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キョン「休日の午後?」



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クリスタ「え?もう出ちゃったの?」シコシコ

2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:16:53.74 ID:+TeI70gL0


キョン「休日の午後?」

 とある休日のことである。普段ならSOS団の探索活動にあてがわれるのだが、本日はハルヒの都合により休みと相成った。

 せっかくの休みである。家でのんびりと過ごすのも1つの案としてはあったのだが、なんとなく街に出ることにしてみた。
いつもは誰かと一緒にぶらぶらするのだが、たまには一人ってのもいいだろう。

 さて、そんな風に目的もなく街をぶらついていたわけだが、なんの偶然か天使に出会った。
我らがSOS団の天使こと朝比奈さんである。手には小さな紙袋を携えており、
そんな何気ないことでも朝比奈さんを修飾するには十分過ぎる程であった。

「あ、キョンくん!偶然ですね~」

 朝比奈さんが俺に気が付き、にっこりと微笑まれた。
もうその笑顔だけで目的もなく街を彷徨い歩いた成果が得られた乗ようなものである。


「こんにちは。お買い物ですか?」

「はい。ちょうど部室のお茶っ葉を切らしちゃって」

 休みの日までSOS団のことを考えておられるなんて、本当にこの人は天使なのではないだろうか。


5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:20:01.98 ID:+TeI70gL0


「私が好きでやってることですから」

 にっこりと朝比奈さん。

 ああ、もう。可愛すぎる。君をさらっていく風になりたいというのは誰の歌だったか。
もし許されるのであったらこのまま朝比奈さんをお持ち帰りしたいものである。いや、まぁ、絶対にそんなことはしないのだが。

「良かったらお茶でも飲みませんか?」

 俺にできるのはこうしてお茶に誘うくらいである。

「いいですねー。この近くに良いお店があるんですよ」

 そんなわけで春の陽気が降り注ぐカフェにやってきた。SOS団の面子ではまず来ることはないであろう落ち着いた雰囲気の店である。
ハルヒがいたら絶対に落ち着いてコーヒーを飲むことなんてできやしない。


7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:21:41.72 ID:+TeI70gL0


「そんなことないですよ。涼宮さんだってキョンくんとなら大丈夫です」

「そんなもんですか?」

「そんなもんです。私が保証しますよ」

 パチっとウインクする朝比奈さんに思わず見惚れてしまう。出会った当初は少し頼りないように思われたが、
そんなことはなかった。実際の年齢は禁則事項とやらで教えてはもらえないのだが、
SOS団の中ではお姉さん的な存在である。いつもハルヒの動向だけでなく、
全員のことを温かく見守ってくれている。

 ずずっとコーヒーを啜る。コーヒーの味なんぞわからないが、インスタントなんかより遥かに美味い。
まぁ、1番の美味いのは朝比奈さんの淹れてくれるお茶であるのは間違いがないのだが。

