阿良々木暦「ふみかワーム」
- 1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/05/29(木) 19:24:39.79 ID:jPxrNCQ30
- ・化物語×アイドルマスターシンデレラガールズのクロスです
・化物語の設定は終物語(下)まで
・ネタバレ含まれます。気になる方はご注意を
・終物語(下)より約五年後、という設定です
関連作品
阿良々木暦「ちひろスパロウ」
阿良々木暦「ののウィーズル」
阿良々木暦「あんずアント」 - 6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/29(木) 19:28:01.45 ID:jPxrNCQ30
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001
贔屓でも世辞でも誇張でもなく、綺麗だ、と素直に思った。
待ち合わせ場所はとあるカフェだったのだが、店外から見える彼女の姿は、まるでそこだけが切り取られて一枚の絵として作品になっている、とさえ思えた。
店内の隅の席、コーヒーカップひとつを机に乗せ、ブックカバーを着けた恐らくは小説を読む少女がいる。
今日この日に出来たその静謐な空間は、彼女のために存在すると言っても過言ではない気さえして来た。
透き通る午前の空気の中、時間さえも静止してしまったかのような錯覚を覚える。
思わず、見蕩れてしまった。
静の美。そんな単語が頭に浮かぶ。
いつまでも見蕩れている訳にも行かず、未練を残しつつも入店すると、目線を寄越した鷺沢が本を閉じて微笑みと共に迎えてくれた。
「おはようございます、プロデューサーさん」
「おはよう鷺沢」
鷺沢文香はアイドルだ。
だが、彼女は一見してそうには見えない。
かつての千石のように人の目線が気になるのか眼が隠れるほどに伸ばされた前髪に、穏和と慈愛に満ちた特徴的な垂れ目、とどめの一撃と言わんばかりに大人しく引っ込み思案なその性格は、とてもじゃないがアイドルなんて活発的なイメージとは結び付かないのだ。
実際にも彼女のアイドルとしての売り方は癒されるアイドルだが、図書館で司書をしている、とでも言われた方が余程しっくり来るのが事実だ。
それも彼女は元々文学が大好きで、叔父の古書店でアルバイトを兼ね本と触れ合うことを好むような学生だったのだからそれも当然とも言えよう。
- 7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/29(木) 19:30:01.30 ID:jPxrNCQ30
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「あ、カフェオレを一つ」
「かしこまりました」
鷺沢の対面に座り、注文を取りに来た店員に告げる。
ふと鷺沢がブラックコーヒーを注文しているのを見て少々後悔した。
小学生ではないのだが、やはりブラックコーヒーといえば大人というイメージがある。
年下の、しかも女性の鷺沢を差し置いて年上の僕がカフェオレ(しかも砂糖を入れる予定だ)を頼んだことにこだわっている僕は狭量なのだろうか。
「プロデューサーさん……? どうかしましたか?」
「いや、何でもない。打ち合わせをしようか」
せめてもの抵抗として届いたカフェオレに何も入れず、鷺沢と打ち合わせを始める。
僕が資料を片手に説明する間、鷺沢は身動ぎひとつせずに真剣に聞いてくれているようだった。
「……というのが今後の方針だけど、何か質問はあるか?」
「あ、いえ……ありません」
鷺沢は目を伏せてどこか居心地が悪そうだった。
というか、僕は未だ鷺沢と打ち解けられていない感がある。
諸星や日野、城々崎姉妹のようにあちらからグイグイ押してくる子ならば妹や神原という前例から慣れているし楽なのだが、鷺沢や森久保といった引っ込み思案な女の子の扱いは少々苦手なのだ。
何せ会話が続かない。
あちら側から話題を振ってくることがほぼない為、今日この瞬間のように本題を話し終わってしまうと何処か気まずい雰囲気になってしまうのだ。
だがそれではいけない。
人間は成長する生き物だし、僕にとってはプロデューサーとしての仕事でもある。
担当アイドルのモチベーション管理。
言葉だけなら難しい資格や知識も要らないし容易に聞こえそうなものだが、明確な形がないだけにバリエーションに富み過ぎていて難しい。
そうだな、ここは親睦を深める為にも鷺沢が好きな本の話題でも出してみようか。
- 8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/29(木) 19:31:06.59 ID:jPxrNCQ30
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「鷺沢はいつもどんな本を読んでいるんだ?」
「え?」
突然の脈絡のない質問に首を傾げる鷺沢。
