関連:戦士「あ? 勇者のふりをしろって?」商人「そうです」【前編】


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388: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 22:32:51 ID:iqM4V1pk
――砂漠の村。

魔法使い「……で、地図で言うとここが神殿ね」

魔法使い「お城はこっち。宝物庫は裏から入ったところ」

戦士「オーケーオーケー」

勇者「お前本当にここ出身だったんだなぁ」

魔法使い「……あまりそういうこと言わないでくれる?」

魔法使い「バレたらほら、面倒じゃん」

勇者「お城から逃げたからか」

魔法使い「そうよ。だから丁寧に扱って」

戦士「偉そうだな」

勇者「そうなんだよ、困ったもんだよな」

魔法使い「……」イライラ




389: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 22:35:50 ID:iqM4V1pk
勇者「で、どうするつもりだ?」

戦士「ん?」

勇者「作戦だよ、作戦」

戦士「陽動が一番いいだろう。神殿の解放だ、と言って魔物を倒す」

戦士「その隙に手薄になったお城の宝物庫からお宝ゲット」

勇者「そううまくいくかなぁ」

魔法使い「いっちゃなんだけど、神殿もかなり魔物がいるわよ」

戦士「お城にはマントと剣を使って奥まで行く」

戦士「陽動さえうまくいけば、ハサミ撃ちに出来るんだがな」

魔法使い「だからそれが――」


エルフ「暑い……」ハァハァ




390: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 22:38:37 ID:iqM4V1pk
エルフ「み、水……」

商人「ミミズ?」

エルフ「ギャグとか……ないわ……」ハァハァ

女騎士「くっ、マッタクだ」

商人「お二人共、暑いのダメなんですねー」

女騎士「商人殿は平気なようだな」

商人「ボクはほら、そこら中歩きまわりましたから」

女騎士「そんなものか……海沿いにいたせいか、これほどまでの暑さは体感したことがない」

エルフ「森が恋しいよ……ケーキが干からびてるよ……」


魔法使い「……で、誰が陽動するのよ?」

戦士「そうだなぁ」




391: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 22:42:19 ID:iqM4V1pk
商人「ふっ、ではですね。そんなお二人に特別な商品をご用意しております」

女騎士「う、売るのか?」

商人「じゃーん! 冷感水着セット!」

女騎士「断る」

商人「なして!?」

女騎士「誰がそんな卑猥なものを着るか!」

エルフ「あ~、魔法かかってるぅ~」

エルフ「ひんやりするぅ~」

商人「真夏の日差しを浴びても日焼けしない、冷却の魔法がかかっているのです!」

エルフ「着るわ!」バッ

女騎士「ちょ! 人目が!」


魔法使い「……で、誰が陽動するわけ?」

戦士「水着のおねーちゃんを集めてどんちゃん騒ぎとかどう?」

勇者「そっちがメインじゃねぇか」




392: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 22:52:55 ID:iqM4V1pk
戦士「おーい、三人とも」

商人「あ、勇者さん!」

戦士「なんだなんだ? 水着で水浴びでも始めるつもりか?」

女騎士「ち、違うわ!」

エルフ「ああ、何でもいいから、冷えたい……」

勇者「鮮度を保つ保冷剤よ」カキーン!

エルフ「きんもちぃー!」

魔法使い「便利よね、あんたのそれ」

勇者「だろ?」

魔法使い「でもそのアホっぽい呪文は辞めたほうがいい」

勇者「そうかな」




394: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 22:55:53 ID:iqM4V1pk
戦士「……つまりだな、水着でウハウハの儀式を行う名目で神殿に入る」

女騎士「……」

商人「はあ、なるほど」

戦士「そして、その隙にありったけの道具をかっぱらってくるんだ」

戦士「この二人がな」

勇者「ん?」

魔法使い「はあ!?」

戦士「体力があり、そしてエロが得意な四人がエロ要素を固める」

戦士「地勢に詳しく、隠密行動が得意な猟師と案内人が宝を探す」

戦士「完璧だな」

女騎士「エロの要素がいらないのだが」




395: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:02:03 ID:iqM4V1pk
商人「でも、勇者さん。神殿にも魔物がいっぱいいるんでしょ?」

戦士「うん」

商人「さすがにそこで水着で飛び込んでも、あまり見てくれないんじゃないですかね」

戦士「いや、魔物もエロいと思うよ」

女騎士「そういう問題ではない!」

戦士「どういう問題?」

女騎士「この……魔法使い殿の、国の敵を取るのではないのか!?」

魔法使い「あっ、そういうのはいいっす」

戦士「いいらしいぞ」

女騎士「とにかく、いかがわしいのはダメだ!」

勇者「いいと思うよ、俺は」

エルフ「涼みたい」

商人「騎士様のサイズでお作りしてあります」ニッコリ

女騎士「んがあああああああああ!!!」




396: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:05:44 ID:iqM4V1pk
「さあ、皆さん、勇者ですよ! 世界を救う勇者の登場ですよ!」

「がはははは……」


戦士「ん?」

商人「うわ」

勇者「おー」

女騎士「くっ、こんなところにも出張っているのか!」

魔法使い「何アレ?」

勇者「勇者らしいぞ」

魔法使い「ふーん。なんか勇者っていっぱいいるのね」

戦士「うむ。まー、俺的には猟師が勇者で自分も勇者のフリをした商売人だと思っているが」

猟師「おらが勇者だなんてとんでもないことヅラ」

魔法使い「うるさいわね」

戦士「しかし……いや、待てよ」




397: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:10:25 ID:iqM4V1pk
僧侶「この御札を買えば、立ちどころに魔物が寄り付かなくなるのです!」

勇者「そうだぞ、ほら、ドンドン持っていけ」

僧侶「そして浄財を……」

村人A「うるせーぞ!」

村人B「こちとら城が滅ぼされとんじゃ!」

村人A「勇者なら国が滅びる前にこいや!」


魔法使い「うわー、荒れてるわね」

戦士「正論だな」

勇者「あ、石投げられてる」


僧侶「ちぃーっ! 不信心もの!」

偽勇者「やれやれ。おら、僧侶、こんなところに長いするこたぁない」

偽勇者「とっとと次行こうぜ」

僧侶「ふん! そんな不信心でいると、この村さえ今に失うことになりますよ!」ぺっ




398: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:13:01 ID:iqM4V1pk
魔法使い「……」

勇者「そう、コワイ顔するなよ」

魔法使い「してないわよ。ただ、ちょっとムカつくだけ」

勇者「なんだかんだ、お前も愛着あるんだろ? この国」

魔法使い「そりゃあ、故郷だからね」

戦士「……おい、お前ら」

勇者「なになに、なんだよ」

商人「ど、どうしたんですか?」

戦士「騎士もちょっとこい」

女騎士「な、なんだ」

戦士「別のプランを考えたからまあ聞け……いいか……」




399: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:16:08 ID:iqM4V1pk
偽勇者「じゃあ、後は勝手にしやがれ」

村人A「けっ、二度と来るんじゃねぇ!」

僧侶「私だって来ませんよ! 地獄に落ちろ」

村人B「なんつう言い草だ、あんた」


戦士「……お待ちくださ~い!」ニコニコ

商人「勇者様~~!!!」ニコニコ

勇者「勇者様、探しましたぞ~!」ニコニコ

魔法使い「勇者様ぁ~~!」ニコニコ


偽勇者「……は?」

僧侶「な、なんですか」

僧侶「あ、あなた達は!」

村人A「なんだぁ、こいつらの仲間か」

村人B「何しに来やがった!」




400: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:20:26 ID:iqM4V1pk
戦士「いやあ~!! お探ししました、勇者様!」

商人「魔王を倒す、唯一の力を持った御方!」

勇者「我々は、各国より勇者様を支援するように言われていた戦士なのです!」

村人A「は、はあ」

村人B「そうですか」

僧侶「な、なんなんです?」

偽勇者「俺達はそんなことは知らんぞ」

戦士「無理もない、我らは秘密裏に結成された部隊」

勇者「各国から特命を受けてやってきたのですから!」

魔法使い「そう、そして、私もその一人」ふぁさ

村人A「あっ、あんたは、魔法使いちゃん!」




401: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:23:25 ID:iqM4V1pk
村人B「魔法使いちゃん、生きとったのか!」

魔法使い「え、ええ」チラ

戦士(これカンペ)

魔法使い(ありがと)

村人A「今まで何してたの?」

魔法使い「王の最後の命により、魔物を倒し、この国に光をもたらす者を探していたのです」

魔法使い「そして、それこそがこの御方!」さっ

偽勇者「え?」

僧侶「いやあの」

魔法使い「どうか我が国の魔物を打ち払い、この国に光を取り戻してください!」ギュッ

偽勇者「お、おう……」

村人A「そ、そうだったのか……」

村人B「本当なのか……?」




403: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:26:38 ID:iqM4V1pk
魔法使い「これをご覧ください! この命令書こそ、この者を勇者と認める南の国の王家の証印!」

村人B「おう……本当だ……」

村人A「間違いねぇ……」

村人B「とんでもねぇやつだと思っていたが……」

村人A「そりゃあ、こっちの態度が悪かったからだ」

偽勇者「そ、そうだな」

僧侶「そ、そうですね」

魔法使い「ああ、勇者様! どうかオネガイシマス!」

魔法使い「そして村の皆さん! どうぞ勇者様とともに、この国を魔物の手から取りかえそうではありませんか!」

\う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!/




404: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:30:52 ID:iqM4V1pk
戦士「さあ、戦の準備と前祝いだ!」

戦士「勇者様をもてなしてやってくれー!」

村人A「おう! 元気が出てきたぞ!」

村人B「魔物を倒すんだ! お城を取り返すぞ!」

偽勇者「お、おい」

僧侶「あ、あのう」

商人「ささ! 勇者様、聖女様! どうぞこちらへ、どうぞ!」

商人「魔物を倒すために、一致団結して頑張りましょう!!」ニコニコ

料理人「腹ごしらえならお任せください!」

戦士「よし、村の皆さん! 皆さんを組織するのは、かの国の王宮騎士団長!」

女騎士「う、うむ」

女騎士「……勇者殿、これはその、詐欺、というやつでは」

戦士「本人が勇者って名乗っているから、それの通りに仕事をしてもらうだけだねぇ」ニヤニヤ




405: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:36:11 ID:iqM4V1pk
――夜。

戦士「はい。というわけで、ふた手に別れることにした」

猟師「腕が鳴るな」

戦士「お城を支配している魔物はドラゴンだ。倒しがいがあるな?」

魔法使い「うげー」

猟師「竜狩りも久しぶりだな」

戦士「三人目の勇者と聖女サマとやらに、神殿に突っ込んでもらう」

戦士「そして、村人たちを指揮するのが女騎士だ」

女騎士「う、うむ」

女騎士「とにかく、彼らを全面に、突撃すれば良いのだな?」

戦士「ただの突撃じゃなくってお城のある方とは反対側から攻める」

戦士「丁度裏口になってるしな」




406: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:40:18 ID:iqM4V1pk
戦士「商人は村の連中に武器を売ってやれ」

戦士「で、ついでに武器の使い方を教えてやれ」

商人「ああ~、売るだけじゃダメなんですかねぇ」

魔法使い「国がボロボロになってるところに、格安とは言え巻き上げる? フツー」

商人「ボクはみんなが幸せになるお手伝いをしたいだけです!」

商人「そしてその中には自分も含まれているのでお金儲けが好きです」

魔法使い「言い切りやがった」

戦士「嫌いじゃない」

戦士「で、エルフ、俺、猟師、魔法使いでお城から金目の物を奪う」

魔法使い「やっぱり強盗じゃない」

戦士「成功報酬」




407: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:45:16 ID:iqM4V1pk
戦士「で、うまくいけば城に残っているドラゴンを暗殺する」

猟師「鉄砲はまかせろー」

魔法使い「はいはい……」

商人「大丈夫なんですか?」

戦士「ドラゴン退治のポイントなら少しは知っている」

戦士「じゃあ、騎士。ユウシャサマの制御は頼むぜ」

女騎士「まあ、いいだろう」

女騎士「だが、勇者殿。私が仕えたいと思ったのは最早お主だけだ」

商人「あ、今の告白じゃないですか?」

女騎士「ば、バカなことを言うなっ!」ポカッ

商人「あいて。ひどい」

魔法使い「で、その肝心の勇者サマは何やってんの?」




408: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:48:47 ID:iqM4V1pk
偽勇者「……よし、見張りはいないな」

僧侶「まさか、こんなことになるなんて……」

偽勇者「早くトンズラするぞ、こんなところ」

僧侶「そ、そうですね。まったく、悪魔か何かかしら、あいつらは」


ヒュンッ! ドズ!


僧侶「ひいっ!」

偽勇者「だ、誰だぁ!?」

エルフ「……今の矢には、魔物を一撃でコロリできる毒が塗ってある」

僧侶「は、はあ!?」

エルフ「死にたくなければ……逃げ出そうなどと考えないことね……」

偽勇者「に、逃げるわけないだろう、ちょっとトイレを探していたんだ」

エルフ「そう……女性と一緒に……?」

偽勇者「う」




409: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:51:18 ID:iqM4V1pk
エルフ「見ていてやるから……したければここで用を足せ……」

偽勇者「な、何言ってやがる!」


ヒュバッ!!


僧侶「」ジョー

エルフ「そうそう……それでいい……」

偽勇者「おい、本気かお前……」

エルフ「うるさいな……足りないのよ……」

偽勇者「な、何が」

エルフ「水も、ケーキも……」

エルフ「足りないのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」  ヒュバババッ!!!



戦士「って感じになってる」

魔法使い「……あ、そう」




410: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:53:37 ID:iqM4V1pk
戦士「じゃあ、行動時間まで散会」

勇者「おう!」

魔法使い「はいはい」

女騎士「了解した」

商人「……」

戦士「ん、どうした?」

商人「勇者さん」

戦士「なんだ」

商人「その、頑張ってくださいね」

戦士「いやぁ、お前のところのほうが危険かもよ?」

商人「え、そういうこと言います?」

戦士「言う。こっちにゃ隠密行動の道具が勢揃いなのに」




411: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:56:25 ID:iqM4V1pk
商人「まあ、何でもいいですけど」

戦士「そうだ、商人」

商人「は、はい」

戦士「今回の件が成功したら、あいつらを使い倒そう」

商人「あいつらってなんですか?」

戦士「あの偽連中」

商人「え、ええー!?」

戦士「勇者と聖女っていう言い回しがいいよな。勇者と商人じゃ、やっぱりイマイチピンとこなかったけど」

戦士「こいつらを表に出して、実質は俺らが取るっていう手が使えそう」

商人「いやいや、あんな連中と付き合うんですか!?」

戦士「だって、丁度いいじゃん。お飾り」

商人「いや、でも」

戦士「見極めを頼むぞ」

商人「見極め?」




412: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/15(金) 23:58:32 ID:iqM4V1pk
戦士「あいつらが倒れそうなハリボテか」

戦士「それとも使える楯かどうかってことだよ」

商人「勇者さん……」

戦士「ん」

商人「ド外道じゃないですか」

戦士「はっはっは」

戦士「だがこれも商売だ。表の方が楽だって可能性もあるしな」

商人「そりゃそうですね。ボクも切り替えます」

商人「……なんか、最近の勇者さん、変だったんで」

戦士「変? そうかな?」




420: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/24(日) 21:38:01 ID:ARDgLTow
――砂漠の城。

魔法使い「……こっちよ、こっち」

戦士「おう」

勇者「んー、まだ結構魔物がいるなぁ」

魔法使い「そりゃそうでしょ」

戦士「神殿を落とされてもそう簡単には動くまいよ」

勇者「おいおい、それじゃあ意味ないんじゃないの?」

魔法使い「どうして?」

勇者「どうしてって」

魔法使い「ふっ、お宝だけ持ち去る当初の予定は遂行出来るじゃない」

戦士「ゲスいなぁ」




421: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/24(日) 21:41:22 ID:ARDgLTow
戦士「まあ、ドラゴン相手にそう簡単に勝てるわけじゃない。丁寧に殺そう」

勇者「ん。まあな」

魔法使い「ずいぶん竜に詳しいのね」

戦士「一応、やり合ったことはあるしな」

魔法使い「弱点とか知っているの? 寒さに弱いとか、そんなことじゃないでしょうね」

戦士「竜に弱点はないんだよな」

魔法使い「……」

戦士「ポイントになるのは、長期戦を予め想定しておくこと」

戦士「もうひとつは、相手の武器を奪うことだ」

勇者「ほう、爪を切るとか?」

魔法使い「猫じゃないんだからさ……」




422: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/24(日) 21:45:07 ID:ARDgLTow
戦士「まあ、とりあえず宝物庫はこっちでいいんだよな」

