんなことを言うなんて。
情けないな、くらい言われるかと思っていた。
89:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 23:40:33.48 ID:xY1P+zp5i
ヒゲ「ん?どうした? 別に辞めたって俺の後輩であることにかわりはねぇぞ」
准尉「ヒゲさんは、飛ぶんですか?」
ヒゲ「当たり前だろ!」
まるで、猛禽が人の形を取ったかのようなこの男は、歴戦の猛禽は理不尽でも、しんどくでも、飛ぶ、という。
一方、猛禽を上回る力をもった天才は脱走した。そのどちらでもない自分は
准尉「なんで、ですか?」
ヒゲ「あっはっはっは!!! それはだな! 俺が! 飛行機乗りだからだ!!」
准尉「…はぁ…」
准尉には意味がわからなかった。
92:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 00:39:01.13 ID:xY1P+zp5i
ホテルに入った准尉はひさしぶりに、くつろいだ。
テレビをみて、風呂に入って、両親や妹に電話した
年老いた両親や妹は、月のコロニーで暮らしている。
太陽系内は地球統合政府の管轄なので、銀河連邦内の紛争であり、他星系の勢力からの
軍事的圧力である今回の戦争では、守るべき対象だ。
父「あい。モブ。元気ねー? ぱいろっとは大変してないかねぇ?」
おう、モブ。元気か? パイロットの仕事はちゃんとやってるか?
母「あんたよー。彼女と別れたって? はっさよー。大変さぁ。お母さん心配であるよー」
※モブ、彼女と別れたらしいね。ああ、なんてことでしょう。お母さんは心配だよ
妹「にーにー、地球に行ってるから ちんすこうショコラ買ってきたらいさー」
お兄ちゃん、地球にいってんでしょ? お土産にちんすこうショコラかってきてね
沖縄エリア出身なだけあって、方言が抜けていない。すこし笑ってしまう。
妹「にーにー。なんで笑ってるばー?」
お兄ちゃん、どうして笑うの?
准尉「お前、方言ひどすぎだろ。月にすんで何年だよ」
母「いいさー別に」
93:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 00:40:03.52 ID:xY1P+zp5i
母「いいさー別に」
准尉「はいはい。どうよ。月の生活は?」
父「ジョートーさー」
不満はないよ
准尉「そりゃよかったね。元気そうで何より。じゃ、俺、風呂はいるから」
母「はっさ、あんたよー。ひさしぶりなのになんでねー?」
あらまぁ、モブ。久しぶりに話すのにどうしてそんなにすぐ通話を切るの?
元気そうで何より、というのは本心だ。あの平和な家族は平和でいて欲しい。
准尉はつけっぱなしのテレビに目線をやってみた。
相棒の好きだったアイドルが、歌っている。
准尉「…へー。結構いいんじゃないの。ま、俺は○○の方が好きだけどな」
○○もまた、地球圏内の女優だ。
ふと、携帯にメールが入っていることに気づいた。
オペ子(こんばんは! しばらくオフですね! すこし気晴らしがしたいです。
今度ゴハンとか行きませんか?)
そう書いてある。やっぱりちょっと、
いやかなり嬉しい。
94:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 00:46:22.61 ID:xY1P+zp5i
モブは返信を打った後ベッドに入って考えた
この戦争は、要するに、中央集権に対する地方からの不満の表れだ。
銀河の果ての人々が、その高い軍事技術を持って、中央集権制を変えようとしている。
それは悪いことなのか。
それは一介のパイロットであるモブの考えることではないけど、それでも
全人類が地球にいたときから見られる構図だ。士官学校でならった戦史講座にはよくあった。
多分、この戦争の勝敗に係わらず、銀河連邦の地球中央集権は瓦解していくはずだ。反乱があった時点で、それは確実なのだ。
戦後の情勢で、どれだけ現在の敵勢力が権限をもつのか。これはそういう戦争だ。そういう戦争のはずなのだ。地球を滅ぼせるはずがない。それは、軍事力の問題ではなく、利益の問題だ。
しかし、最近の敵軍の攻撃はあまりにも激しい。まるで、地球を滅ぼそうとしているようだ。
それが実現すれば、デメリットのほうが多いのはわかりきったことなのに、それでもとまらない。
おかしい。これではまるで、敵軍の司令部に、破滅主義者がいるようにも見える。
考えれば考えるほど、そういう結論になる。
准尉「…はーっ…」
95:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 00:50:32.83 ID:xY1P+zp5i
准尉は戦ってきた。公に責任のある士官として、だが、その意味は?
この戦いが終われば、その勝敗に係わらず現在の政治体制はかわり、基盤が変る。
そうしたら公務員の果たすべきとされた勤めの意味は。価値は?
准尉「わかんねぇよ…相棒…ヒゲさん…」
准尉はそう1人ごちて、眠りについた。
〜後日、街中〜
オペ子「すいません。今日は付き合ってもらっちゃって」
准尉「いや、俺も暇だしね。メシはどこ行く?」
オペ子「ふっふっふ! じゃーん! リサーチ済みなのです! この近くに美味しい金星料理のお店が!」
おもむろに芝居がかった調子でフードマップを広げるオペ子。
准尉「…」
オペ「あ、あれ? すいません。はずしちゃいましたか?」
准尉「いや。ありがとう。好きだよ。金星料理。なんだっけあれだよね。旧世紀のイタリアエリアみたいな
感じでしょ。行こう」
96:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 00:52:55.40 ID:xY1P+zp5i
〜ダイニング〜
オペ子「モグモグ…へー。モブさんは沖縄エリア出身なんですかー。私はですね。カリフォルニアです」
准尉「ほー。なんかイメージ違うね」
オペ子「?そうですか?」
准尉「なんかこう。バーン! みたいな感じじゃないの? カリフォルニアガールって」
オペ子「なっ…!」
会食は楽しかった。久しぶりに食う金星料理のパスタやピザは旨かった。
その後は散歩しつつ、公園についた。星が奇麗だった。
てくてくと歩く二人
不意にオペ子が口を開いた。
オペ子「…あの、モブさんって、最初に話たとき、すごくつらそうでした、よね」
准尉「…んー…」
オペ子「なにが、あったんですか?」
准尉「いやぁ…」
オペ子「…話したくなったら、いつでも話してくださいね」
准尉「…うん」
なんだか、すこし気が緩んだのかもしれない。モブは自分のことをいくつか話した
軍を辞めようかと思っていることも含めて
97:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 01:01:09.14 ID:xY1P+zp5i
オペ子「…モブさんは、もっと自分の心の声を聞いたほうがいいと思います」
准尉「?」
オペ子「一生懸命だから。大事な、すごく大事な自分の気持ちに気づいてなくて、だから無理してる…んじゃ、ないかな。なんて…。だって、いつも、つらそうです…。がんばりすぎなんじゃないですか?」
准尉「そりゃ、まあ。そこそこの腕前なのに、トップガンレベルの作戦に参加してたし、
天才じゃないしね。そりゃ無理もするよ」
オペ子「違います。そういうんじゃないんです。モブさんはきっとがんばれる人なんです。
今、つらいのは、きっと…」
准尉「…ヒゲさんにもよく意味のわからないこと言われたな。そういえば」
オペ子「きっと、その答えは、知ってると思いますよ。聞いてみるといいです」
准尉「誰に?」
そのとき、爆音が響き、警報のアラームが鳴り響いた!
思わず、通信端末を表示し、状況を確認する二人
オペ子「敵襲…ですね…」
准尉「くそっ。主人公もいないってのに!」
98:誰もおらん?さびしかよ:2013/11/25(月) 01:13:33.10 ID:xY1P+zp5i
オペ子「本部が落とされたら…!」
統合本部には戦略兵器がある。
太陽系内のどこでも、攻撃できる手段が。
それが奪われたら。
沖縄も、料理の旨い金星も、そして家族のいる月も。
危険に迫られる。
准尉「待機してないときに! オペ子さん! 早く避難を!ここならすぐにシェルターが…!」
オペ子「! モブさんは!?」
准尉「俺は艦に戻って出撃する! 非番だろうが見過ごせない!!」
非番であり、かつスクランブルも出ていない。出撃義務はない。だからオペ子には非難を命じた。
しかし自分は違う。パイロットとして、できることをやらないといけない
走り出そうとする准尉、その手をオペ子が掴む。
オペ子「…ダメ…です!」
必死な顔だった。
准尉「なんで!?」
オペ子「このまま、行ったら、きっとモブさんは、もっとつらい思いをします…!死んじゃうかもしれない…!」
准尉「俺は軍人だぞ!」
オペ子「モブさんは、モブさんだから…きっと今、行かなくちゃいけない、って思ってますよね…
准尉「ああ」
99:とりあえず続き ◆0C01EP2p7U :2013/11/25(月) 01:21:32.44 ID:xY1P+zp5i
オペ子「それじゃダメです。そんなモブさんが好きです。けど…」
さらりと告白された。だが今はそれどころじゃない。上空には迎撃部隊が閃光と消える姿が見える。
准尉「けど…?」
オペ子は爆風で乱れる髪を押さえ続ける
オペ子「モブさんは、なんのために…ううん。『どうして』と飛ぶんですか…?」
どうして?
なんのために、と聞かれれば答えられる。義務のために、民間人をまもるために、
義理を果たすために。それが答えだ。
でも問いかけは違う。『どうして』 答えに、つまる。
オペ子はにっこり笑って見せた。月明かりに照らされた瞳が、印象的だった。
准尉「だから、聞いてみてください」
准尉「誰に?」
オペ子「ここに」
オペ子は准尉の胸を人差し指でつつく。くすぐったいような。熱いような、何かが、胸にともった。
101:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 01:26:16.57 ID:xY1P+zp5i
目をつぶって考える色々なことが頭をよぎる
ヒゲ(飛んだあとの酒と女が格別だからな!)(俺は飛行機乗りだからな!)
相棒(そらちょっとちゃうなー。俺はな…)
赤パイ(それでもキサマは武人か!)
主人公(僕は戦いたくない!)
敵隊長(私の生きざまを!)
准尉「………俺は…」
准尉は閉じていた目をひらいた。戦場とかした空を背景に
その瞳には、これまでとは違う。炎があった。
オペ子「うん?」
准尉「わかった。俺が、飛ぶ理由が」
准尉は胸を触っていたオペ子の手を握り、離す
オペ子「…そう、ですか…。じゃ、仕方ないですね。今度、聞かせてくれますか?」
准尉「ああ。あの赤いヤツと君には、ぜひとも」
そういって、准尉は駆け出した
オペ娘「死んじゃ…いやですよ!」
オペ娘はその背中に、想いをのせた言葉をかけ、
自信もまた、避難民の誘導にあたった
102:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 01:28:45.29 ID:xY1P+zp5i
艦に戻り、出撃許可を得て、カタパルトデッキに入る
となりのドッグですでに出撃準備にはいっていたヒゲがコックピットごしに
こちらを見て、眉をくいっとあげ、親指を立てる
「ようこそ、こっち側へ」
そういっているように見えた。
カタパルトデッキから戦況を見る。例の敵の赤いヤツもいる。
准尉「システムオールグリーン。出力安定」
何人もの兵が戦っている。
准尉は最新鋭機には乗っていない。超人的な操縦技術もない。
准尉「装備弾数クリア、航路確認」
この戦況を一人でどうにかできたりなんてしない。
モブはモブでしかない。
准尉「戦術スクリプトOK、スタンバイ」
それでも
モブ准尉「モブ! イレブン1!出撃!!」
モブはただの量産機を駆り、激戦の空へ挑みかかった!
その翼にはこれまでと違う想いを乗せて!!
中編 完
123:おもむろに再開:2013/11/25(月) 19:22:07.47 ID:xY1P+zp5i
出撃した准尉の視界には一面の戦場が広がっていた
准尉「うわぁ…」
ホントはここで、面白じゃねぇか(ニヤリ)とか出来たらかっこいいのはわかってるけど
無理。やれることを、やるだけだ。
准尉「レイブン1、これより迎撃に入る!」
准尉は艦の指示通り、戦闘エリア東へと回り込み、敵航空部隊への迎撃を開始した。
准尉「…」
本部へ接近してくる部隊へむけて、けん制の射撃を繰り返し、押し戻す。
あたらなくたっていい。
相手が避けようとしてくれれば、それだけで守りの意味がある。
ときおり、弾幕を突破した敵の弾が准尉の量産機を襲う
准尉「…」
125:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 19:24:21.55 ID:xY1P+zp5i
その都度、准尉は操縦桿を引き絞り、体を襲うGに耐え、安全稼動域ギリギリの繊細なコントロールを行う。
ロール、ピッチ、
准尉「…!」
変形、チャフ、
准尉「…ふっ!」
急加速、逆噴射
准尉「…らっ!!」
持ちうる技術を総動員して、敵弾をかわし、けん制の攻撃を放ち続ける!
意味のある言葉を発する余裕などない。たえず機体周りの状況に目をやり、
神経を研ぎ澄ます。切れるような殺気をそらし続ける。
ときおり、隙をみつけては反撃。
126:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 19:31:34.60 ID:xY1P+zp5i
准尉「……!(あたるといいな)」
ハイスピードでめまぐるしく動く視界のなか、なんとかかんとか、一瞬だけロックオンレティクルが敵機に重なったタイミングで、トリガーを絞り、ミサイルを発射。
元々、攻撃はそんなに得意じゃない。
士官学校でも、入隊後も、評価では「丁寧な機体コントロールと繊細な動きが良。攻撃に難あり」
との評価を受け続けただけのことはある。
思わず笑ってしまいそうになる。ウソだ。そんな余裕はない。
顔芸もかくや、と思わせる必死の形相で、それでも丁寧に丁寧に。命をかけて、飛ぶ
127:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 19:39:39.05 ID:xY1P+zp5i
ヒゲ「オラアアアアアッ!!!」
ヒゲはヒゲで、命などいらぬと思っているかのような強引な突撃と攻撃を繰り返し
すでにかなりの数を撃墜している。
准尉「…すげ」
実際には20分にもみたない交戦だったが、准尉にはまるで2日間は戦っているような錯覚にとらわれる。
意識が遠くなりそうになる。
戦況は、ほぼ互角。硬直状態に陥ったか、そう思われたそのとき。
赤パイロット「ダラダラと粘りおって! 俺みずからが引導を渡してやる!!」
弾幕をかいくぐり、敵軍のエース級のひとり、赤いワンオフ機を駆るあの男が戦場に姿を見せた!
真紅の流星が、戦場を貫き、その軌道上の味方機は次々とスクラップへと変わっていく。
准尉「…あいつは…!」
129:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 19:56:08.84 ID:xY1P+zp5i
ヒゲ「!ヤツはやべぇぞ!! モブ! お前のエリアから突破しようとしてやがる!気をつけろ!!」
准尉(…まーじでー…?…)
赤パイ「ふはは!!もろい!柔いぞ! 統合軍!!」
すさまじいスピードで戦場に飛来する熱源が、レーダーに反応を見せた
赤機は准尉の完全に迫った!
准尉「…」
無言のまま、ミサイルを発射する准尉
赤パイ「甘い!」
ミサイルのすべてを、手にしたビームサーベルで切り落とす赤パイ
131:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:12:33.21 ID:xY1P+zp5i
赤パイ「統合軍には武人は一人もいないのか? 大志なき者が!職業軍人の努めとして戦うだけのものが! たかが公僕ふぜいが!この俺を止められと思うかあああああ!!」
相変わらずよく喋るヤツだな。つーか公務員バカにすんな。お前役所の世話になってねぇのか。
准尉「…」
准尉はつづけてガンポットを発射
軽く避けられる。
そして、攻撃後の准尉機の硬直、そこを狙って、こちらにライフルを向ける赤機
運がなかったな。やっと、飛ぶ理由がわかったのに。
そう思わずにはいられない、ただ、悔しい。凡人であることが、自分が、ただの、その他大勢の凡人であることが。
死ぬのか、俺は死ぬのか。
勿論死ぬのは、嫌だ。でもそれ以上に、なにもできないままでいることが、嫌だった。
意地を、見せたかった。かなわないのか。ひとかけらの意地を、見せることもできないのか。
悔しい。悔しくて、たまらない。嫌だ。
死ぬのは嫌だ。そして、なにも出来ないのは、死ぬほど嫌だ。
赤パイ「さらばだ!」
赤機の放った弾が眼前に迫る!!