さすがアイドルと言うべきか、動作のひとつひとつが可憐だ。
「いや、いつも何かしら読んでいるじゃないか」
鷺沢の担当になってから数ヶ月程だが、鷺沢は一人で静かに本を読んでいることが非常に多い。
「プロデューサーさんも、本がお好きなんですか……?」
「ああ、割と読む方だよ。漫画でも活字でも。でもどちらかと言えば活字の方が好きかな」
これは羽川やひたぎの影響も強いが、漫画とは違い活字は想像力を掻き立てられる分、僕は好きである。
決して漫画を卑下する訳ではない。
視覚という効果を使うことにより幅広い表現を可能にする漫画は日本の誇るべき文化だと思う。
だが活字は書いた作家の思惑に加え、解釈により何通りもの物語が産まれる。
例えば文章を読みながら頭に浮かぶ光景は十人十色だろう。
自分の想像力も試されると思うと面白いのだ。
「本当ですか!? あの、どんな本がお好きなんですか!?」
「え、あ?」
いきなり目を輝かせて迫る鷺沢に思わず後退りしてしまった。
「あ……す、すいません……っ!」
驚く僕を見て正気に戻ったのか、姿勢を直し恥ずかしそうに首を垂れる鷺沢。
耳まで真っ赤だ。
「いや、いいよ。逆に鷺沢の意外な一面が見れて嬉しい」
「お、お恥ずかしいところを……」
- 9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/29(木) 19:32:17.55 ID:jPxrNCQ30
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「そうだな、僕はこれといった好き嫌いはないよ。純文学からライトノベル、ビジネス書でも雑学本でも得られるものは何かしらあるからな」
僕は言ってしまえば濫読家だ。節操なしとも表現できる。
ジャンルを問わずに知らない知識、知らない世界、知らない物語であれば何でも面白いと思えるのが僕の強みだ。
無論というか、鷺沢にはとても言えないような本だって家にある。
「活字に限定するのなら……そうだな、推理小説やミステリーが好きかな」
これは完全にひたぎの影響だ。
何かお勧めを、と聞いてドグラ・マグラを真っ先に勧められた僕の心境を察して欲しい。
いや、好きなんだけど本を読まない人に対してジャブとして勧める本ではないと思う。
ちなみに羽川に聞くと的確すぎる助言をいただけるので今でも時々聞いたりする。
「あまり、活字を読む友人や知り合いがいなくて……嬉しくて、つい」
それはわかる。事務所においても漫画を除いて本を読んでいるのをよく見るのは、浅野と森久保くらいのものだ。
荒木や大西も何か読んでいることが多いが、あれは漫画やどこで売っているのかもわからない背表紙が派手な薄い本ばかりだし。
「最近は活字離れが、と良く言われていますけれど……本を読むかどうかなんて、個人の自由ですから」
「そうだよな、メディアが増える以上は比率が変わるのは当たり前だからな」
「それでもやっぱり、私は本が好きですけれど」
現在ではインターネットの普及により、携帯電話からでも容易に作品の閲覧が可能になった。
それにより出版業界の衰退が起こるのは致し方ない事だとは思うのだが、僕もどちらかと言えば鷺沢と同じで紙媒体の方が好ましいと思う。
データによる媒体の方が劣化もせず保存も容易なのは百も承知なのだが、やはり現物としてそこに在る方が愛着も湧くし感情移入も出来ると思うのは僕だけではない筈だ。
- 10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/29(木) 19:33:07.49 ID:jPxrNCQ30
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「また今度、鷺沢のお勧めを聞きたいな」
「それでしたら……宜しければ、これを」
そう言い、鷺沢は嬉しそうに鞄から一冊の本を取り出す。
かなり古い本だ。
カバーもかなり劣化しており、値段を見ると現在の相場の三分の一ほどだ。
まだインターネットどころか携帯電話すらない時代のものだろう。
「いいのか? 結構古い本みたいだけれど」
「はい、読んで貰えると嬉しいです」
趣味の共有は楽しいものだ。
自分の好きな作品を睦い人に読んでもらい、感想を聞いたり世界観を共有する楽しみはどんなものでも共通だ。
表紙やタイトルからはどんな物語かもわからないが、鷺沢からの一冊だ。
是非とも大切に読ませてもらおう。
「ありがとう、大事に読ませてもらうよ」
鷺沢からの本をなるべく丁重に鞄に入れる。
早速今日、ブックカバーを買ってこよう。
「そう言えば、鷺沢はどんな本が好きなんだ?」
「あ……私も比較的何でも読みますが……やっぱり恋愛小説やファンタジーなどが……」
その後、ジャンルとしての好みや時代と共に移行する作品傾向の変化について静かにも熱く、それでいて饒舌に語る鷺沢の新たな一面を垣間見るのであった。