魔法使い「ええ。しっかりマント被って」

勇者「オーケーオーケー」

魔法使い「ちゃんと妖精の剣は構えてある?」

魔法使い「出てきたら即眠らせるのよ」

戦士「大丈夫だ。今のところはな」

魔法使い「……あんたさ」

戦士「なんだ?」

魔法使い「あんたの正体、ホントは魔物だったりしない?」

戦士「んん?」

魔法使い「実は私を罠にハメるための」

戦士「だったら、困ったら後ろからズブっと刺し殺せるだろ?」

魔法使い「そうよねぇ」




423: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/24(日) 21:51:55 ID:ARDgLTow
勇者「なんかやけに絡むな。一体なんだってんだ」

魔法使い「剣の腕はともかく、これだけ魔物に手広い知識を持っている人間は珍しいじゃない」

魔法使い「もしかしてだけど、魔物に近いやつだからじゃないかと思って」

戦士「経験豊富なんだ」

魔法使い「ふうん」

戦士「そんな目で見るなよ。これでも、今回は真摯にやっているつもりなんだぜ」

魔法使い「今回は?」

戦士「はっはっは、ジョークで竜は倒せないからな」

勇者「そりゃ違いねぇな」

魔法使い「……。さ、ついたわ」

魔法使い「でね、この裏口から、まっすぐ玉座の間に通じるハシゴが付いていると」

戦士「よし、じゃあ、動きを見ながら、まず宝を物色するか」

魔法使い「完全に盗賊よね、私達」




424: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/24(日) 21:58:26 ID:ARDgLTow
戦士「お、見ろ。こいつは珍しいな」

勇者「なんだそれ」

戦士「魔法陣を書くための専用のインクだ」

戦士「そこらの冒険者には魔法で書かれたバリアは生身では越えられないが、こういうので帳消しにするんだ」

魔法使い「そんなもん、どうするのよ」

戦士「売れるんじゃねーかなぁ」

魔法使い「いや、別にいいけどね」

勇者「うーん、俺はどうするかなぁ」

魔法使い「あんた達、一応、ここ、私の出身国。いい?」

魔法使い「……あと、さっきから一言も発してないけど」

エルフ「ん」チュパチュパ

戦士「水飴なめて落ち着いているんだ。そっとしておいてやれ」

エルフ「失礼な……これでまたしばらく我慢して闘えるわよ」




425: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/24(日) 22:05:25 ID:ARDgLTow
ドカドカドカ……


魔法使い「しっ、静かに」

勇者「おっ、動きがあったな」

戦士「うん。ここは連中を信用するしかないな」

魔法使い「で、どうやって竜を狩るつもり?」

戦士「そうだな」

戦士「結局、必要なのは、動きを封じることになるだろ」

戦士「竜は硬い、その上、空も飛べるから行動が早い」

戦士「だが、強すぎるから自信がありすぎる」




426: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/24(日) 22:10:36 ID:ARDgLTow
――玉座の間。

竜『なに、神殿が攻撃されているだと』

トカゲ『はっ、そのため、あちらに居られる悪魔将から援軍の要請が』

竜『捨て置け』

トカゲ『はっ、了解しました』

竜『……待て、あっさり受諾するな』

トカゲ『はい』

竜『うむ。恩を売ることになるかもしれんな』

竜『では部隊長クラスを飛ばさせろ』

トカゲ『こちらが手薄になりますが……』

竜『誰がここを攻めると言うのだ』

トカゲ『了解しました』




427: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/24(日) 22:15:31 ID:ARDgLTow
蛇『ご報告します、神殿の中心部が落ちたそうです』

竜『……間に合わなかったのか?』

蛇『そうなります』

竜『……部隊を神殿行きに切り替えろ。さすがに無策のままではマズかろう』


戦士「……だってよ」ヒソヒソ

魔法使い「へぇ、あの偽勇者、頑張ってるっぽい?」

戦士「少なくともハリボテではなかったみたいだな」

勇者「待て待てお前ら」

戦士「なんだ?」

勇者「俺らめっちゃ近いだろ。めっちゃ近くにいるだろ」

勇者「これバレるだろ。玉座のすぐ真後ろって」




428: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/24(日) 22:22:35 ID:ARDgLTow
戦士「大丈夫大丈夫」

勇者「何がだ?」

戦士「まず俺が謁見してくるから」

魔法使い「!?」

戦士「いや、相手の気を引きつけてだな」

魔法使い「いやいや、その前に無力化されるでしょ」

勇者「いやまあ、お前の作戦は分かったけどよ」

竜『何をしておる?』

戦士「ああ、まずはあんたに面会をしてということで」

勇者「おいバカ!」




430: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/24(日) 22:27:55 ID:ARDgLTow
竜『ふぁっふぁっふぁっ! まさか、ここに忍び込んでくる間抜けがおるとはな』

戦士「捕まったな」

勇者「どうすんのコレ」

竜『どうやら他にもネズミがいるようだが……透明なネズミではな』

戦士「まあまあ、まずは話し合いと行きましょう」

竜『話し合いの前に、腕の一本でもへし折らんとな』

竜『まさか対等に話し合いが出来るとは思っておらんだろう』

戦士「魔王を倒す方法を知っているんだが……」

竜『!』

勇者「そうだ、俺たちゃ魔王討伐を計る勇者一行なんだ」

戦士「あんたにも協力してもらいたいな」

勇者(あれ、そういう作戦だっけ?)




437: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/25(月) 23:35:00 ID:Vj9BwO/E
戦士「そもそも、強力な力を誇るドラゴンがおとなしく誰かに従っているものかね」

勇者「なるほどなぁ。プライドを曲げているわけか」

竜『……ま、魔王は強いからな。仕方あるまい』

勇者「本気で思ってんの?」

竜『ぐぐぐ』

戦士「一度は敗れたが、覇権を握り直すチャンスを狙っている……そんなところだろ」

戦士「そこで、切り札だ。やつの闇の結界を壊す道具をゲットした」

竜『な、なんだと』

戦士「どうする?」

竜『……』




438: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/25(月) 23:38:11 ID:Vj9BwO/E
戦士「こいつで魔王を弱体化し、あんたが前に出てきてさらに弱らせる」

戦士「そして、精霊の力を得た勇者が、後ろからトドメを刺す」

戦士「どうだろうか」

竜『なるほど、挟み撃ちか」

勇者「結構いいアイデアだと思うぜー」

戦士「……」

竜『くだらんっ!!』 ブンッ

戦士「あぶねぇ!」バッ

勇者「うおっと!」


竜の尾撃!! 戦士は勇者をかばった!




439: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/25(月) 23:42:11 ID:Vj9BwO/E
戦士「げふっ」

勇者「うおーい! おもいっきりやられるなよ!」

竜『人間ごときと手を組むなど、そちらの方が誇りが傷つくわい!』

竜『ましてや、わしと対等に話が出来ると勘違いしているチビどもに』

勇者「馬鹿野郎! いま薬草を」

戦士「いらねぇよ、いらねぇって」

竜『……あの、聞いてる?』

戦士「思ったより直撃して痛ぇよコレ」

トカゲ『どうしますか』

竜『はあ、そんなもん……』

戦士「……一斉攻撃だ!」


エルフ「喰らえ!」ヒュバッ




440: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 00:03:29 ID:Lmb8j9OU
魔法使い「ほら、他の魔物は眠れ」ミョミョミョ

蛇『ぐふぅ』


竜『むう、これは、矢に縄をつけて……!』

戦士「ドラゴンの弱点は、尊大なところだ……」

戦士「翼を持ち、高い機動力があるのに穴蔵に潜ったり、城に引きこもったりする」

勇者「よし、おれも!」ヒュババッ

竜『こ、これは、結界か』

戦士「そう、物理的にも身動きが取れなくなっただろ」

戦士「室内で戦闘していりゃ、体がでかいほうが不利ってもんだ」




441: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 00:07:15 ID:Lmb8j9OU
竜『ぐわっはっは! 愚か者めが!』

竜『こんなちゃちな縄の結界で、わしを封じたつもりか!』

戦士「電気流せる?」

魔法使い「オッケー。やつ翼にビリっとくるわよ」

竜『おいやめろ』

魔法使い「それ、バリバリっと」ビビビッ

竜『ぐはあああああ!!!』

戦士「プライドが高いから、こういう攻撃への危険予測ができない」




443: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 00:11:19 ID:Lmb8j9OU
竜『ぐぐぐ』

戦士「さて、どうだ。観念するか?」

竜『……』

戦士「あんたが手伝ってくれれば魔王退治はやりやすいぜ?」

竜『バカが!! この程度の魔法など、少し痺れただけにすぎんぞ!』

竜『喰らえ、人間ども!』 がぱあ……

魔法使い「ちょっと! 口から炎を吐き出すつもりよ!」

エルフ「こんな室内ではひとたまりもないぞ!」

戦士「猟師」

勇者「やっぱ抵抗あるわ。その呼び名は」ガチャ




444: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 00:15:35 ID:Lmb8j9OU
戦士「撃て」

勇者「おう」 ダーン!!

戦士「銃弾を核に、氷の魔法を!」

勇者「冷えて便利なクーラーサイズ!」カキーン!

魔法使い「呪文めちゃくちゃなのになぜ発動するのか」

竜『ガボボッ!?』

エルフ「り、竜の口に氷が!?」

戦士「魔法使い」

魔法使い「オッケー、氷の種よ。溶けない柱となれ……」 ビシビキバキッ

竜『がっ、ごごごっ』




445: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 00:21:07 ID:Lmb8j9OU
戦士「大体、狭い室内での戦闘になればなるほど、攻撃パターンが決まる」

戦士「縄の結界と、電撃の魔法でさらに動きを狭めた。さあ、その次はどうなる?」

勇者「火を吹くために、口を開けるわけだな」

戦士「大正解」

竜『ごっ、うごがっ……』

戦士「まあ、まともにやり合っても、動きが読めればどうにかなるんだよな」

戦士「だからこいつは予行演習なんだよ。な?」

魔法使い「……」

戦士「……おうエルフ、竜に矢を貫通させられるか?」

エルフ「さすがに竜鱗相手には分からんが、やってみよう」

戦士「今のうちに毒矢を突っ込んでおけ。こうなると体力勝負だからな」

勇者「よっしゃ、俺もバンバン打ち込んでくぜ!」

魔法使い「バカ、貴重な武器なんでしょ、それは」

勇者「ん? ああ、そうか」




446: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 00:26:16 ID:Lmb8j9OU
竜『ぐはあっ!! げはっ!!』

勇者「ふひゅー……さ、さすがに竜はタフだな」

勇者「全然死にそうにねぇぞ」

戦士「そりゃ、粗方の攻撃は防ぐ鱗に、鋭い爪と牙、そして体力」ガンッガンッ

戦士「さらに上空を自由に飛び回る能力に、火を吹き、叩き潰す尾撃」ベシッ、バキッ

戦士「こんなのに比べたら人間なんて、なぁ?」

魔法使い「……しゃべりながらスコップで殴りつけるのはやめてくんない?」

エルフ「実際怖い」

勇者「うるせーな! 文句あるなら手伝ってくれよ!」

エルフ「さすがに、矢と毒が尽きてしまったよ」

竜『ぐおおおおおおああああああああ……』

戦士「おっ、もうひと息じゃねぇかな?」




448: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 00:30:37 ID:Lmb8j9OU
竜『はぁ、はぁ……』

戦士「よし、瀕死状態と言っていいだろう」

戦士「後は放っておいても死ぬレベル」

魔法使い「冗談みたいな話ね。こんな、あっさり……」

勇者「あっさりじゃねーだろ! めっちゃ疲れたわー」

エルフ「む、おい、人間よ」

戦士「あん?」

エルフ「お前、怪我がひどいんじゃないの?」

戦士「ああ、さすがに一発もらっちまったからな」

勇者「おいおい、魔王を倒す前にやめてくれよー? ほらさすがに薬草」

戦士「おう、癒える癒える」




449: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 00:33:12 ID:Lmb8j9OU
戦士「よし、後は魔法使いが眠らせた配下の魔物を掃討しよう」

戦士「神殿が占拠できていれば、そのうち城にも来るだろうからな。こちらの軍勢が」

勇者「ふあ~、しょうがねぇ、やるか」

魔法使い「仕方ないわね」

エルフ「矢がないから、私は」

戦士「ああ、適当に休憩しておいてくれ」

エルフ「わかったわ」


竜『ぐ、ぐぐぐ……き、貴様……』

戦士「ん?」




450: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 00:46:17 ID:Lmb8j9OU
竜『き、貴様、貴様……』

戦士「しゃべっても死ぬぜ。しゃべらなくても死ぬけどなぁ」

竜『黙れぃ! 思い出したぞ……!』

戦士「……」

竜『貴様、数年前に……!』

戦士「人違いだぞ」

竜『い、生きていたのか……』

戦士「……」

竜『ぐ、ぐはははっ、今度こそ、魔王を倒せる算段がついたのか?』

戦士「そら、勇者のふりをしている真っ最中だからな。魔王くらい倒さないと」

竜『くく、やって見せるがいい……ぐふっ!!』ガクン

戦士「……」




451: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 00:49:41 ID:Lmb8j9OU
エルフ「……なんだ、どうしたの?」

戦士「なんでもね」

戦士「やっぱり最後はなんかもっともらしいことを言って死ぬのが定番だからな」

エルフ「なんか、数年前とか言っていたような」

戦士「はっはっは」

エルフ「笑って誤魔化さないでよ」

戦士「まあ、俺も昔はいろいろ冒険したもんだよ」

戦士「エロい格好をした武闘家のおねえさんにベリーダンスを仕込もうとして殴られたりな」

エルフ「そういえば、芸人だったわね」

戦士「エロテクだけなら百戦錬磨なのになぁ」

エルフ(魔王と性欲対決でもしたのかしら……)




452: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 00:53:04 ID:Lmb8j9OU
――
商人「勇者さぁぁぁぁぁぁぁぁぁんん!!!」 ずだだだだ

戦士「おっ、商人」

商人「なんですか神殿て!」

戦士「は?」

商人「何もないじゃないですか! 金目のものが!」

魔法使い「あんた、私がいる前で堂々と……」

商人「あっ、お疲れ様です!」

戦士「ぐふふ、見ろ、このエログッズの数々を」

商人「こ、これは、王家の紋が入った張り型!」

魔法使い「よく見つけたわね……」

魔法使い「それ、魔力を込めるとウィンウィン動くのよ」

商人「魔法ってスゲー!」




453: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 00:57:15 ID:Lmb8j9OU
戦士「で、どうだった?」

商人「それが意外や意外ですよ!」

戦士「うん?」

商人「彼らは結構戦えて、女騎士さんの突破力と合わさって、あっという間に中心部に駆け上がっちゃったんです!」

戦士「ほうほう」

商人「つまり、あの人達は使えますね」

戦士「なるほど」

商人「勇者さん、ボクにもさすがにわかってきましたよ」

戦士「何がだ?」

商人「あの偽勇者チームで魔王城を正面突破させるつもりでしょ?」

戦士「その通りだ」

商人「だから、あの人達をもっと天まで持ち上げて、討伐隊のリーダーに据えないとですよね?」ニヤリ

戦士「わかってきたなぁ、お前」ニヤニヤ




457: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 22:31:23 ID:Lmb8j9OU
女騎士「勇者殿! 無事か」

戦士「ん? ああ、まあな」

女騎士「まったく、こちらに竜をおびき寄せて挟み撃ちにするんじゃなかったのか」

戦士「そんなこと言ったっけか」

女騎士「まあ、良い。しかしこれで片はついたわけだな」

戦士「違う違う、これからが本番だ」

女騎士「本番、とは?」

商人「もちろん、『本物の勇者サマ』を盛りたてるんですよねー」

戦士「そうそう」

女騎士「……まだそんなことを言っているのか」

戦士「あれ、気乗りしないのか」

女騎士「当たり前だろう。剣の腕も、戦術指揮も優れているわけでもないぞ、あの男は」

女騎士「せいぜい口がうまい程度だ」




458: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 22:35:12 ID:Lmb8j9OU
戦士「そりゃいい。口のうまさはこれから必須だからな」

女騎士「あ、あのな……」

商人「騎士様、これは作戦ですよ! 商売じゃなくて」

女騎士「商人殿まで」

戦士「要するに、あいつを首魁扱いして、回りに金を集めさせるんだ」

戦士「亡国を魔物の手から奪い返した勇者として盛り上げる」

女騎士「いやしかしな……」

戦士「幸いにして、ここには盛り上げるのがうまい役者が揃ってやがる」

戦士「それに、勇者の振る舞いを知っている連中もな」

女騎士「だ、だが、私には認められん! 虚言を弄して、人心を操るなど!」

商人「嘘は言いたくないってことですか?」

商人「なら大丈夫、嘘は言わなきゃいいんですよ!」

戦士「おお、それそれ」

女騎士「な、なに……」




459: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 22:39:00 ID:Lmb8j9OU
――
偽勇者「あー、えらい目にあったわ……」

僧侶「久しぶりに激しい戦闘でしたね……」

偽勇者「さすがに目立ちすぎた感じがするぜ」

戦士「いやあ、勇者様! 此度の活躍、聞きましたよ!」ニッコニコ

僧侶「ひっ」

偽勇者「な、なんだ、てめぇ、なんだってんだ」

僧侶「も、もういいでしょう、私達は……そう、魔王を倒す旅を再開しなくちゃ」

商人「そう! まさに、その話をしたかったのです!」ぴょいん!