―そのとき!
132:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:27:33.76 ID:xY1P+zp5i
一筋の疾風がはるか上空から吹いた。
なにが起こったのかわからない准尉。だが、生きている。
眼前には純白に輝く機体がある。その機体が、自分を守ってくれたようだ。
一瞬遅れて理解する。
ああ、英雄は、主人公ってのは、
やっぱり、違うな。
主人公「僕は…、もう逃げない! 世界中の、涙を、止めるために!!」
主人公機は人型形態を取り、翼に似た形状のバーニアを展開し、空に立ちふさがっていた。
ビームサーベルを抜き、凛と構えてみせる。
威風堂々たるその勇姿は、まぶしかった。
なにがあったのかは知らない。多分なにかまた劇的な出来事があって、それで決意を決めたんだろう。
かっこいい。
世界中の涙を止めるだって?
すげぇ、パネェ。
訓練をうけたわけでもない少年が。
133:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:35:51.53 ID:xY1P+zp5i
赤パイ「出てきたな、主人公!! 今日こそは貴様をーーー!!!」
主人公「そこぉーーーーーっ!!」
剣光一閃!
赤パイ「な、なに!? バカな!?」
一瞬にして脚部と頭部を切り離された赤機
主人公「これであなたはもう戦えない! 撤退してください!!」
赤パイ「ふざけるな!」
そこにあらたに通信が入る。貫禄のある、それでいてどこか壊れた印象を与える声だった。
??「赤パイ。ここは引け」
赤パイ「しかし!ボス様!!」
ボス「私のいうことが聞けないのか。統合政府を滅ぼす機会は再びある。ここは引け
我らの大義のために」
赤パイ「…はっ!!」
赤パイは撤退していった。
結局、統合軍本部の戦いは、主人公の出現により、戦況がいっぺんし、
地球統合軍が、本部の防衛に成功した。
ドッグに戻った准尉は…
134:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:38:29.77 ID:xY1P+zp5i
准尉「…」
オペ子「あ、おかえりなさい! モブさん、無事で良かった…!」
オペ子は戦闘の途中から艦に戻っていたが、モブの帰艦を確認し、ドッグまで駆け寄ってきてくれていた。
准尉「…ああ、ありがとう」
准尉は笑顔は見せなかった。
オペ子「…モブ…さん」
オペ子もモブの戦闘をみていたのだから、赤機にやられそうになって、主人公に助けられたことも知っている。
あのときのように、ふがいなさに涙を流すのかな、と心配されたのかもしれない。
が
違う
135:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:42:06.40 ID:xY1P+zp5i
准尉「…」
オペ子「モブさん、大丈夫…ですか?」
准尉「うん。大丈夫だよ。俺は」
もう、涙は流さない。ふがいないのはわかってる。凡人なのもわかってる。
でも、このまま終わるわけにはいかない。
飛ぶ意味がわかった。これからは迷いなく飛べる。
主人公は世界中の涙を止めると言った。赤いパイロットは、信じる理念と大義のため、腐敗した統合政府を討つと言った。
俺の、飛ぶ理由は、それにくらべたらちっぽけだ。身の丈にあった、ちっぽけなものだ。
でも、自分で決めたことで、たとえちっぽけでも、そのために覚悟を決めて翼を持った。
なら。
准尉「このままじゃ、終わらせない。意地を、見せてやる。」
悔しさに心が乱れているのは同じ、今も悔しくてたまらないでもあのときとは違う。
俺は弱い、でも弱さを認めた。それでも進む
136:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:48:20.55 ID:xY1P+zp5i
モブの瞳には、迷いはなかった。
オペ子「…もう…男の子だなぁ…」
負けて悔しがり、新たに決意を固めるモブの顔に、頼もしさを覚えた。
それは、英雄を見る民衆のそれではなく、もっと身近な。たとえば、頼れる隣人に対する。
ちっぽけで、でも大事な信頼だった。
137:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:50:04.08 ID:xY1P+zp5i
統合本部防衛線から二週間後、戦争は最終局面を迎えていた。
辺境軍は地球圏内、月の裏側に母艦及び艦隊のワープを敢行、全面攻撃の構えだ。
それをうけ、地球統合政府も戦力の過半数を投入、月の周辺の宇宙では、最終決戦のときが、近づいていた。
准尉は整備ドッグにいた。
准尉「うん、この調整でいいです。ありがとう」
整備士「し、しかし准尉さん、いいんですか? こんな…」
准尉「いいんです。俺は、これで。許可もとってあるし。いやー承認もらうの大変だったんですよ」
つづいてシュにレーションルームで、飛行シミュレーターをみっちり。
これは、ここしばらく、准尉の週間だった。まいにち整備と調整をし、クタクタになるまで、
あることのシュミレーションをする。
たった数日の修練で腕前があがったりはしない
ただ、今までとは違う飛びかたを覚えるために
138:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:54:19.90 ID:xY1P+zp5i
准尉「ふーっ…」
シュミレーションルームを出る准尉。そこに後輩がやってきた。
後輩「あ、准尉さん」
准尉「よう、どうした」
後輩「いえ…俺、今日で正式に軍属を辞めたから、挨拶にきたっす」
准尉「そっか」
激化する戦い、後輩に限らず、除隊希望者は多かった。もちろん受理されないケースが多いが、
後輩は主人公機護衛任務で功績があり、免除されている。
後輩「…すいません」
准尉「いいさ。なんであやまるんだよ」
後輩「でも、…こんなときに…俺…」
今度の戦いは危険すぎる。死ぬ可能性のほうが高い。だから、それはまあ、わかる。もちろん責める気持ちなどない。
准尉「ばーか。飛びたいやつが飛べばいいんだ。こんなのは。…元気でな」
後輩「…はい…」
涙ぐむ後輩。そのとき、艦内放送が入る。
〈敵艦隊に動きあり、総員、第一種戦闘配置!! パイロットは待機! 繰り返す…」
139:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 21:02:26.57 ID:xY1P+zp5i
パイロットは待機! 繰り返す…」
准尉「お、来たか。じゃあ、ちょっくら、行ってくるわ」
准尉はきびすをかえし、後輩に背を向ける。空へ、宇宙へ、飛び立つ覚悟は出来ている。
後輩「准尉さんは…どうして、飛ぶんすか…?」
准尉はにかっと笑い、答えてみせる。
准尉「決まってんだろ? 俺が…」
最後の戦いが、始まる。
145:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 22:01:54.00 ID:xY1P+zp5i
准尉が飛び出した戦場は、一言でいうと、華やかだった。
飛び交うレーザー・ビーム、花火のように炸裂する機体。
そこには人の命が散りゆく壮絶さが、あるのに、それでも。
その景色は、奇麗だった。星々の淡い輝きのみがる暗い宇宙を、幾多の命が飾っていた。
全方位通信が入る。これは聞き覚えのある声、赤パイロットがボスと呼んでいた。あの男。
准尉はボスについて調べていた。
ボス、過激派の政治家であり、かつトップガンのナンバー1と呼ばれたパイロット。
最新鋭機を乗りこなし、前線に出ては士気をあげる男、
議会においては地球統合政府の征伐を急進的に進め、戦場においては誰よりも多くの撃墜数を誇る、あの男。
ボス「諸君! 時は来た!! 銀河連邦のなかにおいて、中央であるが故に
腐敗しきった地球、その歪みを正すときが!! 痛みを伴う革命が必要なのだ!!」
兵士たち「わー!!!わー!!!わー!!!」
147:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 22:19:55.74 ID:xY1P+zp5i
ボス「我ら母艦が有する戦略兵器は、母なる星、地球を死の星に変え、太陽系の惑星に
壊滅的な打撃を与えるだろう!…これは苦渋の選択であるが! あえて我らは
この責を負おう!! すべては銀河に住むすべての同胞の未来のために!!
殺戮者と呼ばれよう! 簒奪者といわれよう! それでも我らは進む!!
銀河の未来のために!! 人類に一度、修正を与えるために!!
それが我らの大義なのだ!!!」
兵士たち「うおーーーーっ!!!」
たいした弁舌だ。人類の未来のため、地球を滅ぼす男。
准尉にはまるで現実感がないが、彼もまた、思いを抱えて戦っているのだろう。
憎悪か、希望か、諦念か、妄執か。それはわからないけど。
人類全体からして、あるいは宇宙的な視点をもつ神のような存在が判断するとして。
ボスの考えが正しいか間違いかなんて、准尉にはわからない。
主人公「やらせやしない…。あなたは、間違っている!!」
主人公はそう発し、勢い良く出撃した。敵陣中枢に向け、一直線に
148:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 23:01:27.50 ID:xY1P+zp5i
今回の作戦は、突出した性能をもつ主人公機が敵母艦に接近、戦略兵器を
破壊する、他全機はそれを援護という、いたってシンプルなものだ。
准尉「…」
准尉はやっぱり無言で、敵機の航宙小隊に飛び込む
准尉「…!」
敵陣を切裂き、すかさず離脱。敵の攻撃は激しい、だが、避けることのみに集中すれば、かわせないことはない。
雨粒のように降り注ぐミサイルを、すりぬけるようにかわす。何発かは被弾する。
だがかまってはいられない。
戦場を飛びまわり、敵機をかく乱し、味方がうけているロックオンを外す。
准尉「…どう、だ…!」
全神経を緊張させる。たえず周囲に目をやり、危険地域を外して飛ぶ。
なんてことはない働きだ。とても一騎当千の活躍ではない。ほんのわずかだけ
味方の被弾率がおち、敵の動きを乱す。
オペ子「主人公機! 敵陣中枢部に接近!…ですが!」
准尉(…どうした…?)
149:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 23:02:05.56 ID:xY1P+zp5i
オペ子「ボスが登場したボス機が敵母艦から出撃!! 主人公機と交戦しています!!」
味方の心は大きく動揺した。
主人公は今や、地球統合政府の守護神といっていい存在だ。
それゆれ、この作戦は主人公が敵陣を突破し、戦略兵器を破壊するという一点なのだ。
が、
敵のボスもまた同じ、政治家であり、超一流のパイロット、乗っている機体もまた、
主人公機と同世代の新型超高性能機! そのカリスマ性、実力、
いずれにしても武神と言っても差し支えない。
主人公、ボス。勝つのはどちらなのか。
オペ子「主人公、ボスの戦況は…互角です!!」
敵も味方も、戦線を維持しつつも、突如発生した戦の勝敗を決める自体に戸惑い、
戦況を維持しつつも、動きが鈍くなった。
150:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 23:03:09.63 ID:xY1P+zp5i
准尉「…きたか…!」
だが、准尉は違う。知っていた。最初から知っていた。地球を救う者がいるなら、それは間違いなく主人公だ。
見てきた。主人公の強さを、その勇姿を。悩みながらも立ち上がり、
少年の身でありながら、戦い続けてきた、その存在を、ずっと、見てきた。
羨望もあった、嫉妬もあった。でも何よりも、信頼があった。
准尉は主人公とは、会話をしたこともない。それでも!
ヒゲ「おいモブ!!」
突如、ヒゲが准尉の戦闘エリアに入ってきて、援護してくれる。
准尉「!? ヒゲさん?」
ヒゲ「…行くんだろ? ここは俺に任せておきな!!」
准尉「…はい…! ありがとうございます!!」
准尉は機首を返し、加速した。主人公とボスの戦う、戦場の中枢へ。
154:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 23:06:40.29 ID:xY1P+zp5i
飛び交うミサイルの中を、駆け抜ける准尉!
スロットルを全開にし、補助AIが指し示す安全空域を無視し、
混迷の戦場に翼を広げ、進む。
ときおり被弾する。だが、気にしない。すべてを避ける技量がないことなんて、知っている!!
赤い機体が立ちふさがる。
赤パイ「ほう!? この戦域を突破しようというのか! 面白い!!
統合軍にもいたようだな!! 戦うに値する武人が!!」
どうやら彼は、過去に戦ったことのある准尉を覚えていないようだ。
そりゃそうだ。ほとんど会話したこともないし、准尉は赤パイや主人公とは違って
普通の量産機に乗っているのだから。
准尉「…よう。また会ったな。口数の多いエース」
赤パイ「む? …見覚えがあるな、その動き」
准尉「へー」
赤パイ「! 思い出したぞ! あのときのお前だな! 綺麗な飛び方をする。しかし! それだけの男! 大義なき公僕ふぜいが!! 殺気をもたぬキサマが!
俺を倒せるか!!??」
准尉「…無理なんじゃないの」
159:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 23:56:38.01 ID:xY1P+zp5i
赤パイ「む? なんだと」
准尉「でもま、やるだけやってみるさ」
准尉は航空機形態から人型形態へと変形してみせ、その手にビームサーベルを
構える。
准尉「…こい」
赤パイ「…失礼したな。命をかけての一騎打ちか。いいだろう! 来い!」
赤機体もまた、ビームサーベルを抜き、構える。おそらく負けるつもりなど、
さらさら無いのだろう。
赤パイ「その首、もらったーーーー!!」
准尉「…」
猛速で接近する両機!! 音速を超える相対速度で二人がぶつかりあう直前
准尉「うりゃあああああああああ!!!!」
准尉は雄たけびをあげる。コックピットで初めてあげる、咆哮だった。
だが、その気合は、赤機体と切り結ぶためではない!!
160:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 23:59:48.64 ID:xY1P+zp5i
赤パイ「なに!?」
准尉は激突の直前、飛行形態に変形し、ブーストを全開にし、操縦桿を壊れるほど
に引き、赤機体の目前から、頭上へ! 急上昇!赤機体を頭上からすれ違うように
飛び去る!!
突撃した赤パイは一瞬視界から消えた准尉機に戸惑い、また、機体の急制動が追いつかず、反応が出来ない。
准尉は間髪いれず、そのまま目くらましのチャフを放ち、全力で突破を図る!!
准尉「俺は、お前には勝てねぇよ!! でも、だからなんだってんだ!!!!!」
正々堂々たる一騎打ちを望んだ赤パイは、面食らったが、すかさず後を追う!!
が、簡単に追いつけはしない。全力で逆方向に
突っ込んでいた分のロスがあるから当然だ
161:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:03:33.00 ID:xY1P+zp5i
赤パイ「待てえ!! キサマ!!」
准尉は機体の武装を次々とパージする。ミサイルの弾も、ビームサーベルも
何もいらない。こんな重いものをもっていては
早く飛べない。たった一個の武装さえ、残せばいい。
パージされた准尉機の武装は、赤機の進路を妨害する!!
そしてさらに加速、機体の安全領域を超えた。限界のスピード!!
