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「軍靴のバルツァー」、悲しいけどこれ戦争なのよね:ヤマカム
    
    「軍靴のバルツァー」、悲しいけどこれ戦争なのよね
    20140308 # 軍靴のバルツァー, 中島三千恒, お勧め漫画 


    軍靴のバルツァー 1 (BUNCH COMICS) 軍靴のバルツァー 5 (BUNCH COMICS) 軍靴のバルツァー 6 (BUNCH COMICS)

    おいおい何だこの面白さは。今までスルーしてた事は一生の不覚。お世話になってるゴルゴ31さんの柱リンクで2月のお勧め漫画になっており気になって読んでみたら大当たりのフィーバー!俺はこういう細部まで作り込んでいる世界観に弱いのだ。しかも設定だけでなく、キャラ、ストーリー、描写と全てが俺の心の琴線を鷲掴みにしてしまう。

    第一次ノルデントラーデ戦役による戦功により通常より3年も早く佐官に昇進するなど、順風満帆な出世コースに乗っていたベルント・バルツァーは、ある日、上官から突如として祖国ヴァイセン王国の同盟国、バーゼルラント邦国の王立士官学校に軍事顧問として出向するよう命じられる。

    バルツァーは渋々ながら命令を引き受けたが、軍事大国ヴァイセンから見れば「軍事後進国」であるバーゼルラントは、バルツァーの想像以上にお粗末な訓練を行なっていた。バルツァーは勝手の違う異国で四苦八苦しながらも士官学校の生徒たちを鍛え上げていくが、その中でバーゼルラント王室の宮廷闘争に巻き込まれてしまう。

    以上はwikipediaからコピペ。
    第一次世界大戦がはじまる前のヨーロッパを元ネタにしたと思われる架空戦記ものってところかな。モデルは普仏戦争で強国に伸し上がりバラバラの小領主国を統一してドイツ帝国を築いたプロセインのようです。自分はこの辺りの歴史は詳しくないんで全然ピンと来ないんだけどね。それでもハマってしまう面白さで引き込まれる。

    まず第一にキャラがいい。主人公のがなかなかどうして。良い主人公しちゃってます。軍事大国ヴァイセンから同盟小国バーゼルラントへ軍事顧問として士官学校の教官として派遣されるのがバルツァーである。初期は生徒と教官バルツァーの教師&生徒の関係がじっくり描かれます

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    バルツァー

    あえてジャンルをいえば「教師もの」といったところでしょうか。士官学校で19世紀の軍事のウンチク語りつつ、教官バルツァーと生徒達の絆を描いていく感じ。つっても妙に人間臭さはある。教師もの同様に生徒の導きはするんだけど、少将という軍人で出世欲もある。そも、この士官学校での働きっぷりいかんで将来が決まるので、上官にも国にも忠実であり、生徒との関係もあるので、間に挟まりまるで中間管理職のサラリーマンのようです。

    さらにいえば、スポーツ漫画の監督的な面白さも秘めている。「ラストイニング」とか「ジャイアントキリング」的な戦略的な監督のような一面も見せる。爽快感がいいね。この手のやつは最初は何の説明もしないで命令を出して、回りを「ファッ!?」ってさせるけど、後になって「実は○○でした」とやるハッタリが面白いんだけど、それが実によく描かれています。こうして生徒達のハートをガッチリキャッチしちゃうわけです。

    で、僕はこういう話を転がしていくのかなと思ったわけですけど、それだけに留まらない。1~3巻で教師&生徒ものをメインに描く一方で、ちょいちょいと世界観を見せてくる。他国の動向だったり、うごめく政治だったり、世界情勢だったり、暴動だったり、王の跡継ぎ争いだったり、キャラの背景だったり…と。おいおい風呂敷広がるなーと思ったら、世界が動き出す

    4巻からノンストップで一気に面白くなる。
    ただの教師&生徒ものだと思ってしまってすみませんでした。めちゃくちゃ面白ぇよこの漫画。「やめられない、止まらない」のかっぱえびせん状態です。続きが読みたいという衝動にかられる。圧巻。

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    戦争です

    戦争がはじまった。
    ヴァイセン王国がホルべック王国に戦争を吹っかけられてしまう。同盟関係にあるバーゼルランドも援軍を送るハメに。まあ、この軍事同盟を結ぶ流れも半分騙されたようなもので、その辺りの政治上の駆け引きが緊迫感あってリアリティと説得力あります。

    バーゼルランドは士官学校の生徒を義勇連隊として出兵するわけですが、10代の若者がいきなり自分の親と同じくらいの年齢のおっさんを率いることに。何かで読んだんだけど軍事養成所ってのは教官にボッボボコにされて毎日しごかれるんだけど、卒業すると同時にその教官は階級下となって敬語を使い敬礼して送り出し立派な将校になるとかなんとか。そんな感じの心情でしょう。

