女「工場での高給バイト?」
- 1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 10:27:45.92 ID:zs2oXWuB0
新人「おはようございます」
先輩「…………」
新人「あれ、無視ですか? もしかしてもうイジメはじまってます? いびりはじまってます?」
先輩「ん。もしかしてお前か? 新入りって」
新人「わたしが間違った職場に来ていなければ、ですけど。どうも、新入りです」
先輩「三十分以上遅刻してる。初日からバックレたと思ってた」
新人「いやいやしょうがないですよ。同じようなドアが並び過ぎですよ。なんなんですかこの工場」
先輩「なんなんだろう、ほんとに」
新人「わあ。適当だあ……先輩なんでしょう?」
先輩「俺もお前と同じバイトだから。ここがなんの工場かはよく知らん」
新人「初出勤早々、上司の無能っぽさに懸念を抱かざるをえません」
先輩「ひどい言い草だな」
新人「正直なもので」
- 4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 10:29:14.29 ID:zs2oXWuB0
新人「で、わたしは何をすればいいんでしょう?」
先輩「ん、そうだな。仕事内容を説明しよう。ベルトコンベアを潜ってこっちにこい」
新人「はいはい」
先輩「部屋の両端に、暖炉のような洞穴のようなのがあるだろう?」
新人「ですね。そこからベルトコンベアで繋がってますね」
先輩「右側の穴から、いろいろなものが流れてくる。それにこのスプレーを吹きかける」
新人「ほうほう」
先輩「スプレーを噴射し終わったら、それをまたコンベアに乗せて、左側の穴に吸い込まれていくのを見送る」
新人「それで?」
先輩「それだけ」
新人「……それだけ?」
先輩「それだけ」
新人「それで時給2800円?」
先輩「ああ」
新人「ちょろっ!!」
- 6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 10:30:53.67 ID:zs2oXWuB0
新人「いろいろなものってなんですか? やっぱり死体とかですか?」
先輩「そういうのはあまりない」
新人「あまりないってことは、あるんですね」
先輩「いや、目に見えて『死体だなあコレ』っていうのが流れてきたことはない。なんか、肉っぽいものとかはたまにあるが」
新人「やっぱり人肉ですか」
先輩「わからん。何の肉なのかは知らん」
新人「イノシシとかだったら食べたいなあ」
先輩「お前の出身地ではイノシシを食べるのか」
新人「はい。シカとかカモとかも食べますよ。先輩は?」
先輩「俺は生まれてこの方、肉といえば牛か豚か鶏のものしか知らん」
新人「都会っこですねえ。他にはどんなものが?」
先輩「大体はガラクタ。ガラスでできたペットボトルみたいな容器とか、傘の骨組みらしきものとか」
新人「わたしたちはなんのために、そんな不可解な作業をするんでしょう」
先輩「知らん」
- 7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 10:33:12.38 ID:zs2oXWuB0
新人「やっぱり戦争のこととなにか関係あるんでしょうか」
先輩「かもしれんな」
新人「いやな世の中ですね、ほんとに。だいたい何なんですかこのスプレー。ラベルになにも書いてないし」
先輩「お前に割り当てられてるのは新品だぞ」
新人「ちょっと誇らしげに言わないでくださいよ。別に嬉しくないですし」
先輩「来たぞ」
新人「え?」
先輩「コンベア見てみろ」
新人「ん? なにあれ? ちっさ!」
先輩「瓶ビールの蓋だな。よし、お前やってみろ」
新人「えっ! えっと、これにこのスプレーを吹きかければいいんですか?」
先輩「そうだ」
- 8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 10:35:16.45 ID:zs2oXWuB0
新人「…………」シュー
先輩「よし、それじゃコンベアにもどせ。それ」
新人「はい」
先輩「もう一人前だな」
新人「ちょろいなあ」
先輩「俺がお前に教えられることはこれですべてだ」
新人「初勤務開始七分で一人前になっちゃいましたか、わたし」
先輩「ガラクタは、三時間休みなく流れてくることもあれば、一日流れてこないこともある」
新人「なんかストイックな作業ですね」
先輩「コンベアが停止したらその日の作業はおしまい。なんか質問は?」
新人「はい!」
先輩「なんだ」
新人「この作業、絶対ふたりも要りませんよね」
- 11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 10:37:56.12 ID:zs2oXWuB0
先輩「割ともっともな指摘だが、ふたりでやるのにもそれなりのメリットはある」
新人「たとえば?」
先輩「いつでもトイレに行ける。いつでも食事に行ける。いつでもサボれる」
新人「正直なひとだなあ」
先輩「お前はあれだな、真面目ってやつだな」
新人「そうですかね」
先輩「ここで働こうという人間にしては、いろいろと細かいことを気にする」
新人「ええ、まあ。暇ですからね、人生」
先輩「お前のように人間味溢れる人間は久しぶりに見た」
新人「愛嬌があってなかなかかわいいでしょう?」
先輩「いや、面倒くさい。から辞めて欲しい」
新人「うわ、いびられた」
