1:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:25:03.54
ID:RF4XLZSHO
「あいつ、売りやってるらしいな」
「頼めばヤラしてくれたりして」
「金なきゃ無理なんじゃね?」
「顔も身体も最高なビッチか。へへっ、たまんねーな」
女「……」スタスタ
これは、私を気に入らない人達が流した噂。
私は人付き合いが苦手だ。うわべだけの関係なんて嫌だ。
器用だとか不器用だとか。
多分、そういうんじゃなくて、私はそういう風に出来てない。
となりの関くん(6) (MFコミックス フラッパーシリーズ)
2:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:27:38.39
ID:RF4XLZSHO
きっと疲れてしまう。
少なくとも、このクラスの女子みたいには出来ない。
さっきまで一緒に笑ってたのに、離れれば平気で悪口を言う。
悪口を言い合って盛り上がってる人も、その人が居なくなれば別の人と別の居場所で悪口を言う。
何を考えてるのか、何が本当なのかが分からない。
だったらいい。一人でいい。無理に付き合うこともない。
私は私だし、周りは周り。それぞれが好きにしてるんだから。
そう思っていたら、これだ。
3:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:29:34.42
ID:RF4XLZSHO
『見た目が良いからって調子に乗んな』とか、先輩には『生意気』だとか色々言われた。
それからだ。
あんな根も葉もない噂が流れ始めたのは……
でも、みんなはその噂を信じた。
私を見る目は、あの男子達のような好奇の目。
女子は軽蔑の目で、私を見る。
私はそれが嫌で、あの目が怖くて、ここに逃げて来たんだと思う。
そこで、出逢った。
4:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:30:33.91
ID:RF4XLZSHO
女「放課後に校舎裏の花壇に水やりする奴なんて、初めて見た」
男「あ、えーっと……」
女「あんた、同じクラスにいる奴の名前も分からないの?」
男「分かるけど何で?」
女「何でって、なに?」
男「女さんが何でこんな所に来るのかな、と思って」
女「意外?」
男「え、まあ、うん」
5:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:31:35.69
ID:RF4XLZSHO
女「私の噂、知ってるんだ」
男「知ってるけど、そんな風には見えないね。なんか、寂しそうだし」
女「……」
男「水やり終わったし、帰るよ」スタスタ
女「待って。あんたは辛くないの?寂しくないの?」
男「……」ピタッ
女「あんた、いつも一人だし。色々、言われてるし」
男「寂しくも辛くもないよ。ただ、退屈なだけ」
女「退屈?」
6:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:33:14.04
ID:RF4XLZSHO
男「うん。キモい、根暗、ぼっちだとか、ただ『それだけ』」
男「あんなのは、ただの言葉。誰かを見下したいだけなんだ」
男「きっと僕じゃなくてもいいんだ。誰かを見下して、安心したいんだよ」
女「……ねえ」
男「何?」
女「放課後、いつもここに来るの?」
男「うん。先生に頼まれたから」
女「そっか…」
男「もう帰るよ。女さん、さよなら」スタスタ
女「あっ…うん」
7:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:33:59.44
ID:RF4XLZSHO
【女の自宅】
女「ただの言葉、か」
男は、他の誰とも違って見えた。
同じクラスで、何度も見た顔なのに、何かが違って見えた。
話したことのない人に話し掛けられて困ってるような、そんな目。
それが当たり前の反応なんだろうけど、私には嬉しかった。
あんな風に会話したのは、あの噂が流れてから初めてだと思う。
みんなは私を知ってる。私が何をしているのかを知ってる。
8:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:34:39.80
ID:RF4XLZSHO
見ず知らずの男に身体を売って、お金を貰う私を知っている。
勿論、そんなことはしてない。
それは噂で作られた私。
だけど、みんなはそれを信じて、それが私だと思っている。
私のことなんて、何一つ知らないのに。
女「はぁ…」
9:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:35:48.80
ID:RF4XLZSHO
若干目つき悪いし、性格もきつめに見られてるのも知ってる。
でも、そんなに気は強くない。寧ろ打たれ弱い。
何人かに囲まれて滅茶苦茶言われた時は、怖くて何も言い返せなかった。
睨んでると思ったらしくて退散したから良かったけど、悔しかった。
悔しいのに、何も出来ない。それが情けなくて、もっと悔しくなる。
『ただ、それだけ。ただ、退屈なだけ』
10:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:36:20.11
ID:RF4XLZSHO
女「男は、悔しくないのかな……」
11:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:36:55.61
ID:RF4XLZSHO
翌日 放課後
女「あ、いた。っていうか、草むしりもやるんだ」
男「あの、何しに来たの?」
女「あ、えっと……手伝いに来た」
男「手伝いって、ゴム手袋もないのに?」
女「それは大丈夫。私、ミミズも虫も平気だし」ニコッ
男「……」
女「ん、どうかした?」
12:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:38:15.58
ID:RF4XLZSHO
男「見た目と違うんだなと思って、ちょっと面白かった」
女「え、微笑んですらないけど」
男「あははー、マジウケる。とか無理」
女「真顔でその台詞言う奴初めて見たよ。怖いわ」
男「素手で草むしりする女子も初めて見た。爪に土入ったり、嫌じゃないの?」
女「爪、伸ばしてないからね。ベキッって曲がる方が嫌だから」
男「……何で手伝いに来たの?」
女「邪魔だった?」
13:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:39:39.47
ID:RF4XLZSHO
男「本当に手伝ってくれてるし、邪魔じゃないけど、何で急に」
女「根も葉もない噂立てられて、色々言われて、だけど何も言えなくて」
男「……」
女「それが、凄く悔しい」
女「昨日、あんたと話して思ったんだ。あんたは、悔しくないのかなって」
男「……」
女「ごめん。いきなり押し掛けて来て迷惑だと思うし、嫌な質問だと思う」
女「でも、どうしても聞きたくて」
男「どうして僕なの?」
女「それは…」
14:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:41:06.04
ID:RF4XLZSHO
男「僕がからかわれたり、馬鹿にされたりしてるから?」
女「っ…それは」
男「自分と同じだと思った?」
女「違っ…わないよね。ごめん」
男「……中学の頃、僕は義父に虐待されてた」
男「腕にタバコ押し付けられたり、殴られたり蹴られたり」
女「……えっ?」
男「我慢したよ。怖くて怖くて仕方が無かったから。何度も殺されると思った」
男「いつか終わると思った。誰かが、助けてくれると思った」
女「……」
15:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:42:21.59
ID:RF4XLZSHO
男「でもね、誰も助けてくれなかったよ」
女「!!」
男「そんな日々が数ヶ月続いた。長かったよ。数年に感じるくらいに…」
男「ある日、あいつは妹にまで手を出そうとした。その時、初めて人を殴った」
