れんげ「のんのんばあとウチ」
- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 15:54:53.75 ID:H3v7bsl50
それは雨降りの帰り道の出来事だったん──
プシュー…ブロロロロ…
ポツポツ…ザァァァァ…!
夏海「うわっ!バス降りた途端に大降りかよ…ついてないなー」
小鞠「今朝はよく晴れてたのにね…」
蛍「れんちゃんはえらいなぁ。天気予報でも言ってなかったのにちゃんと傘用意してて」
れんげ「エッヘン!ウチはいつだって備えを欠かさないのん!」
夏海「おぉ!流石れんちょん、出来るオンナ!」
れんげ「と、言いたいところだけど実はこの傘、この間学校に忘れて帰ってただけなのでしたん」
夏海「なぁんだ…」
夏海「でもどうすっかなぁ。ここで雨宿りしててもたぶん止まないよ、これ」
小鞠「まぁ別に走って帰ってもいいんだけどねぇ…蛍も大丈夫そう?」
蛍「あ、はい。服が濡れても着替えればいいだけですから」
れんげ「のんのん。それじゃみんな風邪をひくん。ひとまず家にくれば傘くらい貸したげるん」
- 2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 15:57:20.81 ID:H3v7bsl50
小鞠「そう?じゃあお言葉に甘えよっかな」
夏海「いや、でもれんちょんの傘子供用だし、四人で差すのは流石に無理があるんじゃ…」
れんげ「ふっふっふ。心配ご無用。ウチにいい考えがあるん」
れんげ「ほたるん、ウチを肩車して欲しいのん」
蛍「えっ?」
ザァァァァ…
夏海「なるほどね。一番背の高いほたるんがれんちょんを肩車して、れんちょんが傘を差すと…」
れんげ「そしてなっつんとこまちゃんがなるべくほたるんにくっついて歩けば、四人とも雨をしのげるのん」
れんげ「どうですか、ウチが編み出したこの完璧なフォーメーションは」
夏海「いやぁ、御見それしましたれんげさん!」
夏海(それでもウチは半分くらい濡れちゃってるんだけどなぁ…こういう時ばっかりはちっこい姉ちゃんが羨ましいよ)
小鞠「ごめんね蛍…私の歩幅に合わせてたら歩きづらいよね?」
蛍「いいえ~、濡れるといけないからもっとくっついて下さいね、先輩」ポワ~ン
- 3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 15:58:28.08 ID:H3v7bsl50
ザァァァァ…
れんげ「あっめっあっめっふっれっふっれ♪ねえねえのー♪」
夏海「ヘイ♪」
れんげ「糸目の奥が笑ってないー♪」
小鞠「あぁ、わかるわかる」
蛍「たまに恐い時ありますよね」
れんげ「ぴっちぴっち♪ちゃっぷちゃっぷ♪」
れんげ「あっ…ほたるん、ストップするん」
蛍「…どうしたの、れんちゃん?」
れんげ「あそこ、柿の木のところ…」
- 5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 16:00:37.70 ID:H3v7bsl50
お婆さん「んしょ…しょっと…」ピョンピョン
夏海「あらら、お年寄りが傘も差さずに…」
れんげ「あれじゃばぁばも風邪ひくん」
小鞠「柿の実が採りたいのかな。でもあんなお婆ちゃんこの村にいたっけ。夏海、知ってる?」
夏海「うんにゃ、初めて見るね」
れんげ「じゃあきっとほたるんみたいに都会から来たんな?」
蛍「どうだろう…東京で見かけるお婆さんはあんなに昔話チックじゃなかったかな…」
夏海「いやいや、ここらの爺ちゃん婆ちゃんでもあそこまで時代がかってないでしょう」
小鞠「ちょっと二人とも、聞こえるってば」
お婆さん「そげだなぁ。口は災いのもとだけん」
四人「ビクッ!」
- 6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 16:02:18.56 ID:H3v7bsl50
夏海「あちゃー…聞こえちゃってたぽいね…」
蛍「ご、ごめんなさいお婆さん…失礼な事を言って…」
お婆さん「まぁ若い娘さん方がこげな年寄りを気にかけて下さったのはありがたいこと…」
お婆さん「それに、妙な格好はお互い様だがな」
