女「せっかくだしコワイ話してください」|エレファント速報:SSまとめブログ
女「せっかくだしコワイ話してください」
- 1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/18(月) 23:43:47.50 ID:ADNj5tfhO
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第一話「 」
- 3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/18(月) 23:56:08.18 ID:ADNj5tfhO
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女「せっかくだしコワイ話してください」
男「……」
女「なんで急に黙っちゃうんですか?」
男「いや、お前こそどうして急にそんなことを言い出すんだよ」
女「だって、せっかく生徒会室に私が遊びに来たのに、先輩ったら全然相手をしてくれないじゃないですか」
男「見たらわかんだろ。忙しいんだよ」
女「スマホ、いじってるようにしか見えないんですけど」
男「文化祭実行委員のメンバーのメアドを手打ちしてんだよ。伝え忘れたことがあって」
女「本当ですか……って、ホントだ。一応、先輩も生徒会会長として働いてるんですね。関心です」
- 4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/18(月) 23:58:39.28 ID:ADNj5tfhO
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男「うるせーよ。とにかくオレは忙しいんだ、だから帰れ」
女「他の生徒会の方はいないんですか?」
男「……不思議なことにみんな、今日も用事があるらしい」
女「今日も?」
男「……今日も、だ」
女「人望があんまりないんですね、先輩……」
男「……そもそも無茶ぶりにも程がある。面白い話をしろ、っていうならともかく、怖い話をしろって……。
どう考えても即興では無理だろ」
女「無理なんですか?」
男「無理だ」
- 5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:00:54.62 ID:t8zJLwEbO
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女「とか言って本当は一個ぐらい、とっておきの話があるんでしょ?
だいたい生徒会執行部の長がこの程度のふりに答えられないわけないですよ」
男「……まあ、ないこともない」
女「やっぱり!」
男「ひとつだけ聞いていいか?」
女「なんですか?」
男「なんでホラーなんだ? 『話』にしたってもっと色々あるだろ」
女「べつに。はっきり言って深い理由はないんですけどね。あ、でも季節は夏真っ盛りですし」
男「夏と言えばホラーってわけか」
- 6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:02:26.40 ID:t8zJLwEbO
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女「はい。ですからコワイ話を聞かせてください」
男「じゃあ、オレが話したら帰れよ。生徒会室に一般のヤツがいたら、なに言われるか顧問にわからないし。
まあ、バレないとは思うけど」
女「細かいことはいいから、早く話をしてくださいよー」
男「……わかったよ。でもこの話、ホラーではないからな。あくまで怖い話だ」
女「了解です」
- 7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:05:40.88 ID:t8zJLwEbO
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このSSは女「せっかくだしコワイ話しない?」というSSの続編ものです。
一応はじめて見る人でもわかる内容にはなってると思います。
- 8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:08:57.85 ID:t8zJLwEbO
- 第二話
- 9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:11:23.44 ID:t8zJLwEbO
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1
「ごめんね、せっかくの休日なのに付き合わせちゃって」
席について私は今日何度目かになる謝罪を口にした。
「そんな何回も謝らなくっていいっすよ、水臭いっすよ。
それに最近アルコールとは縁のない生活してたんで、飲みたいと思ってたとこなんですから」
後輩が私を気遣って、浅黒く焼けた顔に笑みを浮かべる。
後輩と共に訪れたハブは客もまばらで、話をするにはちょうどいい環境だった。
ここのところ私はある一連の出来事のため、かなりまいっていた。
今の自分の境遇を聞いてほしくて、私は彼と会うことにした。
「まあとりあえず飲みつつ、ゆっくり話してくださいよ」
- 10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:13:09.38 ID:t8zJLwEbO
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乾杯、互いのグラスを合わせて私は一口だけカクテルに口をつける。
店員が勧めてきたカクテルはまずくはないがうまくもなかった。
「それで? 話したいことってなんすか?」
後輩が身を乗り出して聞いてきた。
「……ここのところ、あまりにもイヤなことがありすぎてさ。
愚痴、じゃないけど話を聞いてほしかったんだ」
「どうぞどうぞ、話してくださいよ。
いくらでも聞きますよ、明日もオレ休みなんで」
私は後輩の言葉に甘えることにした。
- 11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:20:49.24 ID:t8zJLwEbO
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2
母が死んだ。
ちょうど今から一年ぐらい前の話ことだ。
うちの家は父、母、私の三人家族。
父は大学教授で年収は相当なものだったが、だからと言って自分の家が特別他人の家より裕福だと思えたことはほとんどない。
