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魔王「50年決戦」【前半】|エレファント速報:SSまとめブログ

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魔王「50年決戦」【前半】

1: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:07:18.62 ID:YbYXZQm/O

―王歴147年―

*「海の向こうで、魔物の王様が出たらしい」

*「おっかないことになっちゃったねえ…」

*「なに、大したことはないさ」

*「王様は軍隊を派遣したんだって」

*「臨時徴用だ! これで嫁とガキにうまいもん食わせてやれる!」

*「気をつけてね…」



*「――軍隊が、全滅した…?」




※勇者魔王もののssです。
※初めてなのでいたらないことがあるかも知れないです。あらかじめご容赦ください。



2: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:12:35.27 ID:ztZCvCDoO

―王歴149年―

神官「カァッ!」

国王「どうじゃ?」

神官「魔の王、眷属を統べて人の世を屠る者なり」

神官「聖なる証を宿し子の、輝く剣によりて魔の王は討たれん」

国王「ふむ…。聖なる証を宿し子、か…」

神官「その者が魔王を打ち倒す唯一の希望でありましょうぞ」

国王「聖なる証、というのは何だ?」

神官「検討がつきませぬが、恐らく体のどこかに聖痕が刻まれているかと…」

国王「よし、大臣よ、聖なる証を宿し子を探すのじゃ」

大臣「かしこまりました、陛下」



3: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:14:18.32 ID:ztZCvCDoO

―王歴150年―

大臣「陛下、聖なる証を宿した赤子が生まれました」

国王「まことか。して、その者の父母は?」

大臣「それが…」

国王「何じゃ?」

大臣「公爵家の、第二子です。生まれた時より胸にあざがあり、神官が洗礼でその証を確認いたしました」

国王「っ…何と…。公爵夫妻を玉座の間へ呼ぶのじゃ」



4: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:16:01.51 ID:nWDzlVwFO

公爵「――この子が、魔王を倒す?」

夫人「そんな、何かの間違いではありませんの? 父様」

国王「神官よ、その子の聖痕は確かなのであろう?」

神官「はい。この子こそが、女神様に遣わされし、魔王を討つ宿命を負っている者のはずです」

公爵「陛下、それでは…どうなさるのですか、この子を」

国王「調査の結果、海の向こう、地の果てに魔王は居城を構えていると言う」

国王「いずれはその子に、魔王を討つべく旅に出てもらわねばならん」

国王「厳しい道程になるであろう」

国王「だからこそ、その子には修羅の道を歩むだけの力を得てもらわねばならん」



5: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:17:07.80 ID:cZT/GBAPO

公爵「あなたの、孫です…。それでも、ですか…?」

夫人「お父様…どうにかなりませんの…?」

国王「このままでは、人類は魔物によって死に至るのじゃ」

国王「ならば、どれだけ可愛い孫であろうとも…わしは千尋の谷に突き落とすしか方法がないのじゃ」

国王「わしを恨んでくれ、2人とも」

国王「この、無力な老人を…」

公爵「陛下…」

夫人「せ、せめて、お父様…この子に、私達の子どもとして、あなたの孫として、称号をお与え下さい」

国王「うむ…。それでは、魔物に脅かされる人間の希望を背負い、全ての民に勇気を与える者として」

国王「勇者の称号を、この者に贈ろう」

 王歴150年。
 世界に初めての勇者が誕生した。



6: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:18:30.14 ID:Id333Xt4O

―王歴155年―

勇者「…だれ?」キョトン

*「…勇、者…?」

勇者「おじちゃん…僕のこと…しってるの?」

?「会いたかった…お前に…」

勇者「ぼくのことをしってるの?」

?「ああ…ああ…だが、もう行かないとならない…」ギュッ

