モバP「君の姿」
- 2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:32:47.15 ID:cY40wa8X0
「プロデューサーさんって冷たいですよね」
同僚として長らく共だってきた女、千川ちひろは休憩中の世間話の延長でそう持ち出してきた。
俺としては全く思い当たる節が無かったもんだから、憮然とした顔でその一言を受け流す他に選択肢は無かった。
「聞いてますか?」
「聞いてません」
肯定するにも否定するにも、主だった根拠が俺自身の中には見当たらなかった。
まさか体温の話じゃないだろうし、冷たいというのは恐らく人当りだとか態度の事だろうが、難しい年頃の少女たちと関わっていく仕事を担う俺に、その能力が欠如しているとは俄かに考えられない事だと思った。
- 3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:34:53.71 ID:cY40wa8X0
「やっぱり、聞いてるんじゃないですか」
「………聞こえただけですよ」
「もしかして、怒ってます?」
客観的に見れば俺は努めて無表情に湯呑からお茶を啜っているだけに見える筈だが。
本当に、怒っている訳ではない。仕事面で悪い部分を指摘されて怒りを露わにするほど子供ではない。
何と言うか、呆れた。あまりにも的外れな指摘だと思った。もし俺が彼女の言う様な冷たい奴だとしたら、この仕事で成果を挙げられた訳がない。
「怒ってないですよ。呆れただけです」
「呆れたって… 自覚無いんですか?」
- 4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:36:26.18 ID:cY40wa8X0
「自覚、ですか」
自覚。自分の状態などを自分自身でしっかり把握しているかという意味。
この言葉は以前から常々妙な物だと思っていた。自分自身の事を、自分以外の誰がいったい掌握できるのだろうか。
「それで、ちひろさんは俺がどんな風に冷たいって言うんですか?」
俺を怒らせるかもしれないという、それこそ自覚があって態々話題として提示したんだ。相応の根拠に基だった指摘なのだから、勿論納得のいく様に説明してくれる筈だ。
「その… アイドルの子達に接する態度とか、その話し方だとか…」
なんだそれは。
…酷く具体性に欠いていると思った。それどころか、顎に手を当て唸りながら、言い出した自身が悩んでいる。
- 5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:38:15.37 ID:cY40wa8X0
「アイドルと仕事をする上で不自由な事態に陥ったことはありませんよ。それに、話し方なんて、普通に話しているだけじゃないですか」
「それは、そうなんですけど…」
綻びを見つけて突く様な形になってしまう。別に彼女が何か悪い事をした訳でもないけれど。
もしかしたら、こういう理詰な部分が、彼女の言う様な冷たいという印象に繋がったのかもしれないと一人合点がいく。
合点はいく。だけど、納得はいかない。
「アイドルに接する態度も冷たいですかね」
依然うんうん唸っていた千川ちひろに言葉を投げかける。
このままでは会話は尻切れトンボに終わってしまいそうだったし、俺自身がもっと仕事で成果を挙げるためのスキルアップにもなる話だと思ったから。
- 6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:40:11.96 ID:cY40wa8X0
「…え? ああ、その…」
「別に怒ったりしませんから、率直な意見を聞きたいですね」
「冷たい、と思います…?」
視線を宙に彷徨わせながらそう言った。
泳いだ目が示したのは、それが明確な根拠のあるものでは無いと言う事。それどころか言葉は尻窄みで、本人さえその意見には疑念を抱いているのではないだろうか。
だけど、彼女をそう思わせた何かが、俺にはきっとあるのだろう。
「………」
俺は目の前に話し相手が居るにも関わらず、目を閉じて思考の海に没する。
彼女の指摘はとても曖昧なもので、彼女の語気からもそれに成因が有る様には感じられなかった。
だとしたら、そう思わせた何かを、自分自身で見つけるしか無いと思った。
- 7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:42:03.89 ID:cY40wa8X0
「プロデューサーさんの担当で一番長い子って誰ですか?」
「…はい?」
微かに耳に届いた声に、俺はハッとして目を開いた。考え事に夢中で聞き逃してしまった。
「ですから、誰と一番長く仕事をしてきましたか?」
「………肇?」
対面の彼女の質問に対して、俺も言葉尻を挙げた質問で返してしまう。それは失礼な事であるってわかっていたけど、俺自身その答えは曖昧なものだった。
「肇ちゃん、ですか?」
「恐らく… いえ、そうです」
多分。違うかもしれないけれど。それでも俺がはっきりしない返答をすれば、話は平行の一途で一向に進まないと思ったから、そういう事にしておく。
………そんな所も、冷たいと言われる所以なのかもしれない。
- 8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:44:17.67 ID:cY40wa8X0
「肇ちゃんの事、どのくらい知っています?」
