阿良々木暦「はるかデモン」
- 1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/14(水) 19:24:50.27 ID:nm2l17/f0
- ・化物語×アイドルマスターのクロスです
・化物語の設定は終物語(下)まで
・ネタバレ含まれます。気になる方はご注意を
・終物語(下)より約五年後、という設定です
・アイドルマスターは箱マス基準
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阿良々木暦「ことりハザード」(番外編) - 4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/14(水) 19:30:29.71 ID:nm2l17/f0
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001
「人とは、滑稽であるな」
と、彼女は言った。
まるでその格好が彼女の象徴であるかのように、腕を組み、首を傾け、不遜な笑みを浮かべ、頸骨をぽきりと鳴らし、こちらを見下ろして。
いつかのキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを想起させる、傲慢と美しさを同居させた様は、立ち向かうべき敵ながら驚嘆の一言に尽きる。
思想や教義をいくらでも流布出来る情報氾濫時代において、外面からのカリスマ性は現代においては最も重要な要素ではないか。
「そうだな……僕も、そう思う」
人の上に立つ存在――権力者や統率者のことを、僕たちは王と呼ぶ。
規模の違いはあれど、王と呼ばれるべき存在は一線を画している。
画していなければならない。
不特定多数の人間の上に立つ以上は、凡夫であってはならないからだ。
王と呼ばれる彼らは、端的に言ってしまえば『代表』である。
「下賤な人の子よ、聞いてやろう」
単純に力が強い者、人心掌握に長けた者、戦略性に優れた者、容姿が美しい者、運の強い者、王は必ずどこかの部分で、統べられる輩より優れていなければならない。
血統だけで王を継いで行く国がいずれ必ず亡びの憂き目に遭う結果を迎えるのは当然とも言える。
解り易い例えで言えば、三国時代の中国などは典型的だ。
一代で国を築き上げた劉備・曹操・孫権の三人は、例外なく子孫の代で衰退し、50年も続かなかった。
肉親がどれだけ偉大であれ、王が凡夫では王として成り立たないのだ。
血統で国を統べるのであれば、我らが日の本の国のように象徴としての王でなければならない。
- 5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/14(水) 19:31:42.46 ID:nm2l17/f0
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閑話休題。
だが、例えばの話だが。
「何故ここまでこの娘に与する?」
あまりにも有能すぎる王がいたとしたら、どうなのだろう。
誰よりも強く、誰よりも美しく、誰よりも頭脳は聡明で、誰よりも先見性に秀でている。
彼に失敗などという言葉は存在せず、彼に相対する存在は皆無。
そんな人間がいるとしたら、彼をもう人とは呼べないだろう。
「人間だからさ」
なんせ個人で全てが完結している。
彼にとっては王という称号すら些末の一部としか映らないだろう。
何故ならば、彼には他人すら不要だからだ。
だから、むしろ、神と呼称されるべきだ。
「ならばその身を以て知れい」
いや。
神の如き能力を持った人間が、それを良からぬ方向へ使ったとすれば、それは。
畏敬と恐怖をもって呼ばれるべきなのだ。
かつて第六天の王と称された男がこの国で名乗った様に。
「吾輩は魔を統べるもの――混ざり者風情が我に楯突く等と言うその傲慢、吾輩自らの手で断ち切ってくれよう!」
そう。
魔王、と。
- 6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/14(水) 19:32:51.82 ID:nm2l17/f0
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002
さて、いかにも思わせ振りな前振りを終わらせたところで時系列を本編へと戻してみようと思う。
僕と天海が出会った契機は、天海春香とのファーストコンタクトは、ある一点において、かのツンドラヒドイン日本代表・戦場ヶ原ひたぎのそれに追随するものであった。