蛍「あ、これには事情がありまして///」
小鞠「え、えへへ///」
お婆さん「てっきり傘が化けて出とるのかと思ったがな」
夏海「はは…面白い婆ちゃんだなぁ」
れんげ「ばぁばもこっち来て傘に入るん。雨に濡れると身体に悪いん」
お婆さん「あぁ、気にせんでええ。この柿をもいでしまったらすぐに帰るけん…よっと」
- 7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 16:03:59.61 ID:H3v7bsl50
れんげ「…ばぁば、その柿はもう時期じゃないんよ?」
れんげ「それに、そうやってワザと枝に残してある実は【木守柿】って言って
来年またたくさん実がなるようにっておまじないしてるん。採らない方がいいん」
夏海「へぇ~、れんちょん物知りだなぁ。ウチそんなの初めて聞いたよ」
小鞠「いや、昔からお母さんも言ってるし学校でも習ったでしょうが…」
お婆さん「ははは…まだ小さいのによう知っちょる。でもこの話は知っとんさるかな?」
お婆さん「収穫されずに放っておかれた柿の実はそうで(そのうち)に【たんころりん】になる…」
れんげ「たんころりん…?」
お婆さん「そげだ。熟れた柿のように赤い顔をした入道姿の妖怪でな。柿の種を撒きながら村を徘徊するだが」
れんげ「よう、かい…なのん…?」
夏海「あははっ!婆ちゃん今時妖怪って!それになんだよ【たんころりん】って!すっげー間抜けな名前…ウケるぅ!」
蛍「そんな、笑っちゃ悪いですよ夏海先輩…」
夏海「だってさぁ、種撒きながら歩き回るだけの妖怪ってなんなのさ。全然こわくねー!あはははっ!」
お婆さん「たんころりん自体は別になんの悪さもすりゃせん。ただ村のもんが夜道で出くわして腰でも抜かすといけんだでな」
夏海「それはどうもご親切に……あはははっ!」
- 9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 16:05:59.97 ID:H3v7bsl50
小鞠「あの、その為に柿を採ろうとしてたんですか?」
お婆さん「そげだが、背がとわん(届かない)のだがな」
れんげ「……」
れんげ「ほたるん、ウチらで採ってあげようと思うん。いいんな?」
蛍「うん、いいよ。ちょうど肩車してるしね」
プチッ プチッ プチッ
れんげ「全部採れたーん!」
お婆さん「おぉ、すまんのぉ」
夏海「でも良かったの?その柿の実って村の人がワザと残してたやつなんでしょ?」
お婆さん「なぁに、この柿の木はオラの家のものだけん。誰も文句なぞ言わんよ」
夏海「あ、あれ…?」
蛍「さっきまでここに家なんて…」
小鞠「なかった、よね…?」
三人「ゾワーッ」
- 10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 16:07:43.47 ID:H3v7bsl50
お婆さん「ほら、お嬢さん方、あがって柿食ってけ。年寄りには食いきれんけぇ」
れんげ「食べるーん!」タタタ…
小鞠「あ、こらっ れんげ!」
小鞠「家の中、入っちゃった…」
夏海「う、ウチらはどうしよ…」
小鞠「どうするって、ねえ…」
蛍「だけどこのお家、だいぶ怪しくありませんか…?」
蛍「明らかに今さっき現れたの、先輩たちも見ましたよね?」
夏海「う、うん。でもさ…気のせいかもしれないじゃん…?霧も出てるし、ウチらって注意力ないから見逃してただけかも…」
小鞠「ちょっと!注意力がないのは夏海だけでしょ!私たちまで一緒にしないでよ」
蛍「あの、口喧嘩してる時じゃ…」
れんげ「みんなどうしたーん!はやく来るーん!」
夏海「…まぁ、入ってみよっか」
小鞠「そだね。あのお婆ちゃんも変わってるけど悪い人じゃなさそうだし」
蛍「お、お邪魔しまーす…」ソローッ
- 11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 16:09:41.51 ID:H3v7bsl50
夏海「…なんだ。だいぶ年季は入ってるけど普通の田舎住まいだね」ギシギシ
小鞠「いちおう電気も通ってるみたいだし…戦時中みたいな裸電球だけど」ギシギシ
蛍「きゃっ!」バキィ!