「そうですね…」
藤原肇。歳は十六だったかな。出身は岡山で、川釣りと陶芸が趣味だったと思う。
肇って名前は彼女の祖父から貰ったらしく、とても気に入っているらしい。
肩より少し長い位の綺麗な黒髪で、ちょっと垂目なのがチャームポイントってところかだろうか。
「…それから?」
「えーっと…」
それと… それと、何だろう。
図らずも今度は俺が黙す番だった。
藤原肇。俺は彼女の事をそれ以外特に思い当る事が無い。
- 9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:46:10.00 ID:cY40wa8X0
「その、ですね…」
「はぁ」
その、とか、あの、とか。そんな感じで適当に間を持たしている俺に向かって、千川ちひろは短く溜息を吐いた。
その顔に呆れや落胆の色は無かったように思う。盗み見た対面の彼女の表情からは、まるでその事を知っていたという印象を受けた。
「そんな事は全てプロフィールに書いてあります」
「…返す言葉もありません」
肇ちゃんのファンの方が詳しいと思います、なんて、担当プロデューサーとしては酷く不名誉な言葉のおまけ付き。
- 11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:48:08.48 ID:cY40wa8X0
俺は肇のことなんて何も知らなかったんだと気付かされる。
思えば肇とは仕事以外の話をした事なんて、片手の指で足りる程しかないだろう。
だからと言って仕事で困った事は無いし、肇の方も俺なんかと話す機会を望んでいるとは考え難い。
「やっぱりプロデューサーさんは冷たいですよ」
「今の話からどうやったらその結論に至れるんですか」
「プロデューサーさんには一生わからないかもしれませんね」
千川ちひろの顔には、今度はしっかりと呆れと落胆が張り付いていた。
俺を見据える薄く睨んだその瞳に、俺はこれ以上彼女から答えを引き出す気を削がれてしまう。
- 12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:50:47.42 ID:cY40wa8X0
「…肇と仲良くしろ、って事ですか?」
わからなかったから。だから、一番近そうな答えを提示してみる。
一番近そうで、一番遠い所にあると思った。俺は勿論そんな事は望んでもいないし、肇からしてもそれが何になるというのだろうか。
だけど、話の流れからすると、これが導き出せた回答だった。
まるで千川ちひろは、俺が肇と仲良くすれば、冷たいという印象が無くなるとそう言っているみたいだった。
「さっきプロデューサーさんが肇ちゃんの事を話した時、なんて言ったか覚えていますか?」
「はい?」
俺の質問に対して、千川ちひろはまたしても明確な返答をせず、俺にとっては意味の理解しかねる質問をしてきた。
更に今のそれは、流石に俺を馬鹿にしているのではないかと感じた。
本当についさっきの、一分前程度の話ではないか。
- 13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:52:29.75 ID:cY40wa8X0
俺は心の中ではしかめっ面。だけど表情は努めて冷静に保つ。変わらぬ口調で先程と一語一句同じ事を繰り返した。
趣味、年齢、容姿。そんな事は誰でも知っていると指摘された、俺としてはあまり掘り返したくない話題だった。
「それですよ…」
「だから、何がですか?」
俺は始終冷静にあろうと思ってはいるが、果たしてソレが客観的に見て出来ているかどうかはわからなかった。
同じ質問を繰り返し、更には返答を暈す目の前の女は、穏やかであろうとする神経を逆撫でする。
「らしい、思う… どうしてずっと一緒に居るのに、そんなに曖昧な事しか言えないんですか?」
「それは…」
- 14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:54:31.16 ID:cY40wa8X0
そんなのは言葉の綾です。そう一蹴する事は容易だった筈。
だけど俺は言葉に詰まってしまう。
事実、肇から直接聞いた話ではなかった。売り込んでいく時とか、プロデュースの方針とか、その上で把握して然りだと俺は思っていたから、肇のプロフィールを見て勝手に覚えただけだった。
勿論、公式で出されている物だったから、その事実に嘘偽りは微塵も含まれていない。
だけど、俺は無意識下できっとセーブをかけていたんだと思う。
肇の真相に触れる事。肇をもっと深く知る事。
それが俺自身の曖昧な肇の評価に繋がり、目の前に座する同僚の苛立ちを増幅させているなんて、そんな事は今の今まで知りえなかった。
だけど、所詮は仕事上の関係でしかない。それだけ把握できていれば何ら問題は無い筈だ。
- 15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:56:10.39 ID:cY40wa8X0
「クールなのは結構ですけど、今のプロデューサーさんはただの冷たい人ですよ。肇ちゃんに気を遣ってあげないと」
「俺は肇にそんな事頼まれた覚えはありませんが」
「それは、肇ちゃんだってプロデューサーさんの事知らない訳ですし、話し辛かったとか…」
「………肇に言われたんですか?」
別段俺自身がクールだとは思わない。仕事には熱意をもって取り組んでいる。
