藤原肇「夜空に輝く、六等星」
- 1 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:06:30.26 ID:XRzRiQgw0
- モバマスSSです。地の文あり。
- 2 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:07:47.22 ID:XRzRiQgw0
-
体重をかけて、ぐいと土を押し込みます。
そうして伸びた土を持ち直し、折り重ねるようにしてまた、押して引き伸ばして。
何度か繰り返して、力を込めながら少しずつ形を丸くしていきます。
「おお……慣れた手つきですね」
おじい……いえ。
祖父にずっと教えてもらっていましたから。
「陶芸はいつから始められたんですか?」
そうですね、と私は手を止めずに考えてみます。
けれども、どこまで記憶を遡っても答えは答えは見つかりませんでした。
「……ずっと小さな頃からですね。もしかしたら、物心ついた時からかもしれません」
少しだけ困ったように言うと、そうですか、とスタッフさんは笑い返してくれました。
- 3 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:09:01.14 ID:XRzRiQgw0
-
「どおりでお上手な訳で……」
カメラマンさんが、私の隣で土を捏ねる彼へとカメラを向けました。
「……どうして私まで、陶芸を……っ!」
「こうやって、伸ばしたら手前に返すんです。そのままだと土が均一になりませんからね」
私がお手本を見せると、彼も力を込めて土に体重をかけます。
「そう、そのまま……お上手ですよ、――さん」
少しずつ土が押し伸ばされて、左右へと伸びてゆきます。
「そうしたら今度は縦に持って、中心を奥に押しこむように……」
段々と手慣れてゆく、彼の手付き。
負けていられないなと感じて、いっそう力を込めました。
- 4 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:10:29.88 ID:XRzRiQgw0
-
「そろそろ頃合いですね。――さんはいかがでしょうか」
土を受け取って軽く捏ねてみます。
「……どうですか、肇先生」
「ええ、大丈夫そうです。よくできました」
冗談めかして笑うと、スタッフのみなさんも笑って。
「流石は肇ちゃんのプロデューサーさんですね」
「土を捏ねるなんて……幼稚園か、小学校の頃以来ですよ」
昔の私より、ずっとお上手ですよ。
「昔って……いつの昔なんだ」
「幼稚園の頃の私よりは、お上手です」
あんまり褒められてる気がしないな、と苦笑いをされてしまいました。
- 5 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:11:44.85 ID:XRzRiQgw0
-
――――――――――――――――――――
5月も半ば過ぎ、少しずつ気温が上がってゆくのを感じる頃。
彼から連絡を貰い、授業を終えて校門の前で迎えを待っていました。
先に帰路へつく友人達に手を振りながら、しばらくして。
見慣れた、そして乗り慣れた事務所の公用車が敷地の近くに止まりました。
「……すまないな。待たせたか」
私も今来たところですよ、とシートベルトを締めました。
何かあったんですか、と聞くと、彼は悩んだような素振りを見せて、
「そうだな……悪い話では、ない。……いい話だ」
一体どんなお話なのかな。
楽しみに待っていましたが、彼は事務所に着いたらな、としか教えてくれませんでした。
- 6 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:13:21.22 ID:XRzRiQgw0
-
「岡山での仕事が来ている……陶芸や自然体験のリポートだ」
驚きのあまりに、私は口をぱくぱくとさせていました。
それを見て彼もつられて驚いたけれど、さらに話を進めます。
ですが、彼の話はちっとも頭には入ってきませんでした。
「……肇、聞いてるか?」
「え……っと、はい。聞いてます」
咄嗟の嘘は彼には筒抜けだったようで、もう一度教えてくれました。
- 7 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:15:32.87 ID:XRzRiQgw0