思い当たることがあるとすれば母が生前、パートに出ることもなく専業主婦を続けられたことぐらいか。
母が死んだ日、私は仕事が休みで家でダラダラとしていた。
仕事で身をを擦り減らす毎日は私の休日を堕落したものにしていた。
父は学会がどうとか言って、出かけていたはずだが、よく覚えていない。
その日の昼食を食べ終えたあたりで固定電話に着信が入った。
家には誰もいなかったので仕方なく私は出た。
もしもし、と低い男の声が電話越しに私の鼓膜を叩く。
『――のお宅でよろしいですか?』
はい、と答える。『落ち着いて聞いてください』という前置き。
受話器を持っていた左の掌はなぜか汗ばんでいた。
- 12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:28:18.76 ID:t8zJLwEbO
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電話の相手は私の母が死んだと言った。
受話器を握る指先が冷たくなり、全身の血が足もとに落ちていく音が聞こえてくるようだった。
警察署に駆けつけると父が既にいた、私と父は目を合わせなかった。
警察の人に案内されまま、私と父は簡素な霊安室へと入る。母の死体を見ると、いよいよ私は嗚咽を止められなかった。
母が死んだ、その事実を母だった死体にはっきりと告げられたようで、あふれる涙を抑えられなかった。
母の無惨な死体にすがりついて私は泣き叫んでいた。
このとき死体にすがりついたのは私だけだった。父はどんな顔をしていたのだろう。
その後の記憶は霧の奥に隠れてしまっている。
警察の人が死亡解剖がどうとか、死体検案書がどうとか言っていたが、それらには全て父が受け答えしていた。
私にはそれらの意味を理解する余裕はなかった。
母の死は私から時間の感覚さえ奪っていた。
気づいたら私は父と一緒に警察署を出ていた。
私も父も、自分たちの車でここまで来ていたので駐車場へ向かった。
「……これからどうなるんだろ?」
不意にそんな言葉が口をつく。
無意識に不安から出てしまった言葉はしかし、風にさらわれたのか、返事はない。
沈黙が冷たい風となって私と父の間をすり抜けていく。
私と父がそれ以降口を開くことはなかった。
- 13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:32:14.11 ID:t8zJLwEbO
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昔はそこそこ仲の良い親子だったと思う。けれど気づくと私と父の関係は歪なものになっていた。
そしてそれは父と母の関係にも言えた、二人の関係は最悪だった。
口喧嘩が耐えないときはまだマシだったのかもしれない。
この数ヶ月、二人が口をきいてるのを見たことがなかった。
父と母の両方が家にいるだけで、空気は張り詰めて、肌に突き刺さるようだった。
私は決まってそういう場合は、自分の部屋か外へ逃げた。
ここ最近で一度だけ二人が口論をしたのは知っている。
母が事故に遭う前日だ。その日は私も家にいた、部屋からはもちろん出なかったが。
かけ違うボタンさえ無くしてしまった二人に、私ができることは本当になかったんだろうか。
- 14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:35:05.71 ID:t8zJLwEbO
- 3
母の死から一ヶ月半が経っていた。
葬儀もなんとか終わり、私の生活もすっかり母が死ぬ前のものに戻っている。
家内に張り詰めていた冷気は成りを潜め、代わりに生ぬるい風が気だるげに窓から窓へと抜けて行くようになった。
母が死んだ直後はあれほど涙が止まらなかったのに、今の私はどこか安堵感さえ覚えている。
悲しみの潮の引きは、同時に一つの疑問の塊を浮かび上がらせた。
母は本当に自殺だったのだろうか、という小さな疑問。
このことについて深く考えようとは思わない。警察の検視の結果は事故死。裁判だって近いうちに始まる。
煙のようにとりとめのない思考を、胸に仕舞い込んで帰路につく。
家に着くと既に父は帰宅していた、珍しいことだった。
- 15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:38:45.54 ID:t8zJLwEbO
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リビングのテーブルにはスーパーで買ったのだろう惣菜と寿司が置いてあった。
普段ならあり得ない父の用意に、私は思わす構えてしまう。
「どうしたの、なんかあったの?」
父とはここ数年、事務的なことでしか話したことがなかった。
言葉は自然と刺々しくなる。
「いや、たまにはお前と一緒にご飯を食べようと思ってな」
「そう……」
「とりあえず座りなさい」
促されるまま席へと腰かける。
「いったい急にどうしたの?」
「あぁ……その、だな。実はお前に話しておきたいことがあってだな」
「はっきり言って欲しいんだけど」
ささくれ立った木を指でなぞるようなしゃべり方が、妙に気に障った。
- 16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:44:41.11 ID:t8zJLwEbO
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「そうだな、すまない。実は父さんな……」
父は私と目線を合わせようとはしなかった。
「再婚することにしたんだ」
私はなにも答えられなかった。
呆然とする私を無視して父は訥々とした語りを続けて行く。
父の言葉は淡い霧のように私の耳を素通りして、ほとんどの内容は頭に入らなかった。
それでも二つだけ、父の結婚相手についてわかったことがある。
父の結婚相手は自分の大学の教え子であるということ。
そして、私よりも年下であるということだ。
- 17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/11/19(火) 00:49:34.37 ID:t8zJLwEbO
- 4
「どうもはじめまして、あなたがユイさんですね」
私の母親になる女が頭を下げる。
明るい髪が滑らかに彼女の肩から滑り落ちて、柑橘系の甘ったるい香りがした。
「……はじめまして」
人がほとんど入っていない夕方の喫茶店。
そこで、私と父、そして父の結婚相手は初の顔合わせを行うことにした。
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