いかにアイドルとしての名を伸ばさせるか、そこにどう商品価値を付加させるか。
…そんな事はどうでもいい。ただ、千川ちひろが妙に肇の肩を持つ事に聊かの疑問を抱いた。
俺が構わないだろうと言っているにも関わらず、俺の意思を無視して肇を押し付けようとする印象を受けた。
彼女にそんな事をして何か利益がある訳でも無いだろうし、その行動は彼女の仕事に於いて何の関係も無い筈だ。
- 16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/23(水) 18:58:09.95 ID:cY40wa8X0
「っ………」
真直ぐに俺を見据えていた千川ちひろの瞳が一瞬揺らいだのを俺は見逃さなかった。
目は口ほどに物を言うらしい、答えはそこにあった。肇が何か彼女に言ったらしい。
だが、その根拠までは俺は掴めていなかった。肇は千川ちひろに俺に対する何を言ったのだろうか。
………肇は俺に冷たくない態度で接してほしいという事なのだろうか。
基礎を覚えず数値を公式に当てはめて解いたみたいだ。目の前に回答が転がっていても、そこに込められた意味を俺は理解できない。
「………まぁ、考えておきます」
俺は今日一番コメント一覧
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- 2014年04月23日 21:23
- 地の文+肇="ヤバイ"
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- 2014年04月23日 21:27
- レス番号7で肇の名前が出てきて急いでここに飛んできた
他に読んだ奴がいたら読むよ
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- 2014年04月23日 21:27
- 虐めではないしプロデューサーとして当然の対応だけど冷たい
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- 2014年04月23日 21:29
- タイトルに肇いないけどこれは分かった
胸糞ではないけど内容はないよーってかんじ
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- 2014年04月23日 21:30
- 誰か肇ちゃんを幸せにしてくださいよ
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- 2014年04月23日 21:32
- ※2 俺と全く同じ行動をとった奴が既にいた
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- 2014年04月23日 21:36
- 1レス目で分かったわ
いつもみたいな感じではなかった
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- 2014年04月23日 21:43
- ※2,6
よう、俺
慌ててコメ欄に飛んできたわ
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- 2014年04月23日 21:51
- 欝ではないがハッピーエンドでもない最後
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- 2014年04月23日 21:53
- 実は結構好き
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- 2014年04月23日 21:53
- ちょっとした表現でイラッとさせる才能は凄いな。
最後の返答はプロデューサーとしてなら当然の答えなんだろうけどさ。
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- 2014年04月23日 22:01
- あの馬鹿のSSなら内容関係なくスルー
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- 2014年04月23日 22:27
- ※12
ならスルー推奨だね。読んでもダメージないけど、おもしろくもないよ。
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- 2014年04月23日 22:28
- 平和だけど、面白くは全くない。
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- 2014年04月23日 22:30
- つまんなそうだから先に来た
どうやら読まずに正解のようだ
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- 2014年04月23日 22:38
- 出だしでピンときて肇ちゃんで確信。安定のコメ欄だった
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- 2014年04月23日 22:41
- 全部読んだ、つまらないというか何がなんだかわからない
作者のオ○ニーって感じ
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- 2014年04月23日 22:56