- 11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/29(木) 19:48:08.48 ID:jPxrNCQ30
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002
僕は休憩時間である正午付近、事務所において先日鷺沢に勧められた本を読み耽っていた。
その本は、大正時代の階層社会を風刺した望まれない恋愛を描く物語。
果たして聞いたこともないタイトルと作者の古書は、不思議な魔力とも言える魅力があった。
その時代でしか語れない物語は確かにある。
例えば今からこの本と全く同じ題材で同じ物語を書こうとしても、全く別の物語になるであろうことは容易に想像できる。
何も昔の作品だから、という訳ではない。
それこそ今出版されている作品だって、同じ作者が十年後に書けばそこに微々たるとは言え必ず変化はある筈だ。
太宰が五十年遅く生まれたとしたら、『斜陽』を書き上げる可能性が限りなく下がるのと同じだ。
各時代における価値観、環境、風潮、あらゆる要素が混じり合って出来るのが作家の産み出す小説という作品だと考えると、中々に感慨深いものがある。
そんな事を思わせる作品だった。
勿論、鷺沢が勧めてくれただけあって内容も十二分に面白い。
と、僕らしくもなく小難しいことを思考していると、眼鏡を掛けたジャージの女の子が出勤して来た。
アイドル荒木比奈である。
「あ、プロデューサー。おはようございまーす」
「おう、おはよう荒木」
「プロデューサーが読書とは珍しいっスね、何読んでるんスか?」
「何だと思う?」
質問を質問で返すのは愚劣極まりないかも知れないが、荒木は気分を害した様子もなく首を捻って考え込んでいた。
しばらくして閃いたのか、手をぽんと打ち人懐っこい笑顔を浮かべる荒木。
- 12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/05/29(木) 19:49:35.45 ID:jPxrNCQ30
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「わかったっス! エッチな小説っスね?」
「なんでじっくり考え込んだ結果がそれなんだ!」
僕を何だと思ってるんだこいつは。
あまりにも失礼じゃないか。
「あのな、僕が職場で昼間から官能小説を読むような非常識な男に見えるのか?」
「んー、そうっスね。非常識ってとこは合ってると思いますけど」
このやろう。
語尾から『っス』を奪ってアイデンティティを無くしてくれようか。
「……ともかく僕はそんな本は読んでいない」
「えー? じゃあBL小説っスか?」
「そっちの方面から離れろ!」
神原じゃあるまいし、男の僕がそんなもの読んでどうするんだよ。
いや、ジャンルとして否定する気は全くないし、読む人はそりゃあ探せばいるんだろうけれどさ。
神原に意固地なほど勧められても断固として断り続けたコメント一覧
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- 2014年05月29日 22:35
- 以下俺の股間のワーム禁止
今回やっと気が付いたけど忍と忍で名前が被ってしまうな
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- 2014年05月29日 22:39
- 続き気になる
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- 2014年05月29日 22:56
- 幼女の口に!?
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- 2014年05月29日 23:00
- とても大きな!?
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- 2014年05月29日 23:01
- 文香が怪異を解決したのが良かった
無理だとは思うが、文香の恋心に期待したのは俺だけじゃ無いよね?
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- 2014年05月29日 23:04
- カブトだと思ったのに
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- 2014年05月29日 23:16
- 待ってた
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- 2014年05月29日 23:37
- 耳年増ふみふみかわいい
メンツ的に大西さんでるかと思ったら名前だけだったな
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モバマス編は、暦と忍以外は物語シリーズのキャラクターを出さない方向なのか。
それはそれで面白いけど。