少女「思い出消し屋も畳むかな」
- 1 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/22(木) 00:23:17 ID:44HwnkNo
- このSSは
男「思い出消し屋……?」
男「思い出消し屋、か」
の続編的なものです。
検索すればまとめが出ますので適当にどうぞ。 - 2 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/22(木) 00:24:57 ID:44HwnkNo
- ――思い出消し屋――
男「そりゃあまた、突然どうしたんだ」
少女「いや、突然というほどでは無かろう」
少女「嘗て思い出を食べる人外であった私にとっては旨みのある仕事であったが」
少女「お前を求める人外となってしまえば、それもなくなってしまう」
男「ああ、思い出が不味く感じるようになったんだっけ」
少女「うむ。恐らく極度の偏食となってしまったのだろう」
少女「時代の最先端を行く私だからな。現代っ子らしい特性を持ち合わせて当然というわけだ」ふんす
男「でも、料金はもらえるからいいんじゃないのか?」
男「一回千円をちょっと値上げして、さらに思い出は食べずに捨てとくとか」
少女「金など私には必要ない」
少女「傷つかず、汚れず、劣化せず」
少女「朽ちず、死なず、嗜好品を自分で調達できる私にとって金など不要なのだ」 - 3 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/22(木) 00:34:16 ID:44HwnkNo
- 男「……あれ、スマフォと家賃はどうするんだ。あとお菓子」
少女「それは知人に任せてある。……いや、知人外というべきなのか?」ううむ
男「払ってもらってるのか。無償で?」
少女「うむ。奴も数寄者だ。映画館の人外を名乗る年増なのだが」
少女「世話焼きの人外と言っていいほど甘い奴だよ。あの腐れ巨乳とはえらい違いだ」くっくっ
男「へぇ。一度お礼をしにいきたいな」
男「少女が世話になってるみたいだし」
少女「……む、他の女に会いに行くとか」
少女「それは構わんが、そういう話を私にするんじゃない」むすっ
男「あっはっは、ごめんごめん」わしゃわしゃ
少女「うむ、許そう」ふふん
男「……というか、お菓子代も払ってもらってるのか」
少女「というより、月のはじめに押し付けてくる。実に過保護だ」 - 4 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/22(木) 00:51:18 ID:44HwnkNo
- くっくっく、と機嫌よく笑った後、少女はもそもそと居住まいを正す。
咳払いまでして、妙にそわそわした様子だ。
男「ところで、用事って何だったんだ
少女「――ああ、そうだ。今日はそれで呼び出したんだった」
少女「男よ。……その、ちょいと額を見せろ」
男「? 構わないけど」すっ
何の突拍子も無いように思える要求に少し戸惑いながら、俺は素直に従う。
しかし彼女は直ぐには動かない。目を閉じ、胸に手を当てて、浅く深呼吸をしている。
化粧っ気の無い彼女の顔が、 頬紅を入れたようになっていく。
口紅もグロスも無く、少し乾いた薄桃色の唇からもれるのは、ちいさな呼吸音。
彼女の睫毛は長く生えそろっており、しかしながらその奥の瞳を隠すことは無い。
黒目がちな彼女の目は、俺の姿をしっかりと捉えている。近くで見たら、俺の目と合わせ鏡になっていたりするのだろうか。
少女「――、よし」
そうつぶやいた彼女の肩に、ぐっと力が入ったのを見た。
その直後だった。彼女のしなやかな指先が、俺の額を冷やしたのは。 - 8 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/22(木) 09:45:44 ID:44HwnkNo
- 男「……、あれ?」
ひんやりとした指先が、心地よい。
指が額を冷やしている――というより、指に額の熱を奪われているような、そんな感覚。事実起こっていることは変わりないから大した問題ではないが。
男「あの、少女、さん?」
他者の額を触る。人間が熱があるか軽く調べるくらいにしかやらないような、大したことの無い動作。
しかし人で無い少女にとっては話は別だ。記憶とそれに対する感情を読み、奪い、食らう彼女にとっては。
その右手は、記憶に触れる右手。思い出を掴み、奪い取る右手。
