2014年03月20日23:38
基本的に政治的な話題については触れないようにしている当ブログですが、昨年、夏コミ本の表紙イラストを描いてくれたkshslizard君が台湾人だったり、サブカルチャー的にも切っても切れない関係の国だったり、日本のマスコミであまり報道されていなかったりする(日本のマスコミは台湾に支局を置くと中国に支局を置かせてもらえないためと思われる)ので、今、台湾で何が起きているのかまとめておこうと思います。
(どうにもしっくり来ないんで文体変えます)
昨日のafpの記事。
台湾国会を学生らが占拠、中国との貿易協定に反対
http://www.afpbb.com/articles/-/3010580?pid=13359725
中国と台湾間の「サービス貿易協定」を審議中の台湾の立法院(国会に相当)に18日夜、協定に反対する約200人の学生や活動家が警備網を破って押し入り、議場を占拠した。
学生らはその後、議場内にあったいすなど家具を使い、内側からバリケードを築こうとした他、歌ったり踊ったりして協定に反対した。
野党の民主進歩党(民進党、Democratic Progressive Party、DPP)やさらに急進的な台湾団結連盟(台連、Taiwan Solidarity Union)も支持者を動員することを約束した。またDPPの3人の議員は、協定に抗議の意思を示すため、70時間のハンガーストライキに突入した。
中台間で2010年に締結された経済協力枠組み協定(Economic Cooperation Framework Agreement、ECFA)の下、昨年6月に調印された「サービス貿易協定」はサービス分野の市場開放を進めることを目指しているが、台湾の野党は「小規模なサービス企業が影響を受け、経済全体にも打撃を与える」として反対している。
見慣れない言葉やこれまでの経緯について省略されているために分かり難いところがあると思うので、その辺りを説明しておく。
まず、「サービス貿易協定」について。
これについては台湾人漫画家にして日本での作品も持つ御村りょう先生が説明してくれているため、引用しておく。
中台協定を簡単に説明すると「中国人はほぼ規制なし審査なしで台湾に会社つくれる、たとえニュース番組や電信業でも。台湾に移住することできる。」「台湾から中国への場合、審査基準などは日本どころペルー以下」という不平等法案、そして日本といえば中国で日本書籍の出版禁止されたの覚えてます?
— 御村りょう (@ryouh2so4) 2014, 3月 19
台湾の企業は恥ずかしいながら中国と真っ向に対抗するのはほぼ不可能、なので中国の企業が大量に押し寄せたら最後、台湾の中小企業は潰され、ニュース番組まで言論統治される可能性は大きい、電信業も乗っ取られたら今度はネット規制の可能性もでてくる、というか香港がすでにそうなってる。
— 御村りょう (@ryouh2so4) 2014, 3月 19
要するに、一方的に中国から台湾への企業進出や移民を押し進める法案であるといえる。
中国からの企業進出も自由、それに伴う移民も自由、審査もほぼ無し。
しかし、台湾から中国への進出は自由ではない。
そんな馬鹿げた法案である。
巨大な中国資本と戦えるほど体力のある台湾企業は少なく、また移民に伴って賃金の極端な低下も懸念されている。実際、「移民の国」アメリカではこういった問題が噴出しており、移民が時給4ドル、5ドルで労働することで労働市場における賃金の下方硬直が起こったりしている。台湾の労働者のうち、58%がサービス業に従事しているといわれており、この法案は500万人に影響を及ぼすといわれているそうである。人口2000万人程度の台湾にすればあまりにも影響は大きい。
また、中国企業は当然のように中国の法に従って動くため、実質的な台湾の法が中国のものに塗り替えられる恐れがあることも言える。
この法案は過去に何度も「審議の必要アリ」と言われながら、この度、党員数にものを言わせて無理矢理可決されてしまった。台湾国民が国会を占拠するという“暴挙”に出たのもそのためだ。
当然、ゲームやアニメをメインとして扱う当ブログとしては、サブカルチャー、二次元文化について触れておかなくてはならないだろう。
