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侍「道に迷ったらエルフに捕まっちまってござる」|エレファント速報:SSまとめブログ

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侍「道に迷ったらエルフに捕まっちまってござる」

1 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 22:34:45 ID:9Gu1k.yo

――よくあるファンタジー世界

侍「武者修行のために国を出て幾年月か」

侍「まさかエルフの国で捕われの身になってしまうとは」

侍「ちょっと道に迷ってエルフの国の領土に入ってしまっただけなのに、問答無用で牢屋いきとはな」

キィ

エルフ「何をブツブツ言っているのです?」

侍「や、軽い状況説明を。で、あんたは? 見たところ騎士のようだが」

エルフ「あなたの尋問を任された者ですわ。最初に言っておきますけど、あなたに黙秘権はございませんので」

侍「はぁ。や、まあいいけど」

エルフ「……何です? その余裕たっぷりな態度は」

侍「いや、別に余裕ってわけじゃないぞ」

エルフ「ま、よろしいですけど。尋問を始めますわ」



4 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 22:39:50 ID:9Gu1k.yo

エルフ「まず、あなたの名前は」

侍「侍」

エルフ「……正直で結構。では侍さん、あなたがこの国に侵入した目的は何?」

侍「目的も何も、道に迷って気が付いたらここの領土内だっただけだ」

エルフ「そのような嘘が通用するとでも思って」

侍「言われると思ったよ」

エルフ「もう一度訊きますわ。この国へ侵入した目的は? 具体的に、事細かにお話しなさいな」

侍「道に迷って
気が付いたら
入ってた」

エルフ「三行!?」



5 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 22:43:05 ID:9Gu1k.yo

エルフ「とりあえず、それはいいでしょう。では、あなたの隣国での立場は?」

侍「立場?」

エルフ「とぼけても無駄ですわ。あなたを捕縛した場所は、隣国との国境付近の森」

エルフ「現在の我が国と隣国との関係を考えれば、あなたが隣国のスパイであることは自明の理」

侍「流れからして予想はつくけど、もしかして一触即発か?」

エルフ「白々しいですわね。そもそもはあなたたち隣国の人間がこちらの――」

侍「いや確かに隣国の方から来たけど、あそこは通過しただけで別に仕官してるわけでも何でもないんだが」

エルフ「またそんな見えすいた嘘を」

侍「言われるとお(ry」

エルフ「ではあなたが隣国の人間ではないと言うのなら、その証拠を示してごらんなさい」

侍「示せっても、荷物全部取り上げられてるんだけど」

エルフ「あなたのお口は飾りですの?」

侍「口頭で説明すればいいのか?」



6 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 22:43:49 ID:9Gu1k.yo

エルフ「結構ですわ。さて、一体どれだけのでまかせを聞かせて下さるのかしら」

侍「……じゃ、遠慮なく」

スゥー

侍「生まれは極東の島国でホニャララ藩の某という大名に仕えてたがその大名の奨めに従い数年前に船に乗って武者修行の旅に出たなお幕府からの許しも正式に降りているので問い合わせてみろ」

エルフ「……え?」

侍「大陸に着いてからは各国各地を巡り強者と出会っては手合わせ出会っては手合わせ打ち負かした相手は数知れず打ち負かされた相手も数知れずしかれど修行の旅はまだまだ終わらず巡るべき地は数多く」クドクド

エルフ「ちょっ……あの……」

侍「そもそも武の頂とは雲の上ではたして人の身でそれに到ることは叶うのかと常々思うんだでももののふとして生まれたからにはそこを目指すのがをのこというものでありまして然るに大陸で一般的な騎士との違いというのは」クドクドクド

エルフ「お、お待ちになって……」

侍「であるからしてやはり武士と騎士とは似て非なるものだから一緒くたに扱ってほしくはないのだが戦いに疎いやつほどこれをいくら熱く熱く語ってもなかなか理解されないわかるかこのもどかしさせっかく世界に出て見聞を広めても(ry

