伊織「父の日」
- 1 :1 2014/06/15(日) 18:08:55.58 ID:JJ+uJ6bP0
- ・アイマスSSです。
・地の文あります。
・書き溜めてあるのですぐ終わります。
ではよろしくお願いします。 - 2 :1 2014/06/15(日) 18:09:17.66 ID:JJ+uJ6bP0
- 父の日、最近殆ど意識したことの無い言葉だ。
幼少の頃は、この日になると必ず父に何かプレゼントしていたらしいが、
思い出そうとしても、海馬の中には何も残っていない。
そんな父の日前日を迎えた765プロでのことだった。
- 3 :1 2014/06/15(日) 18:09:45.81 ID:JJ+uJ6bP0
- 春香「そういえば明日は父の日だよね、何かお父さんにプレゼントする物とか決まった?」
伊織「父の日……?」
やよい「はいっ! うちは兄弟みんなでお父さんの似顔絵を描いて、肩たたき券をあげるんです!」
春香「わぁ、絵を描いてくれるって嬉しいだろうなぁ」
やよい「えへへ。 ……でも、お金の掛からないものを選んじゃったんですよね……」
春香「そんな事無いよ、お父さんの為に何かしてあげるってだけで、すっごく喜ぶと思うよ?」
やよい「うぅ、そうでしょうか……」
春香「うん。 だってやよいはお父さんが大好きでしょ?」
伊織「………………」 - 4 :1 2014/06/15(日) 18:10:23.74 ID:JJ+uJ6bP0
- やよい「はい、いつも私たち家族の為に毎日ずーっとお仕事してくれて、そんけーしてます!」
春香「なら大丈夫、絵や肩たたき券だって、その大好きって気持ちがあれば最高のプレゼントだよ!」
やよい「春香さん……! ありがとうございますー!! うっうー!」
春香「えへへ、私は何にもしてないよ♪ ……ってあぁああぁぁあぁぁぁぁ……」
やよい「はわっ! どっ、どうしたんですか!?」
春香「父の日のプレゼント考えてるんだった……。 今のじゃ話終わっちゃうよ」
やよい「あっ、そうでした! 春香さんはまだ決めてないんですか?」
春香「うん、何も……。 伊織はどう? さっきから黙ってるけど……」
伊織「………………へっ?」
春香「父の日のプレゼント」
伊織「……わ、私は勿論セレブリティでビッグな贈り物をするわ! 決まってるでしょ」
春香「あー……、より高価な物をあげるっていう目標があったら見つけやすいだろうなぁ」 - 5 :1 2014/06/15(日) 18:10:56.29 ID:JJ+uJ6bP0
- やよい「春香さんはお菓子とか作ってあげないんですか?」
春香「え?」
伊織「そうよ、あんたの取り柄なんだからケーキでも作ってやんなさいよ」
春香「……そっかぁ。 そういえば、お菓子作ってる間にお父さん仕事行くから食べてもらったこと無いや……」
伊織「なら余計良いんじゃない? いつものドジで砂糖入れすぎたりしない限りね」
春香「そうそう、この前は砂糖とお塩を……。 って伊織ぃー!」
伊織「にひひっ♪」
やよい「二人が楽しそうで、私も嬉しいかもー! ……あっ、もうお仕事に行く時間です!」
春香「あ、ホントだ。 私ももうそろそろレッスンに行かなきゃ。 伊織は?」
伊織「スケジュールの確認に来ただけだから、私は今日はオフよ」
春香「あっ、そうだったんだ。 じゃあ行ってくるね」ガチャ
やよい「伊織ちゃん。 また会いましょー!」
伊織「えぇ、精々失敗しないようにしなさいよね」 - 6 :1 2014/06/15(日) 18:11:22.36 ID:JJ+uJ6bP0
-
バタン
伊織「ふぅ」
二人が居なくなったのを確認して一息吐く。
別に緊張をしていたわけでは無いし、二人と居て息が詰まっていた訳でも無い。
伊織「……………………」
ただ、一つのワードが常に頭の中に引っかかり続けていた。
伊織「…………父の日、ね」
伊織「…………帰りましょう」
考え事をするには、ここはあまりにも居心地が良すぎる。
そう思い、席を立ってこれからの事を考えて肩が強張った。 - 7 :1 2014/06/15(日) 18:12:00.22 ID:JJ+uJ6bP0
-
・ ・ ・ ・ ・
帰りの車中。 運転する新堂を横目に見ながらポツリと言った。
伊織「……ねぇ新堂。 貴方は覚えてる?」
新堂「……いかがなさいましたでしょうか」
帰りの車の中で話しかけられる事なんて中々無い。
それを知ってか知らずか、眉を釣り上げてミラー越しに聞く新堂。
伊織「私が小さい頃、お父様に父の日に贈っていたもの」
新堂「それはもう、昨日の事のように思い出せます」
答える新堂の声色はとても嬉しそうだった。
しかしその感情が運転に影響される事は無く、揺れも感じない。