偽勇者「はあ?」

戦士「おーい、魔法使い、猟師さん、村人たちを連れてきてくれー」

僧侶「あ、あわわ……」

偽勇者「お、おいやめろ」




460: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 22:43:42 ID:Lmb8j9OU
魔法使い「……ああ! 勇者様! 我が国をお救いいただき、ありがとうございます!」

「うおおおおおおお!!」

「よくやってくださったー! 勇者様ああああああああ!!!」

偽勇者「う……」

僧侶「い、いえ、これは皆さんのお力で、ですね」

魔法使い「国を追われた私も、ようやく、この国を取り戻すことが出来て、心の底から嬉しく思います」

魔法使い「つきましては、我が国の再出発を各国にご報告いただき、ぜひ、支援のお願いをと、思いまして……」

魔法使い(……これでいい?)

戦士(うまいぞー、ちゃんと出来てるぞ)

「勇者様ー! ぜひお願いします!」

「世界を救うために、俺達もガンバリマス!」

偽勇者「い、いや俺達は」

僧侶「そんな大層なことはしてなくって……」




461: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 22:50:05 ID:Lmb8j9OU
女騎士「それだけではありません!」

偽勇者「あ、あんたは、昨日の」

女騎士「私はかつて海に面した国に仕える騎士でした」

僧侶「そ、そうですか。道理でお強い」

女騎士「いま、かつてない結束力を感じます! 魔物に支配された国を取り戻すことが出来たのです!」

女騎士「であれば他国にも働きかけ、この機を魔王を倒す一大契機にすべきではないでしょうか!」

偽勇者「え……」

「そうだ! 勇者様がいれば百人力だ!」

猟師「おいらも微力ながらお手伝いしましょう」

商人「かの騎士様は、北の戦士達を率いた経歴もあります」

戦士「声をかければ、屈強な戦士の一団がすぐにでも結成できるでしょうな」

「頼もしいぞ! 魔王を倒すチャンスだ!」

僧侶「いや、ねえ?」

偽勇者「お、おう」




462: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 23:00:02 ID:Lmb8j9OU
女騎士「勇者殿! あなたが真の勇者であるなら、この際決断すべきです!」

女騎士「今こそ、世界の人々の力を合わせ、魔王を討伐する時だと!」チラ

戦士(イイヨイイヨー、嘘は言ってないよー)

女騎士「……さあ!」

偽勇者「お、おおお?」

僧侶「や、それは、その」

戦士「……いい加減、命かけろや」ボソボソ

偽勇者「!」

戦士「今までうまくやってきたんだろ?」ボソボソ

戦士「今度もうまく行けば『本当に勇者として一生食っていける』ぜ……」ボソボソ

偽勇者「てめぇ……なんなんだよ……」

女騎士「どうぞ、お命じください! 世界を救えと!」

「おおおおおおおおおおおお!!!!」




463: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 23:05:00 ID:Lmb8j9OU
僧侶「ゆ、勇者様ぁ……」ヒソヒソ

偽勇者「ちっ、し、しょうがねぇ……」ヒソヒソ

偽勇者「ああ、やるぞ! 魔王を倒すぞ!」

\うわあああああああああああああああああ!!!!/

戦士「くくっ」

商人「やりましたね、これ」

戦士「……さあ、それでは、今日は宴会で楽しもうじゃありませんか!」

料理人「酒もたっぷり残っていたんでね」

料理人「ガッツリ振る舞ってやるぜ!」カチーン

魔法使い「剣より包丁が似合う男ね……」




464: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 23:11:26 ID:Lmb8j9OU
宴会中。

戦士「おー、カワイイねー、きみー」

踊り子「いやーん」

商人「あー、勇者さん?」

戦士「どうした?」

商人「いやその、皆さん呼んでますよ。これからのことで聞きたいって」

戦士「放っておけよ」

戦士「久しぶりに女の子とイチャイチャしたい」

商人「いるじゃないですか、騎士様とか、魔法使いさんとかも」

戦士「あいつらセックスに興味薄そうじゃん」

踊り子「あ、勇者様!」

踊り子「ごめんねぇ、戦士さん。私お酌してくるわぁ」

戦士「あっ」

商人「……」




465: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 23:14:44 ID:Lmb8j9OU
戦士「やれやれ、しょうがねぇ。せっかく今日くらいハメを外してハメ倒そうと思ってたのに」

商人「まあまあ、それだけ頼られてるわけですから」

戦士「で? 俺と話がしたいってのはどいつ?」

魔法使い「……私よ」

戦士「おー、どうした? する?」

魔法使い「は? 何を?」

戦士「セックス」

魔法使い「こいつぶん殴っていいのよね?」

商人「ちょっと性欲が溜まっているだけなんで許してあげてください」

商人「ひどい時は一晩中パコりますから」

魔法使い「あんたも大概ひどいと思うのは気のせい?」




466: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 23:20:08 ID:Lmb8j9OU
戦士「で、なんだよ」

魔法使い「金。男」

戦士「うん?」

魔法使い「散々これだけ働かせておいて、私の手にあまり残ってないじゃない?」

戦士「偽勇者とハメてくればいいじゃん」

魔法使い「は?」

戦士「あいつが真の勇者に認定されれば、大金ゲットまちがいなしだろ」

商人「確かに」

魔法使い「んなわけないでしょ!!」

戦士「そもそも、お前、騎士に王子を紹介してもらうんじゃなかったのか」

魔法使い「ええ……そのつもりだったわ」

魔法使い「調べたら40代で子持ちハゲデブだったけどね!!!!」

戦士「独身子持ち…

商人「ウケル」




467: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 23:26:54 ID:Lmb8j9OU
魔法使い「なんなのマジで? 呪われてるの?」

商人「……この人、自分で設定した砂漠の姫って設定を忘れてませんかね」ヒソヒソ

戦士「まあ、姫っぽくはないしな」ヒソヒソ

魔法使い「だから、あんたたちが責任取るべきでしょ。光のドレスだって結局あんたたちが持ってるじゃない」

戦士「分かった。そういうことなら提案がある」

魔法使い「なに?」

戦士「この国を拠点に各国から金を集めるだろ」

魔法使い「ふんふん」

戦士「その時に、この国の外交官として再デビューするんだ」

魔法使い「それで?」

戦士「そうすると、各国の地雷な男や財産を調べる機会が増えるよな」

商人「あ、確かに。直接会う機会もあるわけですしね」

魔法使い「な、なるほど……」




468: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 23:33:48 ID:Lmb8j9OU
魔法使い「そ、想定外にうまく答えられてびっくりだわ」

戦士「なんだよ、そんなことか?」

魔法使い「じゃあ、本題よ。あんた、何者?」

戦士「んん?」

商人「勇者さんは勇者さんですよ」

魔法使い「だから、それはフリなんでしょ」

戦士「じゃあ、見たまんまだろ。勇者のふりをしている冒険者」

魔法使い「表面上はね」

戦士「まるで俺が表面以外にもあるみてーな物言いだな」

魔法使い「表面しかない人間なんていない」

魔法使い「豊富な魔物への知識、罠の技術、指揮能力……」

魔法使い「少なくとも、かなり経験を積んできた冒険者でしょ」




469: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 23:38:44 ID:Lmb8j9OU
商人「そ、それが何か悪いんですか」

魔法使い「隠し事をして、決戦に望まれても困るわ」

魔法使い「あんた、それだけ強いなら、今までどこで燻ってたわけ?」

戦士「そりゃおめぇ、山に篭って修行してたんだよ」

魔法使い「……」

戦士「分かったって。知りたいなら教えてやる」

商人「ご、ごく」

戦士「俺は熟練の旅芸人だったんだ」

魔法使い「ああ?」

戦士「そしてその才能を認められて、いつしか世界中を回ることになり……」

魔法使い「……」

商人「それ、ほんとなんですよね?」

戦士「騎士もそうだった気がするが、なんで信じないんだ?」




470: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 23:43:21 ID:Lmb8j9OU
魔法使い「で、何? 旅芸人なのに世界を旅する内に、魔物に詳しくなっちゃったんだ」

戦士「その通りだ。英雄譚には魔物の描写が欠かせないからな」

商人「おお、そういうことだったんですか」

魔法使い「だから、あんたはあああああああああ!!!」

戦士「なんで怒るの」

女騎士「……魔法使い殿、もう深く追及しなくてもよい」

魔法使い「あんただって気になるでしょ!?」

女騎士「しかし、大事なことは、今こうして才能を発揮しているということだ」

女騎士「そうだろう?」

戦士「騎士、やたら薄着でエロい格好してるな」

商人「わぁ、似合ってますよ!」

女騎士「おい」




471: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 23:47:21 ID:Lmb8j9OU
女騎士「ま、まあ。それより勇者殿。今後の作戦だ」

戦士「ああー、そんなの明日でいいと思ったんだけどよー」

女騎士「しかし、我らは、興奮しているのだ。魔王を倒せるかもしれない、とな」

女騎士「そこには、やはり、お主の知恵が一番頼りになるのだからな」

戦士「ふーん」

商人「魔王よりも女の子の方が興奮するんじゃないですかね」

戦士「僧侶ちゃん、いいよな……」

商人「タイツですからね……」

女騎士「……」

魔法使い「こういう連中なのね。本当に腹が立つわ」




472: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/08/26(火) 23:50:04 ID:Lmb8j9OU
戦士「別に大したことはしねーよ。まず騎士がいたあの国で船をせしめるだろ」

女騎士「お、おお」

戦士「それから南の国に行って資金援助要請」

戦士「北の国で武器と戦士たちを調達」

戦士「東の国で物資の確保」

商人「ふんふん」

戦士「そしてそれを展開して魔王城の襲撃を行わせる計画を立てる」

女騎士「そこまですらすら出てくるなら、早く言ってくれ」

魔法使い「こういう連中なのよ」




482: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/01(月) 23:17:02 ID:GjzMIMKs
――厨房。

勇者「ほい、いっちょ上がりィ!」ジャッ

エルフ「おお、うまい」

勇者「お前ちょっと遠慮しろよ、広間に持って行けよ」

エルフ「……いやいや。そもそもなぜお前は料理を」

勇者「多才だからかな」

エルフ「理由になってないわ」

勇者「俺、料理作れる。お前、食べる。何か食べたい、作れ、OK?」

エルフ「そこまでしろとは……」

勇者「やしの実ジュース」

エルフ「ジュルリ」

勇者「まあ、俺もニクを焼くだけの男になっちゃいかんと思っているからな」




483: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/01(月) 23:19:26 ID:GjzMIMKs
エルフ「いやいや、待て」

勇者「うん?」

エルフ「そもそも、アレだ。お前は何者だ?」

料理人「はっはっはっ、勇者だと思うぞ」

エルフ「うっ、肩書が……!」

エルフ「勇者が多すぎて、どれが本物なのかわからないわ。何か証明してよ」

勇者「ふっ、良かろう」

勇者「まずは火の精霊の加護で、一気に強火を」

エルフ「おい」




484: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/01(月) 23:23:52 ID:GjzMIMKs
勇者「焼き上げた料理を一旦風の精霊の加護で冷ましておく」

エルフ「待て」

勇者「そしてさらに土の精霊の加護により野菜を丁寧に揉みほぐしておいしく」

エルフ「あの」

勇者「最後に水の精霊の加護で、冷やしぶっかけうどんの出来上がりだ!」

エルフ「うまいっ!」ズルズルーッ

勇者「この四大元素を自由自在に操る料理人、それが勇者なんだ」

エルフ「いま料理人って言ったわよね?」

勇者「料理の道は勇者に通じる」

エルフ「……つ、つまり、敵を料理する、的な?」

勇者「は?」

エルフ「……」




485: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/01(月) 23:27:56 ID:GjzMIMKs
魔法使い「何をやっているのよ、何を……」

勇者「お前の国ってまともな料理人いないよな」

魔法使い「さいですか」

戦士「お、うまそう」

勇者「俺、魔王倒したら小料理屋開こうかな」

魔法使い「失敗する」

商人「運転資金は?」

勇者「経営はこいつに任せるの、どうかな?」

戦士「拡大路線を取ろうとして味が悪くなるだろう」

商人「な、そ、そんなことはしませんよ!」




486: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/01(月) 23:33:04 ID:GjzMIMKs
勇者「いやちょっと、エルフに見せてやったのよ。精霊の力を」

戦士「ほう、精霊の力をね」

エルフ「ええ、確かに見たぞ」

エルフ「料理の腕をね」

勇者「一番これが使えるんだ」

魔法使い「なんて無駄な使い方を……」

勇者「いや、力の制御にはうってつけなんだぜ!」

勇者「火力の調節、水の使い方」

商人「……勇者さん、この人バカなんですかね」ヒソヒソ

戦士「実際、使いどころが分からないしな。精霊の力って」ヒソヒソ

戦士「ただほら、料理を通じて鍛えられているというか」




487: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/01(月) 23:35:34 ID:GjzMIMKs
勇者「で、盛り上がっているところを、わざわざ厨房に押しかけてどうしたんだ」

魔法使い「今後の作戦よ。あんただって聞いておくべきでしょ」

勇者「なんで?」

魔法使い「……」

勇者「いいか、あいつが考えるだろ」

戦士「俺?」

勇者「おう。そうすると、俺は考えなくていいじゃん」

魔法使い「いいわけないでしょ」

勇者「頭脳労働より、栄養補給を任務としてな」

魔法使い「あああああああああああ!!!!!」イライライライラ




488: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/01(月) 23:39:08 ID:GjzMIMKs
勇者「そんなにイライラするなよ。そんなだから貰い手が出てこないんだ」

魔法使い「あんたに! イライラしないやつが存在するっていうの!?」

勇者「俺ってイライラする?」

戦士「はっはっは」

女騎士「……する」

商人「しますね」

エルフ「こ、このココナッツジュースってやつ、甘いぞ!」アタフタ

魔法使い「燃えろ」ボッ

エルフ「ひぎゃー!!!」

勇者「鮮度を保つクーラーの如く」カキーン

エルフ「ちめたっ!」

魔法使い「だからね? 魔法をそんな滅茶苦茶な呪文で放つな、それで発動させるな」




489: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/01(月) 23:44:18 ID:GjzMIMKs
商人「魔法使いさんと相性が激悪だったんですねぇ」

女騎士「これでよく冒険が出来ていたな」

魔法使い「こいつ、こいつ何も考えてないのよ!!」

魔法使い「ほんっとイライラする!!」

商人「勇者さんも似たようなものだと思いますが……」

魔法使い「まだ、こいつはパッと思考が一貫して働くからいいじゃない!!」

戦士「そうでもねぇけどなぁ」

勇者「一緒にいた時からカリカリしてたんだよ」

戦士「そうだ、とりあえず一緒に女の子と遊ぼうぜ」

勇者「お、いいね! どうせ明日で世界が終わるわけじゃなし」

魔法使い「……」プルプル

商人「魔法使いさんって真面目なんですねぇ」

女騎士「うむ、なんというか、そ、そうだな、女性らしいというか……」

魔法使い「ああー!? ヒステリックだって言いたいのかぁー!?」

女騎士「ひい!?」




491: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/01(月) 23:47:56 ID:GjzMIMKs
――お城。

戦士「うっぷ。飲み過ぎでアタマいてーわ」

勇者「俺も。今日は後頼む」

商人「大丈夫ですかー、酔い止め薬お売りしますよー」テキパキ

女騎士「……」

偽勇者「お、おい。大丈夫なのかよ」

僧侶「こ、この方たち、移動中もずっと飲んでましたね……」

女騎士「だ、大丈夫だ。ここは私が元いた国。私に任せてもらおう」

偽勇者「いや、いいんだけどよ……」




492: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/01(月) 23:51:41 ID:GjzMIMKs
女騎士「陛下、参上いたしました」

王様「う、うむ。何やらその、快進撃を繰り広げているようじゃな」

女騎士「はい! そして、私、魔王討伐に足る勇者を見つけました!」

王様「なんじゃと」

商人「この方こそ、真の勇者なのです」

王様「なんと、この男が」

偽勇者「ははっ」

王様「……こないだと違うようじゃが」

商人「実は我々は真の勇者を探すために、勇者の旗を振り続けていたのですっ!」

王様「うそ臭いのう」




493: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/01(月) 23:57:14 ID:GjzMIMKs
偽勇者「がはは、これがその証です」

