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勇者「勇者の本当の敵は魔王じゃなかったのかもしれない」【後半】|エレファント速報:SSまとめブログ

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勇者「勇者の本当の敵は魔王じゃなかったのかもしれない」【後半】

関連記事:勇者「勇者の本当の敵は魔王じゃなかったのかもしれない」【前半】





勇者「勇者の本当の敵は魔王じゃなかったのかもしれない」【後半】






366 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 04:52:02 ID:yXbM2XqE

戦士「とりあえず武器は確保したよ、はい」

勇者「これって、アイツの短剣だろ? 」

戦士「とっさに奪ったんだよ」

??「やはりあなたは、そこそこデキるみたいですね」

戦士「ボクのことを知っているのかな」



367 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 04:53:03 ID:yXbM2XqE

戦士『勇者くん』

勇者『なんだ?』

戦士『ぶっちゃけ余裕がない。逃げたほうがいい』

勇者『……逃げるって、無理だろ』

戦士『無理やりでも魔力を捻りだせないかい?』


 戦士が、一瞬だけ視線を天井にやった。


勇者『……たぶん、あと一回ぐらいならいけるかも』



368 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 04:54:04 ID:yXbM2XqE

戦士「タイミングが命だ。キミに託すよ」

勇者「まかせておけっ!」


 再び戦士が赤ローブの眼前に躍り出る。
 勇者は手のひらに、残った魔力を集中する。


勇者(って、アレ? 全然魔力に余裕があるぞ)

戦士「行ったよ、勇者くん!」


 いったいどうやったのか。戦士は敵を見事に投げ飛ばしていた。
 慌てて天井目がけて跳躍する。手のひらを天井へと押しつける。



369 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 04:55:06 ID:yXbM2XqE

勇者「いっけええええぇ!」



 魔力を流しこむと同時に、拳で天井を貫く。
 自分でも驚くほどの魔力が、手のひらから噴出して天井を崩壊させる。


??「ぐっっ……」


 敵に天井の瓦礫が覆いかぶさる。


戦士「なかなかやるじゃん。よし、さっさとずらかるよ!」

勇者「おう!」



370 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 04:56:07 ID:yXbM2XqE




??「……っふぅ、どうやら魔術プロテクトがかえってアダになってるようですね」

??「せっかくなので、この子たちの始末もまかせてしまいますか」



魔物「ぐるるうううぅぅ……」



??「さあ、いきなさい」



371 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 04:57:08 ID:yXbM2XqE




勇者「なあ戦士」

戦士「なに?」

勇者「あのまま、赤ローブを捕まえてもよかったんじゃないか?」

戦士「一瞬やりあっただけでわかった。アレは危険だよ」

勇者「……まあ、それもそうか」

戦士「とにかくここから脱出すれば、魔術が使えるんだ」

勇者「そうだな。さっさと脱出したほうがいいな」



372 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 04:58:08 ID:yXbM2XqE

勇者(ん?  なんか音が……)

戦士「気づいたかい?」

勇者「ああ、なにかがオレたちを追っかけてきてる」

戦士「この通路に入れば、牢獄に戻るはず」

勇者「見張りとかはどうするんだよ?」

戦士「看守とかは、中にはいないかも」

勇者「どういうことだ?」

戦士「話はあと!  とにかくここを脱出する!」



373 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 04:59:14 ID:yXbM2XqE

勇者(そうしてオレたちは、なんとか牢獄から脱出した)


戦士「よし、これで魔術プロテクトが消えた……勇者くん?」

勇者「あ、あぁぁ……」


勇者(なんだこの感覚……いや、これはさっきアイツに捕まったときにも……)


戦士「どうしたの?  どこかおか……」


勇者(全身が沸騰する……魔力が……自分の中で暴発するような……)



374 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 05:00:15 ID:yXbM2XqE




??「本来なら彼の潜在能力を少しずつ覚醒させてくつもりでしたが……」


??「これ以上手間をかけるのも面倒です」


??「魔術プロテクトのない空間で、暴発させてしまいましょう」


??「彼が暴走したところで私が……」


??「……! この感覚は――」


??「まさか、彼が来ている?」


??「……予定変更か。今日のところはひくとしましょう」



375 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 05:01:16 ID:yXbM2XqE




勇者「はぁはぁ……あ、つぃ……」

戦士「魔物が追いかけてきた!  勇者くん!」

勇者「……お前、だけでもいい……逃げろ…………」

戦士「さすがにそこまでバカな発言されると、ボクも困るよ」

勇者「う、るせ……」


勇者(なんて、数の……魔物だ……コイツら全部研究所の…………)


