モバP「新しくアイドルプロダクションを作った」
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前作:モバP「女は、信用できない」
- 1:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/16(木) 00:22:38.51 ID:R6BEvH9r0
前の仕事をやめる時に貰った退職金と、今までの貯蓄で、何とか新しいアイドルプロダクションを作る事ができた。
購入した事務所は比較的新しく、古い物件ではないがやや小さい。一般的な収入で一個人が建てるならこの程度が限界か。いや、俺が貧乏なだけかもしれない。
とりあえず正式に設立を終えた。だが、残念な事にアイドルが一人もいない。
最初はアイドルのスカウトから始めないといけない。
だけど俺は男だ。いきなり近寄ってきた男にアイドルにならないかと誘われたら、よほど危機感のない女性では無い限り、俺を怪しむだろう。
女性の従業員がいてくれれば、男の俺よりも幾ばくか容易にスカウトできるだろうが、アイドルが一人もいない今、給料なんか出せない状態だ。
やはり、どんなに成功確率が低くても自ら足を運び、声をかけていく必要がある。
……それなりに困難だ。
- 2:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/16(木) 00:25:26.25 ID:R6BEvH9r0
世の中そう甘くない。自分の手でここまで来れたけど、こんなんでこれから上手くやっていけるだろうか……
――って、自分で起業するぐらい、俺はこの仕事が大好きじゃないか。今から弱気でどうする。ここまで来たら絶対アイドルになってくれる人を見つけてみせる。
俺は腹を決め、アイドルになれそうな人をスカウトするべく、事務所を出て、人の多い駅前辺りに向った。
下手したら通報されかねないが、アイドルに向いてそうな女性へと片っ端から声をかける。
逃げられたり、無視されたり、悩まれたけど断られたり、何故か雑談になったり、色々な反応を貰ったが、俺は挫けない。- 4:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/16(木) 00:32:00.59 ID:R6BEvH9r0
「見つからないなぁ……」
いつの間にか夜になっていた。気がつかないうちに相当な時間歩き回っていたらしい。だが、未だに一人もアイドルになってくれる人が見つかっていない。なってくれそうな人はそれなりにいたが、流石に所属アイドルが一名もいないのは問題のようだ。当たり前だが。
スカウトではなく、オーディションでもいいのだが、作ってすぐの事務所に果たして人が来るだろうか。案外来るかも知れないが、その子達がアイドルに向いているかどうかは未知数だ。やはり自分の足で探す方がいい。
駅前の大きな広場にあるベンチに腰掛け、ぼんやりと人混みを見渡す。駅は相変わらず人が多い。
一日中歩き回って疲れた俺は、ベンチで思う存分体を休めた。くつろぎながら、何となく、空を見上げた。
星が綺麗だった。大都市だと明るくて見づらいものだが、それにも関わらず、たくさんの星が夜空で瞬いていた。- 5:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/16(木) 00:48:00.08 ID:R6BEvH9r0
星の観察に飽きて、そろそろ事務所に戻ろうかと視線を戻した時、視界に映る一人の少女に、思わず目が留まった。その少女は、夜空を見上げて佇んでいた。
女性にしては身長がやや高く、少し華奢だが体つきはとてもいい。不健康に思えるほど白い肌に、整った顔立ち、透き通るような青い瞳、そして、道行く人々の興味を惹く、肩まで伸びる銀髪。
真っ白なジャケットと黒いTシャツに、濃い青のジーンズを着こなしている。少女は日本人の顔立ちではなく、ロシア人やアメリカ人のような……分からないが、とにかく、西洋系の顔立ちだった。
とても、綺麗な少女だった。端麗な容姿に加え、知的で理性的な雰囲気、冷たい眼差し、感情の読めない無表情も合わさって、かなり独特のオーラを放っていた。
精巧に作られた等身大の人形が立っているのではないかと思わず錯覚してしまうほど、少女は美しかった。