シートに押し付けられるGに体が悲鳴を上げる。
進路上のデブリを避けるために疲労した神経が、壊れてしまいそうなストレス。
それでも、とまらない。
これまで准尉は、その繊細なコントロールで安全域を飛んでいた。
でも今は違う。限界を超えて、進む。進む
耐G性能にすぐれた新型機でもなく、負担のない飛び方ができる技術があるわけではない。だから、これしかない。飛び去ることに特化した准尉の動きに歴戦のエースはおいつけない。
赤パイ「くっ…、そうまでして…!?お前の大義は、なんだー!?」
准尉「…」
162:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:06:43.49 ID:xY1P+zp5i
大義? そんなもんありゃしない。
ボスの言う全人類の未来、主人公の言う、世界中の人の涙を止める。
すげー思想だとは思う。でもそんなこと、俺には関係ない。
赤パイ「お前は、武人ではないのか!? 民へ尽くすことに責を持つ公僕ではないのか!?」
ああ、きたぜ。今こそ、俺は、答えてやる。
准尉「違うな。俺は、公のために、全力を尽くして働く公務員じゃない…!!」
そりゃ、辺境の銀河に住む知らない人の幸せだって、大事だと思う。そりゃみんな幸せなのが一番だ。
でも、俺は、俺自身や、俺のまわりにいる人や文化や社会のほうが、ずっと大事だ。
たとえ宇宙的視点、全人類的視点からみて、どうだったとしても
准尉「大義や誇りのために、命をかけて戦う戦士でもない!!」
家族やら友人やら、すこし気になっている女の子やら、そういう人たちが笑顔でいれる世界のほうが、ずっとずっと大事だ。些細でも、ちっぽけでも、それが俺の叶えたい世界だ。それは誇りだなんて言えないし、高い視点からみる大義でもないかもしれない。
でも、俺の叶えたい世界を、他の誰にも笑わせやしない!!
准尉「俺は…!! 俺の叶えたい世界に向けて、限界を超えて飛ぶ!飛行機乗りだああああああぁぁぁッ!!!」
167:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:17:29.77 ID:xY1P+zp5i
逃げるのではない。進むのだ。前に前に、准尉は飛ぶ!!
密集の戦場を貫き、敵陣中枢に踊りでる!!
声が聞こえてくる。
敵母艦付近で激しく火花を散らす主人公とボスだ。お互いに思いを叫びつつ
目にもとまらぬ攻防を繰り広げている。
ボス「何故わからない!! この世界は、一度滅びるしかないというこが!!」
主人公「そんなことは!!」
ビームサーベルの鍔ぜりあいで光が漏れる
ボス「違わないさ!! 何が違う!! 銀河に広がった人類は、地球という母から
離れるときなのだ!!」
主人公「人はそんなに愚かじゃない!! 人の可能性を! お前が断じるな!!」
お互いを狙い打つレーザーが、宇宙を彩る。
ボス「なら答えてみろ!! この銀河を救う術を!!」
主人公「それでも…それでも僕は!! やらせはしない!! 僕は人間の本質を
信じている!!」
なにやらすごい議論をしている。あれはマジで言ってるのか。
ちょっと笑いそうだが、多分マジなんだろう。なにか知らんけど、因縁とかあるんだろう。
准尉「ま、俺には、関係ないけどね」
168:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:23:46.71 ID:xY1P+zp5i
准尉は慎重にボスの背後に回りこむ。万が一でも主人公のジャマになっては元も子もない。主人公とボス以外にも沢山の敵機が飛び交い。准尉の機体はすでにボロボロで准尉もまた、Gの疲労や被弾のショックで体中が痛い。だが一瞬も止まらない。
とまれば、狙い打たれて、死ぬ。
ベストポジションまであと一歩、あと一歩!!
准尉「ここだぁ!!」
飛行形態からすばやく人型形態に変形、唯一残していた武装であるライフルを構える!! 超高速で飛び交うボス機にロックオンレティクルを合わせる。一瞬でいい。
ただの一瞬でも!!
170:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:38:14.55 ID:xY1P+zp5i
ボス「!」
ボスのコックピットでは、被ロックオンを示すランプが点灯する。
主人公機のそれではない。別の者の。
だが、それはたいしたことではない。ボスは天才的なその能力で、自機をとらえている敵を落とすべく、刹那のタイミングで捕捉を
准尉の技量と量産機の性能では、ロックオンから攻撃発射までかかる平均タイムは2.5秒。
ボスとボス機はロックオンされていることを認識し、敵機を捕捉し、先手を打って撃たれる前に、攻撃を放つまでの所要時間はわずか0.4秒。
これが、エースと凡人の差だ。
だが、そんなことは関係ない。何故なら
172:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:41:33.67 ID:xY1P+zp5i
ボス「なっ…!」
准尉はすでにそこにはいない。
戦場において、敵機をロックオンし、攻撃を放つ、というのは基本であり、定石だ。
それをしなくては、一機たりとも敵を落とすことは出来ない。
准尉「うおおおおおっ!!」
いいのだ。それで、いいのだ。もとより、攻撃のために飛行を乱せば、圧倒的に実力差の
ある相手にとっては、いい的だ。だから、いい。
攻撃など。しない。准尉がしたのは、ほんの一瞬だけ、ロックオンすること、ただそれだけ。
すぐに、飛び去る
ボス「はっ」
ボスは一瞬の被ロックオンの謎を追うのをやめ、主人公に向きなおそうと…
174:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:44:37.79 ID:xY1P+zp5i
主人公「世界は、この世界はーーーー!!!」
ほんの一瞬、コンマ数秒にも満たない。一瞬の隙。天才的能力をもった英雄たちの戦いのなかに、凡人が生み出した、ほんの少しの、亀裂。主人公のほうは気づいてもいない。
鬼気迫る戦いのなか、敵がほんの一瞬隙を見せただけのこと、その原因がなにかなんて
知らない。ただ、ボスに迫り、ビームサーベルを
突き立てる
ボス「…しまっ…。はははは…! 私が…滅びる…だと…!!ふはははは!!銀河は…!!」
ボス機はボスの高笑いとともに、爆発した。
175:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:47:13.32 ID:xY1P+zp5i
飛び去った准尉機はすでに限界を超えている。もはや自立飛行すら妖しい。
准尉もまた肋骨や内臓に大きな損傷を抱えている。
准尉「…しょうもねぇかな…。でも、コレが、俺の精一杯だ…」
眼前には宇宙。操作できない機体。このままいけば、宇宙の果てで、孤独に死ぬか
デブリにでも衝突して、死ぬ。いやそれよりも、准尉が出血で死ぬのが早いか
准尉「…ちぇっ…。でも、上出来だろ? 俺に、しては…(ガクッ)
果てしなく広い銀河のなかで、准尉は意識を失った。
177:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:55:42.91 ID:xY1P+zp5i
主人公の手によるボスの死と戦略兵器の破壊をもって、終戦となった。
地球や月、金星といった地球圏内は戦火を逃れることが出来た。
この戦争、銀河歴100年に終結した辺境銀河と地球統合政府の戦争は後に銀河戦役と呼ばれ、最後の決戦は月面攻防戦と呼ばれることとなった。
地球統合政府は戦争が起きたことに関して危機感を強め、辺境銀河との交渉の場を
持つこととなった。その後もいくつかの事件が起きた。
色々な問題が起こったが、すこしずつ解決されていった。何年も何年もかけて。
178:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:59:50.42 ID:xY1P+zp5i
この戦争を覚えているが人の子どもが老人となるころには、銀河戦役は銀河の内乱勃発から平和までの第一章として教科書に載り、様々な英雄譚や伝記が、ロマンある昔の話として、語られるようになった。
その老人たちの子どもがティーンエイジャーになるころには、銀河戦争は映画化やアニメ化がされ、歴史好きの人たちの間や、若い女性に大ヒットした。
179:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:02:11.56 ID:xY1P+zp5i
その映画やアニメでは大抵、主人公が「主人公」として描かれ、天才的な強さと悩める青い心をもち、歴史を動かした人物として登場した。
ときおり、赤パイロットなどを主役としたスピンオフ作品が生まれることもあったし、ボスが単なる恐怖の独裁者ではなく、魅力的な傑物だったと再評価され、注目されることもあったが
この戦争に参加したモブという人物が、そうした物語や歴史番組に登場したことは、ない。
エキストラが演じた兵士A、としてなら、あるかもしれないが、それは誰も知りようがない。
モブという人物については、当時の軍の記録にわずかな記録が残っているだけだ。その記録には、次のようにある。
180:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:06:23.59 ID:xY1P+zp5i
モブ准尉
銀河歴95年 士官学校卒業後入隊
銀河歴100年、銀河戦役に従軍、同年の月面攻防戦にも参加するが、撃墜数ゼロ
銀河歴102年除隊。除隊後は民間航宙会社に就職、旅客機パイロットに転向
たった、三行。
それは、普通の人の、小さな軌跡
それは、普通の人の、大きな奇跡
モブ准尉「主人公機強すぎ」 完
181:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:07:28.00 ID:pRoQbUfv0
おもろかった乙
182:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:08:00.61 ID:9yozIZ4H0
ついに終わってしまった・・・
184:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:13:59.41 ID:yoFMrVPGO
乙!
良かった
オペ子とはどうなったんだろ
185:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:16:55.49 ID:pRoQbUfv0
モブかっこいいは…
186:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:20:16.55 ID:yk/ugDSL0
良かったよ
気持ちよく寝れる
191:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 07:12:46.86 ID:L5qCJ7680
モブ生きてたああああああ!!!!!!111111
>>1乙でした
193:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 07:56:53.27 ID:xZubDXL+i
楽しかった。ありがとう。
>>1さんの過去作品
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モブ准尉「え? 減棒でありますか?」
メタボ大尉「当然だろう。完成直後の我が軍の新型【主人公機】奪取のために急襲してきた敵に、君はまるで対応できていなかったではないか。
量産機Aに搭乗して迎撃にでて2分で撃墜とは士官の恥だ。本来ならもっと思い罰則を与えられるところだぞ」
准尉「…はぁ…」
メタボ「なんだその気の抜けた返事は!」
准尉「失礼いたしました!」
准尉は若干の不満をもちつつも
軍人らしく上官の叱責に耐え、退室した。
これが大人、ひいては社会人というものである。
宿舎の食堂に移動し、遅い夕食とる。
准尉(…ってかよ。あの状況キツすぎだろ。エース級のパイロットがのった高性能新型機
だぜ。ビーム連射、マイクロミサイルぶっ放しまくり。そもそも相手は異星人のテクノロジー使ってて
そこですら溝がある。
一方こっちは二世代は前の旧型量産機。武装はガンポットだけ。ミサイル無し。。勝てるかっての…いやなんとかしなきゃいけなかったのは
わかってるけどさ)
相棒A「よ。モブ! こってり叱られたかんか?」
准尉「ああ。もうクソミソ。まずあの状況で迎撃に出れて、しかも生き残れたことを評価してほしいぜ
俺一人しか出てないんだぜ。それに俺が出てなかったら、もっと民間人に被害でてる」
相棒「でもお前、機体壊したやん。しかも結果、起動した新型の主人公機が敵を撃退したやん。それに民間人の被害も0ってわけじゃないやろ」
准尉「…まあ。たしかに。うん。そこは反省してる」
相棒「おう。まあ生きててよかったわな それに俺はその場にいなかったから文句いえへんし、よくやったよお前は。
そういえば例の新型、主人公機。結局誰が動かしたか知っとる?」
思い返してみる。あのとき准尉はすでに半壊して動けなくなった量産機Aのなかからみていた。
急に起動した主人公機、最初は挙動が安定していなかったけど、急に動きがよくなって、新型の超起動と
武装で敵を撃退。機体性能はもとより、パイロットもなかなかの腕だったように思える。
4:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:39:37.32 ID:xY1P+zp5i
ただ、解せないのは、無線ではいってきたパイロットの声。(うわああああ!!)だの(動け! 動けよ!!)だの聞こえてきた。
なんか少年の声にも聞こえた。多分無線の故障だろう。なにせ機体が壊れてたし
准尉「知らん。秘密裏に基地入りしてたエース級とか、テストパイロットとかなんじゃねぇの?」
相棒「違うんだよこれが。なんでも偶然居合わせた民間人らしいで。しかも学生だって話や」
准尉「マジで?」
相棒「マジで」
准尉「でも普通に機体を動かしてたぜ? あきらかに強かったぜ? なんだそりゃ」
相棒「さーて。天才ってやつなんやろ」
准尉「すげぇな」
相棒「すげぇわ」
5:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:45:16.06 ID:xY1P+zp5i
後日、准尉は新型機の輸送任務のため、コロニーの基地をあとにすることになった。
なんでも、例の民間人の少年は最初に主人公機を起動したときにパイロットデータの個人登録をしてしまい。その解除のためには本部がある地球までいかないといけないらしい。
虎の子の新型機は個人登録の解除まで、この民間人の少年しか動かせないそうだ。
また、先の異星人軍襲撃のため、難民となってしまった民間人を地球の施設に送る任務も兼ねている。
難民の方にとっては危険もあるが、家もなくなってしまったコロニーにいるよりはしばらく我慢してでも
地球の難民施設に入ったほうがマシ、と判断したわけだ。
准尉「ってわけで、俺ちょっと出張になるわ」
恋人「…うん。体に気をつけてね? あんまり危ないことしちゃ嫌だよ…」
准尉「いやーどうかな。軍人だし、パイロットだからねぇ」
恋人「ねぇ、いっそパイロットなんてやめられないのかな…」
この話はもう3回目だ。だが准尉は優しく答える
准尉「いやいや。士官学校も軍の奨学金で出てるしさ、待機任務だけで3年も給料もらってるしさ」
7:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:49:09.72 ID:xY1P+zp5i
恋人「でも辞めちゃダメ!って決まりがあるわけじゃないでしょ? 奨学金なら私と一緒にパン屋さんやって返せばいいよ。ね?モブ君」
恋人の父親は町のパン屋さんで、恋人はその看板娘である。…が。
准尉「いや。決まりとかそういう問題じゃないんだよ」
恋人の言っていることもわかる。が、それはなにか嫌だった。
これまで自分が死ななかったのは、自分のコロニーを守っている兵士がいたからで
これまで自分が生きてこれたのは、いずれ戦うという意志に対して、国がお金をくれたからだ。
だから、なんか嫌だった。古い地球の言葉でいうところの、義理、というやつなのかもしれない。
また、それとは別に、自分は機体を操り、飛ぶのが好きだった。
士官学校のパイロット養成コースでも常に五指にはいる成績、入隊後の訓練成績も良好。
哨戒任務でも評価は高かった。繊細で丁寧な機体コントロールが持ち味である。
8:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:50:03.09 ID:xY1P+zp5i
…最近の実戦では数秒で撃墜されて、しかも自分を撃墜した相手は素人の少年に撃墜されたが。
あと、准尉は准尉なりに、軍にいて、戦っている理由というものがある。
戦争は好きじゃないけど、それでも。禄を食んでいる以上、守ることへの責任感ってやつだ。
結局、恋人とは折り合いがつかず、別れることとなった。
准尉も恋人も世間的には若いといわれても、そこそこ大人だ。
戻ってくるかわからない男を待ち続けるのは無理というものだろう。
准尉もそれはわかっている。だから納得した。
10:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:54:39.94 ID:xY1P+zp5i
基地を離れて2日。宇宙にでるのは久しぶりの准尉。
准尉「おー。やっぱ暗いなぁ」
後輩「暗いっすねー。案外星も見えないし。偵察任務ってのも暇っすねー」
ヒゲ中尉「後輩。いつもの哨戒任務じゃねぇんだぞ! 新型機の輸送艦の護衛中なんだからな!!
