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モバP「五光年先の星空」|エレファント速報:SSまとめブログ

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モバP「五光年先の星空」

1: ◆m03zzdT6fs:2013/10/15(火) 00:55:03.46 ID:3D16iz0No

アナスタシアさんのSSです。
勝手設定+ご都合主義+視点変更(予定)あり。P視点のストーリー展開になります。
最低でも週始め、月-火曜には更新をする予定です。書き上げが早ければ週半ばにも行います。
以上の点にご容赦がいただけましたら、今回もお付き合いいただけると幸いです。



2: ◆m03zzdT6fs:2013/10/15(火) 00:56:13.60 ID:3D16iz0No

 僕は天才と言う言葉が嫌いだ。えてしてそう他人を評価する人は、まずその評価相手のことをこれっぽっちも理解していない。

 なぜそう言い切れるか。それは、僕がそう言われて育ってきたからだ。彼らは無責任に僕のことを天才と呼ぶ。両親も、僕のことをそう呼んだ。

 もっとも、実際に僕は他の人よりも優れているとは思う。高校に入学するときには、もうすでに高校で学ぶ大半のことを習得していたし、大学に入っても特に苦労したことはない。

 そのせいか、天才という評価にいけ好かない奴、なんて評価までおまけでやってきた。そんなつもりはなかったんだけれども、人にはそう見えたらしい。

 当然、そうなると友人はおろか、思い出なんて物さえほとんどない。数少ない思い出は、大学三回生の時の、ロシア留学ぐらいだろう。



3: ◆m03zzdT6fs:2013/10/15(火) 00:56:55.03 ID:3D16iz0No

 国柄の違いか、あちらの人は僕のことを、天才という色眼鏡を通さず、しっかりと見てくれた。特に、向こうで出会った教授は、僕に親しい友人がいないことを慮ってか、良く気を掛けてくれた。

 彼は変わり者の教授で、向こうでは変人と専らだった。ありとあらゆることに精通し、日本のこともよく知っていたが、子供の様に好奇心旺盛で、講義のカリキュラムが予定通りに進むことはない。そんな教授だ。

 僕は幸いにも気に入られていたようで、毎晩のように教授の家へ招かれては、ウォッカ片手に気象観測や実験などを手伝わされた。

 日本へ帰国するときには、十年に一度の逸材と言われ、助手にならないか、と誘われたが、僕自身は研究者になるつもりは無かったので、丁重にお断りした。そんなロシア留学だった。



