輿水幸子「1/2」
- 1 : ◆8HmEy52dzA 2014/08/13(水) 21:02:18.35 ID:STuQm9m00
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地の文、モバマスSSです。
- 2 : ◆8HmEy52dzA 2014/08/13(水) 21:04:04.75 ID:STuQm9m00
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01
「……遅いですね 」
世界一カワイイボク、こと輿水幸子はとある喫茶店の前で待ち合わせをしていました。
行き交う人々も例外なくこちらを見てはさり気なく目を逸らして行きます。
きっとボクがカワイすぎて声を掛けたくても掛けられない……そんなところでしょう。
カワイすぎるってのも罪ですよね。
でも恨まないでくださいよ?
ボクがカワイイのはボクがボクだからなのですから。
腕を組んで待つ姿も堂に入っている事でしょう。さすがボクです。
話を戻しまして、待ち合わせ相手はボクのプロデューサーです。
正直言って冴えない人ですが、プロデュースの腕はまぁ、そこそこに評価出来ます。
ボクはカワイイ上に器が大きいですから、ここはせいぜいボクのカワイさを全世界に広めるために役立ってもらいましょう。
プロデューサーだって、ボクのために働けるのですから嬉しくて仕方がないハズです。
それにしても……本当に、遅いですね。
何か事件でも……いえいえ、あのプロデューサーさんのことです、どうせくだらない理由で遅刻しているに違いありません。
ボクがプロデューサーさんのことを心配するなんてことある訳ないじゃないですか。
まったく、ボクが紫外線にやられたらどうしてくれるんですか。
まあ、ボク程にもなるとお肌のケアもバッチリですので、日焼けしたりにきびが出来たりはしませんけどね。
完璧な美少女は自己管理も完璧なんです。
「…………うん」
暇ですね。
ええ、これも全てプロデューサーさんのせいです。
そうですね……丁度いいですし、着いたらどんな皮肉と罵声で迎えるか、考えておくとしましょう。
ボクを待たせた罰です。
これは是非とも受けてもらいましょう。
- 3 : ◆8HmEy52dzA 2014/08/13(水) 21:06:18.30 ID:STuQm9m00
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えーと。
『遅いですよプロデューサーさん、ボク程の女の子を待たせるには十年早いんじゃないですか?』
プロデューサーさんは大学を出て数年、と言っていたのでまだ二十代半ばだったはず。
アイドルのプロデューサーとはいえ女の子の扱いにはそこまで慣れていないでしょう。たぶん。
モテなさそうな顔をしていますしね。
というわけで、女性を扱う年齢としては早いのに、ボクの元に来るのは遅いんですね、というウィットに富んだ文句です。
ふふん、さすがはボクです、何をやらせても一流ですね。
次です。
『まったく、本当にプロデューサーさんはボクがいないとダメダメなんですから』
これはいつものボクですね。
彼はボクがいるからこそプロデューサー業を営んでいられると言っても過言ではないハズです。
ボクがいなかったらきっと今頃は路頭に迷っていてもおかしくないでしょう。
一見、バカにしているように取ることも出来ますが、その実は、それでも貴方にボクのアイドル生命を任せてあげているんですよ、というボクなりの優しさが含まれています。
まあそれに気付くかどうかは彼次第、といったところでしょうが、この程度のことに気付かないくらいではボクのプロデューサーは務まりませんよ?