いつ敵が攻めてくるかわからねぇぞ。気を引き締めろや」
後輩「は、はい! サーセン!!」
ヒゲ「よしそれでいい!…安全な空域まで行って任務終わったら酒でも奢ってやるよ」
後輩「! マジっすか!!」
ヒゲ「ああ。ま、艦の中のバーなんてしけたとこだけどな」
後輩「あざーっす!」
艦にはバーなどのレジャースポットもあるが、なにせ備蓄が少ないので、大変高価だ。
ヒゲ中尉はベテランだが、エリートというわけではない。対して給料ももらってないはずだ。
ヒゲ中尉はぶっきらぼうだが、なんだかんだと慕われている。
12:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 16:59:18.07 ID:xY1P+zp5i
後輩は後輩で、新兵のわりには物怖じしないタイプで、多少生意気なところはあるが、
一緒に飛んでいて楽しいタイプだ。今は艦で待機中の相棒もいるし、今回の任務は人選としては悪くないように思えた。三機は飛行形態に変形して艦の進路の先を飛んでいた。
ヒゲ「そういえばモブ。お前、女と別れたんだって?」
准尉「ええ、まぁ」
ヒゲ「あんまり気を落とすなよ。俺たちみたいな、飛行機乗りは港港に女がいるくらいがちょうどいいんだよ」
ヒゲ中尉はパイロットのことを「戦闘機乗り」とか「飛行機乗り」と呼ぶ。まだ兵器の主流が人型ではなく、
航空機だった時代から軍属の人にはたまにある名残だ。まあ、最近の量産期は航空機形態への変形もデフォルトであるから、あながち間違いではない。個人的には飛行機乗り、という呼称は結構好きだ。
骨っぽさがありながら、なんとなく殺伐とはしていない気がした。
14:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:00:49.60 ID:xY1P+zp5i
でも、准尉は職業を聞かれたら公務員と答えることにしている。それが事実に近いからだ。
そう、俺はサボりがちなお役所さんとは違う。
責任感を持って、公のために出来るかぎり働く、
公務員だ。
准尉「港港に女ですか。まあ、隊長にはそういうの、似合いますよね」
ヒゲ「ははは!!バーロー、女くらいつくらないで戦争が…! 避けろ!」
ヒゲ中尉の口調が一変する!
准尉「!」
後輩「え?…うわあああ!」
ヒゲ「世話が焼けるぜ!」
遠方から味方三機に向け、敵機のライフルが撃たれていた。
准尉はなんとか間一髪で回避、後輩はまるで対応できていなかったが、人型形態に変更したヒゲ機が後輩機を突き飛ばし
弾は当たらなかったようだ。送れて、被ロックオンのアラームがなり始める。
15:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:07:39.25 ID:xY1P+zp5i
准尉「思ったより速くみつかりましたね。コロニーを出てから二日か…」
ヒゲ「例の新型主人公機がそれだけ重要ってこったな」
後輩「ど、ど、どうするんすか!? げ、げ、げい」
准尉「当然、迎撃する」
ヒゲ「そういうこった! いくぞひよっこども! フォーメーションCだ!!」
准尉「了解!」
後輩「りょーかいっす!」
なにせ自分たちは任務をおびた軍人で、今の任務は主人公機をのせた艦を本部まで護衛することだ。
准尉は操縦桿を握る手に力をこめ、高速で接近する敵機に目を向けた
今回とるフォーメーションは、やや距離をおいたところから援護射撃をする後輩。敵の中心に飛び込み攻撃するヒゲ、敵付近を飛びつつ、かく乱と攻撃をする准尉というものだ。
経験の少ない後輩を前衛に出すとすぐに撃墜されてしまう可能性がある
17:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:19:08.70 ID:xY1P+zp5i
准尉「相手は5機… それにアイツは…」
敵機のなかでひときわ目立つ赤のカラーリング、新型機奪取の攻撃のときに、准尉を数秒で撃墜したヤツだ。量産機ではない。多分特注のワンオフ機だ。
准尉「…これはあれだ。ヤバイ」
宙域に飛び交うミサイルやビーム、冷や汗をかきつつ、それを避けていく准尉。
チャフを放ち、機体を回転させ、ブーストを吹かし、ミサイルを振り切る!
准尉(あたるといいな)
ときおり、隙を見つけては人型形態に変形し、バルカン掃射を行うも軽く回避される。
19:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:26:41.72 ID:xY1P+zp5i
准尉「くそ…! 避けるだけで手一杯だ…!!」
機体性能もさることながら、技術でも相当厳しい相手だ。
ヒゲ「オラオラオラ!!落ちやがれ!!!」
ベテランのヒゲはやや荒っぽいながらも、被弾は最小におさめ、敵に着弾させていく。
すごい腕だ。俺たちが同じレベルなら、もっといい勝負が出来たかもしれない。
後輩「この…! この…!!」
後輩の援護射撃は一応けん制の効果はあるものの、それ以上は期待できない。
5対3という戦力差を考えると、やや、いやかなり危険な状況だった。
22:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:43:10.25 ID:xY1P+zp5i
赤い機体のパイロット「フン、地球連邦のパイロットはこの程度か」
敵機からオープンチャンネルで通信が入ってくる。若く、自信満々な声だ。あの赤いのに乗ってるやつだと思われる。
戦闘中に相手に声をかけてくるとはずいぶん余裕があるようだ。異星人のエース様はすごい。
准尉「…」
赤パイロット「所詮は大義なきやつらだ。正当性のない連邦軍にはこの程度の兵士しかいないというわけだ!
これならこの俺一人で!」
准尉「…」
うるさいなぁ。こっちは操縦で忙しいんだよ。相手してられないの。
赤パイ「どうした! お前に意志はないのか! 貴様ら連邦政府の腐敗が招いたこの戦いの結果が!」
准尉「…」
赤パイ「それでも貴様は武人か!」
24:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:55:21.11 ID:xY1P+zp5i
うるさいな。そういう主張したいならパイロットじゃなくて政治家、外交官とかになればいいだろ。
つか、お前らのほうこそ、最初地球圏に来たとき、ちょっと地球連邦政府が強気な態度に出たら
いきなり宣戦布告、統合政府中枢部の地球連邦への反乱とかどういう神経してんだよ。
それはあれだろ? お前らのところで兵器開発がすげー進んだからなんだろ?それで偉いやつが、もっと利権取れると思ったんだろ?
…中央集権への疑問とか、銀河連邦のなかでの地球の特権がどうだこうだっていう不満とか問題があるのは…
…まあ、わかるけどよ。。
25:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 17:57:15.96 ID:xY1P+zp5i
俺はコロニーに住んでたし、特権なんて感じたことねぇよ。大体戦争に大義もクソもあるか。
お前こそ、偉いやつが掲げてる大義とかいうやつに疑問はねぇのかよ。
俺はあるよ。でもごちゃごちゃいわねぇよ。なんでか教えてやりたいきもするけど、今は
ミサイル避けるのに忙しいから無理だよ。あと俺は 武人じゃないよ。公務員だよ。
つか、しゃべりながら戦うとかバカじゃねぇのかよ。真剣10代しゃべり場かよ。
あと語尾とか述語とかかちゃんとしゃべれよ。言葉切るなよ。ちゃんと聞いてるだけありがたいと思えよ。
赤パイ「貴様らの招いた戦いが!!」
ああもう
26:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 18:05:02.44 ID:xY1P+zp5i
准尉「だまらっしゃい!!! 人に話すときはミサイルとかビーム撃っちゃダメだってかーちゃんに習ってないのかお前は!!」
赤パイ「なっ…!?あwせdfrtghじゅl」
なおもなにか言ってくるけど、もうフル無視することに決めた。
??
交戦状態がある程度続いた。客観的にいうと、5対3という数的不利や、敵によくしゃべるエース級がいることを踏まえると、准尉たちはなかなかに善戦したといえるだろう。
が、やはり状況はきびしく、敵を落とせはしなかった。むしろ少しずつ被弾し、准尉の機体はダメージを
負っていく
赤パイ「ちょろちょろ逃げ回りやがって…! ん、そうか。艦の位置が特定できたか。
おいお前!! 次にあったときは必ず落としてやるからな!!」
27:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 18:15:36.64 ID:xY1P+zp5i
赤い機体は部下を率いて戦域を離脱していく。
ヒゲ「くそ!艦に直接攻撃する気だ! 追うぞお前ら!!」
准尉「了解!」
後輩「りょうかい!」
飛行形態に変形、すぐにあとを追う。しかし機体性能の差か、どんどん引き離されていく
例の赤い機体は大型のビーム砲を搭載していた。
あのビーム砲は対艦装備だろう。下手したら母艦が落とされるかもしれない。
ヒゲ「戦闘機リーダーより母艦へ! 敵がそちらに向かっている。迎撃体制をとってくれ!」
オペレーター子「了解しました!…。すぐに迎撃部隊を展開します!」
数分後
オペ子「すでに1/3の機体が被撃墜!状況は非常に危険です!
ヒゲ「くそっ!これじゃ俺たちが索敵、足止めした意味がねぇ!…俺が戻るまで、持ちそうか!?」
オペ子「現状では、とても…ですが、あの…主人公機が出撃準備に入っています」
31:ありがとう続ける!:2013/11/24(日) 18:26:33.24 ID:xY1P+zp5i
ヒゲ「なにぃ!? あれはパイロットがいないんじゃないのか?」
オペ子「いえ、例の民間人の少年主人公が艦に乗っているので…」
ヒゲ「それは地球の基地でパイロット登録を解除するためだろう?」
オペ「そうなんですが…。艦長の判断で、主人公くんに出撃を要請しています」
准尉「…」
完全に巻き込まれた形になってしまったわけだ。
たまたま居合わせただけだが、初戦で戦績を残してしまったがゆえにこうした事態になったわけだ。
主人公の戦闘は間近でみたことがある。
もしかしたら、彼が出撃すれば戦況は立て直せるかもしれない。
後輩「主人公、巻き込まれて可哀想っすよね。民間人なのに」
そうだろうか。
准尉の意見は少し違う。
33:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 18:31:00.46 ID:xY1P+zp5i
たしかに民間人が出撃せざる得ない状況になったのは同情する。
が、そもそも主人公機強襲事件のとき、彼はそのままなら確実に死んでいたはずだ。あのとき他に出ていた犠牲者のように。
が、主人公はたまたま近くにあった主人公機に乗り込み、生きながらえた。
これはラッキーといえるだろう。しかも軍用機を勝手に動かしたというのは本来なら犯罪だが、
これも不問にされた。それもラッキーだ。
まあそもそも襲撃に出くわした時点で不運で不幸だけど。
民間人を守るのが軍人の仕事なのだから、もちろん守りきれずにそういう状況を作ってしまった
准尉たち軍人にも責任はある。しかし軍人とて神ではない。能力には限界がある。
当たり前だけど、守りきれなかった人は、死ぬ。
犠牲を最小にするのは軍人の務めだけど、こぼれてしまうものは、ある。
そんななかで自分で力を行使し、生き残った主人公は恵まれている。
もちろん同情もする、謝意もある。
でも、それだけじゃない。
34:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 18:40:26.83 ID:xY1P+zp5i
准尉「…」
准尉はオープンチャンネル回線に接続し、主人公機と戦艦ブリッジの通信を聞いてみることにした
主人公「嫌ですよ! どうして僕が戦わなきゃいけないんだ!」
艦長「主人公くん、この艦には多くの人間が多くの民間人が乗っている。。それを今守れるのは
君だけなんだ!」
主人公「そんなの勝手だ…! 僕は、人殺しなんて、、」
艦長「主人公くん!」
主人公「あなたたちは卑怯だ!」
なにやら揉めているようだ。
准尉(…)
胸が痛かった。今俺は、間接的に、卑怯者の人殺しと呼ばれた。
色々な思いをもって飛んでいるけど、人殺しであることには変わらないし、
民間人の少年に戦いを望む卑怯者でもある。
36:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 18:51:20.40 ID:xY1P+zp5i
主人公「どうして僕がそんなことしないといけないんですか!?」
主人公はコックピットには入ったものの、出撃するつもりはないようだ。
准尉は主人公機との回線を切断した。
准尉(…速く! 俺が速く戻れば…!)
機体を加速させる准尉。殺人的なGがかかり、コックピット内にはアラートがやかましくなる。
制御を誤れば、機体がバラバラになりかねない。デブリにでも衝突すれば即死。
安全域ギリギリで機体を保ち、飛ぶ
ヒゲ「おいモブ准尉! 俺の後ろを飛べ! 二人でかっ飛ばすぜ!」
ヒゲもまた准尉と同じく加速する。准尉の前を高速で飛ぶ。
准尉にはありがたい。ヒゲは進路上の障害物を破壊してくれるし、また、ヒゲの通ったコースを
追うのが今の准尉には最速で飛行できる。後輩には悪いが、ここにおいて行く。
むしろ残ったほうが生存可能性が高いかもしれない。
37:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 18:56:38.02 ID:xY1P+zp5i
准尉「ヒゲさん! あれ!」
視界に母艦が入る。すでに味方部隊は過半数が撃墜されており、おそらくパイロットは戦死しているだろう。迎撃部隊にいたはずの相棒のことを考えずにはいられなかった。
ヒゲ「くそ! かなりやられてやがる! 行くぞ准尉!」
准尉の視界には今まさに敵機に捕捉されている味方機が映っている。
一緒に訓練した人かもしれない。毎日食堂でみかけるアイツかもしれない。
士官学校から一緒に頑張ってきた相棒かもしれない。
兵士A[う、うわあああああ!!助けてくれ!!」
准尉「間に合えーーー!!」
准尉は敵機に向けて一斉にガンポットを…
兵士「おかあさーーーん!!!!」
わずか一瞬、わずか一瞬だけ、准尉の放った弾が敵機に着弾するよりも速く、味方機はライフルの一撃で貫かれ、宇宙のゴミとなっていた。あれではパイロットも即死だろう。
38:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 19:00:26.93 ID:xY1P+zp5i
准尉「!…くそっ…!」
戦域はもはや壊滅的だった。
ヒゲ「しっかりしろ准尉!」
准尉「ですが…!このままでは…」
絶望感に准尉が諦めてしまいそうになったその瞬間
主人公「主人公、主人公機。行きます!!」
突如、母艦から白く輝く最新鋭機、主人公機が出撃した!
准尉「なっ…なんて速さだ…!」
ヒゲ「こりゃ地獄に仏だ! モブ!主人公機を援護するぞ!」
准尉「…なんで…」
ヒゲ「モブ! どうした!?」
准尉「…了解…!」
40:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 19:11:01.61 ID:xY1P+zp5i
主人公と主人公機は、圧倒的だった。つぎつぎに敵機を撃墜していった。
主人公機がビームガンを撃てば、宇宙に花火が次々と上がる。そんな印象だった。
美しかった。
圧倒的だった。
悩める青い少年の駆る兵器は、何よりも強く
敵のエースパイロットを渡り合った。
准尉「…すげぇ…」
憧れた。その力に。
素人の少年のその強さに。
通信を切ったあと、何かのやり取りがあったんだろう
そして、不本意ながら出撃したのだろう
何年も訓練して、勤めとして、全力を尽くす自分と
なんて違うのか、なんて華麗なのか。どうして自分は
ああじゃないのか
義務と責任感で戦う、「立派な青年将校」は
憧憬と、あともうひとつの感情を抱かずにはいられなかった
ヒゲ「こりゃ、すげぇ。さすが虎の子の主人公機だぜ」
准尉「…」
准尉があれだけ苦戦した敵の赤い機体にのったエースをも撃退した。
その際赤パイロットは「連邦にも骨のあるヤツがいるようだな…」とか言って撤退していった。
結果、戦闘は終了。母艦はなんとか戦域を離脱。多くの民間人が救われ、准尉もまた
命拾いした。相棒もまた、なんとか生き残ったようだった。死んでしまったのは
母艦を守るために出撃した、多くの同僚だけだった。
母艦にもどった准尉とヒゲ、後輩は戦死した同僚に黙祷し、しずかに床についた。
准尉はベッドに入ってもなかなか眠ることが出来なかった。
准尉「…なんで…だよ…」
そう呟くしか、なかった。
前編 「モブの苦悩」 完
49:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 19:49:26.76 ID:xY1P+zp5i
〜後日、地球の田舎町のバー〜
主人公機を輸送する戦艦はなんとか地球にたどり着きはしたものの、大気圏突破のさいの
敵からの攻撃を受け、突入ルートが大きく変わった影響で、本部までの長距離を地上移動することとなった。
母艦が補給のために停泊し、モブ准尉、ヒゲ、相棒は短い休暇を利用して近隣の町のバーに飲みに着ていた。
相棒「しかし、よくここまで無事でこれたもんやな! 主人公様様やで」
准尉「…そうだな」
ヒゲ「たしかにあの坊主はたいしたもんだな。でもな」
准尉「?」
ヒゲ「お前らも良くやった! ほめてやるぞ」
相棒「お、ありがとうございますわ。ってことは?」
ヒゲ「わははは。調子のいいやつだな。よし、今日は俺のおごりだ! いくらでも飲め」
相棒「よっしゃー!! お? 隊長! あそこにうら若き女性がいるであります!」
ヒゲ「ほーお。お前も飛行機乗りらしくなってきたな。よし行ってこい!」
相棒は久しぶりのオフでテンションが高い。ヒゲもまた部下をねぎらってくれている。
50:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 19:56:26.06 ID:xY1P+zp5i
准尉「…」
ヒゲ「おうどうしたモブ。無理につき合わせちまったか?」
准尉「いえ、そういうわけじゃ」
モブはヒゲのことが好きだし、一緒に飲むのも楽しい
しかも奢りだ。
…だけど、あまりはしゃぐ気持ちにはなれなかった。ここまでなんとか戦ってきた。
でも結果だけみれば主人公におんぶにだっこだ。役にたってないつもりはないけど、
それでいいのか。俺は、戦う責任があるんじゃないのか。
なのに、こんなんでいいのか。
激化する戦況、流されるだけの自分
頼りになる主人公
そういう思いが頭を離れなかった。
何人もの味方が死んだ。それは
ヒゲ「…お前はマジメだな」
52:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:17:05.33 ID:xY1P+zp5i
准尉「? 真面目、ですか?」
ヒゲ「ああ」
ヒゲはウイスキーグラスを傾け、氷の音を鳴らし、続けた
ヒゲ「お前は、ホントにイイヤツだよ。今どき、いない。
腕もいい、気合も入ってる。それに、俺と違ってキチンとしてるしな」
准尉「…」
ヒゲ「なあ、お前は何のために飛んでるんだ?」
准尉「俺は、軍人だから。公務員だから。誰かを守れれば、と思って」
ヒゲ「…そうか。お前が今、モヤモヤしてるのは、多分、だからだな」
准尉にはヒゲが何を言いたいのかわからなかった。
もちろん准尉にだってプライベートはある。でも、仕事として戦ってる今がある。
軍人である自分は、守るために飛ぶべきなのではないのか?誰かのために
それは間違ってるのか?