- 6:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/16(木) 00:55:14.84 ID:R6BEvH9r0
気がつけば、少女の近くまで歩み寄っていた。本当に、傍から見たら変質者である。
「なぁ、君――」
空を見上げていた青い瞳が、ゆっくりと俺に向けられた。お互いの視線がしっかりと合わさり、何故か緊張が体を走る。
彼女の瞳から目が離せない……いつの間にか彼女が持つ、深く澄んでいる、宝石のような青い瞳に見蕩れていた。
「アイドル、やらないか?」
気がつけば、震える手で名詞を差し出していた。
動悸が激しい……俺はかつて無い輝きを持つ少女を前に興奮していた。
目の前の少女をプロデュースしたいと、心の底から思った。- 7:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/16(木) 00:57:54.40 ID:R6BEvH9r0
「ヤー……私に何か、ご用ですか?」
差し出した名刺には目も暮れず、その青い瞳は俺の目を捉えて離さない。
「アイドルやってみないか? 君なら絶対に、トップアイドルを目指せると思う……」
「アイ、ドル?」
失礼を承知で、名詞を少女の目の前に突き出す。とにかく、受け取って欲しかった。
少女は胸元に突き出された名詞に目を落とした後、受け取ってくれた。
「アイドル……ですか?」
少女が、名詞と俺を交互に見ながら戸惑ったように言う。今まで無表情だった彼女の表情が変わった事に、何故だか小さな喜びを感じた。- 9:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/16(木) 01:17:38.43 ID:R6BEvH9r0
「……そう、アイドルだ。君なら、どんなアイドルよりも輝けるって思ってる」
何を言ってるんだ俺は……ナンパじゃないんだぞ。一人焦るものの、彼女は無表情のまま特に反応は示さなかった。目を見開いたまま微動だにしてない。
少女はそうしたまま数秒間固まっていたが、おもむろに口を開いた。
「流石に、今すぐには決められません……ごめんなさい」
少女は申し訳なさそうな声色そう言った。あまり表情に変化が無いけれど。
ただ単に断るためにそう言ったのかも知れないが、それも仕方ない。年頃の女性から見ると俺は大分怪しいだろうし、警戒もするだろう。
あまり感情を表に出さない少女からは、何も読み取れない。果たして、アイドルをやってくれるかどうかは分からないが……とにかく、名詞を渡せただけ良しとしよう。
「それじゃ、俺はこれで……いきなり申し訳なかった」
「いえ、大丈夫です。お話、ありがとうございました」
- 10:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/16(木) 01:19:36.68 ID:R6BEvH9r0
俺は、後ろ髪を引かれる思いでその場を立ち去った。
少し離れた所で、未練がましく一度だけ振り返る。
――少女は、俺の名詞を握り締めながら、また夜空を見上げていた。その深い青の瞳には、きっとたくさんの星々が映っているのだろう。
あの子をトップアイドルへと導きたい。あの子と一緒に、トップを目指したい。
初対面で、自分でも気持ち悪いと思うが、純粋にそう思った。- 19:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/17(金) 00:10:07.09 ID:ge1OIQK00
あの少女と出会ってから二日経ったが、未だに連絡は無い。やはり無理だったか。
本来なら二日間ずっとスカウトに明け暮れている筈だったが、あの少女がずっと頭の中に残っていてスカウトする気が起きなかった。
昨日も今日も、少女を待ち続けて恐ろしく少ない事務仕事を淡々とこなしていた。
……いつまでもこうしてはいられない。
いくらあの少女に心奪われたとは言え、このまま何もしないでいるとこの事務所は潰れる。
俺は重い腰を上げ、外出の準備を始めた。また、スカウトしに行く為である。
ものの数分で準備を終え、扉を開けて外に出る。
――事務所の前には、一人の少女が佇んでいた。- 20:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/17(金) 00:18:37.90 ID:ge1OIQK00
