ほむら「想いの結晶」/ほむら「想いの欠片」|エレファント速報:SSまとめブログ
ほむら「想いの結晶」/ほむら「想いの欠片」
- 1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:32:09.74 ID:j4MC2eqco
魔法少女まどか☆マギカ-叛逆の物語- の続きを、妄想で書いたものです。
「始まりの物語」「永遠の物語」「叛逆の物語」その他関連作品のネタバレを含みます。
暇な方、よければお付き合いください。
- 2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:32:40.73 ID:j4MC2eqco
手に入れたのは孤独。
それでも私は満足だった。
一度ならず二度なくした命を、こうして彼女のために使えるのだから。
誰もが私を非難する、私のしたことは間違いだと。
たった一人それを受け入れてくれると思った彼女も、また答えは同じだった。
そのことに私は大きく揺らいだけれど、またどこかでそれを予想していたのか、理解することは容易かった。
それでも私はこの想いを貫こう。
あの子を呪いに縛り付けた世界など、絶対に許さない。受け入れない。
それさえ叶うなら、私はもう、何も要らない。
深い紫に沈んだ結晶を撫でると、脈動するように表面が波を打った。
怪しく光るそれは、変質した魂の容れ物は、私が神様に叛逆して、堕ちたことの証。
この想いで埋め尽くされた、とてもあたたかい闇に。
- 3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:33:20.57 ID:j4MC2eqco
―――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
―――――――――
眠りを必要としなくなったのはいつからだろうか。
魔法少女としての力を手に入れてから、だと思うけど、それでも暇を見つけて布団に入るようにはしていた。
そうしないと、恐怖で闇に呑みこまれてしまいそうだったから。
今となっては、闇は私そのもの。
慈しみこそすれ、恐れる道理など無い。
日が沈んでからは、見滝原を見渡せるこの丘の上で、時間を潰すようになった。
眠くもないので、別に不都合があるわけでもなし。
私の作りだした世界を眺めて、ただ時々目を閉じて開いて、を繰り返す。
とはいえ、別に、暇と言う訳でもない。
魔獣が湧けば使い魔に指示を出すし、時には自ら潰しに行くこともある。
そして、こんなことも、たまにはある。
- 4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:33:47.51 ID:j4MC2eqco
「夜遊びかしら。美樹さやか」
「……誰が好き好んで。こいつらを差し向けたの、あんたでしょ」
声のする方へ振り向けば、そこに居たのは一人のクラスメイト、元、円環の鞄持ち。
美樹さやかが、私の使い魔を足元に引き連れて立っていた。
表情に浮かんで見えるのは、戸惑いと、若干の怒りと、敵意。
私に向けられたそれを感じて、口元が笑いのかたちにねじ曲がる。
「あら、困った子たち」
はぐらかすように答えて、手をゆっくりと招聘の形に二度動かす。
無邪気な声を上げて走り寄る使い魔たちを、あやすように撫でてあげた。
いくつかは弾けて闇に溶け、いくつかはまた楽しそうに私から散って行く。
その後姿に目線をやり、わざと美樹さやかを無視するような素振りを見せてやれば、分かりやすく彼女は苛立ちを隠さない。
- 5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:34:20.38 ID:j4MC2eqco
「あんた、一体何なのよ。こいつら一体何なのよ」
「そんなに疑問に思うものかしら。私はとてもこの子たちを信頼しているけど」
「質問に答えてよ。あんた一体何なの」
ちょっと怒気を含んだ声で美樹さやかが繰り返す。
この問答も何回目だろう。
夜が訪れて、彼女が私の力に囚われるたび行われる問い掛け。
決まって安い挑発を浴びせれば、彼女はいつもその答えに辿り着く。
まあ、きっとまたすぐに忘れてしまうのだけど。
だからいつものように、私はその言葉を口にした。
「知ってるでしょう?」
「……そうだ、あんた、あんたは……あたしの、あたしたちの、敵で」
- 6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:34:54.24 ID:j4MC2eqco
悪魔。
嗤うように、彼女の言葉を引き継いだ。
空間は歪み、私たちの戦いの場へと移る。
高層ビルの屋上あたりがいいかな。
うん、それがいい、そうしよう。
美樹さやかを伴い、降り立った地に吹き荒れるビル風が、私の身体を吹き抜けて濁った力の奔流になって、世界を隔離する壁となっていく。
今日の結界はちょっとご機嫌斜めかもしれない。
前から少し時間が空いてしまったからだろうか?
ちゃんと手加減しなきゃいけないんだけど。
閉ざされた世界の中に佇む魔法少女に声を掛ける。
この現象が何かなんて分かる訳もないだろう。
彼女に蘇っている記憶は、あの時に決別の証として宣言したこと、ただそれだけだ。
だから。
- 7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:35:24.19 ID:j4MC2eqco
「いらっしゃい、美樹さやか」
「目的も存在も何も分からなくていい。でも、確かに私はあなたの敵」
「ただ、倒せばいい――そうでしょう?」
彼女の性格上、面倒なことがないのは楽でいい。
目の前の魔法少女が剣を構えたことを確認して、私も両の手を闇にかざす。
世界そのものと同化する私に、あなたが勝てる日は来るのかしら?