ヒゲ「お前が思ってることもわかるぜ。いや。むしろお前は偉いよ。
今どきお前みたいなヤツはいねぇ。俺の先輩世代には結構いたけどな
間違ってねぇよ。お前は。でも。それじゃ苦しいぜ」
いつも豪放磊落なヒゲにしては、今日はシックに飲んでいる。
あるいはそれは、モブ准尉のためだったのだろうか。
53:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:24:41.18 ID:xY1P+zp5i
准尉「…ヒゲさんは、なんのために戦ってるんですか?」
ヒゲはグラスに残っていたバーボンを一息に飲み干し、ニカッと笑って見せた
ヒゲ「俺か? 飛んだあとの酒と女が、格別だからだよ!」
准尉「…ははっ」
准尉はくったくのないヒゲの笑顔におもわず笑ってしまった。
みると相棒は、さっき口説きにいった女の子と楽しそうに飲んでいる
ヒゲ「ってなわけで、俺は今日も女のところにいくぜ。ここには馴染みがいてな
モブ、お前は今日は辛気くせーから出てけ」
准尉「えっ」
ヒゲ「ほれ。軍資金だ。好きにやれよ」
准尉「…ヒゲさん」
ヒゲ「なんだー!? 絡み酒につきあいてーのか?」
准尉「いえ! ありがたく。他で飲ませていただきます!」
准尉はぶっきらぼうなヒゲの優しさに甘えることにした。
55:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:29:09.51 ID:8NvU/02Ii
ヒゲいい人や
57:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:46:46.20 ID:xY1P+zp5i
店を出たモブ准尉はぶらぶらと町を歩いた。
ヒゲのいうように、すこし飲みたかった。パイロットでない自分として。
准尉「…あれ?」
すこし離れたところに、オペレーション担当の女性士官の姿が見えた。
なにやら男に絡まれているようだった。
チンピラ「いいじゃねぇか! ねーちゃん! ちょっと付き合えよ!!」
オペ子「こ、困ります! もう艦に戻らないと…」
チンピラ「モウ、カンニモドライナイト…かー! 可愛いねー!軍人さんにしておくには惜しいや!!」
オペ子は年齢より幼く見えるし、まあ、容姿もいい。それにしても
ああいうチンピラはどこにでもいるんだな。なんて思う。オペ子は本気で困っているようだった。何人かすれ違う男たちは、かかわりたくないのか、みんな無視している。
そりゃそうだ。ここは補給の街、工業従事者やらなんやら、あらくれ男は沢山いる。
准尉「…」
チンピラは結構体格がいい。いやかなりいい。過酷な肉体労働で鍛えられた体。
不満な境遇に飢えた精神。
うん。危ないな。そう判断した。
58:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:49:27.92 ID:xY1P+zp5i
見なかったことにして立ち去ろうとした。
が、やっぱりやめた。それは、カッコつけたいという気持ち、軍人の意地、ほんの少しの騎士道精神、オペ子に好かれたいという邪心、いい人でいたいという誇り。いろんな感情によるものだった。
准尉「おい。やめろよ」
オペ子「!? モブさん!」
チンピラ「なんだてめぇ!? かっこつけてんじゃねぇぞ!」
准尉「お前こそ、みっともない真似はやめろ!」
チンピラ「はぁ!? …あっ! おまえ! 軍人か!?」
准尉の制服に今更気づいたようだ!
准尉「だったらなんだ」
チンピラ「…ちっ…。こりゃ相手がわる…、お!? なんだお前、パイロットかよ?」
さらに階級章にも気づいたようだった。
准尉「…そうだ」
チンピラ「なんだ。驚かせやがるぜ。パイロットなんざ。イスに座ってボタンおすだけだろうがよ。軍人とかいうから、強いのかと思っちまったぜ! ヒャハハ!!」
准尉「なに…!?」
59:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:54:52.98 ID:xY1P+zp5i
准尉「なに…!?」
チンピラ「ほーれ!!(ブンッ!!)
准尉「!!??」
准尉はチンピラの一撃をなんとかかわした!
准尉「パイロットをなめんなよ。お前のパンチなんざミサイルに比べりゃ蚊みてぇなもんだ」
准尉とて数多くの空戦をこなしてきている。反射神経では一般人など問題ではない。
チンピラ「へーえ?(ニヤニヤ)おい! お前ら、エリートパイロットさんが相手してほしいってさ!」
准尉「?」
准尉を取り囲む複数のチンピラの仲間たち、さすがに、これは、どうしようもなかった。
バキッ!ゴカッ!
殴り飛ばされる准尉。これはやばい、とおもった矢先
オペ子「だーれーかー!!! たーすけてー!!!」
大声だった。
チンピラ「お、おい!」
オペ子「だーれーかー!! たーすけてー!!!」
なおも大声だった
あたりがざわつきだす
チンピラ「ちっ! もういい! 今日は帰るぞ! なんでいこのブス!!」
チンピラがさり、オペ子とモブだけが残された
オペ子「だ、大丈夫ですか…。すいません。わたしのせいで…」
61:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 20:56:30.59 ID:xY1P+zp5i
准尉「…いや。結局、なにも、出来なかったし」
本心だった。情けなかった。なにも出来なかった。
オペ子「そ、そんなことないですよ! 助けに入ってくれて、すごく、嬉しかったです!」
准尉「…」
出来なかった。たった一人の、同僚の女の子を守ることも。
出撃した数多くの、仲間の命を救うことも。
何度も攻めてくる敵を1人で撃退することも
オペ子「モブさんだけは、無視しないでくれて…。わたし、ホントにホッとしたんです。だから…」
准尉「…」
相棒と一緒に英雄になることも
ヒゲに認められるエースになることも。
恋人と添い遂げることも
主人公みたいに、強く華麗に飛ぶことも
なにも、出来なかった。
准尉「…うっ…あっ…ああっ…!」
涙が、止まらなかった。良く知らない女の子の前で泣くことが恥かしいことはわかっていても、とまらなかった。
65:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 21:33:46.44 ID:xY1P+zp5i
オペ子「…モブ…さん?」
准尉「…ごめん」
オペ子はすこし考えたそぶりをみせて、准尉の頭に手をあて、撫でた
准尉「?」
オペ子「いいんです。なにがあったのかは、知りませんけど。
准尉さんは、頑張ってますよ。わたし、知ってますから…いい子、です」
准尉「…ごめん」
オペ子「ん! それよりですね! さっきの人、わたしのこと、ブスって言ってましたよね!? ひどいです!」
准尉は涙をぬぐって、力なく笑った
准尉「負け惜しみだよ。だって君はどうみても可愛い」
オペ子「え?」
准尉「ごめん。口が滑った。ヒゲ中尉の影響で」
オペ子「あはは」
二人ですこし笑って、そして何事もなく、別れ、帰った。
たったそれだけ、でもモブには大事な、夜だった。
66:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 21:35:15.45 ID:xY1P+zp5i
〜数日後、沙漠地帯〜
准尉たちの艦は地球連邦本部に向かうべく、沙漠地帯を横断する途中だった。
相棒「ふぃー あちぃなぁ。モブ」
准尉「沙漠だから当然だろ」
相棒「に、してもこのコックピット、暑すぎやろ」
准尉たちの量産機には旧式のエアコンしか配備されていない。
そんな予算はないからだ。
相棒「主人公機がうらやましいわー。エアコンギンギンやで」
准尉「…仕方ねぇだろ。お前主人公ほど、役にたつのかよ」
相棒「あちゃー、それ言ったら仕舞いやないか。ま、せやな。我慢するわ」
准尉と相棒は危険地帯の横断に備え、コックピットないで待機していた。
もう3時間になる。そうするとムダ話くらいしか、やることがない
相棒「なあモブ。昨日のテレビみたか? 木星圏のコロニーにあたらしいアイドルグループできたんやって」
准尉「へえ。あれか? MAR48だか、ART48だか、MOO48だかその仲間か?」
相棒「せやせや。JUP48言うんやって。めっちゃ可愛かったわーディスク買ってもうたわ」
准尉「へー。面白そうだな。今度かしてくれよ」
相棒「ええで!」
准尉「お前は楽しそうだな。…な、お前、ってさ、なんで軍にいるんだ?」
相棒「なんやいきなり」
准尉「興味本位だよ」
67:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 21:36:20.78 ID:xY1P+zp5i
相棒「せやなー。ま、俺はなんだかんだ地球統合政府の文化が好きやからなぁ、銀河連邦のなかでも。無うなったら、嫌やん?」
准尉「…へぇ。言い切るなんて意外だな。守るため、みんなのために。ってことか?」
相棒「そらちょっとちゃうなー。俺はな…」
相棒の言葉の続きを聞くことはできなかった
ビー! ビー!! 敵襲のアラートが鳴り響く
相棒「おっと、敵さんや! 話はあとやな!」
准尉「ああ。死ぬなよな」
相棒「アホいえ。お前こそ死ぬんやないで!」
准尉と相棒は熱砂の沙漠に出撃した!
69:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 21:38:52.50 ID:xY1P+zp5i
准尉「敵機は10! 沙漠走行カスタムの陸戦機6! 空戦機3!隊長機らしき
カスタム機1!」
相棒「こら、景気いいなー。敵さん!」
オペ子からの指示が飛ぶ
オペ子「敵機はこちらの兵力を圧倒しています! なるべく時間を稼いで、主人公機の沙漠対応換装が終わるまで、持ちこたえてください!」
相棒「レイブン2!了解や!」
准尉「レイブン1了解。」
主人公機は砂漠に対応できる準備が整っていない。最新鋭機だけに
準備にも時間がかかるのだ。
その間は、准尉たちが敵を抑えるしかない。
准尉「…強そうだな…」
ふと、オペ子の通信がレイブン1、モブの機体にだけ入ってくる
オペ子「あ、あの! 頑張って、ください! でも、あんまり無茶はしないで…」
必死な口調にすこしだけ、ココロが落ちつく
准尉「了解! レイブン1、これより敵機のけん制に…なにっ!?」
准尉が言葉を遮ったのは、モニターに信じがたい情報が入ったからだ
准尉「主人公機、出撃…だと!?」
通信を開いて声を拾う。
主人公「僕が行けばいいんでしょ! この機体を扱えるのは僕だけだし、
けん制部隊もどうせもたない。だったら!」
モブは艦のカタパルトデッキに目をやる。たしかにあの純白の機体が出撃してくる
72:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 22:16:22.86 ID:xY1P+zp5i
館長「やめたまえ! 主人公機はまだ、砂漠仕様への換装が…」
主人公「そんなの待ってたら落とされますよ! これまでだって、僕がいなければ…!
それに、あの隊長機に乗っている人は…!」
なんでこいつらは述語を言わないんだろう。
と冷静に突っ込むかたわら、准尉は混乱していた。
宇宙戦仕様の機体が換装なしで、砂漠での戦いができるものなのか?
また、敵の隊長機に乗っている指揮官は主人公の知り合いなのか。何故?
命がけで戦う准尉や、懸命に作戦を検討した艦の士官をすべて無視していいのか?
それもこれも、主人公だから、天才だから、それでいいのか。
相棒「モブ! どないする!?」
准尉「…」
考える。もういい。出撃してしまったものは仕方ない。
だが、砂漠対応モデルに変更していない主人公機では、戦闘は不可能だ。
下手をしたら、砂に脚をとられて身動きとれないところを滅多打ちだ。
そんなことは許されない。
73:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 22:17:53.17 ID:xY1P+zp5i
あの機体を作るのに心血を注いだエンジニア
機体をここまで運ぶのに命を散らした兵士たち
その決定をするのに心を砕いた政治家や軍幹部
それらの給金を税として納めていた民間人。
みんなみんな、この戦いから自分や大事な人を守るために、と
この戦いに活路が見えると、そう信じて、たくしてきた思い
彼らの思いが壊されることがあってはならない
すくなくとも、一人の天才主人公の暴走で、それが壊されることなんて
あっていいはずが、ない!!!
75:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 22:20:47.63 ID:xY1P+zp5i
准尉「主人公機を守るぞ! あれが落とされたら、俺たちにはなんの意味もない!
レイブン1より本艦へ! イレギュラー発生。レイブンリーダー、およびレイブン3の出撃を
要請します!」
ヒゲ、そして後輩の出撃を要請した。
艦長「了解した。出撃を許可する。主人公機をここで失うわけにはいかない…
頼むぞ!」
後輩「りょーかいっす!!」
ヒゲ「A-OK ボス! イヤッホーゥ!!」
実直に、豪快に出撃する両名。一方、主人公は砂に足をとられ、身動きが取れなくなっていた
主人公「な、なんで!?」
准尉「…」
なんでじゃねーよそういう話だっただろうよお前何聞いてたんだよこの不利な状況でさらにお前守るのかよこれで誰かが敵に落とされて死んだらお前どうするつもりだよ。
そう、思わずにはいられない、が。
准尉「レイブン1!これよりスペシャル1を援護する!」
敵機が迫りくる主人公機に機首を返し、ブーストを限界ギリギリまで加速させる
准尉(あたるといいな)
ミサイルを連射、ガンポットも連射、それなりに敵機にも被弾する、が
落ちない。
それはそうだ。こっちの武装は所詮旧世代の量産型。
76:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 22:22:08.91 ID:xY1P+zp5i
相棒「だったら…。落ちるまで、ぶち込むだけやああああああっ!!!」
准尉「相棒! 突出しすぎだ!」
相棒「アホォ! 無理せんで、あれが守れるわけないやろ!」
准尉「…ちっ」
相棒ははブーストをさらに吹かす!
そこに敵機のライフル弾が迫る!
相棒「なめたらあかんぞコラァ!!」
相棒は機体をスパイラル回転させ、これをかわす
みればわかる。あれには殺人的なGがかかっているはずだ。
そしてもちろん、機体の限界を超えている。
准尉「やめろ相棒! おまえ、死ぬぞ!!」
相棒「…ちぃっ!」
相棒は減速しつつ、放熱で銃身が壊れるほどの銃弾を放った!