ひたぎは己の保身のために僕を脅迫し、拘束し、危害を加えた。
その事についてはもう終わったことであり、当時の彼女を思えば同情こそしても今更怒る気にもならない。
最も、微塵も同情などして欲しくはないと、本人の口から直接聞いているけれど。
天海とひたぎに共通するある一点とは、僕が被害を被った、という点に集約される。
厳密に言えば確固とした意志を以て危害を加えたのかそうでないかの違いはあるが、被らされたこちら側からしたら事実としてどっちでも一緒だ。
結論から言えば、天海春香もまた、ひたぎが蟹に行き遭ったように、怪異と関わることになったのだ。
彼女、天海春香は、魔王の寵愛を受けた。
- 7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/14(水) 19:34:03.80 ID:nm2l17/f0
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事が起こったのは三月上旬のこと。
卒論も無事提出し受理されたことで大学の卒業が決まり、講義もほぼ消化試合と化した時期に、僕はまだ内定がなかった。
誤解のないよう一応言い訳だけはしておくと、決して就職活動をサボっていた訳ではない。
就職氷河期の風潮と、男に好かれない傾向のある僕の性質が重なって、内定が取れないのであった。
……ちょっと自分で言ってて悲しくなってきた。
勿論僕なりに危機感は感じていたし、就職浪人なんて羽川や戦場ヶ原に顔向け出来ないので、求人雑誌を片手に一息つこうとミスタードーナツに来ていたのである。
「吸血鬼も就職に困る時代……か、世知辛いな」
自虐的な皮肉を交え社会風刺を挿入してみたが、虚しいだけだった。
もちろんと言うべきか、隣には忍が座っている。
僕の苦難などいざ知らず、幸福満面の笑顔でドーナツを貪り食っている。
糖尿病になってしまえ。
「おい忍、聞いてるのか?」
「何じゃうるさいのう、儂がドーナツを食べておる時くらい静かにせんか」
「ドーナツと僕の就職事情、どっちが大事なんだよ」
「言うまでもないわ」
「だろうな……」
ああ、わかってましたよ。
わかっていましたとも。
少しでも僕を心配してくれていると思った僕が愚かでしたよ。
忍なら明日自分に隕石が落下するとわかっていようとドーナツを優先するだろう。
こいつはそういう奴だ。
- 8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/14(水) 19:35:03.14 ID:nm2l17/f0
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「でもな忍、よく考えてみろよ。今でこそ大学生という遊んでてもご飯が食べられる身分に傾倒しているけれど、僕は卒業したら自分の食い扶持は自分で稼がなくちゃいけなくなるんだ」
「働かざるもの食うべからず。至極当然な自然の掟じゃの。それで?」
「就職できなかったらドーナツさえ買えない、なんて状況に陥ることだって十二分にあるんだぞ?」
「さっさと就職とやらをせんか! このヒキニート野郎めが!」
「僕は引きこもりでもニートでもねえよ!」
ドーナツが絡んだ途端に手のひら返しやがって。
「人間社会も色々大変なんだよ……就職難ってやつだ」
「ふむ、ドーナツ供給の危機となると早急に対策を立てねばのう」
忍が顎に手を添えて頭を傾げるその様は非常に可愛かったが、元より忍の策なんてろくでもないに決まっている。
何せ躍起になっている僕でさえどうにもならないのだから。
「おおそうじゃ、名案が浮かんだぞ」
「おっ、なんだなんだ?」
猫ならぬ吸血鬼もどきの手も借りたい僕は、一応期待している振りをして身を乗り出す。
まあ役には立たないだろうけど、聞いてあげるのが大人というものだよな。
「あのツンデレ娘に養ってもらえばよいではないか」
「ヒモじゃねえか!」
本当に役に立たなかった。
それどころかマイナスだ。
ちなみにひたぎは夏にはさっさと内定を取ってきたのだった。
その時に毒舌100%で散々罵られたのはそれこそ言うまでもない。
- 9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/14(水) 19:36:14.07 ID:nm2l17/f0
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ちょっと待て。
ヒモ?
ひたぎに?
