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阿良々木暦「みきスロウス」|エレファント速報:SSまとめブログ

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阿良々木暦「みきスロウス」

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/04/18(金) 12:02:47.18 ID:xeDtmg+30

・化物語×アイドルマスターのクロスです
・化物語の設定は終物語(下)まで
・かなりのネタバレ含まれます。気になる方はご注意を
・終物語(下)より約五年後、という設定です
・アイドルマスターは箱マス基準

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3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/18(金) 12:15:52.23 ID:xeDtmg+30


001


僕と彼女は夢を見る。
夢。夢とは、睡眠時に見る幻覚や心象の総称、または将来的な実現を望む願望とふた通りの意味に分類される。
両方とも直接的な干渉が及びにくいという点では似ているのかも知れない。
睡眠時に見る夢を自分の望み通りに展開させることは困難だし、すぐに叶えられる願望であれば人はそれを夢とは呼ばない。
極論として語ってしまえば、人の手が届きにくい神聖なもの、とも言える。

夢を見たことのない人間はいないだろうし、将来の夢――希望と言い換えてもいい、望みを生涯一度も持たない者も恐らくはいないだろう。
これは僕の持論になるが、両方とも生きて行く上で必要不可欠なものだからだ。
前者の夢はともかく、人間が生きて行くには目標が必要だ。
例えそれがどんなに不純で醜いものであろうと、人は希望があるから今日という日を渡り歩くことが可能になる。
どちらの夢が先に夢と呼ばれ、もう片方が夢と名付けられたのかは僕にはわからないが、こうなると睡眠時の夢にも何か特別な意義があるのでは、と類推したくなる。

「やれやれ、相変わらずの愚か者ですねえ阿良々木先輩は。
 そんな識者ぶっても誰も評価なんてしてくれませんよ?」

いつの間にか僕は扇ちゃんに膝枕されていた。女子高生の膝枕。最高だ。

ところでここは何処だ?
なぜ僕は扇ちゃんに膝枕されている?
周囲を見回すが、真っ暗闇で何も見えない。
扇ちゃんの姿はくっきりと輪郭まで明瞭としてい るのに、おかしな話だ。
扇ちゃんに現状を聞こうかとも思ったが、思考が上手く回らない。何から話せばいいのかを考えると、靄がかかったように意識が朦朧とし口を開くのも煩雑になる。

「ですがまあ、友達のいない阿良々木先輩のことですから、可愛い後輩である私がお付き合いしてあげましょう」

それはどうも、と心中で返す。
どうせ扇ちゃんのことだ。この状況も理解しているだろうし、説明が無いのなら大丈夫なのだろう、等と勝手に思い込む。
僕の頭を優しく撫でながら扇ちゃんは続ける。
冷たい手だったが、それが逆に気持ちがいい。




4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/18(金) 12:17:14.19 ID:xeDtmg+30

「愚かな阿良々木先輩に国語の授業です。
 本来、夢というものは『寝ている間に見る幻』という意味、つまり睡眠中の夢を指すだけのものです。
  人生の目標や願望を夢と呼ぶようになったのは最近のことですね。
 そもそも、 夢と言う漢字は草冠に目 、そして夕……薄暗い状態をワ冠で蓋をしている、という象形文字です。
 意味としては、草むらで目を凝らして何かを見ようとするも、暗くてよく見えない――といった感じでしょうか。
 すなわち眠る間に見る朧げではっきりとしない、幻のことを夢と呼んだのでしょう」

それに、と扇ちゃんは続ける。

「元々夢という漢字の語源はですね、はっきりしない、という意味です。
 いやあ、これって本当に洒落が効いていますよね。
 ほら、人偏に夢と書いて儚いと読むではないですか。
 直訳すると人の夢ははっきりしない、ですよ。
 つまりは夢に人間の手を加えてしまうと、ただの価値も無いゴミになる、と言いたいんでしょうか?
 昔の人もブラックジョークが好きだったんでし ょうかね?
 それともただの偶然?
 でも偶然にしちゃあ、出来すぎてますよね。
 人の夢は叶いませんよ、って暗に言っているようなものではないですか」

確かに、それは僕もそう思う。
皮肉なのか何なのか知らないが、現代人に対する嫌味で作ったとしか思えない漢字だ。
僕にも明確な夢があると自覚している訳ではないが、それでも朧げな『こうなりたい』という将来設計のようなものはある。
恐らくはそれが夢と呼ばれるものなのだ。
何かになりたい、何かを成し遂げたい、という明確でピンポイントな願望でなくとも夢は夢として成立する。
そして夢が無ければ人は生きていけない。



