「夜の水族館」プロジェクションマッピングを手がけるNAKED村松氏「これは恋愛みたいなものです」
7月20日から新江ノ島水族館で始まったナイトアクアリウム。夜の水族館×プロジェクションマッピングという最高の組み合わせで話題を独り占めにしています。手がけたのは東京駅のプロジェクションマッピングやハコビジョンなどでお馴染みのNAKED Inc.。
代表を務める村松亮太郎さんは俳優から映画制作まで手がけた経歴の持ち主。97年にNAKED Inc.を創業して以来、MVやCMをはじめ多岐にわたる活動を行ってきました。そして現在では新たな表現の手段としてプロジェクションマッピングを活用し、話題の企画には欠かすことのできない存在です。今回はそんな気鋭のクリエイター集団であるNAKED Inc.にお邪魔して「ナイトアクアリウム」から、彼らの創作の神髄まで伺ってきました。
プロジェクションマッピングは固定概念というフレームを壊す手段
ギズ:今まで東京駅やカレッダ汐留などたくさんのマッピングをなされてきたと思うのですが、今回どうして水族館という発想に行き着いたのでしょうか? 生き物がいるのでものすごく難しそうです。
村松さん:一般的にプロジェクションマッピングは建物やオブジェクトがボコボコ立体的に動くイメージがあると思います。でも、建物に映像を投影することがプロジェクションマッピングの定義ではなく、それは1つの手段。本質は固定概念を崩すことだと思っています。加えて言うなら、それまでは映画やテレビといったフレームの中だけで存在していた映像が、その枠から飛び出たことが画期的なんですよね。
村松さん:たとえば、東京駅のマッピングは駅舎自体に何か仕掛けを施したんじゃないか?と本気で思われた方もいたと聞いています。つまり建物自体が別のものに感じられる。このプロジェクトをとおして映像がフレームから開放されたとき、もはやそれは空間演出になり得るんだと実感したんです。
特に僕の場合は、普段知っている世界が全然違うものに見える、そんなことをやりたいと思っていたので「一般的なイメージのある水族館を変えてみたい」という発想に行き着きましたね。もともと自分も水族館好ロマンチックで好きだったっていうのもありますが(笑)。
会ったこともない絶世の美女よりも、近くにいる女の子に恋をする
村松さん:今回のナイトアクアリウムのテーマは「深海(Deep sea)」なんです。数十年前までは非日常と言うと海外が対象だったと思うのですが、今はネットの普及もあって「だいたい知ってる」。そしてもう一方、テクノロジーの発展で「少しイメージできそう」になってきたのが宇宙と深海だと思っていて。
宇宙旅行も受付が始まったように、各々具体的イメージまでは沸かないけれど、手に届かないわけではなさそう…この絶妙な時代感がより一層それらの興味を引き立てるのではないか、と。会ったこともないハリウッド女優はきれいだと思うけれど恋はしない一方で、近くにいる可愛い子のことを好きになる。これに似てると思って(笑)。だからこそ深海、そして水族館っていう空間を演出したくなったんです。
普段知ってる空間が変わる=ユーザが主役の物語になる
ギズ:今回の江ノ島水族館は大水槽でのマッピングはもちろん、さざ波があったりインタラクティヴなものがとても印象的でした。
村松さん:そうですね。これもさっきと同じでプロジェクションマッピングはオブジェクトに投影するだけじゃないことを表現したかったんですよね。入り口付近の岩にマッピングしているんですけれど、それが1番スタンダードなものです。最初にこれを見てもらって「ああ、ナイトアクアリウムはこういうものなんだ」とわかってもらってからさざ波へ行く。実は、このイヴェント自体が、ユーザが深海へ潜っていく一連の物語になっていて、さざ波のところから海中へ入るわけです。
村松さん:僕のこだわりはアナログっぽさにもあるんです。今まであったインタラクティヴなインスタレーションの多くが、それを体験できる「所定の位置」があったり、「トリガーになる行動が決まっている」ような気がして。
もちろんそこには最先端な技術が組み込まれているんだと思うんですけれど、体験している人たちにとってはそこまで見えない。だからユーザ的に考えると、所定の位置に立たされて、こうしなさいって言われる感じがしたんです。スマートじゃないっていうか。
ギズ:ユーザの行動をもプログラムされている感じですね。
村松さん:本当にそんな感じ。決められた行動をとって決まったアクションが起こる。そうすると驚きや感動ってやっぱり減りますよね。だから、今回のさざ波はじめインタラクティヴなギミックには説明がなくてもわかりやすいものにしました。波打ち際を歩いていたら、夜光虫が寄ってくる…っていうのはとても自然でスマートな体験なんじゃないかと。
もちろんこのギミックは人を感知するセンサーで反応するデジタルなものなんですけれど、フィジカルで感覚的な…純粋に「わぁ、波だ!」って感じてもらうことを重要視しましたね。言葉では説明できない感動、これが自分のやりたいことでもあるので。言葉で説明できるってことは、コピペ可能なんですよね。僕はコピペできないものを作りたい。だからこそ、五感を刺激するような「体験」を提供したいといつも考えているんです。
ギズ:大水槽のプロジェクションマッピングは圧巻でした。途中、枠からはみ出たように感じたのですが…。
村松さん:あれは計算なんです。最初はスクリーンの中だけで繰り広げられているんですけれど、途中でメガマウスがやってきてフレームを打ち破るストーリー。僕がプロジェクションマッピングをやってる本質もそうなんですけれど、フレームやボーダーを超えていくっていうのにものすごく執着しているので(笑)。
ギズ:スクリーンの外にはみ出るってことは、水槽に投影してるってことでしょうか?