男「そしたら、あいつは呆気なく倒れたよ。でも僕は殴るのを止めなかった」
男「仕返し出来て嬉しかったのかもしれないし、興奮してたのかもしれない」
男「妹が止めてくれなかったら、本当に殺していたかもしれない」
女「……」
男「それからすぐ、母親はまた離婚したよ」
16:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:43:32.74
ID:RF4XLZSHO
男「挙げ句、僕等を親戚に預けてどこかに行った」
男「引き取ってくれたのは、実父の両親だった。今は幸せだよ」
女「………」
男「どう?」
女「ど、どうって、いきなりそんな話し聞いたら
男「自分よりも不幸な人間の話しを聞いて、楽になった?」
女「ッ!!」
バチンッ…
17:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:49:36.02
ID:RF4XLZSHO
女「……帰る」
男「そっか、さよなら」
女「さよなら」スタスタ
男「分かってたけど、やっぱり痛いな」ポツリ
女「……」ピタッ
男「?」
女「男っ!!」クルッ
男「あ、はい。何?」
女「また明日。んじゃ」スタスタ
男「えっ?」
18:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 01:50:37.22
ID:RF4XLZSHO
ここまで。多分短い。
19:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 02:10:27.96 ID:GvsNO1pAO
おつ
20:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 12:12:08.12
ID:RxR1ArUgO
【女の自宅】
女「……最低だ」
きっと私は、男と自分を重ねてたんだ。
話したい理由。
それは、どこか似通っている部分があると感じたからだ。
もしかしたら、単なる好奇心から自分勝手に近付いたのかも。
ただ言えるのは、そんな理由で男に近付いた挙げ句、逃げたってこと。
『どう?自分より不幸な人間の話しを聞いて楽になった?』
女「きっついなぁ…」
21:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 12:13:58.39
ID:RxR1ArUgO
私は男の話しを聞いた時、『可哀想』だと思った。
自分のことなんて全部忘れて、男が語った不幸に聞き入っていた。
頭の中には
『こんなに酷く悲しい話しがあるのか』『今はもう平気なんだろうか』『本当のお父さんは?』『妹さんは元気?』
こんな言葉ばかりが浮かんでた。
視線や陰口、纏わりつく噂。
男の語った不幸は、そんなものから私を解放してくれた。
本当に最低だ。
私は自分のことなんて忘れて、男を憐れんでいた。
22:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 12:16:34.41
ID:RxR1ArUgO
あの時の私は被害者を見るような、ニュースで事件を見ている時のような。
そんな『目』をしていたに違いない。
『楽になった?』
私はきっと、その言葉を否定したくて叩いたんじゃない。
男の言う通りだった。
心を見透かされた気がして、それをごまかす為に、叩いたんだ。
頭の冷え今だから分かる。
私は暴力に逃げて、あの場所から、男の言葉から、逃げたんだ。
23:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 12:20:42.11
ID:RxR1ArUgO
女「謝ろう」
許してくれなくても、なんて。また自分勝手なことを思ってる。
やっぱり、人って難しい。
自分のしたいこと。やりたいこと。
でもそれが、相手にとってはして欲しくないことがある。
謝ったって、私が男にしたことは変わらない。
だけど、私がやったことだから、私が謝らなきゃ駄目なんだ。
言葉を変えても、結局は、私がそうしたいだけ。
女「何やってんだろ、私……」
24:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 12:24:54.12
ID:RxR1ArUgO
結局、私は慰めて欲しかったのかな。
それとも、男なら私が望む言葉を言ってくれると思ってたのかな。
気にしないで、大丈夫、僕はそんな風には見てないよ、とか?
馬鹿だ。そんな都合の良い話し、あるわけないのに。
『誰も、助けてくれなかったよ』
ああそうか、私は『誰かに』助けて欲しかったのか。
だけど、そんな優しくて強い、都合良く現れて助けてくれる『誰か』はいない。
例え私に友人がいたとしても、これは『私が』何とかしなきゃならない。
25:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 12:36:20.42
ID:RxR1ArUgO
嫌なら、辛いなら。
『ただの言葉だよ』
私は、男みたいに、あんな風には到底考えられない。
ビッチだのヤリマンだの、金出すからやらせろだの……
お構いなしに好き勝手言ってくれるよ。思い出したら何だか腹が立ってきた。
一人でいい、なんて強がっておきながら。
結局は周りを気にして、視線を怖がってたら話しにならない。
今更『誰かに』嫌われたって、私には何もない。離れゆく友人も、恋人もいない。
何もしないまま終わりたくない。噂が消えるまで我慢するなんて、私には出来ない。
あんな風に言われるのは嫌だ。
もう知るか、そっちがそうなら、私だって好き勝手やってやる。
あんな悔しい思いをするのは、もう沢山だ。
26:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 12:37:43.29
ID:RxR1ArUgO
ここまで。夜書く。
27:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 12:42:01.80
ID:RxR1ArUgO
あと、ちょっと長くなる予感がしてきた。
28:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/06/17(火) 13:04:00.95 ID:GtGd7/CY0
舞ってる
29:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 14:45:54.34
ID:RxR1ArUgO
翌日 放課後
男「あんなこと言ったんだ。来るわけない」
シーン…
そう言えば、そうだった。
本当は、元々は『こう』だったんだ。
薄暗くて気味悪くて、人が寄りつきそうにない、僕にお似合いの場所。
たった二日間。
それもちょっと話しただけなのに、随分と賑やかに感じた。
たった一人増えただけで、あんなにも変わるものだったんだ。
30:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 14:47:37.93
ID:RxR1ArUgO
まるで、全く別の場所にいるような感じがする。
たった二日。
しかも、ちゃんと話したのは一日。そのはずなのに、やけに残ってる。
草むしりを手伝うと言った時の笑顔が、懐かしい。
真っ直ぐに目を見て話す彼女が、昨日は此処に、隣りにいたのか。
『人と話す時は目を見て話しなさい。でないと、何も伝わらない』
お父さんに怒られた時、よく言われたな。目を見て、伝える。
僕は、彼女の目から逃げたのかもしれない。
31:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 14:50:39.23
ID:RxR1ArUgO
逃げ出したいから、あんなことを言ってしまったのかもしれない。
彼女の真っ直ぐな瞳が、僕には辛くて、怖かったんだ。
きっと、彼女は強い人なんだろう。
あんな風に噂されても屈せずに、学校に来るだけでも十分強い。
佇まい、あの瞳が、噂が噂でしかないと証明している。
大体、彼女にこんな場所は似合わない。あれで、良かったんだ。
