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Beats by Dreの知られざる黒歴史。モンスターはなぜ消えた? : ギズモード・ジャパン

Beats by Dreの知られざる黒歴史。モンスターはなぜ消えた?

2014.05.13 21:00
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Dr. Dreとモンスターの共同開発のヘッドフォン「Beats」が売り出された08年当時の記憶しかない人は、アップルのBeats買収のニュースを聞いて「あれ? いつの間にモンスターとれたんだっけ??」ってなってる人も多いのではないでしょうか。そんなあなたのためにモンスター決別の裏話を、どうぞ(この原稿は2013年2月13日のものです)。

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Beats By Dreみたいな製品は後にも先にもこれだけですよね。モールも機内もクラブも、その辺の道を歩いていてもbの派手なヘッドフォンが最近やたらと目につきます。大きくて高価なホットアイテムになってしまってますが、実はあれってDr. Dreが自分で開発したわけじゃなくて、もともとは高すぎるHDMIケーブルで有名なオーディオ会社モンスターが開発したものなんですよね。

今でもモンスターのロゴがちっちゃく地味に入ってる初期バージョンお持ちの方もいるので、それは割と知られてると思うんですけど、あんまり知られていないのはその後日談です。モンスター、実は提携契約のとき全部相手のいいようにされて、甘い蜜にあやかる前にポイッされてたんです。まさに少年ダビデと巨人兵ゴリアテ。ただしこの場合、モンスターがダビデで、しかもゴリアテに追い出されるという聞くも涙な悲劇…ここに述べるのは、このテック史上最悪とも言われる提携の内幕です。

ラッパー御用達ガジェット「Beats」の歴史が始まったのは、Dr. DreがどっかのクラブのVIP席で黄金シャンパン「クリスタル」浴びるほど飲んでる時…ではなく、マイバッハ乗り回してる時…でもなく、会議室でサメの水槽とプラチナレコードに囲まれてる時…でもありません。Dr. Dreが監修に入って世界中の若者の耳に「b」のロゴが踊るようになる遥か以前に中国からきた移民がカリフォルニアの自宅でオーディオ機器をいじり始めた時に遡ります。

BeatsはMonster, Inc.に始まり、そのMonsterを始めたのがNoel Lee(ノエル・リー)。

人懐っこくて、ものすごく頭の切れる、マンガみたいなヘアスタイルの男で、マンガの悪役みたいな車いす…Noelは足が不自由なので、移動にはクロムプレートのセグウェイを使ってます。大学で工学を勉強し、モノ作りに目覚めたのが1979年、音楽のサウンドの可能性を最大限引き出してみたいと部品製造ビジネスを始めたのがきっかけです。

シリコンバレー流にNoelも最初は家の地下でキンコンカンコン始めました。いろんな銅線で音を聴き比べて音質が最高になるものを選んで製品化して…で、またまたシリコンバレー流に派手にマーケして思いっきり高い値段で売ったんです。これがモンスターケーブル。音楽を愛する人にアピールするため「より優れたサウンド」ということにしたんですが、違いは微々たるもので、主に想像の世界とPR資料の中だけに存在するようなものでした。が、「スピーカー用ケーブルの可能性を塗り替える革命的製品だ」とNoel Leeは大風呂敷を広げたのです。まあ、息子のKevinは「病人でもないやつに治療を売りつけるようなものだ」と言ってますが。

モンスターは高過ぎるHDMIケーブル、サージ保護装置にも業務を拡大し、スクリーンクリーナーは5種類も発売。無用の高過ぎる製品を次から次へと世に出し、「ボッタクリの天才」という異名を獲得します。まあ、ケーブルも高価なバスケットボール・シューズみたいなもので、本当にいいものが必要なのは世界に200人ぐらいしかいなくて、残りの凡人には違いが全くわからない世界ぶっちゃけ違いなんてあってもなくても関係ないんです。こうして、それらしく買い手に納得させてステータスシンボルに押し上げる戦略で、Noelは業界の一角にガッツリ食い込みます。

でも200ドルのケーブルだけ売ってても自ずから限界がきますよね。そこで次に考えたのがスピーカーです。しかし、スピーカーは遅きに失した感があり、Hi-Fiサウンドの時代ももう終わってて、大体の人はTVの音とか、せいぜいサウンドバーの音で満足してしまってますから、モンスターの出る幕はありません。

そこで目をつけたのがヘッドフォンです。これだったら俺らでも行ける!ということになったのです。

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モンスター創業者Noel Lee(左)と息子kevin。MTVヨーロッパ・ミュージック・アワーズにて