村松さん:実は、はみ出た部分は壁面なんですよ。もともとは水槽全体にマッピングしたかったんですが、そこに投影すると透過してしまうんです。透明なシートを水槽全体に貼って…という手段も模索したのですが、水族館は昼も普通に営業しているんですよね。仮に良いシートが入手できたとしても、どうしても透明度が落ちてしまう。ナイトアクアリウムは17時以降のイヴェントなので、全てを加味した結果一部を曲面スクリーンにしたハイブリッドな形態になりました。
でも、スクリーンという印象も極力持ってほしくなかったので構造上ギリギリのところまで水槽に近づけました。あのセットは、明るいところで見るとスクリーンの存在を感じると思うのですが、不思議なことにマッピングが始って周りが暗くなると「見えなくなる」んですよ。そこは自分でも驚きでした。
日常の地続きとしての非日常のインパクト=コピペ不可
ギズ:物語的な構成からか、水族館全体が魔法にかけられたような印象を受けました。
村松さん:そうですね。そういう意味ではアミューズメントパークに近いかと思います。でもキャラクターベースのアミューズメントパークって、行った人はどうしても「エキストラ」になってしまうんですよね。キャラクターがいる世界が非日常空間過ぎて。
ただ、東京駅にしかり水族館にしかり現実世界のものがその姿を変えるとき、非日常感はアミューズメントパークのそれとは違う形で人を魅了するんだと思うんです。ユーザの日常の続きとしての非日常。そこには遮断がないからこそ、没入感が強い。それが今のトレンドだと思ってます。
たとえば、最近公開された映画の「LIFE」も目の前の日常を変えろ!っていうメッセージが込められている気がして。そこに生きる喜びがあるというか。生活の中にある非日常を見ることで、日常の見方が変わるかもしれない。それってものすごい物語だと思うんですよね。ユーザ1人1人全く違った日常を送っているわけだから、絶対にコピペできない。
ギズ:でもテクノロジーが進んでいくと、よりリアルにいろんなことが再現できるようになって、コピペに近付いていくような気もします。
村松さん:確かにリアルとヴァーチャルはクロスオーヴァーしていくでしょうね。この流れはとめられない。でも、その境目には今のところどうしてもメディアが存在しますよね。それこそたとえばディスプレイとかフレームが映像と現実を境界づける。僕はそうやってメディアに乗って運ばれていくものに興味がなくなってきてしまって。
テクノロジーが進むと、どういうわけか均質化していくんですよね。高度にデジタル処理された作品ってもはや誰が創ったのかわからない。そういう均質化していきつつある中に情緒的価値を紡ぎだしていきたいと思っていて。
村松さん:たとえばハコビジョン自体はかなりローテクなものなんです。でもあれは、自分のiPhoneで投影を楽しめるっていう体験がとても大事でエモーショナルなんですよね。もちろんテクノロジーをたくさん使うんですけれど、あくまでエクスペリエンスとしてどうなのか?ということを追求していきたいと思ってるんです。左脳で理解するものではなくて、泣けるとか驚きとか本能に訴えるものを重視しています。
恋愛とプロジェクションマッピングの関係
村松さん:ハイテクとローテク、デジタルとアナログみたいなフレーム付けってそれぞれの「違い」があるからそのボーダーを超えていけると思ってるんです。僕がSNSでちょっと違和感を覚えるのは「柔らかく融合する」感じ、みんな「いいね!」みないなこと。「みんな同じ感じでいいよね」という雰囲気は「違う」ものを排除する可能性があるんですよね。たとえば、ハイテクだったらハイテク至上主義に向かう。そうじゃなくて、デジタルとフィジカルをどう組み合わせる面白いのか?ってことを考えるところに色気があると思うんですよね。違うからこそいい。
恋愛だって同じで、男女なんてまず性別が違う。個々人でも価値観が違う。その違いを越境するのがコミュニケーションでありインタラクティヴだと思うんですよね(笑)。
ギズ:でも、恋愛だったら「わかって欲しい!」っていうのがあったり、一方アーティストだと「この作品はこう感じて欲しい」みたいな思いっていうのがあると思います。相手との違いを前提としていると、そういう欲みたいなものってどうなるんでしょう?
村松さん:ないですね。作っているときは「僕のもの」なんですけど、作品が完成して人が見た時には、それはもう「僕のもの」じゃなくなるんです。「その人のもの」になる。プロジェクションマッピングはまさに「その人が日常的に思っているイメージが変わる」ものなので、僕の手からは完全に離れていってしまってるわけです。重要なのは僕ではなくて作品で、自分が生んだものがどうなっていくかということ。僕自身、自分の感覚はゼロから生まれたものではなくて、カフカだったり量子心理学やU2だったり、はたまた「アビス」だったり。過去に自分が見てきたものが僕の中でミックスされたものだと思っているんです。僕はそれらの媒介でしかないんです。
ギズ:村松さんご自身がメディアのような感じですね。だからこそ既存のメディアを越境された活動をされているのかも…。
村松さん:あははは(笑)。そうかもしれませんね。確かに。だからこそ変幻自在というかやっていることがボーダレスになれるもかも。
プロジェクションマッピングとは、映像をフレームから開放する手段だと語る村松さん。実はNAKEDでの創作活動も、自身の価値観も全ては枠組みを越境するというものだったようです。
日常と非日常がクロスオーヴァーする空間、ナイトアクアリウム。その表現にはたくさんのテクノロジーが詰まっている一方、根底にはフィジカルで本能的な思考が流れているようです。まさか「夜の水族館×プロジェクションマッピング=恋愛的コミュニケーション」という図式が成立するなんて思いもしなかったです。あ、これもまた固定観念というフレームを壊されたってことなのでしょうか。
source: NAKED Inc. , 新江ノ島水族館 ナイトアクアリウム
(嘉島唯)
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