少年「美しい景色を君に見せたい」 ?「…ぴゃぁ」
- 2014年08月05日 19:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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- 1 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:48:10 ID:A5KaJ/ds
<町外れの街道>
空は青く、高く澄み渡っていた
薄い木綿のように伸びて透き通った雲は、厚い雲と重なり折りたたまれる
街道沿いに一本、大きな枝を伸ばした木がある
その枝に座り、木の葉に隠れるようにして空を見上げるヒトがいた
?「………」
少年「あ。猫みたいな声の、鳥さんだ」
?「ぴゃぅ…?」- 2 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:48:55 ID:A5KaJ/ds
声を掛けると、少女が振り向いた。よくこのあたりで見かける少女…
少女、とはいってもそれは顔立ちの話であって、容姿はヒトの物ではない
ヒトの上半身を持ちながら、翼を背に生やし、足先は三又に分かれている
鳥。彼女はまさしく、鳥だった
少年「何してるの?」
?「ぴゃぁ、ぴゃあぴゃあ」パタパタ
少年「あー。空を、飛ぶ練習をしてるのかぁ」
翼をはためかせ、飛んで…というよりは、ゆっくりと下降してくる彼女
僕の前まで降りてくると、意思の疎通が取れたことを喜んで、可愛らしく笑った- 3 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:49:30 ID:A5KaJ/ds
?「ぴゃぁっ♪」
少年「猫みたいな鳥さん、よかったら手伝ってあげようか?」
何度か声を掛けた事があるけれど、どうやら彼女自身は発語ができないらしい
だから僕は、名前を知ることの無い彼女をこんな呼び方しか出来ないでいる
『猫みたいな鳥』
ヒトみたいな鳥と呼ばないのは、その可愛らしい声のほうが印象的だったからだ
その彼女は、僕の言葉を聴いてその翼をちいさくすぼめた- 4 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:50:03 ID:A5KaJ/ds
?「ぴゅぅ…」ショボン
少年「どうしたの? 大丈夫、飛ぶ練習なら手伝えると思うよ?」
?「ぴゃぁー」フルフル
少年「えっと…、無理だと思うのかな?」
少年「これでも僕、インキュバスなんだ。空も飛べるよ? 翼だってあるし」
僕は、彼女の翼に比べるとだいぶ見劣りのする小さな翼を広げてみせる
それを見て、彼女はすこし驚いたようだった
人間の子供だと思われていたのかもしれない- 5 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:50:37 ID:A5KaJ/ds
?「ぴゃぁ…ぴゃぁー」フルフル
少年「そんなに信用ないかなぁ…大丈夫だってば。ほら、手を貸して」ギュッ
?「ぴゃぁっ!?」パシッ
少年「痛っ…」
反射的、という感じで手を払われてしまった
嫌われているのかと心配したけれど、どうやらそうではないことはすぐにわかった
手を振り払った彼女は、申し訳なさそうに、だけど不安そうに震えていたからだ
?「……」プルプル
少年「…あ、そうか。もしかして、恐いの?」
?「ぴゃぁ……」コクン
少年「立派な翼がついてるのに、もったいないね」- 6 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:52:13 ID:A5KaJ/ds
僕は彼女の翼に手を触れる
その翼は思っていたよりもふかふかとしていて暖かく、絹のように滑らかだった
その感触に驚いて、何度も撫でてしまう
?「ぴゃぁ?」
少年「あ、ああ。ごめんね。本当に綺麗な翼だったから…」
?「……ぴゃ?」
少年「自分じゃよく見えないか。君の翼、ちょっとすごいんだよ?」
少年「すごく綺麗な翼。薄く青みがかかった羽先も、ほんのりピンクにそまった根元も綺麗で…とても立派な翼だね」ニッコリ
?「……//」
少年「それなのに、翔べないなんて。もったいないよ」- 7 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:53:01 ID:A5KaJ/ds
?「……ぴゃぁ?」
少年「あー… ごめん、何か聞いてる? 言葉がわからないから…」
?「……」ショボン
少年「ごめんね、猫みたいな鳥さん。わかってあげられなくて…」
僕がそういって頭をさげている間、しばらくオロオロとしている気配がした
多分、彼女は自分の責を感じているのに、僕が先に謝ってしまったことで戸惑っているのだろう
?「……ぴゃぁ…」ペロ
少年「わっ」
突然、手の平に生暖かいようなぬめりとした感覚があり、驚いて目を開く
