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紬「律ちゃん大変!唯ちゃんがキチガイになっちゃったわ!」



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サシャ「月が綺麗ですね

1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:18:25.85 ID:E94NBewb0


律が部室に入るや、紬がいきなりそう叫んだ。
突然のことに律はため息をつく。

「あのな、ムギ。唯のは個性なんだ。
 そういう滅多なこと言うもんじゃないぞ」

諭すように言う。

「ひどいなぁ、二人とも」

その後ろで唯がしょんぼりと俯いた。


2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:20:27.50 ID:E94NBewb0


「そろそろね!」

時計を確認した紬が言う。

「何が?」

律が問いかけた。
唯もきょとんとした顔をしている。

「律ちゃん! 唯ちゃんに注目して!」

「はぁ?」怪訝な顔をして唯の方を見る。
呆けた顔をした唯と目があった。
そのまま数秒見つめ合う。
すると。

「ホロッホー。ホロッホー。ホロッホー。ホロッホー」

唯が鳩の鳴きまねをした。


4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:23:13.14 ID:E94NBewb0


「おお、咄嗟にしてはうまいじゃん。唯」

律は感心した。

「突然の振りにも、そうやってボケで反応できるなんてな」

うんうんと頷く。

「え、違うよ。律ちゃん。
 今の私じゃない」

唯が蒼白の顔で首を振る。

「えぇ?」律は訝しんだ。
どう見ても唯が発した声だったはずだ。
ご丁寧に首まで前後に振っていたのに。

「まさか」

慌てて紬の方を向くと、したり顔の紬と目が合った。

「また、お前の仕業か」


5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:26:14.09 ID:E94NBewb0


「それで? なんで唯を鳩時計なんかにしたんだ」

律はきつい口調でそう言うと、紅茶をすすった。
横に座っている唯は雪のように真っ白な顔をしている。

「違うのよ。別にわざとじゃないの」

紬は俯いて首を振った。

「まさか、こんなことになるなんてね」

俯いたまま「ふう」と短く息を吐く。

「いったいどうしたら、人間が鳩時計になるんだよ」

律はため息をついた。


6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:29:16.34 ID:E94NBewb0


「私にも分からないわ」

紬もその顔を蒼白に染めていた。

「ただ」

顔を上げる。

「家の冷蔵庫に入っていた、
 得体の知れない液体を飲ませただけなのに……」

律が立ち上がる。
椅子がガタンと音をたてた。

「なんでそんなもん飲ませるんだよ!
 確実にそれが原因じゃねーか!」

そして声を荒げた。

紬は「ごめんなさい」と言うと、また俯いてしまった。


7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:32:41.93 ID:E94NBewb0


「元気出せよ、唯」

律はそう慰めた。

「うん」

能面のような顔の唯が頷く。

「私はこれから鳩時計として生きていくよ」

目に大粒の涙が溢れてきた。
どうしたもんかな、と律は思案していた。
そのとき。俯いていた紬が突然顔を上げる。

「そろそろね!」

そしてそう叫んだ。


8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:35:32.88 ID:E94NBewb0


「「ホロッホー」」

部室に鳩の鳴き声が響く。

「30分にも一回鳴くタイプなのよ!」

したり顔で紬がそう言った。
唯の顔が驚愕に染まる。
律の顔も驚愕に染まった。

「律ちゃん、今」

唯の声は震えていた。

「あ、ああ」

律の声も震えていた。
ああ、確かに。今。

「私も、鳩時計に、なったのかな」

大きく目を見開いた律が、呟くようにそう言った。


10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:38:08.54 ID:E94NBewb0


「お前! 紅茶に混ぜていたのか!」

律は叫ぶ。

「ご名答よ! 律ちゃん!」

紬はにんまりと笑った。

「何してくれてんだよ!」

律が吠える。
その肩にポン、と手が乗せられた。
振り返ると、満面の笑みを浮かべた唯と目が合った。
ぐっ、と親指を立てている。

「お前も仲間が増えて喜んでんじゃねーよ!」

律の絶叫が部室にこだました。


11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:41:04.18 ID:E94NBewb0


「治す薬はないのか!?」

律は紬に詰め寄った。
両肩を手で掴み前後に揺さぶる。

「冷蔵庫にもう一つ、
 得体の知れない液体が入っていたんだけど……」

紬は首を横に向けて、悲しげな表情を浮かべた。
対照的に、律の顔はパッと明るくなった。

「それだよ、それ!
 それ飲めば治るだろ!」

ガクガクと紬の肩を揺らす。
