3: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/06/07(土) 00:59:05 ID:WXANseu2

「この世の中に存在する全ての物に感謝して生きなさい」

これは私を育ててくれた人の口癖だった。
その人は別に聖職者なわけではなかった。

その人はいつもそんなことを言う癖に虫が嫌いで

「虫ってなんでこの世の中にいるのかな?」

って言っていた。
他の人からするとそういうところが憎めないそうだ。
でも私には理解できなかった。





 
4: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/06/07(土) 01:05:15 ID:WXANseu2

いつも笑顔で明るい元気な人だった。
だから周りには自然といろいろな人が集まった。

その人と純粋に友達になりたい人
相談に乗ってほしい人や、つき合って欲しい人,etc.
中には騙そうと近づいてくる人もいた。

私はその人と違っていろいろな人から嫌われていた




5: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/06/07(土) 01:10:57 ID:WXANseu2

「あの子は本当にあの人の子どもなの?」

「あなたはどうしてあの人に似なかったのかな?」

と言われる事もあった。
その人に似てない理由はわかっている。
私はその人の本当の子どもでは無いから。

じゃあなぜ私が嫌われているのか
その答えは知らない

私を育ててくれた人は

「嫌われるのは、アナタにも何か原因があるはずよ」

と言っていたが私には、嫌われるようなことをした覚えは無かった。




6: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/06/07(土) 01:15:11 ID:WXANseu2

私はどうして嫌われているのだろうか?
私はどうして恨まれているのだろうか?

私は羨ましかった。
私と違ってみんなに好かれる貴女が

憎かった。
私と違って助けてくれる他人がいて。

私と対極に存在する貴女の存在が




7: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/06/07(土) 01:21:09 ID:WXANseu2

その存在を消してやろうかと思った時もあった。

こんな事を考える私は歪んでいると誰だって思う。
自分でも歪んでいると思う。

でも私はその人が本当にこの世から消えて欲しかった。

そんなことを思って日々を過ごすと
ある日私を育ててくれた人は動かなくなってしまった。
正直私は嬉しかった。




8: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/06/07(土) 01:29:04 ID:WXANseu2

もう私は貴女と比べられることはないと

その人が死んだのに泣かない私を見てみんなは

「何で自分を育ててくれた母親が亡くなったのに泣いてないの?」

とか言ってた。
私を育ててくれたあの人は本当の母親では無いから、悲しい訳が無いだろう
と思った。

それから長い年月が経った。
年々私はその人のことを忘れていった。




9: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/06/07(土) 01:31:42 ID:WXANseu2

そしてその人の事をほとんど忘れてしまった頃に
その人の机から一通の手紙を見つけた。
それは私に宛てた手紙だった。

そこにはこう書いてあった




10: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/06/07(土) 01:39:22 ID:WXANseu2

『最愛の娘へ
 お元気ですか? これを読んでいると言うことは、アナタが20歳になった頃だと思います。
 もう家から出て働いている頃でしょうか?
 アナタは私の事を嫌っていたようですが、今はどうですか?
 私は今も昔もアナタの事が大好きです。
 アナタと過ごしたこの20年間はとても楽しかったです。
 たまには家に帰ってきてもらえるととても嬉しいです。
 
 最後に……




11: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/06/07(土) 01:49:33 ID:WXANseu2

 お誕生日おめでとう。
 そして私はアナタの帰りをいつでも待っています。
 
 アナタの嫌いな他人より』

その人の手紙は嘘だらけだった。

なのに私はこの手紙を読むとなぜか涙が止まらなくなてしまった。
記憶の断片でしか存在しなかったはずなのに……
とても嫌いだったはずなのに……

家でなんて待って無いくせに……
20年も一緒に過ごして無いくせに……

貴女はなぜ逝ってしまったの?
まだありがとうも言ってないんだよ?
ごめんなさいだって言って無いんだよ?




12: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/06/07(土) 01:53:11 ID:WXANseu2

「お母さん……」

私は初めてその他人の事を『お母さん』と呼んだ……

「育ててくれてありがとうございました……」

「そしてごめんなさい……」

私は初めてその人に泣かされたのだった。

〜fin〜





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