いかに瑣末なものであろうと、いかに重大なものであろうと、区別なく思い出を握り締め、口へ運ぶ右手――
少女「……、っ、あ、ぅ」
――、だが。
少女の表情筋が、固まる。整った顔が、ほんの僅かながら崩れる。
少女「ぅぅ、あ」ぽろっ
ぴくぴくと震える彼女の頬に垂れた水滴が揺れる。
涙に当たった光が、きらきらと反射した。 - 9 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/22(木) 09:46:16 ID:44HwnkNo
- 男「……っ、少女! 何が――」
彼女の涙の理由として思い当たるものが、一つ。
彼女は人外としての在り方を変えてから、俺の記憶に触れていなかった。
触れる機会が無かったわけではない。さっきのように、頼まれればいつでも喜んで俺は額を突き出すだろう。
そして彼女は以前、俺の記憶を見るのが怖いと言っていた。
そんな彼女が覚悟を決めたような顔で俺の記憶に触れて、その後、涙を流す。
ならば、彼女が危惧していた何かが、そのとおりになってしまったということか。
少女「ぃ、いや、なんでも、ない」
慌てた様子で少女は手を離し、そのまま目をこする。
こすったことによる炎症とで、余計に目が赤くなっていた。
男「なんでもないなんてこと、ないだろ」
自分でも珍しいと思うが、少女の発言を否定した。
あからさまに何かあった様子だ。恋人として、彼女を愛している存在として心配するのは妥当だろう。 - 10 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/22(木) 09:47:29 ID:44HwnkNo
- 少女「なんでもないんだよ、お前にとっては。これは私自身の責任だ」
震える声。弱々しくも、悲痛に叫ぶ声。
彼女自身の責任だと本人が言っても、俺の記憶を見たあとでこんな状況になれば、その一端は俺にあるのではないか。
少女「すまないな。今日は一度、帰ってくれ」
少女「……暫く、考えたい」
俯いて、少女は部屋の奥に向かう。
その背中を抱きしめることも、肩に手を置くことも、声をかけることも。
男「……分かった。またな」
できなかった。 - 12 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/22(木) 22:56:25 ID:44HwnkNo
- ――翌日、高校、昼休み――
ポニテ「ヘロォーウナース!」
男「看護婦になった覚えは無いんだが」
ポニテ「あるぇ、通じなかったかー」
男「相手に通じるかどうか判断つかないうちは止めといたほうがいいぞ」
ポニテ「むー……だが断るっ!」
男「それは元気よく言う台詞じゃない」
ポニテ「まあそれはさておいてさ、放課後空いてる?」
男「いや、今日も通い旦那で忙しい」
ポニテ「おおう……、健気ですね」
男「……そりゃあ、恋人で、あいつのこと好きだからな」 - 13 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/22(木) 22:57:09 ID:44HwnkNo
- 黒髪「相変わらず、仲がいいんだね。二人とも」ひょこっ
ポニテ「あ、黒髪ちゃんもヘロォーウ!」
黒髪「へ、へろー?」
男「ほらもうネタが通じないどころかテンションにも引いてるじゃねえか」
黒髪「あはは。でもやっぱり、ポニテさん見てると元気になるよ。クラス変わったのがまだ残念」
黒髪「それで、何の話してた?」
ポニテ「あ、えっと、その」
こちらの顔色を伺うように、ポニテが視線を送ってくる。
……? 何を躊躇う必要があるのだろうか。
男「俺が少女の恋人で、少女を愛してるから通い旦那って話」
ポニテ「いっ!?」 - 14 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/22(木) 22:57:58 ID:44HwnkNo
- 黒髪「……」
黒髪の表情が、固まる。
……あ、そうか。これ地雷か。
俺、黒髪の事振ってたからな。
自分でも何で気づかなかったのか、不思議なくらいである。
ポニテ「あ、あの、黒髪、さん?」
黒髪「あのね、男」
額を軽く押さえて、黒髪はため息を吐く。
とりあえず、悪いのは俺だ。叱責を覚悟して、耳を傾ける。
黒髪「……一応ふっきれたつもりだけど、ちょっと未練あるんだから」
黒髪「自分で振った女の子には、その辺注意してね?」
男「あ、ああ。悪かった」