彼女がしゃがみこんで、僕の手を舐めていた- 8 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:53:33 ID:A5KaJ/ds
少年「え、手? な、舐めた? どうしたの?」
?「…ぴゃぁー」ペロペロ
少年「…ああ。さっき振り払われたとこか… 大丈夫、痛くないよ」
?「ぴゃぁ」ペコリ
少年「あはは。謝らないで、無理やり手を引こうとした僕のせいだ」ニコ
?「ぴ…//」
優しい彼女、可愛らしい、猫のような鳥の女の子
僕はどうにかして、彼女を空に飛ばしてあげたくなった
少年「ねぇ。飛ぶのが怖いのって、高いのが恐いの?」
?「ぴゃぁぅ」フルフル
少年「じゃあ、自分で飛ぶのが恐いの?」
?「ぴゅぅ」コクン
少年「そっか……」- 9 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:54:34 ID:A5KaJ/ds
少年「よし! じゃあ、これならどうだ!」ダキッ
?「ぴゃぁぁっ!?//」
僕は、思い切って彼女を抱き寄せた
大きくて柔らかな翼を、慌てた様子そのままにばたつかせる彼女
その翼があまりに大きくて、僕の視界をさえぎってしまう
少年「縦じゃだめか、じゃあ…えっと、お姫様だっこしちゃえ」グイッ
?「ぴゃっ!? ぴゃぁぁ!?//」
少年「あはは。心配しないで」
?「……ぴぃ?」
少年「高いところに、連れて行ってあげる」バサッ…
?「…ぴゃ…!」
少年「いくよ。猫みたいな鳥さんに、美しい景色を見せてあげたい」
―――――――――――――――――――- 10 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:55:13 ID:A5KaJ/ds
<空、雲の上>
バサ…バサッ… バサッ…
彼女を抱いて空を飛ぶ
僕の小さな翼は細かくせわしなくはばたいているが、それは重さゆえじゃない
もともと、僕の小さな黒い惨めな翼は そのようにしてしか飛べないのだ
実際、彼女は立派な翼を持ちながらもたいした重さを感じなかった
その大きな翼はきっと空気のように軽いのだろうと思い、それを愛しく感じた
だが腕の中の彼女は、空を飛ぶのが怖いのか目を閉じたままだ
少年「猫みたいな鳥さん。目を、開けてみて」
?「……ぴ、ぴぃ…」
少年「すごく、綺麗なものが見えるよ。大丈夫、しっかりと支えているから…」
?「ぴゅぅ…」ソー- 11 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:55:43 ID:A5KaJ/ds
僕が促すと、彼女はそっと目を開けた
ちょうど、西に太陽が傾いている
西の空は真っ赤に燃え上がりながら、空を錦に染め上げていた
僕たちの居る真上はいまだに青
高い場所にある薄い雲の西側だけが、僅かに橙に染まっている
そうしてさらに東の空にいくと、青は濃さを増していく
遠くに見える白い半透明の月が、夜の気配を感じさせて…
少年「あはは。なんだか、時間の狭間に迷い込んだみたいだね」
?「ぴぃ…!」
少年「綺麗?」
?「ぴゃっ♪ ぴぃ、ぴゃぁっ♪」
少年「喜んでくれてよかった。僕も、ここまで綺麗な景色はみたことがないよ。ちょうど、時間もよかったんだろうね」
?「ぴぃっ♪」- 12 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:56:56 ID:A5KaJ/ds
興奮した面持ちで、彼女は顔をぐるぐると四方に向ける
ほんのわずかな時間で、色合いを変えていく景色を見逃さないようにしているらしかった
その瞳に写る景色を、僕は見ていた。やはり、とても綺麗だと思った
?「ぴゃぁ……!」
少年「すっかり夢中だね。少し、飛んでみようか」
?「ぴ……」
少年「大丈夫、手は離さないよ。…そのまま、景色を見ていて」
僕は彼女を抱いたままで、踊るように弧を描いて飛ぶ
昼を、夕を、夜を駆ける
まるで何日も時を飛ばしてしまっているかのような錯覚
それでいて幻想的に光り輝く景色だけは、永久のようにも感じられた- 13 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 01:57:38 ID:A5KaJ/ds
その時、強めの風が吹いた
同時に彼女の翼が大きく揺れたのが見える
?「ぴゃー…ぴぃ…」
少年「……? どうしたの…?」
?「ぴゃぁぅ…」プルプル
少年「震えてる…? 風が吹いて、怖くなっちゃったかな・・・?」
?「ぴ…」ブルブル
少年「うん、怖い思いを無理することは無いよ。そろそろ、降りよう」- 14 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 02:04:26 ID:A5KaJ/ds
僕はそういって、彼女をすこし強めに抱きなおしてあげた
先ほどまで興奮した様子で輝いていた瞳も、いまは不安げに翳っている
僅かに震える身体を抱き寄せて、暖かさを伝えることしかその不安を取り除くために出来そうなことはなかった
一体、彼女は何に怯えているのだろうか?