『プロデューサーさん……寂しかったんですから……!』
変化球としての一手です。
いつも自信と実力が伴う美少女として馴らしているボクのこと。
そんなボクがいきなりしおらしくなったらプロデューサーさんもさぞやビックリすることでしょう。
涙のひとつでも付けたらなお効果的ですね。
涙は女の最大の武器、とも言いますし、それをボクが使ったら鬼に金棒、いえ、輿水幸子に涙という新しい慣用句が出来ても全然おかしくありません。
新しい慣用句まで産み出してしまうとは、ボクはどこまでスゴいのか自分でもわからなくて怖いくらいですよ、本当に。
ですが根が天使なボクです。
涙で他人を謀るというのも気が引けます……惜しいですがこの案はお蔵入りですね。
優しいですねえボクは。
『プロデューサーさんのバカ! もう知りません!』
これはこれで効果的です。
装飾も捻りも何もない言葉ですが、それだけに与えるダメージは大きいハズです。
もちろん、ボクは女神様のように寛大で器の大きいことで有名ですから、本気で怒ったりはしません。
つまり怒ったフリです。
いくらボクが寛容な女の子とは言え、それにつけこんで怠惰になるようでは意味がありません。
ですから、時にはこうやって怒ってあげることも必要なんです。
まったく、自分のことだけでなく担当プロデューサーなんかのことまで考えてあげるなんて、ボクは本っ当に人が出来ていますね。
中学生でここまでなんです、大人になる頃には一体どうなってしまうのか、怖くて想像できないじゃあないですか。
神様も不公平ですよね、ボクみたいな完全無欠の存在を産み出してしまうなんて。
- 4 : ◆8HmEy52dzA 2014/08/13(水) 21:07:45.36 ID:STuQm9m00
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「……幸子、なにさっきから世間様にドヤ顔を振りまいているんだ」
「ひあぁっ!?」
いきなり背後から声を掛けられ、前方につんのめります。
転ぶのを咄嗟の身体能力で回避し後ろを振り向くと、声の主、プロデューサーさんがいました。
「お、脅かさないで下さいよ!」
「いや、何度か声は掛けたんだが」
お前気付かないんだもん、とプロデューサーさん。
どうやら考え事をしていて気付かなかったようです。
カワイイだけじゃなく頭がよすぎるってのも考えものですね。
「そ、そんなことよりボクを待たせるなんて何考えてるんですか!」
「ん?」
「まったく、女性の扱いもまともに出来ないんですかプロデューサーさんは! レディを待たせるなんて男として失格ですよ!」
そっぽを向きながら皮肉も十二分に文句を言います。
さっきのことを忘れてもらうためにも勢いで流してしまいましょう!
ええ、完璧なボクに失態なんて許されませんからね!
「いや、今、待ち合わせ時間十分前なんだけど」
「……え?」
腕時計をぐいと押し付けてくるプロデューサーさん。
あ、腕太いなぁ、男の人って。
思わず固まってしまいます。
このまま彫像になってしまえばきっと世界遺産として登録されることでしょう。
「成程なあ、流石は世界一可愛いアイドル輿水だ。俺みたいな木っ端のプロデューサーにまで気遣いして早く来てくれるなんて、アイドルの鑑だよ全く」
「くぅ……っ!」
ニヤニヤと厭らしい笑顔を浮かべながら褒め殺しにかかるプロデューサーさん。
「……プロデューサーさんは意地悪ですね。そんなことでは女性にもてませんよ」
「わかったわかった、そこの喫茶店で打ち合わせしながら茶でも奢ってやる」
「そ、それなら許してあげなくもないですよ」
本当はもっと言い足りないところなのですが、まあこれくらいで許してあげましょう。
ボクは優しいですからね。
- 5 : ◆8HmEy52dzA 2014/08/13(水) 21:22:31.75 ID:STuQm9m00
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オシャレな喫茶店にてプロデューサーを対面に優雅なティータイムです。
アイドルたるもの、プライベートな場でも常にアイドルであることを意識しなければなりません。
特にボクみたいな超有名人はどこにいたって素性がばれてしまいますからね。
有名税とはいえ人気者は辛いですねえ。
「幸子、注文決まったか?」
「はい、どうぞ」
「すいませーん」
プロデューサーさんが声をかけると、店員さんがやって来ます。
「クリームソーダと……若鶏の和風照り焼きセット、ライス大盛りで」
「エスプレッソとスペシャルプリンパフェを」
「かしこまりました」
店員さんが去るのを見計らってプロデューサーさんが呆れたように溜息を吐きました。
なんですか、レディの前でこれ見よがしに溜息なんて失礼ですね。
それに打ち合わせでがっつりとご飯を食べるなんてデリカシーに欠ける人です。
そんなのだからハタチを越えても彼女が出来ないんですよ?
まあそういうことは思っていても口に出さないのが大人ですよね。
気遣いのできるボク、さすがです。
「皆まで言うな。お前の考えは手に取るようにわかるぞ幸子」
「なんのことですか?」
「いつもココアやカフェオレを頼むお前が、今までコーヒー系の類なんてミルクと砂糖の入ったものしか飲まなかった幸子が、何故今日に限ってエスプレッソを頼むか、だ」
「え……プロデューサーさんが、な、なにを言っているのかよくわからないんですけど」
「この間、俺が子供だなぁ、って言ったの気にしてるんだろ?」
頬杖をつき、ニヤニヤと厭らしく口元を歪めながら笑うプロデューサーさん。
……気に入りませんね。
特にボクのことは何でもお見通しですよ、と言わんばかりのその言い草は。
でもその程度の挑発に乗るボクではありません。
ここは大人の対応というべき返しをしてあげましょう!