「温かくなりましたねー」

「そうですね」

 暦も5月に差し掛かり、一層陽気が高まったように思える。少し暑いくらいだ。


8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:23:09.73 ID:+TeI70gL0


「こう温かいとついついのんびり日向ぼっこしたいですね」

 貴女とならいつまででも一緒にいられますよ。

「キョンくんたら冗談が上手いんだから。お姉さんをからかっちゃ、めっですよ」

 朝比奈さんに笑われてしまった。からかったつもりはまったくないのだが。

 会話が止まる。少しだけ温くなったコーヒーを啜る。普段よりも時間がゆるゆると流れていく。
沈黙に気まずさはなく、この時間の流れが心地良い。

 流石、朝比奈さんといったところか。こんな朝比奈さんだからこそ、
ハルヒもついつい甘えてしまうのだろう。それはハルヒだけでないのだが。

「キョンくんはこの後予定とかありますか?」
 
「いえ、特にないです」

 たとえあったとしても、そんなものは即キャンセルである。


9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:25:00.21 ID:+TeI70gL0


「じゃあ、デートしませんか?」

「……は?」

 突然の申し出に思考が停止する。

「じゃあ、行こっか」

 朝比奈さんが俺の手をとって立ち上がる。小さくて柔からな掌を実感しても思考回路はまったく働いてくれない。
本当に役に立たない脳みそである。

 会計を済ませて店の外へ。春の陽気に少し目を細める。

 隣には朝比奈さん。春の日差しをめいいっぱい身に受けキラキラと輝いているようにみえる。

「楽しませてくださいね?」

 悪戯っぽい、それでいて大変魅力的な微笑み。またまた見惚れてしまう。

 手は繋いだまま、俺たちは歩き出す。

 そんなある日の出来事。


10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:30:30.07 ID:+TeI70gL0


隣を歩く朝比奈さんにちらりと目をやる。
ニコやかな表情の朝比奈さん。それだけで、こちらも楽しくなってしまう。

「どうかしましたか?」

「いえ、何も」

 思わずそう答えてしまう。
どうも何も、貴女が隣にいるだけで幸せってものです。

 出来る限り澄ましてはいるが、俺の顔面の温度は上昇を続けている。
へそで茶を沸かすとはよく言ったものだ。
今ならカップラーメンを待たずして食すお湯を沸かすことが可能であろう。


11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:32:28.37 ID:+TeI70gL0


つないだ手の先から伝わる体温が心地よい。
ハルヒに手を引かれるのとはまた違った感触。
ハルヒは犬を散歩するかのごとく俺を引きずっていく、それとは違う。

 もちろん、ハルヒの手も女性らしい柔らかさなのだが、
右手に伝わる感触はそれ以上に女性らしさを感じる。
 硝子細工のような繊細さがそこにはあった。

「キョンくん」

 急に名を呼ばれてハッとする。


12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:35:24.19 ID:+TeI70gL0


ああ、神様。
俺はこんなにも幸せで罰が当たらないのでしょうか。
出来る事なら今の表情をフィルムに収めて世界中に配りたい。
馬鹿けた争いなんて消えてなくなろうだろうに。

「今だけは私のことだけ……ね?」

 まるで魔法である。
朝比奈さんの一言一言が俺の思考回路をおかしくさせていく。
真っ当な思考は遥か彼方に消え去り、朝比奈さんのことだけしか考えられない。

 朝比奈さんが俺の手を少しだけ強く握る。

「ほら、キョンくん行こっ!」

 本日二度目のその台詞。
その言葉で景色がさらに鮮やかになるのであった。


13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:38:21.85 ID:+TeI70gL0


終わり

全然長くなってないな


16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:44:11.62 ID:+TeI70gL0


キョン「元祖ツンデレ?」

 最近、ハルヒの様子が少しおかしい。いや、おかしいのはいつものことで、それにおかしいと言うといささか語弊がある。
率直に現状を述べるとするならば、ハルヒの機嫌と態度が異常な程に変わりやすい。
もともとハルヒは気まぐれな質ではあったのだが、その態度の豹変ぶりに俺は瞠目せざるをえない。

 しかも、その豹変ぶりも日に日に勢いを増し、ここ数日ではそれが更に顕著になっている。
七夕との時のように憂鬱一色でないのがせめてもの救いか。

 しかし、それはそれで俺の精神衛生上良くないことは明白であった。ハルヒが優し過ぎるのだ。
俺にはどうしても何かを企んでいるようにしか見えず、終始びくびくしなくてはいけないのがつらい。

 小心者と笑っていいぞ。

 とにかく、躁鬱とでも言えばいいのだろうか。ハルヒの精神が不安定すぎる。

「……やれやれ」

 今日も一日、そんなハルヒに気を遣い精神をすり減らす日常が始まるのであった。


18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:48:09.43 ID:+TeI70gL0


窓際の後ろから二番目にある自席の真後ろ、ハルヒはそこでいつものように頬杖をついて不機嫌オーラを出していた。
ここ数日で馴染みになってしまった光景。思わず溜め息を吐きそうになる。

「……よう」

 それを堪えて窓の外を眺めるハルヒに声をかけた。

「……何よ?用が無いんなら話し掛けないでちょうだい」

 その声が大きかったわけでは無いのだが、教室中の視線が俺たちに注がれる。
しかし、それも一瞬のことで、クラスメイトたちはとまたかという顔をしてストップしていた会話を再開させた。
谷口や国木田はちらちらとこちらを気にしているようではあったのだが、二人の会話に混ざる気にもなれない。
小さく息を吐いて、俺もハルヒと同じように窓の外を眺める作業に専念し始めた。