敵機を2機撃墜。すこしは主人公機の助けになったはずだ。
准尉もまた、敵機の弾幕を加減速や旋廻を駆使してかわし、接近する
准尉「…!!」
それでも迫ってくるミサイルには、飛行形態から人型形態に変形し、手にしたマシンガンで打ち落とす!
こういうとき、よく主人公は喋れるよな。俺は戦うだけで精一杯だ。なんて思いながら。
81:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 22:56:21.08 ID:xY1P+zp5i
准尉「…」
さらにミサイルを発射、敵機を足止めする。
ピコーン!
不意に敵機の隊長機らしき機体から全方面通信が入る。
隊長「やはり君が主人公機のパイロットだったのか!」
渋いオトナの声だ。動きをみても、超凄腕の歴戦の兵であることがわかる
主人公「アナタは…! 何故、こんなことを…!」
隊長「それが私の義であり、志だからだ!!」
主人公「アナタが戦うことを、隊長の女さんは望んでいないのに!!」
隊長「彼女はわかってくれるさ! 私の生き様を!」
主人公「そんなことは!」
隊長「君こそなんだ? 大志もなく、流されるままに!!」
主人公「!!」
隊長「投降したまえ、彼女も君のことを!
それともあくまで決着を望むかね?」
主人公「僕は、戦いたくなんか…!」
なんとか砂漠の足場に慣れてきた主人公、機体の調整なしで戦えるのはやはりすごい。
そんな主人公と敵の隊長機はハイレベルの攻防を繰り広げている。
准尉「…」
それにしても、どうして、言葉を切る。
82:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 22:57:37.65 ID:xY1P+zp5i
相棒「なんや知らんが、食らえや!」
そんな激戦に、相棒が急降下爆撃を仕掛ける!
隊長「このような人が死ぬ戦でも!」
隊長機がビームを放つ、空中に。決闘を妨害する無粋な虫を追い払うように。
無慈悲に。こともなげに、
主人公「それなのにアナタは!」
隊長の放ったビームが相棒を貫く。爆散する相棒機
准尉「あ…」
隊長「これが戦いというものの本質だというのだ!」
主人公「…うわああああああっ!」
主人公機が突進し、隊長機に近接戦闘用のビームサーベルを突き刺す!
隊長「…くっ…。私は、ここまでか。。だが、主人公くん、君は、これから、
どうする、つもりかね。その力を、思いなき、その力を、君は…」
火花が散る隊長機。もう爆発するだろう。それを受け、敵部隊は撤退
主人公「僕は、殺したくなんか…戦いたくなんか…うわああああっ!!」
戦場には主人公の叫びが響きわたった。
でも、
モブの耳には、何も、聞こえなかった。
84:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 23:01:40.43 ID:xY1P+zp5i
主人公のまわりで、なにかドラマが展開されているらしいのはわかったが、それを
理解する気もしなかった
信じられなかった。
アイドルと串カツが好きで、いつも一緒で。乱暴ながら腕前は確かな。
いつも隣で飛んでいた相棒が、死んだことが。
何のドラマもなく、最期の言葉もなく、
託した思いもなく、ただ、死んだことが。
86:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 23:36:19.72 ID:xY1P+zp5i
〜後日〜艦内、機体ドッグ〜
後輩「あ、モブさん! こんなところにいたんすか?」
准尉「ああ、後輩か。どうかしたか?」
後輩「いえ、なにか、ってんじゃないんですけど…」
後輩はこうみえて結構気を使うほうだ。なんとなく、いいたいことはわかる。
准尉「後輩、俺は大丈夫だよ。相棒も、俺が沈んでても、嬉しくないだろうしな」
後輩「あ、い、いや。そう…っすか…。あ、いや!俺、バカですけど、話くらいなら聞けますし
飲みにも付き合いますから」
准尉「ああ、ありがとう。でも本当に大丈夫だ。やっと本部に着いたし、しばらくオフだしな。
普通に今度のみにでも行くか?」
後輩「はい…。とことん行きましょう」
相棒が死んだ。そのことはショックだった。とてもとても、悲しかった。しばらくはメシも
食えなかった。ヒゲさんに無理やり食わされたが。
でもいつまでも沈んではいられない、アイツだって辛気くさい俺は嫌だろう。
墓も建てられなかったけど、アイツの機体の操縦桿の破片を回収して、眺めがいいところに埋めてやった。
アイドルのディスクを傍らに、好きだったスコッチもそえて。奮発してジョニーウォーカーの青にしてやった
准尉「あーあ。なんか…わけわからなくなっちまったな」
後輩が去ったあと、おもわず口にする。
87:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 23:37:20.23 ID:xY1P+zp5i
と、いうのも、理由がある。相棒が死んだことも一つ。もう一つは、主人公が艦から脱走してしまったことだ。
先の戦いで、どうやら主人公も精神的なダメージを受けてしまったらしい。
戦うのが嫌になったのか、脱走してしまった。
まあ、それ自体はいい。無責任だ、とかこれまでの仲間の死をなんだと思っているのか、地球の最近の被害を見ろ。こんなにも被害が出ているではないか
と言う人もいる。でも彼はもともと民間人だし、戦う義務はない。
これまで助かったけど、それはあくまでラッキーなだけで、機体さえあれば、それを本部に届けるだけだ。
だから、彼を怨む気持ちはそれほどない。
でも、わからなくなってしまった。
いや、動機は変らないはずだ。自分は軍人で、公務員で、誰かのために戦う。これは状況によってはかわらないはずだ。輸送任務が終わって、オフになって、すこし気が緩んでいるだけなのだろうか。
なら。この胸にある空虚な気持ちはなんだろう。やらなくちゃいけないのはわかってる。
やる義務がある。でも、強い気持ちが、わいてこない。
准尉「ま、せっかくのオフだしな。二週間か…何すっかな」
88:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 23:39:26.45 ID:xY1P+zp5i
准尉はこれまでの激闘のこともあり、本部近くの町のホテルを貸し出され、しばらくは自由の身になれる。
最期に機体に感謝の挨拶をしに、ドッグに立ち寄ったが、このあとはフリーだ。
准尉「とりあえず、艦から出るか」
准尉は艦から出て、ホテルに向かうことにした。途中、ヒゲに出会う
ヒゲ「よう! しばらく街にいるんだろ?」
准尉「はい」
ヒゲ「なら今度俺んちでメシでもどうだ。カミさんのメシはなかなか旨いぞ」
准尉「そっか。ヒゲさんはこっちに家があるんでしたね」
力なく、笑うモブ
ヒゲ「おう。…お前、そうか。きつくなったか。公務員生活が、よ」
准尉「…かもしれませんね」
ヒゲ「いいんじゃねぇか。やめちまっても、よ」
准尉「え? で、でも」
ヒゲ「奨学金だの、これまでの義理だの、民間人のためだの、いいじゃねぇか別に。しんどいよな飛ぶのは。辞めちまえよ」
准尉「…」
意外だった。この飛行機乗りであることに誇りをもつ男が、そんなことを言うなんて。
情けないな、くらい言われるかと思っていた。
89:名も無き被検体774号+:2013/11/24(日) 23:40:33.48 ID:xY1P+zp5i
ヒゲ「ん?どうした? 別に辞めたって俺の後輩であることにかわりはねぇぞ」
准尉「ヒゲさんは、飛ぶんですか?」
ヒゲ「当たり前だろ!」
まるで、猛禽が人の形を取ったかのようなこの男は、歴戦の猛禽は理不尽でも、しんどくでも、飛ぶ、という。
一方、猛禽を上回る力をもった天才は脱走した。そのどちらでもない自分は
准尉「なんで、ですか?」
ヒゲ「あっはっはっは!!! それはだな! 俺が! 飛行機乗りだからだ!!」
准尉「…はぁ…」
准尉には意味がわからなかった。
92:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 00:39:01.13 ID:xY1P+zp5i
ホテルに入った准尉はひさしぶりに、くつろいだ。
テレビをみて、風呂に入って、両親や妹に電話した
年老いた両親や妹は、月のコロニーで暮らしている。
太陽系内は地球統合政府の管轄なので、銀河連邦内の紛争であり、他星系の勢力からの
軍事的圧力である今回の戦争では、守るべき対象だ。
父「あい。モブ。元気ねー? ぱいろっとは大変してないかねぇ?」
おう、モブ。元気か? パイロットの仕事はちゃんとやってるか?
母「あんたよー。彼女と別れたって? はっさよー。大変さぁ。お母さん心配であるよー」
※モブ、彼女と別れたらしいね。ああ、なんてことでしょう。お母さんは心配だよ
妹「にーにー、地球に行ってるから ちんすこうショコラ買ってきたらいさー」
お兄ちゃん、地球にいってんでしょ? お土産にちんすこうショコラかってきてね
沖縄エリア出身なだけあって、方言が抜けていない。すこし笑ってしまう。
妹「にーにー。なんで笑ってるばー?」
お兄ちゃん、どうして笑うの?
准尉「お前、方言ひどすぎだろ。月にすんで何年だよ」
母「いいさー別に」
93:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 00:40:03.52 ID:xY1P+zp5i
母「いいさー別に」
准尉「はいはい。どうよ。月の生活は?」
父「ジョートーさー」
不満はないよ
准尉「そりゃよかったね。元気そうで何より。じゃ、俺、風呂はいるから」
母「はっさ、あんたよー。ひさしぶりなのになんでねー?」
あらまぁ、モブ。久しぶりに話すのにどうしてそんなにすぐ通話を切るの?
元気そうで何より、というのは本心だ。あの平和な家族は平和でいて欲しい。
准尉はつけっぱなしのテレビに目線をやってみた。
相棒の好きだったアイドルが、歌っている。
准尉「…へー。結構いいんじゃないの。ま、俺は○○の方が好きだけどな」
○○もまた、地球圏内の女優だ。
ふと、携帯にメールが入っていることに気づいた。
オペ子(こんばんは! しばらくオフですね! すこし気晴らしがしたいです。
今度ゴハンとか行きませんか?)
そう書いてある。やっぱりちょっと、
いやかなり嬉しい。
94:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 00:46:22.61 ID:xY1P+zp5i
モブは返信を打った後ベッドに入って考えた
この戦争は、要するに、中央集権に対する地方からの不満の表れだ。
銀河の果ての人々が、その高い軍事技術を持って、中央集権制を変えようとしている。
それは悪いことなのか。
それは一介のパイロットであるモブの考えることではないけど、それでも
全人類が地球にいたときから見られる構図だ。士官学校でならった戦史講座にはよくあった。
多分、この戦争の勝敗に係わらず、銀河連邦の地球中央集権は瓦解していくはずだ。反乱があった時点で、それは確実なのだ。
戦後の情勢で、どれだけ現在の敵勢力が権限をもつのか。これはそういう戦争だ。そういう戦争のはずなのだ。地球を滅ぼせるはずがない。それは、軍事力の問題ではなく、利益の問題だ。
しかし、最近の敵軍の攻撃はあまりにも激しい。まるで、地球を滅ぼそうとしているようだ。
それが実現すれば、デメリットのほうが多いのはわかりきったことなのに、それでもとまらない。
おかしい。これではまるで、敵軍の司令部に、破滅主義者がいるようにも見える。
考えれば考えるほど、そういう結論になる。
准尉「…はーっ…」
95:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 00:50:32.83 ID:xY1P+zp5i
准尉は戦ってきた。公に責任のある士官として、だが、その意味は?
この戦いが終われば、その勝敗に係わらず現在の政治体制はかわり、基盤が変る。
そうしたら公務員の果たすべきとされた勤めの意味は。価値は?
准尉「わかんねぇよ…相棒…ヒゲさん…」
准尉はそう1人ごちて、眠りについた。
〜後日、街中〜
オペ子「すいません。今日は付き合ってもらっちゃって」
准尉「いや、俺も暇だしね。メシはどこ行く?」
オペ子「ふっふっふ! じゃーん! リサーチ済みなのです! この近くに美味しい金星料理のお店が!」
おもむろに芝居がかった調子でフードマップを広げるオペ子。
准尉「…」
オペ「あ、あれ? すいません。はずしちゃいましたか?」
准尉「いや。ありがとう。好きだよ。金星料理。なんだっけあれだよね。旧世紀のイタリアエリアみたいな
感じでしょ。行こう」
96:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 00:52:55.40 ID:xY1P+zp5i
〜ダイニング〜
オペ子「モグモグ…へー。モブさんは沖縄エリア出身なんですかー。私はですね。カリフォルニアです」
准尉「ほー。なんかイメージ違うね」
オペ子「?そうですか?」
准尉「なんかこう。バーン! みたいな感じじゃないの? カリフォルニアガールって」
オペ子「なっ…!」
会食は楽しかった。久しぶりに食う金星料理のパスタやピザは旨かった。
その後は散歩しつつ、公園についた。星が奇麗だった。
てくてくと歩く二人
不意にオペ子が口を開いた。
オペ子「…あの、モブさんって、最初に話たとき、すごくつらそうでした、よね」
准尉「…んー…」
オペ子「なにが、あったんですか?」
准尉「いやぁ…」
オペ子「…話したくなったら、いつでも話してくださいね」
准尉「…うん」
なんだか、すこし気が緩んだのかもしれない。モブは自分のことをいくつか話した
軍を辞めようかと思っていることも含めて
97:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 01:01:09.14 ID:xY1P+zp5i
オペ子「…モブさんは、もっと自分の心の声を聞いたほうがいいと思います」
准尉「?」
オペ子「一生懸命だから。大事な、すごく大事な自分の気持ちに気づいてなくて、だから無理してる…んじゃ、ないかな。なんて…。だって、いつも、つらそうです…。がんばりすぎなんじゃないですか?」
准尉「そりゃ、まあ。そこそこの腕前なのに、トップガンレベルの作戦に参加してたし、
天才じゃないしね。そりゃ無理もするよ」
オペ子「違います。そういうんじゃないんです。モブさんはきっとがんばれる人なんです。
今、つらいのは、きっと…」
准尉「…ヒゲさんにもよく意味のわからないこと言われたな。そういえば」
オペ子「きっと、その答えは、知ってると思いますよ。聞いてみるといいです」
准尉「誰に?」
そのとき、爆音が響き、警報のアラームが鳴り響いた!
思わず、通信端末を表示し、状況を確認する二人
オペ子「敵襲…ですね…」
准尉「くそっ。主人公もいないってのに!」
98:誰もおらん?さびしかよ:2013/11/25(月) 01:13:33.10 ID:xY1P+zp5i
オペ子「本部が落とされたら…!」
統合本部には戦略兵器がある。
太陽系内のどこでも、攻撃できる手段が。
それが奪われたら。
沖縄も、料理の旨い金星も、そして家族のいる月も。
危険に迫られる。
准尉「待機してないときに! オペ子さん! 早く避難を!ここならすぐにシェルターが…!」
オペ子「! モブさんは!?」
准尉「俺は艦に戻って出撃する! 非番だろうが見過ごせない!!」
非番であり、かつスクランブルも出ていない。出撃義務はない。だからオペ子には非難を命じた。
しかし自分は違う。パイロットとして、できることをやらないといけない
走り出そうとする准尉、その手をオペ子が掴む。
オペ子「…ダメ…です!」
必死な顔だった。
准尉「なんで!?」
オペ子「このまま、行ったら、きっとモブさんは、もっとつらい思いをします…!死んじゃうかもしれない…!」
准尉「俺は軍人だぞ!」
オペ子「モブさんは、モブさんだから…きっと今、行かなくちゃいけない、って思ってますよね…
准尉「ああ」
99:とりあえず続き ◆0C01EP2p7U :2013/11/25(月) 01:21:32.44 ID:xY1P+zp5i
オペ子「それじゃダメです。そんなモブさんが好きです。けど…」
さらりと告白された。だが今はそれどころじゃない。上空には迎撃部隊が閃光と消える姿が見える。
准尉「けど…?」
オペ子は爆風で乱れる髪を押さえ続ける
オペ子「モブさんは、なんのために…ううん。『どうして』と飛ぶんですか…?」
どうして?