- 俺は面白かったな
Pが気持ち悪いくらいモテまくるハーレム物ばっかりで辟易してたからなおのこと面白かった
こういうSSももっと増えてくれれば良いのに
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- 2014年04月23日 23:07
- なんか※18みたいないちいちハーレム物が~って比較対象出さないと褒められないやついるよな
そっちを貶めたいようにしかみえないけど
-
- 2014年04月23日 23:09
- 読み始めて3行くらいで嫌な予感がしてコメ欄まで飛んできた。
-
- 2014年04月23日 23:09
- いや、面白いよ
こういうのが書ける人は貴重
-
- 2014年04月23日 23:09
- このPには心臓が無い(厨二感)
-
- 2014年04月23日 23:12
- たまにはこういう胃にキリキリくるようなのもいい
俺は好きよ
-
- 2014年04月23日 23:14
- 肇と岡山でのんびり仲良く暮らしたい。
(岡山は有効求人倍率1.3の働くにも住むにも良い所です。皆で移住しよう)
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- 2014年04月23日 23:18
- 今回はわりと好きだわ
こいつの文体で本人ってバレないならそこそこ評価されるレベル
-
- 2014年04月23日 23:19
- ※21
(どこがどう面白かったか書かな作者降臨とか言われてまうで。ここのコメ欄はそういうとこなんやで)
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- 2014年04月23日 23:22
- 地の文の雰囲気だけで誠Pって分かったわ
でも、何だかんだでこういうのとかヤンデレ鬱を書かせたら抜群で上手いんだよな
今回もなかなか良かった
-
- 2014年04月23日 23:25
- 読み始めて、肇の名前を見て、※欄ジャンプ。
正解だったようだ
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- 2014年04月23日 23:28
- なんか叩こうとしてる人の方が必死に見える
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- 2014年04月23日 23:32
- 良くも悪くも引き込まれるSSを書くよな。
最初は嫌悪感しかなかったが、最近コイツのSSに耐性が付いたのかもしれない。
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- 2014年04月23日 23:34
- 何でや!最期の「俺はさ」までで止めておけばよかったやろ!
なおずっと仕事の事しか考えてない模様
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- 2014年04月23日 23:42
- 1レス目のの自分に酔った中二病文でスクロール余裕でした
米欄見る限り正解だったようでなにより
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- 2014年04月23日 23:43
- どこがどう面白かったかは褒めないのな
あ、これは煽ってますハイ
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- 2014年04月23日 23:52
- ごめんこれは割と好き
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- 2014年04月23日 23:54
- コメントみる限り、この作者さんって他にもこういう感じのSS書く人なの?
みてみたいから教えてくれると嬉しいんだけど
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- 2014年04月23日 23:57
- キャラに思い入れがある人には不評だろうけど、こういうのも結構好き
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- 2014年04月23日 23:59
- ドラマで女優が嫌な女を演じてさ、
視聴者に「こいつ嫌な女だなー」って思わせたら
その女優って優れてるわけじゃん。
この作者もSSではハッピーエンドにこそしてないけど、
そういう雰囲気にしようと思ってこういうSSを書いてるだけであって
作者自身をけなすのは違うと思うな、この作品自体の雰囲気の得手不得手を個人の感想で
言うのはいいと思うけど。
-
- 2014年04月23日 23:59
- この公私混同しないPはなんか好感が持てる。スタンスはアレだけど。
まあそれが最高の返事かどうかは置いておくとしてだ
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- 2014年04月24日 00:00
- 作者自身は最後に 劇場の肇ちゃん可愛かった って言ってるしね
-
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