「もしも携帯電話というものがこの世に生まれなかったら」
- 1:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:09:55.07 ID:3ce9PqM/0
某ファストフード北口店
A「わっ」
甲「っ!?」
A「あは。びっくりした? ねえね、びっくりし」
甲「……」
A「…………」
甲「…………」
A「……誰ですかあなた」
甲「いや、こっちのセリフなんだけど」
A「怪しい人ですか。人を呼びますよ」
甲「コーヒーちょっとこぼれたんだけど」
A「ごめんなさい。弁償させてください。人を呼びますよ」
甲「意外に素直だけどその過剰な警戒は解いてくれないのな。俺何もしてないよね」
- 2:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:10:52.40 ID:3ce9PqM/0
A「どうも、人違いをしてしまったみたいです」
甲「だろうね」
A「ごめんなさい。コーヒー、熱かったですか?」
甲「いや、大したことない。幸い服にもかからなかった」
A「ちょっと、舞い上がってたみたいです。失礼をしました」
甲「いや、別にいいよ。待ち合わせ?」
A「はい。だから、舞い上がってたんです。いつもはもっと落ち着いた女なんですよ。本当です」
甲「嘘くさいな」
A「嘘かもしれません」
甲「自信ないのか」
A「ここ最近、落ち着きがないって言われます」
甲「生まれた時からじゃないだけ良かったな」
A「まったくです」
甲「舞い上がっちゃうような相手と待ち合わせか。結構なことで」
A「ふへへ」
- 3:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:11:41.51 ID:3ce9PqM/0
A「お兄さんはなにしてるんですか? 瞑想?」
甲「お前俺を何者だと思ってんだ」
A「冗談です。だいじょうぶ。お兄さん、ただ者に見えますよ」
甲「別に只者に見えて嬉しいわけではないんだけど」
A「じゃあやっぱり只者じゃないんですか?」
甲「いや、只者だけど」
A「やっぱり!」
甲「お前変なやつだな」
A「いや、わたしも只者ですよ」
甲「そうには違いないんだろうが……」
A「待ち合わせ? ですか?」
甲「まあ、そんなところ」
A「浮かれてます?」
甲「まあ、それなりに」
A「ひゅー」
- 4:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:12:28.22 ID:3ce9PqM/0
A「じゃあ、邪魔しちゃ悪いですね」
甲「お前のほうこそな」
A「では、わたしはあっちの席で待ち合わせしますので」
甲「達者で」
A「どっちの待ち人が先に来るか、勝負ですね」
甲「分が悪いな。俺の待ってる人は、時間にルーズだから」
A「わたしと同じですね」
甲「そうなのか」
A「ええ。なんてったってすでに、遅刻してますからね」
甲「大丈夫かお前」
A「幸いにも、相手も遅刻中みたいです。店内に姿が見えませんから」
甲「そりゃ、ラッキーだ」
A「ええ。もうしばらく、浮かれて舞い上がってやきもきできます」
甲「ポジティブだな」
- 5:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:14:26.03 ID:3ce9PqM/0
某ファストフード南口店
乙「だあれだ!」
B「……?」
乙「久しぶり過ぎて声も忘れちゃった?」
B「……誰ですか?」
乙「おや」
B「……」
乙「…………」
B「…………」
乙「……きみ、誰?」
B「俺が聞きたいんですけど」
乙「年齢に関する問い以外なら受け付けるよ」
B「いやそんな質問コーナーみたいなことがしたいわけではなくて」
乙「26歳。でもほら、全然見えないでしょ? 見えないよね。よく言われるんだあ」
B「自分から言っちゃってるし」
乙「たまに、高校生と間違えられたりもするんだよ! それはそれで複雑なんだけど」
B「ああ、まあ、お若く見えるのは確かですね」
- 7:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:15:32.73 ID:3ce9PqM/0
B「人違い、ですか」
乙「うん。ごめんねえ。後姿が似てたもんだからさ。久々に会う人だったのも相まって」
B「ここで待ち合わせなんですか。ずいぶんとテンションが高いようですけど、相手は彼氏ですか」
乙「そんなとこ。っていうかわたし、テンション高く見えるかな」
B「わりと」
乙「若者特有のはっきりしない返事だ。きみはいくつ?」
B「17歳です」
乙「わあ、うらめしい。多摩川に落ちればいい」
B「えっ」
乙「ひとりごとだよ」
B「ひとりごとは一人で言ってくださいよ」
- 8:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:18:05.20 ID:3ce9PqM/0
乙「きみも待ち合わせ中なんだ?」
B「ええ、まあ」
乙「相手は、女の子?」
B「はい」
乙「あらまあ」
B「あらまあて」
