lain「second experiment」
- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 20:47:23.40 ID:C6DPUWh/0
細く高い電柱が幾本も乱立して、
遠くに見えるビル群の彼方まで多数の電線を這わせている。
寡黙に歩く人の群れは、出勤や通学の為に駅へと足を進める。
疲れた目、生気のない足取り。
まるでプログラムされた動きであるかのように毎朝この光景は繰り返される。
その中に混じって道を歩いていると、低い唸りの様な音が耳につく。
その音の出どころを探る為に空へと顔を上げると、
すぐに、張り巡らされた電線が視界に入る。
- 4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 20:48:06.89 ID:C6DPUWh/0
「うるさいなぁ・・・黙ってられないの・・・?」
玲音は小さく口に出した。
- 8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 20:52:18.35 ID:C6DPUWh/0
人間の中枢神経系を拡張したモノが、情報世界のネットワークだと言われている。
人間は紀元前より、身体の機能を人工物で拡張させてきた。
拳の拡張に石を、皮膚の拡張に衣服を、足の拡張に車輪を。
そういった枠組みに当て嵌めるなら、ネットワークとは人間の中枢神経系だというのだ。
つまりは脳や脊髄だということだ。
より詳しくいうなら、海馬であり大脳新皮質であり
線条体、視床、視床下部、下垂体、小脳、延髄等である。
- 10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 20:56:21.28 ID:C6DPUWh/0
玲音はワイヤードに潜り込む。
相も変わらず益もない話が飛び交い、笑い、罵り、恨み、喜びと、
あらゆる感情が銀河のように渦巻き、
無数の発言が生まれては流され、消え、また生まれる循環運動を繰り返している。
玲音「誰も私を認識していないけど、私はそこに偏在する」
誰に言うでもなく玲音は意味もなく現れては積もり消えていく声という声に語りかけた。
『Dear,lain』
その電子メッセージは唐突に現れた。
- 12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:00:20.57 ID:C6DPUWh/0
玲音「私宛のメッセージ?」
玲音「だれ?」
『Dear,lain ;Hello,lain。ハジメマシテ。
あなたにお話ししたいことがあって電子メールを送ったのだけど、迷惑だった?』
玲音「迷惑なんかじゃないよ。でも一体どうして私に気付いたの?」
『あなたはどこにでもいるし、どこにもいない。
探すことは不可能だけど、語りかければあなたの側から気づくことはできるでしょ、lain』
玲音「でもあなたは、私の存在すら知らないはず。知らないものに対して語りかけるなんてできるの?」
『あなた自体を認識できなくても、情報世界の不自然な現象の断片、端々から、貴方の存在を間接的に推測することはできるよ』
玲音「そんな痕跡・・・信じられない」
『例えばプロトコル7に無理やり整合性をとってつけたようなプログラムを発見したり、
ネットワークから生まれる仮説、例えば集合的無意識について検証したり、ね、
集合的無意識のlain』
- 14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:04:40.78 ID:C6DPUWh/0
玲音「・・・・・・すごい。そんな切れ端から私の存在に行きつくなんて、
並の人にはできっこない」
『ありがとう、lain。そして、こうして私が連絡をとったのは、
あなたとお話がしたいからだよ、lain』
玲音「そのお話って?」
『あなたと直接会って話をしたいから
・・・そうね、喫茶店で待ち合わせしましょう』
玲音「・・・わかった。私もあなたと会って話がしてみたい」
『ええ。それじゃあ、また、lain』
- 15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:08:09.81 ID:C6DPUWh/0
――人間の中枢神経系が、所謂意識というものを生み出しているという推測は、
その実証が困難なことから、未だ推測に過ぎない。
やがてスーパーコンピュータの発達により、ニューロンとニューロンの伝達、
脳内の微細伝達物質を完全にシミュレートする時が来るだろうと予想されているが、
それはもう少し先の未来になりそうである。
この、意識が中枢神経系で生み出されているという仮定の下で話を進めるのなら、
ネットワークとは意識の媒体そのものであるということだ。
- 17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:10:19.67 ID:C6DPUWh/0
喫茶店
少女「こっちだよ、lain!」
玲音「あ、・・・うん」
少女「ハジメマシテ、lain」
玲音「ハジメマシテ」
少女「ふふ、驚いた?」
玲音「驚いた。まさか私の存在を認識されるなんて思いもしなかった」