 すべての音が遠ざかっていく。戦士がなにかを叫んでいる。
 いつか魔界でケルベロスに殺されそうになったときの感覚が蘇る。
 あの得体の知れない力に全身を支配される恐怖。


勇者(や、めろ――)


 首筋に違和感を覚えたのと、誰かの声が鼓膜を叩いたのはほとんど同時だった。



376 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 05:02:13 ID:yXbM2XqE

勇者「ぁ……」


 不意に視界が鮮明になって、全身の血が沸騰するような感覚が消え失せる。


   「大丈夫ですか……勇者様」


勇者「や、くし……?」


 たしかに彼女の声がした。いや、彼女の声だけではない。


勇者(僧侶?  それに、魔法使いも…………)


 視界がどういうわけか、傾いていく。
 目の前に石畳の地面が迫ってくる。なにかが地面に投げ出される音が聞こえた。


勇者(みんな……)


 やがて勇者の意識は闇に溶けていった。



377 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 05:03:13 ID:yXbM2XqE




勇者『魔王を倒したそのあとのこと?』

戦士『そう。お前、なんかプランあんのか?』

勇者『ない』

戦士『即答かよ。将来の展望とかねえの?』

勇者『今のところはない。それより生きて帰れるのかって話だ』

戦士『お前、つまんねえなあ』

勇者『魔王を倒すこと以外、考えられないのかもしれない』

戦士『なんだお前。プレッシャー感じてんのかよ』

勇者『お前はなにも思わないのか?  もし俺たちが魔王を倒せなかったら……』

戦士『わぁってるっつーの!』



378 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 05:04:14 ID:yXbM2XqE

戦士『でもよ。俺ら四人の肩に、世界の命運がかかってるとか言われてもなあ』

勇者『旅をしてずいぶん経ってるのに、まだそんなことを言ってるのか』

戦士『つーか、軍とかも協力してくれてもよくね?』

勇者『軍は戦争、魔物の討伐、街の警備で手一杯だって説明されただろ』

戦士『わかってて言ってんだよ』

勇者『俺たちは言ってみれば暗殺者だ。大人数で行動する必要はない』

戦士『俺らが旅に出るときにはパレードもできてたのに、暗殺者ねえ』

勇者『それがどうした?』

戦士『矛盾してね?  それに、姫が誘拐されてからの一連の流れが、早すぎる気がするぜ』

勇者『それだけ迅速な行動が、求められる事態だったんだ』



379 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 05:05:16 ID:yXbM2XqE

戦士『俺たちゃ魔王を倒すための兵器じゃねえ。普通の人間だ』

勇者『普通の人間、か』

戦士『ちげーのかよ?』

勇者『いや……そのとおりかもしれない』

戦士『教会送りにされて思ったわ。やっぱり死ぬのはイヤだ』

勇者『そうだな』

戦士『……俺、旅を終えたら店を出してえなって思ってんだ』

勇者『店? なんの店だ?』

戦士『そういう細かいプランはまだない。
   けど、将来的にはカワイイ嫁さんもらって、子どもは……何人がいいかね?』

勇者『知らん。
   ……将来、か』



380 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 05:06:17 ID:yXbM2XqE




勇者「……ぅっ」


勇者(またあの夢だ)


竜人「目が覚めましたか?」

勇者「……竜人?  ここはどこだ?」

竜人「個人経営の病院です」

勇者「病院……って、なんでオレが病院にいるんだ!?」

竜人「落ち着いてください。覚えてないんですか?」


勇者(オレは竜人からこれまでの経緯を簡単に説明してもらった)


