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DIY、ハードサイエンス、バイオハッカー...。MITメディア・ラボ、伊藤穰一氏が示すイノヴェーター未来予想図 : ギズモード・ジャパン

DIY、ハードサイエンス、バイオハッカー...。MITメディア・ラボ、伊藤穰一氏が示すイノヴェーター未来予想図

2014.07.29 21:30
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先日、虎ノ門ヒルズで開催された「MIT Media Lab @ Tokyo 2014」。2日に渡って、テクノロジーやアート、サイエンスなどさまざまな分野で研究を進めている日本や世界のイノヴェーター達が登壇した、密度の濃い豪華なカンファレンスでした。

このカンファレンスの2日目最後には、MITメディアラボ所長の伊藤穰一さんがクロージング・トークに登壇しました。伊藤さんは、教育からDIYカルチャー、エンジニアリング、バイオサイエンスなど、メディアラボ内と世界の最先端で起きている重要トレンドを紹介しました。

約50分以上に及ぶトークでは、普段は注目もされない、既存概念から少し離れているイノヴェーター達を数多く紹介し、未来を作るために何が必要か、今私たちの社会はどんな未来に直面しているのか、そして今後はどんなイノヴェーター達が社会の中心を担っていくのか、について深く教えてくれました。


教育システム


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伊藤さんはまず現代の教育システムは、情報の集め方や情報の消化方法、試験や評価基準がインターネット登場前に決められたシステムをベースに維持されているもので、現代の世の中に適応するためには、検索やコラボレーションを中心とした教育や情報収集に適応した基準を根底から作り変える必要があると語ります。

「インターネットが無かった時に生まれた人)」と「インターネットがある時に生まれた人」では、根本的な脳の構造が違ってくる。だからビフォア・インターネットの人たちが、将来の子どもたちのために一生懸命に未来を考えても、きっと想像できない。根本的に脳の作りが違う人たちのための街づくりや組織づくりをどうやって考えていくかが、私たちの課題。


世の中はコラボレーション


そして現代は1人をどう評価するかというアナログ世代な基準が中心ですが、本来はコラボレーション中心の構造に社会が変わってきているだそう。


情報を伝える構造(大学の講義)は全く進化していない。今の大学も同じ仕組みで、ほとんどの先生たちは生徒に情報や答えを与えているだけ。僕が考えるには、百科事典を丸暗記して初めて何かを行う権限が与えられる仕組み。これはビフォア・インターネットでアナログ時代の考え方。ストック型の情報収集。

今の時代では情報が手元にないほうがおかしい。ネットワークから必要に応じて情報をプルする。誰に聞けばいいか、何をすればいいのかが重要。

ただ学校の試験は、1人で何ができるのか、1人で何を達成したかを評価してきた。でも実際に世の中はコラボレーションが中心。難しいのは、コラボレーションをした時にどう評価するか。今の世の中は、何でも数値化したがるので、これは1人を評価することに向いている。グループで何したかの方が世の中のためになる。

テストや評価基準を変えないと、教育が根本的に変わらない。


ロボット人間は要らない


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これまでの教育システムでは、「ロボット」人間・「コンピュータ」人間を作ることには向いていました。しかしこれからは、誰かクリエイティヴな人が上にいてロボットのような作業をする人が下にいるトップダウンの仕事のしかたやものづくりではなく、みんながクリエイティヴを発揮するやり方に世界も変わっていくと、語ります。


今の教育システムにおける人の育て方は、何ができるかよりも、時間通りに言われたことができるかが、工場に人を配置してロボットのように規則正しい作業をしてもらうために必要だった。しかし、ロボットが進化してできるようになってしまったので、ロボット人間は必要なくなった。コンピュータが開発され人工知能ができたから、コンピュータみたいな人間も必要なくなった。

なので、これから必要な人間は、ロボットにもコンピュータにもできないことができる人間。

それは権威を疑って自分で考え、クリエイティビティを発揮する人。みんながクリエイティヴィティを持って、ロボットに作らせる世界に徐々に変わっていくのではないか...。

イノヴェーションのコストが安くなる


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伊藤さんは、MITメディアラボの生徒がKickstarterで資金調達して開発した3Dプリンターを例に出し、ハードウェアの世界にビジネスの面でも、通信コストやコンピュータのコストが下がったことによって、コミュニケーションやコラボレーションが容易になり、その結果イノヴェーション・コストが安くなったと言います。


グーグル、Facebook、ヤフーのインターネット企業は、お金をかけることなくプロダクトを作った。ネットワーク、PC、オープン・ソフトウェアがほぼフリーで手に入る。グーグルは、ビジネスモデルもなかったのに、投資家から資金を調達できた。これは、エンジニアリングやデザイナーが主導するイノヴェーション。

ビジネスモデルを考えなければいけなくなった時にMBAを雇う。MBAを企業が野党代わりにクラウドで届ける「MBAS」(MBA as a Service)を提供するVCも存在する。

今、この流れがハードウェアの領域で起きている。3Dプリンタで低コストでプロトタイプが作れるだけでなく、Kickstarterを使えば、学生でも3Dプリンタが作れる時代になった。