乙「でもなんか、しけたポテトチップスみたいなツラしてるねきみ。相手の子はゴリラみたいな女なの?」
B「いや、めちゃくちゃかわいいんですけど」
乙「つまり、きみはホモか」
B「違いますよ。その、いろいろあって」
乙「ふうん。ま、事情は人それぞれかあ。わたし、あっちの席で待つことにするね。邪魔してごめんよ」
B「はい。お姉さんのほうは、楽しいデートになるといいですね」
乙「それはちょっと、できない相談だな」
B「? なんでです?」
乙「事情は人それぞれなのさ。それじゃね」
- 9:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:19:19.98 ID:3ce9PqM/0
某ファストフード北口店
A「なかなか待ち人、現れないみたいですね」
甲「そっちこそ、全然来ないじゃないか。彼氏」
A「彼氏じゃありませんよ」
甲「そうなのか」
A「はい。あの、ここ座っていいですか」
甲「わくわくやきもきしてる最中じゃなかったっけ」
A「待ち疲れました。いえ、というかですね、暇なんですよう」
甲「それはまあ、わかるけどな」
A「そんなわけで、暇つぶししましょう。ね?」
甲「別にいいが、彼氏に妬かれても知らんぞ」
A「彼氏じゃないですって」
甲「頑なだな。休日に駅前で待ち合わせて出かける仲なんだろう?」
A「それでも、まだ、彼氏じゃないんです」
甲「まだ、ときたか」
- 10:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:20:58.50 ID:3ce9PqM/0
A「わたしもあなたのことが好きです。付き合ってください!」
甲「…………は?」
A「……って、言うつもりなんです。今日」
甲「唐突過ぎる。最低限の前ふりをしてくれ」
A「告白されたかと思いました?」
甲「頭のねじが飛んだのかと思ったよ」
A「頭のねじが飛ばなきゃ、こんなこと、恥ずかしくて言えないかもしれませんねえ」
甲「『わたしも』ってことは、なんだ、告白されたのか。やるじゃないか」
A「いやあ」
甲「そりゃ浮かれてるわけだな。今日、相手に返事をしようってわけか」
A「結構待たせちゃいましたけど」
甲「なんでまた。お前の様子を見る限り『好きかどうかよくわかんないからとりあえず保留』ってなことする惚れ具合じゃないように思うが」
A「逃げちゃったんです。告白されたとき。恥ずかしくて」
甲「…………相手が気の毒だな」
A「わたしもそう思います」
- 11:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:22:46.66 ID:3ce9PqM/0
A「で、どう思います?」
甲「どう思うもなにも、完璧に両想いじゃないか」
A「いえ、そうではなくて。わたしのお返事、ぐっときますかね。彼に」
甲「『わたしもあなたのことが~』ってやつ?」
A「やつです」
甲「知るか」
A「まあまあ」
甲「なんで俺宥められてるみたいになってんだよ」
A「男の人の率直な意見を聞きたいんです。生の声を」
甲「ぐっとくるかどうかなんて、人それぞれだけどな」
A「あなたの価値観でいいんですよう」
甲「ええ……そう言われてもな」
- 12:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:25:15.96 ID:3ce9PqM/0
A「…………」
甲「…………ええと、まずな、率直すぎる」
A「率直、ですか」
甲「ああ。なんというか、投げかけられた言葉に、定式的な言葉を返している印象がする」
A「なんとなく、わかる気がします」
甲「だろ? 『好きです。付き合ってください』に対しての返答が『わたしも好きです。付き合ってください』っていうんじゃ、なんか、こう、人間味にかける」
A「事務的な感じがしますね!」
甲「そうなんだよ。『Is this an apple?』と問われて『Yes,it is.』と返すがごとき空虚さがあると思うんだよな俺は」
A「どう見てもりんごですもんね!」
甲「そう。どう見たってりんごならいっそ『ええー? 本当にりんごかなー? んー? うふふふりんごでしたー!!』くらいのほうが可愛げがあるんだよ」
A「馬鹿っぽい!!」
甲「うるせえ」
- 13:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:26:07.09 ID:3ce9PqM/0
A「ええと、結局わたしは万歳しながら『りんごでーす!!』って言えばいいんですか」
甲「ノってくんなよ。そんなことしたらお前、逆にフラれるまであるからな」
A「うわあー。なんて返そうなんて返しましょう」
甲「告白の返事なんて、そんなに悩むものなんだな」
A「悩みますよう。ねえ、お兄さんはなんて言われたらぐっとくるんですか」
甲「ええ、特にないよ。そんなの」
A「個人的なアレでいいですから」
甲「…………あー、『別に付き合ってあげても、いいよ』とか、そんなんかな」
A「わあ。意外にMっ気ですね」
甲「言うな」