勇者「オレが意識を失ったあと、みんなが駆けつけてくれたってことか」

竜人「それで、念のために国が関与していない病院へ搬送されたわけです」



381 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 05:07:18 ID:yXbM2XqE

竜人「丸二日ほど勇者殿は眠っていたんですよ」

勇者「二日も!?」

竜人「ええ」

勇者「みんなは……そうだ、薬師は!?」

竜人「彼女なら昨日、退院しましたよ」

勇者「退院?  じゃあ、薬師は助け出されたのか!?」

竜人「ええ。実は……」



382 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 05:08:25 ID:yXbM2XqE






魔法使い『ゴーレムが、消えた』

?『くっ……』

王『魔力切れか?  おサムいねえ』

?『なぜキサマがここにいる……!』

王『お前こそなんで泥遊びしてんだ?  俺相手にこんなチンケなもんが通じるとでも?』

僧侶『なぜ陛下がここにいるのですか?』

王『いくらでも話してやるよ。コイツを牢獄にぶちこんだあとでな』

?『……私を牢獄にぶちこむ、か。これを見てもそんなことが言えるかなあ?』

竜人『あれは……』

僧侶『薬師!』

薬師『……』



383 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 05:09:27 ID:yXbM2XqE

?『指ひとつでも動かしてみろ。この女を殺すぞ』

王『うわあ、人質かよ。ますますおサムいねえ』

?『……動くなと言っているのがわからないのかっ!  この女を……』

僧侶『へ、陛下!?』

王『うるせえなあ。俺は動いたぞ? 殺せよ』

?『……なん、だと?』

王『お前がその女を殺す。そして俺がお前を殺す。わかりやすくていいじゃねえか』

?『ぐっ……』

王『こういう状況で本当に助かりたいなら、普通に逃げたほうがいいんだよ』


 王が唇のはしを釣り上げた、と思ったときには、すでに『それ』は起きていた。


王『つまり、お前は助からない』



384 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 05:10:28 ID:yXbM2XqE

?『かはっ……!?』


 赤ローブのひざが崩れ落ちる。
 王がなにかをした、ということだけは僧侶にもわかった。


王『ほれ、終わったぞ』

竜人『え……』


 すでに王の腕の中には薬師がいた。


僧侶『い、いったいなにを……!?』

王『驚きすぎだろ。あのローブの馬鹿の腹に、空気の塊をぶつけてやっただけだ』

僧侶『ではどうやって薬師を……』

王『べつに。今のでスキができたんで、普通に取ってきたぞ』

僧侶『取ってきたって……』



385 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 05:11:34 ID:yXbM2XqE

王『それより薬師はどうなっている?』

僧侶『そうだった……魔法使い、わかるか?』

魔法使い『…………』


僧侶『(魔法使いが薬師を調べた結果、傷口が塞がれたあとがあったらしい)』


魔法使い『……傷口自体は、自力でどうにかしたのかもしれ
494 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 15:34:53 ID:PciXAMC.

戦士「おっと、ここが彼女がいる宿舎だね。部屋は……ここだね」

魔法使い「……勇者には、伝えるの?」

戦士「……。いや、やめておこう」


僧侶(だが、ここの宿舎には勇者もいる)


戦士「とにかく今は彼女を捕まえるのが先だ」

魔法使い「うん」

戦士「……ボクの推理が単なる勘違いだったら、それでもいい」

僧侶「……」


コンコン


戦士「薬師ちゃん、いるかい?」

魔法使い「気配がしない」

僧侶「どこかへ出かけているのかもしれない」



495 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 15:41:21 ID:PciXAMC.


魔法使い「……気配は、しない」

戦士「魔法使い。軽い魔術で扉に穴を開けて」

僧侶「いくらなんでも、そこまでしなくても……」

戦士「なにかイヤな予感がする。急いだほうがいい」


僧侶(魔法使いは扉に拳サイズの穴を開けると、その穴から手を通して鍵を開けた)


魔法使い「開いた」

戦士「オジャマします……って、これは……」

僧侶「モノがなにもない」

魔法使い「もぬけの殻」



496 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 15:46:24 ID:PciXAMC.


僧侶「ここは本当に薬師の部屋なのか?」

戦士「記録では間違いなくここだよ」

魔法使い「……逃げられた?」

戦士「彼女も気づかれるのは、時間の問題だってわかってたんだろうね」

僧侶「じゃあ薬師は本当に……」

魔法使い「どうする?」

戦士「やはり、勇者くんの部屋に行こう」



497 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 15:52:31 ID:PciXAMC.





僧侶「勇者! 勇者、いないのかっ!?」

戦士「……まずいかもしれない」

魔法使い「やはり部屋に、気配がない」

僧侶「どこかへ出かけたのか……まさか……」

戦士「すでに敵の手にかかった可能性がある。勇者くんは狙われているからね」

魔法使い「追わないと、まずい」

戦士「ああ。だけど彼らはどこへ……」


   「教えてあげよっか?」


僧侶「どうしてあなたがここに……」



498 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 15:59:29 ID:PciXAMC.