僧侶「はい、こちらが勇者の証、精霊の加護を受けた護符になります!」

王様「ふーむ」

女騎士「陛下、この度お伺いしたのは、何もこの者を紹介するためではありません」

女騎士「今こそ魔王討伐の最大の契機! どうぞ力をお貸しください!」

王様「いや、しかしのう」

商人「って言うと思ってましたよ」

魔法使い「……お久しぶりですわ、陛下」

魔法使い「砂漠の国より来た魔法使いです」

王様「ほうほう。これはこれは」

魔法使い「我が国は、一度魔物に支配され、それをこの者達と力を合わせて奪還いたしました」

魔法使い「我が国は全力をあげて魔王討伐隊を支援する所存ですわ」

王様「なるほど」




494: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/02(火) 00:03:04 ID:Nc1cmXXQ
王様「しかし、それならわしの助力などいらないのではないか?」

魔法使い「とんでもございません。陛下にはぜひとも全力をあげて船と馬をご用意していただきたいのです」

王様「えー……」

偽勇者「この時を逃せば魔王は倒せませんよ!」

王様「いや、しかし」

女騎士「……商人殿」ヒソ

商人「オッケーです、想定内です」ヒソヒソ

商人「……あー、それでは仕方ありませんねぇ」

商人「南の国でお願いするしかないですねぇ」

王様「うむ。そうするがよい」

商人「魔法使いさん」

魔法使い「はい。では仕方ありませんわ。我が国からの産品、南の国とのみ取引を行わせていただきます」

王様「!?」




495: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/02(火) 00:08:08 ID:Nc1cmXXQ
魔法使い「陛下には、魔王討伐隊の船の、領海内の通行だけを許可していただくだけで結構ですわ」

商人「あーしかたないですね。これは」

女騎士「……くく」

偽勇者「我ら、何としてでも魔王を討伐する所存」

僧侶「協力していただける国との交流を重視するのは当然ですものね」

王様「ま、待った!」

魔法使い「あら、まさか、通航さえ許可いただけませんの?」

王様「ち、違うぞ! 今のはほれ、なんじゃ、南の国も出したがってるじゃろうなっていう、そういう意味じゃ」

商人「大丈夫です! もうすでにここでうまくまとまらなければ、南の国でお願いする旨は伝えてますんで!」

王様「!?」




496: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/02(火) 00:13:22 ID:Nc1cmXXQ
魔法使い「では、領海内の通航の許可、ありがたく頂戴しましたわ」ペコリ

女騎士「おお、陛下の寛大なるや」

王様「待たんか!」

商人「はい?」

偽勇者「どうかしましたか?」ニヤニヤ

王様「……」ダラダラ

王様「だ、大臣」

大臣「はっ」

王様「見積りを……早く……」

大臣「へ、しかし……」

王様「早くせい! 急いで!」

大臣「は、はっ!!」

商人「お忙しいようですね。申し訳ありません」

王様「……ま、待つのじゃ!」

商人「はい」




497: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/02(火) 00:17:08 ID:Nc1cmXXQ
王様「見積りを……取らせる……」

王様「何隻必要なのか。申してみよ」

商人(よし!)

魔法使い「あら、陛下、まさか船と馬を出してくださると?」

王様「う、馬もか!?」

偽勇者「最初に申し上げたとおりですなぁ」ニヤニヤ

商人「では、もう一度、申し上げたいと思います……」

女騎士「陛下の寛大なる御心に感謝申し上げます」

魔法使い(すっごい適当に感謝の言葉を言ったわね)

魔法使い(嫌ってるのかしら)




508: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:24:55 ID:OmgQ3ihE
――北の国。

女騎士「勇者殿ー」

商人「あ、騎士様」

女騎士「商人殿か、先ほど、北の戦士たちに話をつけてだな」

商人「あ、静かに」

女騎士「む」

商人「……」

女騎士「……どうしたのだ?」

商人「いや、そろそろ……」

戦士「ここだ」

女騎士「ふいっ」むにゅ

女騎士「だあああああっ!! 勇者殿! 胸を! 触るな!」

戦士「ははは」

勇者「俺もいるぜ!」




509: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:26:06 ID:OmgQ3ihE
女騎士「しかし、まるで気配を感じなかったぞ……一体何があったんだ」

戦士「こないだからゲロ吐くくらい飲んだだろ」

勇者「あれ、妖精酒って言うんだってよー」

戦士「ちょっと酒にうるさいマスターがいてな、都合してもらったんだ」

女騎士「はあ」

商人「すごいんですよ! 魔法の道具の効果がアップするんです!」

女騎士「まさか、透明になるとかいうアレを」

戦士「おお、足音も聞こえないくらいイケてるだろ」

女騎士「た、確かに。これはすごいな」

魔法使い「犯罪にぴったりね」

女騎士「……!」

戦士「待て待て、誤解だ」




510: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:26:44 ID:OmgQ3ihE
勇者「これなら無銭飲食やり放題だぜ」

魔法使い「……」ジーッ

商人「レイプ、誘拐……はっ、いやいや、商売に使えますよね! 商売に!」

女騎士「勇者殿! まさか荒稼ぎするつもりではあるまいな!」

戦士「俺がそんなことをやるような男に見えるか?」

勇者「違うのか?」

商人「ここぞというところで裏切るように見えます」

戦士「はっはっは」

女騎士「いや、まあ、これで魔王本拠に潜入するというのだろうが」

戦士「まあ、ただ飲んでたわけじゃねぇったこった」




511: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:27:46 ID:OmgQ3ihE
戦士「で、北の戦士で一団は作れそうか?」

女騎士「無論だ! 士気も高いぞ。腕に自信がある男たちだからな」

戦士「ふーん。おっぱいでも見せてやったのか?」

女騎士「あ、あのな……」

商人「そりゃあ、やっぱり自分の部隊長がおっぱい見せてくれたら盛り上がりますよね」

勇者「股間が?」

女騎士「……」スラリ

戦士「士気がな」

女騎士「勇者殿、商人殿……この土壇場に来て、冗談はやめてほしい!」

商人「マジで言ってるんですけど……」

戦士「俺もだ」




512: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:29:44 ID:OmgQ3ihE
女騎士「何度も言うが、私は女を捨てた身」

勇者「魔法使い、なんか言ったれよ」

魔法使い「この戦いが終わったら……私結婚するんだ……」

戦士(死亡フラグ)

商人「そんなこと言ってると死にますよ?」

魔法使い「やかましいいいいいい!? このガキがああああああああ!!」ユサユサ

商人「うわあ、やめてくださいよ!」

女騎士「結婚か……」チラ

戦士(おっぱいのついた筋肉ゴリラだけど、顔は美人、かな)

女騎士「う、うむ。私には不要だ」

戦士「そうか?」




513: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:30:16 ID:OmgQ3ihE
偽勇者「楽しそうだな貴様ら……」

勇者「おう、勇者サマ」

商人「あ、勇者サマー」

偽勇者「うるせー! そんなこと微塵も思ってないくせによ」

偽勇者「一体コレ以上、俺に何をさせようってんだ?」

僧侶「そうですよ! もう散々お金やら物品やら締めあげたでしょう!」

僧侶「もう私達を解放してください」

戦士「ああ、世界を救ったらな」

偽勇者「ぐぬぬ」

戦士「商人、物品リスト揃った?」

商人「大丈夫です! 偽さんのおかげで」

偽勇者「貴様ら……」




514: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:30:47 ID:OmgQ3ihE
偽勇者「ほ、本気で魔王を倒せると思ってるのかよ」

戦士「思ってるんじゃなくて倒すんだな」

僧侶「どうやって倒すつもりなんです?」

戦士「大丈夫だって、お前らはただの囮だ」

偽勇者「ふざけるな!」

女騎士「うむ。前回の手だな」

戦士「嫌なら魔王城突撃隊に組み込むけど、いいのか?」

偽勇者「お、囮でやってやるよ……」

戦士「大勢の人間にカリスマ性を見せつけるチャンスだぞ」

偽勇者「命がけじゃねぇか!!」

僧侶「あ、じゃあ、私は後方支援で……」

女騎士「激戦になるんだから、前線で傷を癒してもらうが?」

僧侶「チクショー!」




515: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:31:23 ID:OmgQ3ihE
戦士「騎士」

女騎士「む、なんだ」

戦士「基本の戦闘はあいつ(偽勇者)に任せろ。団の指揮と要所を騎士が担当するんだ」

女騎士「うむ。承知した」

女騎士「というからには、その要所について詳しく説明があるのだな?」

戦士「そういうことだ。まず、魔王城の周辺域の地図」

商人「は、はい!」ピラッ

女騎士「どこでこんなものを……」

戦士「あるところにはあるんだよ」

戦士「で、ここに崖があって、一列になっているだろう」

女騎士「ここで戦闘しろというのか?」

戦士「ああ」

女騎士「そんな無茶な!」




516: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:32:07 ID:OmgQ3ihE
戦士「けど、多分魔王軍に残っている連中を考えると、これがベターだと思うんだけどよ」

戦士「狭いところならまず出てくるのがいるはずだし」

女騎士「……」

商人「どうしたんですか?」

女騎士「勇者殿。もう驚かないから教えてほしい」

戦士「なに?」

女騎士「お主、やはりかつて魔王軍に身を置いていたとか、そういう」

戦士「はっはっは、ないない」

商人「どんな妄想ですか」

女騎士「やかましい! なら、どうして魔王軍の陣容を知っているのだ!」

戦士「かつて、俺は世界中を旅した芸人でな……」

女騎士「もうそれはいい!」




517: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:32:52 ID:OmgQ3ihE
戦士「いいのか? 結構面白い話なんだがな」

商人「はあ。まあ、その話は置いておくにして、騎士様にはこんなところでいいんですか?」

戦士「まさか。うまく相手を倒せる策を十くらい教える」

女騎士「じ、十!?」

戦士「ん。で、それで体力が残っていたら、そのまま魔王のところまで単騎駆けしてきてくれ」

女騎士「……」

商人「騎士様の力が必要だってことですよ!」

戦士「いや、俺らが先に魔王を倒したら、偽者が勇者っぽくないじゃん?」

戦士「まあ、騎士なら格好がつくだろうって話でな」

女騎士「ふう、まあ、いい」

女騎士「大体、少数精鋭で魔王を打ち倒す方が危険なのだろうからな」

女騎士「全力で駆けつけよう」

戦士「頼りにしてるぜ」




518: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:33:30 ID:OmgQ3ihE
戦士「で、おい。魔法使い」

魔法使い「何かしら」

戦士「お前はエルフと一緒に……」

魔法使い「いや、もういいでしょ。私は外交交渉役として務めは果たしたわ」

戦士「ふーん?」

勇者「ここに光のドレスがあります」

魔法使い「!?」

商人「それでそれでー?」

勇者「自分、火の精霊の加護を受けてるっすから」

魔法使い「ごるぁあああああああああああ!!!」

勇者「落ち着けよ」

魔法使い「あんたっ……! いい加減にしろよ、マジで、ふざけんなよ!」




519: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:34:12 ID:OmgQ3ihE
戦士「商人、結婚するならどんなのがいい?」

商人「うーん、ヒステリックなのはちょっと……」

戦士「そうか? 独占欲強そうな娘って俺は好きだな」

商人「え、マジですか?」

戦士「大体、商売で割りきってる娘とばっかり遊んでたから、結構新鮮なんだよ」

商人「比較的クズですね、勇者さん」

戦士「ははは、そうか? 分かってるから、お互い無理せず気持よくなれるんだがな」

商人「ええ? ボクは冷静に判断出来る人の方がいいなぁ」

魔法使い「おい、お前ぇ! あいつ止めろ!」ゼーハー

勇者「ふはは、どうした、俺がドレスを着ちゃうかもしれんぞ!」




520: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:34:57 ID:OmgQ3ihE
戦士「まあ、魔法使い。ここまで来たら付き合ってくれや」

魔法使い「ぜー……ぐっ、仕方ないわ」

魔法使い「ただし、危険な仕事はNGよ!」

戦士「ああ。比較的安全な仕事だ。失敗したら死ぬが」

魔法使い「……」

勇者「まあまあ、いざとなったら俺がなんとかするって」

戦士「いや、お前は俺と一緒にこいよ」

勇者「え、そうなの?」

魔法使い「はっ、なら私が何をやろうと監視役はいないわけね」

商人「エルフさんがいるじゃないですか」

魔法使い「あんな甘党の頭おかしいエルフに監視が務まるのかしら?」

エルフ「甘味は我にあり!」ブンッ

魔法使い「!?」




521: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:35:47 ID:OmgQ3ihE
エルフ「妖精糖で作った茶菓子……素晴らしい」サクサク

戦士「食べ過ぎるなよ」

エルフ「いいえ、これを食べてから体の調子が良すぎてわけがわからないことになっているわ」シュッ

魔法使い「き、消えた」

商人「人間離れしていきますね。人間じゃないですけど」

エルフ『私はいつでも風と森の中で見守っているぞ……』サクサクサク

魔法使い「食ってるじゃねーか!」

戦士「まあ。あいつに刺されたくなければ頑張ってくれ」

魔法使い「……」

商人「妖精糖ってなんですかね」

戦士「妖精酒と同じで、魔法的な力を持っている甘味だろうな。なんか風に溶け込んでしまっているけど」

商人「はえー、売れますかね」

戦士「下手に人間が食うと妖精の世界に溶けてしまうぞ、多分」




523: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:38:39 ID:OmgQ3ihE
魔法使い「まあ、いいわ。良くないけど、仕方ないわね」

戦士「おう、それでな……」

魔法使い「ふむ。結界のね」

戦士「位置が変わっている可能性はあるからな」

魔法使い「大丈夫よ。潜入なら苦手ってほどじゃないわ」

戦士「それじゃあ、よろしく頼むぜ。熟読しとけよ」

魔法使い「……本気で魔王を倒す気なのね」

戦士「当たり前だろ。勇者のふりをするんだからな」

魔法使い「なんなのかしらね、あんた」

戦士「さあな」




524: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:41:43 ID:OmgQ3ihE
勇者「で、俺はいいんだけどよー」

戦士「ん?」

商人「ぼ、ボクはついていきますよ! 今度こそ!」

戦士「ああ。必要必要」

勇者「三人で魔王突撃? 結構厳しくねぇか」

戦士「ま、俺達がやるべきことは、魔王の行動パターンの制限だ」

勇者「マジ? 倒すんじゃねぇのか」

戦士「倒せればな」

勇者「倒せないのかよ」

戦士「鋭意努力はするが、長時間の戦闘になる公算だからな」

商人「な、なるほど」




525: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:45:50 ID:OmgQ3ihE
戦士「ま、一応策はあるが、策を弄してもそうそう勝てないのが魔王ってやつだ」

戦士「分かるだろ?」

勇者「ああ。今回は用意周到だもんな」

戦士「まあな」

商人「あ、あの……」

戦士「ん?」

商人「ボク、その、本当に、大丈夫ですよね?」

戦士「大丈夫だ。勝てなきゃ全員死ぬだけだ」

商人「ひでぇ!」

戦士「ははは。ま、それはそれとして、だ。三部隊に分ける以上、俺達がすべきことは魔王に直接向かうよりも先にある」

勇者「お宝の回収」

戦士「ソノトオリ!」

商人「ですよね!」




526: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:48:08 ID:OmgQ3ihE
商人「冗談じゃなくって、マジなんですよね」

戦士「時間がかかる作戦があるからな。その成功まで少し時間を稼いでおきたい」

勇者「なるほどねぇ」

商人「ボク、信じてますから」

戦士「そういうのは商売人にが言う言葉じゃねぇな~」

商人「へへへ」

勇者「お、それじゃ景気づけにもう一杯いくか?」

商人「え、妖精酒はもういいじゃないですか」

戦士「いいんだいいんだ、これが最後かもしれんしな」




527: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:51:22 ID:OmgQ3ihE
――
商人「もがむが」

戦士「はっはっは、ん? どうした?」

商人「ぶはっ、い、いや、その……」

商人「今日はそんなに多く飲まないんですね」

勇者「まあ、景気づけだからな。景気づけ程度よ!」

商人「他の仲間も呼べばいいのに」

戦士「それぞれ集中すべきことがあるだろうから、いいのさ」

戦士「……結局、こちらの準備の妨害もナシってのは拍子抜けだがな」

勇者「ん? 魔王がこっちを攻撃してくるかってことか?」

商人「ははは、なんか、魔王に攻撃してもらいたかったみたいですけど」

戦士「んー、まあな。戦力が減らせる」




528: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:53:13 ID:OmgQ3ihE
商人「……」

戦士「どうした?」

商人「んー、勇者さんって、その……」

商人「芸人だったんですよね?」

戦士「ああ」

商人「世界中ってのは、どの辺を旅したんです?」

戦士「そらもう、世界中だよ」

勇者「へー」

商人「魔王のところにも行ったりしたんですか?」

戦士「ああ」

勇者「マジ? すごいじゃん」

商人「えー、あー」




529: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 22:57:58 ID:OmgQ3ihE
商人「そ、それで魔王に詳しいってことなんですか?」

