エリカ「あなたが勝つって、信じていますから」【後半】
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レッドは怪我から回復した姿をエリカに見せるためタマムシジムに寄り、エリカに見送られながら再び旅立とうとしていた。
「怪我のないようになさってくださいね。ハンカチとティッシュは持っていますか? 回復の薬と食料の携帯は? ポケモン達の回復は? 怪我の具合は本当に……」
「だ、大丈夫だよエリカさんっ。本当にもう怪我は治ってるし、準備も万全だよ!」
ベタベタとレッドの体を触りまくるエリカ。本人は心配であるがゆえに行っているために、レッドも無碍に振り払えず、声を上ずらせながら答えるしかない。
「……わかりました。でも、本当に気をつけてくださいね」
エリカもやっとレッドから離れる。以前タマムシでレッドと戦い旅に送り出した途端、再会したのが彼の病室だったショックを、エリカは表面上大丈夫そうにしながらも引きずっているようだった。
「うん。エリカさん。これを……」
そんなエリカを察して、レッドは用意しているものがあった。それは日記帳。
「これは……?」
「俺がマサラタウンを出た時からつけている、旅のレポート」
「え……そんな大事なものを、私に……?」
「エリカさんに持っていて欲しいんだ。これからも、カイリュー便でエリカさんに届けるよ。それにエリカさんはタマムシ大学でポケモンの研究をしてるんでしょ? ポケモン達と一緒にいて気づいた事も書いてあるから、役に立てるかなって思って」
レッドがポケモン達と辿ってきた旅の記録。エリカはその重みをひしひしと感じながら、大事に受け取る。
「……わかりました。ですが、一時的に預かるだけです。必ず、取りに来てください」
「……もちろん。それじゃあ、行ってきます」
「……行ってらっしゃい。サイクリングロードは最近暴走族が出ると聞いています。どうか、お気をつけて……」
「うん!」
さよならは言わない。レッドは後ろ髪が引かれる思いを振り切り、自転車にまたがってエリカへ手を振りながらサイクリングロードへ向かった。
橋そのものがセキチクシティへ下る坂状になっており、タマムシシティからセキチクシティへ向かう自転車搭乗者はペダルをこがずに一気に抜ける事ができる。
「おー!!」
レッドも多くの利用者の例にもれず、自転車に座っているだけで風を切ることができる楽しさに興奮していた。海上を通っているだけあり、自転車から見える景色はまるで空を飛んでいるかのような光景だった。
(そういえば、こんな場所に暴走族ってどういうことだろう? この坂では皆坂に身を任せてスピードを出すだろうから、暴走も何もないと思うけど……。でも、あんな怪我をしたあとだ。気を引き締めて行こう。もう、仲間達に心配かけるわけにもいかないしね)
そんなレッドの気の引き締めは、無駄に終わった。レッドが降っていた先、自転車の前輪の高さに合わせて張られたワイヤーが、猛スピードで来たレッドの自転車にひっかかる。
「へ」
レッドが見る景色が空に舞い上がり、逆転した。自転車がワイヤーによって空に跳ね上がり、乗っていたレッドもまた、自転車のサドルから大きく上方に投げ出される。
幸か不幸か、レッドが投げ出された場所は走者が緩やかに減速するためのカーブ地帯。レッドは自転車と共に落下防止柵を高々に超えて海上に投げ出され、どぼんという水音と共に気を失った。
(ん……あれ……? ここは……)
潮の香りと共に、さざ波の音が聞こえる。また、レッドがいる場所がゆらりゆらりと揺れていた。海上に浮かぶ小舟だった。
「気がついたよ、ちちうえ」
「!? え……」
レッドの顔を覗いていたのは覆面の忍び装束の少女。高い声とレッドよりも低い背丈、その少女が小舟の先端に立つ人物へと報告する。
「うむ! お主。怪我はないようだな」
落ち着いていて少ししわがれた男性の声だった。しかし、少女と同じく彼も覆面、忍び装束を着ている。レッドは状況を把握した。どうやらサイクリングロードから海に投げ出され、彼らによって救われたのだろう。
「助けていただき、ありがとうございます。あ、俺の荷物……」
「ここだよ」
少女がレッドの寝ていた横を指さす。荷物は水に濡れているが、中を荒らされた形跡はない。自転車も無事だった。
「あの、あなた達は……」
「すまぬな。お主をすぐに陸へ届けたいところだが、拙者達の用事がすんでからとなる。今は体を休めておくといい」
「え、ええ。あの、どうして覆面を?」
「あたいたちにも、事情あるのだ!」
少女が舌足らずなしゃべり方で胸を張る。覆面の男は特に反応しなかった。
(答える気はないってことか……。悪い人たちじゃあなさそうだけど。仕方ない、今は言うとおり体を休めとこう)
ピジョットを使って空をとぶ事も考えたが、現在地がつかめない場所でいたずらに飛ぶのはかえって危険だと思い直し、レッドは目を瞑った。
(……船が止まった?)
レッドは目を開ける。小舟は海上の大きな橋の下、その支柱に着けていた。覆面の少女がロープで船と支柱を固定する。
「一人船の上にいるのは危険だ。お主も上に上がれ。ポケモンは持っているか?」
「う、うん。ピジョットがいるから」
「よし、出てこいモルフォン!」
覆面の男がモルフォンを出す。覆面の男と少女がモルフォンに掴まって橋に上がり、レッドもピジョットと一緒に上がった。
(ここサイクリングロード、だよね)
ここまでくればレッドは彼らに付き従う必要もなさそうだったが、レッドは彼らが気になった。
覆面の二人は霧の中を進んでいく。その先に人の笑い声が聞こえた。
複数の野太い男の声だった。声の主達は皆派手なパンクルック。派手なバイクに跨がり談笑しているようだった。
(彼らは一体なにをするつもりなんだ……?)