従者の鑑と言っても差し支えないだろう。 - 8 :1 2014/06/15(日) 18:12:43.21 ID:JJ+uJ6bP0
- 伊織「じゃあ、私が最後に贈ったものは覚えてない?」
新堂「最後…………。 確かチョコレートの詰め合わせだったかと」
伊織「え、そんな安物だったの?」
新堂「当時、伊織お嬢様の好物だった記憶があります。 恐らくそれをそのまま……」
成る程。 「自分の好きな物をあげれば相手も喜ぶだろう」、という。
安易な考えだ。 幼子だからこそ許される行為だ。
伊織「…………あまり参考にはならないわね……」
新堂「何か、旦那様にまた贈り物をなされるので?」
伊織「…………どうかしら」
新堂「必ずお喜びになりますよ」
伊織「………………どうかしら」
新堂「贈り物に迷っていらっしゃるのなら、ネクタイなどいかがで御座いましょう」 - 9 :1 2014/06/15(日) 18:13:11.58 ID:JJ+uJ6bP0
- 伊織「ネクタイ?」
確かにお父様はネクタイを毎日と言っていいほど首に巻いているだろう。
しかし、それがお父様の求めている物かと言われると甚だ疑問である。
新堂「はい。 数があっても困らないものですから」
伊織「……成る程ね。 当たりが解らないなら外れじゃない物をあげろ、と」
新堂「愚策で御座いますが」
伊織「……いいわ、贈りましょう。 帰ったらすぐに調達して頂戴」
新堂「かしこまりました」
伊織「ちゃんとお父様が持っていないようなのを選ぶのよ?」
新堂「心得ております」
伊織「流石ね、頼りにしてるわよ」
贈る理由は無かった。
ただ新堂に背中を押され、その気になっただけだ。
しかし知りたい事が一つだけあった。
何故私は、父の日にプレゼントする事を幼少の頃にやめたのだろうか。
その謎が知りたくて、私は新堂に話を持ちかけたのかもしれない。 - 10 :1 2014/06/15(日) 18:13:52.02 ID:JJ+uJ6bP0
-
・ ・ ・ ・ ・
帰宅してすぐ、私を降ろすと新堂はそのまま別の方向へと車を走らせて行った。
おそらく伝があるのだろう、良い品を持ち帰って来るに違いない。
夕食もそこそこに、自分の部屋でくつろいでいた時。
コンコンコンコンと四回ノックする音が転がってきた。
伊織「……新堂でしょ? 入って」
新堂「失礼致します。 伊織お嬢様、先ほどお話された件についてなのですが」
伊織「えぇ、良いのはあったんでしょうね?」
新堂「伊織お嬢様のお好みに沿うかまでは……。 明日の早朝までにはご用意出来そうです」
伊織「それなら良かった。 お父様のスケジュールはどうなってるのかしら」
新堂「正午からフランスに」
伊織「じゃあ全然間に合うわね。 一応モーニングコールをお願いするわ」
親指と小指を立てて耳に当てるジェスチャーをする。
それを見て新堂は朗らかに笑った。 - 11 :1 2014/06/15(日) 18:14:58.33 ID:JJ+uJ6bP0
- 新堂「かしこまりました。 お湯殿はいかがなさいましょう」
伊織「朝入るから今は良いわ。 ちょっと疲れたから、もう寝るわ」
新堂「左様で御座いますか。 では、私は失礼致します」
伊織「えぇ、じゃあまた明日」
音を立てる事無くドアが閉まり、この部屋に私一人になる。
疲れていたのは方便では無かったらしい。 ドッと疲労がのしかかってきた。
伊織「折角のオフだっていうのに、散々ね」
悪態を吐きながら肌着だけになり、そそくさと布団入った。
早々に船を漕ぎ始める頭で、また考え事をしていた。
伊織「……なんで……、忘れているのかしら…………」
新堂はハッキリと覚えていたのに。
何故贈った当の本人である私は覚えていないんだろう。
なにか忘れてしまうような切欠があったんだろうか。
眠い頭で記憶を漁るが、漕ぎ始めた船はそう簡単に止まらない。
流れに身を任せ、そのまま眠りに着いた。 - 12 :1 2014/06/15(日) 18:15:31.75 ID:JJ+uJ6bP0
- ・ ・ ・ ・ ・
起きた時、一番最初に耳にしたのはコンコンコンコン、というノックの音だった。
枕元に置いてあった携帯を開くと、6時ピッタリの時間だった。
新堂「伊織お嬢様。 新堂で御座います」
伊織「……今起きたわ、どうぞ」
新堂「失礼致します。」
扉を開けて新堂が入ってくる。
ここまではいつもと同じ、何も変わらない日常の一コマだ。
しかし、一つだけ違った。 新堂の手の上に、見慣れない物があった。
新堂「先日申し上げた、ネクタイで御座います」 - 13 :1 2014/06/15(日) 18:16:46.36 ID:JJ+uJ6bP0
- 新堂から長方形の包みを受け取る。
開けてみるとピンクでチェック柄のネクタイだった。