もう帰ろう。もう少しだけ待とう。
何度も何度も、頭の中で繰り返される言葉。でも、もういい。
男「……帰ろう」
32:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 14:53:11.04
ID:RxR1ArUgO
これでいい。
明日からは、今まで通り。何も変わらない退屈な毎日。
家族のことだけを考えればいい。大切にすべきなのは、この場所じゃない。
妹が、お爺ちゃんとお婆ちゃんが待ってる。僕の居場所は、あの家だ。
明るい家族。
それだけで、僕は幸せだ。他には何もいらない。
こんな退屈な毎日も、あいつと過ごした数ヶ月に比べれば大したことはない。
『辛くないの?寂しくないの?』
そんなことはない。耐えるまでもない。
周りで起こる色々、意味を持たない言葉、それを眺める毎日。
僕は、そうあるべきだ。
33:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 14:55:16.44
ID:RxR1ArUgO
女「ごめん。遅れた」
35:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 16:35:31.51
ID:RxR1ArUgO
男「えっ、あの、髪が凄いことになってるけど」
女「あんたと話したら、何か吹っ切れちゃって」
男「僕?」
女「そう、あんた。あんたと話してから、色々考えた」
女「結果。やられっぱなしも、甘えるのも駄目と思ったんだ」ニコッ
男「……それで?」
女「話し合いじゃあ収まりが付かなくて、ちょっと長引いた」
男「よく見たら顔とか腕にひっかき傷あるけど、喧嘩したの?」
36:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 16:36:39.17
ID:RxR1ArUgO
女「あんな風に言われて、私は我慢なんて出来ない」
女「ただの言葉なんて風には思えない」
女「もう、何も出来ないまま悔しいのは、嫌だから」
男「その傷、相手は大人数だっだんだ」
女「えっ、うん」
女「五、六人かな。掛かってきたのは二、三人だけど」ウン
男「っ、全員で袋叩きにされたかもしれない」
女「え?」
37:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 16:37:58.29
ID:RxR1ArUgO
男「ひっかき傷どころじゃない。大怪我したら、どうするつもりだったんだ!!」
女「!?」ビクッ
男「保健室に行こう。ちゃんと消毒しな
女「男」
男「何?」
女「昨日は本当にごめんなさい」
男「!!」
女「実はね、自分のことを終わらせてから謝ろうと思ってたんだ」
38:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 16:43:23.67
ID:RxR1ArUgO
女「ずっと、待っててくれたんだね」
男「……待ってたよ」フイッ
女「……ありがと」
男「それより傷、痛まないの?」
女「あちこち痛いけど、何とか勝ったよ」ニコッ
男「はぁ、もういいよ。取り敢えず保健室に行こう」
女「あっ、ちょっと待って」
男「まだ何かあるの?」
39:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 16:52:44.96
ID:RxR1ArUgO
女「違う違う。あ、あったあった」
男「なにを、うわ…ちょっと止め
ジョキンジョキン…パラパラ…
女「よし、行こう」スタスタ
男「あの、大丈夫?変な薬でも
女「至って正常。私は素直に生きることにした」ウン
男「……」
女「どうしたの?行こう?」スタスタ
男「園芸用の鋏で髪切る女の人なんて初めて見た」
女「私も初めて切った」
男「だろうね」
女「でも、気分は良いかな」ニコッ
男「(僕は、こんな風にはなれない。こんな風に笑えない)」
男「(彼女は、僕なんかと一緒にいちゃ駄目だ)」
41:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 18:28:09.47
ID:RxR1ArUgO
【ーーー】
男「何も欲しがっちゃ駄目だ。もう、十分に得た」
いつものように、あの時のように、何度も自分に言い聞かせても、ざわついたままだ。
これ以上は、望んじゃいけない。この平穏な生活こそが、僕の求めたもの。
なのに、頭から離れない。
あの笑顔が、声が、強い瞳が、焼き付いてる。
それを想う自分が、気持ち悪い。
彼女は、綺麗だ。
見た目も、きっと心も綺麗なんだろう。
だから、あんな風に堂々と歩ける。だから、あんな風に笑えるんだろう。
42:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 18:30:07.24
ID:RxR1ArUgO
こんな気持ちは、知りたくなかった。
やっぱり、待つべきじゃなかったんだ。
すぐに帰っていれば、こんな思いをする必要もなかった。
男「僕は、もう何もいらない」
此処に来たばかりの頃、物音がするだけで、電話が鳴るだけで、僕は怯えていた。
妹は、泣いていた。
あの頃と同じように、小さな体を震わせて、泣いていたんだ。
困惑するお爺ちゃんとお婆ちゃんに理由を話すと、二人は優しく僕等を抱き締めてくれた。
それから、夜になると電話線を抜いてくれるようになった。
43:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 18:31:54.81
ID:RxR1ArUgO
二人は何も言わずに、僕等の為に何かをしてくれる。
僕等は、守られている。今は守ってくれる人がいる。
家って、家族ってこんなにも幸せで、安心出来る場所だったのかと思う。
お父さんが死んでから滅茶苦茶になったけど、今は幸せだ。
妹も、笑うようになった。学校も楽しいみたいだ。
でも僕は抜け出せない。
妹だって、まだ完全に抜け出せたわけじゃない。
多分、一生消えない。
相変わらず夜が怖い、暗闇が怖い。
44:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 18:36:35.26
ID:RxR1ArUgO
夜になると、思い出す。
きっと妹もそうだろう。今でも泣きながら布団に入って来る時がある。
忘れられないんだ。
あいつの怒鳴り声。
痛み、熱、狂った笑い声、見下す瞳、妹の涙。
目を閉じれば、あの時に戻ってしまいそうな気がする。
それから抜け出す方法。一時だけでも忘れられる方法を、僕は知ってる。
体に残った火傷の跡も、耳に残る笑い声も消す方法。
「ようやく見つけた。男ってのは、お前だな」
「……そうだけど、何の用?」
「病院にいるあいつの代わりに、俺がお前をやる」
「あいつって誰だか分からないけど、勝手だね」
「大体、みんな自分から仕掛けてくるのに」
「黙れ。ぶっ殺してやる」
それを消すのは、あいつが僕にしたことに他ならない。
それは『誰かを』傷付けること。早い話しが、暴力を振るうことだった。
46:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 20:54:44.85
ID:RxR1ArUgO
【女の自宅】
女「 変だ 」
おかしい、何かが引っ掛かる。
こういうのが胸騒ぎってやつなのかな。部屋にいるのに、落ち着かない。
自分のことも一段落付いたはずなのに、何でだろ。
本当は話し合いで解決したかったし、やりたいこととは違ったけど、何とかなった。
顔とか腕とかピリピリするけど、心はすっきりしてる。
なのに、妙にそわそわする。
男、保健室に入ってから急に口数減ったし、顔も暗かったな。
47:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 20:56:25.17
ID:RxR1ArUgO
そういえば、怒鳴った声聞いたのも初めてだ。
話すようになってまだ二日。
知らないことがあって当たり前だけど、怒鳴った時の男は何か変だった。
目つきが違ってた。
なんかこう、睨むのとはちょっと違う感じ。