4: ◆m03zzdT6fs:2013/10/15(火) 00:57:28.05 ID:3D16iz0No

 日本ではそんな経験はほとんどなく、ただひたすら試験の勉強をして良い成績を取り続けただけだ。結果、大学を首席で卒業し、表彰までされた。

 だが、どうやらそれだけでは、社会では生きていけないようだ。それを知ったのは、人より遅れて始めた就職活動のことだった。

 ――君からは、気持ちを感じないね。

 あるとき、僕が企業の人事担当者から言われた言葉だ。正直に言うと、いまだにその言葉の意味は理解できない。

 気持ちが何の役に立つ、と僕は思う。必要なのは、どれだけ仕事をこなし、どれだけ成果を上げ、どれだけ業績を伸ばせるかだろう。

 結局、僕はその企業の面接で落とされたわけだが、他にも企業からの内定は腐るほどあったことだし、気にすることはなかった。

 そして、僕は国内でも有数の大企業に入社した。順風満帆な人生だ。いわゆる勝ち組、と表現されるだろう道へ、僕は足を踏み入れた。

 しかし、僕の道はそこまでだった。



5: ◆m03zzdT6fs:2013/10/15(火) 00:58:17.48 ID:3D16iz0No

 最初の頃、僕は精力的に働いていた。新しい環境、新しい仕事に、意欲的に取り組んだ。業績も、新人にしては異常なペースで積み上げて行った。

 だが、ある日突然、働く意欲がスーッと、無くなっていくのを肌で感じた。なぜここで働いているのか、その理由が分からなくなったからだ。

 結局、一年と経たないうちにその企業を、僕は辞めてしまった。上司からは慰留の説得を受けたが、なぜ自分が必要とされているのか、と言う事さえ僕にはわからなかった。

 その次に転職した企業も、その次も。時には一か月も持たず、僕は辞めることになった。そして、次第に僕の働く期間は短くなっていった。

 大学を卒業して三年弱で、すでに十を超える職を転々としていた。そんな自分を見ていると、何のために生きているのか、と思う。そして、僕にはその理由が分からない。

 人間五十年、と遥か昔の人は人生を表現した。その五十年の半ばを過ぎようとしながら、皮肉なことに僕は、自分で手に入れたはずの才覚を持て余している。



6: ◆m03zzdT6fs:2013/10/15(火) 00:58:54.09 ID:3D16iz0No

「君、ちょっといいかね?」

 春雨によって、葉桜が見え始めた桜並木のその下。多くの人が、新生活に心躍らせるこの季節に、陰鬱としてベンチに座っていた僕に、そんな言葉が掛けられる。

「……ふむ、酷く濁った眼をしているね。しかし、君はとんでもない宝玉のようだ」

 見ると、恰幅の良い、活気あふれる中年の男性だ。いったい何の用だろうか。思いながら、僕は胡乱な眼差しを彼へと向ける。

 ――彼が、次の転職先の社長になることを、この時の僕はまだ知らない。



12: ◆m03zzdT6fs:2013/10/18(金) 00:12:04.90 ID:BTrtdNaVo

 少し騙された気分だった、と言ったら語弊があるだろう。これを詐術としてしまうなら、間違いなく騙された僕が悪い。

 あの日は前の職場に辞表を提出した帰りで、鬱々とした気分だった。しかし、そのことを差し引いても、ろくすっぽ話も聞かず、その場で契約書にサインをするのはあまりにも軽率だった。

 なので、そんな社会人としてあるまじき行為をした僕に全責任があるのは自明の理である。悪質なキャッチセールスだったら、今頃数百万の請求書が僕のもとにやってきているに違いない。

 そんなことを思いながら、僕はいまだ新品同様にきれいな色スーツを着て、雑踏を歩く。

 結局、あの日声を掛けられた中年男性が何者なのか、今でもよくわかっていない。聞いたことと言えば、新設予定の芸能事務所の社長である事と、その事務所の名前だ。

 シンデレラガールズ・プロダクション、という名前の事務所だそうだが、生憎芸能に疎い僕には聞き覚えのない名前だった。



13: ◆m03zzdT6fs:2013/10/18(金) 00:13:04.45 ID:BTrtdNaVo

(まあ、新設されるんだから知らなくて当然なんだけど)

 その日の僕は、これ以上ないぐらいくらい楽観的であり、同時に悲観的でもあった。

 すなわち、新しい仕事がどの程度、自分をこの職に留めておいてくれるのかという、聞く人が聞けば、傲慢と受け取られること間違いない考えである。

 もっとも、僕にとってはかなり致命的な問題であるのも、間違いないことである。これまで職を転々としているが、能力不足や体調不良が理由ないことがその証左であり、同時にこれ以上なく厄介なことでもあった。

「今度は、三か月持つといいけれど」

 そんな呟きを零し、僕は駅前のタクシー乗り場へとやってくる。数人、すでに列をなして待っている人の後ろにつくと、ポケットからスマートフォンを取出し、予定を確認する。

 ――この日の十四時に、うちの社屋にまで来てくれ。

 あの男性はそう言っていたが、どうやら定刻通りに到着できそうだ。流石に今日から勤務日ではないとは思うが、初日から遅刻をするほど、常識を知らないわけではない。

 と、やがて自分の順番がやってきたのか、僕の目の前でタクシーの扉が開く。



14: ◆m03zzdT6fs:2013/10/18(金) 00:13:33.76 ID:BTrtdNaVo

『ええと、シンデレラガールズ・プロダクションまで。住所は――』

 タクシーの運転手へそう伝えると、扉が閉まり、タクシーが動きはじめる。

 僕は、ビジネスバッグのポケットへスマートフォンを仕舞い込むと、少しの間目を閉じる。駅からおよそ十五分の距離だ。大通りを進んで、少し支道へと逸れた場所にあるらしい。

 しばらくすると、いくつか道を曲がる感覚を感じ、僕は目を開けた。時間も丁度いい具合で、間もなく到着するだろう。

「到着ですよ、お客さん」

 そんなタクシーの運転手の声と同時に、僕はポケットの財布を取出し、支払いを済ませる。領収書を受け取ると、タクシーから降りる。

 そして、目の前にある建物をゆっくりと見上げた。四階建ての、ガラス張りが良く映える、小奇麗な社屋だ。

 事前に調べたところによると、社屋自体は完成していて、あとは調度品の運び込みと、併設される寮の完成を待つだけらしい。



15: ◆m03zzdT6fs:2013/10/18(金) 00:14:08.08 ID:BTrtdNaVo

『大きい……、のかな?』

 社屋を見て、僕はそう零した。疑問符がついてしまうのは、この社屋よりずっと大きい社屋を持つ会社で働いていたことがあるからだ。

 比べるものではない、とは思うものの、どうしても比べてしまうのは人間の性だろうか。

(まあそんなことは置いといて、とっとと入ろう)

