男「思い出消し屋、か」
- 1 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/24(水) 22:48:38 ID:qwRImjXc
- このSSは
男「思い出消し屋……?」
の続編的なものです。
適当にググってくださればまとめが出てくると思いますのでよろしければご一読下さい。 - 3 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/24(水) 23:04:56 ID:qwRImjXc
――かん、かん、かん。
剥げた塗装から錆が覗く屋外階段を登るのは、どうも慣れない。
幾度と無く錆を踏んではいる。しかし時々、みしり、と嫌な音がする度に、耳の奥から脳に走る怖気を抑えられないのだ。
それでも俺が登るのは、このビルのある一室に用があるから。
より正確に言えば――自称、そこに巣食う生物に会いに行くため。
彼女は自らの事を、ひとでなしだの人外だの化け物だのと言う。
確かにまあ、人間ではない。となれば人外であり、他に類を見ない特性を持っているので化け物といってもいいだろう。
大した問題でも無いだろう、と言ったかつての彼女は笑っていた。
当時の俺は呆気にとられていたが、今なら一緒に笑えるだろう。
――かん、かん、かん、と。
ビルの三階までたどり着くと、ちいさな影が一つ。
俺を直ぐに見つけて、にやりと笑みを浮かべる。
少女「おや、男じゃあないか」
そう、彼女が何かなんてどうでもいい。
だって、彼女はこんなにも愛おしい。- 4 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/24(水) 23:17:09 ID:qwRImjXc
男「よう、少女。ちょっと相談事があってね」
言いながら、ゆっくりと歩み寄る。駆け出して抱きしめてもいいのだが、体格の差を考えるとそれは遠慮したい。
自分より一回りも二回りも大きい男が駆け寄ってきたら、相手が誰であれ怖いだろう。
少女「ほう、相談事か。小卒の私にか。恥を知れ」にやにや
……最も、彼女にそんな気遣いは無用かもしれないが、まあ、念のため。
男「思いつく限り、お前しか相談相手がいないんだ。餅は餅屋とも言うし」
少女「……ふむ、まあ話は中で聞こうじゃないか」
男「あと会いたくなったから」
少女「なっ!? ……む、無駄口叩かずさっさと入れ」
何度見ても、狼狽する彼女の姿は可愛らしい。
まあ本来は相談に来たのであって、惚気ている場合ではないのだが。- 5 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/24(水) 23:27:39 ID:qwRImjXc
- ――思い出消し屋――
少女「で、相談って何だ。悪いが誰かを不快にするための相談には乗れないぞ。私がやるから」
男「違うから安心してくれ」
少女「何だ。餅は餅屋だというから期待してしまったじゃあないか」むすっ
男「……どっちだよ」
少女「私はツインテールではないが、ツンデレ系超絶美少女ではあるから後者が本心だな」
男「ああもう、お前と無駄話をしていると面白すぎて本題に入れねぇ」
少女「む、それは申し訳ないやら嬉しいやら。間とって真顔になっておこう」
男「ありがとう。丁度真面目な相談だし」 - 6 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/24(水) 23:39:18 ID:qwRImjXc
男「……最近、妹っぽいのの様子がおかしくてな」
少女「まだ『っぽいの』つけてるのか。あいつもいい加減、お前を洗脳してしまえばいいのに」
男「本人がやりたければやるだろう」
男「で、妹っぽいのなんだが、ここ最近いつでもどこでもあの姿なんだ」
少女「着たきりか。同じ服を何枚も持ってるのか」
男「違え。前まで、二人で出かけたりするときは女っぽいのだったりしたんだけど、ここ最近ずっと妹っぽいののままなんだ」
少女「……ふむ、嫉妬しちゃうぞ。丑の刻に藁人形もって出かけるぞ。寝てるからやらないが」
男「他に移す気が無いほどお前に心奪われてるから安心しろ」
少女「ぬ、ぐぁ。やめろ馬鹿」
言って、彼女は俯く。
……しまった。とても可愛いが、話が進まない。- 7 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/24(水) 23:55:36 ID:qwRImjXc
少女「……う、うむ。いいぞ。続けろ」
男「ああ、すまん。……姿が変わらないほかにも、どうも調子が悪そうなんだよ」
少女「……む? それは、体調が優れないという意味でいいのか?」
途端に、少女の顔が引き締まる。