Noelは早速ヘッドフォンのプロトタイプ製作に着手し、プロプリエタリのHDオーディオ形式の提携先探しで息子をLAに飛ばします。このオーディオ形式っていうのは結局世に出なかったんですが、「UsherでもMary J. BligeでもU2でもデカい契約とってこい!」っていう父親のお達し通りにいろんな人と会ってるうちに思いがけないことが起きたのです。「めぐり合わせとしか思えないことが人生ときどきあるんだよね…セレンディピティっていうのかな」と微笑むKevin。あのヴェイパーウェア売り込みにいかなかったら、「インタースコープ社のJimmy Iovine(ジミー・アイオヴァイン)に会うことも一生なかったと思うよ」(Kevin)。

この出会いで、Beatsが一気に動き始めます。


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Dr. Dre(左)とインタースコープ社ジミー・アイオヴァイン会長


Jimmy Iovineといえば、ブルース・スプリングスティーン、50セントを世に出し、8 Mileを共同プロデュースした大御所です。 Dr. Dreは言わずと知れたDr. Dre。 Beatsのプレスイベントでも2人は息ぴったりで、Jimmyは毎度のように舌鋒鋭く機関銃のような早口で創業秘話をまくし立てています。つまり、インタースコープがDreにスニーカーのエンドースメント契約をお願いしたら、Dreが…


スニーカーなんて言ってねえでスピーカーつくろうぜ


と答え、そうして生まれたのがBeatsだっていう、例の創業秘話。これ誰が聞いたって出来過ぎなんだけど、ほのぼのしてるし、スニーカーとスピーカーで一応韻を踏んでるので、誰も敢えて突っ込まないままそれが創業秘話ってことになってます。

が、Lee父子に言わせると、これは物語の半分しか語ってないんだそうですよ。Kevinがサラウンドサウンドの提携先を探してるっていう話を聞きつけて、JimmyとDreは「一緒に電化製品をつくろうぜ」という喉から手が出るような願ってもない話をモンスターに持ちかけてきました。「僕に寄ってきて、親父がつくったサウンド関連のテクノロジーを片っ端から褒めまくったんだよね」とKevin。

父NoelはJimmyと「たちまち意気投合」(Noel)。「あんたはミュージックのサウンドはこうあるべきだっていうのがよくわかってる、自分もミュージックのサウンドはこうあるべきだっていうのはよくわかってる、わからない残りのやつらは全部まとめてボケナスだ」ってな調子で盛り上がり、まるで最初から「恋に落ちる男女みたいだった」とKevinは振り返ります。

意気投合したら次は「サウンド講座」の番です。モンスター自らが先生役を務めて自社サウンド技術をJimmyとDreに披露しました。頭骨に響くバスサウンドの再生技術を披露し、インイヤータイプの試作品も披露して。こうして教えてでもやらないとインタースコープ側のふたりは何もわからなかったのだとNoelパパは言います。



DreとJimmyには、なぜもうスピーカーの時代じゃないのかという部分からわかってもらう必要があった。世の中の人がなぜスピーカーを買わないのか、彼らにはまったく理解できていなかったんだ。ふたりともスピーカーはデカいの持ってるしスタジオに常時完備だからね。なんでスピーカーじゃなくてヘッドフォンなんだよ? っていう感覚だった。


モンスターはラップ界の重鎮コンビの中にオーディオに賭ける淡い野望を嗅ぎわけ、実に儲かる業域に目を向けさせたのでした。つまり、ハイエンドのヘッドフォン市場です。Boseはお父さん世代が買うものだ、他のは全部ちっぽけなゴミか、無名過ぎるか、複雑過ぎて誰も手にしないものだ、だから…


一緒にヘッドフォンつくろうぜ


とふたりを説き伏せたのは、他ならぬNoelだったのです。

蜜月は蜜月でも、3人の関係はスティーブ&ウォズのように同じギークの血をもつ仲間同士のタッグではありませんでした。最初から目的はビジネス、銭、金だったのです。今だからNoelにもそれがわかりますが(Jimmyは「全部独り占め」したかったのさ、とギズには話してます)、モンスターはうぶでした。必要な局面でそれが見破れなかったんですね。

モンスターにはヘッドフォン事業をバーンと立ち上げたいという欲がありました。強い欲が。時は2000年代半ばの不況で、DreもJimmyもレコード以外の収入源がなんとしてでも必要でした。ところが、なんとお金の部分はスティーブ・ジョブズの薫陶を受け音楽業界を牛耳るJimmy Iovineに全部いいように決められてしまったんです。どこの馬の骨とも知れない高級ケーブルメーカーが太刀打ちできる相手ではありませんでした。 モンスターはDreが抱える「エンタメとスポーツ」の人脈を駆使して契約をとれば一躍メインストリームになれる、と考えました。実際その通りだったのですが、それで儲けの分け前に預かれるほど世の中、甘くはなかった…。