 そんな俺の虚しい努力の甲斐もあってかあっという間に昼休みとなった。

「ねぇ、キョン。ちょっといいかしら?」

 国木田たちと飯を囲もうとしていた俺の前に、仁王像のように不機嫌な顔をしたハルヒが立ちふさがった。
予定調和と言えばそうなのだろうが、この行動もここ数日でお馴染みになったようだ。

 またしてもクラスメイトの好奇の視線に晒されることとなり、俺の精神ポイントが減っていく。


19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:51:02.92 ID:+TeI70gL0


「今から部室行くわよ」

 有無を言わさぬ威圧的な物言いに俺は再び精神ポイントを下落させていく。
俺の精神に株価があるとするならば確実に大恐慌で暴落もいいとこだ。

「拒否権はあるか?」

 一応そう尋ねるのだが、それに対する返答があったことは一度もなく、
のしのしと歩いて行ったハルヒを俺は弁当片手にこそこそと追い掛けるのであった。

 部室の扉をノックすると、開いてるわよとの返事が返ってきた。
長門は昼休みにもここに居るものと思っていたが、ここ数日昼休みにその姿を見掛けたことはない。
クラスメイトとよろしくやっているのだろうか。

 ここで弁当を食べるとき、ハルヒは団長という置物の乗ったいつもの席ではなく、俺の定位置の隣に座る。

「ボーッと立ってないで早く座りなさいよ。そうでないと一緒にお昼食べられないでしょ?」

 ニコニコと教室とはまるで違った態度のハルヒ。
誰だコイツは?と思わずツッコミを入れそうになった数日前、今じゃ当たり前として俺は受け入れていた。

 どうやら今日も部室内では機嫌がいいようだ。


20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:53:48.49 ID:+TeI70gL0


「この卵焼きはあたしが焼いたのよ。食べるでしょ?」

「……もちろんだ」

 嬉しそうなハルヒの誘いを断れるはずもなく、俺はハルヒの弁当箱にへと箸を伸ばした。
が、弁当箱は無情にもすっと引かれ、俺の箸は空を切る。

「違うでしょ、キョン?ほら、いつもみたいにしなさいよ」

 ああ、またか。今日こそはと僅かに期待していたのだが、そんな俺の願いはまたしても裏切られることとなった。

「はい、あーん」

「……あ、あーん」

 口の中にひょいと卵焼きが放り込まれる。もぐもぐと咀嚼して飲み込む。今日の卵焼きは甘めに作られていた。

「ねぇ、美味しい?」

 期待するような不安そうな表情をするハルヒ。
俺の次の言葉は決まっているというのに、ハルヒは慣れないらしい。

 俺はもはや感覚が麻痺しているのか、そう伝えることにためらいはない。


21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 21:57:38.28 ID:+TeI70gL0


「ああ、美味い」

「良かった!まだたくさんあるからどんどん食べてね!」

 向日葵のような笑顔とでも形容すれば伝わるだろうか。それぐらいハルヒの笑顔は輝いていた。
教室に居るときのような不機嫌な表情は一体全体どこへいってしまったのやら。
とにもかくにも幸せを噛みしめているようであった。

 昼食後、まだ昼休みが終わるには時間があるということで、俺とハルヒは部室でのんびりと過ごしていた。
と言うものの、俺の精神ポイントは減り続けている。

「ねぇー、キョン。もっとくっついてもいい?」

 理由はもう言わなくてもわかるだろう。ハルヒがやたらくっついてくるのだ。
まるで真っ昼間から街中でいちゃつくカップルのように。

 言っておくが、俺とハルヒは断じてそういう仲を公言したことはない。
ただ、二人っきりで部室に居るときだけこのようにくっついてくるだけだ。

 その仕草は俺の腹のうえで寛ぐシャミセンを彷彿させるものである。


23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:00:09.08 ID:+TeI70gL0


「キョンはあたしのこと好き?」

 腕に絡み付いたハルヒが上目遣いでとんでもないことをさらりと聞いてきた。

「あたしはキョンのこと大好きだからね」

 これは、俗に言う告白というものなのだろうか。上昇していく心拍数と思考が停止した脳ミソでは判断に困る。
それに、今さらだが教室の時とは態度があまりに違い過ぎて、ハルヒが俺のことをからかっているのではないかと思わず疑ってしまう。