あんな顔、見たことない。正直、めちゃくちゃ怖かった。
学校でも睨み付けたりする人いるけど、ああいうのとは違う。
威嚇とかじゃなくて、本当に何かをするような、そんな危ない感じが……
いやまさか、男がそんなことするようには見えない。
ないない。
48:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 20:58:06.72
ID:RxR1ArUgO
こう言っちゃ悪いけど、何かされても、何かする側じゃない。
あくまで見た目だけを判断しての話しだけど、そう見える。
背はそこそこ高いけど体は細いし、顔は大人しそうだし、優しそうだし。
それに、今日校舎裏で私を見た時の男は、少し微笑んだような気がした。
でもその後すぐに、あの目。暗いのに、ぎらぎらして見えた。
女「それを知りたいと思うのは、何でだろ」
まあいいや。また明日の放課後に話せばいいんだ。
謝ったけど、まだお礼を言ってない。
保健室に入ってから妙な雰囲気だったし、言い辛かった。
49:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 20:59:00.10
ID:RxR1ArUgO
昨日の夜、あの女子達と話そうと決めた。真正面から行こうと決めた。
言いたいこと全部言って、後でどうにかなっても絶対に逃げないって決めた。
決めたのは私だけど、きっかけは男の言葉に違いない。
ぐさっと来たけど、あれがなかったら、私は動けなかっただろう。
だから、ありがとうって伝えたい。
女「早く、男に会いたいな」
あ、髪は一応整えておこう。このままじゃ流石にマズい。
その場の気分で何かをするのは、これきりにしよう。
お母さんにはちゃんと伝えたし、お父さんには上手く言ってくれるはずだ。
お母さん、泣いてたな。私も泣いたけど、心配かけちゃったな。
これからは気を付けよう。
53:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 22:11:47.43
ID:EOa3EEBFO
五日後 校舎裏
女「……男、学校休んで何してるんだろ。って言うか、何で私が水やりしてるんだろ」
あれから五日が経った。あの日の放課後から五日が経った。
男は、あれから学校を休んでる。
理由無く休むようには思えないし、風邪とかかもしれない。
教師は触れなかった。
男なんていないみたいに、時間が流れる。
本当に、教室にぽっかり穴が空いたような感じがした。
一番仲の良い友達が休んだ時の気持ちに似てる。
友達いないけど。
54:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 22:15:40.18
ID:EOa3EEBFO
家庭の事情とかだったら悪いし、教師にも何だか聞き辛いんだよね。
そしたら、あっと言う間に五日が経った。そのうち来るだろうと思ってた。
でも、男は来なかった。
女「心配させんな。私には怒鳴ったくせに」
男がいないと暇で退屈で、急に学校がつまらくなった。
つまらくなったってことは、楽しかったってことだ。
男と校舎裏で出逢ってからは、学校が楽しかった。
学校っていうより、この場所に来るのが楽しみだったのかもしれない。
暗くてじめっとしてるけど、ちょっと落ち着く。
そんな、不思議な場所。
男は私がここに来るずっと前から、ここにいたんだよね。
55:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 22:18:31.09
ID:EOa3EEBFO
どんな気持ちだったんだろう。
何を考えてこの場所に立っていたんだろう。
今は、どこにいるんだろう。
もしかして、違う居場所があるのかな。
男にとって居心地の良い場所が、どこかにあるのかな。
もしそうなら、ちょっと寂しい。
それから、こんなことを考える度に、決まって胸騒ぎがする。
背筋ぞわぞわして、鳥肌が立つ。
女「駄目だ、やっぱり気になる。担任に聞いてみよう。何か、嫌な感じがする」
私は職員室に走った。
迷っている所為か、やけに脚が重いけど、とにかく走った。
56:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 22:28:31.89
ID:EOa3EEBFO
盛大に転けて、笑われて、また走る。
そんな私を指差して、また笑う。
だけど、もう誰の視線も怖くない。笑いたきゃ好きなだけ笑え。
好きでもない友達と、好きなだけ笑えばいい。
女「はぁっ、はぁっ」
こんな風になれたのは、男と出逢って、ぐさっとされたからだ。
ありがとうって言いたい。
また、あの場所で話したい。
何かあったのなら力になりたい。私は、男に救われた。
救ったなんて思ってないだろうけど、私はそう思ってる。
57:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 22:36:03.19
ID:EOa3EEBFO
あの時、保健室で別れてから話してない。
今想えば、何かを決めたのかも。
何を決めたのかは分からない。でも、そんな気がしないでもない。
何を決めたって別にいいけどさ、せめて学校には来てよ。
女「はぁ、はぁっ…」
たった一日二日話した相手に、何でそこまでしようとするのか。
知るか、私にも分からない。
もしかしたら、単純に、男を好きなのかもしれない。
単なる好奇心で、男を知りたいだけなのかもしれない。
そんなのどうでもいい。どうせ、どっちも似たようなものだ。
心配、暇、退屈、怖い、知りたい、知りたくない。
行こう、やっぱり止めよう、きっと迷惑だ、嫌われる。
走りながら色々な言葉が浮かんできたけれど、本当の答えは出てる。
私は、男に会いたい。
58:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 22:39:33.70
ID:EOa3EEBFO
もう少し書いたら、寝る。
59:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/17(火) 23:00:09.10 ID:CCt64tPDO
待ってる
この文章すごい好き
61:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 01:29:16.20
ID:MdClivtcO
【男の自宅前】
女「どうしよう。勢いに任せて来てしまった」
担任は、表情一つ変えずに男の住所を私に教えた。
目上の人間に言う台詞じゃないけど、正直気に食わなかった。
担任ならもう少し何かあるはずだ。心配じゃないのか。
あんな無気力な、まるで何も感じないような目。何だか気味が悪かった。
本当に生きてるのか疑いたくなるくらいだ。
大人になると、ああなっちゃうかな。
何か、嫌だな。
それはともかく、担任への怒りも手伝って、私は何も考えずに男の自宅へ来た。
62:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 01:30:36.88
ID:MdClivtcO
その場の気分で何かするのは止めようと決めたばかりなのに。
だけど、ここまで来たんだ。
今更逃げるわけには行かない。
会いたくて来た。心配だから来た。理由なんて、そんなものだ。
女「……行こう」
呼び鈴を鳴らす手が震える。
どうやら、緊張とかではなく、怖じ気付いてるみたいだ。
何とか呼び鈴を押すと、可愛らしい女の子が。どうやら男の妹さんみたいだ。
妹「お兄ちゃんの友達ですか?」
63:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 01:31:47.97
ID:MdClivtcO
女「……」
妹「えっと、あの」
女「あっ、ごめんね。私は同じクラスの女です」
女「友達なのか何なのかよく分からないけど、男が心配で会いに来ました」
妹「お兄ちゃんのこと、知ってるんですか?」
女「え?」
妹「あ、ごめんなさい。どうぞ、入って下さい」
女「う、うん。おじゃまします」
64:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 01:35:24.65
