男「見られてない?」イケメン「…」じぃー【後半】
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男「店長。お疲れ様っした」
店長「はいお疲れさん。今日もがっぽり稼いでくれちゃったね」
男「俺はもう上がりですけど、店長は?」
店長「なにせ店長だからね。残らないとね、仕事だからねウフフ」
男「…そうですか、じゃあ自分はこれで」ペコリ
店長「来週もよろしくぅ~」
男(……。店長今日は非番なのにな、なんで居るんだろう?)ウィーン
男「え、暗っ」
店長「そうだよねぇ~最近はめっきり日が落ちるのも早くなっちゃったからねぇ~」
男「そ、そうですね…季節の変わり目って、ヤツですか」
店長「ウフフ」
男「……なんですか?」
店長「いやね。うんとね、君とこうやって季節のお話ができるなんて、夢みたいだよねってと思いましたね」
店長「ウフフ。逆よ逆、信念やら固定概念が強うそうに見えて、店長話しかけづらいなって思ってたのよね」
男(ソッチの方が立ち悪そうに思える…)
店長「けれど、君ってば近頃とんと親しみやすくなっちゃったから、店長嬉しくなっちゃってよく話しかけちゃうのよね」
男「嬉しいだなんて、まぁ、その、ありがとうございます」
店長「良いってことよぉ~」クネクネ
男(いい人だなぁ。ムキムキマッチョの見事な逆三角形を所持し、立派な髭を蓄えた人だと忘れてしまうぐらいに…)
男(いやいやいや、人を見かけで判断するのは良くない。このような人で良いんだ、自分が言えたものじゃないしな)
店長「時間は遅くないけれど、表通りに出るまでちょっとばかしデンジャラスな通りだからね。気をつけて帰るようにね、それとも家来るぅ?」
男「えっ? いや、晩御飯作らないといけないんで。また今度お願いします」
店長「いやだもぉ~振られちゃったのねぇ~ウフフ、じゃあ気をつけてね」
男「? じゃあお疲れ様です、店長」
店長「お疲れ様~」
男「…親しみやすくなったか」
男(バイトは入学当初から続けていた。かれこれ一年以上の付き合いの人も居る。店長なんかがそうだ)
男(けれど付き合いと言っても仕事場で顔を突き合わせるだけ。自分が出来る限り支障をきたさないよう気を張っていたから)
男(会話もせず。口にするのは業務上の内容だけ、終始無言に徹し、無駄なものは極力排除していた)
男「まさにバイトマシーンと化していた──なんて、今だからこそ分かることだけど」
男(当時の自分は、それが酷く歪だと言うことも気づかなかった。周りから見れば、ただ単に取っ付きにくい奴。面倒そうなやつ、だなんて)
男(まさに店長が言ってくれた通りのこと。なんか頑固そうなやつ、面白みが無さそうで、関わった分だけ損をしそう)
男「…分かってた、わかってるんだけども。何も出来ないのが自分だった」
男「ふぅ…」
男「変われたんだろうか。あの日から自分は昔の自分よりも、明るくなった……とか」
そう、あの日のことは忘れられない。
凝り固まった世界を割って入ってきた、不躾な視線。
己でさえ怖くて手を出されなかった、新しい自分を欲しがる輩。
その変な契約から生まれた──新しい人間関係。
男「ははっ。そりゃ変わりたくなくても、変わっちゃうか」
男(楽しいんだろうな。きっと、これが楽しいってことなんだろうな)
男(ずっとずっと続いたら良い、残りの学校生活が全て同じように続いたら、さぞ──)
男「──ううっ…それはちょっと高望みし過ぎか…?」
イケ友「タカノゾミ? なにそれ、AV 女優?」
男「どぉっうわっ!?」
イケ友「ちぃーす。男ちゃんこんな時間に、こんな場所で何やってんのー? ナハハ」
男「いっ、イケ友!」
イケ友「そうです私がイケ友さんです! なは!」
男「っ…びっくりした、急に後ろから話しかけるなよ…!」
イケ友「イっケ友さんったらイっケ友さん。ん? おーごめすごめす、久しぶりにこの通り歩いたら見覚えある背中が見えたからさ~」
イケ友「了解ぃ~! んで、どしってここに居るの? 男ちゃん、夜遊びにはお馬鹿の原因になるぜ~?」
男「ならないならない」
イケ友「おお? その感じ、信じてないだろ? じゃあ証拠材料として──おれを進呈する!」
男「え、それはちょっと怖いかも…信じざる負えない…かも」
イケ友「そうそうそう! だからこれからは気をつけるようにって、まってーい!」
男「あはは。冗談、冗談だよ」
イケ友「あの目はガチだったさ!? こっわー男ちゃんすぐにマジで受け取るんだもんよ、こっわー」
男「……」
イケ友「およ? どったの?」
男「いや、普通に俺はバイトでこの通りを使っただけなんだけど、イケ友の方はどうして…」