「からかってなんかないわよ。教室に居るときは恥ずかしくてあんな態度とっちゃうけど、あたしはキョンのことが大好きなんだからね!」


25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:02:19.74 ID:+TeI70gL0


ここ最近のハルヒの態度にようやく納得がいった。ハルヒは単に恥ずかしがっていただけなのか。
それにしても、あれじゃあ不機嫌だと勘違いしてしまう。
その辺りの不器用さがハルヒらしいといえばハルヒらしいがな。

「――で、キョンはあたしのこと好き?」

 捨てられた子犬のようなハルヒの瞳。

 後々、その時のことを思い返すと恥ずかしくて死にそうになるので割愛させていただくが、現在俺の隣にはハルヒがいる。
教室内では相変わらず不機嫌そうではあるが、二人っきりになった時、その反動か知らないが思いっきり甘えてくるようになった。

 とにかく、俺は幸せな日々を送っているとだけ言っておこう。


26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:03:38.10 ID:+TeI70gL0


終わり


28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:07:29.80 ID:+TeI70gL0


キョン「ツンデレってなんだ?」

 最近、ハルヒの様子が少しおかしい。いや、おかしいのはいつものことで、それにおかしいと言うといささか語弊がある。
率直に現状を述べるとするならば、どうやら俺はハルヒに嫌われたらしい。

 別にこれは、何の根拠も無い俺の被害妄想ということでは断じてない。
根拠というか……まあ、言葉にしてはっきりと嫌いと言われたわけなのだが、ショックだった。

 嫌いと言われたことではない。ハルヒに嫌いと言われたことにショックを受けている俺自身にショックを受けたのだ。
ややこしいが、二重にショックだったわけだ。

 それにしても、いきなり面と向かって嫌いだなんて、いくら思っていても心の中でひっそりと言えばいいだろうに。

 そんなわけで、ここ数日はもやもやとした気分で過ごしている。
仮病を使うことも考えたが、それはそれでなんとなく悔しいのでこうして学校に通っている。

 長い長い坂道が憂鬱を加速させていく。

「やれやれ……」

 こうやって溜め息をこぼすのも果たして何度目やら。とにもかくにも、今日も嫌な日常が始まるのだった。


30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:11:31.58 ID:+TeI70gL0


「べ、別にキョンのことなんか、す、好きじゃないんだからね!」

「……」

 長門ばりの沈黙を以て窓際の後ろから二番目の俺の席へ着席。
ハルヒが俺のことを嫌いと宣言した次の日から、毎朝同じセリフをハルヒは言ってくる。

 嫌味か皮肉か判別はつかないが、俺のことを嫌っていることは確かだ。
俺の顔も見たくないのか、怒りで頬を朱に染めたハルヒがそっぽを向きながらつっけんどんに言ってくることが、
これほどまで精神に堪えるとはいったい誰が予想できただろうか。

 フロイト先生もびっくりだろうよ。

「……よう」

 無駄とはわかっているものの、一応声を掛けてみた。ハルヒはこっちを見向きもせずに頬を紅潮させて窓の外を見ている。
俺としては何とか関係を修復したいと願っているのだが、取りつく島もありゃしない。

 何故ハルヒが俺のことを嫌うのかまったく心当たりが無い。
古泉に相談しようかとも思ったが、それも業腹なので見送ったままになっている。

 そんなことを考えているとハルヒと視線が正面からかち合ってしまった。


32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:14:46.76 ID:+TeI70gL0


「な、何よ!あ、あたしは、別にキョンのことなんか全然気にしてないんだからね!勘違いしないでよ!」

 このセリフももう幾度となく聞いたおかげで耳にタコができそうだ。そんなことをいちいち言わなくても、
ハルヒが俺のことを嫌っているのは知っている。

 授業中などに、目が合う度にそう言われ続けてもううんざりだ。俺のライフはもうゼロだ。

 やめてくれ。

「や、やめろですって!」

 よくわからないが、ハルヒはさらに怒り始めた。もうこうなったら俺はお手上げである。
クラスメイトのやたら生暖かい視線が気になるが、触らぬ神に祟りなし。

 俺はふて寝とばかりに机にうずくまるのだった。

 とにもかくにも放課後である。
放課後といえば団活が常となっていたのだが、それが俺の精神にかなりの負担をかけている。
ハルヒに嫌われたとなると、俺の存在意義など無いに等しいというのに、
長門や朝比奈さん、古泉たちは気にした様子もない。普段と何ら変わり無い態度で俺に接してくれている。


