モバP「いつまでもこのままで」
- 1 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:20:26.10 ID:YYm2dff60
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藤原肇は何事にも真剣に向き合う女だ。
今だってレッスン場でボイストレーニングに励んでいる。
ガラスに仕切られて向こう側にいて実際に声は聞こえない。
でも、真剣な表情で歌っている肇を見ていると、いつも聞いている彼女の声が鼓膜を震わせているような錯覚を覚える。
スカウト含め、俺が一番長く肇と一緒にいる。
デビューの為の下積みも俺が指導してきた。
本格的に仕事が始まり、期待もありながら不安に押しつぶされそうになっていた
肇を支えてアイドルとして一定の地位を確立するまで、いつも一緒に歩んできた。
喧伝するほどのことでもないけど。
- 2 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:22:08.98 ID:YYm2dff60
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今となっては、このようなレッスン、収録や撮影なんかも大方は自分でこなすようになった。
流石に、綿密な打ち合わせや予算については俺がするけど。
もっぱら肇に関して仕事でかかわると言えば送迎くらいか。
肇が一人前になるにつれて、だんだんと俺から遠ざかっていくように感じる。
物理的な距離もそうだが、勿論心情として。
俺は他にも複数のアイドルを受け持っている。
その子たちはまだまだ無名に等しいけれど、これから肇と同じサクセスストーリーを歩ませるためにも俺が頑張らねばならない。
- 3 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:25:06.04 ID:YYm2dff60
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ガラス窓越しに肇と目が合う。
少し微笑んで、軽く手を振ってきた。
俺も右手を挙げてそれに応える。
………俺が此処にきて肇のレッスンを見学し始めたのは一時間も前なんだが。
周りを見ずに、というと聞こえが悪い。
自分の目標到達のための努力を一心不乱に行っているだけなんだ。
肇が真剣な証拠だ。
だからこそ好感が持てる。
- 4 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:28:09.91 ID:YYm2dff60
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俺の姿を認めてか、肇がラストスパートといった様子でさらに声を響かせていく。
胸元に添えた両手を握るこぶしが力を込めて少し白くなる。
常にまっすぐな姿勢を保っていた首が、声を響かせるためか無意識にほんの少し上を向く。
実際に声が聞こえている訳ではないけれど、歌う肇の様子も見ていればわかる。
ごくごく僅かな変化だ。
肇のファンだって見過ごしてしまう様な。
それでも俺には分かる。
それだけ多くの時間を肇と共にしてきたし、俺はずっと肇だけを見てきた。
- 5 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:31:43.40 ID:YYm2dff60
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「プロデューサー、お疲れ様です。すみません待たせてしまって…」
「お疲れ様、肇。構わないよ、知ってのとおりさっき来たばかりだ」
さっき来た、っていうのは嘘なんだけど。
肇が、迷惑をかけてしまったと、思ってほしくないし。
「私の歌声、どうでしたか?」
「いや、声は聞こえないけどな。それでも、歌っている肇はすごく様になってたよ」
「そうですか…」
良い受け答えだとは思うが、肇は何やら不満げなご様子で。
- 7 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:35:13.19 ID:YYm2dff60
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しつこいようだが、俺と肇は長い付き合いだ。
これまで色々なことがあった。
共に成功を喜び、失敗に嘆き、そしてそれを乗り越え今日まで来たんだ。
簡単に説明すればそういう事だが、そこには二人だけが知っている事が沢山あった。
………だからこそ、今肇が欲しがっている俺の言葉はわかる。
それと同時に、それが言ってはいけない事だということは分かっている。
「なんて言いますか…可愛かった、とか、綺麗だったとか。そういう事です」
「そうだなぁ………」
………少なくとも、俺の方は。
- 8 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:38:01.22 ID:YYm2dff60
-
言い換えれば、上司と部下。
ましてやアイドルとプロデューサー。
好意を示唆するような言葉は使うわけにはいかない。
可愛いとか、綺麗だとか、そのくらいで何をと思うかもしれない。
だからこそ、二人だけが知っている何とやらなんだ。
「わかってて、言っているんですよね…? 私がプロデューサーをどう思っているか」
「なんだっけな。忘れたよ」
「それでしたら、思い出させてあげます。私は…」
「っ! 言わなくていいよ! 思い出したから__」
- 9 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:41:10.50 ID:YYm2dff60
