怪人「ぎゃあああああ!!」戦隊ヒーロー「正義は勝つ!!」
- 1 :◆lKdaFqkzfTeF 2014/08/28(木)16:33:56 ID:RVF5TzVFn
- (――あ~あ、まぁたやられちゃったよ……)
目の前の巨大なモニターを見ながら、ぼんやりと考えていた。
今回の怪人は、クモ男。
けっこううまくできたんだけど、まあ、相手は5人だし、これも仕方ないか。
「……総督、いかがいたしましょうか……」
目の前には、女幹部と男幹部が膝を付いて僕を見ていた。
どうするも何も、クモ男、爆発しちゃったし。
「……撤退。戦闘員を引かせろ」
「……かしこまりました」
「ああ、ちゃんとケガの治療と重傷者には特別休暇の検討もね」
「はっ――!」
凛々しく返事をした幹部たちは、部屋を出ていった。
「……ふぅ。この喋り方、疲れるんだよね……」
大きく息を吐き、被っていた兜を脱ぐ。しかし鎧は簡単には脱げないから、諦めるしかない。
これは、男幹部が用意したものだ。何でも、これくらいのものを着ていないと様にならないとか。割とどうでもいいんだけど。
……そう、僕は、とある組織の長をしている。世間では、僕の組織はこう呼ばれている。
――“悪の組織”、と…… - 6 :◆lKdaFqkzfTeF 2014/08/28(木)16:46:45 ID:RVF5TzVFn
- 「――お疲れ様ー」
「お疲れ様でした!総督!」
夜間警備担当の戦闘員は、敬礼しながらオラを見送る。
その言い方、本当は止めてほしいのだが、今更名称を変えるのも面倒で、とりあえず放置している。
外はすっかり日が落ちてしまい、空の星達が揺れ動き、帰る僕を労っていた。
当たりは森に囲まれたところであり、ここから駐車場までは歩いて30分かかる。ちょっとした、森林浴のようなものだ。
その中を、トボトボと歩く。
本当は警備を付けようという話になったが、それは拒否した。
僕は公私を分けるタイプだ。帰りくらい、一人でゆっくりしたい。
暗い夜道を歩きながら、何となく思い返していた。
こんなことをするはめになった、あの日のことを…… - 9 :◆lKdaFqkzfTeF 2014/08/28(木)16:56:22 ID:RVF5TzVFn
- ――あの日、僕が道を歩いていたら、目の前に隕石が落ちて来た。
それはこぶし大の大きさで、不思議な色を放っていた。虹色って言うのだろうか。赤、青、緑……次々と目まぐるしく違う色を放っている、不思議な石だった。
気になった僕は、それを手に取ってみた。
すると石は瞬時に砕けてしまい、光だけは僕の中に入ってきた。
……それ以降、手を何か生き物にかざし光を当てることで、擬人化させることが出来るようになった。
僕は驚きながらも、少しずつ能力を使いこなせるようになった。
そして考える。これを、どう使うか……
そこで僕が思いついたのは、ちょっとしたお手伝いだった。この能力で怪人に変えた生き物を、社会奉仕に使おうと思った。人間には到底無理なことも、怪人たちなら出来る。
普通の人生を送っていた僕が、世界中から感謝され、尊敬されるような―――そんな未来を、想像した。
――僕は、正義の味方になりたかったんだ。 - 10 :◆lKdaFqkzfTeF 2014/08/28(木)17:01:40 ID:RVF5TzVFn
- 思い立った僕は、とりあえず目の前にいたダンゴムシを怪人に変え、一緒に街に行った。
ダンゴムシ男を使って、脚の悪い人の移動手段にしてやろうって思っただけだった。
さすがに素顔を晒すのはあれだったから、祭りの露店で買ったマスクを付けていたけど。
――だがしかし、そこで問題が発生した。
まあ当たり前だけど、でっかいダンゴムシの怪人を見た人々は、叫び声を上げて逃げ惑った。
しまったと思った時は、既に遅かった。
気が付けば警官隊に囲まれてしまい、銃を向けられていた。
仕方なくダンゴムシ男に逃げることを言ったら、逃げるついでに警察官を吹き飛ばしまくってしまい、僕らはいろんな意味で全国的に有名な存在になってしまった。
……ある意味、僕の悪の道への、第一歩となった。 - 11 :◆lKdaFqkzfTeF 2014/08/28(木)17:15:26 ID:RVF5TzVFn
- その時、一つの組織が立ち上がった。
何でも、こんなこともあろうかと日々準備をしていた人たちだとか。
こんなこともあると考えてたあたり、それまではただ痛い集団に思われていたようだが……ダンゴムシ男の襲来により、一躍注目を集めることになった。