「行け、モルフォン!」
「いけ! ズバット!」
「げっ! 忍者だ!!」
「やべえ逃げるぞ!!」
「え!?」
覆面の男がモルフォン、少女がズバットを出現させると、パンクルックの男たちがバイクを発進させて逃げようとする。
「逃しはせんよ! 観念してもらおう!」
しかしモルフォンとズバットがすぐさま行く手を阻む。
「ちい! やるぞ! 行け! ゴーリ……うわあ!」
モンスターボールを投げようとした瞬間、モルフォンが男にサイケこうせんを発射して吹き飛ばす。
もう一人のほうも少女のズバットによって、モンスターボールを握っていた手を打たれていた。
「勝負をする気はない。さあ、荷物を全て出してもらおうか! そちらの男もだ」
覆面の男が恫喝するとパンクルックの男たちは苦虫を噛み潰した表情で従う。レッドは驚愕した。
「なっ!? なにをしているんですか!? くっ!」
(こんな事をする人たちだったとは! 早くポケモンを出さないと……!)
「!?」
レッドは覆面の男に言われ初めて気づいた。レッドの背後にポケモンの気配がある。
「ドガア……」
(ドガース!? いつのまに!?)
「ポケモンを出して拙者達の邪魔をするのはやめてもらおう。さあ、荷物を全て出した後は両手を上げて跪くのだ」
「くそっ!」
レッドが見ているしかないなか、パンクルックの男たちは持ち物を覆面の二人に回収され、今度は手足を縛られた上目隠しをされた。
「よし、後はいつも通りに」
「うん、行けズバット!」
少女がズバットに命令すると、ズバットがサイクリングロードの地面すれすれを攻撃した。レッドが注意深く見ると、細い紐のような物が地面に落ちている。
(あれは……ワイヤー? 地面に張られていたのか?……!)
レッドは自分が海に投げ出された時の事を思い出した。確かあの時、自転車が地面に張られたワイヤーで……。
「終わったよ、ちちうえ」
「うむ。少年も気づいたようだな。ドガース、戻れ」
レッドの後ろにいたドガースが覆面の男のモンスターボールに戻る。
「あのワイヤーは、彼らが張っていたんですが?」
レッドはもうポケモンを出す気はなかったが、覆面の者達を見る眼は険しい。
「そうだ。奴らはこのサイクリングロードを根城にする暴走族。ふっ、暴走するだけならまだしも奴らは、コースにワイヤーを張って利用者が飛び上がるのを面白がっている上、けが人が出ても通報せずに荷物を強奪する始末。少年だって、拙者達がいなければ命が危なかっただろう」
「……そのことについては、感謝します。彼らが悪い人だとういうのも。しかしそれは、ジュンサーさん達の役割では?」
「ジュンサーなんて!」
覆面の少女が叫ぶ。覆面の男はすぐに少女をいさめる。
「よせ。少年の言う事もわかる。だが、現状ジュンサー達の動きを待っていても被害が広がるばかり。現に彼らはこの霧を利用してワイヤーを張って獲物を待っていた。我らが海上から潜入して虚をつかねば、捕まえるのは難しかっただろう」
「……確かに。彼らはこれから?」
「船に乗せてセキチクシティに運ぶ。その後はこいつらの悪事の証拠をまとめて一緒にジュンサー達の元に引き渡す。匿名でな」
覆面の者達が慣れた様子で男たちをポケモンで船に運んでいく。
「さて、少年。ここから自転車で下に降りていけばセキチクシティに行けるが、どうする?」
「……俺も、乗せてくだい」
「? なんで乗るんだ?」
少女が不思議そうに言ったが、男は特に気にした様子はなかった。
「いいだろう」
パンクルックの男二人が増え、また船が海上に出る。レッドは船に揺られながら、思案にふけっていた。
覆面の男の声に、パンクルックの男たちは怯えた声を出す。ポケモンの技を向けられた事もこたえているのかもしれない。
(この覆面の二人、相当な使い手だ。ジムリーダー達と比べても遜色ないかもしれない。だが……)
レッドが思い出すのは、先ほどのモルフォンとズバットに追い詰められて怯えるパンクルックの男たち。
確かに治安を乱す者達を自主的な活動で捕らえるのは、称賛される事だろう。しかしレッドの脳裏に浮かぶのは、シルフカンパニーで自らを襲ったゴルバットの凶刃。
(ポケモンの技を人に向ける……。いや、覆面の人たちはいたずらに人を傷つけるために戦っているわけじゃない。正式なバトルでない以上仕方のない事だ。エリカさんだってゲームコーナーではねむりごなを使っている。わかってはいる。わかってはいるのだが……)
レッドの心に残る謎のしこり。しかし、レッド
コメント一覧
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- 2014年09月21日 23:22
- 雪山に半袖でいられるくらいだから大丈夫
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- 2014年09月21日 23:40
- うーん、アツいようでサムい。あとライバルのあのセリフが無いのも、なんかなあ
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- 2014年09月21日 23:54
- リアルで見てたけどもうまとめられてるのか
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- 2014年09月21日 23:59
- 台詞回しにセンスがない
シチュエーション作りはいいんだけどね