勇者「ぐるし…おじちゃん、だれ?」

?「俺は…いや、もう――」

勇者「いっちゃうの? おじちゃん…」

?「ああ…さよなら、勇者」



7: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:19:11.85 ID:Id333Xt4O

 ガサッ

老女「勇者、こんなところにいたのかい?」

勇者「ばあちゃん…いま、いまね、へんなおじちゃんがいたの」

老女「変なおじちゃん? また、この子は…」

勇者「ほんとうだよ!」

老女「ここはわしの結界があるから誰も入れやしないよ」

勇者「でも…」

老女「さ、もう遊びの時間は終わり。お勉強をするよ、勇者」

勇者「…ほんとうにいたのに」



8: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:33:17.82 ID:s39v/bxvO

―王歴162年―

国王「あの赤子がこれほど立派に成長するとは、時間の経つのはいつも早いものじゃ…」

勇者「こ、ここ…国王陛下、ほ、本日はぁっ…」ガチガチ

国王「よいよい、ババに何ぞや言われていたやも知れぬが、お前の話しやすいようにしろ」

勇者「い、いいの…?」

国王「うむ」

勇者「きょ、今日は…えっと、大切な話があるからって…来たんですけど…」

国王「そうじゃの。何歳になった?」

勇者「12歳です…」

国王「もうそんなになるか…。勇者よ、お主には旅に出てもらわねばならん」

勇者「旅…?」

国王「そうじゃ。お主は女神様に遣わされた、魔王を討つ宿命を負っておる」

国王「もう、わしにはお主に頼る他、何も方法がないのじゃ…」

国王「厳しい旅になるやも知れぬが、頼まれてくれるかの?」

勇者「ま、魔王って…魔物の王様なんでしょ…。お、俺がそんなの…」

国王「悩む気持ちは分かる。明日の朝、改めて返事を聞こう」

国王「今夜は公爵家に泊まると良い。お主と年の近い子もおるぞ」ニッコリ



9: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:34:08.05 ID:s39v/bxvO

公爵「おお、勇者…よく来てくれたな」

夫人「ええ…本当に…」グスッ

勇者「うぇぇっ、な、何で泣くの…? あ、あの、俺…」オロオロ

?「母さんは涙腺が緩過ぎるんだ。何でもないことに泣いちゃう」

公爵「こら、剣士、そんなことを言うんじゃない」

剣士「はあい…勇者、だっけ? 俺、剣士。よろしくな」

勇者「よろしく…」

夫人「さあ、今日はご馳走をたくさん用意したから、皆でそろって食べましょう」



11: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:34:52.30 ID:bYyHPg7fO

公爵「良いものだな、皆で湯船に浸かるのも」

勇者「で、でも、親子水入らずを邪魔してるんじゃ…?」

剣士「…そうでもないよ。勇者、お前は遠慮のしすぎだぞ」

公爵「ふっ、剣士が言うようなことでもない。少しは勇者を見習ったらどうだ?」

勇者「そ、そんなこと…。剣士の方が立派だし…」

剣士「貴族たる者、器が大きくないといけない。勇者も、勇者なんていう無二の称号があるんだから、器を大きく持たないとな」

公爵「ふふ…お前がそれを語るには、少し早いな」

剣士「父さんはいつまでも俺を子ども扱いする…」



12: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:35:35.85 ID:bYyHPg7fO

夫人「おやすみなさい、勇者、剣士」

勇者「お、おやすみなさい…」

剣士「おやすみ、母さん」

 ガチャ
 バタム

剣士「…ちょっと狭いな」

勇者「ご、ごめん…。剣士のベッドなのに、俺が…」

剣士「いや…いいんだよ、これで」

勇者「剣士って…何歳?」

剣士「もう、すぐに15歳になる。その日になったら、修行の旅に出るんだ」

勇者「修行の、旅…」

剣士「お前も旅に出るんだろう?」

勇者「王様には言われたけど…不安だし、俺、魔王なんか倒せる自信ない…」



13: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:36:22.03 ID:bYyHPg7fO

剣士「ふうん…。じゃ、ずっとここにいればいいさ」

勇者「え?」

剣士「きっと、いつまででも父さんと母さんはお前を匿ってくれるはずだ」