そこまで興味を持たれるところではないと思っていたので、少し驚いてしまう。
男「あ、ああ。だから病院とか行って欲しいんだけど、一応人間じゃないから普通の病院でいいのか気になって」
姿かたちはまさに人間そのものではあるが、内部までは分からない。
妹っぽいのも病院には行った事が無いらしく、戸惑いを露にしていた。その不安を解消するためにも、少女の助言が必要だったのだが――
少女「――いや、それはありえない」
男「……は?」
少女「人外が、体調を崩すなどありえないと言っている」
少女「そもそも私達は、永遠に不変の存在だ」
少女「ああ、ちなみに私の食事も、言ってしまえば趣味のようなもので必須のものではない」- 10 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/25(木) 21:35:24 ID:SDcvZIcw
男「つまり、妹っぽいのは」
少女「うむ。仮病か、あるいは何かあったのか」
男「……どっちかは判断できないけれど、一応後者である事を前提としてくれ」
少女「ああ。仮病だったら何をしても無駄だから相談の意味がなくなってしまう」くっくっ
少女「さて、と。言ったとおり、人外は基本体調を崩さない。よって人外専門の医者などいない」
少女「かといって、私達が病院に行ったところで、まともな診察が出来る医者もいなかろう」
男「つまり、俺達でなんとかしなきゃならないってことか」
少女「うむ。お前があいつを助けたいのであればな」
少女「といっても、解決策など無いのだが。そもそも私も体調不良になったことなんて――」
そこまで言って、少女は僅かに眉間に皺を寄せた。
数秒の沈黙の後、難しい顔をしたまま、少女は言う。
少女「ああ、言われてみれば、そんなこともあったな」- 13 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/26(金) 00:08:58 ID:gHsWQGrw
男「あったのか。参考にしたいんだが、それっていつ?」
少女「今は言わないで置こう。何せ不確定要素が多すぎる」
少女「そもそも人外だといっても、私と奴は別種だ。同じように扱っていいかもあいまいだからな」
少女「美貌もこのとおり、天と地ほどの差があるし」ふふん
変幻自在である彼女と比べるのはナンセンスだと思うのだが。
いや、それを含めても俺から見れば少女は誰よりも好ましい容姿をしているな。
男「それもそうか……、でも、それだと本当に手詰まりなんだけど」
少女「ああ。私も少し知り合いを頼ることにするよ」
男「わざわざありがとう。……失礼かもしれないけど、珍しいな」
少女「そりゃあ、その」
少女「……恋人が困っているのだからな。何かしてやりたいと思うのも当然だ」ぼそぼそ
男「……すまん。ちょっと抱きしめさせろ」ぎゅっ
少女「むぐ。存分に抱きしめるがいい。そして年上に甘えているのか幼女を愛でているのか分からなくなるがいい」- 15 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/26(金) 22:29:05 ID:VyXaHigc
- ――自宅――
男「ただいまー」
妹?「おかえりなさい、男さん」
男「おお、妹っぽいの。調子は?」
妹?「はい、おかげさまで良くなりました。心配させてしまって申し訳ございません」
妹?「……って、あれ」ぐらっ
男「おっと」がしっ
男「……やっぱりまだ具合悪いみたいだな。無理せず休んでいてくれ」
妹?「はい。……すみません、男さん」
妹?「その、えっと」
妹?「身体が上手く動かないので、できれば、このまま部屋に」 - 16 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/26(金) 23:08:56 ID:VyXaHigc
- ――妹っぽいのの部屋――
妹?「男さん、男さん」
男「ん、何か取って来ようか?」
妹?「男さんは、あの方と付き合っているんですよね」
男「……ああ、少女と付き合ってるよ」
妹?「……男さん、もし、よろしければ――」
妹?「――い、いえ、なんでもありません」
男「……?」
妹?「どうか、お気になさらず」
妹?「でも、男さん。もし私にできることがあったら、何でも言ってくださいね」
男「病人は無理せずゆっくりしていてくれ。それが今、妹っぽいことにしてほしいことだよ」 - 17 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/28(日) 22:25:34 ID:7MyW2q36
妹?「いつも、本当に、ありがとうございます」
男「家族だし、当然だろ」