なんのために、と聞かれれば答えられる。義務のために、民間人をまもるために、
義理を果たすために。それが答えだ。
でも問いかけは違う。『どうして』 答えに、つまる。
オペ子はにっこり笑って見せた。月明かりに照らされた瞳が、印象的だった。
准尉「だから、聞いてみてください」
准尉「誰に?」
オペ子「ここに」
オペ子は准尉の胸を人差し指でつつく。くすぐったいような。熱いような、何かが、胸にともった。
101:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 01:26:16.57 ID:xY1P+zp5i
目をつぶって考える色々なことが頭をよぎる
ヒゲ(飛んだあとの酒と女が格別だからな!)(俺は飛行機乗りだからな!)
相棒(そらちょっとちゃうなー。俺はな…)
赤パイ(それでもキサマは武人か!)
主人公(僕は戦いたくない!)
敵隊長(私の生きざまを!)
准尉「………俺は…」
准尉は閉じていた目をひらいた。戦場とかした空を背景に
その瞳には、これまでとは違う。炎があった。
オペ子「うん?」
准尉「わかった。俺が、飛ぶ理由が」
准尉は胸を触っていたオペ子の手を握り、離す
オペ子「…そう、ですか…。じゃ、仕方ないですね。今度、聞かせてくれますか?」
准尉「ああ。あの赤いヤツと君には、ぜひとも」
そういって、准尉は駆け出した
オペ娘「死んじゃ…いやですよ!」
オペ娘はその背中に、想いをのせた言葉をかけ、
自信もまた、避難民の誘導にあたった
102:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 01:28:45.29 ID:xY1P+zp5i
艦に戻り、出撃許可を得て、カタパルトデッキに入る
となりのドッグですでに出撃準備にはいっていたヒゲがコックピットごしに
こちらを見て、眉をくいっとあげ、親指を立てる
「ようこそ、こっち側へ」
そういっているように見えた。
カタパルトデッキから戦況を見る。例の敵の赤いヤツもいる。
准尉「システムオールグリーン。出力安定」
何人もの兵が戦っている。
准尉は最新鋭機には乗っていない。超人的な操縦技術もない。
准尉「装備弾数クリア、航路確認」
この戦況を一人でどうにかできたりなんてしない。
モブはモブでしかない。
准尉「戦術スクリプトOK、スタンバイ」
それでも
モブ准尉「モブ! イレブン1!出撃!!」
モブはただの量産機を駆り、激戦の空へ挑みかかった!
その翼にはこれまでと違う想いを乗せて!!
中編 完
123:おもむろに再開:2013/11/25(月) 19:22:07.47 ID:xY1P+zp5i
出撃した准尉の視界には一面の戦場が広がっていた
准尉「うわぁ…」
ホントはここで、面白じゃねぇか(ニヤリ)とか出来たらかっこいいのはわかってるけど
無理。やれることを、やるだけだ。
准尉「レイブン1、これより迎撃に入る!」
准尉は艦の指示通り、戦闘エリア東へと回り込み、敵航空部隊への迎撃を開始した。
准尉「…」
本部へ接近してくる部隊へむけて、けん制の射撃を繰り返し、押し戻す。
あたらなくたっていい。
相手が避けようとしてくれれば、それだけで守りの意味がある。
ときおり、弾幕を突破した敵の弾が准尉の量産機を襲う
准尉「…」
125:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 19:24:21.55 ID:xY1P+zp5i
その都度、准尉は操縦桿を引き絞り、体を襲うGに耐え、安全稼動域ギリギリの繊細なコントロールを行う。
ロール、ピッチ、
准尉「…!」
変形、チャフ、
准尉「…ふっ!」
急加速、逆噴射
准尉「…らっ!!」
持ちうる技術を総動員して、敵弾をかわし、けん制の攻撃を放ち続ける!
意味のある言葉を発する余裕などない。たえず機体周りの状況に目をやり、
神経を研ぎ澄ます。切れるような殺気をそらし続ける。
ときおり、隙をみつけては反撃。
126:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 19:31:34.60 ID:xY1P+zp5i
准尉「……!(あたるといいな)」
ハイスピードでめまぐるしく動く視界のなか、なんとかかんとか、一瞬だけロックオンレティクルが敵機に重なったタイミングで、トリガーを絞り、ミサイルを発射。
元々、攻撃はそんなに得意じゃない。
士官学校でも、入隊後も、評価では「丁寧な機体コントロールと繊細な動きが良。攻撃に難あり」
との評価を受け続けただけのことはある。
思わず笑ってしまいそうになる。ウソだ。そんな余裕はない。
顔芸もかくや、と思わせる必死の形相で、それでも丁寧に丁寧に。命をかけて、飛ぶ
127:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 19:39:39.05 ID:xY1P+zp5i
ヒゲ「オラアアアアアッ!!!」
ヒゲはヒゲで、命などいらぬと思っているかのような強引な突撃と攻撃を繰り返し
すでにかなりの数を撃墜している。
准尉「…すげ」
実際には20分にもみたない交戦だったが、准尉にはまるで2日間は戦っているような錯覚にとらわれる。
意識が遠くなりそうになる。
戦況は、ほぼ互角。硬直状態に陥ったか、そう思われたそのとき。
赤パイロット「ダラダラと粘りおって! 俺みずからが引導を渡してやる!!」
弾幕をかいくぐり、敵軍のエース級のひとり、赤いワンオフ機を駆るあの男が戦場に姿を見せた!
真紅の流星が、戦場を貫き、その軌道上の味方機は次々とスクラップへと変わっていく。
准尉「…あいつは…!」
129:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 19:56:08.84 ID:xY1P+zp5i
ヒゲ「!ヤツはやべぇぞ!! モブ! お前のエリアから突破しようとしてやがる!気をつけろ!!」
准尉(…まーじでー…?…)
赤パイ「ふはは!!もろい!柔いぞ! 統合軍!!」
すさまじいスピードで戦場に飛来する熱源が、レーダーに反応を見せた
赤機は准尉の完全に迫った!
准尉「…」
無言のまま、ミサイルを発射する准尉
赤パイ「甘い!」
ミサイルのすべてを、手にしたビームサーベルで切り落とす赤パイ
131:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:12:33.21 ID:xY1P+zp5i
赤パイ「統合軍には武人は一人もいないのか? 大志なき者が!職業軍人の努めとして戦うだけのものが! たかが公僕ふぜいが!この俺を止められと思うかあああああ!!」
相変わらずよく喋るヤツだな。つーか公務員バカにすんな。お前役所の世話になってねぇのか。
准尉「…」
准尉はつづけてガンポットを発射
軽く避けられる。
そして、攻撃後の准尉機の硬直、そこを狙って、こちらにライフルを向ける赤機
運がなかったな。やっと、飛ぶ理由がわかったのに。
そう思わずにはいられない、ただ、悔しい。凡人であることが、自分が、ただの、その他大勢の凡人であることが。
死ぬのか、俺は死ぬのか。
勿論死ぬのは、嫌だ。でもそれ以上に、なにもできないままでいることが、嫌だった。
意地を、見せたかった。かなわないのか。ひとかけらの意地を、見せることもできないのか。
悔しい。悔しくて、たまらない。嫌だ。
死ぬのは嫌だ。そして、なにも出来ないのは、死ぬほど嫌だ。
赤パイ「さらばだ!」
赤機の放った弾が眼前に迫る!!
―そのとき!
132:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:27:33.76 ID:xY1P+zp5i
一筋の疾風がはるか上空から吹いた。
なにが起こったのかわからない准尉。だが、生きている。
眼前には純白に輝く機体がある。その機体が、自分を守ってくれたようだ。
一瞬遅れて理解する。
ああ、英雄は、主人公ってのは、
やっぱり、違うな。
主人公「僕は…、もう逃げない! 世界中の、涙を、止めるために!!」
主人公機は人型形態を取り、翼に似た形状のバーニアを展開し、空に立ちふさがっていた。
ビームサーベルを抜き、凛と構えてみせる。
威風堂々たるその勇姿は、まぶしかった。
なにがあったのかは知らない。多分なにかまた劇的な出来事があって、それで決意を決めたんだろう。
かっこいい。
世界中の涙を止めるだって?
すげぇ、パネェ。
訓練をうけたわけでもない少年が。
133:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:35:51.53 ID:xY1P+zp5i
赤パイ「出てきたな、主人公!! 今日こそは貴様をーーー!!!」
主人公「そこぉーーーーーっ!!」
剣光一閃!
赤パイ「な、なに!? バカな!?」
一瞬にして脚部と頭部を切り離された赤機
主人公「これであなたはもう戦えない! 撤退してください!!」
赤パイ「ふざけるな!」
そこにあらたに通信が入る。貫禄のある、それでいてどこか壊れた印象を与える声だった。
??「赤パイ。ここは引け」
赤パイ「しかし!ボス様!!」
ボス「私のいうことが聞けないのか。統合政府を滅ぼす機会は再びある。ここは引け
我らの大義のために」
赤パイ「…はっ!!」
赤パイは撤退していった。
結局、統合軍本部の戦いは、主人公の出現により、戦況がいっぺんし、
地球統合軍が、本部の防衛に成功した。
ドッグに戻った准尉は…
134:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:38:29.77 ID:xY1P+zp5i
准尉「…」
オペ子「あ、おかえりなさい! モブさん、無事で良かった…!」
オペ子は戦闘の途中から艦に戻っていたが、モブの帰艦を確認し、ドッグまで駆け寄ってきてくれていた。
准尉「…ああ、ありがとう」
准尉は笑顔は見せなかった。
オペ子「…モブ…さん」
オペ子もモブの戦闘をみていたのだから、赤機にやられそうになって、主人公に助けられたことも知っている。
あのときのように、ふがいなさに涙を流すのかな、と心配されたのかもしれない。
が
違う
135:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:42:06.40 ID:xY1P+zp5i
准尉「…」
オペ子「モブさん、大丈夫…ですか?」
准尉「うん。大丈夫だよ。俺は」
もう、涙は流さない。ふがいないのはわかってる。凡人なのもわかってる。
でも、このまま終わるわけにはいかない。
飛ぶ意味がわかった。これからは迷いなく飛べる。
主人公は世界中の涙を止めると言った。赤いパイロットは、信じる理念と大義のため、腐敗した統合政府を討つと言った。
俺の、飛ぶ理由は、それにくらべたらちっぽけだ。身の丈にあった、ちっぽけなものだ。
でも、自分で決めたことで、たとえちっぽけでも、そのために覚悟を決めて翼を持った。
なら。
准尉「このままじゃ、終わらせない。意地を、見せてやる。」
悔しさに心が乱れているのは同じ、今も悔しくてたまらないでもあのときとは違う。
俺は弱い、でも弱さを認めた。それでも進む
136:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:48:20.55 ID:xY1P+zp5i
モブの瞳には、迷いはなかった。
オペ子「…もう…男の子だなぁ…」
負けて悔しがり、新たに決意を固めるモブの顔に、頼もしさを覚えた。
それは、英雄を見る民衆のそれではなく、もっと身近な。たとえば、頼れる隣人に対する。
ちっぽけで、でも大事な信頼だった。
137:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:50:04.08 ID:xY1P+zp5i
統合本部防衛線から二週間後、戦争は最終局面を迎えていた。
辺境軍は地球圏内、月の裏側に母艦及び艦隊のワープを敢行、全面攻撃の構えだ。
それをうけ、地球統合政府も戦力の過半数を投入、月の周辺の宇宙では、最終決戦のときが、近づいていた。
准尉は整備ドッグにいた。
准尉「うん、この調整でいいです。ありがとう」
整備士「し、しかし准尉さん、いいんですか? こんな…」
准尉「いいんです。俺は、これで。許可もとってあるし。いやー承認もらうの大変だったんですよ」
つづいてシュにレーションルームで、飛行シミュレーターをみっちり。
これは、ここしばらく、准尉の週間だった。まいにち整備と調整をし、クタクタになるまで、
あることのシュミレーションをする。
たった数日の修練で腕前があがったりはしない
ただ、今までとは違う飛びかたを覚えるために
138:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 20:54:19.90 ID:xY1P+zp5i
准尉「ふーっ…」
シュミレーションルームを出る准尉。そこに後輩がやってきた。
後輩「あ、准尉さん」
准尉「よう、どうした」
後輩「いえ…俺、今日で正式に軍属を辞めたから、挨拶にきたっす」
准尉「そっか」
激化する戦い、後輩に限らず、除隊希望者は多かった。もちろん受理されないケースが多いが、
後輩は主人公機護衛任務で功績があり、免除されている。
後輩「…すいません」
准尉「いいさ。なんであやまるんだよ」
後輩「でも、…こんなときに…俺…」
今度の戦いは危険すぎる。死ぬ可能性のほうが高い。だから、それはまあ、わかる。もちろん責める気持ちなどない。
准尉「ばーか。飛びたいやつが飛べばいいんだ。こんなのは。…元気でな」
後輩「…はい…」
涙ぐむ後輩。そのとき、艦内放送が入る。
〈敵艦隊に動きあり、総員、第一種戦闘配置!! パイロットは待機! 繰り返す…」
139:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 21:02:26.57 ID:xY1P+zp5i
パイロットは待機! 繰り返す…」
准尉「お、来たか。じゃあ、ちょっくら、行ってくるわ」
准尉はきびすをかえし、後輩に背を向ける。空へ、宇宙へ、飛び立つ覚悟は出来ている。
後輩「准尉さんは…どうして、飛ぶんすか…?」
准尉はにかっと笑い、答えてみせる。
准尉「決まってんだろ? 俺が…」
最後の戦いが、始まる。
145:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 22:01:54.00 ID:xY1P+zp5i
准尉が飛び出した戦場は、一言でいうと、華やかだった。
飛び交うレーザー・ビーム、花火のように炸裂する機体。
そこには人の命が散りゆく壮絶さが、あるのに、それでも。
その景色は、奇麗だった。星々の淡い輝きのみがる暗い宇宙を、幾多の命が飾っていた。
全方位通信が入る。これは聞き覚えのある声、赤パイロットがボスと呼んでいた。あの男。
准尉はボスについて調べていた。
ボス、過激派の政治家であり、かつトップガンのナンバー1と呼ばれたパイロット。
最新鋭機を乗りこなし、前線に出ては士気をあげる男、
議会においては地球統合政府の征伐を急進的に進め、戦場においては誰よりも多くの撃墜数を誇る、あの男。
ボス「諸君! 時は来た!! 銀河連邦のなかにおいて、中央であるが故に
腐敗しきった地球、その歪みを正すときが!! 痛みを伴う革命が必要なのだ!!」
兵士たち「わー!!!わー!!!わー!!!」
147:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 22:19:55.74 ID:xY1P+zp5i
ボス「我ら母艦が有する戦略兵器は、母なる星、地球を死の星に変え、太陽系の惑星に
壊滅的な打撃を与えるだろう!…これは苦渋の選択であるが! あえて我らは
この責を負おう!! すべては銀河に住むすべての同胞の未来のために!!
殺戮者と呼ばれよう! 簒奪者といわれよう! それでも我らは進む!!
銀河の未来のために!! 人類に一度、修正を与えるために!!
