はじめての激安行列スーパー(大北栄人)
たまにテレビなんかで見る激安スーパーの行列。もみくちゃにされながら袋に野菜を詰め込んでいるあれだ。ほんとにあんなことになってるんだろうか? はじめてスーパーの行列にならんだ。
目当てのスーパーはネットで検索した。朝市をしていて行列になってて野菜の詰め放題があるところだ。
スーパーの前に店員のおばさんがいる。朝市やってますかときいてみると「こっちですこっちです。みんな並んでますよ」と奥まったスペースに案内された。いる。人数は10人に満たないほどだろうか。しかしカートの数がやたらに多い。みんなどこへ行ってるのだろう?
「もうすぐはじまりますからね~」とおばさんはいう。あと一時間ある。スーパーの行列にとって一時間は”もうすぐ”なのだろうか。
店外に並んだ商品の中に詰め放題とチラシにあったじゃがいもとたまねぎがあった。おじいさんとおばあさんが群がって選別している。もうはじまっているのか。しかし近寄ってみると値段もなければ詰め放題の袋もない。おじいさんはカゴに直接じゃがいもを放り込んでいる。他のカートも同じだ。あとで詰め直すのか? なぞはまだある。すでに袋に詰め終わっているカゴもちらほらあるのだ。どこから持ってきたんだその袋は? ルールがさっぱりわからない。まるで外国にきたみたいだ。
一体いつ何に詰め放題すればいいのかさっぱりわからない。どうしようもないので店員さんをつかまえてシステムをきいた。
「時間がきたら袋をお出ししますのでそこから詰めてください。あの人たちはね、自分で勝手に持ってきちゃってるんですよ」
なんと。インディーズのマイ袋持参なのか。だが一体なんのために? 最後は店の袋に移し替えるとしてなぜわざわざそんなことをしてるのか? どうやらここにはここで発達した独自のルールがあるようだ。
とりあえずほかの人にならっていくつかじゃがいもをカゴに放り込んだ。なんのためにかは知らない。人が増えてきた。じいさんばあさんが多い。競馬の話がきこえる。勝手に台車を押しているじいさんもいて店員と客との見分けがつかない。台車のおじいさんに「前の旦那、ちょっとすいませんね」と声をかけられた。旦那という二人称が飛び交っている。ここは一体いつの日本なんだ。
行列に並ぶ。前方にカートやかごは30個あったがそのわりには人が少ない。その後「おはようございます~!」と数人のおばあさんがやってきて私の前に入る。わかった、仲間の分もキープしているのだ。それでこんなにカートの数が多いのか。ここには独自のルールがある。
気づけば詰め放題の袋が出ていた。ここでカゴにためていた者やマイ袋にキープしていた者は詰め替える。たまねぎやじゃがいもは随時足されているので人も余裕を持って詰めていく。テレビの殺到してるイメージではない。
「袋の中の詰め放題でカゴの中の詰め放題ではありませーん!」と店員がさけぶ。「それ知ってる(笑)」とどこかのばあさんが野次って小さく笑いが起こる。なんども繰り返された雰囲気がある。管理する側とされる側との軋轢と小さなガス抜きだ。刑務所や老人ホームといった小さな社会ができつつある。店員はつづけて「いいですかー? 日本語で言ってまーす!」とさけんでいる。(日本語で言ってます?)不可解だ。みんなカゴから袋に詰め替えてるはずだが……?(この疑問はのちに解ける)
ピーマンの詰め放題にもチャレンジした。隣のばあさんがすごいスピードでピーマンを選別していく。一体どれがよくてどれが悪いのかさっぱりわからない。速すぎて基準も見えない。適当にぎゅうぎゅう詰めていて他の人のを見るとすごい数が詰まっていた。縦に並べて詰めるのだ。そういうコツがあるようだ。上にはみ出た分もいいようだ。しかしなんだか恥ずかしいので遠慮がちな詰めにしておいた。詰め終わって行列にキープしておいたかごに戻る。
しかしかごが見当たらない。「ここ、ここ」とばあさんが声をかける。知らない間に移動している。なぜだ。
なぞはすぐとけた。後ろのばあさんが私の前のかごを勝手にガンガン押して行列を詰めていたのだ。おかげで行列はもうぎゅうぎゅうである。なぜだ。順番が早まるわけでもないのになぜそこまでぎゅうぎゅうに詰めるのだ。ここには独自の文化が多すぎる。
いよいよ開店のようだ。行列がそのまま店内に吸い込まれていく。前に30人、後ろに40人といったところか。
それほど殺伐として空気ではないものの、店内にも朝市用の商品があり、めいめいお目当ての商品のもとに散る。店内は入り組んでいて、そこにじいさんばあさんがくるくる見てまわってるものだから、あの角を曲がればじいさんが、この角を曲がればばあさんが、といった具合に「出くわす」感じがある。ホラー映画のようだった。
他に目当ての商品もないのでレジへむかうとすいていた。
「ごめんねー、これだと2袋になちゃうからねー」とレジのおばちゃんの声があがる。
見ると先客のじいさんのかごがじゃがいもであふれかえっている。なんだこれは。袋に詰め放題というレベルではない。これか。さきほどのアナウンスで「かごに詰め放題じゃないぞ」と言って、「日本語で言ってるんだぞ」と再度注意してたのはこのことか。一体これはどういうことなんだ。既存のルールが何一つ守られてない。どうなるんだこれは。
「じゃあこれだけおまけしとくからね、ごめんねー」レジのおばちゃんから救済の手が差し伸べられた。これだ。おまけ狙いなのだ。詰め放題で最も賢い方法は頭を使って詰めまくるのではなく、頭が悪いふりをして詰められてないまま大量にもっていくのだ。そうすれば詰めるより多くのおまけがもらえる。じゃがいもはガンガン足されて腐るほどある。レジのおばちゃんとしても揉めるよりはおまけで納得してもらったほうが得なのだろう。このじいさん、何度もこの方法をやってるのだ。だからあの店員は「かごの詰め放題ではない」と何度も言ってたのか。
こうしてはじめてのスーパーの行列を終えた。おしあいへしあいのお祭り騒ぎを想像していたがそういうものではなかった。もっとスマートでクレバーな戦いだった。それよりもこの場の特殊性である。毎週一回日曜の朝に行われる行列と詰め放題。ここには独自のルールが多すぎる。管理する側される側、そして横の人間関係も構築されつつある。高度に発達したコミュニティがここにはあった。
大人になったいまでも、やったことないことがある。
2014年のGWは5/3~6の4日間、日替わりのテーマに沿ってライター総勢18人が初体験に挑みます。
5/3(土) はじめてのご飯
5/4(日) はじめての場所
- はじめてのラブロマンス(西村まさゆき)
- はじめての800円歌舞伎(小堺丸子)
- はじめての耳鼻科(べつやくれい)
- はじめてのバッティングセンター(おおたかおる)
- はじめての恵比寿ガーデンプレイス(安藤昌教)
5/5(月) はじめての買い物
5/6(火) はじめてのアクティビティ
- はじめてのラッシュ(林 雄司)
- はじめての円盤投げ(住 正徳)
- はじめてのジャンプ懸賞プレゼント当選(ヨシダプロ)
- はじめてのドーベルマン(小野法師丸)
- はじめてスッポンに噛みつかれてみる(平坂寛)