ほっそりとした、か細くて、雪のように白い足。紺色のショートパンツに、白いTシャツ、薄い生地の青いパーカー。とても綺麗な、痛んだ箇所が見当たらない、肩まで伸びるさらさらの銀髪に、目立つ西洋系の整った顔立ち……目の前に立っているのは、見覚えのある少女……
――青い瞳と、目が合った。
「あぁ……えっと……」
突然の事に目を白黒させてしまう。そんな俺を、彼女は無表情で見つめている。
「アイドルになろうと思ったので、ここに来ました」
「え? あ、そうか……別に、名刺に書いてあった携帯の番号に連絡してくれてもよかったんだぞ?」
何もわざわざ住所を調べて足を運ぶ必要は無い。- 21:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/17(金) 00:23:19.43 ID:ge1OIQK00
「アイドルになるのに、書類などは書く必要はないんですか?」
彼女が上目で問いかけてくる。
「まぁ、必要だけど……アイドルになりたいかどうかを言うのであれば、別に電話でも……」
「そうでしたか、でも、もう来てしまったので」
もっともだ。
「来てくれてありがとうな、喜んで歓迎するよ。どうぞ、入ってくれ」
「お邪魔します」
俺に続いて事務所へと入る少女。興味深そうに室内を眺めている。- 22:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/17(金) 00:31:41.62 ID:ge1OIQK00
「誰もいないんですね」
「あぁ、俺が社長兼プロデューサー兼事務員だ」
少女がきょとんと首を傾げる。その仕草がとてもあざとくて可愛い。そんな、男を悩殺するような仕草を無意識にやっているのが怖い所だ。
「ヤー……私以外の他のアイドルは今日はいないんですか?」
随分と痛い所を突く……もしかしたらアイドルになるのを断られてしまうかもしれないが、正直に話そう。
「他のアイドルはいないんだ」
「そうなんですか」
あまり表情に変化は無く、彼女は興味がなさそうにそう言った。反応が非常に素っ気ない。- 23:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/17(金) 00:40:38.46 ID:ge1OIQK00
「えーっとな……絶対に警戒させちゃうし、不安にさせてしまうからあまり言いたくないけど……当分の間、二人っきりでいる事がある……」
「ヤー……私は大丈夫です。気にしないでください」
本当に気にしていないように見えるが、やはり、嫌がってる可能性も十分にある。彼女との距離には気をつけなければ。
「ありがとう……気休めにもならないと思うけど、アイドルに手を出す気とか毛頭ないから、一応安心して欲しい」
二人っきりだから意識とかはしてしまうかもしれないが、それは仕方ないだろう。彼女は男性の意識を掻っ攫うほどの美貌を持っているのだ。
「それで、どうして話を受ける気になったんだ?」
何となくそう聞くと、暫しの間、彼女は沈黙した。やがて、口を開く。
「アイドルは、夜空で輝く星のようです。私も、あの星々のように輝きたいと、そう思いました」
その青い瞳に強い意思を携えて、少女はそう言った。
アイドルになりたい気持ちは強そうだった。もしかしたら、昔から興味はあったのかもしれない。- 24:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/17(金) 00:55:46.89 ID:ge1OIQK00
「そっか……よし、任せてくれ。アイドルは大変だろうけど、一緒にがんばろうな」
「ダー。アイドル、がんばります」
ほんの少しだけ、少女は表情を和らげる。
「カーク ヴァス ザヴート?」
彼女は突然、流暢な外国語で俺へと問いかけてきた。
戸惑っている俺を見て、少女は小さく微笑んだ。初めて見る彼女の笑顔はとても可愛らしくて、思わずマジマジと見つめてしまう。
「フッ、貴方のお名前は? と聞きました」
そんな俺の状態を知ってか知らずか、外国語で言った質問を日本語に翻訳して、少女は再度俺に問いかけた。
「……え? あ、えっとな、俺はPって言うんだ、君は?」
慌てて自分の名前を告げる。正直、彼女の微笑みに衝撃を受けていて若干上の空だった。- 25:むぶろふすか ◆gijfEeWFo6:2013/05/17(金) 01:03:32.74 ID:ge1OIQK00
「……P、ね。……ミーニャ ザヴー