勇者「何で、そこまで良くしてくれるの…?」

剣士「貴族たる者…ってね。さっきも言ったろ?」

勇者「そう、なんだ…」

剣士「勇者、お前が旅に出るなら、俺もついて行っていいか?」

勇者「え?」

剣士「公爵家に伝わりし、秘伝の剣技を教えてやるよ。それで、魔物をたくさん倒して、魔王をお前が殺す日まで見届ける」



14: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:36:59.50 ID:bYyHPg7fO

勇者「でも…」

剣士「嫌じゃないなら、さ。ほら、早く寝た方がいいよ」

剣士「なんなら、子守唄でも歌ってやろうか?」

勇者「い、いいよ、そんな子どもじゃないっ」

剣士「…そうだ、オルゴールがある。好きなんだ。流してもいい?」

勇者「別に…」

剣士「よし。…じゃあ、これを…こうして…」

 ~~♪
 ~~~♪

勇者「何だか、懐かしいメロディー…」

剣士「それは良かった。子守唄代わりなんだよ、うちではね」

勇者「だからっ、子どもみたいに…」

剣士「いいじゃないか。お前まだ、12歳だろ?」



15: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:49:45.33 ID:A336JqfZO

国王「――して、勇者よ。そなたの答えを聞かせてもらっていいだろうか?」

勇者「はい…。俺、俺なんかでいいなら、旅に出ます」

国王「そうか…」シュン

勇者「王様…?」

国王「いや、その勇気ある決断に、わしは嬉しく思うよ」フッ

勇者(その割に悲しそうな顔…。ばあちゃんが、俺を見送った時みたいな…)

国王「大臣よ、勇者にあれを」

大臣「はい」スッ

勇者「これは…」

国王「旅に必要なものを用意した。魔王征伐の成功を祈っておる」

勇者「はい」

国王「わしはな、臣民全てを我が子のように思うておる」

勇者「はい?」

国王「じゃが…特別、わしはお前のことがかわいいのじゃ。理由は聞かないでほしい」

国王「魔王を打ち倒すその日まで、戻るなとは言わん」

国王「たまに寄って、元気な顔を見せておくれ、勇者」

勇者「…はい」ニコッ



16: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:51:03.31 ID:syzo/sFCO

勇者「この時のために、ばあちゃんは色々と教えてくれたんだ…」

勇者「やれる。やらなきゃ。俺が魔王を倒すんだ」

 グッ

勇者「…けど、地図って苦手…。ええっと、魔王のお城は北の方だから…王城がここで…まず…」ウ-ン

剣士「――とりあえず、隣町を目指すとするか、勇者」

勇者「っ…け、剣士?」

剣士「旅は道連れ、世は情け。そんな言葉があるんだ」

勇者「へえ…」

剣士「だから、一緒に行こうぜ。俺も予定よりは早いけど、なに、父さんと母さんには手紙を残してきたからさ」

勇者「で、でもいいの? 手紙だけじゃ心配されちゃうんじゃ…」

剣士「いいんだよ。あと、俺とお前は兄弟だ。兄さん、って呼ぶことを許す」

勇者「何で急に…?」

剣士「うーん…弟が、欲しかったから…?」

勇者「そんな理由で…」

剣士「いいんだよ、理由なんか。ほらほら、行こうぜ、弟よ」ニッ

 王歴162年。
 勇者は旅のともに公爵家の嫡男を連れて旅に出た。



17: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:52:22.03 ID:syzo/sFCO

―王歴163年―

勇者「はぁっ…はぁっ…兄ちゃん、手…貸して…」

剣士「仕方ないな。ほら、よっ」グイッ

 ドサッ

勇者「ふぅっ…はぁ…山頂、だ…」

剣士「高いな、かなり」

勇者「魔物は出てくるけど、ボスらしいのは見ないね」

剣士「ああ。ここからなら、見晴らしがいいから何か見つかるかとも思ったが…見渡す限り、銀世界じゃあな」

勇者「ちょっと休憩しないと俺、死んじゃいそう…」

剣士「軟弱だな、勇者」

勇者「兄ちゃんが脳筋なだけじゃん…」

剣士「何だと?」

勇者「うわ、ごめんなさい!」



18: ◆3ZxXgUosIQ:2014/08/31(日) 20:53:13.21 ID:syzo/sFCO

 オオ----ン

剣士「ん? 雄叫び…魔物の声だな」

勇者「あっ、あそこ! たくさん、オオカミ型の魔物が集まって遠吠えしてるよ!」

剣士「しっ…静かにして、身を伏せろ。ボスのお出ま