少女「そう?」
玲音「・・・?うん。だって、私はあの時」
少女「書き換えた」
玲音「うん。だから、私はただ偏在するだけだって・・・」
少女「でもこうして会えた。未来には何があるのかわからないものだよ、lain」
- 20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:14:12.29 ID:C6DPUWh/0
玲音「私嬉しい」
少女「嬉しい?」
玲音「だって、誰かとこうやってお喋りできるなんて、思ってもみなかった」
少女「lainとしてお喋りしたのは私が初めて?」
玲音「うん。前に友達とお話したこともあるけど、向こうは覚えてないから・・・」
少女「寂しいね」
玲音「うん。世界は回るけど、私はその外でいつも皆を眺める事しかできなかったから・・・」
少女「そっか。それなら、玲音が喜んでくれてよかった」
玲音「うん。今日はありがとう」
少女「いえいえ。どういたしまして」
玲音「こんなに嬉しいのは久しぶり・・・」
- 22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:18:17.32 ID:C6DPUWh/0
少女「あ、そうだ。さっそくだけど何を頼む?」
玲音「じゃあ紅茶を・・・」
少女「そっか、――じゃあマドレーヌも頼もうか?」
玲音「・・・・・・」
少女「どうしたの、lain」
玲音「あなたは何処まで知っているの?」
少女「――あなたに関してのこと」
玲音は少女の目を見つめ返した。
少女「つまり・・・ワイヤードに関しての事」
玲音「今日・・・・・・お話したいことって?」
少女「それはね、lain」
玲音「・・・・・・」
少女「あなたがいずれ消える話」
少女「情報の海へと還元される話」
- 24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:21:37.94 ID:C6DPUWh/0
情報ネットワークの中に存在する集合的無意識が、
人の心理に働きかける影響の強さは解明されていない。
かつて地球のシューマン共鳴といわれる8ヘルツの固有振動波を介して
集合的無意識に働きかける人工的な試みがなされたが、
全くの自然下での意識への働きかけについては未知数である。
しかし、その片鱗は社会的な事象や現象によって確認することができる。
ネットワークを通じて行われる世論の変動やイデオロギーの高まりはその最たるものである。
- 26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:25:12.01 ID:C6DPUWh/0
玲音「どういうこと?」
少女「――、と、まぁそんな話は置いておいて、遊びにでも行こうか、lain」
玲音「・・・話を・・・逸らさないで」
少女「・・・・・・ごめんごめん冗談だよ。怖い顔しないで、lain」
玲音「だって急にそんな話をするから・・・」
少女「でもあなたも気付いているんじゃないの?」
玲音「え?」
少女「それともまだ、気づいてない?」
玲音「なに・・・に・・・?」
少女「あなたが、うっすらと透けている事」
玲音「え?」
- 27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:29:13.67 ID:C6DPUWh/0
――ただし、集合的無意識は何もネットワーク上のみに存在していたわけではない。
過去、情報を伝達する手段が現れた時から
人々はその思想、趣向、慣習、習俗等は集合的無意識からの影響にあり、
それは革命の機運や洋装への転向が徐々に浸透したように緩やかな変化をもたらした。
現代のネットワーク上のそれは、情報の伝達が同時多発的に行われる為に、
瞬時に、広範に、無差別的に影響されるというものに変化したに過ぎない。
そして、忘れてはならないのが、情報ネットワークもまた、ただの情報媒体に過ぎないということである。
- 30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:33:16.06 ID:C6DPUWh/0
玲音「透けてる・・・?」
玲音「手が・・・」
玲音「うっすらと透けて向こうの景色が見える・・・」
玲音「どうして・・・」
手を握ったり開いたりしてその現象を確認する。
玲音「・・・・・これは・・・なに・・・?」
少女「lainは、ワイヤードとリアルワールドを玄関でもまたぐように簡単に超えられるから、
世界観が曖昧になってて気付かなかったんだね」
玲音「・・・どうして」
少女「あ、そうだ。紅茶を頼まないと」
玲音の動揺を意に解してないようにふるまう少女に対して、玲音は面食らう。
少女「その話は長くなりそうだから、まずは口を潤したいんだよ、lain」
玲音「・・・・・・わかった」
やがて紅茶が運ばれてくる。
- 31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:36:27.99 ID:C6DPUWh/0
玲音は一口も口をつけない。
少女「lainは、何故自分の体が薄くなっていると思う?」
玲音「わからないよ」
少女「こう言えばいいかな。lainは普通の人間じゃない」
玲音「うん。私は普通の人間じゃない」