が、紬の表情は暗いままだった。


13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:43:42.92 ID:E94NBewb0


「ごめんなさい。それ、全部飲んじゃったのよ」

紬が絞り出すように言った。

「はぁ!?」律が顔を近づける。
「なんで飲んじまうんだよ!」

ゆさゆさと紬を揺らす。

「レッドブルウォッカみたいで、おいしかったのよ」

紬は視線を伏せた。

「あ、ああああ」
顔を絶望の色に染めて、律は後ずさった。

「だったら、レッドブルウォッカ飲めばいいだろ!
 この馬鹿!」

そうして、やおら叫んだ。


14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:47:55.94 ID:E94NBewb0


「何言ってるのよ、律ちゃん。
 未成年が、レッドブルウォッカなんて飲んでいいわけないじゃない」

「うふふ」と紬は笑った。

「笑い事じゃねーよ!」

律が叫ぶ。

「じゃあ聞くけど、
 お前はそもそもなんでレッドブルウォッカの味知ってるんだよ!」

紬がハッとした表情を浮かべた。

「なるほど、ね。律ちゃん、名推理よ」

そう言うと両手を前に差し出した。

「私が、やりました」

律がプルプルと震える。

「何してんだよ! お前は!」


16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:50:41.66 ID:E94NBewb0


「え? 火曜サスペンスごっこだけど……」

紬は困ったように唯の方を向いた。
唯はニコニコしながらマドレーヌを頬張っている。

「唯! お前も何くつろいでんだ!」

律が今度は唯に掴みかかった。

「ちょっと、律ちゃん落ち着きなよぉ。
 もうなるようにしかならないんだから」

モグモグと口を動かしながら言う。

「なんなんだよ、お前らは」

律は呆れた。


17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:53:26.78 ID:E94NBewb0


「唯も順応してんなよ。……いいか?
 これから毎日鳩の鳴き声出しながら生活しなくちゃいけないんだぞ」

唯を何とか仲間に引き込まなくては。
律は問題解決のために手段を選ばなかった。

「よく考えたけど、そんなに困らないような」

唯は首を傾げた。

「そんなわけないだろ! もっとよく考えろよ!」

律が唯を揺さぶると、紬が立ち上がった。

「今よ!」そして叫ぶ。

「「ホロッホー、ホロッホー、ホロッホー、ホロッホー、ホロッホー」」

部室に鳩の鳴き声が響いた。
「ふっ、ぶふぅ」紬が吹き出す。

「笑うなよ!!!」

律は激怒した。


18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:55:54.92 ID:E94NBewb0


数時間もすると、薬の効果が切れたのか自然と治っていた。
それから何日か経つと、忙しい日常に追われ、
あの出来事は夢だったんじゃないかと思うようになった。

「本当に、私。鳩時計だったのかな」

唯は部室の鳩時計を見上げて呟く。
そして、嘘みたいなあの時間に思いをはせた。
もう私は鳩時計じゃなくなったけど。
それでも世界は時を刻み続けるんだな。

「ホロッホー」

唯は一度鳴いてみた。
あの頃を思い出すように。
これからを自分らしく生きていくために。

「なんてね」

ふふっ、と唯は笑った。


21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 21:58:53.13 ID:E94NBewb0


「何をいい感じに終わらせようとしてんだよ!」

律は立ち上がり叫んだ。

「何よ、律ちゃん。いいところだったのに」
「そうだよぉ。邪魔しないでよぉ」

ぶーぶーと二人が口々に文句を言う。
「この……」律は何か言い返そうとしたが、その矛を収めた。

「まぁ、治ったからいいけどさ」

律はそう言って、椅子にドサリと腰を下ろす。
そしてティーカップに手を伸ばしかけて、その手をひっこめた。

「もうやめてくれよな。こういうことは」

そして呆れた顔でそう言った。
紬はにっこりと笑う。

「ええ、もうしないわよ」


23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 22:02:21.26 ID:E94NBewb0


紬が突然立ち上がった。
驚いた律と唯がそちらに視線を送る。

「今よ!」
そう叫ぶと部室に轟音が響く。

「うわぁ!?」
驚いた律が椅子からずり落ちた。

壁を突き破って、巨大な鳩が入ってきたのだった。

「なんなんだよ! これは!」
律が叫ぶ。

「得体の知れない液体を、鳩に飲ませてみたのよ!」
したり顔で紬がそう言った。

律の握った拳がプルプルと震える。

「もう、いい加減にしろ!」
「ホロッホー!」

その絶叫をかき消すように、
巨大な鳩が大きな声で鳴いた。

終わり


24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/06/18(水) 22:04:43.64 ID:E94NBewb0


ここまで読んでくれた方、レスくれた方、ありがとうございました


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