33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:18:28.86 ID:+TeI70gL0


「長門だけか……」

 ノックして返事が無いのを確認して中に入ると、予想どおりの人物が予想どおり本を読んでいた。
しかし、読んでいるのはSFモノではなく、キラキラとした表紙で、
いかにも女の子っぽい字体が目立つ雑誌だった。

 タイトルは『ツンツンデレデレ~これで男はいちころよ~』というわけのわからないものである。

「……面白いか、それ?」

「ユニーク」

 そうか。一体全体どんな内容なのか見当もつかないが、長門が面白いというのなら面白いのだろうよ。
長門の趣味に口出しするのもおこがましいというものだ。

「涼宮ハルヒに勧められた」

「そうなのか?」

「そう」

 よくわからないが、長門に有害なのでは無いかと心配になってきた。
先程も言ったように、長門の趣味に口出しするつもりはない。

 しかし、ハルヒが一枚噛んでいるとなると話は別だ。
長門が純粋なのにかこつけて、毒するのは断じて許されない。


34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:21:01.25 ID:+TeI70gL0


「長門、その本をちょっと見せてくれないか?」

「拒否する」

 なん……だと?長門が俺の頼みわ拒否するだと?
これはますますハルヒを弾劾せねばならんようだな。

「ちょっとだけだから。ほら、見せてくれよ」

「ダメ……」

 今日の俺はどうにかしていたんだろう。普段の俺ならば長門の嫌がることを絶対にしないというのに。
傍から見たら、まるで俺が長門のことを襲っているようではないか。

「何やってんのよ、こんのエロキョンがぁ!」

 そう。この状況をハルヒが見たらどう捉えるかなんてわかりきったことじゃないか。

 ああ、なんだか凄いな。
ハルヒの飛び膝蹴りがこんなにもゆっくりと見えるなんて。
これじゃあ、話に聞く事故や死ぬ直前に何もかもがスローに見えるという体感時間の圧縮じゃないか。

 そこまで冷静に考えたところで、俺の意識はパチンと電灯が消えるように真っ黒になった。


36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:24:30.14 ID:+TeI70gL0


頭が痛い。鼻も痛い。鼻血が出たときのように、鼻の奥に血の匂いがたまっている。
しかし、何やら柔らかく、気持ちいい。ここは天国か?

 眩しさに目を細めながら目を開けると、ハルヒの顔がそこにあった。
いつものように逸らすことなく、じっと俺を覗きこんでいる。
「心配かけんじゃないわよ」

「蹴りを入れた本人が言うセリフじゃないだろう……」

「うるさい。そもそも、キョンが勘違いされるようなことしてるから悪いのよ」

 やれやれ、と思わず呟いた。

「で、ハルヒよ。お前は俺のこと嫌ってるんじゃないのか?」

 現在の状況を端的に述べるとするならば、ハルヒに俺が膝枕されている。
ハルヒは俺のことを嫌っているというのに、これはどういうことだろうか。
ハルヒは返答に窮したようで、ソワソワと視線をあちこみに彷徨わせている。