5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/18(金) 12:18:35.06 ID:xeDtmg+30

「そうなんですよね。人間は余計なことを考え過ぎる生き物ですから。
 『自分の生きている理由』なんてくだらないものを無意識化で無理やり決めなければならない。
 それを夢と呼ぶかどうかは人それぞれですけれど、意味合いとしてはほぼ同じでしょう。
 動物みたいに何も考えずに生きる事だけ考えていられたら、幸せなんですけどねえ」

はっはー、と自棄にも皮肉にも聞こえる笑いを湛える扇ちゃん。
しかし、それはどうなんだろう。
人間が知恵の実を口にして知識と自意識を持ったことは不幸だとは思いたくない。
人間ほど多くの感情を持つ生物も他にはいないだろう。
感情の多さ故に苦しむ事も多いが、逆に言えば幸せだって他の生物よりも多い筈なのだ。
悩みもせず、苦しみも喜びも一切なく無感情に生を全うするのが生物の最終進化形態だとするのなら、そんなものはロボットに任せておけば いい。

「人間は苦しみ、喜び、不完全でも一生懸命生きるから美しい、ですか。
 流石は阿良々木先輩です。綺麗事を言わせたら世界一ですね」

相変わらずの扇ちゃんの返しに、口許が緩んでしまう。
いつまで経っても彼女だけは変わらない、という安心感を彼女に見出しているからか、それとも――。
さてオチもついたところで、と扇ちゃんは言った。

「そろそろお目覚めですよ阿良々木先輩。
 彼女の夢にお気を付けて」

そんな扇ちゃんの思わせぶりな言葉と共に、僕の意識は覚醒に至った。



6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/18(金) 12:22:26.95 ID:xeDtmg+30


002


「ただいまー」

正午を少し過ぎた頃、僕はレッスンや収録のあるアイドル達を無事現場まで送り届け事務所に戻る。
午後からの予定は二時から再びアイドルの送迎、四時から出版社への営業、その後は直帰の予定だ。

「お帰りなさい、プロデューサー。 昼食は摂りましたか?」

ブロック形状の固形栄養調整食品を齧りながら、秋月が事務仕事をこなしていた。
僕の心配をしてくれるのはありがたいが、食事の時間も惜しんで仕事にかかる秋月の方が心配だ。

「ああ、車の中で済ませたよ――秋月こそ、少しは休めよ」

「お気遣いありがとうございます」

ですがこちらの方が楽なので、と秋月。
元アイドルとは思えない働きっぷりだ。
実際、秋月がいなかったら765プロは潰れかねない。文字通り事務所を支えている屋台骨だ。
年下の秋月がこれだけ頑張っている以上、年上で男の僕が役立たずという訳にもいくまい。

「星井はいるか?」

「ええ、ソファーで寝てますよ」

僕は秋月に礼を言うと、アイドル達が待機するのに使っている部屋へと向かう。
そこに他のアイドルはおらず、ただ一人星井がソファーで寝息を立てていた。



7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/18(金) 12:23:35.71 ID:xeDtmg+30

星井美希。十五歳。
僕の担当のアイドルの一人であり、個性的な765プロのアイドル達の中でも一際目立っている少女だ。
まず星井と言えば、その到底中学生とは思えない容姿とプロポーションが一番に挙げられる(僕だけかも知れないが)。
一日に何十人から告白されたことがある、という過去があるだけはあって、正直言って僕が神として崇拝する羽川に引けを取っていない。
未だ中学生の時点でこれなのだから、あと三年もしたらどうなってしまうのか、少々親父臭いが予想するだに恐ろしいと同時に楽しみでもある。

次に、そのマイペースな性格が大きく印象に残る。
彼女は言ってしまえば天才肌 の人間であり、勉強からスポーツまで、あらゆる分野で器用にこなす。
アイドルの仕事に関してもダンスや歌も常人以上、『何でも出来る人』にありがちな器用貧乏ということもなく、そのゆるいキャラと高いスペックでアイドルの仕事をこなしている。