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    兵隊を率いる

    まあ、この辺りの子供達の葛藤が素晴らしいの一言。暴動編で人を殺すことは経験してたけど、戦争はまた全然違う。あと、貴族出身と平民出身で戦争におけるモチベーションが全然違うのも興味深いところであります。だがしかーし!授業で講釈してたように、貴族が先陣をきる古き良き時代はもう終わりなのである。

    時は近代兵器へと変革していく時代。
    紅い彗星シャアは「性能の違いが戦力の決定的差でないということを教えてやる!」と言っていたけど、その言葉が虚しく響くぐらいに、性能の差がそのままモロに戦力の差になるのが悲しいところ。悲しいけどこれが近代の現実なのよね。

    ザクじゃどう逆立ちしてもガンダムに勝てない事を明確に論理的に残酷なまでに描くのが「軍靴のバルツァー」である。

    性能の差ってのは1巻でもじっくり描かれていた。

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    1巻で語られた性能の差

    マスケット銃、日本における火縄銃。戦術は整列歩兵による密集陣形の一斉射撃。ひたすら撃つ、撃つ、撃つ!敵の陣形が崩れたら銃剣突撃。こんなのもう遺産の戦術である、と。連射可能なライフルを導入すべきだ、と。それを1巻では50人(マスコット銃)対5人(ライフル)で見事に証明してみせていた。技術の利である。私はミリオタじゃないんで分からないんだけど、かなり説得力を持って説明されるから、ほうほうそうなのかと納得するしかない。

    もうこれでもかと兵器は性能&戦術がものをいうと説明するわけ。
    で、4巻から始まるホルべック王国との戦争の面白いところは今まで散々説明した技術の利を敵が勇猛突進で否定しちゃうところ

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    ホルベック王国、1に突撃、2に突撃、3、4も突撃、5に突撃

    ライフル銃の性能?なにそれ食えんの?と言わんばかりの見事な突撃一辺倒である。こういう今までのウンチクを覆すところも読んでて唸らされます。でも悲しいけどこれ戦争なのよね。1巻で武器の性能を説明してる中、相手が着剣突撃をしようとして焦ってたのに繋がるわけです。

    というかどう見てもホルべック王国がデンマークである。デンマーク王国です。デーン人です。ヴァイキングの末裔です。しかも2回目の戦争のようだ。ドイツとデンマークというとこれは第二次シュレースヴィヒ=ホルシュタイン戦争なのでしょうか。どこまで史実に合わせてるか知らんけど。この辺りの歴史が詳しくないのが悔やまれる。おそらく世界史好きならニヤリとできるネタが散りばめられているのだろう。

    んで、この戦争編が面白かった最大の理由は撤退戦だったからでしょうね。そも、同盟国の第二王子を戦死させるわけにはいかないので、バーゼルランド義勇軍は最初から安全地帯に配備されてた。これは同盟国が参戦したという広告を内外の国際世論に訴えかけたかっただけなのだ。なのに、予想を覆すホルベック王国の猛攻で撤退戦をする羽目に。「皇国の守護者」でも描かれてたけど、撤退作戦というのは戦争の中でも一際緊張感と絶望感があるよね。緊迫感が半端ない。面白すぎるってなる。

    もうこなると命の優先順位が明確に描かれるわけ。王子を戦死するわけには絶対にいかないし、王子直属の義勇軍も戦死させるわけにはいかない。だから、死ぬべき者は自薦他薦問わず自ずと決まってくる。人間の命は平等ではないんだよね、少なくともこの時代の戦場では。

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    歩けない者は将校以外は置いていく

    撤退作戦において森へ逃げる為に5分間の敵の追撃を食い止める為に真っ先に時間稼ぐためだけに死んだバーゼルランド軍の末端からは始まり、今後の政治的に重要人物を生き残らせる者の為に死ななきゃいけないわけである。ブラック社員によろしく、いつの時代も使い捨てというものは存在する。これが現実!

    そして戦場を勝利…というか生き残った。
    その残酷さも凄い。主人公バルツァーは戦争にかけては天才的な嗅覚をもっているんですけど、彼は後に貴族の花形である騎馬戦など無くなると論文で語っていました。そして、この戦いで突撃一辺倒のホルベックの騎馬戦をこれでもかと無残に惨殺するのである。

    1
    騎馬隊が惨殺されるの図

    あんなに圧倒的であった敵があまりも無残に惨殺してしまう残酷さよ。今間違いなく戦争する形態が変わっていく様をまざまざと見せつけてくれるのです。自分で騎馬兵不要論を机上の空論で語ってたバルツァーですら、自分で考え勝利した時に、あまりの惨さに「遠からず戦争の姿は一変します。我々の想像を遥かに超えた凄惨な戦場に―」とかセンチメタルに語っちゃうわけ。時代はまさに近代戦争へと変わろうとしている。明らかに戦時ものとして面白くなってきた。

