「俺と幼馴染と幼馴染」
- 1 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/14(土) 19:37:02 ID:zavYEJk6
- ……………
………
…
俺の幼馴染は、二重人格だ。
午前中と午後で、人格が変わる。
ただ周りの人には多分わからないと思う。
なぜなら…
幼馴染「ねえ、男…久しぶりにマリオパーティーやろうよ」
幼馴染『ねえ、男…久しぶりにマリオパーティーやろうよ』
性格と好みがほとんど変わらないから、幼馴染が二人いることに気づかないから。
男(…マリオパーティー、昼飯の前にやってたんだけどな…) - 2 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/14(土) 19:38:17 ID:zavYEJk6
- 幼馴染「ああー、勝てないー!」
男(…なんで同じ日に同じゲームをやりたがるかな)
幼馴染「ちょ、ちょっともう一回!もう一回やろう!」
さっき二人の彼女の差異が『ほとんど』無いと表現したのは、そのまんまの意味…最近になって判り始めてきたごく小さな違いがあるからだ。
幼馴染「…また、負けた…もういいや…」
例えば午前中の彼女は、この連敗になかなか屈する事なく更に数回以上のリスタートを要求してきた。
幼馴染「…音楽でもかけよっか」
でも、その後でとる行動のパターンは同じ。
やはり微々たる違いに過ぎない。 - 3 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/14(土) 19:39:42 ID:zavYEJk6
- いつから二重の人格をもつようになったのかは、はっきり判らないらしい。
その事を俺に打ち明けてくれたのは半年ほど前の事。
彼女は親にさえ話していないから、俺だけが知る秘密という事だ。
なぜ親や先生、そして医者に相談しないのか…最初は半信半疑ながら俺もそれを彼女に尋ねた。
その時の答えは『困っていない』という理由と、もうひとつ…今の環境を変えるのが怖いというもの。
確かにその症状が精神的な疾病であると診断されれば、彼女の生活は随分と変わってしまうだろう。
それを思うと、俺としても受診を勧める気にはなれなかった。 - 4 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/14(土) 19:40:15 ID:zavYEJk6
- 幼馴染「男、今日は晩ごはん食べてく?」
男「うん…ご馳走になろうかな」
幼馴染「じゃあ、お母さんにそう言ってくる」
ぱっと顔を明るくした彼女は、日記帳をぺらぺらとめくって確認してからドアの向こうに消えた。
午前中の彼女の記憶は、今の彼女には無い。
しかし彼女はそれぞれの時間帯での大事な出来事を、一冊の日記帳で共有するように努めている。
おそらく今、確認したのはここ数日の午前中の食事の記録。
ついこの前食べたものを希望メニューとして母親に告げれば、不審に思われる可能性があるからだ。
でもさすがに午前中、何のゲームをやって遊んだかまでは記入していないのだろう。
男(まあパーティーゲームに二回付き合うくらい、安い御用だしな) - 5 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/14(土) 19:41:34 ID:zavYEJk6
- 夕食をご馳走になって、その後もう少しだけ彼女の部屋で寛ぐ。
今日は土曜日、明日も学校は休み。
高校で美術部に所属する俺達は、休みの日まで活動をするほど真面目な部員ではない。
幼馴染「本当は遅れ気味だから、描かなきゃいけないんだけどね」
男「俺はもう今度の作品、ほぼ出来てるからな。余裕あるぜ」
幼馴染「じゃあ、手伝ってよ」
男「それじゃ提出できなくなるだろ」
この話は午前中の彼女とはあまり出来ない事だ。
美術部員としての幼馴染は、放課後を活動時間に含む事のできる午後の彼女が占める割合が高いから。 - 6 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/14(土) 19:42:06 ID:zavYEJk6
- …そして。
幼馴染「…男」
彼女がそっと俺の肩に寄り添う。
俺はその頭を撫でて、少しの後に柔らかくキスをした。
俺達が恋仲になったのは一ヶ月ほど前の事だ。
その前から限りなくそれに近い関係ではあったのだけど。
ただひとつ、小さくて大きな問題がある。
午後の彼女が俺に想いを打ち明けてくれて、晴れて付き合うようになった…その事を午前の彼女は知らないのだ。
何故か午後の彼女は日記帳でその事を伝える事はしなかったらしい。
どうやらそれぞれの彼女には、各個人としての独占欲があるようだった。 - 7 :以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/14(土) 19:43:05 ID:zavYEJk6
- 午前の彼女とも同時に、同じ関係を持つようにすれば良かったのかもしれない。
でもそれは『午後の彼女がこうしたんだからお前もそうしろ』と言っているのと同じ。
例え俺が何か嘘をついても『午後はこうした』と言えば午前の彼女も従わざるを得ない…それは違うと思った。
男「じゃあ、帰るわ…隣だけど」
幼馴染「うん…また明日も会おうね?」
男「ああ、多分…駅前くらいかな」
明日は朝から一緒に町に出る予定だ。
ちょうど正午に切り替わる二人の人格、次に今の彼女に会うのはおそらく駅前で服を見た後だろう。
幼馴染「…朝マック、食べてみたいなあ」