一応、分かってはいるつもりだったが、失念していた。
某一方的に好意をぶつけて満足してる人外に付きまとわれているせいだろうか。 - 15 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/23(金) 21:50:51 ID:mQk6HsVA
- 黒髪「っていうより、そういう話なら、少女さんのところに行く、ってだけでよかったんじゃないの?」
男「……それも、そうだよな」
黒髪「わざとそういう話をして、私にストレスを与えようとか」
男「そこまで性格悪くない、はず」
否定しようと思ったが、少女や巨乳辺りならやりそうだ。
影響されて無意識のうちにやってしまった、というのもありえる。
ポニテ「男は昔からいい奴だけど、なんか雰囲気変わったからねー」
黒髪「うん。去年の春、一学期の中ごろとか、終わりごろから」
男「……そうなのか?」
ポニテ「なんというか、こう、大人しくなった?」
黒髪「うんうん。ポニテさんへの突っ込みもキレがなくなってきたし」 - 16 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/23(金) 21:51:32 ID:mQk6HsVA
- 男「去年の一学期の後半っていうと」
妹っぽいのと黒髪を振って、少女に二度目の告白をしたころ。
……いや、これは駄目だったか。
男「妹っぽいのの件でごたごたしてた頃かな」
俺が洗脳されてくるくるぱーになった後、高校の前で妹っぽいのが土下座した話。
もしかしてくるくるぱーになった後遺症でもあるのだろうか。脳をいじられたわけだし。
ポニテ「妹、っぽいの? あれ、男って一人っ子だったよね。あとっぽいのって何?」
黒髪「そっか、ポニテさんには話して無かったね」
男「話が長くなるから割愛。そういう何かが居たって考えてくれ」
ポニテ「うおぅ、何かホラーな感じ」 - 17 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/23(金) 21:52:51 ID:mQk6HsVA
- 黒髪「……でも、男の雰囲気が変わったのはもっと後だったと思うんだけど」
黒髪「ええと、確か、その一ヶ月くらい後」
一ヵ月後。妹っぽいのの件の後、何があっただろうか。
その直ぐ後に少女の店に行って、少女にからかわれて、思い出を食べた少女が赤面して。
妹っぽいのの件のお礼で、少女が飽きるまで話をすることになって。
毎日毎日少女と話して。
他愛も無い話をして、少女の昔話を聞いて、お菓子を食べて。
――俺が、想いに気づいて。
それを伝えて。
男「――、あ」
一度振られたのが、丁度そのころか。 - 18 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/23(金) 23:30:46 ID:mQk6HsVA
- ――思い出消し屋前――
男「……」
幾度かノックをしてみたが、鍵は開かない。
外出しているのか、体調不良など何らかの事情で動けないのか、……あるいは、開けたくないのか。
一番可能性が低いと思われるのは三つ目。
二度目の告白の前でさえ、鍵が開いていたのだ。
体調不良、というのも無いとは思う。
人外が体調を崩すなど滅多に無いことで、彼女の生き方を左右するようなこともそうそうあるものではない。
ならば外出していると考えていいだろう。
特に美味しいとも感じないアイスを買いにいっているのか、あるいは巨乳に何か相談しているか。
……今まで、この時間に少女が外出していることなんて一度も無かったけど。
それでも、それくらいしか考えられなかった。 - 19 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/08/23(金) 23:36:17 ID:mQk6HsVA
- 女!「おや、おやおやおや、男さんじゃないですか」ひょこっ
男「……さも奇遇であることを装ってるけど、恒常的にストーキングしてるだろ」
巨乳「これでも彼女にしては抑えているほうですよ。放って置くと男さんの家の中でエンカウントしますよ」
コメント一覧
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- 2014年09月12日 23:36
- やべぇよこの世界観すげぇ好みだ!!!!!!!
生まれ変わったらこの世界観の人外に成りたいと強く思う
久しぶりの続編www