人間は、遺伝子レベルで自分と似ている人を友人に選んでいる ―PNAS
仲の良い友人同士では、趣味や考え方だけではなく、遺伝子レベルでも互いに似たパターンを示していることが明らかになったとする興味深い研究成果が、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されています。
この研究は、カリフォルニア大学サンディエゴ校のNicholas Christakis氏とJames Fowler氏によるもの。Fowler氏らは、米国マサチューセッツで1961年から行われている大規模コホート「フラミンガム心疾患研究(the Framingham Heart Study)」のデータを元に、遺伝子の類似性解析を実施しています。
論文では、フラミンガム研究に参加している1,932人の被験者について、友人関係にあるものとそうでないものとで、遺伝子のパターンがどのように異なっているのか、 “類似係数(kinship coefficient)” という指標を定義して比較。その結果、友人関係にあるもの同士では全ての遺伝子のうち1%に相当する部分が共通しており、これは4親等なはれている親戚か、あるいは5代前の先祖と同等の類似性を示すものであるとのこと。
Christakis氏は、こうした結果について「1%というのは、専門家でない人にとって大きなものに見えないかもしれないが、遺伝学者にとっては意味のある数字だ。そして、何より驚くべきは、人々はそうしたことを知らないままに、互いに似た人を友人に選んでいることだ」と語っています。
当サイトでも、以前に「人間はDNAの似た相手と結婚する傾向がある」という研究結果をご紹介しましたが、もし本当に素性の知らない相手同士でも互いのDNAが引き合っているのかもしれないということは、なんだかロマンチックなことですね。
批判的な意見も
一方で、こうした結果については、民族性や “集団の階層化(population stratification)” と呼ばれる要因のために、見かけ上の類似性が現れているに過ぎないとする意見も上がっています。
デューク大学のEvan Charney教授は、英BBCに対し、「今回行われているような解析手法は被験者が互いに知らない状況でのみ有効だが、そのことを確認するのは難しい。また、このような研究ではDNA配列自体の重要性が過度に強調される傾向があるが、単一遺伝子マーカー(single-letter genetic markers)の類似性は、たとえその量が膨大なものであったとしても、人間の特徴や行動に重要な知見を与えるものではない」とコメントしています
また、オックスフォード大学の統計学者Rory Bowden氏は、「こうした手法は、教籍(church membership)やスポーツ・その他の文化的類似性などの友情をはぐくむ要素について、十分な説明を与えているのだろうか。そうした要素は、フラミンガム研究に参加している人々の先祖が、ヨーロッパのどの地域を起源としているのかを反映したものであるからだ。」として、近縁の先祖を持つもの同士での遺伝子の類似可能性について指摘しています。
おまけ
Christakis氏とFowler氏は、以前からコンビを組んで社会的ネットワークの研究を行っており、共同で著書も発表しています。
特にChristakis氏は2009年に米タイム誌「世界で最も影響力のある100人」にも選出されているほか、TEDでの公演も行っているなど、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と並び、米国科学界の “有名人” の一人です。
日本語化されているChristakis氏のTED映像がありましたので、はっておきますね。右下のドロップボックスから “Japanese” を選択すれば、日本語字幕が表示されます。
[PNAS via BBC News] [US San Diego]
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著者
企業の研究所で家電関連技術の研究開発に携わっておりましたが、2013年4月をもって退職し、当サイトの専属となりました。Techinityはソース明示のポイントを抑えた解説を、Cul-Onはちょっとした小ネタ紹介的な内容にしていければと思っております。
自分と似ている遺伝子を選び続けてたら、種の中での多様性が減っていくんじゃないのかなぁ