男「うん…今度、買っといてやるよ」
幼馴染「おやすみ…男。…いつもおはようが言えなくてごめんね」
男「そんな事、気にすんなよ。…おやすみ」
午前のお前に言って貰ってるから構わない……多分、それは言わない方がいいのだろう。 - 14 : ◆M7hSLIKnTI 2014/01/04(土) 22:10:17 ID:Rp7hqP3I
- ……………
………
…
…翌日
幼馴染「おはよう、待った?」
男「おー、おはよ。待つも何も、自分の家にいたし」
幼馴染「だよねー。いいよね、お隣り同士って」
男「今に始まった事じゃないだろ」
幼馴染「そういう時は素直に同意しなさい!」ドスッ
男「うぐっ」
慣れたやりとりを交わしながら、いつものバス停へと向かう。
そこから駅前までは二十分ほど、とはいっても距離はさほどでもない。
交通量の多い道ばかりを通るからその位かかるというだけで、もしかしたら自転車の方が早く着く可能性もある。 - 15 : ◆M7hSLIKnTI 2014/01/04(土) 22:11:21 ID:Rp7hqP3I
- 駅前に着いたのは九時頃。
昨日そんな話をしたからというわけではないけど、朝マックを食べる事にする。
俺はいつもソーセージと卵のマフィン、彼女は日によって違うものをチョイスするが、今日は同じものがいいとの事だった。
幼馴染「ここ、空いてるよ」
男「んー、表通りに近すぎるからパス。もうちょい奥に行こう」
幼馴染「あはは、大口開けて食べてるの見られるのは何か嫌だもんね」
少し奥まった所のテーブル席に座り、他愛もない事を話しながらゆっくりと朝食を摂る。
当たり前だが、食べるペースは俺の方が早い。
話にキリがついた頃を見計らい、まだ彼女が食べ終わるには多少の時間がかかる事を確認して、俺は自分のマフィンの残りを口に押し込んだ。
幼馴染「そんなに詰め込んだら喉に詰まるよ?」
男「う…ん……ん………ぷはっ、大丈夫だって。悪りい、ちょっと花摘んでくるわ」
幼馴染「乙女ですか」 - 16 : ◆M7hSLIKnTI 2014/01/04(土) 22:12:06 ID:Rp7hqP3I
- 席を立ち、トイレのある方へ向かう……が、本当はそこに用は無い。
わざわざ奥まった席を確保したのは、この行動を幼馴染に見せないためだ。
店員「いらっしゃいませ、こちらでお召し上がりですか?」
ええ、こちらで召し上がってます。
男「ソーセージエッグマフィン、単品で一個。持ち帰りで」
店員「畏まりました」
良かった、ついさっき同じ物を注文した奴だという事はバレていないみたいだ。
どれだけこのマフィンが好きなんだと思われてしまう。
間も無く出てきた紙袋を受け取り、肩から提げた小さなスポーツバッグに押し込む。
男(……潰さないように気をつけなきゃな) - 17 : ◆M7hSLIKnTI 2014/01/04(土) 22:12:46 ID:Rp7hqP3I
- 彼女が食べ終わって更に少し話をしている内に、駅前の店がオープンする時間になった。
今日は服を見るという漠然とした目的はあれど、他に定めた予定は特に無い。
その『服を見たい』という希望を唱えたのは午前中の彼女だから、その用事は昼までに終わらせる必要がある。
とはいえ、そう時間に迫られているわけでもない。
ぶらぶらと目にとまった店に立ち寄りながら、何を買うでもなく冷やかしだけ。
幼馴染「あ、これ可愛い」
男「うん、言うと思った」
幼馴染「うわ、予想されてた」
男「ふっふっふ、わからいでか」
気の向くまま雑貨屋に寄ったり、靴屋に寄ったり。
目的としていた服の店に入る頃には午前11時が近付いていた。 - 18 : ◆M7hSLIKnTI 2014/01/04(土) 22:13:28 ID:Rp7hqP3I
- 男「なんか目当てがあんのか?」
幼馴染「無いよ。でもそろそろ冬物が安くなる頃だから……あ、これどう思う?」
男「似たようなの持ってる気がします」
幼馴染「むう……鋭いね」
男「さっきもそうだったけど、お前の好みはおよそ解ってんだって。ちっとは冒険してみたら?」
幼馴染「じゃあ選んでよ」
男「それ、すげえ文句言われそう……」
幼馴染「辛口ですよー、えへへ」
余計な事を言ったな……と後悔しつつ、女物の服をあれこれと品定めする。
要するに普段はこいつが着ないような、それでいて俺好みな服を選べばいいという事だ。
俺の趣味どストライクな服を着てくれるとしたら、それはそれで悪くはない。 - 19 : ◆M7hSLIKnTI 2014/01/04(土) 22:14:08 ID:Rp7hqP3I
- 男「これは?」
幼馴染「うーん、そういうゆるふわな感じのは自分じゃ選ばないなぁ……似合うのかな、私に」
男「羽織ってみろよ」
幼馴染「ま、一応……ね」
彼女は今着ているアウターを脱ぎ、きょろきょろしている。
どこか掛けておくところが無いか探しているのだろう。
男「貸せよ、持っとくから」
幼馴染「おお……男がそんな気を利かせるとは」
ちょっと失礼な事を言われた気がするが、まあ気にはしないでおこう。
差し出されたそれを受け取り、代わりに俺が選んだファー付きのショートコートを手渡す。
彼女は少しの間しげしげとそのコートを見て、小さな声で「こういうのが好みなんだ」と呟いた。
俺も同じ位のボリュームで「悪いか」と呟いておいたが、聞こえただろうか。 - 20 : ◆M7hSLIKnTI 2014/01/04(土) 22:14:45 ID:Rp7hqP3I
- 幼馴染「……どう、でしょう?」
男「いいと思います」
幼馴染「どういう風に?」
男「えーと……新鮮で」
幼馴染「私は生鮮食品ですか」