    それと軍事戦略だけ描かれてない骨太仕様なのもこの漫画の凄いところかな。以前に、暴動が起こって沈静化させる為に出撃した時のエピソードも外せません。「住人が暴徒と化す→治安維持の為に出撃→何人か殺す」この流れで誰が悪役になるかってのも面白い点だよね。暴徒を放置など出来ないし軍が鎮圧に乗り出すのは当然。これを新聞は軍が一般市民を一方的に殺したと書きたてるし、バルツァーは暴徒の為に未来ある若者が亡くなったと演じる。左派と右派の政治的煽りもほうほうと思わせてくれます。

    かの吉田茂元総理には有名な逸話がある。

    君達は自衛隊在職中、決して国民から感謝されたり、歓迎されることなく自衛隊を終わるかもしれない。きっと非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない。御苦労だと思う。しかし、自衛隊が国民から歓迎されちやほやされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡の時とか、災害派遣の時とか、国民が困窮し国家が混乱に直面している時だけなのだ。言葉を換えれば、君達が日陰者である時のほうが、国民や日本は幸せなのだ。どうか、耐えてもらいたい。(吉田茂 昭和32年2月防衛大学第1回卒業式より)

    これがまんま当てはめられちゃうわけよ。
    平時においては軍なんて…という雰囲気も描かれ、家族からも「そんなに勉強してなるのは兵隊か?くだらんな」とか言われちゃったりするんだけど、いざ戦争から帰ってくれば、魔王を倒した勇者のような歓迎っぷりである。

    2
    勇者の帰還だー

    なんだこの歓迎っぷり。
    あれですよ、オリンピックで金メダル取った選手の凱旋を国民がお出迎えするようなものです。この辺りも含めて色々と考えさせてくれちゃうわけです。最初は風呂敷広げすぎだと思いましたが、まあ上手にまとめていくじゃありませんか。猛烈に続きが気になります。

    6巻では外交戦争が開始されるんだけど、まあこれがまたクソ面白いのなんの。戦争の講話や賠償問題をどうするかが描かれていくけど、謀略渦巻くわけですよ。戦争ものだけでなく「政治劇」としても素晴らしいのなんの。

    世界設定、キャラクター、ストーリー全てが僕の心の琴線を鷲掴みにしました。絶品である、と。ただ一つ難点を上げるとしたら、ラブコメ大好き人間としては甘さが足りないかな。

    だがしかーし!
    なんと足りない「甘さ」も6巻では補充できる非の打ち所のない布陣となっているわけでございますよ。ヘルムートという貴族出身の女の子がいるわけ。なんか、王室に土地を摂取されないために男子として土地を相続してるという設定。美少年に見せかけて実は美少女だったというヤツである。

    3
    ヘルムートは女の子だった

    ヘルムートが女の子だったと判明するのはかなり初期。で、僕はてっきりこの設定を上手く転がして、我々のような萌え豚をブヒーブヒーと鳴かせるような展開が炸裂するんだろうと期待したものです。でも、まったくこの設定が意味もなく物語は進むわけ。他の少年たちと同じように苦悩して成長していくわけ。え、実は女の子でしたの設定、意味あんの?って感じに。

    だ・け・ど!
    6巻にしてこの実は女の子でした設定が卍解しちゃうわけ。
    ヘルムートが覚醒するのである。政治劇で盛り上がると同時に、我々養豚が喜ぶ展開が開幕!

    4
    ヘルムート

    ブヒィィィィ!!

    素晴らしい。実に素晴らしいです。
    今まで「実は女の子だった」設定は全てこの時のためのタメであったのだ。なるほどね。穏やかな心を持ちながら、実は女の子だった男装少女が女の子の格好をして覚醒するというのは王道だ。だけどさ、こいつは反則的な可愛さだっつーの。どう読んでも顧問に惚れてる臭いんんですけどどどどど。はじまりまくってるな!

    普通に軍事ものとしても面白いのにヘルムートがバルツァーに恋してるんじゃねと思わせてくれる展開に面白さのブーストがかかりやがるいわけですよ。はい、最高にワクワクドキドキさせてくれる。こいつは名作の臭いがプンプンするぜぇ!超お勧め!7巻はまだかー。

    軍靴のバルツァー 6 (BUNCH COMICS)
    中島 三千恒
    新潮社 (2014-02-08)

    軍靴のバルツァー 5 (BUNCH COMICS)
    中島 三千恒
    新潮社 (2013-07-09)

    軍靴のバルツァー 4 (BUNCH COMICS)
    中島 三千恒
    新潮社 (2012-12-08)

    軍靴のバルツァー 3 (BUNCH COMICS)
    中島 三千恒
    新潮社 (2012-07-09)

    軍靴のバルツァー 2 (BUNCH COMICS)
    中島 三千恒
    新潮社 (2011-12-09)

    軍靴のバルツァー 1 (BUNCH COMICS)
    中島 三千恒
    新潮社 (2011-07-08)



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    コメント一覧

      • 1. ゴルゴ774
      • 2014年03月08日 19:57
      • 騎兵突撃は漢のロマン!
        でも圧倒的軍事力の差を一気に形勢逆転も漢のロマン!!
        たまらんです