如月千早「死神と歌姫」
- 1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/29(火) 12:52:39.56 ID:BbP5a1Uf0
「千葉くん!」
今回の調査対象、如月千早が私の名前を呼んだ。
それまで彼女と揉み合っていた二人の若者は、動きを止めた。
「なんだよお前」
「なんなんだよお前」
なんなんだとはなんなんだ。二人の質問の意味がわからないため私はそう言う。
「馬鹿にしてんのかよ!」
降りしきる雨の中、若者が叫ぶ。前に見た映画のワンシーンにこんなのがあったな。
私はこの若者たちと似たような外見をしている人間を何人も見てきたが、彼らが私に対して
発する言葉も似ていた。なんだよ、うるせえよ、馬鹿にしてんのか、ぶっころすぞ、
だいたいこんなところだ。
如月千早は目線をキョロキョロとさせ、この選択肢に人生がかかっているかのような表情をしていた- 7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/29(火) 19:07:06.06 ID:BbP5a1Uf0
今日のボイトレも問題なく終えると、私は用意していたミネラルウォーターを口にする。
水分が渇いた喉にしみわたっていく。快感。飲みながら、歌った後にはこれ一本!なんていうキャッチフレーズが
閃く。そういえば水のコマーシャルはほとんどみけないな、と思う。発見。
「良い飲みっぷりだね。千早ちゃん」天海春香が声をかけてきた。
「ええ、この瞬間も楽しみの一つよ」
春香も一気飲みを始め、半分まで飲むと
「ぷはー 効くぅぅー」
「写メールで撮っておくべきだったかしら。アイドルの卵飲酒現場、ってね」
「卵ってとこがちょっと来るなぁ。 せめてアイドル候補!それか未来の売れっ子」
「卵は卵でも金の卵よ」
「割れたらもったいないね」
- 9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/04/30(水) 12:29:04.72 ID:SpTHkF2c0
本日の仕事はこれで終わりだ。今日は音楽関連番組はやってなかったはず。
しかしここにいてもやることはない。 者座になって雑談をしているアイドルたちに帰宅する胸を伝え
部屋を出た。荷物をとるため、いったん事務所へと戻る。
「おお、千早終わったのか」
デスクワークをしていたプロデューサーが立ちあがって言った。
ええ、と私は答える。
「今日は帰りますね」
「外はすごい雨だけど、大丈夫?」事務員の音無さんが言った。
「傘あるので」
「なんなら雨合羽とブーツもつけてくか?」
「いらないですよ。小学生ですか」
「アイドル界では小学生だろ」
ふふっ、とプロデューサーがほほ笑んだ
その前になんでそんなものが事務所にあるのだろう。たぶんブーツはステージ衣装用のものだろう。
- 10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/01(木) 18:45:44.05 ID:NM7mf7OO0
肩をすくめて、ドアへと向かう。途中、スケジュールとして使われている
ホワイトボードが視界に入った。
その名の通り真っ白で、どうして使ってくれないんだ、と憤っているように見える。
ごめんね、と心の内で謝罪する。
ドアを開けると新品同様の青い傘を開いた。
小降りではあるが、今朝からしつこく降り続いている。
雨はしっかりと働いているようだ。
- 11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/01(木) 18:52:49.02 ID:NM7mf7OO0
今回の仕事内容を調査部から説明された時、私は小躍りしたい気分になった。
ここから真っすぐ歩いたところにあるCDショップへ行け、と命令された。
そこに行けば今回の調査対象に出会えるらしい。
いつもなら、時間のやりくり、調査対象の行動など様々な障害を乗り越えて行くCDショップであるが
今回は調査部がそこへ行けと言っている。
私は足取り軽く目的地へと向かった。
- 12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/01(木) 19:00:19.63 ID:NM7mf7OO0
CDショップへ入り、少し試聴をしてから仕事に取り掛かろうかという魂胆があったのだが
先客がいた。調査対象である如月千早だった。
店内を歩き回ってみたが、試聴機はたった1台だけだった。
仕方がない、と私は観念し、如月に近づき声をかけた。音楽に夢中なのかこちらに気付く様子はない。
肩を叩こうとして、はっと手を止めた。危ないところだった。
私に素手で触られた人間は気絶してしまうのだ。
- 13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/01(木) 19:06:41.15 ID:NM7mf7OO0
考えた末、試聴機の画面を軽く叩いた。拳をつくり、コンコンと二回。
如月は驚いた顔でヘッドホンを外す。
「すいません、私ついこんなに長く」
使いますか、と言いながらヘッドホンを差し出してくる。
喜んで受け取りたいところだが今は仕事中だ。
- 16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 14:38:35.98 ID:z6geFS380
「いや違う。 用があるのは君なんだ」
「ナンパですか?」
一拍間をおいて言った。彼女は同年代の女性の中でも魅力的な外見をしている。
こういうことは何度もあるのだろう。
彼女の切れ長の目からは動揺や戸惑いは感じられない。
「いや」
私はどうしたものかと頭をひねる。いままでの仕事ではアンケート調査だとごまかしてきたが
今の私の外見は男子学生であり、その常套句は使えない。
「用がないなら私行きますね」
如月が私の脇を通り過ぎていく。チャンスだ。
彼女は足早に店の外へ出て行った。
- 17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 14:43:53.67 ID:z6geFS380
距離を置いて彼女の後ろを歩く。
さっき彼女のポケットから携帯電話を抜き取ったのだ。
それを口実に、もう一度彼女と話そうと考えた。
あまりCDショップから離れていないところで渡さなければ不審に思われる。
私は彼女に声をかけるタイミングを計っていた。
- 19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 14:56:15.72 ID:z6geFS380