インターネットの世界で起きていることが、今後はエンジニアリングの世界でも起きる。


今まで大企業でしかできなかったことが、ヴェンチャーでも実現出来る世の中が当たり前になりつつあります。伊藤さんはメディアラボ卒業生で、1,500以上の商品を自らがデジザインし製品化する女性の起業家の話を出し、製造の技術もだんだん手の届く所まで広がっていると言います。


合成生物学(Synthetic Biology)がより身近に


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プログラミング可能で、メモリーにもセンサーにも医療用途にも使える、それが合成生物学。昔は何億もかかる機材が必要だったが、今は10万円規模のデスクトップ・ツールでも実験が出来る時代になり、遺伝子を組んだり解析するコストも下がってきています。バイオの世界は「ムーアの法則」を超える速度で成長している分野だそうです。

伊藤さんは、メディアラボで受け入れた1人の学生の事例を出します。Charles Fracchiaはバイオエレクトロニック・エンジニアリングの研究を進める中で、彼は「デジタル・バイオロジー」というバイオ・エンジニアリングとエレクトロニクスがクロスオーヴァーした新たな分野に挑戦しています。


上はメディアラボの生徒の1人が作った遺伝子回路。彼は、「お前はバイオとは違うね」「いや、お前はエレクトロニクスとも違うね」と言われて、どちらにも居場所が無かった生徒が作ったのが、バイオとエレクトロニクスのハイブリッドなセンサーだった。

彼の研究のように、2つの分野の中間の領域での発展が今一番面白くて、エレクトロニクスや脳や科学などハードサイエンスの分野にもこの融合が起きている。そしてMITやハーバード大のような教育機関でさえ、彼らの居場所がないのが現状。メディアラボではそういう人たちの場所を作ろうとしている。

20年前「インターネット」はシステム部門だけがやればいいと思っていたけど、今は誰もがやっている。それと同じで、「バイオ」は医療の会社だけがやるのではなく、必ずみんなの世の中に来ると思う。だから考えなければならないことは「バイオをやるべきかどうか」ではなく、「いつやるか」、それが問題だと思う。


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そして今、このコンテクストを意識したMITのバイオハッカー達が社会に出て、研究だけでなく人材育成にまでも貢献し、オープンな情報の世界を作っていると述べます。


世界で毎年開催されている「iGEM」という合成生物学のコンペは、対象の大学生だけでなく高校生も参加してくる。面白いのは、高校生が研究を発表したら、一番先にスポンサーに手を上げるのがFBI! 安全性の問題は考慮している。だけど、問題を恐れる余りに限られた人にのみ情報を公開するのではなく、みんなが理解できるようにして、そして若いころから倫理性を教えていくことが重要なのではと感じる。

現在バイオの世界では規制が強く、MITなど大学では実験の許可が下りなかったり、機材が必要になる場合が多い。そこで今起きているのは、ニューヨークやケンブリッジで「バイオハッキング」用のインキュベーションスペースができ始めてきた。そこで大学でもできない研究を進めるヴェンチャーが立ち上がっている。

ハードの会社も今までは中央の製品開発が作ったものを世界にプッシュするモデルだったが、これからは世界からプルしてヴェンチャー企業とつながっていく。バイオの分野も同じになる。


次世代のクリエイティヴな人の条件


最後に伊藤さんは、「アーティスト、デザイナー、サイエンティスト、エンジニア」と4つの関係性を深く分析し、次世代のクリエイティヴィティを持つ人材に求められる要素を説明していきます。


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デザイナーとエンジニアは似ている。アーティストとサイエンティストは似ている。ただデザイナーとエンジニアだけでは、成功できない。例えばiPhone。アップルがただ電話をデザインしようといくら努力をしても、あんな形状のデヴァイスを電話と結びつけることは不可能だった。でも結果、あの形状が全てのスマホのスタンダードになってきた。そこにはアートのインスピレーションがあったから、iPhoneのデザインが起きた。

ただ問題は4人がばらばらで存在すると、対話ができなくなる。そこで重要なのが、1人の中に4人が存在すること。自分の中で切り替えができて、全てができる人間が求められる。こういう人材を育てようとしているのが、今のメディアラボの目的だと思う。

これからの人材にはこれらの4つに対してある程度理解、あるいは関心がないと、本当のクリエイティヴな人間にはなれない。日本は文化系理科系と分けてしまうが、分けてはいけない。


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メディアラボではロボットやサイエンスのチームが同じ環境でガチャガチャ作りながら考える。サイエンスもあり、デザインもあり、エンジニアリングもアートもある。毎日がハッカソンみたいな1日で、ものを作っていく。ものづくりで始まって、その後に論文が出る。こういうものづくりを日本はもっともっとやっていくべき。小さい細かいものを作りながら、大きなものも作る、エコシステムを作っていかなければならない。技術ファーストではなく、プロジェクト・ファースト/オブジェクト・ファーストの世の中になれば、日本でももっと夢が持てるものづくりが実現できるかと思う。


今回のMIT Media Lab @ Tokyoのテーマは「逸脱によるイノヴェーション」でした。伊藤さんのメッセージには、イノヴェーションとは「既存概念」を疑い見つめ直すことによって見つけた新しい価値観をつなぎあわせていくこと。社会の中においてさまざまな分野でうねりを作っている異端児たちがルールを変えていくことが、未来を切り開くことへとつながるのかもしれません。


source: MIT Media Lab Tokyo 2014

(鴻上洋平)

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