そして、僕に出てくるように全国放送で呼び掛けたのだ。
どうしようか悩んだが、とにかく誤解を解くべく、ダンゴムシ男と話し合いに行った。
……ところが、奴らは僕らを見るなり、問答無用で攻撃を仕掛けてきた。
ダンゴムシ男は激怒した。
僕の制止を振り切り、ヒーローたちに飛びかかって行った。
……そして、合体攻撃により、見事に撃破されたのだった。
ちなみに、爆発したあとの怪人は、ただ元の姿に戻るだけだったようだ。一安心した。
命辛々逃げ延びた僕は、どうするか悩みながら歩いていた。
……その時に会ったのが、女幹部だった。 - 15 :◆lKdaFqkzfTeF 2014/08/28(木)17:22:48 ID:RVF5TzVFn
- 女幹部はすぐに僕と分かったようで、いきなり手を握ってこう言ってきた。
『あなたの行動には感動しました!こんな世の中を征服しようとする勇気……私も、ご一緒させてください!!』
……何か、勘違いをしていたようだ。
だがそこから、女幹部の行動は凄まじかった。
ネットやツテを使って次々と仲間を集めていった。具体的にどうやって集めたかは分からない。
だが、この世の中をよく思わない人は多かったようだ。
あっという間に、大軍団へと発展した。
その後男幹部が加入し、僕はついに、悪の組織の総督となった。
……当然だが、僕がしたかったのはこんなことじゃない。
本当は人々から尊敬されることをしたかった。
だけど、その役目はすっかりヒーローたちに持ってかれてしまった。
再びどうするか悩んだけど、とりあえず、この組織を運用することにした。
ここまで僕のために集まってくれた人たちを、はい解散で帰すのは忍びなかった。
何より僕を必要としてくれていることが嬉しかった。
……そして僕は、流されていった。 - 16 :◆lKdaFqkzfTeF 2014/08/28(木)17:37:55 ID:RVF5TzVFn
- 「ただいま……」
家に帰りついた僕は、電気を付ける。
築数十年ものの年期のある木造アパートだ。
組織では総統総統と持て囃されているが、一歩組織から離れれば、しょせんただのアルバイト。
こんなボロボロのアパートに住むのがやっとだ。
ちなみに、悪の組織には給与はない。収入がないから当然だけど。
戦闘員、幹部たち……みんな、本当はそれぞれの生活がある。基地の運営は、それぞれの募金で賄われている。
まあ、質の悪い宗教集団のようなものなのかもしれない。
いつかみんな飽きてしまうと思っているのだが……なぜか、中々みんな飽きてくれない。
それどころか、女幹部によると、人数が増えているらしい。
まったくもって不可解だ。
- 29 :◆lKdaFqkzfTeF 2014/08/28(木)21:01:58 ID:RVF5TzVFn
- 「――いらっしゃいませー」
お客が店に入ると同時に、条件反射的に口が動く。その様は、まさにパブロフの犬の如し。
そこは、僕が働くコンビニエンスストア。
ここに勤めて早2年……だらだらとここに勤め続けている。そしていつの間にか、僕はこの店の中堅へと君臨していた。
……これが、僕の普段の姿だ。
目立った夢も、やりたい仕事もない僕は、とりあえず生活費を稼ぐためにアルバイトをしている。
知り合いは、みんな仕事をしている。
やれキツイけどやりがいがあるだの、やれ苦労して昇進しただの、同窓会の度にそんなことを口にしていた。
そんなのは、正直興味はない。
キツイなら嫌だ。苦労するのも嫌だ。
僕の脳裏に浮かぶのは、まずそんな言葉だった。
ダメ人間ってのは、僕のような人のことを言うのかもしれない。
――ピンポーン
「――いらっしゃいませー」
再び、僕の口は無条件に動く。
(―――あ)
入ってきた客を見て、すぐに気付いた。
その女性は、スーツを着こなす。
髪を後ろで束ね、メガネ着用。ビジネスバッグを手に持ち、やや高いヒールをカツカツと鳴らしながら、凛々しく聡明に店内へと入って来る。
その姿は、見る人が振り返ってしまうほど、とてもカッコいい。……そう、カッコいい女性だ。
彼女は、このコンビニの近くにある会社の役員をする人物だ。
若くして管理職を任せられている彼女は、きっと世間で、エリートと呼ばれる人物なのだろう。
……ちなみに、どうして僕が、そんな込み入ったことを知っているかというと……
彼女は、微笑みながら僕を見る。そして、声なき声を僕に送る。
彼女の口は、こう動いていた。
――お疲れ様です、総統――
……彼女こそ、女幹部の普段の姿だった。 - 30 :◆lKdaFqkzfTeF 2014/08/28(木)21:15:18 ID:RVF5TzVFn
