阿良々木暦「ちひろスパロウ」
- 1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/21(水) 21:55:14.02 ID:Le++7Cc10
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・化物語×アイドルマスターシンデレラガールズのクロスです
・化物語の設定は終物語(下)まで
・ネタバレ含まれます。気になる方はご注意を
・終物語(下)より約五年後、という設定です
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阿良々木暦「はるかデモン」 - 6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/21(水) 22:00:14.18 ID:Le++7Cc10
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001
人の欲は無限だ。
キリストが示した人間の七つの大罪にも含まれるように、欲望というものは果てがない。
例えば百万円稼いだとする。
その時は嬉しいだろうが、次は二百万でなければ満足できないのが人というものだ。
僕はそこまで自分が強欲だとは思わないが、それでもこの資本主義経済システムにおいて日本銀行券はいくらあったところで困らないし、ひたぎという恋人がいながら何人もの美人に囲まれて迫られたら完全に拒絶できる自信はない。
それは僕の未熟ゆえ、という部分もあるのだが、言いたいことは欲というものはそれ程に魅力的であり、人の行動原理であり、甘露であるという事実だ。
アイドルのファンになるのだって、欲だ。
ファンになっておいて仲良くなりたくない、結婚したくない、なんて考える人間はまずいまい。
トップアイドルを目指すのだって、僕がアイドルを育てたいと思うのだって、最終的に行き着く場所は欲望、だ。
だから、それ自体を否定はしない。
出来るわけもない。
欲を失った人間など、歩く死人に変わりがないのだから。
話の舵を九十度ほど転換しよう。
僕の所属するアイドル事務所、シンデレラプロダクションにはとてつもない数のアイドルが所属している。
それでいて質より量、ということもなく各々が違った魅力を持っているから凄絶の一言に尽きる。
そんな状況下で事務仕事と僕のサポートをその一身に受ける人がいた。
千川ちひろ、年齢不詳。
まだ若い身空でありながらパワフルな行動力と的確なアドバイスでアイドル達と僕のようなプロデューサーを導いてくれる存在でもある。
正直、彼女がいなかったらシンデレラプロダクションは回転しないんじゃないかと疑ってしまうほどだ。
だが人間というものは上手くバランスが取れている。
そんな、悪魔将軍よりも完璧に形容出来そうな彼女にも、確かに瑕と呼ぶべき悪癖があるのだ。
それは彼女の名誉を傷付けてしまう恐れがあるため、とてもではないが僕自身の口からは言えないが――。
ともかく、彼女はその悪癖が故に怪異と行き逢う結果となってしまったのである。
彼女は、雀に庇われた。
- 8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/21(水) 22:01:42.86 ID:Le++7Cc10
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002
「おはようございまーす」
今日は昼からの出勤だ。
担当アイドルの数も多いこの事務所では僕のようなプロデューサーが何人かに分かれて担当している……らしい。
らしい、というのはそれらしき人物を一切見たことがないからである。
ひょっとしてプロデューサー業を担っているのは僕一人なんじゃないかと疑ったこともあるが、シンデレラプロ所属人数を考えると物理的に不可能だ。
しかし同じ会社の社員を一切見ない、なんてことが果たしてあり得るのだろうか……謎だ。
当面の疑問は胸の内に秘めておくとして、とりあえずは仕事だ。
事務所には既に何人かアイドルが来ている。
千川さんもPCの前に座って事務仕事をしていた。
「おはよう、プロデューサーのお兄ちゃん」
「おう、おは……よ……う」
反射的に挨拶を返してしまったが、そこにいた小さな生き物は果たしてシンデレラプロに所属していない童女だった。
シンデレラプロにはそれこそ八九寺よりも小さな女の子だっている。
最初は戸惑ったが、慣れとは恐ろしいものだ。
「どうしたの、プロデューサーのお兄ちゃん」
「おはようございます、プロデューサーさん……あら、どうしたんですか?」
「……なんで斧乃木ちゃんがここに」
歩く死体、斧乃木余接ちゃんは無表情を崩さずに応える。