少女「lainは集合的無意識」
玲音「うん。私は集合的無意識。ワイヤードの中で生まれた皆の意識の集合体」
少女「つまりlainが薄くなっている理由は?」
玲音「・・・・・・ワイヤード内に存在する集合的な無意識が・・・薄くなっている?」
少女「そういうこと」
少女は笑みを見せる。
- 32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:39:09.99 ID:C6DPUWh/0
玲音「でも、なんで?」
少女「思い当たる節はない?」
玲音「そんなの、ないよ」
少女「良く考えてみて」
玲音「そんなこと言われても・・・」
玲音は困ったように顔を伏せて、しばらく一人で考え込んだ。
- 34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:42:14.59 ID:C6DPUWh/0
――玲音たちから然程離れていない席では、学生と思われる集団が、
店の備品に不衛生な行為を行う事を楽しんでいた。
騒ぎ声の渦巻く中、彼らの一人が携帯型デバイスを取り出し、
その狂騒の一部を写真に収めた。
やがてこの画像データは彼らのSNSに送信され、
公開されたデータは世界中の幾万の人の目にとまることになるだろう。
彼らのプロフィールと共に。
- 35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/12/28(土) 21:45:13.73
コメント一覧
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- 2013年12月29日 16:40
- リストアはされたんやで。変態画質で
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- 2013年12月29日 17:00
- 新たに現れたSNSなどにおける強調される個の増加が、
匿名性のある集団心理に根ざしたlainをどう再定義するか
みたいな話にしたいんだろうけど、ネットが当たり前になって
いくら規模も大きく、多様性が増えたといっても、目立ちたい奴も、
LINEみたいな匿名じゃないSNSも昔から普通にあった。
むしろまとめサイトやTwitterで匿名を笠に着て、集団ですぐ炎上するみたいな
現在の方が作者が描いたlainをより色濃くしそうだと思う。
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- 2013年12月29日 17:08
- lainのSSだと?
目を疑ったぞw
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- 2013年12月29日 17:20
- lainのSS!?
珍しいのを見かけて何回も見返した
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- 2013年12月29日 18:37
- lainのopが特徴的だったな
正直、半分も分からんかったけど
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- 2013年12月29日 19:07
- 前のと同じ作者か
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- 2013年12月29日 19:49
- おおお、lainのSS見たの二回目だ。多分次見るのはこの>>1が書きたくなった時だな
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- 2013年12月29日 20:13
- 前作のが読みやすかった
もっと上手く書け
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- 2013年12月29日 20:36
- lainのSSなんて珍しすぎるというか前に見たやつと同じ作者か
書いてる1人だけなんだろうな…
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- 2013年12月29日 20:41
- 今の時代で神話性を持つものって何かな
量子コンピューターとか?
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- 2013年12月29日 22:12
- 正直、90年代のアニメはlainとウテナが白眉
久しぶりに懐かしいものを見た
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- 2013年12月29日 22:47
- 管理人lain好きなんだなw
監督亡くなられた時にも見たし
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- 2013年12月29日 22:57
- 原作は好きすぎてアニメもゲームも画集も買ったなぁ
OP大好きだわ
もう15年も経つのか
ネットが普及した現代だからこそこの作品は映えると思うんだけどなあ
是非リメイクを