男「血のつながりが無いっていっても、一緒に平穏に暮らせる仲なんだから」
妹?「……っ、はい」
妹?「それではお言葉に甘えさせていただくことにしますね」にこっ
崩れ落ちてしまいそうな微笑を作り、彼女は目を閉じる。
そのまま死んでしまった、と言われても素直に受け入れてしまいそうなほどに、青ざめた頬。
きっと良くなる。きっと、少女がなにか方法を教えてくれる。
祈ることしかできない俺は、そのまま妹っぽいのの部屋を後にした。
静かに閉じたはずの戸の音が。
俺の背中に飛んでくる野次に聞こえるのを、そんなわけがないと押しつぶしながら、廊下を歩く。- 18 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/28(日) 22:27:34 ID:7MyW2q36
- ……
妹?「――ごめんなさい、男さん。本当に、ごめんなさい」
部屋に響かず、こもって消えた涙声を、男は知らない。 - 19 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/29(月) 17:29:13 ID:tdiH55Y.
- ――翌日、思い出消し屋――
ばたんっ
男「……」はーっ はーっ
少女「……おや、息を切らしてどうした男」
少女「突如欲情してしまったから私に精処理をしてもらおうというのか。全く仕方の無い奴だ。てれてれ」
男「……いや、まあ、それも悪くない、けど」
男「……妹っぽいのが、いなくなった」
少女「……ん?」
少女はぼんやりと虚空を眺める。
汗だくで息を切らしている俺とは正反対に、彼女は非常に落ち着いた様子だ。
少女「ああ、まあ、そうだろうな」
ぐにゃりとつりあがった口の端を見せつけながら、少女は言う。
少女にとっては想定の範囲内だというのであろうか。そうであるならば――
男「何か、分かったのか」
少女「もちろん。いやはや、大したことのない、下らないお話だったよ」 - 21 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/29(月) 23:42:46 ID:tdiH55Y.
少女「私達人外は、基本的に永遠の存在だ」
少女「腹がすこうが寒かろうが不衛生だろうが、不眠不休であろうが傷を負おうが、健康体でありつづける」
少女「……が、例外が一つ。それが今回問題になっているところだな。ほれテストに出るぞ」
男「……何なんだ。何が原因だ。俺はどうすれば妹っぽいのを救える」
少女「急かすなよ。ちょっと嫉妬しちゃうぞ。ぷりぷり」
少女「で、その例外だが」
饒舌に語っていた少女が、一つ呼吸を置く。
そして楽しくて仕方が無いとでも言いたげな顔で、告げる。
少女「――自分という存在の在り方が、大きく変わったときだ」
少女「要するに、人外を殺したければ自己啓発書でも読ませろという話なのかな」けけっ- 23 : ◆wKJ4P6pC3k 2013/04/30(火) 00:07:45 ID:LTbb3FTA
男「……まさか、本当に、そんなことで」
少女「あほう。あんな本で人外が変わってたまるか」
少女「そもそも私達の本体は、肉体ではなく精神なんだよ」
少女「そしてそれぞれが、在り方を持つ。自分はかくある存在で、かくあるべき存在であるという心だ」
男「……だから、それが揺らいでしまえば」
少女「病は気から、というのをその身をもって思い知ることになる」
自らの核になるほどの、強いアイデンティティ。
それが揺らげば、大黒柱を失った建コメント一覧
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- 2014年09月12日 15:30
- ふむ、なかなか
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- 2014年09月12日 16:10
- 昔相手の記憶を消す漫画あったな。確かイヤリングが制御装置やったはず。
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- 2014年09月12日 18:03
- 過去作も読んだけど人外ヒロインラノベで良いね
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- 2014年09月12日 19:27
- ※2
マインドアサシンか
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- 2014年09月12日 23:56
- スレタイからエターナルサンシャインかと
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