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サイエンス誌が選ぶ、2013年の科学10大ブレークスルー - Technity

サイエンス誌が選ぶ、2013年の科学10大ブレークスルー

2013年12月31日 18:03 │Comments(1)

Written by dequal

今年も残すところあとわずかとなりました。2013年の科学業界では、ヒッグス粒子に関する研究がノーベル賞を受賞したことを始め、明るい話題が多くあったように思います。そんな中、米国の科学誌「Science」は、2013年の科学10大ブレークスルーを選出しました。

Breakthrough of the Year 2013:がんの免疫療法

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Science誌が選ぶ10件のブレークスルーのうち、栄えある “Breakthrough of the Year 2013 に選ばれたのは、がんの免疫療法に関する研究です。厳密に言えば抗体医薬に関する研究で、「二種類の抗体薬を併用することにより、進行悪性黒色腫(悪性度が高いがんの一種)患者の半数に、腫瘍の縮小を確認できた」という内容です。

ちなみに、2012年のBreakthrough of the Yearには、先述の「ヒッグス粒子に関する発見」がノーベル賞受賞前に選出されています。

以下、Breakthrough of the Yearに続く9件に優劣はなく、便宜的に番号をつけていきます。

②RSウイルスのワクチン開発

Respiratory_syncytial_virus

RSウイルスは2歳までの乳児の多くが感染し、細気管支炎・肺炎などの症状を引き起こすウィルスです。特に生後半年までの新生児期に感染すると重篤になる場合があり、注意を要する疾患であると言われています。

RSウィルス感染の治療は、主に発熱やぜん動などの症状を抑制する対処療法が一般的でした。感染リスクの高い子供には、ある種の抗体が投与されることとなりますが、その費用は一回の投与につき約1000ドルの費用がかかり、非常に高価なものとなっています。

米国アレルギー・感染症研究所は今年5月に、抗体の活性な構造を発見し、ウィルスと抗体の構造を詳細に理解することがワクチン設計のカギであることを見出しました。今秋には、同様の手法でHIVウィルスのワクチン設計に応用されています。

このような構造生物学的手法が、ワクチンのデザインに有効であることが証明されたため、今後、種々のウイルス性疾患に展開されていくことが期待されています。

③脳の透明化

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脳を透明化するという、非常にインパクトのある技術「CLARITY」が開発されました。これまでに、組織を透明化する技術は既に開発されていましたが、これまでは透明化処理後の脳組織は不安定で、研究に活用するには不十分でした。

このCLARITYは、細胞膜を構成する脂質を電気泳動法によって除去することにより透明化を達成していますが、その処理後の組織の安定性に特徴があります。この手法を利用すれば、複雑な脳の構造を可視化することができますが、直径4ミリのマウスの脳を透明化するのに9日も要する点が課題であると言えます。

④次世代のペロブスカイト太陽電池

Dr. Henry Snaith from Oxford photovoltaics holding glass with printed solar cell

現在主流となっている太陽電池は、シリコンがベースとなっており、約20%の変換効率で太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することができます。しかし、シリコンベースの太陽電池は、作製のために高温・高圧力を要したり、高価な貴金属を使用しなければならない点が製造コストを圧迫する原因でした。

ペロブスカイト太陽電池は、安価な原料を溶液内で混合・乾燥させるだけで合成できることが特徴です。特筆すべき点は、その均質な結晶性です。結晶性は、変換効率にダイレクトに影響を与えることが知られていますが、ペロブスカイト太陽電池は、簡易な作成法にも関わらず、高品質な結晶性で得られます。

課題は、ペロブスカイト太陽電池が水・空気に弱く、結晶の均質性が崩れてしまう点にあります。既に着手しているとのことですが、今後の技術展開には、ペロブスカイト太陽電池の耐候性の向上が不可避でしょう。

⑤次世代の遺伝子操作技術「CRISPR」

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2013年のホットなトピックスである新しい技術CRISPRは、遺伝子をハサミで切ってノリで貼りつけるように、便利な遺伝子操作のツールです。