ID:MdClivtcO
女「あの、男は大丈夫なの?」
妹「……お兄ちゃんは、部屋で寝てます」
女「こんな時間に?随分早いね」
妹「女さんは、お兄ちゃんに聞いたんですか?」
女「義理のお父さんの話しなら聞いたよ。どうしたのかも、聞いた」
妹「そっか。お兄ちゃん、自分から話したんだ」ポツリ
女「ねえ、男は何をしてるの?もう、五日も学校休んでる」
妹「お兄ちゃんは、多分、病気なんです」
65:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 01:37:19.10
ID:MdClivtcO
女「病気って、そんな風には見えないけどな」
妹「風邪とか、そういうのじゃなくて、心が痛いやつです」
女「それは、あの…」
妹「あの人の所為で、お兄ちゃんは違う人になりました」
女「(あの人って、やっぱり義父のことだよね。それに、違う人って)」
妹「お兄ちゃんは毎日殴られたりして、私が殴ら…そうにな…た
女「無理しないで。それに、男はあなたを守ろうとしたんだよね?」
妹「大丈夫、です」
66:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 01:39:10.01
ID:MdClivtcO
女「でも、顔色が
妹「違うんです。お兄ちゃんは、その後も、あの人を」
女「……その、後?」
妹「夜になると、今度はお兄ちゃんが、あの人を殴るようになったんです」
女「!?」
妹「何度も謝らせて、何度も殴りました。自分がやられたように、何度も」
女「で、でも離婚したんじゃ。今は幸せだって、そう言ってたよ?」
妹「お兄ちゃんは、夜遅くになるとお家を抜け出すんです」
妹「来たばかりの頃は、殆ど毎日抜け出してました」
妹「それで、いつも痣だらけで帰って来るの……」
67:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 01:40:36.84
ID:MdClivtcO
女「そ、それって、わざわざ喧嘩しに行ってるってこと?」
妹「……」コクン
女「何で、そんな危ないことを」
妹「それをしないと、声が消えないって。そう言ってました」
女「声?」
妹「あの人の、声。お兄ちゃんを傷付ける、合図…」
女「(……酷い。体が震えてる。まだ怖いんだ。まだ、終わってないんだ)」
女「嫌な話しさせちゃって、ごめん。私、何も知らなかった」
68:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 01:45:11.92
ID:MdClivtcO
妹「あっ、あの」ズイッ
女「うわっ、な、何かな?」
妹「えっと、女さんはお兄ちゃんが好きなの?お兄ちゃんが大事なの?」
女「うん、好きだよ。だから、男のことを知りたいんだと思う」
妹「……なんか、お父さんみたい」ポケー
女「えっ?」
妹「あっ、ごめんなさい」
女「お父さんは、その…」
妹「事故で、いなくなっちゃいました」
女「……そっか」
69:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 01:48:33.73
ID:MdClivtcO
妹「すっごく強くて優しいお父さんなんだ」
妹「お兄ちゃんも私も、お父さん大好き」ニコッ
女「(凄く嬉しそう。今でも好きなんだろなぁ)」
妹「お姉ちゃん、あのね?」
女「お姉ちゃん?あ、私か。なに?」
妹「お兄ちゃんがお姉ちゃんに話したのは、お父さんに似てるからだと思うんだ」ニコッ
女「私、女なんだけど。喜んでいいのかな、それ」
妹「男の人みたいってことじゃないよ?雰囲気とか、うーん。色々、色々似てるの」
70:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 02:07:11.28
ID:MdClivtcO
女「良かった。ほっとしたよ」
妹「へへっ、お姉ちゃんが来てくれて本当に良かった」
女「(何だか分からないけど、警戒解いてくれたみたい。随分とご機嫌だなぁ)」
女「(どう見てもまだ小学生。こっちの方が本当なんだろうけど、しっかりした子だ)」
妹「ねえねえ」クイクイ
女「どうしたの?」
妹「お兄ちゃんに、会いたい?」
女「そりゃあもう。その為に来たんだから」
71:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 02:13:08.92
ID:MdClivtcO
妹「じゃあ、一緒に行こう?」ギュッ
女「うん、行こう」ギュッ
妹「お兄ちゃん、ずっと『夜』だったんだ……」
妹「最近、また抜け出し始めたの」
女「(なるほど、だから学校に来れなかったのか。五日間も、ずっと……)」
妹「お爺ちゃんお婆ちゃんも、心配してる」
妹「それで、お婆ちゃんが具合悪くなっちゃったんだ……」
女「(だから居なかったのか。男、そんなに酷いのか)」
妹「でもね?お兄ちゃんだって本当は心配かけたくないんだよ?」
妹「きっと痛くて泣いてる」
女「(……私に何が出来るのかは分からない。でも、会えば分かるはずだ)」
女「(私が会いたくて来たんだ。今度は何があっても、逃げない)」
74:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 13:57:51.18
ID:5nXLbPBOO
妹さんと手を握って、階段の前に立った時、突然足が動かなくなった。
膝が震える。
あの目を見たら、私は竦んでしまうだろう。
怖い、やっぱり駄目だ。行きたくない。
私がどうにか出来るような問題じゃない。
家族の問題。兄妹の痛み。私が入り込んじゃいけない場所。
これ以上、首を突っ込むのは止した方がいい。
例え好意があっても、何かをしたくても、男の心に踏み込んでいいのだろうか。
ほんの少しの間に、これだけの言葉が、全身に広がった。
75:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 13:59:54.21
ID:5nXLbPBOO
今の私を立ち止まらせるには、十分すぎる言葉。
もっともな言葉だ。
きっと、それは正しい。
もし今、お爺さんお婆さんがいたなら、そっとして欲しいと言うだろう。
とても繊細で脆い、触れる場所を、触れる力を少しでも間違えれば、どうなる。
幸せを、男を、私が壊してしまうんじゃないだろうか。
一体、男に何があったんだろう。
76:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 14:03:08.13
ID:5nXLbPBOO
妹さんには、最近までは落ち着いていたと聞いた。
なのに何故再び夜に走ったのか、暴力に身を委ねるのかが、分からない。
学校に来なくなって、五日。
あの日から、男は夜を居場所にした。消えない声を、掻き消す為に。
五日前に何かがあったのかな。そう言えば、怒鳴ったのもあの日だ。
あのぎらついた目を見たのも、あの日。私が、何かをしてしまったのかな。
触れてはならない場所に、触れてしまったのだろうか。
じっとして動かないままで階段の上を見つめる私を、妹さんは心配してた。
とっても不安そうな顔で、私に何か言ってる。
77:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 14:04:47.83
ID:5nXLbPBOO
だけど、音が無い。何も聞こえない。
心臓がうるさくて、それだけが頭に響いてる。
やっぱり、私には無理なのかな。
我慢できなくなって階段から目を逸らした時、風が吹いた。
茶の間の対面。
廊下を挟んだ向こう側、階段のすぐ側にある和室からだった。
襖が開いている。どうやら向こうの窓から風が入ってきたみたいだ。
何の気なしに覗いみた。
その時、ちらりと見えた。
それは綺麗に手入れされた仏壇だった。男のお父さんがいる、仏壇。
78:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 14:07:28.04
ID:5nXLbPBOO
私は妹さんに頼んで、線香を上げさせてもらうことしにした。