商人「や、やっぱり、勇者さんは……」

戦士「ああ、俺は芸人として腕を磨くために旅をしていたんだ」

勇者「ほうほう」

商人「それは何度も聞きましたけど」

戦士「そこで、魔王討伐と救世を目的に旅をしている一団の仲間に加わったのだ」

戦士「それなりに昔になるな」

商人「……ん?」

勇者「すげーな。結構強かったのか、その連中」

戦士「ああ。その中には勇者と呼ばれる男もいてな」

商人「……んん?」

勇者「へーそんで?」

戦士「魔王をあと一歩のところまで追い詰めたのだ」

商人「……んんん?」

勇者「おっ、なるほど!」




530: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/10(水) 23:04:12 ID:OmgQ3ihE
戦士「あの時は俺もずいぶん若かったぜ……酒の味も女の抱き方も教えてもらったし」

戦士「剣の振り方は一向にうまくならなかったけどな!」ハハハ

勇者「あー、そりゃあるよな。やっぱり剣の腕ってのは才能だぜ。才能」

商人「いやあの、ちょっと」

戦士「なんだ?」

商人「数年前に勇者さん以外に勇者がいたんですか?」

戦士「勇者と名乗る男がな」ニヤニヤ

商人「えーっと……」

戦士「ま、少し前の話だ。あの当時は売名行為はあまりやらなかった」

戦士「勇者の噂なんて、魔物を倒して、じわりと広がる程度で――」

商人「いやいやいや!」

戦士「なんだよ」

商人「……勇者が、いたんですか?」




536: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/13(土) 22:22:40 ID:IhwrZ0.o
――翌日。

商人「はい、勇者さん、鎧を磨いて置きましたから」テキパキ

戦士「おう」

商人「それから内側にちゃんと薬草とかこれも仕込んでおきますんで」

戦士「おう」

商人「いいですか、ボクは戦力的にはアテにならないんですからね」

戦士「ん、まあな」

勇者「しょーにーん。弾持っててくれよ」

商人「ダメですよ、そんなに多くはないんですから、ご自分で全部持ってください」

勇者「ちぇー」

商人「それからこの鎧なんですけど……」

戦士「おう」


魔法使い「……どう思う?」

女騎士「何が?」




537: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/13(土) 22:26:37 ID:IhwrZ0.o
魔法使い「なんかこう、やけに甲斐甲斐しくなった感じしない? 商人」

女騎士「さてな。仲が良いのは前からだから」

魔法使い「ふん、そんな悠長なこと言ってると、商人に取られるわよ」

女騎士「どういう意味だ」

魔法使い「あんたの片恋慕が」

女騎士「かかか、片恋慕って何がだ!」

女騎士「私は勇者殿を信頼し、仕える、そう、騎士だからな」

魔法使い「どの誰とは言ってないけど」

女騎士「う、ぐぐぐ」

魔法使い「それにしても、何かあったのかしらねー、なんかさらに急接近する何かがあったのかしらねー」

女騎士「……さ、三人で突入するのだ、仲が良くなって当然だ」




538: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/13(土) 22:30:58 ID:IhwrZ0.o
魔法使い「騎士サマは一番の激戦にさらされるけどね」

女騎士「当然だろう。それだけ信頼してもらっているということだ」

魔法使い「捨て駒として?」

女騎士「違うわい!」

女騎士「ふ、これを見よ」サッ

魔法使い「ん?」

女騎士「魔王軍の軍勢攻略指南を勇者殿から直筆で頂いている。十以上の策を記したものだ」フフフ

女騎士「見事軍勢を突破した暁には、子々孫々にわたってコレを受け継いでいくのだ」

魔法使い「ふーん、それなら私ももらってるけど」

女騎士「ぬがあああああ!!」




539: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/13(土) 22:35:12 ID:IhwrZ0.o
魔法使い「ま、魔王軍についてじゃないけどね」

女騎士「ならどうでも良かろう! 私はそう、胸に思いを秘めて闘うのだ」

女騎士「これこそ騎士道というものだ」

魔法使い「寝取られが騎士道なのね」

女騎士「ねと……っ!」

魔法使い「大体、ブチブチ言ってないで、好きなら離れるまでベタベタしてればいいじゃない」

女騎士「す、好きとかそういうことではない」

魔法使い「あ、商人に肩もみさせてる」

女騎士「……勇者殿! リラックスしすぎですぞ!」ダカダカ

魔法使い「めんどくさい人ね」




540: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/13(土) 22:40:48 ID:IhwrZ0.o
戦士「あー、そこそこ」

商人「ここですか?」

戦士「うん、いいぞ」

戦士「あー、健全なマッサージもいいもんだな」

勇者「いつも不健全なマッサージやってんのかよ」

戦士「最終的に腰が疲れるんだ」

商人「あははは」

偽勇者「お前ら、本当に呑気だな」

戦士「よう、世界を救う勇者サマ」

偽勇者「てめぇ、バカにしやがって」

戦士「バカに? 勇者のふりをさせてやっているだけだぜ」

戦士「かくいう俺も、勇者のふりならしばらくやり続けていてな」




541: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/13(土) 22:43:38 ID:IhwrZ0.o
偽勇者「だからなんだってんだ」

戦士「詐欺師や騙りなんてのは堂々としてりゃいいんだよ」

戦士「ホンモノの方がよほど立ち居振る舞いに気を使わないといけねぇだろ」

偽勇者「……」

商人「勇者さん、詐欺師ってはっきり言ったらダメですよ。これは商売なんです」

戦士「勇者業?」

商人「えーと、勇者代行業でいいんじゃないですか」

商人「実際、魔物倒して魔王も倒そうっていうんでしょ」

戦士「そうそう、そういうことだ」

偽勇者「気が狂ってるぜ」




543: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/13(土) 22:50:51 ID:IhwrZ0.o
偽勇者「いいか、俺だって逃げようがないからいてやるけどな」

偽勇者「魔王ってのを、知ってるのか? 魔王ってのは化け物の親玉なんだぜ」

偽勇者「いくらなんでも、そんなヘラヘラ笑って倒せるような連中とは違うんだ!」

戦士「お前こそ魔王をよく知ってるみたいな口ぶりだな」

偽勇者「いや、それは……」

戦士「ははぁ、さては魔王軍にちょいとやられた国の出かな?」

偽勇者「うるせぇ」

商人「……」

戦士「やれやれ、仕方ないやつだな」




544: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/13(土) 22:56:10 ID:IhwrZ0.o
戦士「魔王ってのは闇の力を操る悪魔のような存在だ」

戦士「どれだけ殴ったり斬りかかったりしても、この闇の力を払わないことには始まらない」

戦士「まあ、それを除いても強力な化け物であることには違いない」

偽勇者「……なんで知ってるんだ」

戦士「まあ、いいじゃねぇか」

戦士「だが、こっちにはまずこれがある」

商人「はい、光のオーブです!」

戦士「これで闇の力を振り払う」

偽勇者「……はあ」

戦士「それからな、もう一つ、連中の困ったところがある」

偽勇者「困ったところ?」

戦士「頭を使おうとするところだ」




545: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/13(土) 22:59:55 ID:IhwrZ0.o
戦士「普通に破壊の限りを尽くせばこっちに勝ち目はないのに、連中はたとえば居城を破壊したりはなかなかしないだろう」

偽勇者「それは普通だろ」

戦士「人間的にはな。すごく頑張らないと建物を破壊したりってことはできないんだ」

戦士「魔物は違う、ちょいと一振りすりゃなんでも壊せる力を持っているのに、なぜか建物の中に居座ったりする」

商人「そりゃあ、やっぱり住み心地がほしいんじゃないですかね」

戦士「魔物向け住宅プランか……」

勇者「売れそうだな!」

商人「どこに売るんですか?」




546: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/13(土) 23:02:49 ID:IhwrZ0.o
偽勇者「お前が自信満々に言えば言うほど、不安しか募らねぇ」

戦士「だったら何も考えずに勇者のふりをしてりゃいいんじゃね?」

戦士「俺はその点に関しちゃお前に期待しているよ」

偽勇者「何言ってやがるんだ」

勇者「おう、俺も元勇者として期待するぜ!」

元勇者「いよっ! 大将!」

商人「いつから元勇者になったんですか?」

元勇者「だって誰も俺のこと勇者って呼ばないじゃねーか!」

戦士「カワイソウ」ニヤニヤ

元勇者「笑ってんじゃん!?」

偽勇者「……はあ。まあ、いい」




547: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/13(土) 23:07:21 ID:IhwrZ0.o
偽勇者「こうなったらしくじるんじゃねーぞ」

偽勇者「一世一代の大博打ってやつだ。それも無理やり賭場に座らされたようなもんだ」

偽勇者「いや違うなコレ」

商人「掛け金も出目も決まってて後は首を洗って待つだけみたいな」

偽勇者「そう、それだ!」

偽勇者「ちくしょおおおおおおおおお!!」

戦士「愉快なやつだな」

勇者「面白いやつだ」

戦士「まあ、美人のパートナーがいる時点でもう勝ち組だからな、お前」

勇者「これは許されないよー、俺なんか地下道の崩落で見捨てられたんだぜ?」

偽勇者「てめぇらがバイオレンス過ぎるだけだ!」




548: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/13(土) 23:12:45 ID:IhwrZ0.o
戦士「さあ、それじゃ、俺達は一足早く潜入することにしよう」

戦士「大所帯が一番手間取るからな」

商人「はい、荷物バッチリです」

戦士「よしよし」

勇者「おーい、エルフちゃん?」

『風の中で飴を舐めている……』チュパチュパ

魔法使い「姿の見えないやつと組まされる私が一番不幸じゃない?」

戦士「はっはっは、じゃ、魔法使い。例のアレ持って行けよ」

魔法使い「はいはい」

戦士「それじゃ行くかなぁ。北の方から回りこむコースになるぞ」




556: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 21:16:53 ID:zbCr7I7g
――魔王城。

商人「ドキドキしますね」

戦士「そうか?」

勇者「お前ら緊張感ねぇなぁ。観光じゃねぇんだぞ」

勇者「お、なんか食い物見っけ」

商人「猟師さんの方が緊張感ない気がしますけど」

勇者「まあ、いいじゃねぇか別に」

商人「どっちなんですか……」

戦士「魔王城のマップならだいたい把握してるからなぁ」

戦士「さすがに前回来た時と宝箱の位置とかは変わってるけど」

商人「あ、トラップですよ!」

戦士「よし、外すぞ。今の内にな」




557: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 21:21:17 ID:zbCr7I7g
戦士「ふーむ、これで10個は外したか?」

勇者「すげーな。罠だらけかよ」

商人「やはり、一度侵入されているだけあって、いろいろと考えていたわけですね」

商人「無謀に突撃したら、罠にハマっていたでしょうし」

戦士「まあ、でも罠を仕掛ける程度で良かったよ」

勇者「なんでだよ」

戦士「これで魔物が存分に闘えるような空間を作ったりしてたら困るだろ?」

勇者「いやまあ、それはいいんだけどよ」

戦士「どうした」

勇者「俺らって……魔王に突撃する部隊じゃなかったっけ?」

商人「ははは、ご冗談を」

戦士「突撃はする……するが、いつ突撃するかは言ってない」

商人「え、やっぱ突撃するんですか」

勇者「おい、バラバラじゃねーか」




558: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 21:25:04 ID:zbCr7I7g
戦士「いや、俺は最初から言ったけどなぁ。魔王城に潜入して、まず宝箱を取りまくると」

勇者「おう。それで?」

戦士「そうすると、正面から魔王軍と堂々と闘う部隊が現れるだろ?」

商人「そうですね」

戦士「その間に、場内を混乱させて、敵の数を減らしていく」

戦士「魔王に一直線に挑んだら、仲間を呼ばれるからな」

勇者「そうだったっけ?」

商人「そうですよ!」

戦士「実は?」

商人「酔っぱらってて覚えてません!」

戦士「ははは」

勇者「しっ、うるさいぞ、お前ら」




559: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 21:36:46 ID:zbCr7I7g
魔物1『おい、人間の軍隊が上陸してきたらしいぞ!』

魔物2『マジかよ。もうこの戦争も潮時かなぁ』

魔物隊長『ぐだぐだ言っとらんで、さっさといかんか』

魔物1・2『へーい』

ザッザッザッザッ……


勇者「よし、行ったぜ」

戦士「始まったようだな。じゃ、俺らも全速で行動だ」

商人「は、はい!」




560: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 21:41:02 ID:zbCr7I7g
勇者「ほれ、マントマント。透明になるぞ」

商人「は、はい」

戦士「さて、商人。こういう状況だと何が狙い目になる?」

商人「え? えーと」

勇者「扉を開けておく」

戦士「すぐ閉められるだろ」

勇者「じゃあなんだよー」

戦士「戦場はちょっとだけ離れている、全戦力がそっちに行ってるわけじゃない」

商人「うーん、ま、待ってる魔物を狩るんですかね」

戦士「違う。伝令役を狩る」




561: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 21:43:45 ID:zbCr7I7g
勇者「ほうほう」

戦士「情報を伝達する上で、長距離間でも連絡が取れる魔物もいないではないがな」

戦士「そんなに離れていなけりゃ個人で移動しながら連絡を取る」

戦士「だから遠くから隠れて狙撃する」

商人「悪どい!」

戦士「ふふふ、悪いだろう」

勇者「どっちが悪か分からんぞ」

戦士「人事みたいに言ってるが、狙撃犯はお前だ」

勇者「ん?」




562: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 21:47:03 ID:zbCr7I7g
……――

ダーン!!

\ぐぎゃあああああああ!/

戦士「よし、バレる前に狙撃する位置を変えるぞ」

狙撃兵「おう!」サササ

商人「誰なんですかね……この人は……」

狙撃兵「狙撃のコツは練習することである」フンス

商人「ノリノリ!?」

戦士「透明効果が切れる前に別の部屋に行くぞー」




563: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 21:49:55 ID:zbCr7I7g
戦士「む、よし、あの部屋の中で待機している連中は眠らせて皆殺しにしよう」

商人「この人むっちゃ怖い」

爆弾魔「爆弾石転がしとこうぜ! 爆弾石!」

戦士「ちょっとそれは勿体ないな」

戦士「よし、入るぞ」ガチャ

「だ、誰だお前は!」「どこから入ってきた!」

戦士「ここに妖精の剣があってな、これをじーっと見てくれ」

\ZZZ……/




564: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 21:53:58 ID:zbCr7I7g
戦士「今のうちに首を落とすぞー」

商人「仕方ないですね、さっさとやりましょう」ザクッ

勇者「地味な作業だな、これ」ガッシ、ボカッ

戦士「これが俺たちのラストバトルだ」

商人「確かにこれでは勇者とは名乗れないですね……」

勇者「お前もビビってないな」

商人「そりゃそうですよ! これだけ色々やってきたらさすがに慣れました」ガンッ

商人「穴を掘るのと魔物の首を落とすのと、作業量は大して変わらないですし」ゴガッ

勇者「だってさ」

戦士「俺は穴を掘る方がツライナー」ハハハ




566: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 21:57:05 ID:zbCr7I7g
戦士「ふー。ひとまず血の海の中で安泰だな」

商人「大分、城内もざわついてきましたね」

戦士「伝令役がやられ続けて、結構ピリピリしてるんだろう」

戦士「うまくいってれば、前線でも魔王軍からすれば苦戦を強いられている頃だ」

勇者「そうかい」

戦士「後は魔王の傍にいる側近というか、そういう連中を引っ張りだしてだな」


ドラゴンゾンビ『GRRRRRRRR……』ぬうっ


戦士「あ、やべ」




567: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 21:59:09 ID:zbCr7I7g
死竜『GUGYAAAAAAAA!!!!』

戦士「逃げるぞ、全速力」ダッ

商人「な、なんでですか!」

勇者「ほいほい」ダダダッ

戦士「そりゃお前、一番やばい相手だからだよ!」

商人「一番!?」

戦士「魔王を抜いてな」

勇者「確かに、あいつくっせーよ!」

戦士「そこじゃない」

死竜『GAAAAAAAAAA!!!』




568: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 22:01:54 ID:zbCr7I7g
勇者「ま、マント使おうぜ!」

戦士「目の前で使っても無駄だ、二階に駆け上がって、一旦やり過ごす!」

商人「あ、あの、やり過ごすって……」


死竜『GRRRRRRR!!!』バキッ、ドカッ、ズガシャー!!