薬師『挨拶が遅れて申し訳ございません、薬師って言います』

勇者『キミも真勇者の捕獲任務に参加するのか?』

薬師『ええ。……どうかしましたか?』

勇者『いや、こんな女の子が任務に参加するなんて、と思って』

薬師『あの、もしかして誤解していませんか?』

勇者『誤解?』

薬師『勇者様については、すでに書類で存じ上げております』

勇者『それがどうしたんだ?』

薬師『そして勇者様が私より年下であることも』

勇者『は? キミがオレより年下!?』



499 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 16:01:43 ID:PciXAMC.


薬師『そうです。これでもきちんと、ギルドにも所属しています』

勇者『全然そんなふうに見えないな』

薬師『よく言われます。でも、ある方の推薦を受けてこの役になったんですからね』

勇者『……そっか』

薬師『あ、今少し目が泳ぎましたよね?』

勇者『そ、そんなことないよ?』

薬師『まあ私の実力は、そのうち披露できると思います』
    それともうひとつ。勇者様の監視兼護衛役、及び健康管理も任されていますから』

勇者『よくわからないけど、よろしく頼む』

薬師『はい。勇者様は私が必ずお守りします』



500 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 16:04:19 ID:PciXAMC.




薬師『どうして、あんな無茶な庇い方をしたのですか?』

勇者『ごめん』

薬師『あの程度なら、私でも十分対応できました』

勇者『……』

薬師『勇者様はやはり、私のことを信用していませんよね』

勇者『……そういうわけじゃない』

薬師『なら、どうしてさっきは私を守ったりしたんですか?』

勇者『守られっぱなしはイヤだから』

薬師『なにを言ってるんですか? 私は勇者様の護衛ですよ』

勇者『それはわかってる。でも、オレたちは仲間でもあるだろ?』



501 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 16:10:54 ID:PciXAMC.


勇者『オレたちは真勇者を追う仲間だ。仲間が仲間を庇うのは当たり前だろ?』

薬師『言いたいことはわかりました。でも』

勇者『でも?』

薬師『勇者様はやっぱり、私のことを信用してませんね。
   仲間だって言うなら、信頼して任せてもよかったはずです』

勇者『そうだな……ごめん、それは謝る』

薬師『いいですよ。いつか勇者様の信頼を勝ち取ってみせますから』

勇者『頼もしいな』

薬師『言っておきますけど、私もまだ勇者様を信頼してませんからね』

勇者『そう言われるとツライな。……信頼し合える関係か』

薬師『なれるといいですね』

勇者『なれるよ、きっと』



502 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 16:13:44 ID:PciXAMC.




 なにか鋭い針のようなものが、頬を横切った。
 勇者はとっさに体勢を低くしたが、そのときにはすでに頬の肉は裂けていた。


勇者「……くっ!」

薬師「逃げてもムダです。私からは逃れられません」

勇者「……どうして」

薬師「はい?」

勇者「どうしてあんなヤツらの仲間なんかに……」

薬師「勘違いしていませんか?
    もとから私はスパイとして、ギルドに潜りこんだんですよ」

勇者「じゃあ……今までのは全部ウソだって言うのか……?」



503 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 16:19:28 ID:PciXAMC.


勇者「なにもかも偽りだったっていうのか……?」

薬師「ええ。情報の横流しとあなたたちの監視。それが私の役目でしたから――」
 

 ほとんど本能的に勇者は動いていた。正体不明の凶器が夜闇を裂く。
 地面に飛び込むように片手前転する。

 薬師の真ん前に回り込み、彼女の腕をつかもうとしたときだった。


勇者「……なっ、なんで……」

薬師「言いましたよね。ムダだって」


 あと少しというところで、勇者の動きが完全に止まる。



504 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 16:22:31 ID:PciXAMC.


 いつの間にか、腕と足になにかが絡みついていた。


 勇者(なにがどうなってる……!?)

 薬師「……」


 首筋にチクリとした痛みを感じた。
 からだに絡みついていたなにかが、ほどける。


勇者「……え?」


 どういうわけか、勇者の視界がかたむいていく。
 気づいたときには地面に倒れ伏していた。



505 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 16:31:39 ID:PciXAMC.