後押し、きっかけ。
上手く行くようにと、お願いしたかったのかも。
妹さんは、ちょっと困ったような、不思議そうな顔で私を見たけれど、喜んでくれた。
二人一緒に、線香を上げた。
遺影以外にも、写真が何枚かある。
豪快で晴れ晴れとした笑顔。二人をぎゅっと抱きしめて、笑ってる。
どの写真でも笑顔だ。男も妹さんも、笑ってる。
79:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 14:11:02.37
ID:5nXLbPBOO
しばらく見入っていると、妹さん色々教えてくれた。
お父さんは、大工さん。
お弟子さんからも慕われてて、素直で真面目な人。
二十五歳で家を建てたとか、早くから親方になったとか、お酒が弱いとか、色々。
きっと尊敬していたんだろうと、大好きだったんだろうと思う。
でも、作業中の事故で亡くなってしまった。
それから、お母さんがおかしくなってしまったらしい。
支えがなくなって自暴自棄になったのか、そういう人だったのか、理由は分からない。
ただ、それから壊れていったのは確かだろう。
80:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 14:13:19.11
ID:5nXLbPBOO
線香の香りは苦手だけど、今だけは、この香りが何だか落ち着く。
もう一度手を合わせて目を閉じると、風が吹いた。
応援してくれてるのかな、とか。
勝手にそんな風に思いながら。しばらく目を閉じた。
不思議だ。
さっきまでは怖くてたまらなかったのに、今は怖くない。
心の中で何度もお礼を言って、私は再び階段の前に立った。
妹さんと手を握って、一段一段、ゆっくりと進む。
81:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 14:24:49.81
ID:5nXLbPBOO
さっきまで根が張ったみたいに動かなかった脚が、今なら動く。後は進むだけだ。
うだうだ考えて、悩んで、とても長かったけれど、やっと此処まで来れた。
人に会う。
それは、こんなにも勇気がいるものだったんだ。
人とは言っても、『好きな人』なわけだ。私にとっての、特別な人。
それなら、さっきみたいな事になっても仕方無い、のかな。
第一こんなの初めてだし、どうなるかなんて分かるわけないよ。
男の事情抜きにして、一人で此処まで、このドアの前まで来れたかどうか…
多分、いや絶対に無理だろう。
82:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 14:31:56.73
ID:5nXLbPBOO
ちゃんと妹さんにお礼言わないとな。
こんな小さい子に勇気を貰った。沢山、助けてもらった。
さあ、行こう。腹は括った。
このドアの向こうに、男がいる。
寝てるか起きてるか分からないけど、上手く話せるかも分からないけど……
もしかしたら、二度と会えないかもしれない。それで、呆気なく終わっちゃうんだ。
突き放されて、終わるだけかもしれない。きっとそうだ。傷付くだけだ。
うん、有り得ない話しじゃない。そんなの、簡単に想像出来る。
そうだね。『もしかしたら』そうなるかもね。
確かにそうなる『かもしれない』よ。だけどさ、それでもいいと思ってる。
やれるだけ、やってみる。
83:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 14:35:42.08
ID:5nXLbPBOO
また後で。思ってたより長くなってきた。読んでる人、ありがとう。
84:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 14:43:16.27
ID:5nXLbPBOO
ちょっとくどいな。展開進むの遅くてすまん。
85:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 15:14:57.42 ID:Q0vgiobMo
遅くてもいいよ
こういうのは好きだ
86:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/06/18(水) 16:22:50.82 ID:ViyjMsVK0
これはいいSSを見つけた
87:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 18:26:32.09 ID:gBr2L06DO
ゆっくり>>1のペースで進めていいよ。
楽しみにしてる。
88:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 18:34:32.13
ID:4vrIvcY0O
これは夢だ。
こんな事が起きるわけがない。
こんな場所に、彼女がいるわけがない。
僕は君を忘れたかったのに、何故夢にまで現れるんだ。
さっさと消えてくれ。
その瞳で、僕を見ないでくれ。
もう何もいらない、何も欲しくなんかない、どうせ叶わない。
優しい家族がいる。
ご飯だって毎日食べられる。僕はそれだけで満足なんだ。
89:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 18:39:20.45
ID:4vrIvcY0O
何かを望めば痛みを伴う。
そんな日々から、ようやく解放されたんだ。
大体、君は綺麗すぎる。
あの場所にいる誰よりも、君の存在は輝いてる。
眩しいんだよ、君は……
だから妬まれるんだ。
きっとそれは、憧れからくる嫉妬。
君が戦った女子も、噂を流したであろう人間も、きっとそうなんだ。
例え何もしなくても、君はそうなんだ。
だから、みんなが君を見る。
90:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 18:41:37.26
ID:4vrIvcY0O
側にいる人間が霞んでしまうくらいの、強い光みたいなものを放ってる。
髪型を真似しても何を真似しても、誰も君のようにはなれない。
だからこそ気に入らない。君の存在が許せないんだろう。
どうやっても届かないんだ。だから妬む。
例え君が、どんなに気さくな人間でも、君の隣には誰も立てはしない。
同性なら尚更だ。必ず比較されるだろうから。
それに、あそこにいる人間は、誰もが自分を見て欲しいと思ってる。
みんな『特別』になりたいと思っている。誰もがそうさ。
91:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 18:44:00.85
ID:4vrIvcY0O
だから馬鹿をやって気を惹こうするんだ。
だから誰かを見下して、誰かを笑って、自分は特別だと思いたいんだ。
それなのに、君は最初から特別なんだ。嫉妬もするさ。
誰もがなりたいものに、既になっているんだから。
だからもう少し、自分を大事にしなよ。
もう、喧嘩なんてしちゃ駄目だ。
傷が残ったら、どうする。
あれ、違う。言いたいのは、こんなことじゃない。
あぁ、そうだ。
92:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 18:45:47.80
ID:4vrIvcY0O
君は、僕なんかといるべきじゃない。
僕は、君とは歩けない。
だから、もう消えてくれ。僕の中から、出て行ってくれ。
君と歩きたいなんて、君と一緒にいたいなんて……
そんな馬鹿げた願いが形を為す前に、僕の前から消えてくれ。
もうじき夜だ。
夜が来たら、行かないと。
君の声も君の笑顔も、あいつの声と同じように、消してやる。
あいつが僕にしたみたいに、分からせてやる。
どんなに謝っても終わらないって、どんなに願っても叶わないって、思い知らせてやる。
こんな馬鹿な願いを持った僕に、思い知らせてやるんだ。
93:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 18:47:48.63
ID:4vrIvcY0O
「辛くないの」
辛くない。
これが僕なんだ。僕は、こうあるべきなんだ。
何で泣くの?