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「私は、プロデューサーの事、好きなんですから」
「………」
可愛い、なんて、肇が俺に求めているのは、単に誉めるための形容詞としてではない。
俺にそう思って欲しいからなんだ。
肇は即物的に俺を求めている。
十程度も歳が離れた、何のとりえもない俺なんかが肇から貰っていいような言葉じゃないんだ。
そもそも、そんな戯言がお互いに許される立場ではないというのに。
「思い出して貰えましたか…?」
- 10 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:42:53.98 ID:YYm2dff60
-
「………わからないよ」
「それでしたら、何度だって言います。今までと同じように」
「ああ! わかった、わかったから! もう言わなくていいよ!」
「そんなに拒否しなくてもいいじゃないですか…」
俺の明らかな拒絶の態度に肇はかなり寂しげな表情をする。
…俺が拒絶するのだっていつもの事なのに。
「兎に角だな、あまりそういう事を言うんじゃないぞ」
「プロデューサーが言わせたんじゃないですか」
「ぐっ………」
- 11 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:45:10.61 ID:YYm2dff60
-
言葉に詰まった俺を見て肇は少し微笑んだ。
…不本意だが、肇が元気になったならそれが何よりだ。
「まあいいや、寮まで送っていくよ。荷物があるなら事務所にも寄っていいし」
「でしたら、事務所までお願いします」
そしたら、プロデューサーとちょっとでも長く居れますから。 なんて事を付け加えながら………。
「もう何でもいいよ… 車を下に止めてあるから行こうか」
「プロデューサー」
「なんだ?」
先に出口へと向かった俺を後ろから肇が呼び止めた。
「………好きです」
先程までのお茶らけた雰囲気はなかった。
ただ肇が振り返った俺の目線をまっすぐ捕え、ぽつりとそう言った。
- 12 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:48:22.34 ID:YYm2dff60
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大声で言ったわけでもないのに、俺の頭の中ではその一言だけが反響していた。
肇はずっと俺と一緒にいた。
肇は、可愛くて、綺麗で、美しい。
容姿だけでなく、両手の指では数えきれないほどの魅力を持っている。
そんな子に好意を抱かれて、恋慕を伝えられて、嬉しくないわけがない。
………何より、肇だから。
俺が、肇の事、好きにならない訳ないだろ。
肇は何事にも真剣取り組もうとする。
俺に対してもだ。
肇のまっすぐな行為をぶつけられるたび、頭から冷水をぶっかけられたような気分になる。
だって、それは、許されない事だから。
「………そうか」
是非を論じることもなく、曖昧な一言を零して、俺はまた背を向けて歩き出した。
肇から逃げ出すみたいに。
- 13 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:51:09.62 ID:YYm2dff60
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ジリリリリリリリリリ・・・
薄暗い部屋とは対照的に甲高い目覚まし時計の音が俺に朝を知らせた。
昨日のことを思うとあまり眠れなかったが、その割にはすっきりとした目覚めだ。
レッスン場を出てから、肇はもう“あの話題“に触れることは無かった。
俺に拒絶されることを恐れてか、それとも俺に気を遣ってか。
恐らくは、どちらもだろう。
好きな相手から拒絶されるのは勿論気持ちのいいことではない。
それに、肇は俺が拒絶することをわかっている。
………いや、明確にはっきりと俺が肇を拒絶しないことはわかっている。
- 14 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:54:32.90 ID:YYm2dff60
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肇は、俺が肇に好意を持っていることをわかっているのかもしれない。
それとも、仕事のモチベーション維持の為に明確な拒否をしないと思っているのかもしれない。
これに関して俺はどちらか量りかねているけど。
それでも、俺が肇の事を嫌っていないって事をわかってくれてはいるだろう。
お互いを守るためには、はっきりとした態度を示すべきなのかもしれない。
でも、それができない。
………やっぱり、肇が好きなんだ。
肇なんか嫌いだ、もう俺に構うな、なんて、そんな事言えるわけない。
- 15 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 12:57:06.01 ID:YYm2dff60
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今の絶妙な距離感を保つことで万事うまくいくってことはないだろう。
いつか、ボロが出る。
列車のレールとは違う。
従って進めば安寧な未来が保障されているわけではない。
いつものその場しのぎの俺の言動では、いつか問題が起こる。
そうすれば肇はこの世界から干され、謂れのない悪意と共に週刊誌やインターネット上に晒し者になるだろう。
そんな闇を心に抱えたまま、肇が生きていくなんて許せない。
………そうなってしまう原因が俺であることに。