- 13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 10:40:17.74 ID:zs2oXWuB0
新人「うーん」
先輩「どうした」
新人「いや、このスプレーラベルのモスグリーンですけどね、いかにも軍関係っぽいなあと思って」
先輩「好奇心旺盛なやつだな」
新人「やっぱり気になるじゃないですか。自分がどこのどなたさまからお金をもらうのかって」
先輩「俺にはない発想だ」
新人「先輩ってどうしてここで働くことになったんですか?」
先輩「忘れた」
新人「ぜったい、うそでしょ」
先輩「まあ」
新人「いえ、話したくないことを無理に聞くつもりはないんですが」
- 15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 10:45:45.75 ID:zs2oXWuB0
先輩「お前はどうなんだ」
新人「別に、普通ですよ。ちょっとお金に困って、ついでに生きるのにも困ってたら黒服の人がやってきて」
先輩「普通だな」
新人「『今日から君は政府の監視下に入る』だのなんだの言われて、ふと気づけば何語かもよくわからない契約書にサインしてました」
先輩「そうか」
新人「あれって都市伝説じゃなかったんですね。有事の煽りを喰らって、どうにも立ち行かない人間に救いの手を差し伸べてくれる黒服さんの話」
先輩「今時珍しい話じゃないと思うが」
新人「それって都市部の話でしょう? わたしが住んでた田舎ではそんなことめったになかったんですよ」
先輩「田舎ってどのへんだ」
新人「西のほうです。ずっとずっと西のほう」
先輩「ああ。あまり被害者が多くないところだな」
新人「はい。よりによって、わたしの周りであんなことが起こらなくてもいいのに」
先輩「ご愁傷様」
新人「いえいえ」
- 17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 10:50:55.94 ID:zs2oXWuB0
新人「あ、またなんか流れてきた」
先輩「看板だな」
新人「ブリキ看板って、久しぶりに見ましたよ。わたしの郷里でも、もうほとんど見かけません」
先輩「そうか」
新人「こういう看板の定番と言えば、やっぱりオロナミンCですよね」
先輩「なんだそれ」
新人「えっ!? 先輩オロナミンC知らないんですか!?」
先輩「まったく」
新人「飲み物ですよ。真っ黄色で、えーと、あれは何味という表現がいいんだろう」
先輩「尿みたいな感じか?」
新人「身もふたもないこと言いますね。見た目のイメージとしては間違ってませんが」
先輩「いいから早くスプレーしろ」
新人「はあい」
- 19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 10:54:04.28 ID:zs2oXWuB0
数時間後
先輩「コンベアの作動が止まったな。今日はこれで終わりだ」
新人「つかれたー! ……と言いたいところですけど、全然疲れませんねこれ」
先輩「基本的に大体なにもしてないからな」
新人「こういうの、一人でやってるといつか狂っちゃうそうですね。なにかの本で読んだことがあります」
先輩「ああ、だから二人いるのかな。この部屋」
新人「ねえ、先輩。ここに来るまでに似たようなドアたくさん見ましたけど、他の部屋でもわたしたちと同じようなことしてるんでしょうか?」
先輩「さあ」
新人「気にならないんですか?」
先輩「特には。ああ、そうだ。いくら気になろうとも、他の部屋を覗いたりはしないほうがいい」
新人「どうしてですか?」
先輩「どうもそのほうが『身のため』になるかららしい。俺の先輩だったひとが言ってた」
新人「先輩にも先輩がいたんですかあ」
先輩「ああ」
- 20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 10:56:51.18 ID:zs2oXWuB0
二日目
新人「おはよございます」
先輩「今日も遅刻だ」
新人「いやはやまた迷ってしまいまして」
先輩「3B78Q6432室だって言ってあるだろ」
新人「そんな部屋の名前パっと出てきませんって。だいたいなんで、3B78Q6432室の隣の部屋が16F92室なんですか。法則性がわかりませんよ」
先輩「すらすら部屋番号出てくるじゃないか」
新人「5ケタが限界なんですよう」
先輩「いいからこっちきて座れ。俺はトイレに行きたい」
新人「大ですか? 小ですか?」
先輩「緑だ」
新人「色できたかー」
- 21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 11:00:04.10 ID:zs2oXWuB0
新人「はふ……」
先輩「眠そうだな」
新人「だって先輩、わたしの住んでる区域、昨日夜の2時半くらいに第八次避難待機かかったんですよ」
先輩「それで?」
新人「それでもなにも、待機しましたよ。民間支給品抱えて、動きやすい服装で、靴まで手元に準備して」
先輩「馬鹿正直だな」
新人「え?」
先輩「この辺に住む人間からすれば、第四次くらいまでの避難勧告は、キジバトの鳴き声ほどの意味も持たん」
新人「……うわあ。同じ田舎でも、軍の御膝元は感覚が違いますね」
先輩「第八次くらいで馬鹿正直に避難準備行動取ってたら、一日の睡眠時間が二時間切るぞ」
新人「切ったんですよわたしは、昨晩。馬鹿正直に。ああ眠……」
先輩「寝とけ」
新人「いや別にそこまで寝たいわけではないんですが」
先輩「そうか」