そんな風におもいながら彼女の様子を見ていると、彼女は小さく頭をさげた
?「……」ペコリ
少年「ええと…それは お礼、かな?」
?「ぴゃ」フルフル
少年「じゃあ、謝罪?」
?「……」コクン- 15 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 02:05:23 ID:A5KaJ/ds
少年「謝らないで。少し長居しすぎて、怖い思いをさせてしまったのがいけないから…楽しいうちに、降りればよかったよね」
?「ぴゃぁ…」
少年「怖くないように、ゆっくり降りるから…目を閉じていてもいいからね」
?「……」
そうして、僕たちはゆっくりと時間の流れの中に戻っていった
僅かに震えながら身体と翼を縮こませる彼女は、来たときよりもさらに軽いように思えた…
―――――――――――――――――――- 20 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 21:03:06 ID:A5KaJ/ds
<町外れの街道>
少年「おはよう、猫みたいな鳥さん」
?「…ぴゃぁ♪」
少年「昨日は、よく眠れた?」
?「ぴゃっ♪」パタパタ…
枝の上に座っていた彼女が、相変わらず飛ぶというよりはゆっくり落ちるという風に下降してくる
昨日と同じ、人懐っこい笑顔で僕の前まで降りてくると 几帳面に翼を折りたたんだ
その様子をみて、僕はようやく気がついた- 21 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 21:05:17 ID:A5KaJ/ds
少年「ねえ、猫みたいな鳥さん。…もしかして、翼を広げるのが下手なの?」
?「……ぴ」
少年「そんなにおおきな翼なんだから、もっと大きく振ってみないと飛べないんじゃないかな」
?「……」
少年「僕の翼は小さいから、パタパタって小刻みに動かすんだけどね」
少年「猫みたいな鳥さんは、大きな翼だから…もっとこう、バサァ!って広げなくちゃ 飛べないかもしれないよ」
?「ぴぃ…!」
なぜか彼女は目を大きく見開いて、声を荒げる様子を見せた
いいたいことはわからないけれど、翼をうまく動かせないのかな、と僕は思う
きっと、彼女が飛べないのはそのせいだ
だけどそれについて、彼女なりに何か理由があるのかもしれない- 22 :以下、名無しが深夜にお送りします 2014/07/23(水) 21:07:24
コメント一覧
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- 2014年08月05日 19:58
- (`ェ´)…
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- 2014年08月05日 20:04
- いいSSだった!
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- 2014年08月05日 21:59
- 何て話や~
こういうSSに会うと、まじで涙とまらへん
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- 2014年08月05日 23:16
- かってにシロクマかと思った
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- 2014年08月05日 23:23
- あれ?佐藤裕也は?
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- 2014年08月05日 23:28
- 酒匂かと思ったらハーピーだった
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- 2014年08月05日 23:36
- こういうのは、所々の展開とかが荒くても引き込まれるなぁ
良かった
こういう雰囲気のは大好きよ