- 店内を歩く彼女。歩く姿もカッコいい。
……しかし、立ち読みするフリをして横目で彼女をチラチラ見ている高校生も、レジをしながらがっつり彼女を凝視している店長も、みんな揃って思いもしないだろう。
彼女が、コスプレ衣装を着飾り、全力で悪の幹部を務めているなんてことを。
「……これ、ください」
彼女は決まって僕のレジに商品を持ってくる。
そして必ず、カルボナーラを買っていく。よほど好きなようだ。
「……温めますか?」
「いいえ、けっこうですよ」
彼女は、優しく答える。
毎度のことながら、何だか不思議な気分になる。
組織では望んでもいないのに僕を敬って来るのだが、今目の前にいる彼女は、まさしく立派な女性だった。……今の僕なんて、まるで話にならないくらいに。
どうしてこんな女性が、自ら進んで悪の組織の一員になるのか、僕にはとうてい想像も出来ない。
何度か聞こうと思ったことがあるが、聞いたところで何かが変わるわけでもない。僕の座右の銘は、現状維持なのだ。
――ふと、彼女が小声で訊ねて来た。
「……総統、明日は何時に……」
「え?……ああ……じゃあ、昼の3時くらいで。仕事大丈夫?」
「はい。それまでには終わらせますので……」
そして彼女は、最後に笑顔を残して立ち去っていった。
……ほんと、なんであんな人が女幹部なんてしてるんだろう。 - 31 :◆lKdaFqkzfTeF 2014/08/28(木)21:26:30 ID:RVF5TzVFn
- 仕事終わり、店のバックヤードでタバコを吸いながら、ぼんやりとテレビを見る。
別にすぐに帰ってもいいのだが、何となく、目の前を流れる映像を見ていた。
テレビでは、有名な歌手が歌を歌っていた。
ビジュアル系の格好であり、会場では女性が黄色い歓声を上げている。凄まじいイケメンだし、当たり前か。しかしその見た目とは裏腹に、声はとても力強く太い。
自身が作詞作曲したバラード調の曲を必死に歌うその姿は、まさにプロそのもの。まあ、プロなんだけど。
「――この人、本当にいい声で歌いますよね。歌も凄くいいし……」
ふと、後ろから声がかかる。
振り返れば、コンビニの制服を着た女性が立っていた。
彼女は鈴形さん。このコンビニで働く、後輩さんと言ったところだ。
同い年ではあるが、なぜか僕に敬語を使って来る。
……ちなみに、同じコンビニに働いてるからといって、ムフフな展開になっているなんてことはない。彼女には、きちんと彼氏さんがいる。いつも迎えに来てるし。
「……でもこの人、最近あんまり曲を出しませんよね……。私ファンだから、ちょっと心配です」
「……ああ、この人、スランプだからね」
「そうなんですか?」
「らしいよ」
(……だって、本人が言ってたし……)
……鈴形さんは予想もしないだろう。目の前の画面の中に移るそのイケメンが、組織の男幹部であることを。 - 32 :◆lKdaFqkzfTeF 2014/08/28(木)21:40:22 ID:RVF5TzVFn
- 「……詳しいんですね。先輩もファンなんですか?」
不思議そうに僕を見る彼女。ファンなんてことはない。むしろ、僕は普段歌なんて聞かない。故にカラオケとかいう奴も大嫌いだ。
「……そうじゃないけど。ネットで見たんだよ」
「へえ~……」
「それより、その“先輩”って言うの、いい加減やめない?同い年だし……」
「でも、働き始めたのは先輩の方が早いですよ?」
「たかだかコンビニで、そんな体育会系なことなんて気にしないって」
「いいじゃないですか。私が、そう呼びたいだけなんです」
そう言い残し、彼女は店内へ戻って行った。
……それにしても、この人もこの人で不思議だ。
国民的な歌手であり、富も名声も手に入れた、いわば成功者とも言える人物……なぜこんな人が、あんな胡散臭い組織に加担しているのだろうか。
彼との出会いは、今でも鮮明に覚えている。
怪人が敗れ撤退する最中、僕の前に現れた彼は、突如土下座をしてこう叫んだ。
『俺も、仲間に入コメント一覧
-
- 2014年09月20日 17:59
- 必要悪の話とかするとこんがらがるから、ニチアサの戦隊物は単純でド派手なやつの方が受けると思うな(KONAMI艦)
-
- 2014年09月20日 18:08
- 悪には悪の正義があるんだよなぁ…
しかしカマキリ男に14連敗は打ち切りもあり得るレベル
楽しかったです(こなみ
-
- 2014年09月20日 18:28
- そろそろ周りもプロレスだって気付いてないか?