商人「部屋を壊して移動してますけど」

戦士「だからヤバいんだって」

戦士「頭使ってるやつらなら、かえってハメ倒せるけど」

勇者「なるほどねぇ!」

勇者「眠りも効かなそうだし」




569: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 22:06:12 ID:zbCr7I7g
魔物3『む、何奴!』

戦士「敵襲だ! ドラゴンゾンビが襲ってきたぞ!」

魔物3『え、それはこっちのみかた』

死竜『GYAAAAAAAAA!!!』

魔物3『ほぎゃあああああああああ!!!』

商人「味方巻き込んでいきましたけど……」

戦士「おう」

勇者「あいつ、空気読めねぇなー」

商人「親近感が湧くんじゃないですか!?」

勇者「なんでだ?」

戦士「よし、二階に上がったら、進行方向から反転するぞ」

勇者「おう!」

商人「はい! あ、あ、ぼ、ボクを囮とかにしないですよね!?」

戦士「ああ、その手が」

商人「!?」




570: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 22:14:18 ID:zbCr7I7g
戦士「冗談だ、ほら、二階にも上がってきやがるぞ」

商人「ひぃ、はぁ、ふぅ」

戦士「ほら、あれがあるぞ。アレアレ」

商人「あ、アレですか」

勇者「よし、飛ぶぞおおおおおおおお!」

『落とし穴!』ぴょんっ

戦士「さて、どうだ?」


死竜『GAAAAAARR』ズボッ

商人「ハマった」

勇者「ハマったな」

戦士「人間の一団をハメるサイズで作れば、そりゃあ竜だったらハマるわ」




572: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 22:18:14 ID:zbCr7I7g
勇者「へっ! 散々おどかしやがって!」

商人「ちんぴらみたいなセリフですよね、それ」

戦士「よし、商人、ハマっている間に爆弾石のセット」

商人「は、はい!」ゴソゴソ

商人「数はどうしましょう?」

戦士「80……100がいいな」

商人「ひ、100ですか」

戦士「そ。すぐ大騒ぎになって魔物が押し寄せてくるから」

商人「巻き込むんですねっ?」

勇者「抵抗される前に、用意してトンズラかこうぜ」

勇者「よっしゃ、もう一度透明化やっとくか」




573: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 22:21:39 ID:zbCr7I7g
商人「爆弾石、四カ所にセットしました!」

戦士「うん」

勇者「導火線も、準備出来たぜ!」

戦士「よし」

勇者「懐かしいな、洞窟の壁を壊したのを思い出すなぁ」

商人「なんかいい思い出みたいに言ってますけど、あの時、死にかけてましたよね……?」

死竜『GRRRRRRR……!!!!』

勇者「やべ、暴れだしそう」

戦士「よし、離脱するぞ」

商人「あい!」




574: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 22:23:01 ID:zbCr7I7g
どうした!

   大きな音が

        急いで数を集めろ!

おお、ゾンビが穴にはまって……

     おーい、引っ張りだして――



……――カッ!!




575: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 22:25:38 ID:zbCr7I7g
商人「ふう……」

勇者「魔物とはいえ、心が痛むな」

商人「すごく心にもないセリフな気がしますけど」

戦士「本音は?」

勇者「腐りかけの肉って食えるかな」

商人「え……」

戦士「お前、あれ、完全に腐ってるぞ」

勇者「待てよ! 巻き込まれたやつらはいい焼け具合かもしれないじゃないか!」

商人「そういう問題じゃないですよね!?」




576: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 22:30:43 ID:zbCr7I7g
戦士「……よし、安心しろ。肉片は吹き飛んでて料理どころじゃない」

料理人「残念だな」

商人「残念な要素一つもないですよ!」

商人「強いて言うならあなたが残念ですよ!」

勇者「落ち着け。いかなる時でも、別の選択肢を考慮に入れているだけだ」

商人「それいらない選択肢ですから!?」

戦士「自由度高いな」

商人「自由すぎるんですよ!」

戦士「まあ、いいから。これで魔王の側近たちも、城内に動き出す可能性がある」

戦士「必殺で仕掛けていくぞ」

商人「ボクら何なんです……?」

勇者「うーん、走るキッチンかな」




577: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 22:39:29 ID:zbCr7I7g
――
戦士『つまり、羽根を持っている連中は、すぐにでも空に逃げられるという自信がある』

戦士『だから逆にすぐ地面に降り立ってしまう』

戦士『で、退路を塞ぐために、崖の下に降り立つわけだ』
――
女騎士は退却を指示した! しかし回りこまれてしまった!

鳥悪魔『ゲハハハハ、逃げられると思ったか』

女騎士「いまだッ! 崖上より岩を落とせ!」

鳥悪魔『ブハッ!?』

ごろごろー

女騎士「鳥は死ねッッ!!」
――
戦士『崖に挟まれた一本道なら、横に飛ばれることもない』

戦士『上からどーん、でおしまいだ』

戦士『ただし、これは自分の退路を断つわけだから、速攻で前方に向き直って突進しろ』
――
女騎士「進め! 者共!」

偽勇者「うおおおおおお!!!」




578: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 22:47:32 ID:zbCr7I7g
北戦士「団長! 前方に盾を持った魔物が!」

女騎士「何ッ!」

偽勇者「ど、どうする」

女騎士「うろたえるな、確か……」
――
戦士『大盾を持った魔物ってのは要するに壁を作るのが目的だ』

戦士『つまり、侵攻を遅らせて時間を作ることが最大のポイントになる』

戦士『時間さえあれば、態勢を整えられるからな』

戦士『だから、時間をかけずに攻撃する。例えば、正面が防がれるなら……』
――
女騎士「投石機だ!」

偽勇者「おお、上から攻撃するわけだな!」

女騎士「同じタイミングで、私が先陣を斬るッ! 急造の盾はどちらか一方しか受け止められない!」

僧侶「だ、大丈夫ですか……?」

女騎士「放てーッ!!」




579: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 23:01:52 ID:zbCr7I7g
城門手前。

戦士「……よし。門扉をこれでバッチリ開けて、と」

商人「……」

勇者「どうしたんだ、ぐったりして」

商人「さすがに……あんな化け物を三匹も四匹も相手にしてれば……」

勇者「まだ魔王も倒してないのになぁ」

戦士「はっはっは」

商人「ぼ、ボクは勇者さんみたいなムキムキマッチョマンとは違うんです!」

戦士「お前も十分ついてきてるじゃないか」

商人「むしろ、よく倒せているというかなんというか……」

戦士「大体のパターンが分かればこんなもんよ」

勇者「お前が最初から俺んところいてくれればよかったのにー」

戦士「逆なんだがな」

勇者「はぁ?」




580: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/18(木) 23:12:57 ID:zbCr7I7g
戦士「さて、まだもう少し時間があるし、魔王のいるところ向かいつつ、飯でも食うか」

商人「タフですね、ホント」ゴソゴソ

勇者「荷物背負いながら走ってついてくるやつに言われてもなぁ」

戦士「分かる。俺も商人でも良かったかな」

商人「な、何を言うんですか!」

商人「ボクはほらぁ、所詮ちょっとだけ商売がうまい、しがない物売りに過ぎませんよ!」

勇者「自慢したぜこいつ」ニヤ

戦士「自慢したなぁ」ニヤニヤ

商人「ちょっ、なぜ、笑うんです?」




588: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 16:28:27 ID:/YOpDl8c
商人「ほら、バカなこと言ってないで、さっさと行きましょうよ」カチ

商人「あ」

勇者「うわ、やっちまったな。トラップだぞトラップ」

商人「あわわ、ど、どうしましょう?」

戦士「まあ落ち着け、踏んだくらいじゃ作動しないタイプの……」

商人の姿が消えていく。

戦士「作動するタイプだったな」

商人「うわわわ」スーッ

勇者「なむ」

商人「助けてください!」

戦士「しょうがないな」

戦士「こいつはワープ型のトラップだ。おそらく外に放り出されるか、魔物部屋に行くくらいだろう」

勇者「っしゃ、それならやってやろうじゃねぇか」




589: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 16:31:34 ID:/YOpDl8c
戦士「商人、ほら掴まれ」

商人「ひいい、消える……」

勇者「ここにいればワープされんのか?」

戦士「おう」

勇者「おっ、消えるぞ、コレが移動トラップか」

戦士(時間的には、まあ、間に合うか?)

……

魔王『ぐはは、ようやく来たようだな、人間どもよ』

商人「……」

勇者「どーする」

戦士「うーん、まさかラスボス直通トラップとは」




590: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 16:34:50 ID:/YOpDl8c
魔王『どうやら外側で暴れまわっておったようだな』

魔王『だが、そのような真似はもはや無駄なこと』

魔王『この場で貴様らをなぶり殺してくれる!』

戦士「タイム」

魔王『む?』

戦士「どうするか」

勇者「出直そうぜ、まだ準備出来てないんだろ?」

戦士「直通があるならいいことなんだけどなー」

商人「ああああの、ぼ、ボク、お役に立てるか分かりませんけど!」

商人「あ、そうだ」

商人「……くっ、禍々しい気を感じます! これが魔王の闇の力なんですね!」

戦士「お、そうだな」

魔王『おい貴様ら』




591: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 16:40:22 ID:/YOpDl8c
勇者「お邪魔しました。それじゃ」ギィギィ

商人「ゆ、勇者さん! 扉が開きません!」

戦士「そうだな」

魔王『くっくっく、知らなかったのか。ここには結界が張ってある』

魔王『魔王からは逃げられないのだ!』

戦士「知ってる知ってる」

商人「どうするんですか!」

戦士「そりゃ戦うしかないだろうなぁ」

勇者「えっ、マジで?」

魔王『往生際の悪い連中だ、では、さらに絶望を与えてやることにしよう!』

魔王『いでよ、死者の戦士よ!』

女武闘家?「……」




592: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 16:44:08 ID:/YOpDl8c
勇者「死者の戦士だと」

商人「え、誰ですかあのひと」

戦士「うーん、俺が前に来た時の仲間かなー」

商人「えっ」

魔王『ほう、知り合いがおったか。ならば分かるだろう、この者は強い』

戦士「ゾンビ化してるって感じかな?」

死闘家「ちぇいやー!!」ゲシッ

戦士「ぐはっ!」

商人「ゆ、勇者さん!」

勇者「げげっ、早いぞあいつ」

魔王『ふははは、生前よりも闇の力で強化してあるぞ!』




593: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 16:49:57 ID:/YOpDl8c
戦士「げほっ、ちょっと、タイムが終わってねぇのに……」

死闘家「ふっ」

勇者「撃っちまうか!」チャキ

戦士「死んでるから、効き目薄いぞ」

戦士「しかし、なるほど、そういうことか」

商人「な、何か分かったんですか?」

戦士「これだけやられたい放題でも、余裕を見せていた理由だ」

戦士「それから、こんな魔王直通トラップなんぞ作った理由もな」

魔王『どうやら気づいたようだな』

魔王『そう、わしは死者を操り、自らの戦士とすることが可能なのだ!』

魔王『貴様らがいくら我が軍を削り取ろうとも、死者の軍として再編することが出来る』

魔王『そして貴様ら自身もな!』

商人「な、なんだってー!」




594: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 16:53:28 ID:/YOpDl8c
勇者「そういや、ドラゴンゾンビとかいたなぁ」

戦士「あれも元々は討伐された竜の死骸に術か何かをかけて復活させたものだろう」

商人「えーと、それじゃ、ダメじゃないですか!」

戦士「うん、まずいなー」

勇者「俺ら結構倒してきたけど」

戦士「アレもゾンビ化して復活する」

商人「そんな……!」

勇者「サキュバスとかも?」

戦士「ゾンビ化するんじゃね?」

勇者「ちょっと萎えるわ」

魔王『これが絶望というものだ!』




595: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 16:59:29 ID:/YOpDl8c
戦士「魔王に直通のトラップを仕掛けた理由のひとつは、単純に戦力分散することがあるだろうな」

戦士「そして何より最強の魔物は魔王自身だ」

戦士「とりわけ、世界中から集められた屈強な魔王討伐隊をまとめて死者に変えれば、あとは人間の再侵攻など容易い」

戦士「だから、俺達の動きもある程度は放置していたのかな?」

魔王『そこまで見抜くとは、なるほど、面白い敵もいたものよ』

商人「めっちゃ褒められてますよ!」

勇者「そこじゃない」

魔王『どうだ、貴様、魔王軍につかぬか』

魔王『今なら、この女武闘家、貴様の知り合いなのだろう?』

魔王『慰みにつけてやってもよいぞ?』

死闘家「……」

戦士「んー、パス」




596: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 17:06:05 ID:/YOpDl8c
魔王『ほう、やはり人間の倫理観というやつか……』

戦士「俺は元旅芸人の遊び人なんだ」

魔王『は?』

戦士「つまり、商売上なんかで合意が得られない娘とはしない、これ基本ね」

商人「合意があればするんですか……」

戦士「まあ、あと、ほら、武闘家さんはちょっと足りないんだな」

死闘家「ふんっ!」めぎゃっ!!

戦士「ごほおっ!!」

商人「ああ! 勇者さんアホ!」

戦士「ひ、久しぶりに受けたぜ……膝ツッコミは……」

勇者「やっぱ冒険者って暴力入るよなー」




598: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 17:09:34 ID:/YOpDl8c
魔王『下らぬ冗談で無駄な命を散らすことはあるまい』

戦士「冗談で女が抱けるかよ」

死闘家「コォォォォ……」

商人「な、なんか大技繰り出してきますよ!」

戦士「しょうがないな、商人、アレだせ、アレ」

商人「あれ、あれですね!」

勇者「単語言ってやれよ」

商人「はいっ、光のオーブ!」ピカー

死闘家「ぎゃあああああああっ!」

魔王『ぐ、なにー!!』

商人「や、やった!」




599: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 17:17:45 ID:/YOpDl8c
商人「これはボク、役に立ったんじゃないですかね!?」

魔王『や、闇の力が払われてしまう……』

勇者「よし、怯んでいる隙に!」ガバッ

戦士「あ、ちょっとエロい」

勇者「お前、言ってないで手伝えよ」

死闘家「むぐぐ」

武闘家のゾンビを縛り上げた!

勇者「よし、あとは魔王をやるだけだ!」

魔王『ぐっ、このままでは……等と言うとでも思っていたのか』

商人「えっ」

魔王『ゾンビよ、そのオーブを奪い取れ!』

死闘家「はっ!」ブチィ

商人「うぎゃあ!」

勇者「あっ! せっかく縛り上げたのに!」




600: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 17:22:38 ID:/YOpDl8c
魔王『くっくっく、この光のオーブ……ん、光のオーブ?』

魔王『前はなんかもっと違うアイテムだったような……まあいい』

魔王『とにかく、闇の力を弱めるために、このようなアイテムに頼ることは分かっておった』

魔王『逆に、このオーブを使って! 闇の力を増幅させる魔法陣を作り上げておいたのだッ!』

商人「ええっ!」

魔王『前回の侵攻では苦汁をなめさせられたからな……』

戦士「まずい、猟師頼む」

勇者「おうっ!」ダーン!

死闘家「はあっ!」

勇者「やべ、阻まれた」

魔王『闇の力を増幅すれば、我が軍の魔物は再び力を取り戻す』

魔王『そうなれば、周りをうろついている者共もひとたまりもあるまい。わしの勝ちよ!』




601: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 17:30:21 ID:/YOpDl8c
魔王『さあ闇の力よ、今この光の力を転換して、膨れ上がるがよい』

勇者「なんか知らんが、ヤバいぞ!」

商人「あ、あの……」

戦士「なんだ?」

商人「その、そもそも勝ち負けで言ったらですね」

商人「ボクら、そんな魔王と面と向かって戦う力ないじゃないですか」

戦士「そうだな」

商人「最初から勝ち目なんてなかったんじゃ……?」

戦士「いいところに気がついたな」

商人「ほぎゃあああああああああ!? 今更あああああああっ!?」

戦士「そもそも魔王と直接対決してないのに、ゾンビ化した人間にボコボコに振り回されている時点でなぁ」




602: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 17:35:58 ID:/YOpDl8c
戦士「多分その、魔王もちょっとハードル上げ過ぎちゃったんだよ」

戦士「俺が前に来た時の勇者はそりゃ強かったし、それなりにいろんな手は使ったから追い詰められた」

戦士「だから魔王側は、最初から必勝の罠を張って待ってたわけだ」

勇者「おい、そういう分析とか今はいいよ」

勇者「どうすりゃ勝てるんだ?」

魔王『今更仲間割れか! もはや貴様らに勝つ見込みはないぞ!』

魔王『闇の力を増幅すれば、死なずとも貴様らを操ることも出来るだろう!』

勇者「くそっ、体が重くなってきた!」

商人「ゆ、勇者さん……」

戦士「おう」

商人「なにか、手があるんでしょ? 早く、早く……」

戦士「俺にはない」




603: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 17:42:12 ID:/YOpDl8c
『エルフです』チュパチュパ


魔王『!?』

戦士「俺以外ならある」

エルフ『エルフです。こちら魔法使いチームです』チュパチュパ

魔王『ど、どこにいる!』

エルフ『これは風の精霊を使った伝達方法で、私が舐めているのは妖精飴のオレンジ味です』チュパチュパ

戦士「要点だけ頼む」

エルフ『魔法陣の書き換えに成功しました』

エルフ『闇の結界は光の結界に変更されます』

エルフ『引き続き、次の行動に移ります』

エルフ『……飴が尽きたの……』

魔王『ぐわああああああああああああ!!』




604: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 17:48:07 ID:/YOpDl8c
戦士「商人、ゾンビに聖水をかけまくってくれ!」

商人「は、はい!」

戦士「猟師くん、とりあえず足を狙え」

勇者「おうっ!」ズダダダ!!