- 14:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:28:13.89 ID:3ce9PqM/0
某ファストフード南口店
乙「やーこんなに待たされるとは」
B「え、こっち来るんですか?」
乙「いいじゃんか、きみの彼女もなかなか来ないみたいだし、一人で待つのも退屈だしね」
B「彼女じゃありませんよ」
乙「おや、そうなの? 片思い? もしかして今日告白とか考えてたり? パーティ? パーティする?」
B「パーティはしません。告白はもうしました」
乙「で、フラれたんだ」
B「ふ、フラれてないですよ」
乙「じゃあ、フラれそう」
B「それはまだ……わかりませんけど」
乙「わかんないなら元気だしなよ。あんまりネガティブに構えてると、いざOKもらった時にテンションがついていかなくてなんか『デュフッ』みたいな笑い方になっちゃうよ」
B「いや、もう別に関係ないんですよ。返事なんて」
乙「なにその意味深な自暴自棄。死ぬの?」
B「いや生きますけど」
- 15:名も無き被検体774号+:2014/02/16(日) 21:30:34.08 ID:3ce9PqM/0
乙「あー……引っ越しかあ」
B「隣の県とか、それくらいならまだ、諦めなかったんですけど」
乙「親の都合なら、どうにもできないよねえ」
B「……そんなことで、って思います?」
乙「なにが?」
B「大人の人からしたら、『多少距離が離れるくらいで』とか、やっぱり思います?」
乙「きみは、どう思うの?」
B「大人はいろいろと、忙しいでしょうし……付き合っててもなかなか会えないこととか、ざらだろうし……休みが合わなかったりとか」
乙「だから、遠距離恋愛への耐性も子供よりはあるはずだと」
B「イメージですけど」
乙「ぶぶー」
B「違うんですか」
乙「違うか違わないかで言ったら、ばか野コメント一覧
-
- 2014年02月19日 20:48
- いちげっ
-
- 2014年02月19日 20:53
- 面白いなぁ
-
- 2014年02月19日 21:03
- きーいーっとーずっと素直に会いに行ける
もーおーっとー愛し合えるよねー
爆風スランプかとおもっと
-
- 2014年02月19日 21:23
- この読後感はなんとも言えないわうん
スレタイからは想像つかん内容だった
-
- 2014年02月19日 21:26
- こういうの好きだなぁ。
セリフだけなのにちゃんと画が浮かんだし。
面白かった。
-
- 2014年02月19日 21:27
- 最高に良かったよ。
-
- 2014年02月19日 21:28
- イイイな
-
- 2014年02月19日 21:30
- スレタイからは想像もつかない内容でびっくり
これはやばいは
-
- 2014年02月19日 21:33
- さすがのやすらぎ氏って感じ
幽霊「うらめしや」とは雰囲気全然違うけど、これはこれでやっぱり面白い
-
- 2014年02月19日 21:37
- やっぱカップルの片割れ同士二組の話はいいなあ
遠距離恋愛の所で気付いたな
-
- 2014年02月19日 21:57
- なるほどなぁ
これは面白い
-
- 2014年02月19日 22:02
- 言っちゃあ何だけどアンジャッシュのコントみたいなSSだった
-
- 2014年02月19日 22:11
- こういう雰囲気もいいなぁ
-
- 2014年02月19日 22:16
- ちょっと取っ付きにくい気がしてたけど、読んだらそんなんでもなかった。
乙!
-
- 2014年02月19日 22:25
- 意味わからん
もう一回読み直せばいいのか?
-
- 2014年02月19日 22:30
- なぜ乙甲が6時に会えるってわかったのだろうか・・・
タイムパラドックスに似たようなのあるけど気にしなければいいのかな
-
- 2014年02月19日 22:33
- これはタイムスリップしたのか?
-
- 2014年02月19日 22:50
- 待ち合わせの時間が午前か午後か
-
- 2014年02月19日 22:56
- 二ページ目で全部読めた
-
- 2014年02月19日 23:00
- 気になるのはこっからだな…
結構面白かった
-
- 2014年02月19日 23:06
- 毎度終わらせ方上手いんだよな
-
- 2014年02月19日 23:34
- 上手
-
- 2014年02月19日 23:38
-
面白かった。すごくドキドキした。
ちょっと森見登美彦っぽかったかも?
-
- 2014年02月19日 23:45
- 携帯なんてなければよかった
-
- 2014年02月19日 23:45
- 凄いな、読み終わってからが何とも言えない
-
- 2014年02月19日 23:47
- 約款かな?
-
- 2014年02月19日 23:51
- ヤバイ
こんな良ss久しぶり
-
- 2014年02月20日 00:00
- プラネタリウムのとこで気付いた
告白された(した)時刻は
二人にとって、特別だったってことだろ
言わせんな恥ずかしい
-
スポンサードリンク
ウイークリーランキング
最新記事
アンテナサイト
新着コメント
QRコード
スポンサードリンク