随分と趣味の悪い、と言いたいところだが、おそらく私の好きな色を意識したんだろう。
半分呆れた視線を新堂に向けると、
口元を大きく釣り上げ、「良いもので御座いましょう」と自信満々に答えられる。
肩をすくませて臭いものを扱うかのように包みの蓋を閉じた。
伊織「信用しようじゃない」
片眉を釣り上げて、半分皮肉混じりにそう言うと、
皮肉が通じているのか通じていないのか、「それは良かった」。
と、満足そうに頷いた。 - 14 :1 2014/06/15(日) 18:17:16.57 ID:JJ+uJ6bP0
- ・ ・ ・ ・ ・
コツコツコツ、コツコツコツ。
タイルの床を鳴らしながらお父様の部屋へと歩を進める。
何年ぶりだろうか、父に贈り物をするのは。
喜んで、いや、そもそも受け取ってくれるのだろうか。
コツコツコツ、コツコツコツ。
今になってそんな懸念が襲い掛かってきた。
まるで今まで浮かれていた分を取り返すかのように。
伊織「……………………」
コツ。
ついに書斎の前に来た。 お父様は今ここで読書をされているらしい。
仕事の事でも無い限り迷惑にはならないだろう。 新堂がそう言ってくれた。 - 15 :1 2014/06/15(日) 18:17:43.32 ID:JJ+uJ6bP0
- 伊織「……よし」
子が親にプレゼントをするだけで、何を恐れる必要がある。
意を決して書斎の扉を二度叩いた。
「………………入れ」
四度ノックしようとも、二度ノックしようとも、迎える言葉は変わらない。
言われるがままに扉を開いた。
伊織「おはよう御座います、お父様」
「何の用だ?」
伊織「えっと……。 今日は父の日ですので、日頃の感謝をと思い、プレゼントを持ってきましたの」
「………………」
差し出すと、お父様は読んでいた本を閉じて包みを受け取った。
蓋を開けても表情は何一つ変わらなかった。
伊織「是非、お父様に受け取ってもらいたくて」
「……………………」 - 16 :1 2014/06/15(日) 18:18:18.97 ID:JJ+uJ6bP0
- 長い沈黙。 十
コメント一覧
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- 2014年06月15日 21:44
- ほっこりした、いいなぁ
-
- 2014年06月15日 21:58
- 意地っ張りなのは遺伝なんだね
-
- 2014年06月15日 22:01
- なんでそんなにつっけんどんな言い方するんですかね…
-
- 2014年06月15日 22:11
- 千早の貧乳や響のにおいや春香のリボンも遺伝すんの?
-
- 2014年06月15日 22:26
- パパさんツンデレっすかwwwww
-
- 2014年06月15日 22:28
- ええはなしやないかぁ
-
- 2014年06月15日 22:30
- いおりんはまだいいけど、千早には父の日なんて優の死後は存在しない物なんだろうな
-
- 2014年06月15日 22:41
- 響の親父も黒人海兵隊員だったけどアフガンで殉職してんだよな
-
- 2014年06月15日 22:46
- 765プロのメンバーが1番気まずい日って感じだな…アイドル側や父親側に問題があるのが何人かいて、そいつらに配慮しないといけない…とか考えちゃうな。俺も何を送っても嬉しそうじゃないなと感じてるから伊織と同じ感覚かも。
-
- 2014年06月15日 23:02
- ※7
アニマスや劇場版見る限りだと千種さんとは復縁出来るだろうけど、
父親は最早物語開始時点では既に居ませんでしたレベルの扱いだからなあ
つか、765アイドルの肉親で名前があるのって真の父親くらいじゃね?
-
- 2014年06月15日 23:15
- (´;ω;`)ブワッ
-
- 2014年06月15日 23:32
- ツンデレ拗らせると大変だなって思いました。伊織ちゃんの将来がちょっぴり心配です(こなみかん
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- 2014年06月15日 23:32
- 『娘はアイドル』シリーズを思い出した。芸能界も特殊な業界だから、親としては気が気じゃないところあるんだろう。
※4
千種さん小さめ
※9
いおりんのお父さんと同じように喜んでくれるかもよ
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- 2014年06月15日 23:44
- いいSSだった、掛け値無しに
-
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