モンスターは莫大な儲けを手にするチャンスに恵まれながら、それをことごとく棒に振ってしまったのでした。


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商談の条件取りまとめに向かったKevin Leeには、4年制の大学を出た学位と、あとは父の会社で働いた経験があるぐらいで、他にビジネスの経験はありませんでした。単身LA入りした若旦那Kevin Leeを待ち受けていたのは、法務・財務・総務のプロが結集した一枚岩…Kevinはみるみる戦意喪失です。双方契約書にサインする段階になった途端、彼らはディスりモードになり、モンスターにいくらいい音声技術があっても、そんなもん他にもってる会社はいくらでもある、インタースコープにはサインする義理はない、の大合唱を始めたのです。「Jimmy Iovineとインタースコープのマーケティング部門プレジデントSteve Burmanは具体的な一連の数字をのむよう迫ってきたのだが、それは5000万ドル(51億円)の損益を出したばかりの零細のワイヤー会社が払えるような額ではとてもなかった」とKevin Leeは言います。

利益分配として提示された条件が賄えないモンスター。足元を見透かしたかのように値切る音楽業界のタイタンふたり。交渉は暗礁に乗り上げ、シーンと水を打ったような静けさに…。やがてJimmyはツカツカと歩いて、Dre(とエンタメ業界)の手をとって部屋を出ていってしまいました。去り際に「こんなことしたくないけど、他と組むよ」と言い残して。

後にはモンスターがひとりポツンと残されました。

やがて半年後。(交渉でうじゃうじゃ言ってた)Steve Burmanから電話がかかってきました。チームDreは、スピーカー部門でもっと実績のある「SLS Audio」と組もうとしたんだが、うまくいかなかった、「モンスターにまだその気があるならまた組みたい」というんですね。もちろんですとも! と先のことも忘れて尻尾を振るモンスター。

しかし、この半年の間にいろいろ状況は変わってました。「Beats by Dre」という商標は既にモンスターと先のタッグで決まってたんですが、SLSもラフな試作品を作っていたんですね。巨大なイヤーカップ、分厚い直線的なヘッドバンド、フォーミュラ1みたいなグロッシーな仕上がり―今のBeatsの原型のようなものができていたのですが、それじゃ大き過ぎるとKevin Leeは言いました。Dr. Dreの大きな頭でも大き過ぎる。「頭につけて鏡を見てごらんよ。変でしょ」

さっそく試作機づくりに逆戻りです。モンスターは「試作品を40~50個製作」し、リスクを自分で背負い込んでしまいます。父親は「そんなに是が非でも提携を進めたい雰囲気じゃなかった」ので、こっそり隠れてモンスターの会社のお金を誰かの承諾も得ずに何百万ドル(何億円)も見切り発車で注ぎ込んでしまったのですね。「(CES 2008の)記者会見で発表した時には、契約成立もまだなのに技術と宣伝に150万ドル(約1億5000万円)もの金を投じた後だった」(Kevin)

140512Monster.jpg早晩Kevinは完全に首が回らなくなってました。父親の会社の未来を上司の許可もなしに決めてしまった…それも動かぬ確証もないまま突き進んでしまったんです。「あの時点では儲けがいくらで、価格がいくらで、コストがいくらかも、まるで見当がつかなかった」(Kevin)。手探りのまま、Kevin Leeは極秘で全製品ラインを開発してゆきました。提携先が本当に動くという事業提携契約もしっかり結ばないうちに。Beats By DreはDreから作っていいと許可が出る前に作ってしまってたんです。それに気づいた時にはKevinもパニックになります。「業務命令違反どころの話じゃない。親父の信用を失うことは目に見えていた。もう在庫を何百万ドル(何億円)分も抱えこんでいた。こんなことがバレたら親父に殺される、そう思ったよ」(Kevin)

Kevin Leeは、是が非でも契約を取らないと金銭的にも家庭的にも一巻の終わり、という瀬戸際に立たされていました。もうこうなれば条件は言われるままにのむ以外ありません。こうして飛びついた契約は「インタースコープにも前例のない複雑極まりない契約内容」でした。毎日毎日インタースコープに少しでも有利な条件で契約をまとめることしか考えてない企業お抱え弁護士の大軍団が書いた契約書を、大学で学んだ文系の知識を総動員して読むKevin。