勇者「な、にをした……?」


 舌がもつれて言葉がうまく話せない。舌だけではない。
 得体の知れない痺れが、全身に広がっていく。


勇者(そもそも薬師はどうやって攻撃を……いや、たしか……)


 以前、サイクロプスと戦ったときも同じようなことが起きた。
 時間が止まったかのように、硬直したサイクロプス。


薬師「驚きました。まだ動けるんですね」


 勇者はなんとか首を動かして、薬師を見上げる。強い違和感が頭をもたげる。
 だが、その正体はあっさりとわかった。
 
 同時にすべてを理解した。


勇者「髪の毛…………か……?」



506 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 16:33:50 ID:PciXAMC.


薬師「気づきましたか」

勇者「……切られたはずの……髪の毛、なんであるんだよ……?」

薬師「これ、ウィッグなんですよね」 

勇者「攻撃、手段は……その、髪か……」  

勇者「どうしてだ……なにが、目的なんだ……?」

薬師「魔物を滅ぼすためですよ」

勇者「……そん、なことして………どうなる?」

薬師「……」



507 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/22(土) 16:35:47 ID:PciXAMC.


薬師「私が前へ進むためには、必要なことです」

勇者「前へ、進む……?」

薬師「あなたにはわかりません。過去をもたないあなたに、私のことなんて……」

勇者「オレ、は…………」



薬師『知りたくないことや、経験したくないこと。
   もっとわかりやすく言えば、記憶から消し去りたいこと』

薬師『忘れられるなら、忘れたいってことありませんか?』



勇者(くそっ……意識が、もう…………)



509 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/23(日) 00:04:46 ID:F8ytvWSI




勇者「……ここは、どこだ…………いや、オレはいったい……」

??「予想よりだいぶ早く目が覚めましたね」

勇者「……なんでアンタがいる?」

勇者(また拘束されてる……それにからだの痺れがまだ……)

??「もとからあなたの力を得ることが、今回の目的だったものでね」

勇者「薬師とアンタたちは仲間なのか?」

??「彼女から説明されたんでしょう。
   彼女は私が送りこんだスパイ。そしてあなたたちを見事に欺いた」

勇者「……」

??「いまだに真実を受け入れられていない、そういう顔をしていますね」

勇者「魔物を滅ぼしてなにがしたいんだ?」

??「さあ? 行為の理由は様々でしょう?
   そもそもそんなことを聞いて、なにか変わるのですか?」

勇者(とにかく少しでも話して、時間をかせがないと)



510 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/23(日) 00:05:58 ID:F8ytvWSI


勇者「アンタは何者だ?」

??「前にも聞いてきましたね。答えられないって言ったはずですけど」

勇者「そんなわけあるかっ。自分のことじゃねえか」

??「ふっ、まあそう思うのも無理はありませんか。
   ……なら、逆に聞きますけどあなたは誰なんですか?」

勇者「……オレ?」

??「やたら私の正体に固執しているようですが。自分はどうなんです?」

勇者「それは……オレは……」

??「答えられないでしょう? 
   もっとも、あなたと私が答えられない理由はちがいますけどね」



511 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/23(日) 00:09:39 ID:F8ytvWSI


??「私はね、教会神父だったんですよ」


??「しかし私は生まれ変わった」


??「いつしか『災厄の女王』の教育係のひとりになりました」


??「同時に国の命令で、側近として魔王に仕えた」


??「最近では、この国の皇帝陛下の側近を務めさせてもらいましたよ」


??「まったく元老院の老人たちは、ひどいことをする」



512 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/23(日) 00:16:43 ID:F8ytvWSI


勇者「なにを言っている?」

??「あなたの質問に、可能な範囲で答えたんですよ。で、あなたは?」

勇者「は?」

??「あなたは何者なんですか?」


勇者(オレは……何者だ? オレは――)


??「あなたの代わりに答えてあげましょうか?」

勇者「やっぱりオレのことを知ってるのか!?」

??「あなたは私です」

勇者「は? なにを言ってるんだ?」



513 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/02/23(日) 00:18:21 ID:F8ytvWSI


??「私はね、もとは戦争孤児だったんですよ」

??「しかし私は魔術の才能と、ある可能性によって国に拾われたんですよ」

??「ある可能性の正体、なにかわかりますか?」


勇者「知るか」


??「勇者であるかもしれない、という可能性ですよ」

勇者「……アンタが?」


??「ええ。当時はまだ、勇者特定のシステムが確立されていなかった」

??「だから候補を絞るので精一杯だったんですよ」

??「勇者候補に選ばれたものたちに、拒