-
「日程は6月の第二金曜日から日曜まで……13日から15日までだな。場所は岡山の……」
そこは、昔両親に連れて行ってもらったこともあるアウトドアレジャー施設でした。
大きなキャンプ場に釣りの出来る渓流に、ずっと大はしゃぎだったなぁ。
「ちなみに新しく出来た陶芸体験が……ロケのメインらしい」
リポーターとして私が適任だと思われたらしく、お話が来たのだとか。
「あまり向こうでゆっくりする時間はないかもしれないが……どうする?」
もちろん答えは、とびきりの笑顔で返します。
「私で良ければ……是非、やってみたいです!」
わかった、と告げる彼の顔にも、少し笑みがこぼれていたのがわかりました。
- 8 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:17:13.29 ID:XRzRiQgw0
-
そうして、当日。
午前中まで授業を受けてから、新幹線に乗って岡山へ。
夕方前には岡山に着くそうです。
「今日はスタッフへの挨拶だけだ……終わったら、どうする?」
おじいちゃんに会いに行きますか、と聞いてみます。
彼がぎょっとしたのを見て、すぐに冗談ですと笑いました。
「……肇。心臓に悪いぞ」
でも、おじいちゃんは貴方のことがきっと好きですよ。
「いや……有り難いんだがな。どうも緊張するんだ」
確かに、おじいちゃんは厳しい人ですからね。
そういう訳じゃないんだがな、と彼は曖昧に答えました。
- 9 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:18:43.64 ID:XRzRiQgw0
-
――――――――――――――――――――
少しずつ丸くなるように捏ねながら、次の工程へ。
「左手を上に添えて……そう、それから右手の親指を左手の親指にくっつけるように置いて……」
「……こうか」
横からずっと見ていたインストラクターのおじさんが、ほうと頷きます。
「流石は肇ちゃんだね。藤原さんそっくりだ」
「いえ、おじさんや祖父にはまだ及びませんよ」
おじさんはおじいちゃんの昔のお弟子さんで、私が小さい頃は家によく遊びに来ていました。
今は自分の工房を持ちながら、こうして施設のボランティアとして陶芸を教えているのだとか。
「――さん、こうやって回すように押しこむんです」
「……こうか」
ぎこちなく土を回す彼を見て、おじさんがスタッフさんに話しかけます。
「ははは、分かったでしょう。肇ちゃんの凄さが」
……カメラが止まったあとで、彼が納得行かないとぼやいていたのは内緒です。
- 10 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:20:09.69 ID:XRzRiQgw0
-
――――――――――――――――――――
おじさんのアドバイスもあって、彼もようやく次の工程へ。
「次はろくろを使います。まず中心に土を置いて……」
手を濡らして、ろくろを回しつつ両手を土に添えます。
手で挟むようにして土を持ち上げると、彼やスタッフさん達から感嘆の声が上がりました。
今度は片手で土を支えながら、下に押し込んで。
これを何度か繰り返して、なめらかな円錐形を作ります。
「では、――さんもどうぞ」
ろくろを回して土に触れた瞬間に、彼の土がぐにゃりと形を変えてしまいました。
「小指の付け根あたりで土に触れるようにするんです。こんな風に」
彼に席を譲ってもらって、土に手を入れます。
すっと形が整ってゆくのを見てか、おお、と唸る声が聞こえました。
- 12 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:23:24.33 ID:XRzRiQgw0
-
手慣れたもので大丈夫ですよ、とスタッフさんがゴーサインを出したので、二人で湯呑みを作ることにしました。
「まずはろくろを回しながら……頂点を指で少し平らにします」
そうして、指で軽く土を挟んで土の上部に原型を作ります。
円錐の頂点にゆっくり親指を入れ、少しずつ湯呑みの形へと作り替えて。
土を持ち上げるように上へとずらして徐々に厚みを削ると、少しずつ形が見えてきました。
今度は土に右手を突っ込んで、内側から外側から、形を整えて……