イケ友「ん? あー前にバイトしてるって言ってたっけ。じゃあ男ちゃんと一緒だわ。おれもバイト帰り」
男「……」
イケ友「…どったの? そんな見つめて、惚れちった?」
イケ友「?」
男「あ。そうだ、確か店長から貰った奴が──」ガサゴソ
イケ友「なによどしたのよ。急に黙りこくっちゃって、おれにも分かるように言ってちょ?」
男「黙ってて。良いから」ヒョイ
イケ友「おぇ?」
ぴとっ
男「…血が出てる。こめかみ部分、気づいてないのかよ」ポンポン
イケ友「………」
男「バイト先で余ったポケットティッシュ持ってきてよかった…ふぅ、じゃあこれ全部あげるから。垂れてきたら使って」
イケ友「………」
男「………」
イケ友「………」
男「な、なに? 貰わないの? …余計なお世話だったら、ごめん、謝るけど…」
男「お、おう」
イケ友「いやーまいっちんぐマチコ先生だわ。変な所見られちまったぜ、ナハハ」
男「…そっか」
イケ友「そうとも! んー男ちゃんすげーな、ほんっと。マジでリスペクトもんだわ」
男「え、なにが?」
イケ友「なんも聞かねーで、すぐさまティッシュ取り出して、他人の血なんて気にせず拭いてくれたじゃん?」
男「…いや、気にせずなんてことないけど」
イケ友「けれど手を出してくれた。だろ?」
男「まぁ、うん、だけど…気になるのは嘘じゃない。なんで血が出てるのかって、怪我した理由も聞きたいけど」
イケ友「うんうん。けど男ちゃん、んなこと咄嗟にできるやつはそう居ねえのよ。
つかおれの周りには居なかったね、まるで祭りごとかとやんややんやと騒ぎ出すのが、目に見えてるぜ」
男「それはそれで凄いと思うけど……咄嗟というか、」
ただ単に怖くて聞けなかったのが、本音だ。
沈黙は美徳。なんて、そんなたいそれた心構えを持ってるわけじゃない。
バイトは多分うそだ。そして怪我に対して無頓着な態度。
男(いくらでも想像することは出来る。けど、)
どうしたものかと、思い悩む。
けれど結局は答えなんて導き出せない。滞って、停滞するだけ。
男(あれ? そういえば…)
なにか、思い出そうと、した気がする。
けれど手がかりはするりと滑り落ちて、暗闇の中へ消えていく。
そういえば俺って、人と関わることをやめた理由は───
イケ友「こりゃお礼も兼ねて説明しなきゃだめかーふぁぁ~調度良かった、誰かに聞いて欲しかったし」ポリポリ
男「えっ?」
イケ友「ここから近くにベラボウ美味いたこ焼き屋あるんだけど、ちょっと時間ある? 無いなら断ってちょー、全然構わないからよ」
男「……教えてくれるのか?」
イケ友「あったりまえじゃん。聞きたくないなら別に構わないぜ? ナハハ」
男「…なんかその言い方は卑怯だ」
男「ははっ。わかった、聞かせてもらえるなら是非とも無いよ」
イケ友「おっ? マジで! じゃあ早速行こうぜ! ほらほら!」ぐいぐいっ
男「ちょ、ちょっと押すなって…!」
~~~~
イケ友「ここよここ。これがまた美味いのなんのって、すんませーん」
店員「はいはーい。やってるよーって、何よ、あんたか」
イケ友「なによとは何だなによとは。客だぜこっちは」
店員「ろくに金払わずツケしまくってる奴が客なわけ無いっしょ。泥棒と変わんねーよアホタレ。ったく───」チラリ
男「あの、どうも」
店員「……」
男「…?」
店員「おっおっおおおおおおっ!? この前の子だぁああああああああああああ!」
イケ友「んあ、知り合いなん?」
男「えっ? いやっ! 俺は全然見当も…っ!」
店員「あれれー? 覚えてないっ? ほらほら、駅前での!」
男「あ──もしかして、クレープ屋の?」
店員「そう! 昼間はクレープ作ってんのよ! 夜はたこ焼き!なになになに!?
今日はどったの?! どったの?! この前の超絶イケメン君は!? まだ関係は続いてる!?」
男「えっ、あのっ、えっと」
店員「きゃーマジかぁ~再度会えるなんて思わなかった、あのねあのね、あれから知り合いとかに君たちのことを話して、」
店員「あ。知り合いってのはとある同人作家なんだけどね、こりゃまた腐りまくってるのってなんの面白いやつなんだけど──」
イケ友「ハイハイ。ストップストップ」ぐいっ
店員「むごぉ!? むぃー! むぃー!」
イケ友「姉ちゃん。明らかに姉ちゃんのトークが男ちゃんのキャパ超えちゃってるから、わかってるかー?」
男「」
店員「ぷうはぁ! あ、ごめん。ちょい興奮しすぎた、いやー参った参った。んふふ」
男「リョウカイシマシタ」
イケ友「ほらみろ怖がってるじゃん。つーこって、今回はタダにしてちょ」
店員「なにが、つぅーこってだよ。テメーはさっさとツケ分両耳そろえて払え馬鹿野郎。あ、君はいいよ。むしろサービスしちゃうから」
男