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2014年のノーベル化学賞が発表、超高解像度の蛍光顕微鏡開発に対して - | Technity

2014年のノーベル化学賞が発表、超高解像度の蛍光顕微鏡開発に対して

2014年10月8日 18:55 │Comments(0)

Written by くまむん

ノーベル賞委員会は8日、2014年のノーベル化学賞を、ハワード・ヒューズ医学研究所のEric Betzig氏、マックプランク研究所のStefan W. Hell氏、スタンフォード大学William E. Moerner氏に贈ると発表しました。

nobel-prize-in-physiology-or-medicine-2014

受賞理由は、”for the development of super-resolved fluorescence microscopy.” となっており、超高解像度の蛍光顕微鏡の開発業績が評価されたものとなっています。

蛍光顕微鏡というのは、文字通り対象サンプルから発生する「蛍光」という光を捕らえることで観察を行う顕微鏡です。あまり聞き慣れない方もいらっしゃるかと思いますが、特にバイオの分野では広く使用されている装置です。

ミクロ〜サブナノスケールの生体試料(例えば細胞など)を観察する場合、電子顕微鏡では、装置内を真空にする・サンプルに強烈な電子線を照射するといったことが必要となり、サンプルが物理的に破壊されてしまいます。これに対して、蛍光顕微鏡では、対象を生きたまま破壊することなく観察することが出来る点が、大きなメリットと言えます。

ただ、この蛍光顕微鏡、200nmという分解能が一つの壁となっており、それよりも小さいDNA分子やウイルスなどの “超” 微細構造の観察が難しいといった課題が残っていました。

▼回折限界の関係から、光を使った顕微鏡では200nmが観察限界とされていた。

nobel-prize-in-chemistry-2014-04

受賞者の一人であるHell氏は2000年、1本のレーザーによってサンプルの分子を励起させ、もう1本のレーザーによってその励起を失活(誘導放出)させる技術を用いた「STED (Stimulated Emission Depletion, 誘導放出制御) 顕微鏡」を開発。これにより、従来では敵わなかった分子レベルの光学観察が可能となります。

▼STED顕微鏡の原理図。励起用のレーザーに、別のドーナツ状レーザーを重ねあわせることで、スポット系を小さくする(図はOptipedia様より引用)。

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▼ノーベル委員会の資料に掲載されているSTED顕微鏡の仕組み。

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▼通常の蛍光観察とSTEDの比較。ターゲットスポットが大幅に縮小していることがわかる。

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一方、Moerner氏とBetzig氏は、STED顕微鏡とは異なる方向から、ナノレベルの構造観察実現に向けた研究を行っていました。彼らの技術は、サンプル全体に微弱な光を照射した時、サンプルの分子から局所的・確率的に光が発生してくる原理を利用したものです。

1980年代、Moerner氏はこの原理に関する理論を構築し、89年には世界で初めて単一分子の光吸収を計測することに成功。1997年には、この原理を用いてGFP(緑色蛍光タンパク質)の単分子観察に成功しています。

これらのMoerner氏の手法をベースとした顕微鏡を、2006年にBetzi氏が初めて装置化。「PALM (Photoactivated localization microscopy, 光活性化局在顕微鏡法)」と呼ばれるこの顕微鏡の登場により、ナノレベルの蛍光観察技術が一気に広まることになります。

▼ノーベル委員会による、単分子イメージングの仕組みを表した図。

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▼Betzi氏が2006年に発表した論文中の観察像。右図のスケールバーが0.2μmであることに注目。

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これらSTED/PALMといった超高性能な顕微技術の登場によって、細胞や生体分子を「生きたまま(ありのまま)ナノレベルで」観察することが可能になり、バイオイメージングの分野は飛躍的に進歩しました。

顕微鏡の開発業績および生体分子の観察法開発という、化学賞のイメージとは少し離れた印象のある発表でしたが、近年、化学や生物学といった学問領域間の融合を象徴する出来事といえるかもしれません。

論文はこちら

▼1989年、単一分子の光吸収を報告したMoerner氏らによる論文。
Optical detection and spectroscopy of single molecules in a solid (Phys Rev Lett. 1989 May 22;62(21):2535-2538.)

▼1997年、GFP分子の一分子観察を報告したMoerner氏らによる論文。
On/off blinking and switching behaviour of single molecules of green fluorescent protein (Nature 388, 355-358 (24 July 1997))

▼2000年、STED顕微鏡の技術を報告したHell氏の論文。
Fluorescence microscopy with diffraction resolution barrier broken by stimulated emission (PNAS. 2000 Jul 18;97(15):8206-10.)

▼2006年、装置化したSTED顕微鏡による蛍光観察を報告したBetzig氏によるScience論文。
Imaging intracellular fluorescent proteins at nanometer resolution. (Science. 2006 Sep 15;313(5793):1642-5)

[Nobelprize.org]

著者

くまむん

くまむん

企業の研究所でR&D業務に携わっておりましたが、2013年4月をもって退職し、当サイトの専属となりました。Techinityはソース明示のポイントを押さえた解説を、Cul-Onはちょっとした小ネタ紹介的な内容にしていければと思っております。

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