「僕は可愛いから、この可愛いさを世に広めないのは罪だと思ってね。アイドルをやることにしたんだ」
「いや、そんな輿水みたいな台詞を無表情で言われても」
- 9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/21(水) 22:02:50.50 ID:Le++7Cc10
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「プロデューサーさん、余接ちゃんと知り合いだったんですか?」
「まあ、古い知り合いで」
「なあんだ、新しいアイドルの子かと思っちゃいました」
シンデレラプロにおいては、片っ端からアイドルをスカウト出来る権利がプロデューサーにもある。
その為、所属していなくても可愛い女の子が事務所にいたらアイドルと間違えられるのは致し方ないところなのだけれど……。
と言うか子供とは言え素性の知れない外部の人間を事務所に入れないでくださいよ。
それにこんな小さな童女と古い知り合い、というのも違和感があるような……まあ、いいか。
うちにはもっと年齢不詳なウサミン星人もいるし。
「斧乃木余接だよ。いぇい☆」
「相変わらずの無愛想に僕は逆に安心感を覚えるよ」
「プロデュースよろしくね、鬼のお兄ちゃん」
「その眉毛を剃って来たら考えてやろう」
「僕に眉なしになれって? 酷いこと言うね鬼のお兄ちゃんは」
眉なしになれとは言わないが……いや、アリだな。
想像してみたがそこはかとなく似合う。
眉なしアイドル。
向井や神谷あたりなら……いや、ないな。
つい口を突いて出た言葉だけど、斧乃木ちゃんって眉毛太いよね。
似合うからいいんだけど。
しかし本気で何しに来たんだ?
まさか本当にアイドルになりに来た訳ではあるまい。
と、僕が斧乃木ちゃんの目的について逡巡していると千川さんが身を乗り出してきた。
- 10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/21(水) 22:04:01.00 ID:Le++7Cc10
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「それよりもプロデューサーさん、いいところに! 実は今ですね、超得キャンペーンを開始したところなんですよ!」
千川さんは事務仕事の傍ら、僕のようなプロデューサーのサポートも行っている。
彼女は立場上事務仕事もするが、実際はプロデューサーのアシスタントに近い。
まぁ、サポートとは名ばかりでスタドリとかいう正体不明の栄養ドリンクやガチャチケットとかいう謎の有料アイドル強化システムを勧めてくるので、本当はこっちが本職なのかも知れない。
余談だが一度、目が回る程忙しかった時にスタドリを飲みながら仕事をした所、三日三晩不眠不休で働くことが出来た。
しかも身体に何の影響も掛けずに、次の日から普通に生活できるレベルで、だ。
逆にあのドリンクの成分が何なのか怖くて聞けなくなってしまった。
「いや、僕今お金ないんで……」
まあ、嘘でもない。
金がなくて困る程でもなければ余る程あるわけでもない。実に僕らしい。
「そんなプロデューサーさんに朗報! 朗報です! なんと一日コーヒー一杯分の値段でスタドリ&エナドリ計300本とSレア5%チケット30枚ですよ!」
「300本……一本100モバコインくらいとして30000モバコイン、コーヒーが500モバコインとして一ヶ月15000……ガチャチケットを加味したとしても、お得と言うからには三ヶ月分くらいですか?」
「二十年です」
「外車が買えちゃうよ!? 超得どころか誰得だよ!」
「失礼な! ちひ得ですよ!」
「なんで僕が怒られてるの!?」
- 11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/21(水) 22:05:00.37 ID:Le++7Cc10
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しかもちひ得って!
とまあ、こんな感じで事あるたびに色々な商品を勧めて来るのである。
ごく稀に善意でスタドリをくれたりするので守銭奴や悪人ではない……と信じたい。
仮にも同僚だし。
「はあ……とにかくいいです、しばらくはスタドリもエナドリもチケットもいりませんから」
「そんなこと言わずに貢いで下さいよ。わた、アイドルたちのために」
「今私に、って言おうとした!?」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ……」
「噛みまみた」
「わざとじゃないっ!?」
「神は私だ」
「色々ひどすぎるよ! それ八九寺のキャラだし!」
ナビキャラだから確固としたキャラがないなんて言い訳じゃ通じないレベルだよ!