交渉事に両成敗はありえません。モンスターはBeats Electronics社を今後も存続させたまま、そこがヘッドフォンを出荷するという条件で契約書にサインします。が、そこには巨大な権利剥奪条項があったんです。それまでにモンスターが開発したものはすべてBeatsのJimmyとDreの側に権利を譲渡する、という条件です。全ヘッドフォン、全ヘッドバンド全イヤーカップ、全ドライバー、全リモコン、Beats By Dreに付属する金属なりプラスティックの破片があればそれも全部、Lee父子の権利はすべてJimmyとDreに譲る、という条件だったのです。

ああ因みに、製品の製造はすべて、モンスターの責任です、配送も。製造と配送という最も金がかかる部分はモンスターなのです。「ちょっとDr. Dreで怖気づいちゃったんだよね」と、お子様サイズのチキンヌードルを啜りながら白状するKevin Lee。隣のNoelパパは無言で座ってます。

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「製造も配送もモンスターならチームDreは何すんのさ?」と不思議になりますが、DreはDreをやるまでです。何ヶ月もかけて開発後、Kevin Leeはやっとできた最終版No.1を持ってDreのもとに馳せ参じます。以下がその本邦初公開の写真。


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Dreはおもむろにこれを被って、「In Da Club」を聴き、「That's the shit(クソだな)」とひとこと発します。その鶴のひと声で晴れてBeats By Dreに青信号が灯ったのでございます。

Kevin Leeは宣伝・エヴァンジェリスト活動に大勢のミュージシャンを動員したいと思ってました。タカピーなオーディオマニアの世界からジャーゴン取っ払ってモールで普通に売ってるみたいな製品にしたい、と彼なりに野望を抱えていたのです。Nelly Furtadoが音の歪みの重要性と危険性を語り、 Robin Thickeが高音の価値について耳元で囁く、みたいな。でもそういう展開にはなりませんでした。


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パートナー


Dr. Dre配下の特殊部隊がモンスターのオーディオギアを持ち歩いて、暇さえあれば無敵のステータスシンボルだってアピールしたんです。以上おわり。IovineはKevin Leeにこう言いました。 マーケティングは時間がかかり過ぎる、教育も時間がかかり過ぎる、そうじゃなくてみんなに魔法をかけちゃえばいいのさ、Beatsがこれからは『一番イケてる製品で、このサウンドがトロイの木馬なんだ』って虜にする戦略さ。「僕らがやったのはまさにそれだった。ミュージックビデオというビデオにBeatsが出るようになったんだ」(Kevin)。Iovineは自社のインタースコープが抱える一流スターの動画にBeatをプレースメントし、ボケーッと動画観る半分腐りかけのアメリカ人の脳みそにガンガン製品イメージを叩き込んでいったのです。





これは効果テキメンでした。世の中に眠ってた可処分所得が何億ドルとこれに投じられます。「若者が家電量販店Best BuyにBeats買いにいくのはサウンドがクールだからじゃなく、それを身に着けてると自分がクールに見えるからなんだよね」と、これはKevinも認めてます。Lee父子はオーディオ愛好家の評価も棚上げでファッション会社のような売り方をしたのです。こうしてBeatsは瞬く間に市場を席巻しました。路上はBだらけ。JimmyとDreはローエンドの音で外界のノイズと遮断してくれるヘッドフォン、長く歩いてもまあまあ頭に快適なヘッドフォンをせっせと売り、ラッパーの眩しいオーラのもとにそういうクオリティーの細かいことなんてどうでもいいやって雰囲気になっていきます。「Beatsは誇大広告で値段も高過ぎるかもしれないけど、別にスニーカーじゃないんだし、音のことなんて複雑でわからないし、どうせちっちゃい電化製品でしょ」というノリで受容されていくわけですね。こうして開発に何億円もかけ、何ダース分も試作機をつくり、IovineとKevin Leeの間で何年も行ったり来たりした果てにBeatsは大ブレイクしたのでした。

しかしモンスターの提携相手に話を伺うと、KevinとNoelの役割りなんてFedExとFoxconnに毛の生えたようなものだ、という答えが返ってくるんですよね。知名度は高いけど、ただ作って配送センターに届けるだけの集団、という認識なんです。Beats Electronicsはヘッドフォンの製品の意匠やオーディオ設計の面でモンスターはなんらの貢献もしてない、と関与を否定しています。「うちにはうち独自の工場がある。すべて当社のコントロール下にある。サウンドも...最初からずっと当社のものだ—―当社には当社独自のサウンド関連特許もある」というのが同社側の言い分。「当社のものに間違いない」 と、Beats Electronics CEOのLuke Woodは何度も繰り返し言うんですね。全員今も友だち関係は続いてるとは言うんですが、モンスター側の友だちが担当してるのは単に、「外注」のパートで、Beatsのサウンドの「チューニング」の指示に従って「原料」を選定するところだけだ、というのです。