- 6 : ◆8HmEy52dzA 2014/08/13(水) 21:24:16.93 ID:STuQm9m00
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「はて、なんのことだか分かりませんね。ボクはエスプレッソが飲みたいから頼んだだけですよ?」
「じゃあなんでそれなりに幸子と付き合いの長い俺は、今まで頼んでいるところを見たことがないんだ?」
「それは世界一カワイくて優しいボクですから、子供っぽいプロデューサーさんに合わせてあげていたんですよ」
「……へえ」
そうなんだ、と感心しているのか微妙な表情で固まるプロデューサーさんでした。
ふふん、ボクの言葉巧みな筋道の通った解説にぐうの音も出ないみたいですね。
ボクをからかおうだなんて百年早いんですよ。
それに、よく食べたりよく表情がころころ変わるから子供っぽいっていうのは間違っていませんし。
「それはいいけどさ、幸子」
「はい?」
「お前、エスプレッソがどういうものなのか知っているのか?」
「どういうものって……コーヒーの仲間でしょう?」
エスプレッソを作っているところなんて見たことないですから確証はありませんが、ドリンクバーとかで見る限りはコーヒー……ですよね?
プロデューサーさんには内緒ですが、正直言うと飲んだことはありません。
コーヒーやカフェオレがなくてエスプレッソしかない、なんてお店は寡聞にして知りませんし、そもそも選択する理由がないんですよね。
でもエスプレッソってなんだかブラックコーヒー以上に大人の飲み物、ってイメージがあるじゃないですか。
「間違っちゃいないんだが……まぁいいか」
「?」
「お待たせいたしました」
プロデューサーさんが何を言いたいのか結局わからないまま、店員さんが注文の品を持ってきました。
「……あれ?」
「どうした幸子?」
- 7 : ◆8HmEy52dzA 2014/08/13(水) 21:26:42.79 ID:STuQm9m00
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先に持って来たのは、調理の手間の少ないであろうボクの注文……でしたが。
なんでしょう、エスプレッソがものすごく小さいです。
それこそ一口でなくなってしまいそうなほどに。
……わかりました、こういうものなんでしょうね、きっと。
恐らくは希少価値が高いから量が少ないんです。
だからこその味のわかる大人の飲み物、という認識なんですね。
さすがボク、推理力も半端ではないですね。
ここは初めてということをプロデューサーさんに気取られたくありませんし、平然と対処しましょう。
「いえ、何も? ああ、いい香りですねえ」
黒い少量の液体は、香りも色もどこからどう見てもコーヒーの類でした。
まったく、ボクを脅そうとしてもムダですよ。
ボクを誰だと思っているんですか。
「では、お先にいただきます」
「どうぞどうぞ」
未だにプロデューサーさんが笑っているのは気になりますが、十四歳の未成年とはいえ、ブラックコーヒーが飲めないほど子供でもありません。
小学生じゃないんですから。
幼児用かと思うほどの小さなカップを手に取り、口をつけました。
コーヒーの香りは情熱のアロマとも言われています。
優雅でセレブなボクにはぴったりな謳い文句ですね。
「…………!」
舐める程度の量を口に含み、小さな音を立ててカップを置きます。
ふうん……これがエスプレッソですか、へえ……うん。
プロデューサーさんが脅かすからどんなものかと思えば、いう程大したことありませんね。
決して苦くて飲めないとか、砂糖やミルクを入れたいという誘惑に駆られているとかじゃありませんよ?
……違いますよ?
「どうした幸子、美味いんだろ?」
「え、ええ、そりゃあもちろん美味しいですよ。やっぱりエスプレッソはいいですね。ボクは大人ですから」
「……そんな小刻みにぷるぷる震えながら涙目で言われても説得力皆無だぞ」
「違うんです! こ、これはその……そう、寒くて! 冷房効きすぎですよこの店、まったくもう」
「ああ、そうだな。確かに冷房は効きすぎだ」
いや違うんですよ、本当に。
決して苦すぎて思わず震えてしまったとかではないんですよ。
いや、でも……。
なんなんですかコレは、苦すぎにも程がありますよ。
まるで親の仇を討ち漏らしたサムライの心境のようにコメント一覧
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- 2014年08月13日 22:56
- 長い
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- 2014年08月13日 23:02
- これは腹パンできない。
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- 2014年08月13日 23:10
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これぞ幸子だよな〜自信家に見えても中身は14歳のか弱い女の子、たまりませんな。
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- 2014年08月13日 23:11
- ええやん。大の大人が中学生に惚れただのはあかんけど。
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- 2014年08月13日 23:11
- マスター、どす黒い珈琲を頼む!
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- 2014年08月13日 23:29
- いい話だけど幸子は左利きやで
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- 2014年08月13日 23:52
- 長いわ
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- 2014年08月13日 23:52
- 幸子が右利きってところで見るのをやめた
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