エルフ「わかりましたからお黙りや!」



7 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 22:47:55 ID:9Gu1k.yo

一週間後

キィ

エルフ「来なさい。釈放ですわ」

侍「やっとか。まさか一週間も閉じ込められるとは」

エルフ「しかたないでしょ。ここからあなたの国まで、どれだけ離れてるとお思いなんですの? 一週間であなたの証言の確認が取れて、むしろ早いくらいですわ」

侍「そらそうか」

コツ コツ コツ

侍「出してもらえるのはいいんだけど、取り上げられてた俺の荷物は?」

エルフ「心配しなくてもすぐお返しいたします。ここですわ」

ガチャ

侍「資材置き場かよ」

エルフ「ですわね。あなたの荷物は……あら?」

侍「まさか、無いとか言わないよな」

エルフ「いえ、先程部下に、ここにまとめておくようにと命じておいたはず」



8 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 22:50:32 ID:9Gu1k.yo

侍「部下……あいつ?」

エルフ「……ちょっと、あなた」

エルフ兵「何でしょう?」

エルフ「何でしょうじゃありません! さっき彼の荷物をまとめておくよう言っておきましたはずでしょう!?」

エルフ兵「ああ、そう言えばそうでしたっけ」

侍(ん?)


エルフ兵「まあでもちょうど本人がいるんだし、勝手に持っていってもらったらどうです?」

エルフ「あなたそれでも誇り高きエルフの一員ですの!? いくら相手が人間とはいえ、そのような無礼で恥知らずな発言をよくもぬけぬけと!」

エルフ兵「あなたがエルフを語りますか」ボソッ



9 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 22:53:05 ID:9Gu1k.yo

エルフ「――っ!」

エルフ兵「あ、もう交代の時間だ。じゃ、そういうことですので」

エルフ「こ、こら待ちなさ――」

ガチャ バタンッ

エルフ「……」ギリッ

侍(……訳ありか)

侍「とりあえず、俺の荷物探していいかな」

エルフ「……手伝いますわ」



10 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 22:55:21 ID:9Gu1k.yo

侍「あったあった! 俺の愛刀!」

エルフ(あ……)

侍「いやー一週間ぶりだぁ! やっぱこいつが無いと落ち着かないなぁ」

エルフ「その剣、大切になさっておりますの?」

侍「ああ。無銘だけど、こいつと一緒にずっとやってきたんだ。愛着だって沸くさ」

エルフ「その剣も、同じ気持ちだそうですわ」

侍「え?」

エルフ「わたくし達エルフは、万物に宿る精霊と対話ができますの。その剣に宿る精霊も、あなたと再会できたことをとても喜んでいますわ」

侍「そ、そうなのか。刀に喜ばれるっていうのは不思議だけど、悪い気はしないな」



12 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 22:57:28 ID:9Gu1k.yo



エルフ「ここからは自由ですわ。わたくしとしましては、すぐに出ていくことをおすすめしますが」

侍「隣国と緊張状態だからか?」

エルフ「それもありますけど……ここがエルフの国で、あなたが人間であるということが一番の理由です」

侍「あー。中ですれちがう兵士からいちいち白い目で見られるのが気になってたけど。やっぱエルフって、人間のこと嫌いなのか」

エルフ「ええ」

エルフ(今の場合、それだけではありませんけれど……)



13 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 23:00:11 ID:9Gu1k.yo

侍「でも、あんたはそんな感じではないな。普通に話してくれるし」

エルフ「え? え、ええ。母の影響もあって、わたくしは別段人間を嫌ってはおりませんの」

侍「そうか。ところで、あんたやっぱり騎士なのかい?」

エルフ「ええ、まあ。一応」

侍「じゃあ、一回手合わせしてくれないか? 一週間も動いてないから、体の調子と勘を確かめたい」

エルフ「……あなた、変わってますわね」

侍「ん?」

エルフ「あなたの国のこと、以前に少しだけ聞いたことがあります。民はみな質素倹約を良しとし、質実剛健な気質であると」

エルフ「けれどあなたを見ていると、その話と随分違う印象ですわ」

侍「あー。確かに俺の国はみんなそんな感じだよ。だから、俺昔から浮いてたんだよな」



14 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 23:03:03 ID:9Gu1k.yo

エルフ「つまり、あなたの国ではあなたは変わり者、ということ?」

侍「そういうこと。で、手合わせはどうする? してくれるのか否か」

エルフ「……どうせ今日はこの後非番ですし、あなたがどのような剣術を見せてくれるのか興味もありますから構いませんわ。ただここだと目立ちますから、場所を変えましょう。ついていらして」