蛍「ご、ごめんなさいお婆さん…床、踏み抜いちゃいました…」
お婆さん「気にせんでええ。そこらじゅう穴だらけだで。ほれ、こっち来てお座り」
れんげ「みんな来るの遅いん。何してたん?」ハムハム
蛍「う、うん…ちょっとね。失礼しまーす…」
- 12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 16:10:13.97 ID:H3v7bsl50
夏海「よっこいしょ…わっ、あれ火鉢ってやつ?」
小鞠「いちおう家の物置にもあるけど現役で使ってるとこは初めて見たね」
お婆さん「ほれ、お嬢さん方も。だいぶ熟れとる柿だけん、匙で掬ってお食べ」
小鞠「あ、ども…」ペコッ
蛍「いただきまーす」
夏海「ところで婆ちゃんさぁ、見ない顔だけどこの村の人じゃないよね?」モグモグ
蛍「方言もこのあたりの人とは違うようですし…どちらからいらしたんですか?」
お婆さん「はて、えーと…どこだったかな…」
蛍「?」
- 13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 16:12:45.74 ID:H3v7bsl50
れんげ「ばぁば、ウチはれんげっていうん!ピカピカの一年生なん!」
お婆さん「おぉ…れんげちゃん、なぁ」コクコク
夏海「あぁそうだ…ウチは越谷夏海、こっちの小さいのが姉ちゃんの小鞠」
小鞠「小さいってゆーなっ!」
蛍「一条蛍です。お婆さん、お名前は…」
お婆さん「名前?うーむ…さて…」
夏海「……」
夏海「姉ちゃん、これは俗に言う痴呆症ってやつですか?」ヒソヒソ
小鞠「ちょっと!そういう事言うのよしなさいよ!」ヒソヒソ
- 16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 16:15:21.18 ID:H3v7bsl50
お婆さん「…………のんのんばあ」
のんのんばあ「そう、呼んでくれたらええ」
れんげ「のんのんばあ…?」
れんげ「ウチの喋りかたと同じなのん!」ぱぁぁ
蛍「そういえば…れんちゃんや村の人が使うのんのん、ってなにか意味があるんですか?」
小鞠「いや、語尾が訛ってるだけで別に意味とかはないんだけどねぇ」
のんのんばぁ「なぁに、ひとげ(他人の家)の仏壇やら神棚をのんのん拝んで小銭を稼ぐケチな婆さんだから、そう呼ぶんじゃよ」
夏海「祈祷師みたいなものってこと?なんかカッコイイじゃん!」
蛍「さっきのお話も面白かったですよね。柿が妖怪になるとか」
れんげ「そう!それ聞いときたかったん!のんのんばあ、妖怪ってなんなのん?」
- 17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日) 16:17:03.67 ID:H3v7bsl50
のんのんばあ「そげだなぁ…妖怪というのは…」
のんのんばあ「れんげちゃん達も不思議に思わんかな?風もないのに揺れる窓、夜道で背後から感じる気配、誰がつけたか分からない天井のシミ…」
小鞠「はぅ…」ゾクゾク
のんのんばあ「そういった摩訶不思議なことを人間の生活の陰に潜んで引き起こすものを、オラはひっくるめて【妖怪】と呼んどるけどな」
れんげ「ほほぅ…」ワクワク
夏海「いやいや婆ちゃんさぁ、あんまりうちのこまちゃんをおどかさないでよ。ほら、すっかり怯えちゃって」
小鞠「お、怯えてないっ!あとこまちゃんじゃないっ!」
夏海「またまたぁ、ほら、早くその柿食べちゃわないと妖怪に化けちゃうんだってよ?あ、今ちょっと動いたかも」
小鞠「ひゃあぅ!もう!変なこと言わないでよ!全部食べちゃえば恐くないんでしょ!もう!」パクパク
のんのんばあ「そげだそげだ。食べてやる事が供養になるだ。食べてもらえん柿の無念がたんころりんにさせるだけん」ニコニコ
- 18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/15(日)
コメント一覧
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- 2013年12月16日 23:50
- 切ない気持ちになったけど面白かった
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- 2013年12月16日 23:53
- のんのんびよりっていうタイトルを見た時
俺も最初にのんのんばあとオレを思い出したよ。
-
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