君なら何でも手に入れられる。好きなように生きられる。
それにあの時、素直に生きるって、そう言って笑ったじゃないか。
「待ってる」
もう止めてくれ。もう沢山だ。
こんなこと、あるわけない。
君が僕を待ってるなんて、あるわけがない。
君が、僕を望むような言葉を、言うわけがないんだ。
94:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 18:54:34.07
ID:4vrIvcY0O
「……あの場所で、待ってるから」
突然、彼女がゆっくりと体を傾けた。
僕の体は思うように動かない。
彼女が、僕の馬鹿げた願いが、僕を見つめたまま、少しずつ近付いて来る。
僕は何とか目を逸らそうとしたけれど、彼女の瞳がそうさせない。
一瞬。ほんの一瞬だけ重なって、彼女は離れた。
僕は呆然として、何が起きたのか分からないまま、彼女を見る。
すると彼女は涙を流しながら笑って、優しく手を握った。
僕はその手を払うことも、握り返すことも出来ない。
何故だか分からないけど、強張っていた体から、力が抜けていく。
もう夜が来るのに、あいつの声は聞こえない。
彼女は長い間、僕のベッドに腰掛けて、僕の手を握っていた。
こんな夢を見ているうちに、僕はその夢の中で眠りについた。
97:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 21:01:53.90
ID:jgsCloEmO
【女の自宅】
先に電話してて良かった。
結構遠いから、帰るのが随分遅くなっちゃったよ。
事情を話したら、お母さんも分かってくれた。勿論、全部話したわけじゃない。
それにしても、色んなことが起きた一日だったな。
帰る時、妹さんに私の番号教えた。何かあった時の為だ。
妹さんは携帯電話持ってないから、自宅の番号を教えてくれた。
何だか、凄く疲れた。
こんなに沢山走ったのは、中学校のマラソン大会以来だ。
98:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 21:05:09.49
ID:2J/VteIbO
男は熱でうなされてて、半分起きてて半分寝てるような感じだった。
上半身裸で寝てるから焦ったけど、それより衝撃的なものを見た。
顔やお腹にある幾つもの痣と火傷の跡。
擦り傷、切り傷まであった。
あんな傷、今まで一度も見たことない。
一体どれだけ殴られて、どれだけ殴ったんだろう。
手って言うか、拳が腫れてた。殴るのも痛いんだろうな。
しかも、いきなり『消えてくれ』なんて言われた時は、声出して泣くとこだった。
だから、妹さんに断って二人にしてもらった。泣くとこなんて、見られたくなかったから。
妹さんは何も言わなかったけど、了承してくれた。
99:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 21:06:44.90
ID:2J/VteIbO
本当に察しが良い子だと思う。
そこら辺は、とても小学生だとは思えない。
それから二人になって、男と話した。
ちゃんと話したって言えるのかは、分からないけど。
男って、私のことをあんな風に思ってたんだ。かなり意外だ。
私は、男が言うような綺麗な人間じゃない。私だって嫉妬とかするし。
あれは、男が作った私だ。
私も男のこと知らないけど、男だって私のこと知らない。
取り敢えず、男の中の私は置いとこう。
100:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 21:11:19.86
ID:2J/VteIbO
どんな風に想われてるのかは分かったし、素直に嬉しかった。
だけど、あんなに傷付いてるとは思わなかった。
虐待。
男の内側と外側にある傷跡。
言葉は勿論知っているけど、分かるかと言われたら、分からない。
理解した気でいた自分が、恥ずかしい。
男は言った。
望んだって叶わない、痛い思いをするだけだって。
優しい家族、毎日ご飯を食べられるだけで満足だって。
暴力を振るわれて、挙げ句、満足にご飯も食べれない日々。
101:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 21:16:56.05
ID:2J/VteIbO
そんな日々が、数ヶ月続いた。それが二人の体験したこと。
今でも忘れられない痛み、体に刻まれた傷跡、消したい記憶。
それを消す為に夜を歩いて、殴り合って、傷付いて……
ずっとあんなことを続けてたら冗談じゃなく、死んでしまう。
あの傷がもう少し深かったら?