 あっさりと僕は回転扉を潜り、中へと入る。特に気負いなどもなかったのだが――。

『……は?』

 僕は絶句する。

 このサイズの社屋だと、入ったところにはエントランスホールと待ち合い場所、そして受付が存在するはずである。

 だが、僕の目の前に広がっているのは――大量の書類が積み上げられた、一つのデスクだけだった。



16: ◆m03zzdT6fs:2013/10/18(金) 00:14:37.74 ID:BTrtdNaVo

 しばらく呆然としていた僕だったが、我に返ると、恐る恐るそのデスクへと近づく。すると、その向こうからがりがり、とペンを走らせる音が聞こえてくる。

『失礼します、どなたかいらっしゃいますか?』

 僕はデスクの向こうへと声を掛けると、次の瞬間、

「あっ、はいはい! います、いますよぉ」

 という声と共に、書類が崩れ、その向こうから若々しい男の姿が一つ、現れる。……ものすごく、悲惨な顔をしながらだ。



17: ◆m03zzdT6fs:2013/10/18(金) 00:15:31.22 ID:BTrtdNaVo

「ああ、せっかく積み上げた書類が……っ」

『大丈夫ですか』

「あっ、はい、大丈夫ですよ! それで、どのようなご用件で?」

 自分と同じかやや幼いように見えるその青年は、首から社員証を提げていた。

「あっ、申し遅れました、私、こういう者です」

 そういうと、彼はポケットから名刺を取出し、僕へと渡してくる。社交辞令的に自分も名刺を取り出すと、とりあえず交換をし、名刺ファイルへと滑り込ませる。

 ちらり、としか見ていないが、どうもプロデューサーの様である。誰かの管理をするには、いささか若すぎるようにもみえるが、新興企業だからなのかもしれない。

 ともかく、僕は事情を説明する。十四時に約束があったこと、社長にスカウトされて働くことになったこと。しかし、それを聞くと彼は、

「妙ですね、社長は今朝方スカウトの旅に出られて、帰るのはかなり先の予定ですけれども」

 と、やや小首を傾げる。



18: ◆m03zzdT6fs:2013/10/18(金) 00:15:59.07 ID:BTrtdNaVo

『いらっしゃらない?』

「ええ。西のほうへいってから北の方へ、アイドルとスタッフを捜してくると言い残して、カバン一つだけで行かれました。まあ、いつものことなんですが」

 プロデューサーは、少し苦笑をしながら、そう言った。

 やはり、騙されたのだろうか。あの契約書は、なにか危うい契約の契約書だったのではないだろうか。そう思った矢先だった。

「あなたが、Pさんですか?」

 唐突に聞こえた、女性の声。そちらを向くと、緑色を基調にした、フォーマルともカジュアルともいえない、独特の服を着た女性が居た。

 太く長い三つ編み髪を、横から胸のほうへたらした彼女は、ともすればこの事務所に所属するアイドルであると言われれば信じてしまうほど、綺麗な人だ。

「ちひろさん? まだ出社の日ではないはずでは」

「ええ、プロデューサーさん。ですが、社長から言伝を預かっていまして、今日は特別出勤なんですよ」



19: ◆m03zzdT6fs:2013/10/18(金) 00:16:36.50 ID:BTrtdNaVo

 ちひろ、と呼ばれたその女性は、プロデューサーに向けて少し微笑みかけると、今度は僕のほうへ向けて微笑んでくる。

「初めまして、ようこそシンデレラガールズ・プロダクションへ、Pさん。私、プロデュース部門の専属事務員である、千川ちひろ、といいます」

『……初めまして、Pといいます』

 千川さんは笑って、自己紹介をしてくる。僕は、それに対し簡素で形式的
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    コメント一覧

      • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2013年12月21日 20:40
      • わん
      • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2013年12月21日 20:45
      • とぅー
      • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2013年12月21日 20:52
      • Vスリー
      • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2013年12月21日 20:56
      • お前ら感想かけよぉ
      • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2013年12月21日 20:57
      • まだわたVが感想をする時ではない
      • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2013年12月21日 22:21
      • 黒川さんときのほうが面白かったかなー、って

        ※5
        兄様仕事ーっ!働いてください!
      • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2013年12月21日 23:50
      • お、これ完結してたのか
        別所でちまちま更新されてたからいつ終わるか待ってたんだ!
      • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2013年12月21日 23:51
      • アーニャのいとおしさにじーんときてたら※欄でこれだよ!吹いたじゃねえか!

        アーニャかわいいよアーニャ
        (金欠でガチャを諦めた)非力な私を許してくれ。

        ※5
        いい加減働けよ!働けぇ!
      • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2013年12月21日 23:54
      • 天才()無気力Pが
        実はアーニャと昔会ってたから
        結婚した話
        起承結で終わった感じ
      • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2013年12月21日 23:54
      • 茄子さんも千秋も可愛かったけど、アーニャも可愛いなあもう!!

    はじめに

    コメント、はてブなどなど
    ありがとうございます(`・ω・´)

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