また、星井を語る上で欠かせない特徴の一つとして、何も知らない人が素の星井を見るとやる気が無いように見えるであろう点がある。
彼女は三度の飯よりも寝ることが好きで、加えてのび太くんのように何処でも寝ることができるのだ。
実際に事務所で昼寝していることはしょっちゅうだし、それを秋月に怒られているのが日常茶飯事とまでなっている。
だが彼女は自分の決めた事柄に関しては徹底的に一途であり、アイドルという仕事への情熱は誰にも負けていないと僕は考えている。
秋月もそれは理解している上で星井を叱っている節があるようだ。
どんなに素質のあるアイドルでも、芸能界という世界はひとつ間違えるだけであっという間に闇に葬られることは珍しくない。
秋月も星井ほどの原石を元アイドルとして放ってはおけないのだろう。

これは余談となるが、彼女は以前、765プロダクションのライバル的な存在である961プロダクションに所属していた、言ってしまえば元敵のアイドルである。
敵とは言ってもそんな確執のあるものではなく、ライバルというのも勝手にあちらの社長が張り合っていたというのが正しい見解だ、と秋月に聞いたが、その頃僕は765プロにいなかったので詳しい事はわからない。
その直後、星井を含めたプロジェクト・フェアリー組――我那覇と四条も765プロに移籍し今に至る、という顛末らしい。
現在では961プロはジュピターという男性三人のユニットを中心に売り出している。僕は男のアイドルなんぞに興味は無いが。



8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/18(金) 12:24:21.09 ID:xeDtmg+30

「星井、起きろー」

眠っている星井に声を掛ける。
これくらいでは起きないのは承知の上だが、声も掛けずにいきなり叩き起こすのも失礼と思った上での配慮だ。

「……すぅ……」

「星井ー、起きないと揉むぞー」

なお眠り続ける星井の身体を揺さぶる。
結構な力で揺するが、星井はこれくらいやらないと起きない。
ちなみに胸を、とは言っていない。
英国紳士よりも紳士レベルの高い僕が中学生の胸なんて揉む訳ないじゃないか。肩に決まっている。

しかし……本当に中学生なのかと疑いた くなる レベルの身体つきをしているな。
しかも容姿も染めた金髪のせいで少々日本人離れしているものの、少女のあどけなさを残しているお陰でフランス人形のような可愛さがある。
これじゃあ同級生から全員告白されても誇張じゃないと納得できる訳だ。
僕だって星井がクラスメイトだったら告白はまだしも、絶対に惚れていると断言できる。
こんな子がクラスにいたら男子生徒は確実に全員落第しちゃうよ。
思春期の男子の人生までも狂わせるとは恐ろしい女だ。

「うぅん……」

鬱陶しそうに身をよじるも、やっぱり起きない。
やっぱりあれか、揉むしかないのか?  いや、肩だよ。



9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/18(金) 12:25:28.49 ID:xeDtmg+30

ここで肩とか言いつつ胸を触るのがいつもの僕とか思われているけど、実際に僕が触った胸って月火ちゃんと八九寺のものくらいなんだぜ?
小学生と当時中学生だ。そう言う意味では僕は中学生である星井の胸に触っても大丈夫なのかも知れない。何が大丈夫なのか僕もわからないけれど。
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    コメント一覧

      • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2014年04月18日 19:22
      • 前作から美希の気配が全くしなかったしラスボスかと思ってた
      • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2014年04月18日 19:41
      • 765プロ怪異引き寄せすぎワロタwww
        生死郎みたいに引き寄せる原因がラストのオチだよな多分。普通に考えて社長か
      • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2014年04月18日 20:03
      • 美希キター!!
        でもこうしてアイドルがだんだん阿良々木君に恋していくのを見るとあずささんは少し早計だったかもしれんね。
        このまま阿良々木はれーむ785ver作ってヶ原さんに阿良々木君ともども殺されてしまえばいいのに(笑)
      • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2014年04月18日 20:26
      • もし円盤ならオーディオコメンタリーのキャストはヶ原さん&羽川さん、もしくは&あずささんでぼろくそに言われていそう
      • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2014年04月18日 22:39
      • 面白かった!

        今回で初めて阿良々木君と美希(アイドル)との距離が縮まる過程が明瞭に書かれた感じかな。

        ※3の言う通り、あずさん回は、阿良々木君と765プロの関係が構築された終盤に持ってきた方がより切なさが伝わったと思う
      • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2014年04月18日 23:27
      • もうこの人作家になりゃ良くね?
        こんなとこで才能持て余してちゃいかんでしょ

    はじめに

    コメント、はてブなどなど
    ありがとうございます(`・ω・´)

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