- 23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/06/01(土) 11:08:15.44 ID:zs2oXWuB0
新人「まあでも、そんなものなのかもしれませんね」
先輩「なにが」
新人「感覚が麻痺するって話です。なんなんでしょうね、この戦争は」
先輩「さあな」
新人「一体なにと戦ってるんだって話ですよ、我が国は。なんでしたっけ? 宇宙人? 異星人?」
先輩「高次生命体」
新人「ようするに得体の知れない知的生命体ってことですよね。そんなの、宇宙人ですよ宇宙人」
先輩「それと同時に、人間同士でも戦争してる」
新人「はちゃめちゃですね。危機があり過ぎて危機感鈍りますよ」
先輩「もっともだ」
新人「本格的交戦に発展する発展するって、もう二十年前から言ってるわけでしょう? そんなの、緊張疲れしちゃうに決まってるのに」
先輩「でもお前は、ちゃんと危機感持って避難待機してたんだろう?」
新人「わたしの居たところでは避難待機勧告なんて珍しいものだったんですよ。田舎者特有の性ってやつですね」
コメント一覧
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- 2014年02月18日 16:34
- 救えん・・・
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- 2014年02月18日 16:40
- 全然意味がわからん。
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- 2014年02月18日 16:47
- 面白かった
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- 2014年02月18日 16:49
- なんかもやもやするな
読んでる時も読み終わった後も
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- 2014年02月18日 16:53
- 救われないなあ
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- 2014年02月18日 16:58
- こういうの好きだぜ
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- 2014年02月18日 17:28
- 今はもうほとんど廃れたセカイ系ってやつか
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- 2014年02月18日 17:34
- よかった
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- 2014年02月18日 17:49
- こういうのをメリーバッドエンドって言うのかな
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- 2014年02月18日 17:57
- 想像を掻き立ててくるなあ
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- 2014年02月18日 18:06
- なんかなぁ
なんなのかなぁ
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- 2014年02月18日 18:17
- 胡散臭い小劇団の芝居にありそう。すごく好き
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- 2014年02月18日 18:52
- この不快感がまたいいな
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- 2014年02月18日 18:53
- 話が広がるでもなく、ひっそりと終わるだけのこの感じ好きだよ
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- 2014年02月18日 19:53
- 昨日みた映画の影響で先輩→加瀬亮 新人→戸田恵梨香で脳内変換されてしまった
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- 2014年02月18日 20:30
- お前の見た映画が一瞬でわかったよ
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- 2014年02月18日 20:44
- とりあえずタイトルの女は何処に
新人=女だろうが最初からタイトルを新人ではいけなかったのか
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- 2014年02月18日 20:45
- また懐かしいものを…と思ったらわりかし最近なのね。
このもやもや感は今読んでも変わらんなぁ
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- 2014年02月18日 23:31
- なるほどね
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- 2014年02月18日 23:50
- なんでラノベみたいのはみんな息継ぎなく喋る感じなんだ。
作者もそういうタイプなのかね。