……。
…………。
………………。
『ただいま』
『お帰り、ひたぎ』
『……』
『早くご飯作ってくれよ。もうお腹と背中がくっつきそうだ』
『暦……そろそろ働いてはどう?』
『な、なんだよいきなり……』
『いえ……その、このままでは生活も苦しいままだし……私、暦には全うな道を歩んで欲しいのよ』
『僕に全うな道を歩けって……? この人間もどきの僕に人並みの人生を送れって言うのか!?』
『そ、そこまでは言ってないわ……でも』
『いいんだよ。僕にはひたぎがいる。僕はひたぎを愛しているし、ひたぎも僕を愛しているんだろう?』
『それは……そうだけれども』
『愛してるぜ、蕩れ蕩れだひたぎ』
『……食事にしましょう』
『あ、そうだひたぎ。話は変わるけどお小遣いをくれないか?』
『……昨日あげたばかりじゃない』
『明日パチンコ屋がリニューアルオープンなんだ、稼いでくるからお小遣いをくれよ』
『……もう一度聞くわね暦。働く気は、ないのね?』
『しつこいな、いつかビッグな仕事を成功させてみせるよ』
『そう……仕方、ないのね』
『……?』
『暦』
『ど、どうしたひたぎ……包丁なんて持って』
『あなたを殺して、私は保険金をもらうわ』
『僕に生命保険かかってたの!? しかも一緒に死んでくれないんだ!』
……。
うん、無理だ。
- 10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/14(水) 19:37:29.06 ID:nm2l17/f0
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それにこれじゃヒモと言うよりただの人間失格じゃないか。
そもそもひたぎがそんな状況に一瞬たりとも甘んじる訳がない。
早い段階で僕を強制的に更正しにかかるだろう。
ヒモとは一般的に女性に寄生する社会不適合者の男性を指すと聞く。
ならば他の女性ならどうだろうか。
数少ない友人とのヒモ生活を思い浮かべてみる。
友人でそんな想像をすること自体人間失格な気もするが、そこは想像だから許してもらうとしよう。
羽川は……有無も言わさず更正させられるだろう。
『ダメなんだよ阿良々木くん、そもそも人間の根底には相互補助の意識が根付いているからこそ社会というものが成り立っているんだよ?』
等と、如何に働かずに怠惰な生活を送ることが正しくないかを、比喩と故事と仮定と正論を適切に駆使し、表現に抒情を添える倒置を効果的に使用しながら、一晩中説教された上で真人間に矯正されるのが目に見えるようだ。
神原はあの性格上きっと養ってくれるだろう。
だが、あまつさえ、
『阿良々木先輩が気に病む必要はない。これは私が好きでやっていることなのだからな』
等とナチュラルに言いそうで、逆に怖い。そう言う意味では神原が一番怖いな……。
八九寺と千石は除外だ。
小学生や妹の同級生に養ってもらう男など死んだ方がいい。
- 11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/14(水) 19:39:13.17 ID:nm2l17/f0
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「しかし……本当にどうしたものかな」
「お前様よ、ドーナツの追加を所望するが?」
「却下だ――――ん?」
「きゃああああぁぁぁ!」
気付いた瞬間には、もう手遅れだった。
女の子の悲鳴に対し脊髄反射で身体が反応し振り向くと、絨毯爆撃よろしく視界いっぱいのドーナツと黒い液体が広がっていた。
すべてがスローモーションのように感じる。
人は死の危険が迫ると時間の体感をゆっくりと感じるそうだ。
かつて常時生死の狭間を渡って来た剣の達人などは、斬り合いの際にこのような境地に達していたと聞く。
今の僕が正にそれだ。
数種類のドーナツ、それら全ての商品名も認識できる。
そして、例えコメント一覧
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- 2014年05月14日 21:57
- 未来は無限に続いている…何か良いことあったら良いな
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- 2014年05月14日 21:59
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流石はるるんやでぇ...
完結おめでとうございます!
しかし寂しくなりますなぁ
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- 2014年05月14日 22:01
- いやぁええもん読ましてもろた
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- 2014年05月14日 22:18
- ここ一ヶ月くらい、楽しませてもらいました。阿良々木くん人気者すぎワロタ。
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- 2014年05月14日 22:31
- うーんここまでがおもしろかっただけに…
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- 2014年05月14日 22:36
- 結論出さないのが良いね
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- 2014年05月14日 22:46
- アニメとか本とかでたまにあるこの喪失感…
また何か書いてほしいなぁ
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- 2014年05月14日 22:47
- 魔王じゃなくて元地獄副大魔王だったら俺得だった
つーかスレタイと魔王の一人称からして元ネタあのお方だろ
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- 2014年05月14日 22:52
- これら一連のシリーズは何物語と呼んだらいいのだろう?
ともかく乙!
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- 2014年05月14日 22:52
- 完結おめでとうございます‼︎
文章に違和感なくサクサクと楽しく読めました。次回作、期待してます!
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- 2014年05月14日 23:06
- 引っ張りだこのハーレムエンドにアイドルってのも兼ねて夢物語って感じかね
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- 2014年05月14日 23:07
- >9
「偶物語」かな。完結おめでとうございます。
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- 2014年05月14日 23:41
- 完結おめでとう!&ありがとう!!
まさか全員分書くとは思わなかったよ、本当に楽しい数週間でした。
まとめさんもお疲れ様でした。
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- 2014年05月14日 23:43
- 魔王何やってんだw
最後はさらっと終わらせてきたな~
もう少し濃い内容でも良かったかも…でも面白かった
暦はどうしたか書かれてないけど小鳥さんの番外編と辻褄合わせて考えるとプロデューサーに戻ったっぽいね
あくまで番外編だから断言はできないけど
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