「そ、そりゃ、キョンのことは好きじゃないわよ」

「そうか」

 どこかで期待していたぶん、今回のはキツかった。

 大魔人のフォークのような落差とでも言えば、俺がどれだけ落胆したか伝わるだろうか。


37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:26:24.92 ID:+TeI70gL0


「……むぅ。バカキョンの鈍感」

「死人にムチを打ってそんなに楽しいか?」

「そんなに言うならこっちにだって考えがあるわ」

 有希、その本貸して、とハルヒは先程俺が奪いとろうとしていた本を長門から受け取った。

「この本を明日までに熟読してきなさい。話はそれからよ」

 ハルヒは俺に雑誌を押し付けてさっさと帰ってしまった。

 で、翌日。いつものように俺が着席すると、

「べ、別にキョンのことなんか、す、好きじゃないんだからね!」

 思わずにやけてしまう俺がいるのだった。


38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:27:13.24 ID:+TeI70gL0


終わり


39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:30:55.01 ID:+TeI70gL0


なんかリクエストとかあるか


42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:43:04.95 ID:Gzm8FsXR0


帰宅中



44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:53:23.25 ID:+TeI70gL0


>>42

 ある日の帰宅中のことである。
俺は懐かしい顔に出会った。

「やぁ、キョン。偶然だね」

「よう、佐々木。偶然だな」

 一年前より少しだけ大人びた親友。
佐々木その人であった。

 親友と言っても、毎日連絡をとりあうようなことはしていない。
別にそういうことをしなくても変わらない関係だからこその、親友なのである。

「こうして再会したのも何かの縁だ。一緒に帰らないかい」

 その言葉に少し懐かしさを感じる。


46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 22:58:06.69 ID:+TeI70gL0


この1年間があまりにもハチャメチャで、俺の人生を大きく揺るがす出来事がいくつもあった。

 そんな1年間なのだが、高校も然程離れていない佐々木に出会わなかったのも珍しいような気がする。

「僕がキョンを避けていたからね」

 その言葉にショックを受ける。
親友だと思っていたのは俺だけであったようだ。

「冗談だよ、キョン」

 佐々木が喉を鳴らす。
そこでからかわれていることに気がついた。


47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 23:00:54.30 ID:+TeI70gL0


「質の悪い冗談はよせ」

「すまない。こうして君と再会できて少し舞い上がっているみたいだ」

 傍目にはちっともそんな風には見えないのだがな。

「拗ねないでおくれよ」

「拗ねてなんかいないさ」

 また、くつくつと佐々木が喉を鳴らす。
まったく、勘弁してほしい。

「そっちでの生活はどうだい?」


48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 23:05:10.09 ID:+TeI70gL0


「別に、普通だよ」

 この一年は波乱万丈。
 まったくもって普通ではないのだが、それを佐々木に説明したところで理解してもらえるとは思えない。

 俺が刺された話しなんか聞いても面白くはないだろうさ。

「そっちこそどうなんだ?」

「別に、普通の毎日さ」

 お返しとばかりに佐々木が悪戯っぽく笑う。

「それこそ、キョンとこうして話していることのほうがよっぽど刺激的だよ」

 佐々木の笑顔。
その笑顔に少しドキッとした。


49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 23:11:47.41 ID:+TeI70gL0


「退屈な毎日だよ。キョンと過ごした日々を懐かしむくらいにはね」

「それはありがたいな」

 佐々木と過ごした日々を思い返す。
特別な毎日ではなかった。佐々木の問いにそれとなく返す雑談。
 雑談ではあったかもしれないが、それはそれで楽しい日々であった。

「別な高校に進学したのを悔やむくらいさ」

 そう言って肩を竦める。その言葉が本当なのかどうかはわからない。

「後悔してるのか?」

「後悔してるよ」

 今度は喉を鳴らさない。


50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 23:15:40.81 ID:+TeI70gL0


「そうか。受け売りだがな、
『やらなくて後悔するよりも、やって後悔するほうが良い』らしいぞ」

 いつかの朝倉の言葉。

「その通りだと思うよ。すくなくとも、今行動を起こしたことに後悔はないよ」

 どういうことだ?