「まあまあプロデューサーさん……あら?」
と、いつものやり取り(これが恒常化しているのも問題だけれど)をしていると事務所のインターホンが鳴った。
来客のようだ。
千川さんが席を立つ。
「お客さんみたいですね。出てきます」
- 12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/21(水) 22:05:41.06 ID:Le++7Cc10
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「あのお金のお姉ちゃん、すごいね。守銭奴だね」
「お金のお姉ちゃんって」
擁護してあげたいところだが否定出来ない辺りが千川さんの鬼だの悪魔だの言われている所以である。
勿体無いなぁ、あの人、普通にアイドルやっててもおかしくないくらい美人なのに。
「確かにあの人のお金への執着は貝木と同等かそれ以上だと思ってる 」
貝木と比較するのも失礼だが、事実である以上はいかんし難い。
斧乃木ちゃんにおける千川さんのイメージを下げても仕方ないので、それとなく話題を軌道修正した。
「……で、本当は何しに来たの、斧乃木ちゃん」
「お金のお姉ちゃんに、怪異が取り憑いてるから」
「え?」
突然伝えられた斧乃木ちゃんの言葉に反応する間も無く、玄関口から来訪者との会話が聞こえてきたのだった。
- 14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/21(水) 22:07:15.37 ID:Le++7Cc10
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003
『初めまして、私、こういう者です』
『セールスの方ですか』
来ていたのは、セールスマンらしい。
アイドルプロダクションにおいてセールスマン自体は珍しくない。
営業と同じで中小企業がアイドルとのタイアップを狙って商品を売り込みに来ることは良くあることだ。
だが相手が悪い。
千川さんはその手の輩に一度として敗北を喫したことのない恐るべき経歴を持つ。
ものを売り込みに来たセールスマンを口八丁手八丁で丸め込み、非合法ぎりぎりの話術で翻弄し、挙げ句の果てに脅迫と見紛うような手口で商品だけを無料で掠め取る天才だ。
千川さんの手により泣いて帰ったサラリーマンの屍は数知れないと言えば凄さが伝わるだろうか。
彼等が減給や解雇処分になっていないことを祈るのみである。
同情こそすれど、僕に出来るのはこんなところに来てしまったセールスマンの方に合掌するだけだ。南無。
『折角ですけど、うちはそういうのは……』
『まあまあ、私は普通のセールスマンとは違いまして……不思議な商品をお売りしているのです』
僕は今回もまた犠牲者が……と顔も見えないセールスマンに同情の念を送っていた、のだが。
「なあ――斧乃木ちゃん」
「なあに、鬼のお兄ちゃん」
視線を交わさずに、斧乃木ちゃんに問う。
そこには、僕の聞き違いであって欲しいという願いが込められていたのかも知れない。
「なんか、扉の向こうに良く知ってる奴がいる気がするんだけど」
「奇遇だね、僕もそう思っていたよ、鬼のお兄ちゃん」
だが、その願いは儚くも散ってしまったようだった。
特大の溜息と共に玄関口へと向かう。
- 16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/21(水) 22:08:38.65 ID:Le++7Cc10
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『不コメント一覧
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- 2014年05月21日 23:18
- 神は神でも邪s
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- 2014年05月21日 23:19
- 乙でした
シリーズじゃなくて単発でもいいから、たまに書いてくれると楽しいな
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- 2014年05月21日 23:23
- 他の事務所編も洒落にならなくなってきたか?
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- 2014年05月21日 23:28
- 今までのとは世界線が異なるのかな?続くならまた楽しみが増えるなぁ
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- 2014年05月21日 23:36
- あと200人書くんですかねぇ…もうすぐ新エリア解放で3人増えるってのに
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- 2014年05月21日 23:40
- 鬼!悪魔!!…
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- 2014年05月21日 23:49
- ※6
仮に週一で一本書けても約4年か、
何その無理ゲーw
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- 2014年05月21日 23:49
- モバマス編初っ端からちひろさんかよww
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- 2014年05月22日 00:01
- 綺麗な貝木とかただのナイスミドルじゃねぇか……
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個人的にはモバマス知らないからアニマスで続けてほしかった