市場


ワイワイ ガヤガヤ

侍「市場の活気は、人間の国もエルフの国も変わらないな」

エルフ「…………」



15 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 23:04:45 ID:9Gu1k.yo

スタスタスタスタ

侍「おい待てよ速いって。厠行きたいのか?」

エルフ「そんなんじゃありません! ただ……のんびりしていたら、そのぶん居心地が悪くなるだけですわ」

侍「ん?」

ザワザワ ザワザワ ジー

侍「……なるほど。隣国と無関係でも、所詮は人間ってことか」

エルフ「…………」

侍「どうした? 暗い顔して」

エルフ「なんでもありません。それより、急ぎますわよ」



16 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 23:09:28 ID:9Gu1k.yo

エルフ「着きましたわ」

侍「でっかい屋敷だなー。あんたの実家か」

エルフ「ええ。あら」

メイドエルフ「あ、お嬢様! おかえりなさいませ!」

エルフ「ただいま。お母様は?」

メイドエルフ「お部屋にいらっしゃいます。あの、そちらの方は……」

エルフ「客人ですわ」



17 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 23:11:46 ID:9Gu1k.yo

メイドエルフ「お泊まりになられますか?」

エルフ「あなた、手合わせの後はどうするつもりかしら?」

侍「俺としては、少しこの国を見てみたいな。人間だから長居は無理だろうけど」

エルフ「そう。というわけだから、空き部屋を一室用意しておいてちょうだい」

メイドエルフ「かしこまりました」

侍「いいのか?」

エルフ「無実の罪で投獄してしまいましたから。お詫びの印ですわ」

侍「そうか。なら、少しの間世話になろう」

エルフ「庭で待っていて下さるかしら。お母様にも話を通しておきますので」

侍「わかった」



18 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 23:14:13 ID:9Gu1k.yo

コンコンコン ガチャ

エルフ「ただいま帰りました」

エルフ母「あら、おかえりなさい。早かったのね」

エルフ「少し用事があっただけですので。それで、お母様」

エルフ母「お客様でしょ? 精霊が教えてくれたわ」

エルフ「ええ……人間ですけど」

エルフ母「そうみたいね。お部屋の準備は?」

エルフ「今メイドエルフにやらせています」

エルフ母「そう。なら、晩の食事は久しぶりに私が作ろうかしら」

エルフ「お母様が?」



19 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 23:17:00 ID:9Gu1k.yo

エルフ母「人間に会うなんて十年ぶりくらいだもの。懐かしくて」

エルフ「……彼を待たせていますので、わたくしはこれで」

エルフ母「ええ」

ガチャ バタン

エルフ母「……嫌ってはいなくても、やっぱりまだ複雑なのね」






エルフ「お待たせしまし……庭の真ん中にあぐらかいて何してますの?」

侍「黙想……よっと」

女エルフ「すぐに始めますの? 一応こちらの準備は済ませておきましたけど」

侍「ああ、頼む」



20 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 23:20:21 ID:9Gu1k.yo

エルフ「では」

スラリ

侍(ロングソード……にしては少し大きいな)

シャー

エルフ(片刃の曲刀。押収したとき一度だけ検めたけれど、見た目以上に重さがある。斬れ味も尋常じゃなさそうですわね)



21 :以下、名無しが深夜にお送りします 2012/03/06(火) 23:21:04 ID:9Gu1k.yo

数分後

侍「……」

エルフ「……」

侍(なかなか……隙を見せてはくれないな)

エルフ(泰然と