「さっき偶然だと言ったね。あれは嘘なんだ」

 夕日をバックに佐々木が立ち止まる。その頬は朱に染まり、言葉に熱が篭もる。

「僕はね、キョン。あそこで君を待っていたんだ」


51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 23:22:29.70 ID:+TeI70gL0


「この一年間は退屈なものだったよ。キョンと過ごした日々を本当に懐かしんで後悔するくらいね」

 だから、と佐々木は続ける。

「君を待ってたんだ。そんな日々を取り戻したくて。この先、後悔しないためにね」

 佐々木が真剣な目でじっと俺を見つめる。

 俺はやれやれと嘆息した。

「深く考え過ぎなんだよ。いつでも誘えばいいじゃないか。なんせ、俺達は『親友』たろ?」

「キョン……」

「さぁ、帰ろうぜ。積もる話は帰りながらでもできる」

 佐々木と歩き出す。合わせなくても合ってしまう歩調。それがとても心地よい。

「やっぱりキョンは相変わらずだね」

 佐々木がそっと呟いた。

「キョン、ありがとう」

 佐々木の横顔は、惚れ惚れするような極上の笑顔であったことを俺は忘れないだろう。

終わり


55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 23:27:52.45 ID:+TeI70gL0


安価>>56


56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 23:28:16.12 ID:92gfOwnP0


喫茶店



58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 23:35:42.52 ID:+TeI70gL0


>>56

 ある日のことである。
今日は週に一度の探索の日であり、朝からハルヒに引っ張り回され、既に俺の体力は限界であった。

 午後のくじ引きの結果、長門とペアになった。
長門とペアならば、ハルヒにされたように引っ張り回されることもない。

 長門とペアになった際は、図書館で時間を潰す。これが恒例のことであるのだが、今日は一味違ったようだ。

 図書館の近くまで来た時のことである。
それまでとめどなく歩いていた長門の足が止まった。

 視線の先には喫茶店。

「気になるのか?」

「……」

 こくりと長門が頷いた。
たまにはそんな過ごし方もいいだろう。


59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 23:41:02.38 ID:+TeI70gL0


店内は薄暗く、落ち着いた雰囲気であった。
道に面しているにも関わらず、静かで、現実から隔離されたような錯覚を覚える。

 客は俺達以外に一人だけ。初老の男性がマスターらしき人と世間話に花を咲かせている。

 俺達は1番奥の窓際の席に座った。
コーヒーを二人分頼む。

 マスターは人の良い笑みを浮かべ、クッキーをおまけしてくれた。

「……」

 長門はいつもと変わらぬ表情のようであったが、その瞳は好奇心に溢れているように見える。

 まぁ、表情自体はいつも通りなので、俺の感ではあるのだが。


60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 23:46:47.70 ID:+TeI70gL0


「どうだ?」

 だから、そう尋ねてみた。

「……ユニーク」

 お決まりの台詞。しかしながら、その言葉の端々には満足げな長門の感情が込められていた。

 コーヒーを啜る。コーヒーなんぞどれも同じだと思っていたが、どうもそうではないらしい。
貧相な俺のボキャブラリーでは上手く表現出来ないが、美味い。
本をよく読んでいる長門であれば、上手く表現してくれそうではあるが。

「本、読んでもいいぞ」

「……」

 長門が透き通った瞳でじっと見る。それは、本を読むという行為を遠慮しているようであった。


61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 23:50:59.03 ID:+TeI70gL0


何、俺のことは気にしなくていいさ。ハルヒに連れ回されてくたくただからな。
のんびりとさせてもらうよ。

「……そう」

 長門はごそごそとかばんの中から文庫本を取り出した。

 ぺらりぺらりと規則正しくページを捲る音が心地よい。
さらに、店の落ち着いた雰囲気とBGMがすっと心に染み渡る。

「……」

 長門に目をやる。ほとんど動かないが、時折瞬きをする。


62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/03(土) 23:56:13.41 ID:+TeI70gL0


今更ながら、長門の顔は整っていると意識させられる。
また、本を読む姿が様になっており、その長門から目が離せなくなる。

 ページを捲る長門の指先。陶磁器のように白く繊細な指先。
なんとなく、キレイだと思ってしまう。

「……どうしたの?」

 長門が顔をあげる。

「すまん、邪魔しちまったか」

「そんなことはない」

 ふるふると小さく首を振る。その仕草に庇護欲がかき立てられる。 

「退屈?」

 まさか。長門の顔を眺めてるだけで楽しいさ。

「……そう」


63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/05/04(日) 00:00:01.96 ID:ZJMRGLvV0


長門が再び本に目を落とす。
その頬は俺の見間違いでなければ、少し赤みがかっているような気がする。

「恥ずかしから、あまり見ないで」

 消え入るような声で長門がそう訴えかける。

 脳天に雷を落とされたかのような衝撃。おかけで、目の前の長門をさらに見つめてしまう。

 コーヒーをまた啜る。

 長門と過ごす時間が心地よい。たまにはこんな日もいいもんだ。

終わり



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