「それは嘘だ」とモンスターは言ってます。その証拠にギズに部外秘のデザイン資料を見せてくれました。ここにはモンスターがオーディオ設計もモックアップの製品の意匠もモンスターがデザインを手がけたという証拠が残ってます。


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Beatsの資料



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Beats3の資料



技術も全部Beatsのものだという言い方には、さすがのモンスターも怒りを露わにしています。「断じてそんなことはない。エンジニアなんて誰もいないではないか」とNoelパパが言えば、息子Kevinもこう言います。「Beatsなんか(技術貢献)ゼロだ」、「Beats by Dreヘッドフォンのサウンドはモンスターが開発した技術。彼らはただそれが欲しいと言って認めただけであって、あのサウンドを実現したのは当社だよ」

この「認める」という役割り。これはNoelとKevinの供述で何度となく出てきた言葉です。製品をJimmyとDreに持っていって、何度か往復して製品が発売になって、誰かが買ってクレジットカードの請求書に出て、動画で見せびらかしたい人とかラッパー予備軍がこれつけて街を歩く。本当にみんなが狙った通りに事は運んだのでした。


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ところが思わぬ異変が起こります。時価総額何億ドルの大手台湾企業HTCがBeatsに目をつけたんです。JimmyとDreはお金の匂いを敏感に嗅ぎとります。51%の持ち株と引き換えにHTCが提示した買収額はなんと3億ドル(307億円)。インタースコープ側には幸い(モンスター側にとっては「不幸にも」)、Kevinが斜め読みでサインした契約書があります。これでBeatsはモンスターに気兼ねなくHTCの懐に飛び込むことができたのです。Beatsの人は、この決別のお陰で会社組織も「身軽」になって「稟議書回す手間」も減ったと言ってますが、もちろんそんな耳障りのいいことじゃない。Lee父子を切り棄てるのには、それなりのインセンティブがあったわけです。

モンスターは提携解消である一定の金額を受け取りましたが、それは出口でウハウハこの世の春…というよりは早期退職金に近いものでした。Beatsはモンスターから身ぐるみ剥がして去っていったのです。モンスターがやったオーディオ周りの仕事の成果すべて。特許すべて。意匠権すべて。何より痛かったのが、ブランドネームももってかれたことです。

Iovineは一度、モンスターがデザインしたヘッドフォンのパッケージから「Monster」の名前を消せと騒いだことがありました。「Beats By Dre」という名前だけにしたかったのです。モンスターのロゴもだめ、モンスターと名のつくものは全部だめ。

HTCと組んだお陰でモンスターという邪魔者は消えました。モンスターが誕生を助けた怪物リヴァイアサンを前に、モンスターは自社が開発した技術を使って戦うことすらできないのです。Beats Electronicsがモンスターを排除したその同じ年、同社の売上げは5億1900万ドル(530億円)に達し(前年はたったの298ドル[3万円]だった!)、100ドル以上の「プレミアム」ヘッドフォン市場で64%の圧倒的シェアを獲得します。一時の流行りどころか圧勝です。

Jimmy Iovineがサメの本性を剥き出しにし、Lee坊やが完膚なきまでに骨抜きにされたのが、どの時点だったのか、それはなんとも言えません。なんだかんだ言って関わった全員が大儲けして当分生活に困らない今の状況では、同情しろって言われても1デシベルも感じない、というのが正直なところではあります。順風満帆のBeats Electronicsが今のやり方やブランディング戦略を変えることはまずないでしょう、Dr. Dreがよっぽど凶悪なスキャンダルでも起こさない限り。KevinとNoel Lee父子が仕返しに何かやるってことも考えにくいです。ふたりともBeatsは手にあぶく銭で本当に楽しかったよって言ってますしね。でも、もう有名人の金儲けに付き合わされるのも、一発大当たりのガジェットを狙うのも当分は懲り懲りのようでした。

…と思ったら、昨日(この原稿は2013年2月13日のものです)、モンスターはラッパーの大物プロデューサーのSwizz Beatzと提携し、ギラギラの偽ダイヤを散りばめた旗艦モデル「Diamond Tears」を発表しました。いやはや…。


Sam Biddle - Gizmodo US[原文
(satomi)
 

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