「実質的な台湾の法が中国のものに塗り替えられる」と前記したが、サブカルチャーにおける中国の表現規制の例としては、下記のラノベ『ノーゲーム、ノーライフ』の出版中止などが挙げられる。ハッキリ言って馬鹿げた話だ。
ノーゲーム・ノーライフ中国語版、出版中止の理由が凄すぎて、笑いすぎでお腹が痛い。 pic.twitter.com/8d7HcsrpVT
— 榎宮祐@ノゲノラアニメ4月から (@yuukamiya68) 2013, 8月 15
ちなみに、異様に日本文化との親和性が高い台湾では、台湾版コミケこと「開拓動漫祭(fancy frontier)」に『デート・ア・ライブ』の橘公司先生や「俺妹」の伏見つかさ先生であったり、エロゲ歌手の伊藤かなこさんや榊原ゆいさん、声優の悠木碧さんが招待されるなどしており、非常に深い繋がりがあることを併記しておく。
次に、民主進歩党、中国国民党、及び台湾の政党について。
現在、台湾で与党となっているのは中国国民党という党であり、台湾総統(大統領みたいなもんだと思ってください)も同じ党の馬英九という人物である。中国国民党は1948年以来、2000年~2008年を除く48年も台湾の与党の座にある党で、日本の55年体制での自民党みたいなものだと思って欲しい。
※現在の台湾総統・馬英九
現在の総統・馬英九がその座に就いたのは2008年、2000年から2008年まで続いた民主進歩党体制崩壊後のことである。
前与党である民主進歩党は台湾の歴史上、唯一中国国民党以外で政権を得た与党であり、そのリーダー陳水扁は独立派だった。が、陳は汚職のスキャンダルが連続し、信用が失墜。
そこに、再び、長期に渡り政権を握ってきた中国国民党が与党に返り咲き、馬英九が総統になることになった。この辺りも、民主党政権からの揺り返しで大量議席を獲得した自民党に近いものがあるといえる。
馬英九は陳とは対照的な親中派の人間であり、今回の「サービス貿易協定」を可決したのも、そこに端を発していると考える。
しかし、台湾国民からは無能扱いであり、施政満足度9.2%という驚異的支持率を叩き出し、挙句の果てに「馬鹿英九」(馬鹿、は中国・台湾共に通じる日本語)と呼ばれている始末である。にも関わらず、議席数だけはあるというのだから、もはや暴走機関車そのものだ。
馬英九がどの程度「キている」人物なのか、分かりやすいエピソードとしてはこんなものがある。
今、問題となっているサービス貿易協定が法案として提出された時のこと、当時の立法院長(日本における衆議院議長)・王金平は「審議の必要アリ」と決定したのだが、馬英九はこれに異を唱えた。「王金平は立法院長として不適」と騒ぎ立てたのである。
野球のバッターが「今のがストライクっておかしくね?審判変えろよ!」と騒ぎ立てるみたいなレベルの話である。
なお、この主張は認められなかった。
台湾メディアも新聞社・中國時報をはじめ、中国資本に買収されたところも多く、「協定に賛成しよう!」という論調のものばかりのようだ。最近もワシントンポストを中国資本が買収するというニュースがあったが、台湾はもうすっかり済んでいたらしい。
3/21の午前0時現在、占拠された国会の周囲には5万人(繰り返すが、台湾の人口は2000万である)以上の台湾国民が集まり、その数は今も増え続けているという。
総統・馬英九からの反応はなく、ただただ貿易協定を批准しろというばかりで、国会が占拠されたことについては事実上の放置状態である。
ニコニコ生放送にて中継されている立法院の様子を見る限り、今も動きはないようだ。
警察も「一応」動いてはいるそうだが、事態の収束は見えていない。
良き隣人として、台湾の未来が明るいことを望むばかりである。
普段書かない感じの記事書いたんで、不慣れさが出てるかもしれませんが、台湾の現状を皆様にも知っておいていただけると幸いです。
政治・海外情勢の話題ではありますが、非常にオタク文化と密接した国だと思っているので。震災の時も3億近い義捐金頂いちゃってるし。
さすがに台湾がウクライナみたいな状況になっちゃうと悲しいし。
あと、台湾映画の『セデック・バレ』面白かったんで、『KANO』が日本でも公開されるの待ってます!
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