魔王『ぐぬぬぬっ!』

戦士「よーし、ここまで弱らせれば勝てちゃうんじゃないかなー」

魔王『貴様、最初からこれを狙っておったな!?』

戦士「狙うも何も、なんでわざわざ時間をかけて魔王をスルーしてきたと思ってるんだよ」

戦士「……待て、商人」

商人「は、はい!?」ビシャビシャー

戦士「武闘家さんは俺が葬っとくよ」

商人「は、はい!」




605: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 17:54:38 ID:/YOpDl8c
戦士「武闘家さん、悪いんだけど、眠ってくれや」

死闘家「……ふっ」ニヤ

戦士「ん」

戦士はゾンビの頭を十字に斬り砕いた!

戦士「これでよし」


勇者「おおい!」ダーン! ダーン!

勇者「効いてんのかこれ!」

商人「えーと、えーと、ぼ、ボクはどうしましょう?」

戦士「光の結界とやらで怯んでいる隙にありったけ叩き込んでおけ」

勇者「いいけどよ




606: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 17:58:52 ID:/YOpDl8c
魔王『ぐぐぐ、おのれ……』

魔王『貴様ら、容赦せんぞ……』

戦士「お、来るぞ。第二形態」

勇者「なんで知ってんだよ。って、知ってて当然か」

戦士「まあな」

魔王『このような醜い姿を、ここでもう一度晒すことになるとはな……』

商人「い、今のうちに攻撃しておいた方がいいんじゃないですかね!?」

戦士「いや、第二形態の方が魔法が効くんだ」

商人「な、なるほど!」

勇者「そうか……」

戦士「うん」

勇者「魔法使い呼べよ」




607: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 18:04:52 ID:/YOpDl8c
魔王『こうなっては容赦できんぞ!』

商人「でかいっすね」

勇者「うん、でかい」

戦士「あいつ、容赦せんぞって言った後に、容赦できんぞって言ったぞ」

商人「悪役が言ってみたいセリフの二パターンですね」

勇者「おい、落ち着いている場合か」

戦士「決定力不足って言ったぞ」

商人「き、騎士様を待たないと」

勇者「おいおい、待てよ。ここに剣も魔法も銃も使える勇者がいるだろ?」

商人「全部中途半端なやつですよね」

勇者「おいー!? こいつの教育どうなってんだ?」

魔王『ごちゃごちゃと……!』




608: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 18:12:12 ID:/YOpDl8c
魔王『極大の火炎呪文で灰すら残さず焼きつくしてくれるわっ!』

魔王『くらえい!』


魔王は火炎呪文を唱えた!


戦士「魔法反射呪文」ピカー


戦士は火炎呪文を跳ね返した!


魔王『ぐわあああああああああああああああああ!!!』ドゴォン!!

勇者「は?」

戦士「極大爆発呪文」

魔王『ぬわあああああああああああああああああ!!!』グバァン!!

勇者「おい」

戦士「魔法が効くからな」

勇者「そこじゃない」




609: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 18:17:30 ID:/YOpDl8c
商人「勇者さんは元賢者だったんですよ」

商人「遊び人を極めて賢者になって、それでまた戦士に転職して」

勇者「初耳なんだが」

戦士「はっはっは、転職しても呪文は覚えているからな!」

勇者「だったらさっき使えよ、さっき」

戦士「戦士職だと使える魔法に限界があってな」

勇者「お前最初から狙ってたのか?」

戦士「極大氷結呪文」

魔王『うごお!! か、体が……固められて……』カキーン!!

戦士「魔王に報告されたらバレるじゃん」

戦士「それにほら、やっぱり第二形態じゃないと」

魔王『こ、この悪質なやり口……やはり、あの時の……!』

戦士「あー、エルフ、聞こえるかー?」




610: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 18:22:59 ID:/YOpDl8c
エルフ『飴がないぃぃぃぃ!!!』

戦士「うるさいぞ」

エルフ『禁断症状が出て切ないの……』

戦士「動きを固めた。魔法使いに伝えてくれ」

エルフ『了解した』

勇者「何する気だ」

戦士「この程度で魔王がやられるわけがない」

戦士「そうだろ?」

魔王『ぐぐぐ!』

戦士「よしみんな、火線を集中させるために、補助の魔法陣を書き足すぞ」

勇者「補助の魔法陣って……」

戦士「魔法使いが光の魔法で魔王を攻撃する。そのための巨大な魔法陣を、魔王城を中心にして描いてもらっていた」




611: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 18:30:57 ID:/YOpDl8c
ガリガリ……

商人「こうですか?」

戦士「そうそう」

勇者「冷凍マグロで大輸送」カチーン!

戦士「よし、そのまま冷却呪文で固めといてくれ」

魔王『貴様ら……貴様ら……』

戦士「すまんな。前回やりあった時に、やっぱりマトモに戦ったら勝てないと思ったんだよ」

戦士「こう言っちゃなんだが、前回やった時のパーティは多分ここにいるどんな連中よりも格上だったと思う」

戦士「それでも勝てなかったし、殺された」

魔王『ぐっ!!』




612: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 18:43:12 ID:/YOpDl8c
戦士「だから、低レベルでも勝てるように、いろいろと策を講じたわけだ」

戦士「何しろ、ほれ、俺たちゃ勇者ではなくてだな、勇者のふりをしているに過ぎんのだ」

魔王『だからなんだと言うのだ……!』

戦士「マトモに戦う必要がないということだ」

戦士「英雄じみた思想も力も持ってない」

戦士「ただせっかくのチャンスだから、俺も復讐してやろうと思ってね」

商人「ゆ……戦士さん」

戦士「くたばれ。大嫌いなんだよてめー」

戦士「よくも俺の仲間をぶっ殺して、あまつさえゾンビになんぞ仕立ててくれやがったなぁ」

魔王『……そ、その負の心、闇の力こそ相応しい』

戦士「その通りだ。だから倒すのは俺じゃなくて、他の連中の魔法であり、剣なんだな」

戦士「頼む、エルフ、魔法使い」




614: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 18:45:01 ID:/YOpDl8c
光が走り、魔王を刺し貫いた!




615: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 18:50:55 ID:/YOpDl8c
……――

勇者「終わったか?」

戦士「んー」

商人「あ、あの、勇者さん」

戦士「……」

商人「勇者さん!」

戦士「ん? どうした?」

商人「いやその」

戦士「危ない!」バッ

商人「おっと!?」

魔王『はぁ、はぁ、くくく、ここまで、わしを追い詰めるとはな……』ギュゥゥゥ

戦士「ぐふっ」

商人「ちょ、勇者さん!」

勇者「おいバカ、握りつぶされるぞ!」




616: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 18:55:36 ID:/YOpDl8c
戦士「こ、こうも、ありがちな展開されると、弱るな」

魔王『ぐふふ、そう喜ぶな……わしは貴様に、闇の力を引き継ごうと思う』

戦士「ほ、ほう」

魔王『このような負の感情の持ち主、憎悪、の持ち主こそ、次代の魔王になるべきだ』

戦士「そ、それよりもよ」


商人「ど、どうしましょう!?」

勇者「どうするったって、どうなるの? あいつが魔王になるの?」

勇者「今度は魔王のふりかよ?」

商人「そうじゃなくって!」


魔王『恐れることはないぞ、憎悪に塗れれば……』グググ

戦士「いや、かばう練習、しといて、よかったなって」

戦士「やっぱ、戦士は、正解だった」




617: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 18:58:34 ID:/YOpDl8c
バターン!!

女騎士「勇者殿ー!!」

偽勇者「お、なんかマズイ状況だぞ」

女騎士「間に合ったか!! おのれ魔王!!」

商人「あ、あの騎士様、ちょっとですね」

女騎士「喰らえ必殺剣! 雷光十字剣(ライトニング・エクスレイター)!!!」ズババッ!!!

魔王『ぐぎゃああああああああああ……』

商人「」

勇者「倒しちまった」

戦士「おうふっ」ドサッ

女騎士「勇者殿ー!!」




618: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 19:03:19 ID:/YOpDl8c
戦士「ナイスタイミングだ」

女騎士「勇者殿、最後の一番に間に合わずっ……!」

戦士「いや、間に合ったよ」

商人「……エクスレイター」

女騎士「はっ」

勇者「ライトニング、なんだって?」

商人「エクス、レイター」

女騎士「こ、これはな、違うぞ」

戦士「めっちゃ練習したんだろうなぁ」

女騎士「ち、ちが……」




619: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 19:06:05 ID:/YOpDl8c
偽勇者「おい、それよりもよ、俺が討伐宣言出していいのか?」

戦士「ん? ああ、そうだな」

戦士「今回はお前が勇者だ。ちゃんと勇者のふりしやがれ」

偽勇者「がははは、よし、それなら、大勢の前で宣言してくるぜ!」ダッ

僧侶「あ、待ってください!」

戦士「ん」

商人「だ、大丈夫ですか?」

戦士「ヘーキ」

女騎士「しかし、ボロボロではないかっ!」

戦士「そりゃ命をかけるつもりだったからな」

勇者「ま、なんにせよ、これで終わったんだ。帰ろうぜ」




620: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 19:09:04 ID:/YOpDl8c
虎『待て待て』

勇者「あ?」

虎『おらっ、くたばれ!』


虎の魔物が襲いかかってきた! 猟師が吹き飛んだ!
連続攻撃! 戦士の頭を踏みつけた!


勇者「うおおおお……誰だよ!」

虎『よっしゃ動くな! 全員だ』

戦士「いてて」

商人「ちょ、いまさら何なんですか……」

女騎士「貴様、北の国にいた!」




621: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 19:12:20 ID:/YOpDl8c
虎『へっへっへ、魔王様を倒すとはさすがだな』

虎『しかし、あいにくとお前らはボロボロ、俺はピンピンしてやがる』

女騎士「貴様を倒す力、残ってないと思うか!」

虎『おっと、動くんじゃねぇ、こいつの頭を踏み砕くぞ』

女騎士「くっ!」

虎『さっきも魔王様が言ってたろう』

虎『闇の力ってのは引き継がれるもんなのだ』

虎『だから、そいつを俺がいただく。浄化だのなんだのされる前にな』

虎『そうすりゃ俺が魔王軍の中でナンバーワンだ』

虎『魔界に帰って、自軍を旗揚げできる』




623: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 19:20:11 ID:/YOpDl8c
虎『よーく考えてみりゃ、こいつには何度もやられちまったわけだし、ここで復讐しておくのも悪くねぇ』グリグリ

戦士「……」

虎『が、アレだ。多勢に無勢って言葉もある』

虎『闇の力をいただいた時点で、おとなしく帰ってやってもいい』

虎『だから動くんじゃねぇぞ!!』

戦士「お前知ってる?」

虎『ああ?』

戦士「いや、魔力が少なくても簡単に敵を壊せる呪文があってな」




624: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 19:21:55 ID:/YOpDl8c
戦士「自爆呪文なんだけどな」

虎『ちょ……!』

女騎士「ゆ、勇者殿!」

勇者「おいバカ」

商人「あ」


戦士は自爆呪文を唱えた!




628: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 21:24:07 ID:/YOpDl8c
――
遊び人『ははあ、あなたがあの勇者様でございましたか!』

勇者『ああ、そうだけど?』

遊び人『では不肖ワタクシ、詩吟も少々嗜んでおりまして、ぜひ助けていただいたお礼に一曲』

女武闘家『いらないいらない』

男僧侶『急ぎの旅です。道中お気をつけて行かれなされ』

遊び人『そんなことを言わずに、勇者様ご一行ともなれば、どこでも歓待されますよ!』

遊び人『芸人で御座いますので、宣伝だけなら大の得意ってもんです』

女武闘家『ついてくる気かい?』

勇者『あー、俺らはあまり村人に迷惑をかけたくないんだ』

遊び人『なんと清廉な心意気!』

女武闘家『うるさいね』ケリッ

遊び人『あいて』




630: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 21:27:59 ID:/YOpDl8c
勇者『もしかして、アレか? 身寄りがないのか?』

遊び人『まあ、旅芸人ですので、空の下はどこでも身寄りでございまして』

男僧侶『なんと! おかわいそうに』

女武闘家『こらこら、そんなかわいそうなやつは世の中いくらでもいるさ!』

勇者『そうだけど、まあ、次の町くらいまでならいいだろう』

遊び人『ありがたき幸せ!』

女武闘家『その芝居がかってるの、どうにかならないのかい』

勇者『ちょっと僧侶のふりをしてみてくれよ』

遊び人『神のお導きに感謝します』サッ

勇者『ははは、うまいうまい』




631: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 21:30:41 ID:/YOpDl8c
男僧侶『神の教えはふりでできるものではありませんぞ』

遊び人『しかしながら、習いよりも慣れと申しましてな』

遊び人『心が形をつくるように、形もまた心をつくるのです』

遊び人『神の愛を信じねば、とても僧侶のふりなどできませんぞ』

男僧侶『むう』

勇者『わはは! こいつは面白いや』

女武闘家『ふっ』

勇者『よっしゃ、とりあえず、次の町までな』

遊び人『ありがとうございます!』




632: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 21:33:58 ID:/YOpDl8c
遊び人『あ、次の町までは、こっちの道を通るのがまったく近いですよ!』

勇者『え? マジ?』

遊び人『これでも旅芸人でして、このへんの行き交いは慣れたものでございます』サッ

女武闘家『おい、丁寧に言いながら尻を触るな』

遊び人『芸人の真髄、いい尻は素直にさわれ』

女武闘家『おらァ!』ゲシッ

遊び人『ぐはっ!』

男僧侶『嘆かわしい……』

勇者『まあ、そう怒るなよ』

男僧侶『まあ、心根がまっすぐすぎるのでしょうな。彼は』

男僧侶『真剣に役柄に入るというか』




633: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 21:37:02 ID:/YOpDl8c
……
遊び人『おお~、竜を倒した勇気ある~♪』

女武闘家『はあ、はあ』

勇者『ひい、お前、戦った後でよく歌が作れるなぁ』

男僧侶『傷を癒やしますぞ』

遊び人『あ、ワタクシは結構です。もう女の子のことを考えると傷が癒えてきまして』

勇者『馬鹿野郎、戦闘で後衛だからって気にするな』

女武闘家『そうそう、あんたにゃ期待してないんだから』

遊び人『そういうわけにも参りません』




634: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 21:39:30 ID:/YOpDl8c
男僧侶『遊び人どの、神は平等に信じる者を愛してくださいます』

男僧侶『お分かりかな?』

遊び人『それは僧侶様が平等だからでございますよ』

男僧侶『い、いや、それこそが神の御心なのです』

勇者『ははは、まあ、元気があるならいいけどよ。回復くらいちゃんと受けろ』

勇者『途中で倒れられても困る』

遊び人『まったく、芸人とはかくも不便なものか』

女武闘家『だったら魔物討伐なんかにくっついてくるんじゃないよ、ったく』グリグリ

遊び人『あいたた』




635: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 21:42:58 ID:/YOpDl8c
遊び人『ふむ、ではここでお役にたつこと一つ』

勇者『何だ?』

遊び人『あのような大きな魔物で、知恵のある種は、逆に言葉に引っ掛かるのでございます』

女武闘家『言葉……?』

遊び人『そう、ワタクシのちょっとした一発ギャグに受けて心を乱されたでしょう』

勇者『あれは俺も引っ掛かったのだが……』

遊び人『つまり、それだけ話を聞いてしまう、耳に入ってしまうということなのです』

男僧侶『なるほど、魔物も説教して調伏せよと』

女武闘家『それは絶対違う!』




636: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 21:45:57 ID:/YOpDl8c
遊び人『ふっふっふ、他にもいろんな魔物と出会ってきましたから!』

遊び人『あの魔物は火に弱い、その魔物は木に引っ掛かる~♪』

勇者『お、いいねぇ』

女武闘家『なるほど、似た魔物には攻略のヒントになるかもしれないってことかい』

遊び人『さようさよう!』

勇者『よし、それじゃ行こうぜ魔王討伐』

「おお!」




637: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 21:49:15 ID:/YOpDl8c
……
賢者『とまあ、こういうわけですよ』

女武闘家『信じられない……あんたみたいなのが賢者だって?』

賢者『はっはっは、どうですか』サッ

女武闘家『尻触るな!』ゴリッ

賢者『あいて!』

勇者『尻は変わらないのか……』

賢者『転職してもかつて覚えていたことは役に立つようですね』

賢者『魔物の知識、弱点、総動員して戦いますよ!』

男僧侶『これは頼もしい、よろしくお願いしますぞ』

賢者『ええ、これからも頑張りましょう!』

女武闘家『尻は触るのに好青年になっているのがムカつく』




638: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 21:53:39 ID:/YOpDl8c
……
賢者『一歩引きましょう! トラップが仕掛けられているおそれがある』