それを考えるだけで、気が遠のく。
死ぬなんて嫌だ。もう止めて欲しい。
もう、あんな姿は見たくない。
それは妹さんも、お爺さんもお婆さんも、同じはずだ。
ちなみに、さっき電話が来た。
取り敢えず今日は大丈夫そうだと、妹さんは言っていた。
102:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 21:29:37.62
ID:2J/VteIbO
良く眠ってるらしく、顔付きも、いつものお兄ちゃんに戻ったらしい。
本当に良かった。
だけど、もしこの電話がもう一度鳴ったなら、それは悪い報せ。
出来れば鳴らないで欲しい。
それと帰り際、ちょうど病院から帰ってきたお爺さんお婆さんと話した。
挨拶と事情説明は、妹さんも手伝ってくれたお陰で助かった。
このお家に来たばかりの男の話しを聞いてる最中。
よく今まで警察沙汰にならなかったなと思って、恐る恐る聞いてみた。
そしたら妹さんが『そういう人』しか相手にしないんだって、と。
そういう人って何だろ、かなり怖い。深くは聞かなかった。
勿論、それを聞いて安心したわけじゃない。
刃物まで持ち出すなんて、喧嘩なんて言えるものじゃない。
そんなの、やらないのが一番良いんだ。
103:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/18(水) 21:33:04.36
ID:2J/VteIbO
後、出過ぎた真似して怒られるかと思ったら、何度もお礼を言われた。
お煎餅とか貰ったり、男とはどんな関係だとか聞かれたり。
妹さんも一緒に、四人で色んなお話しをした。
ちょっとくすぐったかったけど、とても楽しい時間だった。
女「……学校、来てくれるかな」
そう、問題はそこだ。
私の声が届いていたのか分からない。会話も成立してるか怪しかった。
聞こえてはいただろうけど、どうだろう。やっぱり不安だな。
最後の方は、私もボロボロ泣いちゃってたし。
何せよ、今の私に出来るのは待つことだけだ。言うべきことは、言えた。
だけど私には、まだ伝えてないことがある。
お礼と、私の気持ち。
伝える前に行動に移しちゃったけど、ちゃんと伝えたい。
あの場所で、男に伝えたい。
108:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 00:22:33.30
ID:FCY7BrJhO
あれから一週間が経つ。
僕は、まだ動けずにいる。
あの夢を見た翌日、妹から全て聞いた。
彼女がこの家に来たこと。
僕に会いに来たこと、この部屋に入ったこと。
あれは、夢じゃなかった。
妹は、随分と彼女を気に入っているようだった。
理由は、何となく分かる。
「僕は、どうする」
109:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 00:24:45.97
ID:FCY7BrJhO
彼女は、確かに此処にいた。
このベッドに腰掛けて、僕の手を握っていたんだ。
まだ手が熱い。唇にも熱が残ってる。
僕の為、僕に会う為。
それを聞いた時、喜びよりも戸惑いの方が勝っていた。
戸惑いと言うより、怖れているのかもしれない。
もう何も欲しがらない、そう決めていた。あの時から今まで、ずっと。
それを破った時、何かが起こりそうな気がして、怖いんだ。
そのはずなのに、僕の心はこんなにも落ち着いていて、安らいでいる。
夜の震えは収まり、あいつの声は、聞こえなくなった。
110:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 00:26:10.62
ID:FCY7BrJhO
人を殴って、降伏させて……
そうやってどうにか消していた声が、今は聞こえない。
相変わらず夜は怖いけれど、どうにか耐えられる。
何かが、変わってしまった。
たった一人、赤の他人。繋がりなんてない。
一度や二度会話しただけの存在なのに、何でこんなに大きく感じるんだろう。
僕が大切にすべきなのは、家族のはずだ。今でもそのはずだ。
なのに何で、こんなに辛いんだ。
僕は彼女に会いたいのか。彼女への想いを断ち切りたいのか。
彼女のことが好きなのか。
それとも、変わってしまうことが怖いのか。
111:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 00:27:44.60
ID:FCY7BrJhO
答えは出ているのに、動けない。
分かってるさ、本当は会いたい。
僕は、彼女が好きなんだ。
知っている。もう、知ってしまった。
あの笑顔、優しさ、温もり……
僕に向けられた何もかもが、僕の中に溢れている。
でも、こんな僕が彼女と歩くことは許されるのだろうか。
僕は人を傷付けて自分を満たすような、あいつと何も変わらない、醜い人間だ。
そんな屑みたいな奴が、何かを得ようとするなんて、許されるはずがない。
112:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 00:29:07.95
ID:FCY7BrJhO
「それでも、僕は」
何だ?
それでも、何だ。
卑屈になって、目を逸らして、痛みだけを頼って生きて行くのか。
いつまでもいつまでも、あいつのことを呪って『誰か』を傷付けるのか。
お父さんのように、なりたいんじゃなかったのか。
強くて優しい人に、憧れていたんじゃないのか。
だからこそ、彼女に惹かれたんじゃないのか?
113:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 00:30:59.15
ID:FCY7BrJhO
『あの場所で、待ってるから』
114:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 00:33:25.31
ID:FCY7BrJhO
「でも、僕は…」
『真っ直ぐに、人の目を見て話せる人間になれ』
『ははっ、大丈夫だ。間違わない奴なんて、失敗しない奴なんていないんだ』
もう、放課後。
本当に、僕を待っているんだろうか。
今も彼女は、あの場所にいるんだろうか。
それが知りたいのなら、行けばいい。
今からでも間に合うのかな。
こんな僕でも、まだ間に合うのかな。
考える暇があるなら動け。
ぐだぐだ考えるな。やりたいことを、やればいいんだ。
「……行こう。あの場所で、彼女が待ってる」
115:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 01:14:58.37
ID:FCY7BrJhO
「はぁっ、はぁっ」
「全く、遅いよ」
「はぁっ、はぁっ…遅れて、ごめん」
「ねえ」
「な、なに?」
「ありがとう。あんたのお陰で、私は変われた」
「そんなこと
「それに、私はあんたが思うような綺麗な人間じゃない」
「!!」
「勝手に決め付けないで。って、私が言えた台詞じゃないけど……」
116:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 01:17:28.46
ID:FCY7BrJhO
「あの、僕もありがとう。君に会えて嬉しい」
「う、うん。何だか、少し変わったね」
「これでも、精一杯」
「ははっ、そうなんだ。あのね……」
「うん」
「私は、あなたが好きだよ」
「でも僕は、人を傷付けて
「それは知ってる」
「でも今は関係ない」
「誰が悪いとか何が間違いだとか、私には言えないよ」
117:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 01:19:03.79
ID:FCY7BrJhO
「また繰り返すかもしれない。僕は、それが怖い」
「しないよ」
「えっ?」
「だって、此処に来れたでしょ?」
「そんなの分からないよ。それでも僕は、繰り返すかもしれない」
「それでも、だよ」
「えっ?」
「私は、それでもあなたが好きだし、あなたを信じる」
118:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 01:21:32.84
ID:FCY7BrJhO
「何で、そんなことが言えるの?」
「分かんない。目、逸らさないからかな?」
「そんな理由で
「男は強いよ。自分が思ってるより、ずっと強い」
「……っ、女さん!!」
「な、なにっ?」
「僕は…いや、違うな」
「?」
119:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 01:22:56.63
ID:FCY7BrJhO
「僕も、君が好きだ」
120:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 01:24:38.55
ID:FCY7BrJhO
終わり
121:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 01:35:50.77 ID:fSH4thYYO
乙!
いい読後感だ
122:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 01:36:07.54
ID:FCY7BrJhO
見てくれてありがとう。
最後、手抜きに見えるかもしれないけど、手抜きじゃないよ。
考えた結果、これがいいかなと思った。
気に入らなかったら、すまん。
125:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 01:57:21.80
ID:FCY7BrJhO
あと、レスありがとう。やっぱり嬉しい。
127:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 04:40:00.97 ID:9RyU6ZcDO
乙
すごい良かった
128:
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/19(木) 05:52:39.54 ID:Ae1NYcNWo
一気に読んだ
とても面白かったです
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