それが我らの大義なのだ!!!」
兵士たち「うおーーーーっ!!!」
たいした弁舌だ。人類の未来のため、地球を滅ぼす男。
准尉にはまるで現実感がないが、彼もまた、思いを抱えて戦っているのだろう。
憎悪か、希望か、諦念か、妄執か。それはわからないけど。
人類全体からして、あるいは宇宙的な視点をもつ神のような存在が判断するとして。
ボスの考えが正しいか間違いかなんて、准尉にはわからない。
主人公「やらせやしない…。あなたは、間違っている!!」
主人公はそう発し、勢い良く出撃した。敵陣中枢に向け、一直線に
148:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 23:01:27.50 ID:xY1P+zp5i
今回の作戦は、突出した性能をもつ主人公機が敵母艦に接近、戦略兵器を
破壊する、他全機はそれを援護という、いたってシンプルなものだ。
准尉「…」
准尉はやっぱり無言で、敵機の航宙小隊に飛び込む
准尉「…!」
敵陣を切裂き、すかさず離脱。敵の攻撃は激しい、だが、避けることのみに集中すれば、かわせないことはない。
雨粒のように降り注ぐミサイルを、すりぬけるようにかわす。何発かは被弾する。
だがかまってはいられない。
戦場を飛びまわり、敵機をかく乱し、味方がうけているロックオンを外す。
准尉「…どう、だ…!」
全神経を緊張させる。たえず周囲に目をやり、危険地域を外して飛ぶ。
なんてことはない働きだ。とても一騎当千の活躍ではない。ほんのわずかだけ
味方の被弾率がおち、敵の動きを乱す。
オペ子「主人公機! 敵陣中枢部に接近!…ですが!」
准尉(…どうした…?)
149:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 23:02:05.56 ID:xY1P+zp5i
オペ子「ボスが登場したボス機が敵母艦から出撃!! 主人公機と交戦しています!!」
味方の心は大きく動揺した。
主人公は今や、地球統合政府の守護神といっていい存在だ。
それゆれ、この作戦は主人公が敵陣を突破し、戦略兵器を破壊するという一点なのだ。
が、
敵のボスもまた同じ、政治家であり、超一流のパイロット、乗っている機体もまた、
主人公機と同世代の新型超高性能機! そのカリスマ性、実力、
いずれにしても武神と言っても差し支えない。
主人公、ボス。勝つのはどちらなのか。
オペ子「主人公、ボスの戦況は…互角です!!」
敵も味方も、戦線を維持しつつも、突如発生した戦の勝敗を決める自体に戸惑い、
戦況を維持しつつも、動きが鈍くなった。
150:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 23:03:09.63 ID:xY1P+zp5i
准尉「…きたか…!」
だが、准尉は違う。知っていた。最初から知っていた。地球を救う者がいるなら、それは間違いなく主人公だ。
見てきた。主人公の強さを、その勇姿を。悩みながらも立ち上がり、
少年の身でありながら、戦い続けてきた、その存在を、ずっと、見てきた。
羨望もあった、嫉妬もあった。でも何よりも、信頼があった。
准尉は主人公とは、会話をしたこともない。それでも!
ヒゲ「おいモブ!!」
突如、ヒゲが准尉の戦闘エリアに入ってきて、援護してくれる。
准尉「!? ヒゲさん?」
ヒゲ「…行くんだろ? ここは俺に任せておきな!!」
准尉「…はい…! ありがとうございます!!」
准尉は機首を返し、加速した。主人公とボスの戦う、戦場の中枢へ。
154:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 23:06:40.29 ID:xY1P+zp5i
飛び交うミサイルの中を、駆け抜ける准尉!
スロットルを全開にし、補助AIが指し示す安全空域を無視し、
混迷の戦場に翼を広げ、進む。
ときおり被弾する。だが、気にしない。すべてを避ける技量がないことなんて、知っている!!
赤い機体が立ちふさがる。
赤パイ「ほう!? この戦域を突破しようというのか! 面白い!!
統合軍にもいたようだな!! 戦うに値する武人が!!」
どうやら彼は、過去に戦ったことのある准尉を覚えていないようだ。
そりゃそうだ。ほとんど会話したこともないし、准尉は赤パイや主人公とは違って
普通の量産機に乗っているのだから。
准尉「…よう。また会ったな。口数の多いエース」
赤パイ「む? …見覚えがあるな、その動き」
准尉「へー」
赤パイ「! 思い出したぞ! あのときのお前だな! 綺麗な飛び方をする。しかし! それだけの男! 大義なき公僕ふぜいが!! 殺気をもたぬキサマが!
俺を倒せるか!!??」
准尉「…無理なんじゃないの」
159:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 23:56:38.01 ID:xY1P+zp5i
赤パイ「む? なんだと」
准尉「でもま、やるだけやってみるさ」
准尉は航空機形態から人型形態へと変形してみせ、その手にビームサーベルを
構える。
准尉「…こい」
赤パイ「…失礼したな。命をかけての一騎打ちか。いいだろう! 来い!」
赤機体もまた、ビームサーベルを抜き、構える。おそらく負けるつもりなど、
さらさら無いのだろう。
赤パイ「その首、もらったーーーー!!」
准尉「…」
猛速で接近する両機!! 音速を超える相対速度で二人がぶつかりあう直前
准尉「うりゃあああああああああ!!!!」
准尉は雄たけびをあげる。コックピットで初めてあげる、咆哮だった。
だが、その気合は、赤機体と切り結ぶためではない!!
160:名も無き被検体774号+:2013/11/25(月) 23:59:48.64 ID:xY1P+zp5i
赤パイ「なに!?」
准尉は激突の直前、飛行形態に変形し、ブーストを全開にし、操縦桿を壊れるほど
に引き、赤機体の目前から、頭上へ! 急上昇!赤機体を頭上からすれ違うように
飛び去る!!
突撃した赤パイは一瞬視界から消えた准尉機に戸惑い、また、機体の急制動が追いつかず、反応が出来ない。
准尉は間髪いれず、そのまま目くらましのチャフを放ち、全力で突破を図る!!
准尉「俺は、お前には勝てねぇよ!! でも、だからなんだってんだ!!!!!」
正々堂々たる一騎打ちを望んだ赤パイは、面食らったが、すかさず後を追う!!
が、簡単に追いつけはしない。全力で逆方向に
突っ込んでいた分のロスがあるから当然だ
161:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:03:33.00 ID:xY1P+zp5i
赤パイ「待てえ!! キサマ!!」
准尉は機体の武装を次々とパージする。ミサイルの弾も、ビームサーベルも
何もいらない。こんな重いものをもっていては
早く飛べない。たった一個の武装さえ、残せばいい。
パージされた准尉機の武装は、赤機の進路を妨害する!!
そしてさらに加速、機体の安全領域を超えた。限界のスピード!!
シートに押し付けられるGに体が悲鳴を上げる。
進路上のデブリを避けるために疲労した神経が、壊れてしまいそうなストレス。
それでも、とまらない。
これまで准尉は、その繊細なコントロールで安全域を飛んでいた。
でも今は違う。限界を超えて、進む。進む
耐G性能にすぐれた新型機でもなく、負担のない飛び方ができる技術があるわけではない。だから、これしかない。飛び去ることに特化した准尉の動きに歴戦のエースはおいつけない。
赤パイ「くっ…、そうまでして…!?お前の大義は、なんだー!?」
准尉「…」
162:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:06:43.49 ID:xY1P+zp5i
大義? そんなもんありゃしない。
ボスの言う全人類の未来、主人公の言う、世界中の人の涙を止める。
すげー思想だとは思う。でもそんなこと、俺には関係ない。
赤パイ「お前は、武人ではないのか!? 民へ尽くすことに責を持つ公僕ではないのか!?」
ああ、きたぜ。今こそ、俺は、答えてやる。
准尉「違うな。俺は、公のために、全力を尽くして働く公務員じゃない…!!」
そりゃ、辺境の銀河に住む知らない人の幸せだって、大事だと思う。そりゃみんな幸せなのが一番だ。
でも、俺は、俺自身や、俺のまわりにいる人や文化や社会のほうが、ずっと大事だ。
たとえ宇宙的視点、全人類的視点からみて、どうだったとしても
准尉「大義や誇りのために、命をかけて戦う戦士でもない!!」
家族やら友人やら、すこし気になっている女の子やら、そういう人たちが笑顔でいれる世界のほうが、ずっとずっと大事だ。些細でも、ちっぽけでも、それが俺の叶えたい世界だ。それは誇りだなんて言えないし、高い視点からみる大義でもないかもしれない。
でも、俺の叶えたい世界を、他の誰にも笑わせやしない!!
准尉「俺は…!! 俺の叶えたい世界に向けて、限界を超えて飛ぶ!飛行機乗りだああああああぁぁぁッ!!!」
167:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:17:29.77 ID:xY1P+zp5i
逃げるのではない。進むのだ。前に前に、准尉は飛ぶ!!
密集の戦場を貫き、敵陣中枢に踊りでる!!
声が聞こえてくる。
敵母艦付近で激しく火花を散らす主人公とボスだ。お互いに思いを叫びつつ
目にもとまらぬ攻防を繰り広げている。
ボス「何故わからない!! この世界は、一度滅びるしかないというこが!!」
主人公「そんなことは!!」
ビームサーベルの鍔ぜりあいで光が漏れる
ボス「違わないさ!! 何が違う!! 銀河に広がった人類は、地球という母から
離れるときなのだ!!」
主人公「人はそんなに愚かじゃない!! 人の可能性を! お前が断じるな!!」
お互いを狙い打つレーザーが、宇宙を彩る。
ボス「なら答えてみろ!! この銀河を救う術を!!」
主人公「それでも…それでも僕は!! やらせはしない!! 僕は人間の本質を
信じている!!」
なにやらすごい議論をしている。あれはマジで言ってるのか。
ちょっと笑いそうだが、多分マジなんだろう。なにか知らんけど、因縁とかあるんだろう。
准尉「ま、俺には、関係ないけどね」
168:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:23:46.71 ID:xY1P+zp5i
准尉は慎重にボスの背後に回りこむ。万が一でも主人公のジャマになっては元も子もない。主人公とボス以外にも沢山の敵機が飛び交い。准尉の機体はすでにボロボロで准尉もまた、Gの疲労や被弾のショックで体中が痛い。だが一瞬も止まらない。
とまれば、狙い打たれて、死ぬ。
ベストポジションまであと一歩、あと一歩!!
准尉「ここだぁ!!」
飛行形態からすばやく人型形態に変形、唯一残していた武装であるライフルを構える!! 超高速で飛び交うボス機にロックオンレティクルを合わせる。一瞬でいい。
ただの一瞬でも!!
170:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:38:14.55 ID:xY1P+zp5i
ボス「!」
ボスのコックピットでは、被ロックオンを示すランプが点灯する。
主人公機のそれではない。別の者の。
だが、それはたいしたことではない。ボスは天才的なその能力で、自機をとらえている敵を落とすべく、刹那のタイミングで捕捉を
准尉の技量と量産機の性能では、ロックオンから攻撃発射までかかる平均タイムは2.5秒。
ボスとボス機はロックオンされていることを認識し、敵機を捕捉し、先手を打って撃たれる前に、攻撃を放つまでの所要時間はわずか0.4秒。
これが、エースと凡人の差だ。
だが、そんなことは関係ない。何故なら
172:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:41:33.67 ID:xY1P+zp5i
ボス「なっ…!」
准尉はすでにそこにはいない。
戦場において、敵機をロックオンし、攻撃を放つ、というのは基本であり、定石だ。
それをしなくては、一機たりとも敵を落とすことは出来ない。
准尉「うおおおおおっ!!」
いいのだ。それで、いいのだ。もとより、攻撃のために飛行を乱せば、圧倒的に実力差の
ある相手にとっては、いい的だ。だから、いい。
攻撃など。しない。准尉がしたのは、ほんの一瞬だけ、ロックオンすること、ただそれだけ。
すぐに、飛び去る
ボス「はっ」
ボスは一瞬の被ロックオンの謎を追うのをやめ、主人公に向きなおそうと…
174:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:44:37.79 ID:xY1P+zp5i
主人公「世界は、この世界はーーーー!!!」
ほんの一瞬、コンマ数秒にも満たない。一瞬の隙。天才的能力をもった英雄たちの戦いのなかに、凡人が生み出した、ほんの少しの、亀裂。主人公のほうは気づいてもいない。
鬼気迫る戦いのなか、敵がほんの一瞬隙を見せただけのこと、その原因がなにかなんて
知らない。ただ、ボスに迫り、ビームサーベルを
突き立てる
ボス「…しまっ…。はははは…! 私が…滅びる…だと…!!ふはははは!!銀河は…!!」
ボス機はボスの高笑いとともに、爆発した。
175:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:47:13.32 ID:xY1P+zp5i
飛び去った准尉機はすでに限界を超えている。もはや自立飛行すら妖しい。
准尉もまた肋骨や内臓に大きな損傷を抱えている。
准尉「…しょうもねぇかな…。でも、コレが、俺の精一杯だ…」
眼前には宇宙。操作できない機体。このままいけば、宇宙の果てで、孤独に死ぬか
デブリにでも衝突して、死ぬ。いやそれよりも、准尉が出血で死ぬのが早いか
准尉「…ちぇっ…。でも、上出来だろ? 俺に、しては…(ガクッ)
果てしなく広い銀河のなかで、准尉は意識を失った。
177:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:55:42.91 ID:xY1P+zp5i
主人公の手によるボスの死と戦略兵器の破壊をもって、終戦となった。
地球や月、金星といった地球圏内は戦火を逃れることが出来た。
この戦争、銀河歴100年に終結した辺境銀河と地球統合政府の戦争は後に銀河戦役と呼ばれ、最後の決戦は月面攻防戦と呼ばれることとなった。
地球統合政府は戦争が起きたことに関して危機感を強め、辺境銀河との交渉の場を
持つこととなった。その後もいくつかの事件が起きた。
色々な問題が起こったが、すこしずつ解決されていった。何年も何年もかけて。
178:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 00:59:50.42 ID:xY1P+zp5i
この戦争を覚えているが人の子どもが老人となるころには、銀河戦役は銀河の内乱勃発から平和までの第一章として教科書に載り、様々な英雄譚や伝記が、ロマンある昔の話として、語られるようになった。
その老人たちの子どもがティーンエイジャーになるころには、銀河戦争は映画化やアニメ化がされ、歴史好きの人たちの間や、若い女性に大ヒットした。
179:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:02:11.56 ID:xY1P+zp5i
その映画やアニメでは大抵、主人公が「主人公」として描かれ、天才的な強さと悩める青い心をもち、歴史を動かした人物として登場した。
ときおり、赤パイロットなどを主役としたスピンオフ作品が生まれることもあったし、ボスが単なる恐怖の独裁者ではなく、魅力的な傑物だったと再評価され、注目されることもあったが
この戦争に参加したモブという人物が、そうした物語や歴史番組に登場したことは、ない。
エキストラが演じた兵士A、としてなら、あるかもしれないが、それは誰も知りようがない。
モブという人物については、当時の軍の記録にわずかな記録が残っているだけだ。その記録には、次のようにある。
180:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:06:23.59 ID:xY1P+zp5i
モブ准尉
銀河歴95年 士官学校卒業後入隊
銀河歴100年、銀河戦役に従軍、同年の月面攻防戦にも参加するが、撃墜数ゼロ
銀河歴102年除隊。除隊後は民間航宙会社に就職、旅客機パイロットに転向
たった、三行。
それは、普通の人の、小さな軌跡
それは、普通の人の、大きな奇跡
モブ准尉「主人公機強すぎ」 完
181:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:07:28.00 ID:pRoQbUfv0
おもろかった乙
182:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:08:00.61 ID:9yozIZ4H0
ついに終わってしまった・・・
184:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:13:59.41 ID:yoFMrVPGO
乙!
良かった
オペ子とはどうなったんだろ
185:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:16:55.49 ID:pRoQbUfv0
モブかっこいいは…
186:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 01:20:16.55 ID:yk/ugDSL0
良かったよ
気持ちよく寝れる
191:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 07:12:46.86 ID:L5qCJ7680
モブ生きてたああああああ!!!!!!111111
>>1乙でした
193:名も無き被検体774号+:2013/11/26(火) 07:56:53.27 ID:xZubDXL+i
楽しかった。ありがとう。
>>1さんの過去作品
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