自分でも解ってる、今のは照れ隠しだ。
恋仲という関係である午後の彼女になら、もっと素直な感想を言えたはず。
じゃあどうする、今の彼女には言わないのか……?
男「まあ、その……あれだ」
幼馴染「どれ?」
そんな差別、したくはない。
男「……俺好み、ではある」
幼馴染「お、照れてる」
男「うるせえ」
幼馴染「私も照れてる」 - 21 : ◆M7hSLIKnTI 2014/01/04(土) 22:15:23 ID:Rp7hqP3I
- 男「……予算的には合うのか?」
幼馴染「ギリギリ圏内……いや、ちょいオーバーかな……いやいや」
ここで「少し足してやるよ」とでも言えば株も上がるのだろうが、それは難しい。
幼馴染「うーん……いいや、買っちゃおう!お年玉だもの!」
男「ああ、それで服買う余裕があったのか」
結局、彼女はそれを購入した。
俺の趣味も悪くは無かったようで、少し安堵する。
ふとレジの奥の壁に掛けられた時計を見ると、もう午前11時半を回っている。
彼女が『今の彼女』でいられる時間は残り少ない。
店を出た後、携帯の時計を気にしながらゆっくりと歩道を歩く。コメント一覧
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- 2014年03月12日 21:30
- 長いきもい
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- 2014年03月12日 21:58
- 長い
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- 2014年03月12日 22:09
- 面白いなこれ
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- 2014年03月12日 22:18
- 斬新で面白かった
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- 2014年03月12日 22:21
- 良い小説を読んだ
そんな気分
乙
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- 2014年03月12日 22:27
- 発想に感心した。おもしろかったわ。
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- 2014年03月12日 22:32
- 新鮮でよかった
簡潔な内容はすき
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- 2014年03月12日 22:35
- きっと初めの方の人読まずにコメントしたんだろうなぁ
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- 2014年03月12日 22:40
- ※1※2 ちゃんと読んでからコメントしましょうね?
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- 2014年03月12日 22:43
- 普通におもしろかったけど、パレットの傷とかじゃなくてもっと人格に関する絵が下地に描いてあって、男が誤魔化してたとかかと思って読んだから、ちょっと肩透かしな感じだった
いや、面白かったですけどね。
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- 2014年03月12日 22:44
- 綺麗な印象だった。いいね
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- 2014年03月12日 22:56
- 一部で飽きた…
けど面白い
だから★4
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- 2014年03月12日 23:03
- すごい良かった!
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- 2014年03月12日 23:03
- ※10 絵っての自体が午後の幼馴染と過ごしてた時間の象徴だからじゃないかね。
それについた傷を午前の幼馴染を通して伝える事で午前午後がお互いを認めるってのに繋げてる。
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- 2014年03月12日 23:05
- 長いのは駄作率が高いから読まずに来たよ
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- 2014年03月12日 23:17
- 面白かったで
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- 2014年03月12日 23:26
- これ好きな雰囲気だわ
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- 2014年03月12日 23:46
- 糞みたいな自演が作品の質を下げる
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- 2014年03月12日 23:57
- 双子だったんだろうな。
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