「んっ……ふふ、いい調子です」
久しぶりにいい感触だったなぁ、と一旦手を止めます。
集中しすぎて気付かなかった額の汗を拭うと、土が少しだけ頬に付いてしまいました。
それを拭おうとして、ふと気付きます。
「あ……えっと、――さん。調子は……いかがですか?」
久しぶりの陶芸につい、熱中しすぎてしまっていたことに。
- 13 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:26:04.23 ID:XRzRiQgw0
-
彼もスタッフさんもじっと私を見ていたらしく、皆さん手が止まっていました。
「……ああ、この通りだ」
先程からほとんど動いていない土を一目見て、また苦笑い。
「そ、その……ごめんなさい。つい夢中になってしまって」
大丈夫、いい画が撮れてますよ、とスタッフさん。
「えっと……じゃあ、――さん。まず手を濡らして形を作っていきましょう」
私にもできるんですから、と言うと。
「俺は肇とは違うんだがな……」
とは言いつつも、しっかりと土の形を整えていきます。
俺には先生が付いているからな、なんて。
彼は土をぐにゃりと潰すことなく、ゆっくりと湯呑みを作り上げました。
- 14 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:27:11.15 ID:XRzRiQgw0
-
軽く手直しを加えて、土の山から湯呑みを切り離します。
彼の湯呑み。少し不格好ですが味のある形だなぁ、と思いました。
なんて、本人には言えませんけれど。
「この後は一度乾燥させます。一時間ほどかかりますね」
スタッフさん達はそれを聞いて、何かを話し始めます。
「では一旦撮影は中断します。いい時間ですし、お昼休憩にしましょう」
お弁当を食べて外に出ると、6月の強い日差しが私達を照りつけます。
つい数日前まではずっと雨だったことなんて、信じられないほどの快晴でした。
「気持ちいいくらいに、晴れたな」
「――さんって、晴れ男ですか」
肇といると晴れるんだよ、なんて。
それって私が晴れ女ですよね、と笑うと、そうだなと彼は返します。
- 15 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:30:40.46 ID:XRzRiQgw0
-
まだまだ撮影までには時間があったので、二人でお散歩に出てみます。
昔来た時と変わらない、自然に囲まれた公園が見えてきました。
「昔はよく、ここで遊んだんですよ」
近くにあったベンチに腰掛けて、遊具で遊んでいる子供達を眺めてみます。
昔の私も、あんな感じだったのかな。
もう少し大人しかったかもしれません。
「……あのっ、もしかして藤原肇ちゃん、ですかっ?」
のんびりと陽にあたっていたところでした。
呼ばれて振り返ると、私と同じくらいにすらっと背が伸びた女の子。
きらきらとした目をこちらに向けています。
「ええ、そうですが……」
私が頷くと、彼女はわあ、と一層笑顔を見せてくれました。
- 16 : ◆.FkqD6/oh. 2014/06/15(日) 20:39:27.67 ID:XRzRiQgw0
-
「ほ、本当だったんだっ……えっと、今日肇ちゃんがここに来るって聞いて、会いに来ちゃいましたっ」
彼女は鞄を開けると、一冊のノートを見せてくれました。
新聞や雑誌の切り抜きで少し厚くなったノート。
試しに数枚めくってみると。
「えっ……もしコメント一覧
-
- 2014年06月15日 23:44
- タイトルで※欄確認余裕でした
-
- 2014年06月15日 23:45
- 確認したけどまだわからない
-
- 2014年06月15日 23:50
- 天に輝く五つ星!
イズルじゃないぞ。安心しろ
ちょっぴりヘタれかもしれんが
-
- 2014年06月15日 23:54
- 普通に良かった(KONAMI巻)
-
- 2014年06月15日 23:56
- 六等星はやめろ
椎茸先生を思い出すから
-
- 2014年06月15日 23:56
- もうモバマスはいいよ……
-
- 2014年06月15日 23:57
- 肇が出てまたイズルPかって思ったら違った
-
スポンサードリンク
ウイークリーランキング
最新記事
アンテナサイト
新着コメント
QRコード
スポンサードリンク