- 16 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 13:00:34.97 ID:YYm2dff60
-
だったらやることは分かっている。
それなのに、その筈なのに…
俺はいつもその一歩を踏み出すことが出来ない。
原因が俺であることは自明だ。
それに俺はどうなってもいい。
…どうなってもいい、そう思っている。本当だ。
でも、どうなってもいい、その中にある肇から離れていくって選択肢は、酷く選び難いものに感じる。
そんなエゴの塊みたいなジレンマの中に、俺は深く沈んでいる。
- 17 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/01/01(水) 13:03:49.84 ID:YYm2dff60
-
肇の事、好きだよ。
本当に、邪な気持ちはほんの僅かにも持ち合わせていない。
だからこそ、俺は、俺が肇を本当に幸せにできないことは分かってる。
俺以外の、何の咎められない立場の男に肇を託していくわけではないけれど。
せめて、本当の意味で肇が傷ついてしまう前に俺が離れることが重要なんだ。
距離の問題ではない。
俺以外に肇を担当させるのなんて気に食わないけど。
気持ちの問題だ。文字コメント一覧
-
- 2014年01月01日 17:13
- 一発
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- 2014年01月01日 17:14
- まとめるのはやwwww
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- 2014年01月01日 17:35
- 最初の下りでどこかで見たことあるような感じだったがやはりお前だったか。
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- 2014年01月01日 17:52
- 相変わらずダメ男Pだな。
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- 2014年01月01日 18:24
- なんというバッドエンド
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- 2014年01月01日 18:44
- こずえちゃんも、いつまでもこのままで
ウサミンも、いつまでもこのままで
-
- 2014年01月01日 18:44
- ハッピーじゃないだろ
ノーマルエンドって感じ
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- 2014年01月01日 19:50
- またダメ男Pじゃないか…
この人のSS好きだから消えないでほしい(矛盾)
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- 2014年01月01日 19:50
- 完全なバッドではないけど寂しいエンドだな
-
- 2014年01月01日 19:57
- アイマス世界なら別に付き合っても良いんでねーの?
引退するときに結婚するぐらいじゃないとハッピーじゃないぜ
-
- 2014年01月01日 20:52
- 自己陶酔型のヘタレ野郎か・・・
-
- 2014年01月01日 20:59
- ハッピーエンドだな・・・
-
- 2014年01月01日 21:00
- バッドでもベストでもないBエンドって感じ
ベストエンドで付き合わないのもいるけどさ
-
- 2014年01月01日 21:05
- ハッピーエンドか(白目)
もうこの人書かないって事か?
割と好きなのに残念だな
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- 2014年01月01日 22:29
- 毎回読んだ上で文句言ってるんだけどさ、なんでわざわざハッピーエンドでよかったですとか、そーいう事書くの?
精神病んでるの?
SS自体は、こんな話もありなんだろうなってものを書けるのに。
いや、こーいうのを書けるからこそ、こうなのか?
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- 2014年01月01日 22:55
- ※15
つ鏡
お前の方がよっぽど病んでるよ
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- 2014年01月01日 23:21
- ※10
のワの「ホントそーですよね!」
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- 2014年01月01日 23:22
- そこまで叩かれる理由がわからん。
自己陶酔って、今更珍しくもないだろう。
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- 2014年01月01日 23:45
- 正直いつ関係が爛れるのかハラハラした
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- 2014年01月01日 23:53
- かの伊藤誠と同レベルの屑Pやな…
そしてこれを作者がハッピーエンドだと思ってることが驚きだわ
ハッピーエンドの物語読んだことないんとちゃうか
それならこの文章から滲み出る歪みっぷりも納得なんだが
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- 2014年01月02日 00:03
- ※15,20が>>1の手の平で踊らされている事はわかった
-
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