面白かったよ
-
- 2014年09月20日 18:29
- 面白かったw
確かに一人の怪人に
五人のヒーローが戦うって
よく考えればイジメだよなw
ヒーローなんていやしない。
怪人だらけだ世の中はw
-
- 2014年09月20日 18:37
- V「このカマキリ君て凄いねー、五人組のヒーローに連戦連勝だって」
1「またその記事ですか」
V「だって凄いよ、14連勝だよ14連勝! ウチにスカウトしちゃいたいくらい」
R「ほー」ヘラヘラ
1「ああ○○……さん」
2「今日もお昼食べて行くんですか」
1(最近毎日だな……)ヒソヒソ
2(今月負けが込んでるんだろ……)ヒソヒソ
これはK県K市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な戦いの物語である!
-
- 2014年09月20日 18:38
- 昔あった「仮面ライダーになりたかった戦闘員」みたいだな。
あれはよかった。
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- 2014年09月20日 18:42
- >>6
脳内再生余裕すぎる…
やっぱり戦隊物は最高だぜ!
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- 2014年09月20日 18:55
- いい話だなー うん いい話だ
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- 2014年09月20日 18:56
- これはええな
-
- 2014年09月20日 18:57
- カマキリ男は中盤出てくる追加幹部ということなら、雑魚怪人と一緒に14週位出てきても不思議じゃない
-
- 2014年09月20日 19:00
- カマキリ男は悪の親玉が力の大半を使って造り出した怪人って設定だし、14連勝ぐらいしても問題ない...はず。
-
- 2014年09月20日 19:16
- 読ませる
なんか乙一っぽい
-
- 2014年09月20日 19:17
- 面白かった
最初、ノリがワンパンマンssかと思った
-
- 2014年09月20日 19:19
- 本気になれば本当に世界を征服出来るよね…?
カマキリクラスを数体作れば良いんだし。
それをしないから良いんだけど。
-
- 2014年09月20日 19:49
- いいね、目新しさはないけど過不足なくまとまってる感じ
-
- 2014年09月20日 19:52
- ※15
この総帥に限らず、悪の組織なんていうのは本気出せば世界征服位できる
それをやらないのが大人の事情
-
- 2014年09月20日 20:00
- 面白かった純粋に
ありがとう
-
- 2014年09月20日 20:31
- サンレッド?
-
- 2014年09月20日 21:18
- 範馬刃牙でやってたが、カマキリが人間サイズの巨大な昆虫だったら視覚がないし、人間の急所にあたる頭が弱点じゃないし、足が多いから多少の事ではバランス崩さないのでメチャクチャ強いって分析されてたような気がするな。
-
- 2014年09月20日 21:19
- ×視覚
○死角
だった、スマン
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- 2014年09月20日 21:43
- 良かった!
-
- 2014年09月20日 21:46
- ※5
「勘違いするな!俺たちは1の力を五分割して戦ってるだけだ!」
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- 2014年09月20日 21:47
- ヒーローが戦うのは悪意を持って襲ってくる敵を撃退するという自己防衛・正当防衛。そして悪の組織は地球侵略のために罪の無い多くの人達を苦しめてるっていう重要な部分を完全に無視。これで複数で立ち向かうのが卑怯とか悪には悪の正義()とかアホすぎるわ。戦隊シリーズの粗に気付いて善悪の相対化()ができる俺カッケーとか本人は悦に入ってるんだろうが根本的な所からズレてんだよなぁ。
-
- 2014年09月20日 21:48
- ※5
戦闘員はノーカンなの?
戦隊はその話のメインのメンバーが怪人と戦って残りは戦闘員と戦う
でそのメンバーが怪人追い詰めて五人の合体必殺で止めってのが割と多いよ
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- 2014年09月20日 21:54
- かなり面白かった!
続編があったらぜひ読みたいくらいです
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- 2014年09月20日 22:06
- 地の利があるとはいえ意外と強かったタガメ怪人を称賛したい
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- 2014年09月20日 23:11
- 中学生くらいの勧善懲悪バカにするようなやつにはウケるんじゃないかな
勧善懲悪なんて神話の時代から(それだけ需要が)あるのにこんなこと考えないやつがいると思う?それこそ悪が勝つ話なんていくらでもあるよ。あんまり面白くないから流行らないだけでね
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- 2014年09月20日 23:14
- 正義の反対は別の正義っていうけど侵略の時点で正義も何もないんだよなあ
-
- 2014年09月20日 23:22
- 別に悪が勝つとかそういう話じゃあないだろうよ…
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