女武闘家『マジ?』

勇者『なんでだ?』

賢者『悪魔族は知恵が周ります。あえて誘いこむように建物に逃げ込んだのはこのためでしょう』

男僧侶『そういうわけでしたか』

賢者『しかも、おそらくは人質がいる可能性がある……』

賢者『つまりここを攻略するには……』ブツブツ

女武闘家『うーん』

勇者『どうしたよ』




639: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 21:57:11 ID:/YOpDl8c
女武闘家『いや、何のかんの言って、あいつが役に立ってるのがね』

勇者『羨ましいか』

女武闘家『ま、まさか』

勇者『なに、俺達はもう四人全員揃って大きな力を発揮できる』

勇者『そもそも武闘家がいなくちゃ切り込み出来ないんだぜ』

女武闘家『分かってるよ! ただ、出会いからすると感慨深いなぁって』

男僧侶『私も思います。ただ、今も彼の心は必死そのもの』

女武闘家『必死ィ!?』

男僧侶『そう、かつて、おそらくかつて居場所を奪われ、放浪していたのでしょう』

男僧侶『今もまた、奪われまいと演じている』




640: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 21:59:12 ID:/YOpDl8c
賢者『よし、これがいいでしょう!』

男僧侶『ですが、そう、形が心をつくるのでしょう?』

賢者『は?』

勇者『うん、そうだな。俺達は仲間だ』

勇者『仲間だと思ってれば、それが信頼を生む、そういうことじゃないか?』

賢者『は、はあ』

女武闘家『けっ、くっさいの』

賢者『ま、まあ、その話はともかく、よろしいですか?』

勇者『おう、やろうぜ!』




641: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 22:03:12 ID:/YOpDl8c
……
賢者『うっ、ぐっ』

勇者『賢者……』

賢者『ちくしょう! ちくしょう!』

勇者『泣いてんじゃねぇよ、バカ』

賢者『だって! 闇の結界を……ちゃんと打ち払ったんだ!』

賢者『魔王の弱点だって、必死になって!』

勇者『気にするな……』

勇者『力が、及ばなかっただけだ……』

賢者『違う! 俺が、俺の知恵が足りなかったんだ!』

??『俺は賢者なんかじゃねぇよ! 賢者のふりしてただけだ!』




642: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 22:06:31 ID:/YOpDl8c
勇者『そんなこと言うなよ……』

??『だってよう! 武闘家さんと僧侶さんが!』

勇者『あいつらは、未来を、託してくれただけだ』

勇者『お前には、知識がある、歌がある、魔物を倒す術もあるし、それを伝えることもできる……』

??『で、出来ねぇよ。あんたがいてくれたから、俺は!』

勇者『大丈夫、大丈夫だ』

??『勇者がいなかったら!』

勇者『勇者ってのはな、死なないんだ……』

勇者『精霊の、加護を受けて、また現れる』




643: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 22:09:50 ID:/YOpDl8c
??『なんだそりゃ、転生するってことなのかよ』

勇者『……』

??『おい……おい、しっかりしてくれ』

勇者『お前、そんな顔も出来るんだな』

??『え?』

勇者『ははは、初めて見たよ』

勇者『良かった、それなら……』

勇者『ちゃんと、泣けるなら……』

??『おい、待ってくれ』

待ってくれ

死なないでくれ

勇者は死なないんだろ

やめてくれ




645: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 22:13:00 ID:/YOpDl8c
……
神官『これでよろしいか』

戦士『ん、ああ。まーいいんじゃねぇのか』

神官『く、口調がまた随分と変わられたな』

戦士『おう、戦士らしく振る舞わないとな!』

戦士『いざって時に役に立たねぇ』

神官『……かつて覚えられたことは、あなたの血肉になっているだろう』

神官『転職してもなお、魔王の討伐を目指されるのか』

戦士『さーて、どうかなぁ。気ままな戦士だからな』

神官『ふむう』




646: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 22:15:38 ID:/YOpDl8c
神官『知っているぞ。あなたがなぜ戦士を選ばれたのか』

戦士『うん?』

神官『お仲間をかばう力を身につけたかった、そうではないか』

戦士『さあなぁ。酒飲んで、女の子抱きたかったからだよ』

神官『……悪い知らせをお伝えしなくてはならないな』

戦士『なに?』

神官『あなたが戦士に転職を試みている間、南国で勇者が旅立ったそうだ』

戦士『なんだと?』

神官『だが、その彼は、今は消息が不明というか……』

戦士『……』




647: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 22:18:40 ID:/YOpDl8c
戦士『勇者ってのは死なないらしいぜ』

戦士『だから、本当の勇者なら、生きてんだろ』

神官『し、しかし』

戦士『あー、酒が飲みてぇなぁー』

戦士『それに戦士としてはレベルも下がっちまったしな』

戦士『運動のためにも適当に魔物を倒して慣らしておくか』

神官『戦士殿!』

戦士『なに、勇者がいなかろうと、魔王くらい倒せるかもしれない』

戦士『そうだな、魔王を倒す……勇者のふりでもすりゃあな』




648: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 22:27:20 ID:/YOpDl8c
――
勇者『んごー』


商人『そ、そ、それで、どうなったんですか!』

戦士『どうって結局、魔王は倒せなかったのよ』

戦士『あわれ勇者一行は、命を落として消えました……てな感じよ』

商人『そんな……』

戦士『ただ、今回に関しては、だ。俺ぁ三つくらい部隊を作ることにした』

戦士『そうなりゃ、いくつか目を誤魔化して勝てる可能性が増えるってわけさ』

商人『そんなのどうでもいいですよ!』

戦士『どうでもいいか?』

商人『だ、だって、その時の……勇者さ、戦士さんがいたから、今につながっているんでしょう』

戦士『だから今のために命かけるのさ』




649: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 22:32:26 ID:/YOpDl8c
戦士『大丈夫大丈夫。突撃するのは危険だが、お前は俺が守ってやっから』

商人『そ、そういうのは、いいです』

戦士『バカにすんな。そのために戦士になったんだよ』

商人『だって、あの魔王を倒しても、な、何が起きるか分からないですよ!』

商人『だから、勇者さんには、いてもらわなきゃ』

戦士『……』

戦士『魔物どもの攻略法なら、いよいよ本に書いてやった』

戦士『騎士や魔法使いに渡したアレが普及すれば、別に俺がいなくてもしばらくは対処できるさ』

戦士『勇者なんかいなくても……いや違うな』




650: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 22:38:32 ID:/YOpDl8c
戦士『あいつ見てみろ、あいつ』

商人『はあ、えーと、猟師さん?』

戦士『勇者だ、一応、精霊の加護を受けてる』

商人『あ、ひょっとして! この人がその転生したという……』

戦士『いんや、違う。転生でも何でもねぇ』

戦士『本当に転生してたら俺が旅した勇者はもっと早くに死んでなくちゃいけない』

戦士『あいつが勇者に目覚めた日も確認したが、何も関係なかった』

商人『はあ』

戦士『要するにな。勇者のふりして、立派に魔王を倒せば勇者なのよ』

商人『そんな無茶苦茶な……』




651: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 22:42:15 ID:/YOpDl8c
戦士『まあ、あいつにはくそ度胸はあるよ。体力もある』

戦士『それに、魔法使いって人材ともつながりがあったしな』

商人『……』

戦士『それから。そうだな、俺と違って、勇者なんかに拘りがない』

戦士『俺なんか、捨てようと思ってもこのザマなんだもんよ』

商人『……』

戦士『なんかつまんねー話までしちまったな』ハハハ

商人『ボク、ひょっとして、迷惑でしたか』

商人『勇者のふりをしろ、だなんて』

戦士『そんなわけねーだろ』




652: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 22:46:55 ID:/YOpDl8c
戦士『楽しかったよ。本当だぞ』

商人『それ、ふり、じゃないですよね』

戦士『ははは、そうだな……』



――

――――――




653: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 23:17:36 ID:/YOpDl8c
――
商人「さあさ、お集まりの皆様! これぞ魔王を倒した証!」

商人「闇のオーブでございます!」

「マジか!」「よこせ、俺によこせ!」

商人「お待ちください、これを持っているということはすなわち~?」

商人「ボクは勇者の一行だったというわけで!」

「マジか!」「ぶっ殺して昇進だ!」

商人「え、え、あ、嘘?」

「闇のオーブさえありゃ、次期魔王になれるぞ!」「おら、ぶっ殺せ!」

商人「ひえええええ、騎士様ぁあああああああ!!」

女騎士「言わんこっちゃない……」

銃剣士「だから魔物相手にそんなモノ売ろうたって無茶なんだってよ」




654: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 23:21:58 ID:/YOpDl8c
商人「だって、魔界に来たっていったって、やっぱり商魂がうずくじゃないですか!」ダダダッ

女騎士「冷静に考えてみよ」

女騎士「かつて侵略とはいえ、軍の首魁を倒した一行を、許す気分が魔物にあると思うか?」

銃剣士「ま、取引しようって方が無理なんだよ」

商人「ううう、逃げなくちゃ……」

女騎士「そもそも、我らは勇者……殿のかたき討ちに、大魔王を倒すべく潜入した部隊」

銃剣士「そういうこと、そういうこと」

商人「でもですよ、あらかじめ商売で根を張っておけば、有利に成るかもしれないじゃないですか?」




655: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 23:25:38 ID:/YOpDl8c
商人「ね、戦士さん」

戦士「ああ、どうかなぁ」


商人「戦士さんまで……」

女騎士「戦士殿。また魔界の酒を買い込んで!」

戦士「騎士、よーく考えてみろ。金出せば人間でも飲ませてくれるんだぜ」

戦士「逆も然りだ」

商人「ですよね!」

銃剣士「でもお前の商売のやり方は下手くそだと思う」

商人「そんな」

女騎士「まったく、戦士殿は……」




656: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 23:30:13 ID:/YOpDl8c
商人「ま、まあ、戦士さんはボクに頭が上がらないはずですからね! ね!」

戦士「自爆呪文の死を逃れる道具を括りつけたくらいでなぁ」

商人「機転ってやつですよ! 商人の機転!」

戦士「一回こっきりなのに」

銃剣士「体で返すって言ってやれよ」

女騎士「か、かかか、体!?」

戦士「騎士もなんでついてきてんだ」

女騎士「き、騎士に褒美はいらぬ。必要なのは名誉のみ」

銃剣士「戦士に褒められたいってさ」

女騎士「猟師殿!」

銃剣士「まだ言うか、その名前で」




657: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/23(火) 23:34:21 ID:/YOpDl8c
戦士「まあ、なんでもいいぜ。人間界の方は勇者で商売は出来ないからな」

戦士「もうしばらく、大魔王を倒す勇者のふりをしてやるだけさ」

商人「そうそう、そういうことです!」

商人「あ、でも、戦士さんはもう、ボクの中では戦士さんなんで!」

戦士「はいはい」なでなで

商人「なんですか、もう!」


おわり




665: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/24(水) 09:29:55 ID:OCYbAqo.
レスあざーす
はよはよ言われて書いたから催促も捨てたもんじゃないって思いました

ラストの関係で出番がなかったが、エルフや魔法使いはそこまでエクストラダンジョンとか興味ないと思うので…




670: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/24(水) 22:19:28 ID:.jZ6bLlk
じゃあ、おまけを。完結報告しちゃったし、それぞれ一発下ネタなので、すべて蛇足です

――戦士と銃剣士が魔界の飲み屋にて。

銃剣士「お前、どっちが好きなんだ?」

戦士「どっちって?」

銃剣士「商人と女騎士だよ。さすがに抱いてやったりしただろ」

戦士「ああ。商人なら今三ヶ月だ」

銃剣士「」

戦士「冗談だ」

銃剣士(実は男だから産めないとかそういう冗談じゃねーだろうな…)

戦士「魔王倒したらほっとしてなぁ」

銃剣士「介護セックスか」

戦士「うん」




671: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/24(水) 22:24:02 ID:.jZ6bLlk
銃剣士「騎士は?」

戦士「俺も商売以外では勃たないって言ったんだけど、聞かなくてなぁ」

銃剣士「そうかい」

戦士「お前こそどうなんだ、魔法使いとか」

銃剣士「はっはっはっはっは」

銃剣士「ない」

戦士「……ああ、そう」

銃剣士「いや、相手が悪い」

戦士「ところで、長い舌で尿道責めもしてくれるラミアフェラがあるらしいんだけど、いかない?」

銃剣士「いいねぇ、がっちりホールドしてほしいわ」ガタッ

戦士「よっしゃ、今から行こう」ガタッ

――二人は魔界の闇に消えていった。




672: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/24(水) 22:28:57 ID:.jZ6bLlk
商人と女騎士。

女騎士「む……」

商人「ああ、騎士様」

女騎士「商人殿。今日は私の番だぞ」

商人「番って……? ああ、戦士さんのセックス順番待ちってことですか?」

女騎士「そ、そのようなふしだらなことを堂々と言うのではない!」

商人「つっても別にボクに言わなくてもいいと思いますけどねぇ」

商人「ほら、ボクと戦士さんは商売的な関係ですから」

商人『今なら格安、大安売りでボクとやり放題!』 戦士『買わねぇ』

女騎士「アホか!」

商人「自分を安く売るなと諭されました」

女騎士「そうだろう、当たり前だ」

商人「だから高く売りつけてやりましたよ、ほら、指輪」

女騎士「!?!?!?」




673: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/24(水) 22:31:57 ID:.jZ6bLlk
女騎士「ど、どどっどどどどどど」

商人「将来の財産分与に加えて、共有財産分もゲットしましたしね!」ニヤリッ

女騎士「何を言ってるんだ!」

商人「何って……だから商売上の関係ですよ」

女騎士「ええい、こうなれば戦士殿に話をつけてくる!」

商人「今日は魔物ソープに出かけるって言ってましたけど」

女騎士「敵地で何をやってるんだー!!」ダダダッ




674: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/24(水) 22:36:20 ID:.jZ6bLlk
魔界行き前のエルフと魔法使いとあいつ。

料理人「つまり、一度火を通して形をつけるんだ」

エルフ「形が大事だと」

料理人「そうだ。味よりも見た目がよければ、過剰に取り過ぎないだろ?」

エルフ「なるほど、素晴らしい」

魔法使い「……何やってんの」

料理人「うむ、パティシエを目指すって言うからさ」

エルフ「自分で作れば一生味わえる!」

魔法使い「材料どうすんの?」

エルフ「……!」

魔法使い「それであんたはどうするわけ?」

料理人「うむ。なんでも、魔界に大魔王がいるらしくてな。そいつが真の元凶だったのだ!」

魔法使い「あっそ」




675: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/24(水) 22:42:51 ID:.jZ6bLlk
料理人「どうせ、偽の勇者がホンモノの勇者扱いされてるんだ」

料理人「大魔王を倒すついでに、魔界観光にでも行こうかと思ってね!」

魔法使い「呑気なものね」

料理人「お前こそ、これからどうするんだ? 誰かと結婚するのか」

魔法使い「無理。今のところ金と地位と性格が三拍子そろった物件がなし」

料理人「年齢が高いけど、揃ってるやつがいたじゃないか」

魔法使い「忘れろ。あの話は」

料理人「じゃあいいんじゃねぇの。結婚なんてしなくても」

魔法使い「……ふう」

料理人「なんなら一緒に来るか?」

魔法使い「行かないわよ。もう二度とあんたとは」




676: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/24(水) 22:48:25 ID:.jZ6bLlk
魔法使い「そうね。魔界で良さそうな相手がいたら知らせて」

料理人「人外に活路を見出すつもりか」

魔法使い「ほら、せっかくだから、名前もちゃんとしたのを決めなさい」

料理人「名前? ああ、まあな。銃の扱いは慣れたし、剣は得意だし……」

銃剣士「銃剣士、なんてのはどうかな!」

魔法使い「いいんじゃないの、別に」

銃剣士「なんならお前も名前を変えればいいだろう、砂漠の姫でございま~す、みたいなさ」

魔法使い「バカにすんなっての」

銃剣士「へっ、じゃあな。うまいモノ手に入ったら帰るよ」

魔法使い「はいはい」


エルフ「……彼はどのみち、料理人として小料理屋を開く未来が見えるが」

魔法使い「私もそう思う」

数年後に三人の店が繁盛した。




677: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/24(水) 22:51:12 ID:.jZ6bLlk
これですべて終了。お疲れ様でした。




678: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/24(水) 23:34:22 ID:5e3gP846
魔法使いと猟師の距離感いいな




679: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/24(水) 23:35:07 ID:5e3gP846
おつ忘れてた
今まで楽しませてくれてありがとう




680: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/09/25(木) 00:32:36 ID:1y31TR2A
おつかれー




引用元: 戦士「あ? 勇者のふりをしろって?」商人「そうです」