そう声に出さず呟いて、目の前に迫る敵意の塊に向かい力を解き放った。
- 8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:35:56.18 ID:j4MC2eqco
「適当に運んでおいて頂戴。佐倉杏子には見つからないようにね」
使い魔に気絶した美樹さやかを担がせて、端的に指示を与え、また私は空を見上げる作業に戻った。
もうすぐ時は暁。
仄暗い霧を浮かべた空が、やがて金色の光を吐き出すだろう。
さあ、長い一日が、また始まる。
永遠にも等しい時に浸ろう。
あの子の傍で、あの子の彼方で。
- 9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:37:21.20 ID:j4MC2eqco
そして、朝。
歩き慣れた通学路を行けば、通り過ぎていく人波の中に、見知った顔もいくつかある。
私が勝手に覚えているだけで、あちらは私のことなど覚えているはずもないけど。
群衆のざわめきと靴の鳴らす足音の合唱に紛れて、そんな彼女たちの声が聞こえてきた。
「こら、そんなに大きく口を開けて、はしたないわよ」
「なぎさは眠いのです……昨日の夜、マミお姉ちゃんがイタリア紀行番組なんて見つけるから悪いのです」
「う、確かにそれは私のせいだけど」
良く見知った顔の一つ、巴マミと話すもう一人は、改変の折に初めて知った存在。
私がまどかと一緒に引きずり下ろしてしまった、円環の理の一部。
幸か不幸か、因果なもので、こうして巴マミとよろしくやっている。
美樹さやかとも違い、これといって私に対してのアクションがないため、特に意に介することもなく放置している。
まあ、寂しがりのくせに強がりなあの人の隙間を埋めてくれるなら、むしろ苦労が減ってありがたい。
- 10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:37:52.80 ID:j4MC2eqco
用もない、適当に歩を緩めてやりすごそう。
使い魔たちが後ろから私の背中を蹴っているのを無視しつつ、顔をゆっくり下に落とす。
落とそうとして、視線を受けた。
首を返してみれば、その感覚は消えていて、彼女たちは言葉を互いに交わしているのみ。
「……? どうしたの?」
「なんでもないのです」
「じゃあ行かなきゃ。あなた、今日は朝礼でしょ」
「めんどうなのです……遅刻しても」
「ダメに決まってるじゃない」
- 11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:38:44.57 ID:j4MC2eqco
視線の主と思われる少女は、私の返す視線を意に介さず駆けていく。
私たちよりも一回りどころか二回りも小さいその後姿が、何を考えているのかは分からない。
自分の足が止まっていることに気付いた上、後ろからこれでもかというほど聞き覚えのある声が聞こえてきたので、そこで思考は中断した。
「さやかちゃん、眠そうだね」
「んー、なんかねえ。よくわかんないんだけど、最近睡眠不足気味で」
「授業中寝てばっかいるから夜寝れねーんじゃねーの?」
「あんたと一緒にすんな!」
賑やかな声に急き立てられるように、私は歩幅を広めて前に進む。
何よりも耳を捉えて離してくれない声に後ろ髪を引かれるけれど。
それは押し殺す。
ぐしゃりべちゃりと、私にまた赤い実がぶつけられる。
誰にも見えないその赤が視界を埋めて鬱陶しい。
耳に下がる結晶を撫でて心の平穏を保ちながら、ゆっくりゆっくり流れる風に逆らって歩いていく。
涼しかったはずの春の空気は、いつの間にか蒸し暑く変わっていた。
- 12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:40:01.14 ID:j4MC2eqco
「……出来ました」
「あら、ええ、よく出来てますね。ではお昼休みにして結構ですよ」
「きりーつ、れい、ありがとうございましたー」
やる気のなく、それでいてやたらと早口な美樹さやかの号令によって、昼前の授業が切り上げられる。
私はと言えば、ホワイトボードの前に立って自分の書き上げた解答をぼんやりと眺めていた。
およそ中学で習うべき範囲を遥かに逸脱したそれは、この世界に与えた歪みの証。
間違いが無いことをもう一度確かめて、訪れた昼休みの喧噪の中に紛れながら、自席へと戻った。
ほんの少しだけ優越感を抱いてしまうのは、責められて然るべきだろうか。
机に突っ伏している佐倉杏子を見て、そんなことを思う。
またトマトが飛んで来たけど、これはどの部分に反応してのものだろうか?
投げて来た使い魔を一瞥してみると、そちらには何人かのクラスメイトが居て、ちょうどこっちを見ていたものだから面倒くさい。
悲鳴のようなものを上げて、ぱたぱたと駆けていった。
そんなに私の目つきは悪いのだろうか?
まあ、その方が不都合もなくていいのだけど。
- 13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:40:44.85 ID:j4MC2eqco
「ぁ、あの」
そんなだから、私に声を掛けてくる奇特な存在なんて、ほとんど皆無に等しい。
ごくごく稀に、ごくごく限られた何人かの物好きが、それを試みるくらい。
聞こえなかった振りをして、通り過ぎてしまうこともある。
ただ、この声の持ち主にだけは、それはできなかった。
「ほむ……ら、ちゃん」
それが誰のものかなど、頭に介する必要はない。
いつ聞いても、その声は私の心を鷲掴みにして、思考を無理やりに止めさせるのだから。
心臓が大きく一度揺れる。
呼吸も止まって全身から汗が噴き出す。
見えないように背中で隠して、心臓のあるところを鷲掴みにした。
震えがおさまったことを確認し、表情を整えて、振り返る。
- 14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/01(日) 19:41:20.49 ID:j4MC2eqco
「何かしら」
続く言葉を、いつかのように言いかけて、そこで切る。
ちゃんと、それを、言い切らなきゃ。
簡単なことじゃない。
でも、私には、それを言う資格なんて、な