千早~
ほんとはほんの三十分で店をでるつもりだったのだけど、つい音楽に夢中になってしまった。
まったく音楽は魔法のようだ。時刻を確認するためいったん屋根の下で立ち止まり、ポケットをまさぐった。
あれ?、と思わず声が出る。 どこかで落としたのだろうか。いや、携帯は落としたことにも気づかないような
ものではない。
ひょっとしたら音楽を聞いている最中に何かの拍子で落としたのだろうか? それなら気づかないこともありえる。
まだそんなに店から離れていない。戻ろうか、と思った瞬間
「ああ、いた。良かった」
さっきのナンパ男だ(私にネーミングセンスはない)。私はうんざりした。
ここ最近、帰り道でつけられてるような気がしているのに
そこにナンパまで加わってくるのは勘弁してい欲しい。
- 20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 15:03:04.16 ID:z6geFS380
「なんですか?」
私は相手に敵意がつたわることを重視して、言った。
「忘れものだ」
男はポケットから何かを取り出した。あっ、と声を出す。
交友範囲の狭さを物語るように、新品同様に傷ひとつついていない。
間違いなく私の携帯だ。
「これ君のだろ?」
「はい、どうも」
- 21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 15:51:11.16 ID:z6geFS380
ぎこちない返事になってしまう。やっぱり愛想って苦手だ。
「じゃあこれで」男はまた雨の中へと歩き出していく。傘もささずに私を追いかけてきたらしい。
向かっていく方角は私の帰り道であることに気づいた。
「待って」
「私、傘だから途中までなら。家はどの辺なんですか?」
彼は手短に家の場所を説明した。幸運なことに私の家の近くだ。
「携帯届けてくれたお礼と言っては足りないかもしれないですが」
「とんでもない。助かるよ」
誰かがとなりにいれば、最近私の頭を悩ましているストーカー(まだ決まったわけじゃないが)も
今回はなくなるかもしれない、という狙いもあったがそれは言わなかった。
- 22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 18:06:45.62 ID:z6geFS380
千葉~
なんとか如月に近づくことができた。人間というのは不思議なもので
相手の外見によって、対応の方法を変える。
ずっと前に担当した、大学生の女の時、私はぱっとしない外見をしていた。
そして今回と似たような状況になったが、その女は送っていくとは言わなかった。
それどころか帰り道が同じと知った途端、聞かなければよかったと言いたげに顔をしかめた。
- 23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 18:14:42.97 ID:z6geFS380
「そういえばあなた名前は?」
千葉、と名乗った。そう、と如月は言った。
「如月千早です。高校一年」
「私もだ」
クスッと如月は笑った。
「すまない。何か笑えるところがあったか?」
「おかしいっていうか、変わってるね。一人称がわたし、なんて」
確かに人間の若者は、俺、だったり僕だったりする。
「こっちのほうが使い慣れてるんだ」
「昔からそうなの?」
「何百年も前から私は私だ」
「じゃあ何百年後は?」
「私だ」
- 24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 18:22:30.34 ID:z6geFS380
しかし気のせいだろうか。さっきから誰かがつけているような気配がある。
「如月、この近くに知り合いでもいるのか?」
「いないわよ。私は一人暮らしだし。どうして?」
「誰かついてきてる気配があるんだ。君に声をかけようとしているのかもしれない」
私は親切心から言ったことなのだが如月は、重大な機密情報を耳にしたかのような表情になった。
- 25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 20:57:27.65 ID:z6geFS380
如月は黙り込み、しばらく俯くと、意を決したように口を開いた。
「最近そうなのよ。 姿をみたわけじゃないし、あったりなかったりだから警察にも言えないし」
「帰る時間を早めたらいいんじゃないか」
「無理よ。私は……歌手なの…売れてないけど」
歌手、と聞いて私は思わず叫んだ。
「ミュージック!」
ぎょっとした顔で如月は私を見る。
「ああ、好きなんだ。音楽が。あれは最高だ」
「そうなの。どんな音楽を聴くの?」
「音楽ならすべて好きなんだ」
クスッっと如月は笑った。
- 26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 21:04:43.38 ID:z6geFS380
千早~
朝起きて学校へ行ったと思ったら、もう放課後になっていた。
それだけ私が集中していた、ということなのだろうか。
いつもならさっさと事務所へ向かう私だけれどあいにく今日は日直。
それにしても昨日の男の子はなんだったんだろうか。
チョークの粉を掃除しながらそんなことを考える。
- 27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/05/02(金) 21:13:54.15 ID:z6geFS380
「如月さん、それ終わったら塵取りお願いできる?」
日直のペアを組んでいる男子が言った。ええ、と返事をした。
「ねえ、如月さんの先祖ってどんな人?」
「先祖のことはわからないけど。どうして?」
「如月って苗字さ、なんか侍みコメント一覧
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- 2014年05月03日 20:06
- 死神の精度か
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- 2014年05月03日 20:14
- 乙。 GJ。
ラストはあれだが、雰囲気はまさに例の死神だったな。
-
- 2014年05月03日 20:25
- これは珍しいクロスss
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- 2014年05月03日 22:21
- ミュージックに対しては甘いなwww
-
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