2012年に登場した本技術は、試験管内でゲノム操作ができ、既に世界中の研究室で実施されているとのこと。本技術は、細菌がウィルスから身を守る時の獲得免疫系のシステムを応用したもので、HIVウィルスやたんぱく質の構造決定にも利用されています。

研究者がラボレベルで自由に簡便に遺伝子操作可能な本ツールは、抗体医薬などの研究を早く進める”触媒”となることが期待されています。

⑥試験管内で脳を作ることに成功

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イギリスとオーストリアの研究グループは、ES細胞とiPS細胞を利用して、人工的にヒトの脳(によく似た)組織を作ることに成功しました。

当サイトでも既に報じている通り(過去記事)、作成された脳組織は直径4ミリと小さいものです。しかし、目の網膜や脳の神経組織に相当する部位を確認することができたため、将来的に脳疾患の解明などに応用することが期待されています。

⑦脳は睡眠中に「ゴミ捨て」をしている

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米国の研究グループは、脳の神経活動によって生じた老廃物は、そのほとんどが睡眠中に排出されていることを明らかにしました。

当サイトで既に報じている通り(過去記事)、老廃物を運ぶ働きをする脳脊髄液の流れが、覚醒時よりも睡眠時の方が60%も増大していたとのこと。その様子を可視化することに成功しており、今後、脳の神経疾患などのメカニズムを解明するための大きなヒントになりそうです。

⑧腸内細菌がヒトに与える影響

宿主と共生する腸内細菌は、宿主の健康状態に多様な影響を与えることが知られています。

選出対象となった論文は3報あり、「肥満の人の腸内細胞を移植すると肥満化する」、「肥満になると、腸内細胞が排出する代謝物が肝臓がんのリスクを高める」、「腸内細菌は動物の行動や神経疾患に影響を与える可能性がある」というもの。

このような研究から、腸内細菌の重要性が再認識され、がん治療・神経疾患の治療への展開が期待されています。

⑨ヒトクローン胚からES細胞の生成に成功

Somatic-cell-nuclear-transfer

米国オレゴン健康科学大学の研究グループは、ヒトの肌細胞を原料として、クローン胚からES細胞(胚性幹細胞)を生成することに成功しました。

当サイトで既に報じている通り(過去記事)、ヒトの卵子細胞は他の哺乳類のそれより脆いために、これまではヒトのクローン胚では成功例がありませんでした。同グループは、卵子の状態を化学的に制御することによりES細胞の生成を実現しています。

今回の成果により、再生医療の実現に向けたES細胞研究の活性化が期待されます。なお、現時点では本技術による「クローン人間」の創生は不可能とのこと

⑩宇宙線の発生・加速源の特定

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宇宙空間には、陽子などの粒子が光速に近い速度で飛んでいます。これは宇宙線と呼ばれていますが、宇宙線がどこで発生・加速しているのかが、これまでわかっていませんでした。

今年、人工衛星のFermiガンマ線望遠鏡の観測により、高エネルギーの陽子が超新星残骸の近傍に散在していることが明らかになりました。これまでに学者らは、種々の観測データ・現象から、超新星爆発が宇宙線の加速源と考えていましたが、その仮説と合致する研究結果が示されたことになります。

 

こうしてみると、選ばれた10件のブレークスルーの8割が、医学・生理学の分野になっているようです。2014年も、日進月歩の科学研究・開発を期待したいところです。 

[Science誌]

dequal

化学系企業の若手研究員です。有機化学が専門ですが、科学全般の新技術、新製品、業界の話題について扱って参ります。できるだけ分かりやすい記事を心掛けていきますので、よろしくお願い致します。

1 件のコメント

  1. No Name 2013年12月31日 18:24 No.641088 返信

    うーん。ビックリな大発見が多いですね。
    ガジェ速で読んだもの以外は全部知らなかった話しです。

    Thumb up 2 Thumb down
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